説明

眼表面の疾患の局所療法

角膜、鞏膜または結膜疾患を治療するための局所眼溶液。本発明の1の形態において、該眼溶液は、塩類溶液をベースとする流体および有効量の少なくとも1の治療化合物または剤を含み、ここに少なくとも1滴の当該眼溶液を眼の表面に適用した場合、該治療化合物または剤が眼の角膜および結膜に放出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、合衆国を除く全ての締約国について出願人であるアイルランド企業であるセラカイン・リミテッドの名の下、合衆国の指定のみの出願人であるドイツ国民であるアンドレアス・ライフおよび合衆国国民であるスコット・エム・ハンプトンの名の下で2006年6月8日にPCT国際出願として出願されたものである。
【0002】
特許、特許出願および種々の刊行物を含み得る幾つかの参考文献は、参考文献リストに引用し、本発明の説明において論じる。かかる参考文献の引用および/または議論は、本発明の記載を明りょうにするためだけのものであり、いずれかのかかる参考文献が本明細書に記載する発明に対して「先行技術」となることは許容されない。本明細書で引用および論じる全ての参考文献は、各参考文献を出典明示して個々に本願明細書に取り込まれるのと同じ範囲で、出典明示して本明細書の一部とみなす。本明細書中にて以後「[n]」なる表記は、参考文献リストのn番目に引用された参考文献であることを表す。例えば、「[5]」とは参考文献リストの5番目に引用された参考文献、すなわち、Wilson SE. Molecular cell biology for the refractive corneal surgeon: programmed cell death and wound healing. Journal of Refractive Surgery 1997; 13(2): 171-5.のことである。
【0003】
本発明は、一般的に眼溶液、より詳細には眼の表面の種々の疾患に関連する炎症を調整する少なくとも1の化合物または剤を有する局所眼溶液に関する。
【背景技術】
【0004】
眼組織の炎症は疾患、傷害または外科手術によって引き起こされ得、それは管理または治療することが必要である。しかしながら、眼の他の部分を乱すことなく眼の目的の領域に局所的に適用し、かつ、眼組織の炎症を効果的に管理し得る眼溶液は不足している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、前記した欠陥および不十分を取り扱うための現在まで取り扱われなかった要望が当該技術分野に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1の態様において、本発明は眼溶液に関する。本発明の1の形態において、眼溶液は塩類溶液ベースの流体、および有効量の少なくとも1の治療化合物または剤を含み、ここに少なくとも1滴の眼溶液を眼の表面に適用した場合、治療化合物または剤が眼の角膜および結膜に放出される。
【0007】
眼溶液はさらにゲル化剤または増粘剤を含み得、ここに該ゲル化剤または増粘剤はポリビニルアルコール、メチルセルロース、カーバポール(carbapol)またはヒアルロン酸のうちの1である。
【0008】
本発明の1の形態において、少なくとも1の治療化合物または剤は、インターフェロン−ガンマ(INFg)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFa)、ならびにインターロイキン−1、インターロイキン−2、インターロイキン−4、インターロイキン−6、インターロイキン−8、インターロイキン−12、インターロイキン−15、インターロイキン−17およびインターロイキン−18を含むインターロイキンの作用の1またはそれを超える生物または低分子モジュレーター(modulator)を含む。
【0009】
少なくとも1の治療化合物または剤は、生物化合物も含み得る。
【0010】
本発明のもう1の形態において、少なくとも1の治療化合物または剤は、少なくとも第1および第2の治療化合物を含み、該第1および第2の治療化合物のうちの少なくとも1は炎症疾患を治療するための抗−サイトカインまたは抗−ケモカインである。いまだもう1の本発明の形態において、少なくとも1の治療化合物または剤は、抗体、ナノボディー(nanobody)、抗体フラグメント、シグナル伝達経路インヒビター、転写因子インヒビター、受容体アンタゴニスト、低分子インヒビター、オリゴヌクレオチド、融合タンパク質、ペプチド、タンパク質フラグメント、G−タンパク質共役受容体(GPCR)を含む細胞表面受容体のアロステリック・モジュレーター、細胞表面受容体内在化インデューサーおよびGPCRインバースアゴニストのうちの少なくとも1を含む。
【0011】
本発明のさらなる形態において、少なくとも1の治療化合物または剤は、以下の低分子のうちの少なくとも1を含み、それは、細胞内シグナル伝達経路、またはPTEN、PI3キナーゼ、P38MAPキナーゼおよびMAPキナーゼ、全てのストレス活性化プロテインキナーゼ(SAPK)、ERKシグナル伝達経路、JNKシグナル伝達経路(JNK1、JNK2)、全てのRAS活性化経路、全てのRho媒介経路、経路NIK、MEKK−1、IKK−1、IKK−2ならびに細胞内および細胞外シグナル伝達経路の調節酵素/キナーゼを阻害または遮断する。
【0012】
使用においては、少なくとも1滴の眼溶液を眼の外側に適用する。さらなる点眼を眼の外側に適用することもできる。眼溶液は、有効量の少なくとも1の治療化合物または剤が眼の表面、角膜および結膜に局所点眼またはゲルの形態で送達されるようにゲルの形態で使用することもできる。
【0013】
もう1の態様において、本発明は、望ましくない炎症を抑制または排除し得るように経路モジュレーター、プロモーターまたはインヒビターの選択的使用による眼組織の炎症制御に関する。
【0014】
本発明のこれらまたは他の態様は、以下の図面と結合して採用される好ましい形態の説明から明らかであるが、その中の変形および修飾は、開示の新規の概念の意図および範囲から逸脱することなく影響を及ぼし得る。
【0015】
本発明は、説明のみを意図する以下の実施例により詳細に記載するが、その中の膨大な修飾および変形は当業者に明らかであろう。本発明の種々の形態をここに詳細に記載する。本明細書およびつづく特許請求の範囲全体で使用する単数形の表現は、別段明示して示さない限り、複数の関係をも含む。また、本明細書およびつづく特許請求の範囲全体で使用する「〜の中で」もしくは「〜において」の意味は、別段明示して示さない限り、「〜の中で」、「〜において」および「〜の上で」を含む。また、読者の簡便のために明細書においては標題または副題を使用し得、それは本発明の範囲に何ら影響するものではない。さらに、本明細書中で用いる幾つかの用語を以下により詳細に定義する。
【0016】
定義
本明細書中で用いる用語は、一般的に、本発明の文脈の範囲内においておよび各用語を用いる特定の文脈において当該技術分野におけるそれらの通常の意味を有する。
【0017】
本発明を説明するために用いるある種の用語は、以下または本明細書の別の箇所において論じて、本発明の装置および方法の説明およびどのようにしてそれを製造および使用するかの説明について実施者に対してさらなる案内を提供する。簡便のため、ある種の用語は、例えばイタリックおよび/または引用符を用いて強調し得る。強調の使用は、用語の範囲および意味に何ら影響するものではなく;用語が強調されているか否かにかかわりなく、同じ文脈においては用語の範囲および意味は同じである。同一の事項を1を超える方法で記載し得ることは理解されるであろう。その結果、別の用語および類義語を、本明細書で論じるいずれかの1またはそれを超える用語に使用し得、用語を本明細書で精巧に述べるまたは論じるか否かに応じていずれか特別な意義を置くものでもない。ある種の用語の類義語を提供する。1またはそれを超える類義語の詳述は他の類義語の使用を排除するものではない。本明細書で論じるいずれの用語の例を含む本明細書のいずれかの場所の例の使用は説明のみを目的とし、本発明またはいずれか例示した用語の範囲および意味を決して限定するものではない。同様にして、本発明は、本明細書に提供する種々の形態に限定されるわけでもない。さらに、副題を用いて本明細書の読者が本明細書全体を読むことを助け得るが、副題の慣習は本発明の範囲に何ら影響を及ぼすものではない。
【0018】
本明細書中で用いる「付近」、「約」または「ほぼ」とは、一般的に、与えられた値または範囲の20%以内、好ましくは10%以内、およびより好ましくは5%以内を意味する。本明細書に記載する数的な量は概算であり、「付近」、「約」または「ほぼ」なる用語は、表現して述べていない場合は推断し得ることを意味する。
【0019】
本明細書中で使用する「LVC」または「レーザービジョン・コレクション」なる用語は、一般的に、レーザーを用いて角膜から組織を切除して光学性能を変化させる屈折による視覚誤差の補正方法をいう。この方法の例は、LASIK、PRKおよびエピ−LASIKである。
【0020】
「化合物」なる用語は、細胞、神経または組織のようないずれかの生体系に対して影響を有し得る2またはそれを超える元素の化学的組み合わせをいう。本発明を実施することに関係し得る化合物の例には、以下の例示リストにあるものが含まれる:
【0021】
眼の表面疾患の治療に好適な抗−炎症化合物および現在入手可能な剤の例:
a)抗−サイトカイン
・(1)エタネルセプト(p75 TNFr融合タンパク質)
(2)インフリキシマブ(キメラ抗TNF Mab)
(3)アダリムマブ(ヒト抗TNF Mab)
(4)オナーセプト(可溶性p55 TNFr)
のような抗−腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)。
・(1)アナキンラ(IL−1 1型受容体アンタゴニスト
(2)IL 1トラップ(再生、IL−1 1型受容体+IL−1融合タンパク質)または他の化合物
のような抗−インターロイキン−1。
・(1)ダクリズマブまたは他の化合物のような抗−インターロイキン−2。
・(1)ヒト抗−IL−4抗体、大腸菌由来のヤギIgG(R&D systems)、
(2)ヒト抗−IL−4抗体、大腸菌由来齧歯類IgG(R&D systems)、
他の化合物
のような抗−インターロイキン−4。
・MRA(Chugai Pharmaceuticals/Roche)または他の化合物
のような抗−インターロイキン−6。
・(1)抗−EGF−R抗体(C225)または他の化合物
のような抗−インターロイキン−8。
・(1)ヒト抗−IL−12抗体、大腸菌由来ヤギIgG(R&D systems)、
(2)ヒト抗−IL−12抗体、大腸菌由来齧歯類IgG(R&D systems)、
他の化合物
のような抗−インターロイキン−12。
・(1)ヒト抗−IL−15抗体、大腸菌由来ヤギIgG(R&D systems)、
(2)ヒト抗−IL−15抗体、大腸菌由来齧歯類IgG(R&D systems)、
他の化合物
のような抗−インターロイキン−15。
・(1)ヒト抗−IL−17抗体、大腸菌由来ヤギIgG(R&D systems)、
(2)ヒト抗−IL−17抗体、大腸菌由来齧歯類IgG(R&D systems)、
他の化合物
のような抗−インターロイキン−17。
・(1)ヒト抗−IL−18抗体、大腸菌由来ヤギIgG(R&D systems)、
(2)ヒト抗−IL−18抗体、大腸菌由来齧歯類IgG(R&D systems)、
他の化合物
のような抗−インターロイキン−18。
b)サイトカイン
・インターロイキン10および12
c)以下の細胞内シグナル伝達経路または調節酵素/キナーゼ、例えば:
・PTEN
・PI3キナーゼ
・P38 MAPキナーゼおよび他のMAPキナーゼ
・全てのストレス活性化プロテインキナーゼ(SAPK)
・ERKシグナル伝達経路
・JNKシグナル伝達経路(JNK1、JNK2)
・全てのRAS活性化経路
・全てのRho媒介経路
・NIK、MEKK−1、IKK−1、IKK−2
を阻害または遮断する低分子インヒビター。
【0022】
「剤」なる用語は、細胞、神経または組織のようないずれの生体系に対する影響を有し得るいずれのものと広義に定義する。例えば、剤は化学剤とすることができる。剤は生物剤とすることもできる。剤は少なくとも1の公知の成分を含むこともできる。剤は物理剤とすることもできる。剤の他の例には、生物学的戦争剤、化学的戦争剤、細菌剤、ウイルス剤、他の病原性微生物剤、新生または設計した脅威剤、急性毒性の産業化学物質(TICS)、毒性産業物質(TIMS)などが含まれる。好ましくは、生物または薬理剤を用いて本発明を実施する。本発明を実施することに関連し得る剤型の例には、抗体、ナノボディー、抗体フラグメント、シグナル伝達経路インヒビター、転写因子インヒビター、受容体アンタゴニスト、低分子インヒビター、オリゴヌクレオチドオリゴヌクレオチド、融合タンパク質、ペプチド、タンパク質フラグメント、G−タンパク質共役受容体(GPCR)のような細胞表面受容体のアロステリック・モジュレーター、細胞表面受容体内在化インデューサーおよびGPCRインバースアゴニストが含まれる。
【0023】
「塩類溶液」なる用語は、ヒトの涙に等しい濃度となるような濃度の水中の塩化ナトリウム(NaCl)の生体適合性の生理学的溶液をいう。塩類溶液は、正確なpHを維持するために多数の化合物を用いて緩衝化することができ、例えばポリビニルアルコールまたはメチルセルロースのような増粘または眼の表面の粘着および保持を改善するための種々の剤を含み得る。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(好ましい形態の説明)
数ある中で、本発明は、外科手術、感染症、傷害または他の疾患の後に続くまたはそれらによって引き起こされる角膜炎症の治療に関する。角膜は、皮膚および他の器官において起こる修復のプロセスと比較して異なる重要な機構に通じるユニークな解剖学的、細胞的、分子的および機能的特徴を有する。屈折手術のような傷害または故意の外傷の後の角膜の上皮および実質の傷の治療は、ケラトサイトのアポトーシスおよび再活性化の程度が混濁形成、角膜浮腫、血管新生および混濁と緊密に相関する複雑なプロセスである[1−3]。貫通性外傷は典型的には、傷を充填およびシールする繊維形成的「修復組織」の沈着によって治癒するが、正常な機能を回復しない。角膜繊維芽細胞によるコラーゲン分解は、角膜潰瘍の根本的な原因であり、繊維修復組織の過剰な沈着は過剰な瘢痕および角膜痙縮に通じ得る。角膜においては、繊維修復は角膜の透明性および形の両方に影響する特別なチャレンジを示し、それは眼が焦点を合わせる能力の必須の要素である[4,5]。一方で、角膜屈折誤差を変化させる種々のレーザー技術を用いる外科的屈折補正視野の集合が増加するにつれて、角膜修復機構の理解がますます重要性を増してきている。ここでは、混濁形成、角膜浮腫、血管新生および混濁は望ましくない合併症であり、視覚成果に影響する安全性および効力の主要な決定要素である[6−10]。LASIKおよびPRKは最も一般的な屈折手法であるが;しかしながら、LASEK、マイトマイシンCを用いるPRK、およびエピ−LASIKを含む別の技術も通常の合併症を克服する試みにおいて開発されている。臨床的な結果および多数の通常の合併症は治療プロセスおよび関連する角膜細胞応答の予想できない性質に直接的に関係する。これらの合併症には、矯正過度、矯正不足、退行、角膜実質混濁、および外科手術に対する生物学的応答に基づく多くの他の副作用が含まれる[3,10]。
【0025】
術後の組織研究は、角膜治癒プロセスが角膜の上皮および内皮細胞の喪失ならびに角膜実質への多量の炎症細胞浸潤からなることを示している[11−13]。浸潤細胞の多くは好中球、リンパ球およびマクロファージである。炎症を起こした角膜においては、好中球が急性角膜浮腫/混濁に寄与し、マクロファージが角膜血管形成および慢性炎症に寄与しているようである[14−16]。
【0026】
角膜の上皮、実質、神経、炎症細胞および涙腺は、角膜外科手術法に応答する傷の治癒に関与する主要な組織および器官である。サイトカインおよび成長因子によって媒介される複雑な細胞相互作用は角膜の細胞内で生じ、非常に変化し易い生物学的応答を生じる。最もよく特徴付けされたプロセスの中には、角膜実質細胞アポトーシス、角膜実質細胞壊死、角膜実質細胞増殖、その後のサイトカイン放出を伴う炎症細胞の移動、および筋繊維芽細胞生成がある。これらの細胞相互作用は細胞外マトリクス再編成、実質再構築、傷収縮および外科的傷害に対する幾つか他の応答に関与している[17]。したがって、角膜の傷の治癒プロセスおよび合併症につながる異常に関与する事象の完全なカスケードの理解は、屈折手術法の効率および安全性を改善するのに極めて重要である。
【0027】
治癒プロセスに寄与する生物学的および分子的プロセスの理解における最近の進展は、炎症および角膜の傷の治癒がサイトカイン、特にIL−1の高まったレベルと非常に相関することである。IL−1αフィードバック・ループは、それによって繊維芽細胞が角膜の再構築の間に修復表現型をとる重要な機構である。さらに、マウス角膜に対する機械的外傷性障害はIL−1αおよびIL−1Rの高められた合成の引き金を引き、それは代わってIL−6およびより多量のIL−1αの生成を生じる[18−20]。MAPK細胞外シグナル調整キナーゼ(ERK)およびc−Jun N−末端キナーゼ(JNK)の細胞内レベルのIL−1β誘導リン酸化は炎症応答および遅延型の傷の治癒に寄与するが、p38の細胞内レベルのIL−1β誘導リン酸化は寄与しない[19]。抗−炎症に加えて、IL−1アンタゴニストは繊維芽細胞様の角膜および結膜細胞の増殖を阻害し、これらの化合物を抗−ブドウ膜炎剤として用い得ることのみならずトラベクレクトミー後の水性の体液の流出の機能時間を延長するための剤としても有用であることを示している[21]。
【0028】
この知見を支持する事実は、ヘルペス性角膜実質炎、T細胞編成、角膜の免疫炎症単純ヘルペスウイルス感染の治療から生じる。眼のHSV−1感染の後、無血管角膜の血管新生は、ヘルペス性実質角膜炎の病原性において極めて重要な事象である[22]。IL−1およびIL−6がHSKの病原性に重要な役割を演じていることがよく示されている[23]。ウイルス感染した細胞から生成したIL−6は、未感染の内在角膜細胞および他の炎症細胞を刺激して、強力な血管形成要素であるVEGFを分泌し得る[23]。IL−1に対する受容体アンタゴニスト(IL−1 ra)を用いたHSKの治療は、先天的および獲得免疫系の細胞の角膜への流入を減少することが示されている。また、抗−IL−6剤を用いた治療は、角膜血管内皮成長因子レベルを減じ、角膜血管形成の低下を生じた[21]。このことは、炎症前サイトカインとVEGF−誘導角膜血管新生との間の緊密な関係をさらに示している。IL−1およびIL−6に加えて、他のサイトカイン、ケモカインおよびメタロプロテイナーゼの程度が角膜の傷の治癒に関与している[24]。例えば、TGF−β1およびVEGFは正常な涙液の成分であり、エキシマレーザー光屈折角膜切除術後に顕著に増加することは、それらが角膜の傷の治癒プロセスに影響し得ることを示している[25]。特にTGF−β1は、活性化した角膜実質細胞、筋繊維芽細胞トランスフォーメーションおよび実質繊維症の補充に寄与する[26]。したがって、抗−TGFβおよび抗−VEGFを用いた治療は、患者におけるPRK−後の角膜混濁の発生を減少する限定された形態のみを介してでさえ有用になり得る[27]。さらに、これも正常な涙液の成分であるTNF−アルファは、PRK後の術後数日の間に顕著に増加することが判明しており、角膜の傷の治癒における役割が示唆される[28]。前炎症サイトカインTNF−アルファおよびIL−6のアップレギュレーションは、コラーゲン分解性の角膜損傷を生じる対応する細胞におけるメタロプロテイナーゼの生成を改善する。
【0029】
しかしながら、角膜の傷によって引き起こされる分泌過多にもかかわらず、涙液中のTNF−アルファ濃度は傷の治癒の間に一定のままである。
【0030】
グルココルチコイドまたはシクロスポリンのような複数の局所および全身免疫抑制剤は、コラーゲン沈着および瘢痕を抑制するかまたは抗−炎症機構を促進するかのいずれかによって角膜の傷の治癒に影響するために使用されている[29−33]。しかしながら、角膜傷害の動物モデルにおけるデータは、主にIL−1、IL−6およびTNFを標的化する抗−サイトカイン・インヒビターは、伝統的な免疫抑制剤よりもはるかに強力かつ有効であり得ることを示唆している。
【0031】
例えば、TNFに対するモノクローナル抗体は、難治性の進行性慢性関節リューマチに関連する周辺部角膜炎を従来の免疫調整療法に止めるのに有用であることが見出されている[34]。最後に、TNFR−IのようなTNFアンタゴニストを用いた局所治療は、同種角膜移植の許容性を促進し、角膜移植組織拒絶反応と関連する2のケモカイン(RANTESおよびマクロファージ炎症タンパク質−1ベータ)の遺伝子発現を阻害した[35]。このことは、潜在的に毒性の免疫抑制剤の使用に復帰することなく、角膜の傷の治癒および角膜同種移植片拒絶反応のような局所的抗−サイトカイン戦略の可能性をさらに支持する。
【0032】
本発明は異なるアプローチを提供し、眼の表面組織の炎症の眼に見えるおよび優れた治療解法を提案する。
したがって、なかんずく、本発明は、モノクローナル抗体またはキナーゼインヒビターのような化合物または剤の、液体またはゲルで少なくとも1の抗−炎症化合物を含む局所適用可能な点眼剤の形態での角膜および結膜への直接的な送達を提供する。
【0033】
もう1の形態において、点眼剤は緩衝化し、少なくとも1の抗−炎症剤または化合物を含む。
【0034】
もう1の形態において、点眼剤はメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カーボポールまたは他の生体適合性材料のような増粘剤またはゲル化剤を含み得る。
【0035】
1の形態において、該少なくとも1の抗−炎症剤または化合物は、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα);インターロイキン−1、インターロイキン−2、インターロイキン−4、インターロイキン−6、インターロイキン−8、インターロイキン−12、インターロイキン−15、インターロイキン−17およびインターロイキン−18を含むインターロイキンの作用の1またはそれを超える生物学的または低分子モジュレーターを有する。
【0036】
1の形態において、該剤または化合物は1またはそれを超えるモノクローナル抗体、ナノボディー、抗体フラグメント、シグナル伝達経路インヒビター、転写因子インヒビター、トラップ(trap)、受容体アンタゴニスト、低分子インヒビター、オリゴヌクレオチド、融合タンパク質、ペプチド、タンパク質フラグメント、G−タンパク質共役受容体(GPCR)のような細胞表面受容体のアロステリック・モジュレーター、細胞表面受容体内在化インデューサーおよびGPCRインバースアゴニストである。
【0037】
もう1の形態において、該剤または化合物は、IL−10およびIL−12のうちの1または両方である。
【0038】
好ましい形態において、該剤または化合物は、IL−1またはTNFαの1またはそれを超えるモジュレーターであり、ここで該モジュレーターはモノクローナル抗体、ナノボディー、トラップまたは低分子である。
【0039】
もう1の好ましい形態において、該剤または化合物は、PTEN、PI3またはMAPキナーゼのような細胞内キナーゼの1またはそれを超える低分子インヒビターである。
【0040】
発明の例示的な形態の前記の記載は、例示および説明の目的のためだけで示すものであり、排他的であることを意図しておらず、本発明を開示した正確な形態に限定することも意図していない。前記教示に鑑みて、多くの修飾および変形が可能である。
【0041】
形態は、当業者が本発明および種々の形態を利用できるように本発明の原理およびその実際の適用を説明するために選択および記載し、予想される特定の使用に適した種々の修飾を含む。本発明の意図および範囲を逸脱することなく本発明が関係する別の形態は、当業者に明らかであろう。したがって、本発明の範囲は、前記した説明およびその中に記載した例示的な形態よりも添付する特許請求の範囲によって規定される。
【0042】
参考文献
1. Kuo IC. Corneal wound healing. [Review] [44 refs] Current Opinion in Ophthalmology 2004; 15(4): 311-5

2. Agrawal VB. Tsai RJ. Corneal epithelial wound healing. [Review] [75 refs] Indian Journal of Ophthalmology 2003; 51(1): 5-15

3. Fini ME, Stramer BM. How the cornea heals: cornea-specific repair mechanisms affecting surgical outcomes. Cornea 2005 Nov; 24(8 Suppl): S2-S11

4. Wilson SE. Everett Kinsey Lecture. Keratocyte apoptosis in refractive surgery. CLAO Journal 1998; 24(3): 181-5

5. Wilson SE. Molecular cell biology for the refractive corneal surgeon: programmed cell death and wound healing. Journal of Refractive Surgery 1997; 13(2): 171-5

6. Netto MV, Mohan RR, Ambrosio R Jr, Hutcheon AE, Zieske JD, Wilson SE. Wound healing in the cornea: a review of refractive surgery complications and new prospects for therapy. Cornea. 2005 JuI; 24(5): 509-22

7. Netto MV. Wilson SE. Corneal wound healing relevance to wavefront guided laser treatments. [Review] [58 refs] Ophthalmology Clinics of North America 2004; 17(2): 225-31

8. Kuo IC. Lee SM. Hwang DG. Late-onset corneal haze and myopic regression after photorefractive keratectomy (PRK). Cornea 2004; 23(4): 350-5

9. Kaji Y. Yamashita H. Oshika T. Corneal wound healing after excimer laser keratectomy. [Review] [28 refs] Seminars in Ophthalmology 2003; 18(1): 11- 6

10. Alio JL. Perez-Santonja JJ. Tervo T. Tabbara KF. Vesaluoma M. Smith RJ. Maddox B. Maloney RK. Postoperative inflammation, microbial complications, and wound healing following laser in situ keratomileusis. [Review] [82 refs] Journal of Refractive Surgery 2000; 16(5): 523-38

11. DawsonDG. Edelhauser HF. Grossniklaus HE. Long-term histopathologic findings in human corneal wounds after refractive surgical procedures. American Journal of Ophthalmology 2005 139(1): 168-78

12. Wachtlin J. Langenbeck K. Schrunder S. Zhang EP. Hoffmann F. Immunohistology of corneal wound healing after photorefractive keratectomy and laser in situ keratomileusis. Journal of Refractive Surgery 1999; 15(4): 451-8

13. Kato T. Nakayasu K. Hosoda Y. Watanabe Y. Kanai A. Corneal wound healing following laser in situ keratomileusis (LASIK): a histopathological study in rabbits. British Journal of Ophthalmology 1999; 83(11): 1302-5

14. Carlson EC, Drazba J, Yang X, Perez VL. Visualization and characterization of inflammatory cell recruitment and migration through the corneal stroma in endotoxin-induced keratitis. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2006; 47(1): 241-8

15. Sonoda KH, Nakao S, Nakamura T, Oshima T, Qiao H, Hisatomi T, Kinoshita S, Ishibashi T. Cellular events in the normal and inflamed cornea. Cornea. 2005 Nov; 24(8 Suppl): S50-S54

16. O'Brien TP. Li Q. Ashraf MF. Matteson DM. Stark WJ. Chan CC. Inflammatory response in the early stages of wound healing after excimer laser keratectomy. Archives of Ophthalmology 1998; 116(11): 1470-4

17. Ahmadi AJ. Jakobiec FA. Corneal wound healing: cytokines and extracellular matrix proteins. [Review] [24 refs] International Ophthalmology Clinics 2002; 42(3): 13-22

18. Wilson SE. Mohan RR. Mohan RR. Ambrosio R Jr. Hong J. Lee J. The corneal wound healing response: cytokine-mediated interaction of the epithelium, stroma, and inflammatory cells. [Review] [58 refs] Progress in Retinal & Eye Research 2001; 20(5): 625-37

19. Narayanan S, Glasser A, Hu YS, McDermott AM. The effect of interleukin-1 on cytokine gene expression by human corneal epithelial cells. Exp Eye Res. 2005; 80(2): 175-83.

20. Lu Y, Fukuda K, Liu Y, Kumara N, Nishida T. Dexamethasone inhibition of IL-I -induced collagen degradation by corneal fibroblasts hi three-dimensional culture. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2004; 45(9): 2998-3004

21. Biswas PS, Banerjee K, Zheng M, Rouse BT. Counteracting corneal immunoinflammatory lesion with interleukin-1 receptor antagonist protein. J Leukoc Biol. 2004; 76(4): 868-75

22. Li H, Zhang J, Kumar A, Zheng M, Atherton SS, Yu FS. Herpes simplex virus 1 infection induces the expression of proinflammatory cytokines, interferons and TLR7 in human corneal epithelial cells. Immunology 2006 Feb; 117(2): 167-76

23. Biswas PS, Banerjee K, Kinchington PR, Rouse BT. Involvement of IL-6 in the paracrine production of VEGF in ocular HSV-I infection. Exp Eye Res. 2006; 82(1): 46-54

24. Malecaze F. Simorre V. Chollet P. Tack JL. Muraine M. Le Guellec D. Vita N. Arne JL. Darbon JM. Interleukin-6 in tear fluid after photorefractive keratectomy and its effects on keratocytes in culture. Cornea 1997; 16(5): 580-7

25. Vesaluoma M. Teppo AM. Gronhagen-Riska C. Tervo T. Release of TGF-beta 1 and VEGF in tears following photorefractive keratectomy. Current Eye Research 1997; 16(1): 19-25

26. Mita T, Yamashita H, Kaji Y, Obata H, Hanyu K, Suzuki M, Tobari I. Functional difference of TGF-beta isoforms regulating corneal wound healing after excimer laser keratectomy. Exp.Eye Res. 1999; 68:513-519

27. Moller-Pedersen T. Cavanaugh HD. Petroll WM. Jester JV. Neutralizing antibody to TGFbeta modulates stromal fibrosis but not regression of photoablative effect following PRK. Current Eye Research 1998. 17(7): 736-47

28. Vesaluoma M. Teppo AM, Gronhagen-Riska C. Tervo T. Increased release of tumour necrosis factor-alpha in human tear fluid after excimer laser induced corneal wound. British Journal of Ophthalmology 1997; 81(2): 145-9

29. Kim TI, Lee SY, Pak JH, Tchah H, Kook MS. Mitomycin C, ceramide, and 5- fluorouracil inhibit corneal haze and apoptosis after PRK. Cornea. 2006; 25(1): 55-60

30. Kaji Y. Amano S. Oshika T. Obata H. Ohashi T. Sakai H. Shirasawa E. Tsuru T. Yamashita H. Effect of anti-inflammatory agents on corneal wound-healing process after surface excimer laser keratectomy. Journal of Cataract & Refractive Surgery 2000; 26(3): 426-31

31. Assouline M. Renard G. Arne JL. David T. Lasmolles C. Malecaze F.Pouliquen YJ. A prospective randomized trial of topical soluble 0.1% indomethacin versus 0.1% diclofenac versus placebo for the control of pain following excimer laser photorefractive keratectomy. Ophthalmic Surgery & Lasers 1998; 29(5): 365-74

32. Chang JH, Kook MC, Lee JH, Chung H, Wee WR. Effects of synthetic inhibitor of metalloproteinase and cyclosporine A on corneal haze after excimer laser photorefractive keratectomy in rabbits. Exp Eye Res. 1998; 66(4): 389-96

33. Filipec M, Phan TM, Zhao TZ, Rice BA, Merchant A, Foster CS. Topical cyclosporine A and corneal wound healing. Cornea. 1992; 11(6): 546-52.

34. Thomas JW, Pflugfelder SC. Therapy of progressive rheumatoid arthritis- associated corneal ulceration with infliximab. Cornea. 2005 Aug; 24(6): 742-4

35. Qian Y. Dekaris I. Yamagami S. Dana MR. Topical soluble tumor necrosis factor receptor type I suppresses ocular chemokine gene expression and rejection of allogeneic corneal transplants. Archives of Ophthalmology 2000; 118(12): 1666-71

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.塩類溶液ベースの流体;および
b.有効量の少なくとも1の治療化合物または剤
を含む眼溶液であって、ここに少なくとも1滴の当該眼溶液を眼の表面に適用した場合、該治療化合物または剤が眼の角膜および結膜に放出される該眼溶液。
【請求項2】
さらに、ゲル化剤または増粘剤を含む請求項1記載の眼溶液。
【請求項3】
該ゲル化剤または増粘剤がポリビニルアルコール、メチルセルロース、カーバポール(carbapol)またはヒアルロン酸のうちの1である請求項2記載の眼溶液。
【請求項4】
該少なくとも1の治療化合物または剤が、インターフェロンガンマ(IFNg)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFa)ならびにインターロイキン−1、インターロイキン−2、インターロイキン−4、インターロイキン−6、インターロイキン−8、インターロイキン−12、インターロイキン−15、インターロイキン−17およびインターロイキン−18を含むインターロイキンの作用の1またはそれを超える生物または低分子モジュレーターを含む請求項1記載の眼溶液。
【請求項5】
該少なくとも1の治療化合物または剤が生物化合物を含む請求項1記載の眼溶液。
【請求項6】
該少なくとも1の治療化合物または剤が、少なくとも第1および第2の治療化合物を含み、該第1および第2の治療化合物のうちの少なくとも1が炎症疾患治療用の抗−サイトカインまたは抗−ケモカインである請求項5記載の眼溶液。
【請求項7】
該少なくとも1の治療化合物または剤が、抗体、ナノボディー(nanobody)、抗体フラグメント、シグナル伝達経路インヒビター、転写因子インヒビター、受容体アンタゴニスト、低分子インヒビター、オリゴヌクレオチド、融合タンパク質、ペプチド、タンパク質フラグメント、G−タンパク質共役受容体(GPCR)を含む細胞表面受容体のアロステリック・モジュレーター、細胞表面受容体内在化インデューサーおよびGPCRインバースアゴニストの少なくとも1を含む請求項5記載の眼溶液。
【請求項8】
該少なくとも1の治療化合物または剤が、細胞内シグナル伝達経路のうちの少なくとも1を阻害または遮断する以下の低分子、またはPTEN、PI3キナーゼ、P38MAPキナーゼおよびMAPキナーゼ、全てのストレス活性化タンパク質キナーゼ(SAPK)、ERKシグナル伝達経路、JNKシグナル伝達経路(JNK1、JNK2)、全てのRAS活性化経路、全てのRho媒介経路、経路NIK、MEKK−1、IKK−1、IKK−2ならびに細胞内および細胞外シグナル伝達経路の調節酵素/キナーゼのうちの少なくとも1を含む請求項1記載の眼溶液。
【請求項9】
少なくとも1滴の眼溶液を眼の外側に適用する請求項1記載の眼溶液。

【公表番号】特表2009−539977(P2009−539977A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515356(P2009−515356)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/022747
【国際公開番号】WO2007/145618
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(508366628)セラカイン・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】THERAKINE LIMITED
【Fターム(参考)】