説明

着色の低減されたN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法

【課題】 2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の製造時に副生するN−tert−ブチルアクリルアミドは、結晶化により分離して洗浄しても、洗浄後の該結晶が、保管中に青〜緑味や褐色に着色して、使用分野が制限されるという問題があった。
【解決手段】 アクリロニトリル、硫酸およびイソブチレンを反応させて得られる2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の結晶が分散してなる反応溶液から、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を除いた後に、N−tert−ブチルアクリルアミドを粗結晶として回収し、アルカリ水溶液に接触させ、ついで粗結晶を活性炭の存在下でアルコールに溶解し、その後に活性炭を分離して再結晶させることを特徴とするN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色の低減されたN−tert−ブチルアクリルアミド(一般式1)の製造方法に関し、更に詳述すれば、アクリロニトリル、硫酸及びイソブチレンを反応させて2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(以下、ATBSという)を製造するに際し、同時に生成するN−tert−ブチルアクリルアミドについて、保存中の着色を低減することができる製造方法に関する。
すなわち、ATBSの結晶が分散してなる反応液から、ATBSを除いた後に、N−tert−ブチルアクリルアミドを粗結晶として回収し、アルカリ水溶液に接触させ、ついで粗結晶を活性炭の存在下でアルコールに溶解し、その後に活性炭を分離して再結晶させることを特徴とするN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法に関するものである。
【化1】

【背景技術】
【0002】
従来より、N−tert−ブチルアクリルアミドは、アクリロニトリル、アクリル酸エステル等のモノマーと共重合させて、ゴム薬品、塗料製品等の原料として使用されてきた。さらに近年では、化粧品や高級インクの原料としても有用性が認められ、その用途は拡大しつつある。
化粧品や高級インクの用途では、原料成分の着色が原因で製品の色相が変わってしまうと、著しく商品価値を落とすことになる。そのため、初期のみならず保存期間中において着色のない原料が求められるようになってきた。
【0003】
N−tert−ブチルアクリルアミドは、一般的にはアクリロニトリルとtert−ブチルアルコールとの反応、精製により得られる。
具体的なN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法としては、アクリロニトリルとtert−ブチルアルコールとを硫酸等の強酸下で反応させるという方法が知られている。
この方法においては、得られる反応液中に種々の不純物が含まれており、反応後の精製プロセスが要点になっている。N−tert−ブチルアクリルアミドを蒸留することは容易でなく、その精製法としては晶析等の固体の精製に用いる方法が使用されている。
例えば、上記の反応により得られる反応液に水もしくは低級アルコールの水溶液を添加して、N−tert−ブチルアクリルアミドの結晶を析出するにあたり、pHを0.1〜3に調整した水もしくは水溶液を前記反応液に添加するという方法(特許文献1)、あるいは、前記と同様な反応液をキレート剤であるアミノポリ燐酸またはアミノポリカルボン酸の存在下にアルカリ水溶液で中和してN−tert−ブチルアクリルアミドを析出するという方法(特許文献2)などが知られている。
【0004】
一方、アクリロニトリル、硫酸及びイソブチレンの3者の付加反応によりATBSを製造する際に、N−tert−ブチルアクリルアミドが副生物として生成することが知られている。副生するN−tert−ブチルアクリルアミドはATBSに対しては不純物であり、従来はそれを含む廃液を産業廃棄物として処分していた。
かかる廃液の有効利用として、該廃液からN−tert−ブチルアクリルアミドの粗結晶を回収し、その粗結晶をアクリロニトリルなどの溶媒により精製する方法(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−87587号公報
【特許文献2】特開平9−124568号公報
【特許文献3】特開2005−29476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アクリロニトリルとtert−ブチルアルコールを反応させて得られたN−tert−ブチルアクリルアミドは、製造後においては着色が低減されていても、保存中に着色してくる傾向があった。
また、ATBSの廃液から得られたN−tert−ブチルアクリルアミドは、それをアクリロニトリルなどで精製した場合であっても、該試製した後の結晶が保管中に青〜緑味を帯び及び褐色に着色して、使用分野が制限されるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アクリロニトリル、硫酸及びイソブチレンの付加反応で得られる反応液(後記するようにATBSの結晶がアクリロニトリル中に分散した分散液)からATBSを回収した後に、その反応液から取り出したN−tert−ブチルアクリルアミドの粗結晶またはそれをアクリロニトリルなどの有機溶媒で精製したもの(以下、両者をあわせて粗結晶という)をアルカリ水溶液と接触させた後、活性炭の存在下、水を含んでも良いアルコール中で再結晶することで、保管中に、褐色や淡黄色、あるいは青緑色の着色がないN−tert−ブチルアクリルアミドを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第一発明は、アクリロニトリル、硫酸およびイソブチレンを反応させて得られる2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を反応液から分離し、その後の反応液中に含まれるN−tert−ブチルアクリルアミドを精製するに際し、以下の工程をおこなうことを特徴とするN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法である。
(1)N−tert−ブチルアクリルアミドを粗結晶として回収する工程。
(2)その粗結晶をアルカリ水溶液に接触させる工程。
(3)アルコールまたはアルコールと水の混合液に溶解させ、活性炭で処理する工程。
(4)活性炭を分離後、溶液からN−tert−ブチルアクリルアミドを再結晶させる工程。
【0009】
本発明の第二発明は、再結晶に用いるアルコールがメチルアルコールまたはメチルアルコールと水の混合物であることを特徴とする第一発明に記載のN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法である。
【0010】
本発明の第三発明は、粗結晶と接触させるアルカリ水溶液が、アルカリ金属化合物であることを特徴とする第一発明または第二発明に記載のN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法である。
【0011】
本発明の第四発明は、N−tert−ブチルアクリルアミドを25℃で1週間保存した後に、10質量%メチルアルコール溶液にしたときの色相が、a*が−0.20〜+0、b*が0〜+3.00、かつAPHAが10以下であることを特徴とする第一発明〜第三発明のいずれかに記載のN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、ATBSの廃液から、着色がなく純度の良いN−tert−ブチルアクリルアミドを製造することができ、環境負荷の削減及び経済的にも有益である上、得られた結晶が保管中に着色せず、化粧品や高級インクなどの中でも特に微細な色相が重要な高級化粧品や高品位インクの分野にも使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明におけるアクリロニトリル、硫酸及びイソブチレンの付加反応において、ATBSは、上記の3成分が等モルで反応した生成物である。反応におけるアクリロニトリルは、それを反応溶媒としても利用するために、他の2成分に対して大過剰使用する。硫酸とイソブチレンとは、ほぼ等モル用いることが好ましい。硫酸及びイソブチレンに対するアクリロニトリルの具体的な使用量としては、それらの10〜20倍モルが好ましい。3成分の反応に際しては、−20℃〜−10℃に冷却したアクリロニトリル中に硫酸を混合した後、得られる混合液の撹拌下に、イソブチレンガスを吹き込む。イソブチレンガスの吹き込みにより反応が開始する。反応は、常圧下で30〜70℃の温度において30分以上おこなうことが好ましい。
反応により生成するATBSは、溶媒であるアクリロニトリルに不溶であるため、反応液はアクリロニトリル中にATBSの結晶が析出したスラリーとして得られる。該スラリーにおける固形分濃度は、通常10〜25質量%である。
【0014】
上記スラリーを濾過または遠心分離などの操作で、固液分離することにより、ATBSの結晶を得る。
上記固液分離によって得られる濾液、すなわちアクリロニトリル溶液には、通常、N−tert−ブチルアクリルアミドが1質量%以上の濃度で含まれているので、濾液からN−tert−ブチルアクリルアミドを分離する目的で、該濾液からアクリロニトリルを蒸発させて濃縮する必要がある。
しかしながら、該濾液中には前記の反応で用いた硫酸が一部未反応で残っているため、製造直後及び保存中に着色しない製品を得るためには、濾液の濃縮前にアルカリ洗浄によりかかる硫酸の除去をおこなうことが必要である。
【0015】
アクリロニトリル中の硫酸の除去方法としては、上記濾液と、例えば酸化カルシウム等の固体塩基とを接触させてもよいが、より好ましくは、濾液とアルカリ水溶液とを液−液同士で混合した上、液−液分離する方法が採用される。
さらに、酸性物質が除去された濾液を加熱し、アクリロニトリルを蒸発させ、固形分濃度50〜70質量%のアクリロニトリル溶液を得る。この操作は通常単蒸留等によりなされ、これによって留出するアクリロニトリルは必要によりさらに精製された後、再び、ATBS製造用の原料として使用される。
本発明の目的物であるN−tert−ブチルアクリルアミドは、蒸留後の缶液(一般には釜残と称される)中に濃縮する。
【0016】
蒸留に際しては、ラジカル重合性を有するアクリロニトリル及びN−tert−ブチルアクリルアミド等の重合を防止するために、酸素ガスと不活性ガスとの混合ガスを蒸留缶液中に吹き込んだり、また、コンデンサー塔頂より重合禁止剤を噴霧したりする手段を採用することが好ましい。
かかる場合に使用される重合禁止剤としては、フェノール化合物が好ましい。
フェノール化合物としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノンジメチルエーテル、ジ−tert−ブチルハイドロキノン、tert−ブチルカテコール、ビス−tert−ブチル−トルエン等が例示される。この中で適度な重合防止能を有するハイドロキノンモノメチルエーテルが好ましい。
その他の重合禁止剤、例えば、塩化銅、フェノチアジン、ジフェニルピクリンヒドラジル、ニトロベンゼン、ジチオベンゾイルスルフィド等を使用しても良い。
必要により、2種類以上を併用しても良い。
【0017】
上記濃縮液からN−tert−ブチルアクリルアミドの粗結晶を得る方法とし、特に限定されるものではないが、次の三つの方法がある。第一の方法は、上記濃縮液を徐々に冷却して10℃以下にする方法、第二の方法は、水などのようにN−tert−ブチルアクリルアミドの溶解性が低い大量の溶媒に注ぐことで、N−tert−ブチルアクリルアミドの結晶を析出させ、濾過により粗結晶を得る方法、第三の方法は、上記濃縮液を大量の水の代わりにアルカリ水溶液に注いでN−tert−ブチルアクリルアミドの粗結晶を析出させる方法である。
さらに、粗結晶をアクリロニトリル中に加え、加熱することにより再び溶解し、得られた溶液を再度10℃以下まで冷却、または大量の水に注ぎ、結晶を析出し、濾過により精製したN−tert−ブチルアクリルアミドの結晶を得る方法もある。
【0018】
上記の操作により得られたN−tert−ブチルアクリルアミドの粗結晶をアルカリ水溶液で洗浄した後、溶媒に溶解し、活性炭処理に供する。
アルカリ水溶液に使用するアルカリ化合物に特に限定はないが、水溶液で洗浄する操作上、好ましくは、高い水溶性を有する水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化アンモニウムなどであり、入手しやすい水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムが好ましく使用される。
アルカリ水溶液の濃度についても特に限定はないが、保管中の着色を防止する効果が得られる濃度として0.2質量%以上、経済性及び濃くなり過ぎると再結晶において褐色着色が除去でき難くなるので、5質量%以下が好ましい。
アルカリ水溶液の使用量についても特に限定はないが、洗浄に十分な量であることと経済性を加味し、洗浄する粗結晶ケークに対し、1質量倍〜5質量倍が好ましい。
【0019】
アルカリ水溶液に接触後の粗結晶を溶解する溶媒は、N−tert−ブチルアクリルアミドの溶解度が高いメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール、または該アルコールと水の混合物である。
該溶媒はアルコールの単独溶媒でも良いが、溶媒中に水が含まれると、次工程の再結晶時に、水溶性不純物が水層に移行し、結晶中の不純物を低減できるので好ましい。
一方で、溶媒の含水率が多くなりすぎると、N−tert−ブチルアクリルアミドの溶解度が低下するため、大量に溶媒が必要となり経済的に不利である。
アルコールと水の比率は、95:5〜30:70(質量比)が好ましく、80:20〜40:60(質量比)がより好ましく、70:30〜50:50(質量比)が最も好ましい。
なお、使用する水は、金属由来の着色を防止するために微量金属の含有量の少ないものが好ましい。具体的には、純水、イオン交換水、蒸留水等である。
【0020】
該溶媒は、該アルコールを50質量%以上含有するのであれば、アクリロニトリル、アセトン、酢酸エチルなどの有機溶媒と混合して用いても良い。
好ましいアルコールは、N−tert−ブチルアクリルアミドの溶解度が特に高く、かつ水との混合性が高いメチルアルコールである。
アルコールの使用量は、40〜80℃(ただし沸点以下)で加温した状態で、N−tert−ブチルアクリルアミドが完全に溶解でき、20℃で再結晶が析出する量であれば制限はないが、通常、N−tert−ブチルアクリルアミドの粗結晶に対し3/1〜1/3(質量比)の範囲である。
【0021】
N−tert−ブチルアクリルアミドを該溶媒に溶解後、または溶解中に活性炭を投入し、活性炭処理をおこなう。
活性炭は、薬品賦活された活性炭や水蒸気賦活された活性炭等が使用できる。具体的にはフタムラ化学製の薬品賦活された活性炭である「太閤S」、水蒸気賦活された「太閤K」、「太閤P」等、日本エンバイロケミカルズ製の薬品賦活された塩化亜鉛炭である「カルボラフィン」、「強力白鷺」、「精製白鷺」、「特製白鷺」等、水蒸気賦活された「白鷺C」、「白鷺M」、「白鷺A」、「白鷺P」等が使用できる。
活性炭の性状は、粉末、粒状、破砕、造粒等のいずれでも良い。活性炭の添加形態は、乾燥品、水との混合品のどちらでも良い。活性炭の処理方法は、バッチ式でも良いが、連続式でも良い。
活性炭の使用量は粗結晶に対して、0.01質量%〜10質量%である。0.01質量%未満では着色低減の効果がなく、10質量%を超える場合は経済的でない。好ましくは0.5質量%〜5質量%、さらに好ましくは1質量%〜3質量%である。
処理する条件は、処理量や粗結晶濃度等により変化するため特に制限はないが、通常攪拌下にて、40℃〜60℃の加温条件で15分〜5時間が好ましい。
【0022】
かかる活性炭処理をおこなった後に、濾過により活性炭を除き、再結晶をおこなう。
再結晶の方法としては、放冷により結晶化する方法や晶析装置が適用できる。放冷以外にジャケットによる強制冷却、温度制御下で冷却することもできる。再結晶の温度は、20℃以下が好ましく、15℃以下がより好ましく、10℃以下が最も好ましい。下限は溶媒が凍結する温度である。
再結晶体を含む液からの結晶物の回収方法としては、ヌッチェ式濾過器、単板式濾過器、水平濾板型濾過器、ベルト式濾過器等が適用でき、開放式、密閉式のどちらでも良い。
濾過雰囲気は大気圧、加圧、減圧のいずれでも良いが、有機溶媒の取扱上、窒素含有気体による加圧濾過が好ましい。
【0023】
得られたN−tert−ブチルアクリルアミドの再結晶物は、そのままでも良いが、水、あるいは水を含む有機溶媒で洗浄すると、さらに、着色低減できるので好ましい。N−tert−ブチルアクリルアミドは有機溶媒に対する溶解度が大きいので、有機溶媒単独で洗浄すると取得量が低下する。好ましくは、水、あるいは水を含む有機溶媒で洗浄することであり、さらに好ましくは、水で洗浄することである。
【0024】
上記の再結晶処理により得られたN−tert−ブチルアクリルアミド結晶は、そのままでも良いが、乾燥することで、様々な産業用の用途に供することができる。
乾燥方法としては、静置棚段乾燥器、回転乾燥機、パドルドライヤー等の攪拌式乾燥機、濾過乾燥機、振動乾燥機、流動乾燥機等が適用できる。乾燥雰囲気は限定するものではないが、N−tert−ブチルアクリルアミドは、昇華性を有するので、70℃以下での減圧乾燥をすることが好ましく、変質を低減すべく低温で減圧乾燥するのが好ましい。
【0025】
本発明におけるN−tert−ブチルアクリルアミドの色相の変化は、もっぱら青味、緑味といった寒色系の色目が大きくなることと、黄色から褐色に変化することの、二種類の態様がある。
色相の微細な変化でも商品価値を大きく左右する化粧品や高級インクの分野でも特に色目の変化を気にする用途(高級化粧品や高品位インク)においては、いずれの色相の微妙な変化も好ましくない。
本発明のN−tert−ブチルアクリルアミドは、保存後においてもこのような色目が着き難いものであり、具体的には、N−tert−ブチルアクリルアミドを25℃で1週間保存した後に、10質量%メチルアルコール溶液にしたときの色相が、a*が−0.20〜+0.05、b*が0〜+4.00、かつAPHAが20以下であることが好ましい。
a*及びb*は、クロマネティックス指数と呼ばれるものでCIELAB色度図から求められる。a*は、+が大きいと赤方向に、−が大きいと緑方向に着色する。b*は、+が大きいと黄方向に、−が大きいと青方向に変化する。
目視の官能評価で青味または緑味がなく、黄色味も感じないのは、a*が−0.20〜+0、b*が0〜+3.00の範囲であり好ましい。
APHAは、ハーゼンナンバーとも呼ばれ、黄色から褐色まで段階を付けた比色管(ハーゼン標準液)と測定物を比較することにより、着色度合を測定する。値が大きくなるほど、黄色から薄褐色、さらには濃褐色になる。
目視の官能評価でほとんど白色〜無色であるのは、APHAが10以下であり好ましい。
より好ましくは、a*が−0.18〜0、b*が0〜+1.50、かつAPHAが5以下である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例により、本発明を具体的に説明する。
○参考例1 ATBSの製造
混合撹拌装置を備えた2基の反応器を連結し、次に示す反応条件下で、第1段目の反応器にアクリロニトリル及び発煙硫酸を導入して、アクリロニトリルと硫酸の混合工程を行い、第1段目の反応器の混合物を第2段目の反応器に導き、第2段目の反応器にはイソブチレンガスを導入し、反応を連続して行った。原料仕込み比は、発煙硫酸1モルに対し、アクリロニトリルを11モル、イソブチレンを0.9モルの割合で供給した。なお、発煙硫酸の濃度(硫酸中の三酸化イオウの濃度)は9質量%である。また、第1段目の反応器は−5〜−15℃に維持し、反応液の滞留時間を10分とし、第2段目の反応器は40〜60℃に維持し、反応液の滞留時間を40分とした。
第2段目の反応器から流出したATBSの分散液をグラスフィルターで濾過し、結晶ケークと濾液に分離した。グラスフィルター上のケークをその2質量倍のアクリロニトリルを流下させることにより洗浄し、洗浄濾液を分離した。洗浄後のケークを乾燥することにより、ATBSが得られた。
【0027】
○参考例2 N−tert−ブチルアクリルアミド粗結晶の製造
参考例1で得られた濾液と洗浄濾液を合わせたアクリロニトリル溶液110kgを25質量%の水酸化アンモニウム水溶液で中和処理した後、水層を分離除去してN−tert−ブチルアクリルアミド(以下、TBAMという)を約4質量%含有するアクリロニトリル溶液115kgを取得した。この溶液にハイドロキノンモノメチルエーテル(以下,MQという)を500質量ppmになるように加え、5%酸素を含有する窒素ガスを溶液に吹き込みながら減圧濃縮し、TBAMを約60質量%含有する溶液7.6kgを得た。この蒸留において約100kgのアクリロニトリルを分離した。得られた濃縮液7.6kgを氷浴下で徐々に冷却して、結晶を析出させた。得られた分散液を濾過し、TBAMの粗結晶のケーク2.5kgを取得した。
【0028】
○実施例1
参考例2で得られたTBAMの粗ケーク16.1gに1質量%の水酸化ナトリウム水溶液16.1gを添加し、10分間撹拌後、減圧濾過にて、アルカリ洗浄ケークを得た。
フタムラ化学製「太閤活性炭S」0.33gとメチルアルコール32.5gと水27.9gを50℃まで加熱・保持し、当該アルカリ洗浄ケークを投入した。
上記活性炭を添加したTBAM溶液を攪拌下、50℃で1時間保持し、活性炭処理をおこなった。その後、ジャケット付の加圧濾過器にて、溶液を50℃に維持したまま、加熱濾過した。
得られた濾液を放冷により15℃まで冷却し、再結晶スラリーを得た。
再結晶スラリーを濾過にて濾別し、再結晶ケークを得た。当該再結晶ケークに水14.3gを添加し、5分間攪拌して結晶物を洗浄した。
その後、濾過して乾燥して白色粉末の精製結晶物8.9gを得た。収率を下式(式(1))より求めたところ、55%であった。
なお、得られたTBAMは、以下のHPLC条件で分析した。TBAMの保持時間の確認は、東京化成工業株式会社製の試薬によるピーク位置との対比により行った。その結果、純度99.9%であった。
HPLC(株式会社 島津製作所製)
カラム:ODSカラム
溶離液:アセトニトリル:水=30:70
検出 :213nm
該精製結晶をシャーレに広げ、25℃で一週間保存し、その後に10質量%メチルアルコール溶液になるように溶解して、色差計:日本電色工業株式会社製OME2000にて色相を測定したところ、a*は−0.04、b*は+0.46であり、APHAを測定したところ4であった。
このとき、目視では白色を維持していた。
収率(%)={TBAMの精製結晶物(g)/TBAMの粗ケーク(g)}×100 (式1)

結果を表1に示す。
【0029】
○実施例2〜5
表1に示す条件で粗結晶ケークを洗浄した以外は実施例1と同操作を行い、精製N−tert−ブチルアクリルアミドを得た。次いで、保存1週間後の色相を観察、測色した。結果を表1に示す。
【0030】
○比較例1
1質量%の水酸化ナトリウム水溶液20gに参考例2で得られたTBAMの粗ケーク20gを添加し、10分間撹拌後、減圧濾過にて、アルカリ洗浄ケークを得た。
メチルアルコール9gを60℃まで加熱した。撹拌下、当該アルカリ洗浄ケークがほぼ完全に溶けるまで撹拌を続けた後、加熱、撹拌を止め、放冷後15℃までゆっくり冷却し、再結晶スラリーを得た。
減圧濾過にて、再結晶ケークを得て、そこに10℃に冷却した8gのメチルアルコールを注ぎ洗浄し、再度、減圧濾過して乾燥し、わずかに褐色味を帯びた白色粉末の精製結晶物7.4gを得た。
25℃で一週間保存したところ、青緑色を帯びた薄褐色に変化し、10%エチルアルコール溶液にて色相を測定したところ、のa*が+0.15、b*が+4.20になり、APHAが48になった。結果を表1に示す。
【0031】
○比較例2
水酸化ナトリウム水溶液を水に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、薄い青緑味を帯びた精製結晶者8.5gを得た。収率は53%だった。一週間保存後の結晶物の10質量%のメチルアルコール溶液のAPHA、および色相を測定した。結果は表1に示した。
【0032】
○比較例3
水酸化ナトリウム水溶液を水に変更し、活性炭を使用せず、再結晶溶媒にキレート剤であるジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム(DTPA)を0.02g添加したメタノールを用いた以外は、比較例2と同様の操作を行い、精製結晶物8.0gを得た。収率は50%であった。乾燥後の精製結晶物は、わずかに青色を帯びた白色であった。一週間保存後の結晶物の10質量%のメチルアルコール溶液のAPHA、および色相を測定した。結果は表1に示した。
【0033】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の製造方法によれば、ATBS製造時の廃液から、N−tert−ブチルアクリルアミドを回収し、工業的に容易な方法で精製することにより、着色のない白色の高純度の結晶が得られる。
このようにして得られたN−tert−ブチルアクリルアミドは、保存中のみならず保存後でも色目の変化がなく、例えば高級化粧品や高品位インクの用途に最適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル、硫酸およびイソブチレンを反応させて得られる2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を反応液から分離し、その後の反応液中に含まれるN−tert−ブチルアクリルアミドを精製するに際し、以下の工程をおこなうことを特徴とするN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法。
(1)N−tert−ブチルアクリルアミドを粗結晶として回収する工程。
(2)その粗結晶をアルカリ水溶液に接触させる工程。
(3)アルコールまたはアルコールと水の混合液に溶解させ、活性炭で処理する工程。
(4)活性炭を分離後、溶液からN−tert−ブチルアクリルアミドを再結晶させる工程。
【請求項2】
再結晶に用いるアルコールがメチルアルコールまたはメチルアルコールと水の混合物であることを特徴とする請求項1に記載のN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法。
【請求項3】
粗結晶と接触させるアルカリ水溶液が、アルカリ金属化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法。
【請求項4】
N−tert−ブチルアクリルアミドを25℃で1週間保存した後に、10質量%メチルアルコール溶液にしたときの色相が、a*が−0.20〜+0、b*が0〜+3.00、かつAPHAが10以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法。


【公開番号】特開2011−178716(P2011−178716A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44399(P2010−44399)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】