説明

着色アルミニウム顔料

【課題】本発明は、着色顔料としてカーボンブラックを用いることにより色彩の再現性に優れた着色アルミニウム顔料を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の着色アルミニウム顔料は、アルミニウムフレークと、その表面を被覆する無機酸からなる被覆層と、該被覆層上に付着したカーボンブラックからなるカーボンブラック層とを有し、該カーボンブラックは、特定の平均粒子径、特定の比表面積、および特定のpH値を有するという特性を有し、かつ、上記アルミニウムフレークの表面積に対し、0.001〜0.1g/m2となる量で付着していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイライトでのアルミニウムフレークの粒子感を抑え、かつハイライトからシェードまでの領域での緩やかな明度変化を示すことでなめらかな質感を与える塗膜が得られる着色アルミニウム顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム顔料(アルミニウムフレーク)に着色顔料を付着させた着色アルミニウム顔料は、たとえば特開昭58−141248号公報(特許文献1)、特表平05−508424号公報(特許文献2)、特開平01−315470号公報(特許文献3)、特開平09−040885号公報(特許文献4)、特開平09−059532号公報(特許文献5)、特開平09−124973号公報(特許文献6)等に開示されており、アルミニウムフレーク表面に着色顔料を付着させ、それをポリマーで被覆する方法が一般的である。
【0003】
これらの着色アルミニウム顔料に用いられる着色顔料としては、たとえばジケトピロロピロール系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、縮合アゾ系、スレン系、ペリノン系、ペリレン系、フタロン系、フタロシアニン系等の有機顔料あるいは酸化鉄、カーボンブラック等の無機顔料等が使用されている。しかし、アルミニウムフレークの表面に着色顔料を付着させることが困難なため、鮮明な色調を得ることが困難となる場合があった。また、仮に着色顔料の付着量を多くすることができたとしても、着色顔料の脱落が起こり易い等の問題もあった。
【0004】
これらの問題を解決するために、特開平09−316357号公報(特許文献7)では、アルミニウムフレークの表面に無機酸基の吸着層と、その上に付着させた着色顔料層を有する着色アルミニウム顔料が提案されている。この着色顔料を付着させた着色アルミニウム顔料の中には、着色顔料としてカーボンブラックを使用したものも挙げられているが、光輝感と色彩の再現性とを両立することには困難を伴うことがあった。これは、カーボンブラックの表面状態を十分に考慮せずに設計されたことが原因と考えられ、カーボンブラックはアルミニウム顔料への吸着力が弱いことから、特に工業的製造において色彩の再現性に乏しいという問題があった。
【0005】
このため、意図したとおりの色彩効果(意匠性)を十分に再現できるカーボンブラックを使用した着色アルミニウム顔料は得られていない現状にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−141248号公報
【特許文献2】特表平05−508424号公報
【特許文献3】特開平01−315470号公報
【特許文献4】特開平09−040885号公報
【特許文献5】特開平09−059532号公報
【特許文献6】特開平09−124973号公報
【特許文献7】特開平09−316357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、着色顔料としてカーボンブラックを用いることにより色彩の再現性に優れた着色アルミニウム顔料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の着色アルミニウム顔料は、アルミニウムフレークと、その表面を被覆する無機酸からなる被覆層と、該被覆層上に付着したカーボンブラックからなるカーボンブラック層とを有し、該カーボンブラックは、
(1)平均粒子径が10nm〜20nmであり、
(2)比表面積が150m2/g〜400m2/gの範囲であり、
(3)当該カーボンブラック10gと蒸留水100mlとの混合液をガラス電極pHメーターで測定した場合のpH値が1〜3の範囲である、という特性を有し、かつ
該カーボンブラックは、上記アルミニウムフレークの表面積に対し、0.001〜0.1g/m2となる量で付着していることを特徴としている。
【0009】
ここで、上記無機酸は、リン酸、モリブデン酸、タングステン酸、バナジン酸、およびそれらの縮合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の酸であることが好ましく、上記カーボンブラックは、分子中に2個のアミノ基を有しカルボキシル基を有さないアミノ化合物、および/または一塩基性芳香族カルボン酸で被覆されていることが好ましい。
【0010】
一方、上記カーボンブラック層は、その表面が樹脂層で被覆されていることが好ましい。また、本発明は、上記の着色アルミニウム顔料を配合してなる自動車塗装用塗料組成物にも係る。
【発明の効果】
【0011】
本発明の着色アルミニウム顔料は、着色顔料としてカーボンブラックを用いているにもかかわらず色彩の再現性に優れているという特徴を有している。そして、このような本発明の着色アルミニウム顔料を配合した塗料を用いると、ハイライトでのアルミニウムフレークの粒子感を抑制することができ、かつハイライトからシェードまでの領域での緩やかな明度変化を示すことでなめらかな質感を与える塗膜外観を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の着色アルミニウム顔料の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の着色アルミニウム顔料について詳細に説明する。
<着色アルミニウム顔料>
本発明の着色アルミニウム顔料は、アルミニウムフレークと、その表面を被覆する無機酸からなる被覆層と、該被覆層上に付着したカーボンブラックからなるカーボンブラック層とを有する。本発明の着色アルミニウム顔料は、このような構成を含む限り、他の任意の構成を含むことができる。以下、各構成について説明する。
【0014】
<アルミニウムフレーク>
本発明の着色アルミニウム顔料を構成する基材としてのアルミニウムフレークは、従来公知のアルミニウムフレーク(アルミニウム顔料ともいう)を特に限定することなく用いることができる。また、このようなアルミニウムフレークを製造する製造方法も特に限定されない。
【0015】
このようなアルミニウムフレークは、たとえば平均粒子径が1〜500μmであり、比表面積が0.05〜10m2/gであり、水面拡散面積が1000〜50000cm2/gであるものを好適に用いることができる。さらに好ましくは、平均粒子径が5〜100μmであり、比表面積が0.2〜5m2/gであり、水面拡散面積が2000〜20000cm2/gであるものが好適である。ここで、上記平均粒子径は、公知の粒度分布測定法(一般にこの種の粒度分布測定法としてはたとえばレーザー回折法、マイクロメッシュシーブ法、コールターカウンター法等が知られているが、本発明においてはこれらの方法のうちレーザー回折法を採用することが好ましい)により測定された粒度分布より、体積平均を算出して求められる数値を意味し、比表面積は、BET法により求められる数値を意味し、水面拡散面積はJIS K5906によって求められる数値を示す。
【0016】
また、このようなアルミニウムフレークの形状としては、扁平状のものが適しており、特にコイン状のもの(表面が平滑で丸みを帯びた形状)が好適である。その厚みは、0.03μm〜5μm程度が好ましく、アスペクト比(最長径/厚み)は3〜600程度が好ましい。さらに好ましくは、その厚みが0.1〜2μm程度であり、アスペクト比が10〜300程度のものが好適である。
【0017】
また、アルミニウムフレークを製造する製造方法としては、たとえばアトマイズ粉末(アトマイズ法により得られる粉末)をボールミルによって粉砕または磨砕する方法や、アルミニウム蒸着フィルムを製造後、アルミニウム層を剥離しそれを粉砕する方法が一般的である。また、アルミニウムフレークの純度(金属成分)については特に限定されることはなく、工業用純アルミニウムおよび公知のアルミニウム合金が選択できる。
【0018】
<被覆層>
本発明の着色アルミニウム顔料において、上記アルミニウムフレークの表面は、無機酸からなる被覆層により被覆されている。このような被覆層は、アルミニウムフレークの表面を活性化し(活性点を増加せしめ)、カーボンブラックの付着を容易にすると同時にその付着力を高める作用を有するものである。カーボンブラックは、この被覆層を介することにより、アルミニウムフレークの表面に均一かつ強固に付着することが可能となる。
【0019】
ここで、この被覆層を構成する無機酸としては、たとえば炭酸、硼酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、珪酸、クロム酸、モリブデン酸、タングステン酸、チタン酸、バナジン酸、タンタル酸、およびそれらの縮合物等を挙げることができる。これらの中でも特に好ましい無機酸としては、リン酸、モリブデン酸、タングステン酸、バナジン酸、およびそれらの縮合物(たとえばピロリン酸、ポリリン酸、ポリモリブデン酸、ポリタングステン酸、リンモリブデン酸、リンタングステン酸)からなる群より選ばれる少なくとも一種の酸を挙げることができる。なお、本発明において、上記ポリモリブデン酸およびポリタングステン酸には、一般式Mxy・mH22・nH2O(該式中MはMoまたはWを示す)で表わされる、過酸化水素と金属Moあるいは金属Wとから誘導される過酸化ポリ酸も含まれる。
【0020】
このような被覆層でアルミニウムフレークの表面を被覆する方法としては、特に限定されるものではないが、たとえば上記のような無機酸をアルミニウムフレーク表面に吸着させる方法等を挙げることができる。より具体的には、無機酸またはそれらのアンモニウム塩等の化合物を水あるいはアルコール等の親水性溶剤に溶解し、アルミニウムフレークとスラリー状態あるいはペースト状態で撹拌させ混合あるいは混練する方法が挙げられる。
【0021】
アルミニウムフレーク表面を被覆する無機酸の量は、アルミニウムフレーク100質量部に対して0.05〜5質量部程度とすることが好ましい。これよりも少ない場合にはカーボンブラックを十分に付着させることができず、多すぎるとアルミニウムフレークの凝集その他の問題が生じる。
【0022】
なお、無機酸によるアルミニウムフレーク表面の被覆状態は、詳細な解明は未だなされていないものの、恐らく無機酸が単に物理的に吸着しているものや、無機酸とアルミニウムとが反応することにより化学的に結合しているものも含まれると考えられる。また、無機酸がアルミニウムフレークの全表面を被覆していてもよいし、アルミニウムフレーク表面の一部において無機酸により被覆されていない部分が含まれていてもよい。
【0023】
<カーボンブラック層>
本発明の着色アルミニウム顔料は、上記の被覆層上にカーボンブラックが付着しており、本発明ではこのように付着しているカーボンブラックを便宜的にカーボンブラック層と表現する。そして、このカーボンブラック層を構成するカーボンブラックは、次の特性を有していることが必要である。すなわち、
(1)平均粒子径が10nm〜20nmであること。
(2)比表面積が150m2/g〜400m2/gの範囲であること。
(3)当該カーボンブラック10gと蒸留水100mlとの混合液をガラス電極pHメーターで測定した場合のpH値が1〜3の範囲であること。
という上記(1)〜(3)の全ての条件を充足する特定のカーボンブラックであることが必要である。
【0024】
ここで、まず、上記(1)の平均粒子径とは、平均一次粒子径(すなわち凝集していない個々の粒子(一次粒子)の平均粒子径)を意味する。この平均粒子径は、10nm〜20nmの範囲内であることが必要であるが、より好ましくは13〜16nmのものが好適に使用される。平均粒子径が20nmを超えると、得られる着色アルミニウム顔料の光輝感と彩度が低下し、目的とする意匠性(色彩)は得られない。平均粒子径が10nm未満になると、彩度は向上するが緻密にアルミニウムフレーク表面を覆うため、光輝感が大きく損なわれる。また、平均粒子径が10nm未満の場合は製造中に二次粒子を形成し易くなり、細かい粒子径の特徴が得られ難くなる。さらに平均粒子径が10nm未満のカーボンブラックは入手が難しく、価格も高いという問題を有する。なお、この平均粒子径は、電子顕微鏡法によって求められる。電子顕微鏡法とは、以下に示す方法である。
【0025】
すなわち、特開2001−240766号公報に記載されているように、カーボンブラックをクロロホルムに投入し200kHzの超音波を20分間照射し分散させた後、分散試料を支持膜に固定する。これを透過型電子顕微鏡で写真撮影し、写真上の直径と写真の拡大倍率により粒子径を計算する。この操作を1500回実施し、各測定値の算術平均により求める。なお、一般に行なわれているレーザー回折・散乱法などの測定では一次粒子径を測定するのは困難である。
【0026】
次に、上記の(2)の比表面積は、150m2/g〜400m2/gの範囲であることが必要であり、より好ましくは250m2/g〜400m2/gの範囲であることが好適である。比表面積が400m2/gを超えると、粒子表面の吸油量が大きくなるため、一次粒子となるまでカーボンブラック粒子を分散することが困難となり、その結果、比表面積を大きくすることの効果が乏しくなるという問題を生じ、比表面積が150m2/g未満になると、アルミニウムフレーク表面へ吸着する作用を有する部位が減少すると考えられ、かつ粒子は大きくなるため、吸着力が減少し、個々のアルミニウムフレークへの吸着の均一性が損なわれる。カーボンブラックの付着率が低いアルミニウムフレークが存在すると、その粒子の光の直接反射によって色調の鮮明性が損なわれるという問題を生じる。なお、この比表面積は、窒素吸着量からS−BET式で求めた比表面積(JISK6217)を示す。
【0027】
さらに、上記の(3)のpH値は、1〜3の範囲であることが必要であり、より好ましくは2〜3の範囲であることが好適である。当該pH値が3を超えると、カーボンブラック表面の改質処理が不十分となり、個々のアルミニウムフレークへの吸着の均一性が損なわれるという問題を生じ、当該pH値が1未満になると、酸性度が強すぎるために表面改質時にカーボンブラック粒子同士の凝集が起こるという問題を生じる。しかし、一般的にはpHが1未満になるカーボンブラックは存在しないと考えられる。なお、当該pH値の具体的な測定方法は、試料(カーボンブラック)10gに蒸留水100mlを加えてなる混合液を煮沸した後、室温に戻し、その上澄み液をガラス電極pHメーターによって測定する、という方法を採用するものとする。
【0028】
上記の(1)〜(3)の条件を満たすカーボンブラックの具体例としては、たとえば三菱化学(株)の高級カラー(HCF)#2700B、#2650、#2450B、#2400B、#2350、#1000、中級カラー(MCF)#970等を挙げることができる。本発明で用いられる上記のような特定の条件を満たすカーボンブラックは、本発明の効果が損なわれない限り酸素以外の他の成分、例えば硫黄分等が含まれているものであってもよい。
【0029】
このようなカーボンブラックの付着量は、基材となる上記アルミニウムフレークの表面積に対し、0.001〜0.1g/m2、より好ましくは0.01〜0.1g/m2である。ここで、アルミニウムフレークの表面積は水面拡散面積(m2)を示し、これはJIS K5906によって求められる。上記付着量が0.001g/m2未満の場合は、十分な彩度が得られず、0.1g/m2を超える場合は、得られる着色アルミニウム顔料の光輝感が低下する。
【0030】
当該カーボンブラックの付着量の測定は、硝酸および塩酸の混酸を用いてアルミニウム分を溶解してカーボンブラックの質量を測定する酸溶解分解法により測定できる。
【0031】
なお、基材となるアルミニウムフレークの被覆層にカーボンブラックを付着させる方法としては特に限定は無いが、たとえば特開平01−315470号公報、特開平09−040885号公報、特開平09−059532号公報、および特開平09−124973号公報等に記載されている方法を好適に採用することができる。
【0032】
基材となるアルミニウムフレーク表面(すなわち被覆層)にカーボンブラックを付着させる具体的な方法は、カーボンブラックの表面を、分子中に2個のアミノ基を有し、カルボキシル基を有さないアミノ化合物、および/または一塩基性芳香族カルボン酸で被覆し、このように被覆されたカーボンブラックを付着させる方法である。これらの方法は、非極性溶媒中でのヘテロ凝集現象を利用して基材となるアルミニウムフレークに付着させる方法である。
【0033】
なお、このように表面を被覆したカーボンブラックには、さらに界面活性剤やキレート化合物、高分子化合物等の顔料分散剤や、紫外線吸収剤等を付着させても良い。
【0034】
分子中に2個のアミノ基を有し、カルボキシル基を有さないアミノ化合物としては、たとえばエチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,8−ジアミノナフタレン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、ステアリルプロピレンジアミン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができ、これらを各単独で、あるいは2種以上のものを組み合わせて用いることができる。
【0035】
このようなアミノ化合物の添加量は、カーボンブラック100質量部に対し、0.2〜100質量部、より好ましくは0.5〜50質量部とするのが好適である。添加量が0.2質量部未満となる場合には、カーボンブラックをアルミニウムフレークに付着させることが困難となり得る。また、添加量が100質量部を超えると、カーボンブラックをアルミニウムフレーク(の被覆層)に付着させた後に後述のように樹脂層で被覆してもカーボンブラックをアルミニウムフレークに充分に固定できない場合がある。また、着色アルミニウム顔料を塗料や塗膜に配合した場合に余分なアミノ化合物が塗料の増粘、塗膜の耐候性悪化等の問題を引き起こす等の不都合を生じる場合がある。
【0036】
また、このような一塩基性芳香族カルボン酸としては、たとえば安息香酸、安息香酸ビニル、サリチル酸、アントラニル酸、m−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸、3−アミノ−4−メチル安息香酸、p−アミノサリチル酸、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、ナフテン酸、3−アミノ−2−ナフトエ酸、ケイ皮酸、アミノケイ皮酸から選ばれる少なくとも1種以上を用いることができる。このような一塩基性芳香族カルボン酸の添加量は、カーボンブラック100質量部に対し、0.2〜100質量部、より好ましくは0.5〜50質量部が好適である。添加量が0.2質量部未満の場合には、カーボンブラックがアルミニウムフレークの表面から脱落しやすくなる。また、添加量が100質量部を超えると、カーボンブラックをアルミニウムフレーク(の被覆層)に付着させた後に後述のように樹脂層で被覆してもカーボンブラックをアルミニウムフレークに充分に固定できない場合がある。また、着色アルミニウム顔料を塗料や塗膜に配合した場合に余分な一塩基性芳香族カルボン酸が塗膜の耐候性悪化等の問題を引き起こす等の不都合を生じる場合がある。
【0037】
なお、カーボンブラックを上記したアミノ化合物で処理する際に一塩基性芳香族カルボン酸とともに被覆すると、無機酸からなる被覆層へのカーボンブラックの付着性がより安定化され得る。
【0038】
具体的に、カーボンブラックを基材となるアルミニウムフレークの被覆層に付着させる好ましい方法として、下記の工程が例示されるが、この方法に限定されるものではない。
【0039】
1)まず、上記のような特定の特性((1)〜(3))を備えたカーボンブラックを、上記のような2個のアミノ基を有し、カルボキシル基を有さないアミノ化合物、および一塩基性芳香族カルボン酸の存在下において、必要に応じて界面活性剤やキレート化合物、高分子化合物等の分散剤を加え、非極性溶媒中で分散させることにより、その表面が当該アミノ化合物および一塩基性芳香族カルボン酸で被覆されたカーボンブラックの分散体を作製する。ここで非極性溶媒としては、沸点範囲が100〜250℃程度である脂肪族炭化水素、または芳香族炭化水素、あるいはその混合体が好適に使用され得る。具体的には、たとえばノルマルパラフィン、イソパラフィン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、灯油、ミネラルスピリット、石油ベンジン等を挙げることができる。また、必要に応じてアルコールあるいはエステル系溶剤を顔料分散の補助として少量添加してもよい。
【0040】
カーボンブラックを分散する方法として好ましい方法は、ボールミル、ビーズミル、サンドミル等による粉砕媒体を使った分散方法を挙げることができる。
【0041】
2)上記で作製されたカーボンブラック分散体に、被覆層でその表面を被覆した基材となるアルミニウムフレークを加えて分散し、カーボンブラックを基材となるアルミニウムフレーク(の被覆層)表面に付着させる(一次付着)。このときの分散方法としては、上記の粉砕媒体を使用した分散方法の他にスターラーやディスパーによる撹拌も好適である。その他、カーボンブラック分散体のスラリーに無機酸を吸着させた基材となるアルミニウムフレークを加えた後、固液分離してペースト状とし、ニーダーミキサー等で混練する方法も有効である。添加する基材となるアルミニウムフレークは脂肪酸等の有機系添加剤をできるだけ含まないことが望ましい。
【0042】
3)さらに、必要に応じて、上記のようにして作製されたカーボンブラック層の表面を樹脂層で被覆することが好ましく、これによりカーボンブラックの付着をより強固にすることができる。このような樹脂層を構成する樹脂の量は、基材となるアルミニウムフレーク(固形分)100質量部に対し、0.5〜100質量部、より好ましくは5〜30質量部とすることが好適である。このような樹脂層は、アルミニウムフレークの全表面を被覆することが好ましいが、部分的にカーボンブラック層の表面がこの樹脂層により被覆されていない部分が存在しても差し支えない。
【0043】
本発明の着色アルミニウム顔料のカーボンブラック層を樹脂層で被覆する方法は、たとえば該着色アルミニウム顔料(カーボンブラック層を有する状態のもの)を炭化水素系あるいはアルコール系溶媒(好ましくは炭化水素系溶剤)に分散した分散体に、モノマーと過酸化ベンゾイル、過酸化イソブチル、アゾビスイソブチロニトリル等の重合開始剤とを添加し、撹拌しながら加熱してモノマーを重合させることにより、モノマーの重合体である樹脂を該アルミニウムフレーク(のカーボンブラック層)表面に析出させる方法が好ましい。この場合の重合反応は無酸素雰囲気、たとえば窒素、アルゴン等の不活性ガス中で行なうことが望ましい。反応温度は50〜150℃、より好ましくは70〜100℃とすることが好適である。このとき重合させるモノマーとしては、たとえば下記のモノマーを挙げることができ、1種または2種以上のものを適宜使用できる。
【0044】
すなわち、モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸オクチル、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリスアクリロキシエチルホスフェート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、アクリルニトリル、メタクリルニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、ポリブタジエン、アマニ油、大豆油、エポキシ化大豆油、エポキシ化ポリブタジエン、シクロヘキセンビニルモノオキサイド、ジビニルベンゼンモノオキサイド等が挙げられる。
【0045】
<着色アルミニウム顔料の特性>
本発明の着色アルミニウム顔料は、上記の各構成に加え、次のような特性を有していることが好ましい。すなわち、被塗物上に形成された中塗り塗膜上にベース塗料を塗装することによりベース塗膜を形成し、さらにそのベース塗膜上にクリヤー塗料を塗装することにより複層塗膜を形成する場合において、本発明の着色アルミニウム顔料14.9質量部と樹脂バインダー100質量部とを含むベース塗料を、中塗り塗膜に対して15μmの厚みで塗装した場合、その複層塗膜をマルチアングル分光測色計で測定した際に、L*15°が120〜60であり、かつL*15°とL*45°との比L*15°/L*45°が1.6〜2.0である、という特性を有することが好ましい。
【0046】
ここで、「L*15°」、「L*45°」とは、それぞれ以下の数値を示す。すなわち、マルチアングル分光測色計(商品名:X−Rite MA−68II)を用いて、D65光源、45°入射、視野角10°という条件下で、受光角15°で測定されるL*を「L*15°」とし、受光角45°で測定されるL*を「L*45°」とする。
【0047】
また、受光角15°付近からの目視評価をハイライト明度といい、受光角が45°以上となる範囲の目視評価をシェード明度という。本発明において「ハイライト」とは、塗膜を真正面から見た時の白さであり、たとえばマルチアングル分光測色計の受光角15°〜25°のL*に相当する。「シェード」とは塗膜を斜め横から見た時の白さであり、たとえばマルチアングル分光測色計の受光角45°〜110°のL*に相当し、「ハイライトからシェードまでの領域」とは、この受光角の変化域を示す。
【0048】
L*15°が60未満の場合、ハイライト明度が低く粒子感がなくなる代わりにシェード明度との明度変化差が小さくなり意匠性の特長が低下する。また比L*15°/L*45°が1.6未満の場合も同様の意匠性の低下が起こる。一方、L*15°が120を超えるとハイライト明度が高く粒子感が強くなり、シェード明度との明度変化も大きく意匠性の特長が低下する。また比L*15°/L*45°が2.0を超える場合も同様の意匠性の低下が起こる。
【0049】
このように、L*15°および比L*15°/L*45°が上記の範囲内であることにより、ハイライトでのアルミニウムフレークの粒子感を抑え、かつハイライトからシェードまでの領域での緩やかな明度変化を示すことでなめらかな質感を与える塗膜が得られるという効果を奏することとなる。
【0050】
なお、上記樹脂バインダーとしては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂等が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
<用途>
本発明の着色アルミニウム顔料は、塗料やインキに配合して用いることができる。特に、本発明の着色アルミニウム顔料は自動車塗装用塗料組成物に配合することが好ましく、この点、本発明は、このような着色アルミニウム顔料を配合してなる自動車塗装用塗料組成物にも係る。
【0052】
本発明の自動車塗装用塗料組成物に配合される着色アルミニウム顔料の量(固形分)は、樹脂成分100質量部当たり0.1〜50質量部、より好ましくは1〜30質量部とすることが好適である。着色アルミニウム顔料の配合量が0.1質量部未満の場合、目的とする意匠性(色彩)が得られず、50質量部を超えると塗膜の鮮映性が低下する。
【0053】
本発明の自動車塗装用塗料組成物に配合される樹脂成分としては特に限定されないが、たとえば熱硬化型アクリル樹脂/メラミン樹脂、熱硬化型アクリル樹脂/CAB(セルロースアセテートブチレート)/メラミン樹脂、熱硬化型ポリエステル(アルキド)樹脂/メラミン樹脂、熱硬化型ポリエステル(アルキド)/CAB/メラミン樹脂、イソシアネート硬化型ウレタン樹脂/常温硬化型アクリル樹脂、水希釈型アクリルエマルジョン/メラミン樹脂等を挙げることができ、1種または2種以上のものを好適に用いることができる。また、このような自動車塗装用塗料組成物には、必要に応じて、顔料分散剤、消泡剤、沈降防止剤、硬化触媒等の添加剤や、他の着色顔料、マイカ、着色マイカ、異種の公知の着色アルミニウム顔料(カーボンブラック以外の着色顔料が付着したもの)等を本発明の効果を妨げない範囲内(たとえば0.1〜5質量%程度)で配合することができる。
【0054】
本発明の着色アルミニウム顔料は、上記のような自動車塗装用塗料組成物以外にも印刷用インキや樹脂練り混み用顔料、または筆記具等のインキ等にも好適に使用できる。
【0055】
<着色アルミニウム顔料の作用効果>
本発明の着色アルミニウム顔料を塗料(またはインキ)に配合して使用することにより、ハイライト(塗膜を真正面から見たもの)でのアルミニウムフレークの粒子感を抑え、かつハイライトからシェードまでの領域での緩やかな明度変化を示すことでなめらかな質感を与える塗膜を得ることができる。また、当該塗膜において本発明の着色アルミニウム顔料と黒色顔料とを混合することで、より深みのある光輝性濃彩色(たとえばブラウン色)を得ることができる。また、本発明の着色アルミニウム顔料と他の着色アルミニウム顔料または着色マイカや一般着色顔料を混合することにより、様々な色調を呈する塗膜を得ることができる。
【0056】
そして、特に本発明の着色アルミニウム顔料またはそれを配合した塗料を使用することにより、これまで色彩再現性が悪く多量に使用することができなかった自動車塗料の分野でも、極めて良好な色彩再現性の塗膜を得ることができるようになった。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
<実施例1>
以下のようにして、本発明の着色アルミニウム顔料を製造した。
【0059】
工程1) 市販のアルミニウムフレーク(東洋アルミニウム(株)製、商品名「7640NS」、固形分:65%、平均粒子径:18μm、平均厚み:0.3μm、比表面積:5.5m2/g、水面拡散面積:15000cm2/g)15.4g(固形分(アルミニウムフレーク)として10g)にリン酸0.1g(アルミニウムフレーク100質量部に対し1質量部)を含むイソプロピルアルコール2gを加え、5分間混練することにより該アルミニウムフレーク表面に無機酸であるリン酸が吸着した被覆層を形成した。
【0060】
工程2) 市販のカーボンブラック(三菱化学(株)製、商品名:高級カラー(HCF)#2650(平均粒子径:13nm、比表面積:370m2/g、上記の方法で測定したpH値:3))0.8gにヘキサメチレンジアミン0.08gとアントラニル酸0.08g(それぞれカーボンブラック100質量部に対して10質量部)、ミネラルスピリット30gを加え、直径1mmのガラスビーズを300g挿入した直径5cm、内容積500ccのポットミルで24時間ボールミル分散した。これにより、当該カーボンブラックの表面を分子中に2個のアミノ基を有し、カルボキシル基を有さないアミノ化合物、および一塩基性芳香族カルボン酸で被覆した。
【0061】
工程3) 上記のカーボンブラックを含むポットミルに、工程1)で調製したリン酸を吸着させたアルミニウムフレークの全量とミネラルスピリット20gとを追加し、さらに1時間ボールミル粉砕した。得られたスラリーをミネラルスピリット100gで洗い出すことにより、ガラスビーズと分離した。次いで、得られたスラリーをグラスフィルターで吸引ろ過することにより、ブラウン色の本発明の着色アルミニウム顔料(被覆層上にカーボンブラック層を有するもの)を得た。
【0062】
このようにして得られた本発明の着色アルミニウム顔料をパウダー化して、電子顕微鏡で観察したところ個々のアルミニウムフレークにカーボンブラックが均一に付着していた。得られた当該着色アルミニウム顔料のカーボンブラック付着量は、アルミニウムフレークの表面積に対し、0.01g/m2であった。なお、本実施例における当該カーボンブラックの付着量の測定は、酸溶解分解法により測定した。以下に示す実施例、比較例においても同様である。
【0063】
工程4) 上記により得られた本発明の着色アルミニウム顔料11g(固形分として)を含むスラリーにアクリル酸0.5g、トリメチロールプロパントリアクリレート0.5g、スチレン0.5g、エポキシ化ポリブタジエン0.5gを添加し、窒素中80℃で加熱撹拌しながら、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.05gを添加して12時間反応させることによりモノマーを重合させることにより、カーボンブラック層の表面に樹脂を析出させ、カーボンブラック層の表面を樹脂層で被覆した本発明の着色アルミニウム顔料を得た。このようにして当該処理後にスラリーを固液分離することにより、表面を樹脂層で被覆した本発明の着色アルミニウム顔料をペースト状態(固形分50%)で得た。
【0064】
このようにして得られた本発明のブラウン着色アルミニウム顔料をパウダー化して、電子顕微鏡で観察した写真を図1に示す。灰色の大きな粒子がアルミニウムフレークであり、その表面に多数存在する微粒子がカーボンブラックおよび樹脂層を構成する樹脂である。
【0065】
そして、上記で得られたペースト状の本発明の着色アルミニウム顔料3gを市販のアクリルラッカー(日本ペイント社製、商品名「マックフローO−520クリヤー」)50gに分散して塗料を作製し、両面アート紙に250μmドクターブレードで塗布して塗板を作製した。得られた塗板は、ハイライトでのアルミニウムフレークの粒子感を抑え、緻密な質感を与える特徴的な塗板であった。また、このような着色アルミニウム顔料は、後述のカーボンブラック付着性評価においてカーボンブラック付着性が良好で再現よく作れることから、色彩再現性にも優れていた。
【0066】
<実施例2>
実施例1の工程2)を以下のように変更することを除き、それ以外の工程は全て実施例1と同様にして本発明の着色アルミニウム顔料を調製した。
【0067】
変更された工程2)は次のとおりである。
すなわち、市販のカーボンブラック(実施例1と同じ)1.5gにヘキサメチレンジアミン0.15gとアントラニル酸0.15g(それぞれカーボンブラック100質量部に対して10質量部)、およびミネラルスピリット30gを加え、直径1mmのガラスビーズを300g挿入した直径5cm、内容積500ccのポットミルで24時間ボールミル分散した。
【0068】
このようにして得られた本発明の着色アルミニウム顔料をパウダー化して、電子顕微鏡で観察したところ個々のアルミニウムフレークにカーボンブラックが均一に付着していた。当該着色アルミニウム顔料のカーボンブラック付着量は、アルミニウムフレークの表面積に対し、0.03g/m2であった。
【0069】
得られたペースト状の本発明の着色アルミニウム顔料を用い、実施例1と同様の方法で作製した塗板は、グレー色を呈し、ハイライトでのアルミニウムフレークの粒子感を抑え、緻密な質感を与える特徴的な塗板であった。また、このような着色アルミニウム顔料は、後述のカーボンブラック付着性評価においてカーボンブラック付着性が良好で再現よく作れることから、色彩再現性にも優れていた。
【0070】
<比較例1>
実施例2の工程2)の市販のカーボンブラック(三菱化学(株)製、高級カラー(HCF)#2650)の代わりにカーボンブラック(三菱化学(株)製、高級カラー(HCF)#2600(平均粒子径:13nm、比表面積:370m2/g、上記の方法で測定したpH値:6.5)を用いた以外は全て実施例2と同様にして、着色アルミニウム顔料を得た。
【0071】
この着色アルミニウム顔料をパウダー化して、電子顕微鏡で観察したところアルミニウムフレークに吸着していないカーボンブラックが多く見られた。当該着色アルミニウム顔料のカーボンブラック付着量は、アルミニウムフレークの表面積に対し、0.02g/m2であった。
【0072】
得られたペースト状の本発明の着色アルミニウム顔料を用い、実施例1と同様の方法で作製した塗板は、実施例1に比べて淡いブラウン色を呈した。非吸着カーボンブラックにより、アルミニウムフレークの粒子感は抑えられていた。なお、このような着色アルミニウム顔料は、後述のカーボンブラック付着性評価においてカーボンブラック付着性が悪いことから、色彩再現性に劣っていた。
【0073】
<比較例2>
実施例1の工程2)を以下のように変更することを除き、それ以外の工程は全て実施例1と同様にして着色アルミニウム顔料を調製した。
【0074】
変更された工程2)は次のとおりである。
すなわち、市販のカーボンブラック(実施例1と同じ)8gにヘキサメチレンジアミン0.8gとアントラニル酸0.8g(それぞれカーボンブラック100質量部に対して10質量部)、およびミネラルスピリット30gを加え、直径1mmのガラスビーズを300g挿入した直径5cm、内容積500ccのポットミルで24時間ボールミル分散した。
【0075】
このようにして得られた本発明の着色アルミニウム顔料をパウダー化して、電子顕微鏡で観察したところ個々のアルミニウムフレークにカーボンブラックが均一に付着していた。当該着色アルミニウム顔料のカーボンブラック付着量は、アルミニウムフレークの表面積に対し、0.14g/m2であった。
【0076】
得られたペースト状の着色アルミニウム顔料を用い、実施例1と同様の方法で作製した塗板は、濃いブラウン色を呈し、ハイライトでのアルミニウムフレークの粒子感を抑え、非常に緻密な質感を与える特徴的な塗板であったが、輝度の低下が目立つ結果となった。なお、このような着色アルミニウム顔料は、後述のカーボンブラック付着性評価においてカーボンブラック付着性が良好で再現よく作れることから、色彩再現性には優れていた。
【0077】
<比較例3>
市販のアルミニウムフレーク(東洋アルミニウム(株)製、商品名「7640NS」、固形分:65%、平均粒子径:18μm、平均厚み:0.3μm、比表面積:5.5m2/g、水面拡散面積:15000cm2/g)を後述の塗膜の評価に用いた。
【0078】
<比較例4>
比較例3のアルミニウムフレークと市販のカーボンブラック(三菱化学(株)製、商品名:高級カラー(HCF)#2650(平均粒子径:13nm、比表面積:370m2/g、上記の方法で測定したpH値:3))とを、カーボンブラックの塗料PWC(顔料重量濃度)が0.48%となるように混合し、後述の塗膜の評価を行なった。
【0079】
<比較例5>
比較例4と同じアルミニウムフレークとカーボンブラックとを、カーボンブラックの塗料PWC(顔料重量濃度)が1.30%となるように混合し、後述の塗膜の評価を行なった。
【0080】
<塗膜の評価>
1.中塗り塗膜の形成
被塗物であるダル鋼板(長さ300mm、幅100mmおよび厚さ0.8mm)に対して燐酸亜鉛処理剤(商品名:「サーフダインSD2000」、日本ペイント社製)を使用して化成処理した後、カチオン電着塗料(商品名:「パワートップU−50」、日本ペイント社製)を乾燥膜厚が25μmとなるように電着塗装した。次いで、160℃で30分間焼き付けた後、中塗り塗料(商品名:「オルガS−90シーラー」、日本ペイント社製)を乾燥膜厚が40μmとなるようにエアースプレー塗装し、140℃で30分間焼き付け、中塗り塗膜を形成した。
【0081】
2.光輝性塗料組成物(ベース塗料)の調製
アクリル樹脂(スチレン/メチルメタクリレート/エチルメタクリレート/ヒドロキシエチルメタクリレート/メタクリル酸の共重合体、数平均分子量約20000、水酸基価45、酸価15、固形分50質量%)と、メラミン樹脂(商品名:「ユーバン20SE」、三井化学社製、固形分60質量%)とを80:20の固形分質量比で配合して得たビヒクル固形分100質量部(すなわち樹脂バインダー100質量部)に対し、実施例1〜実施例2および比較例1〜比較例5の着色アルミニウム顔料14.9質量部を配合した(ただし比較例3〜5においてはアルミニウムフレークの配合量が14.9質量部となるようにアルミニウムフレークとカーボンブラック(比較例4、5)とを配合した)。なお、この着色アルミニウム顔料およびアルミニウムフレークの配合量は、以下の表1中、「アルミPWC」の欄に示し、比較例4および5のカーボンブラックの配合量は「カーボンPWC」の欄に示した。次いで、この配合物と有機溶剤(トルエン/キシレン/酢酸エチル/酢酸ブチルを70/15/10/5の質量比で混合した混合溶剤)とを攪拌機により塗装適正粘度になるように攪拌混合し、光輝性塗料組成物(ベース塗料)を調製した。
【0082】
3.ベース塗膜の形成
上記中塗り塗膜を形成したものの被塗面に、上記の光輝性塗料組成物(ベース塗料)を乾燥膜厚が15μmとなるように塗装することによりベース塗膜を形成した。当該塗装は静電塗装機(「Auto REA」、ABBインダストリー社製)を用い、霧化圧2.8kg/cm2で行なった。塗装中のブースの雰囲気は温度25℃、湿度75%に保持した。塗装後ベース塗膜を3分間セッティングし、次いでこのベース塗膜上にクリヤー塗料を乾燥膜厚が35μmになるように塗装し、室温で10分間セッティングし、140℃の温度で30分間焼き付けることにより、被塗物上に複層塗膜を形成した。得られた複層塗膜を下記評価方法で評価した。結果を表1に示す。なお、上記で使用したクリヤー塗料は、カルボキシル基含有ポリマーとエポキシ基含有ポリマーとを含有するトップクリヤー塗料(商品名:「マックフローO−520クリヤー」、日本ペイント社製)である。
【0083】
4.評価方法
上記で説明した方法により、複層塗膜の「L*15°」および「L*15°/L*45°」を測定することによって、複層塗膜の色調を測色した。その結果を表1に示す。
【0084】
<カーボンブラック付着性評価>
着色アルミニウム顔料に付着したカーボンブラックの付着性は、酢酸エチル分散試験により確認した。すなわち、着色アルミニウム顔料を固形分で1.65g採取し、総質量が15gとなるように酢酸エチルを加え、よく振り混ぜた。この分散溶液を一昼夜静置し、上澄み液中における遊離したカーボンブラック粒子の有無を確認した。評価は、遊離したカーボンブラック粒子が確認されなかったものは「A」とし、遊離したカーボンブラック粒子が確認されたものは「B」とした。その結果を表1に示す。
【0085】
<粒子感の評価>
上記複層塗膜を目視観察することにより、粒子感の評価を行なった。評価は、以下の基準とした。その結果を表1に示す。
「5」:アルミニウムフレークのツブツブ感が強く、金属調の輝度あり。
「4」:アルミニウムフレークのツブツブ感が低下するが、金属調の輝度あり。
「3」:アルミニウムフレークのツブツブ感は「4」と同様だが、金属調の輝度がない。
「2」:アルミニウムフレークのツブツブ感が「3」より低下し、金属調の輝度がない。
「1」:アルミニウムフレークのツブツブ感がなく緻密に感じる。
【0086】
なお、上記評価が「1」〜「3」のものは、アルミフレーク由来の白色粒子感が程よく抑えられ意匠性が良好となる。
【0087】
【表1】

【0088】
表1より明らかなように、実施例の着色アルミニウム顔料はカーボンブラックの付着量および付着性が良好であり、かつ塗膜外観としてアルミフレーク由来の白色粒子感が程よく抑えられ、特長的な緩やかな明度変化を併せ持つ結果を示した。これに対し、カーボンブラックの種類を替えた比較例1の場合は、カーボンブラックの付着性が低下した。また、比較例2のようにカーボンブラックの付着量を多くした場合には粒子感が低下し過ぎるために、実施例の着色アルミニウム顔料で得られた効果は示されなかった。比較例4、5のように塗料中でアルミフレークとカーボンブラックを単に混合した場合は、アルミフレーク由来の白色粒子感が残り、さらにL*15°/L*45°が大きくなるため、実施例の着色アルミニウム顔料で得られた効果は示されなかった。
【0089】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0090】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムフレークと、その表面を被覆する無機酸からなる被覆層と、該被覆層上に付着したカーボンブラックからなるカーボンブラック層とを有する着色アルミニウム顔料であって、
前記カーボンブラックは、
(1)平均粒子径が10nm〜20nmであり、
(2)比表面積が150m2/g〜400m2/gの範囲であり、
(3)当該カーボンブラック10gと蒸留水100mlとの混合液をガラス電極pHメーターで測定した場合のpH値が1〜3の範囲である、という特性を有し、かつ
前記カーボンブラックは、前記アルミニウムフレークの表面積に対し、0.001〜0.1g/m2となる量で付着している、着色アルミニウム顔料。
【請求項2】
前記無機酸は、リン酸、モリブデン酸、タングステン酸、バナジン酸、およびそれらの縮合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の酸である、請求項1に記載の着色アルミニウム顔料。
【請求項3】
前記カーボンブラックは、分子中に2個のアミノ基を有しカルボキシル基を有さないアミノ化合物、および/または一塩基性芳香族カルボン酸で被覆されている、請求項1または2に記載の着色アルミニウム顔料。
【請求項4】
前記カーボンブラック層は、その表面が樹脂層で被覆されている、請求項1〜3のいずれかに記載の着色アルミニウム顔料。
【請求項5】
請求項1に記載の着色アルミニウム顔料を配合してなる自動車塗装用塗料組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−74141(P2011−74141A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224906(P2009−224906)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】