説明

着色医療用具の製造方法

【課題】本発明の課題は、フッ素樹脂に含有される顔料の色を維持しつつフッ素樹脂の優れた特性を引き出すことができる着色医療用具の製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明に係る着色医療用具の製造方法は、着色医療用具基体製造工程および赤外線照射工程を備える。着色医療用具基体製造工程では、医療用具基体の外面に、着色フッ素樹脂含有液またはフッ素樹脂の粉体が塗装されて着色医療用具基体が製造される。赤外線照射工程では、着色医療用具基体に所定波長の赤外線が所定時間、照射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色医療用具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去に「治療現場において医師などが外観だけで適切な医療用ガイドワイヤーを識別できるように、医療用ガイドワイヤーの最外層用のフッ素樹脂に顔料を含有させる」ということが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、通常、フッ素樹脂は融点以上の温度(通常、350〜400℃)で焼成されて初めてその優れた特性を発揮する。このため、フッ素樹脂が被覆される医療用ガイドワイヤー(以下、フッ素樹脂被覆医療用ガイドワイヤーという)は、最終的に、融点以上の温度に昇温された空気循環式のオーブン等の中で1分程度、焼成処理されていた(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−250905号公報
【特許文献2】特開2004−130123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような方法でフッ素樹脂被覆医療用ガイドワイヤーを焼成すると、フッ素樹脂に含有される顔料の色があせてしまい狙い通りの色とすることができないという問題があった。
【0005】
本発明の課題は、フッ素樹脂に含有される着色物質の色を維持しつつフッ素樹脂の優れた特性を引き出すことができる医療用具の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る着色医療用具の製造方法は、着色医療用具基体製造工程および赤外線照射工程を備える。なお、ここにいう「医療用具」とは、ガイドワイヤーやカテーテル等である。着色医療用具基体製造工程では、医療用具基体の外面に、着色フッ素樹脂含有液、または着色物質を含むフッ素樹脂の粉体が塗装されて着色医療用具基体が製造される。なお、ここにいう「着色フッ素樹脂含有液」とは、フッ素樹脂および着色物質を含む液である。また、ここにいう「着色物質」とは、顔料や染料などである。赤外線照射工程では、着色医療用具基体に所定波長の赤外線が所定時間、照射される。なお、ここにいう「所定波長」は0.9〜5.6μm(マイクロメートル)の波長であることが好ましい。また、ここにいう「所定時間」は3〜20秒であることが好ましい。さらに好ましくは5〜10秒である。
【0007】
また、本発明に係るフッ素樹脂被覆着色医療用具の製造方法は、着色医療用具基体製造工程、フッ素樹脂被覆着色医療用具基体製造工程、および赤外線照射工程を備える。着色医療用具基体製造工程では、医療用具基体の外面に着色フッ素樹脂含有プライマー液が塗装されて着色医療用具基体が製造される。なお、ここにいう「着色フッ素樹脂含有プライマー液」とは、フッ素樹脂および着色物質を含むプライマー液である。フッ素樹脂被覆着色医療用具基体製造工程では、着色医療用具基体の外面に、フッ素樹脂含有液、または着色物質を含まないフッ素樹脂の粉体が塗装されてフッ素樹脂被覆着色医療用具基体が製造される。なお、ここにいう「フッ素樹脂含有液」とは、フッ素樹脂を含み着色物質を含まない液である。赤外線照射工程では、フッ素樹脂被覆着色医療用具基体に所定波長の赤外線が所定時間照射される。本発明に係るフッ素樹脂被覆着色医療用具の製造方法を利用すれば、着色物質の色を維持しつつフッ素樹脂を十分に焼成でき、且つ、着色医療用具の摺動性を高く維持することができる。
【0008】
また、本発明に係る着色医療用具の製造方法は、第1着色医療用具基体製造工程、第2着色医療用具基体製造工程、および赤外線照射工程を備える。第1着色医療用具基体製造工程では、医療用具基体の外面に着色フッ素樹脂含有プライマー液が塗装されて第1着色医療用具基体が製造される。なお、ここにいう「着色フッ素樹脂含有プライマー液」とは、フッ素樹脂および着色物質を含むプライマー液である。第2着色医療用具基体製造工程では、第1着色医療用具基体の外面に、着色フッ素樹脂含有液、または着色物質を含むフッ素樹脂の粉体が塗装されて第2着色医療用具基体が製造される。なお、ここにいう「着色フッ素樹脂含有液」とは、フッ素樹脂および着色物質を含む液である。赤外線照射工程では、第2着色医療用具基体に所定波長の赤外線が所定時間照射される。本発明に係る着色医療用具の製造方法を利用すれば、着色物質の色を維持しつつフッ素樹脂を十分に焼成でき、且つ、目的の色を出しやすくすることができる。
【0009】
上記の製造方法が着色物質の色の鮮度を維持する理由を下記に考察する。
【0010】
フッ素樹脂焼成用に熱風循環式オーブン(恒温槽)が採用されると、医療用具基体の外面に被覆されたフッ素樹脂は、表面に熱風が接触することによって熱エネルギーを与えられ、融点以上に加熱されたときに溶融し、焼成されるものと推察される。このため、フッ素樹脂の表面がフッ素樹脂の融点以上になるためには比較的長い時間がかかり、その間に熱エネルギーが着色物質に十分に伝達されることになると考えられる。したがって、熱風循環式オーブンによってフッ素樹脂を焼成すると、フッ素樹脂に含有される着色物質を熱エネルギーから守ることは難しくなると考えられる。
【0011】
一方、光エネルギーまたは電磁波エネルギーによる加熱では、空気などのエネルギー媒体を必要とせず、光または電磁波の照射により直接的に物質が加熱される。例えば、近赤外線を使用した場合、400℃程度までであれば、わずか1〜3秒で表面近傍のフッ素樹脂を加熱することができる。また、中赤外線域の赤外線を照射できる赤外線ヒータの代表格である石英ヒータは、それ自身が加熱し、周りの雰囲気温度もある程度向上させることができる。つまり、石英ヒータを使用すれば、雰囲気温度を着色物質の耐熱温度以下である200℃から300℃付近に調節することができるとともに、雰囲気温度下で1.5μm〜2.0μm近辺の中赤外線が照射されることになる。このため、石英ヒータを使用すれば、短時間で表面付近のフッ素樹脂をフッ素樹脂の融点にまで到達させることができ、短時間で焼成処理を完了することができる。したがって、着色物質の色にほとんど影響を及ぼすことなくフッ素樹脂を焼成できるものと考えられる。
【0012】
なお、ここで、着色医療用具基体が超弾性合金ワイヤー、または合成樹脂(フッ素樹脂単体を除く)が被覆されている超弾性合金ワイヤーである場合、本発明に係る製造方法を利用すると、超弾性合金ワイヤーの弾性率を維持することができる。ここで、本発明に係る製造方法が超弾性合金ワイヤーの弾性率を維持する理由を下記に考察する。
【0013】
フッ素樹脂焼成用に熱風循環式オーブン(恒温槽)が採用されると、超弾性合金ワイヤーの外周に被覆されたフッ素樹脂は、表面に熱風が接触することによって熱エネルギーを与えられ、融点以上に加熱されたときに溶融し、焼成されるものと推察される。このため、フッ素樹脂の表面がフッ素樹脂の融点以上になるためには比較的長い時間がかかり、その間に熱エネルギーが内部にまで伝達されることになると考えられる。したがって、熱風循環式オーブンによってフッ素樹脂を焼成すると、内部の超弾性合金ワイヤーを熱エネルギーから守ることは難しくなると考えられる。
【0014】
一方、光エネルギーまたは電磁波エネルギーによる加熱では、空気などのエネルギー媒体を必要とせず、光または電磁波の照射により直接的に物質が加熱される。例えば、近赤外線を使用した場合、400℃程度までであれば、わずか1〜3秒での表面近傍のフッ素樹脂を加熱することができる。また、中赤外線域の赤外線を照射できる赤外線ヒータの代表格である石英ヒータは、それ自身が加熱し、周りの雰囲気温度もある程度向上させることができる。つまり、石英ヒータを使用すれば、雰囲気温度を超弾性合金ワイヤーの耐熱温度以下である200℃から300℃付近に調節することができるとともに、雰囲気温度下で中赤外線が照射されることになる。このため、石英ヒータを使用すれば、超弾性合金ワイヤーの超弾性にほとんど影響を及ぼすことなく、短時間で表面付近のフッ素樹脂をフッ素樹脂の融点にまで到達させることができるものと考えられる。
【発明の効果】
【0015】
本願発明者は、実験および検討を鋭意繰り返した結果、フッ素樹脂被覆ワイヤーに0.9〜5.6μmの波長の赤外線を3〜20秒照射することによって、着色物質の色を維持しつつフッ素樹脂を十分に焼成できることを見出した。したがって、本発明に係る着色医療用具の製造方法を採用すれば、着色物質の色をあせさせることなくフッ素樹脂の優れた特性を引き出すことができる。また、本発明に係る着色医療用具の製造方法では、従来の方法に比べて焼成時間が大幅に短縮されている。したがって、本発明に係る着色医療用具の製造方法を採用すれば、着色物質を含むフッ素樹脂が被覆される医療用ワイヤーの製造コストを大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
〔本発明の実施の形態に係るワイヤーの製造方法の概要〕
本発明の実施の形態に係るワイヤーの製造方法は、主に、プライマー塗装工程、着色フッ素樹脂塗装工程、および着色フッ素樹脂焼成工程から構成される。また、このワイヤーの製造方法では、原材料として、主に、超弾性合金ワイヤー、プライマー、フッ素樹脂、および着色物質が必要とされる。
【0017】
以下、本製造方法を実施するのに必要な原材料について述べた後に、本製造方法の各工程について詳述する。
【0018】
〔原材料〕
(1)超弾性合金製ワイヤー
本発明の実施の形態に用いられる超弾性合金製ワイヤーとしては、ストレート形状のもの又は先端先細りのテーパ形状のものが好適である。超弾性合金としては、例えば、Ni-Ti(Ni:49-51 atomic%, Ni-Tiに第3元素を添加したものも含む), Cu-Al-Zn(Al:3-8 atomic%,Zn:15-28 atomic%), Fe-Mn-Si(Mn:30 atomic%,Si:5 atomic%), Cu-Al-Ni(Ni:3-5 atomic%,Al:28-29 atomic%), Ni-Al(Al:36-38 atomic%), Mn-Cu(Cu:5-35 atomic%), Au-Cd(Cd:46-50 atomic%)などが挙げられる。なお、この超弾性合金は、形状記憶合金としても知られている。本発明には、Ni-Ti合金が好適である。超弾性合金製ワイヤーの太さは、組み合わせて使用されるカテーテルの内径および用途に適した柔軟性を考慮して選定されることが好ましい。具体的には、約0.3〜約1mm程度の直径の超弾性合金製ワイヤーがよく利用される。
なお、本実施の形態では、超弾性合金製ワイヤーとして、超弾性合金製ワイヤーに合成樹脂が被覆されているもの(以下、合成樹脂被覆超弾性合金ワイヤーという)を採用してもよい。なお、合成樹脂としては、ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルアミド樹脂、ポリイミド樹脂、シリコンゴム、ポリウレタン樹脂およびこれらのブレンド物などの一般的な合成樹脂が挙げられる。
(2)プライマー
プライマーは、本実施の形態では、超弾性合金製ワイヤーに対する接着性に優れる樹脂あるいはその樹脂の前駆体の溶液であってフッ素樹脂を含有しているものである。超弾性合金製ワイヤーに対する接着性に優れる樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、またはこれらのブレンド物などが挙げられる。フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリ弗化ビニリデン(PVDF)、ポリ弗化ビニル(PVF)、もしくはテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(PETFE)、またはこれらのブレンド物が挙げられる。
(3)フッ素樹脂
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリ弗化ビニリデン(PVDF)、ポリ弗化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(PETFE)より成る群から選択される少なくとも1つのフッ素樹脂であることが好ましい。フッ素樹脂は、化学的に安定で不活性であり、体内に挿入しても血液と接触しても安全だからである。
なお、本実施の形態に係る医療用ワイヤーの製造方法では、ディスパージョン液や粉体の形態で利用することができる。
(4)顔料
顔料としては、亜鉛華(ジンクホワイト),鉛白(シルバーホワイト),リトポン(酸化亜鉛と硫化亜鉛との混合顔料),二酸化チタン(チタニウムホワイト),,及びセラミックホワイトなどの無機白色顔料や、沈降性硫酸バリウム及びバライト粉などの無機体質顔料、鉛丹,弁柄(レッドアイアンオキサイド,酸化鉄赤),カドミウムレッド、バーミリオンなどの無機赤色顔料、カドミウムオレンジ及びクロムバーミリオンなどの無機橙色顔料、黄鉛(クロムイエロー),亜鉛黄(ジンククロメート,ジンクイエロー),カドミウムイエロー,イエローオーカー,ニッケルチタンイエロー,及びビスマスバナジウムイエローなどの無機黄色顔料、シエナ土,アンバー土,及びバンダイクブラウンなどの無機茶色顔料、群青(ウルトラマリン),紺青(プルシアンブルー),コバルトブルー,セルリアンブルー,及びマンガニーズブルーなどの無機青色顔料、ビリジャン,クロムオキサイドグリーン,及びコバルトグリーンなどの無機緑色顔料、コバルトバイオレット及びマンガニーズバイオレットなどの無機紫色顔料、アイボリーブラック,ピーチブラック,ランプブラック,マルスブラック,複合酸化物ブラック,及びカーボンブラックなどの無機黒色顔料、アリザリンレッド,キナクリドンレッド,ナフトールレッド,モノアゾレッド,及びポリアゾレッドなどの有機赤色顔料、ベンズイミダゾロンオレンジなどの有機橙色顔料、モノアゾイエロー,ジスアゾイエロー,ポリアゾイエロー,ベンズイミダゾロンイエロー,及びイソインドリノンイエローなどの有機黄色顔料、ベンズイミダゾロンブラウン及びセピアなどの有機茶色顔料、フタロシアニンブルーなどの有機青色顔料、フタロシアニングリーンなどの有機緑色顔料、ジオキサジンバイオレット及びキナクリドンバイオレット等の有機紫色顔料、アニリンブラックなどの有機黒色顔料より成る群から選択される少なくとも1つの顔料であることが好ましい。
【0019】
〔各製造工程〕
(1)プライマー塗装工程
プライマー塗装工程では、超弾性合金製ワイヤーあるいは合成樹脂被覆超弾性合金ワイヤーの外周にプライマーが塗装される(以下、このワイヤーをプライマー被覆ワイヤーという)。なお、プライマーが超弾性合金製ワイヤーあるいは合成樹脂被覆超弾性合金ワイヤーに塗装される場合、プライマー液の粘度を調節した上で、超弾性合金ワイヤーを浸漬した後、超弾性合金ワイヤーをプライマー液から一定速度で引き上げれば、プライマーの厚みをコントロールすることができる。なお、このときのプライマーの厚みは、1〜10μmの範囲であることが好ましい。より好ましくは2〜5μmの範囲である。また、プライマー液に、金属やセラミックスなどの無機粉末物やフッ素樹脂粉末が添加されていてもかまわない。このようにすれば、後述するフッ素樹脂被覆ワイヤーのフッ素樹脂層表面に微細な突起を形成することができ、カテーテルの内壁との摩擦抵抗をさらに小さくすることができる。さらに、顔料を含んだプライマー液である顔料含有プライマーを使用してもかまわない。プライマー液に顔料を含有させることで後述するフッ素樹脂に顔料を含有させる必要がなくなる。また、プライマー液塗装工程およびフッ素樹脂塗装工程において顔料含有プライマー液および顔料含有フッ素樹脂を使用すると顔料を含む層の厚みが厚くなり、下地を隠し、鮮やかな色が出しやすい。
(2)着色フッ素樹脂塗装工程
着色フッ素樹脂塗装工程では、顔料含有フッ素樹脂ディスパージョンや、顔料含有フッ素樹脂含有エナメル溶液、顔料含有フッ素樹脂粉体などが、プライマー被覆ワイヤーに塗装される。なお、顔料含有フッ素樹脂ディスパージョン液や顔料含有フッ素樹脂含有エナメルがプライマー被覆ワイヤーに塗装される場合、顔料含有フッ素樹脂ディスパージョン液や顔料含有フッ素樹脂含有エナメル溶液の粘度を調節した上で、プライマー被覆ワイヤーを浸漬した後、プライマー被覆ワイヤーを顔料含有フッ素樹脂ディスパージョン液や顔料含有フッ素樹脂含有エナメル溶液から一定速度で引き上げれば、顔料含有フッ素樹脂の厚みをコントロールすることができる。そして、その後、プライマー被覆ワイヤー上の顔料含有フッ素樹脂ディスパージョン液や顔料含有フッ素樹脂含有エナメル溶液が乾燥させられて、プライマー被覆ワイヤー上に顔料含有フッ素樹脂層が形成される(以下、このワイヤーを顔料含有フッ素樹脂被覆ワイヤーという)。また、前述のプライマー塗装工程で顔料含有プライマーを塗布した場合には、必ずしもフッ素樹脂に顔料を含む必要はない。また、プライマー液塗装工程およびフッ素樹脂塗装工程において顔料含有プライマー液および顔料含有フッ素樹脂を使用すると顔料を含む層の厚みが厚くなり、下地を隠し、鮮やかな色が出しやすい。また、顔料含有フッ素樹脂粉体がプライマー被覆ワイヤーに粉体塗装される場合、フッ素樹脂粉体の粒子径を適切に選択すれば、フッ素樹脂の厚みをコントロールすることができる。なお、このときの顔料含有フッ素樹脂層の厚みは、1〜50μmの範囲であって、合成樹脂の厚みより薄いことが好ましい。顔料含有フッ素樹脂層の厚みが50μmを超えると、フッ素樹脂の持つ剛性がワイヤーの柔軟性に影響を及ぼすことになり、また、厚みが1μm以下では十分なすべり特性や耐久性が得られないからである。また、5〜30μmの厚みで被覆することがより好ましい。また、5〜20μmの厚みで被覆することがさらに好ましい。また、顔料含有フッ素樹脂ディスパージョンや顔料含有フッ素樹脂含有エナメル溶液に、金属やセラミックスなどの無機粉末物やフッ素樹脂粉末が添加されていてもかまわない。このようにすれば、フッ素樹脂層表面に微細な突起を形成することができ、カテーテルの内壁との摩擦抵抗をさらに小さくすることができる。また、本発明では、本発明の趣旨から外れない範囲で染料を利用することも可能である。
(3)着色フッ素樹脂焼成工程
着色フッ素樹脂焼成工程では、石英ヒータから成るトンネル炉に顔料含有フッ素樹脂被覆ワイヤーが通されて、顔料含有フッ素樹脂被覆ワイヤーの最外層を構成する顔料含有フッ素樹脂が加熱焼成される。なお、この際、石英ヒータとして赤外線のピーク波長が1.5〜5.6μm(中赤外線領域)であるものを採用するのが好ましい。また、赤外線のピーク波長が0.9〜1.6(近赤外線領域)であるものを採用するのがより好ましい。
なお、上記、プライマー塗装工程、着色フッ素樹脂塗装工程、および着色フッ素樹脂焼成工程は、連続的に行われるのが好ましいが、バッチ式で行われてもかまわない。
なお、上記では、本発明に係る製造方法を利用してガイドワイヤーを製造したが、本発明に係る製造方法を利用してカテーテルや他の医療用具を製造してもよい。かかる場合、同様の効果を得ることができる。
【0020】
〔実施例〕
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0021】
直径0.35mmのNi−Ti(Ni:49−51atomic%)超弾性合金ワイヤーを、23℃における粘度を110cP(センチポイズ)に調節したフッ素樹脂プライマー液(固形分濃度:35重量%)(855−300:デュポン社製商品名)に浸漬した後、一定速度で引き上げ、150℃で乾燥させた。この結果、Ni−Ti超弾性合金ワイヤー上に約1μm厚みのフッ素樹脂プライマー層が形成された(以下、このワイヤーをプライマー被覆ワイヤーという)。次に、プライマー被覆ワイヤーを、亜鉛黄顔料を含むPTFEディスパージョン液(固形分濃度:50重量%)(855−510:デュポン社製商品名)に浸漬した後、一定速度で引き上げ、自然乾燥させた。この結果、プライマー被覆ワイヤー上に約5μm厚みの黄色PTFE樹脂層が形成された(以下、このワイヤーを黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーという)。続いて、黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーを、熱電対測定温度で350℃の石英ヒータ(ピーク波長は3μm)から成るトンネル炉の中に10秒間通過させて黄色PTFE樹脂を焼成した(以下、このワイヤーを焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーという)。得られた焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーの色を確認したところ、変色は確認されなかった。また、得られた焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーから黄色PTFE樹脂層およびフッ素樹脂プライマー層を取り除いてNi−Ti超弾性合金ワイヤーの表面を観察したところ、Ni−Ti超弾性合金ワイヤーに変色は見られなかった。また、焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーを直径10mmのパイプに巻き付けた後、手を離すと、曲癖がつくことなく元の状態に戻った。この事実からNi−Ti超弾性合金ワイヤーの超弾性が維持されていることがわかった。
【実施例2】
【0022】
実施例1におけるPTFEディスパージョン液をPFAディスパージョン液に代え、実施例1と同様の条件下で焼成黄色PFA樹脂被覆ワイヤーを作製した。得られた焼成黄色PFA樹脂被覆ワイヤーの色を確認したところ、変色は確認されなかった。また、得られた焼成黄色PFA樹脂被覆ワイヤーからPFA樹脂層およびフッ素樹脂プライマー層を取り除いてNi−Ti超弾性合金ワイヤーの表面を観察したところ、Ni−Ti超弾性合金ワイヤーに変色は見られなかった。また、焼成PFA樹脂被覆ワイヤーを直径10mmのパイプに巻き付けた後、手を離すと、曲癖がつくことなく元の状態に戻った。この事実からNi−Ti超弾性合金ワイヤーの超弾性が維持されていることがわかった。
【実施例3】
【0023】
直径0.35mmのNi−Ti(Ni:49−51atomic%)超弾性合金ワイヤーを、23℃における粘度を110cPに調節したフッ素樹脂プライマー液(固形分濃度:35重量%)(855−300:デュポン社製商品名)に浸漬した後、一定速度で引き上げ(以下、このワイヤーをプライマー被覆ワイヤーという)、プライマー被覆ワイヤー上のフッ素樹脂プライマー液が乾燥しきらないうちに、プライマー被覆ワイヤーに、亜鉛黄顔料を含むPTFE粉末(L150J(平均粒子径:約9μm):旭硝子社製商品名)を粉体塗装し、自然乾燥させた(以下、このワイヤーを黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーという)。続いて、黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーを、熱電対測定温度で350℃の石英ヒータ(ピーク波長は1μm)から成るトンネル炉の中に10秒間通過させて黄色PTFE樹脂を焼成した(以下、このワイヤーを焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーという)。得られた焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーの色を確認したところ、変色は確認されなかった。また、得られた焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーから黄色PTFE樹脂層およびフッ素樹脂プライマー層を取り除いてNi−Ti超弾性合金ワイヤーの表面を観察したところ、Ni−Ti超弾性合金ワイヤーに変色は見られなかった。また、焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーを直径10mmのパイプに巻き付けた後、手を離すと、曲癖がつくことなく元の状態に戻った。この事実からNi−Ti超弾性合金ワイヤーの超弾性が維持されていることがわかった。
【実施例4】
【0024】
PTFEディスパージョン(AD912、旭硝子社製商品名)に、ポリアミドイミドワニス(商品名:HPC−1000,日立化成工業株式会社製)が20wt%に、亜鉛黄色顔料が30wt%になるようにポリアミドイミドワニス及び亜鉛黄色顔料を加え、これを顔料含有プライマー液とした。そして、実施例1におけるプライマー液を顔料含有プライマー液に代え、実施例1と同様の条件でプライマー被覆ワイヤーを作製した。次に実施例1における亜鉛黄色顔料を含むPTFEディスパージョン液をPTFEディスパージョン(AD912、旭硝子社製商品名)に代え、実施例1と同様の条件でPTFE樹脂を被覆、焼成した。得られた焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーの色を確認したところ、変色は確認されなかった。また、得られた焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーからPTFE樹脂層および黄色フッ素樹脂プライマー層を取り除いてNi−Ti超弾性合金ワイヤーの表面を観察したところ、Ni−Ti超弾性合金ワイヤーに変色は見られなかった。また、焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーを直径10mmのパイプに巻きつけた後、手を離すと、曲癖がつくことなく元の状態に戻った。この事実からNi−Ti超弾性合金ワイヤーの超弾性が維持されていることがわかった。
【実施例5】
【0025】
実施例4におけるPTFEディスパージョンを亜鉛黄色顔料を含むPTFEディスパージョン液に代えた以外は実施例4と同様の条件でPTFE樹脂を被覆して焼成した。得られた焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーの色を確認したところ、変色は確認されなかった。また、得られた焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーから黄色PTFE樹脂層および黄色フッ素樹脂プライマー層を取り除いてNi−Ti超弾性合金ワイヤーの表面を観察したところ、Ni−Ti超弾性合金ワイヤーに変色は見られなかった。また、焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーを直径10mmのパイプに巻きつけた後、手を離すと、曲癖がつくことなく元の状態に戻った。この事実からNi−Ti超弾性合金ワイヤーの超弾性が維持されていることがわかった。
(比較例1)
実施例1におけるトンネル炉を雰囲気温度で390℃の熱風循環式のオーブンに代え、黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーを30分間焼成した。得られた焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーの色を確認したところ、若干の変色が確認された。また、得られた焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーから黄色PTFE樹脂層およびフッ素樹脂プライマー層を取り除いてNi−Ti超弾性合金ワイヤーの表面を観察したところ、Ni−Ti超弾性合金ワイヤーは金色に変色しており酸化されているのが窺えた。また、焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーを直径10mmのパイプに巻き付けた後、手を離すと、曲癖がつき元の状態に戻らなかった。この事実からNi−Ti超弾性合金ワイヤーの超弾性が損なわれていることがわかった。
(比較例2)
実施例1におけるPTFEディスパージョン液をFEPディスパージョン液に代え、さらにトンネル炉を雰囲気温度で350℃の熱風循環式のオーブンに代え、黄色FEP樹脂被覆ワイヤーを30分間焼成した。得られた焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーの色を確認したところ、若干の変色が確認された。また、得られた焼成黄色FEP樹脂被覆ワイヤーから黄色FEP樹脂層およびフッ素樹脂プライマー層を取り除いてNi−Ti超弾性合金ワイヤーの表面を観察したところ、Ni−Ti超弾性合金ワイヤーは金色に変色しており酸化されているのが窺えた。また、焼成黄色PTFE樹脂被覆ワイヤーを直径10mmのパイプに巻き付けた後、手を離すと、曲癖がつき元の状態に戻らなかった。この事実からNi−Ti超弾性合金ワイヤーの超弾性が損なわれていることがわかった。
(参考例1)
直径0.35mmのNi−Ti(Ni:49−51atomic%)超弾性合金ワイヤーを、熱電対測定温度で350℃の石英ヒータ(ピーク波長は3μm)から成るトンネル炉の中に10秒間通過させた。トンネル炉通過後のNi−Ti超弾性合金ワイヤーの表面を観察したところ、変色は見られなかった。
(参考例2)
直径0.35mmのNi−Ti(Ni:49−51atomic%)超弾性合金ワイヤーを、雰囲気温度で350℃の熱風循環式のオーブンの中に30分間放置した。オーブンから取り出されたNi−Ti超弾性合金ワイヤーは金色に変色しており酸化されているのが窺えた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係る着色医療用具の製造方法は、着色物質の色をあせさせることなくフッ素樹脂の優れた特性を引き出すことができるという特徴を有しており、最外層用の材料にフッ素樹脂が用いられる医療用具を着色するのに非常に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用具基体の外面に、フッ素樹脂および着色物質を含む液である着色フッ素樹脂含有液、または前記着色物質を含むフッ素樹脂の粉体を塗装して着色医療用具基体を製造する着色医療用具基体製造工程と、
前記着色医療用具基体に所定波長の赤外線を所定時間照射する赤外線照射工程と、
を備える、着色医療用具の製造方法。
【請求項2】
前記医療用具基体は、超弾性合金ワイヤー、または合成樹脂(フッ素樹脂単体を除く)が被覆されている超弾性合金ワイヤーである、
請求項1に記載の着色医療用具の製造方法。
【請求項3】
医療用具基体の外面に、フッ素樹脂および着色物質を含むプライマー液である着色フッ素樹脂含有プライマー液を塗装して着色医療用具基体を製造する着色医療用具基体製造工程と、
前記着色医療用具基体の外面に、フッ素樹脂を含み着色物質を含まない液であるフッ素樹脂含有液、または前記着色物質を含まないフッ素樹脂の粉体を塗装してフッ素樹脂被覆着色医療用具基体を製造するフッ素樹脂被覆着色医療用具基体製造工程と、
前記フッ素樹脂被覆着色医療用具基体に所定波長の赤外線を所定時間照射する赤外線照射工程と、
を備える、フッ素樹脂被覆着色医療用具の製造方法。
【請求項4】
医療用具基体の外面に、フッ素樹脂および着色物質を含むプライマー液である着色フッ素樹脂含有プライマー液を塗装して第1着色医療用具基体を製造する第1着色医療用具基体製造工程と、
前記第1着色医療用具基体の外面に、フッ素樹脂および着色物質を含む液である着色フッ素樹脂含有液、または前記着色物質を含むフッ素樹脂の粉体を塗装して第2着色医療用具基体を製造する第2着色医療用具基体製造工程と、
前記第2着色医療用具基体に所定波長の赤外線を所定時間照射する赤外線照射工程と、
を備える、着色医療用具の製造方法。

【公開番号】特開2008−86575(P2008−86575A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271227(P2006−271227)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】