説明

着色濃度測定装置、着色濃度測定方法および着色濃度測定プログラム

【課題】容易に光源反射の影響を低減し、正確な測定値を得ることができる着色濃度測定装置、着色濃度測定方法および着色濃度測定プログラムを提供する。
【解決手段】イムノクロマト法により試薬を滴下したバイオセンサーの撮影データを用いる着色濃度測定装置100であって、撮影データの輝度値についてコントロールラインおよびテストラインを除く対象範囲を区分した領域ごとに代表点を抽出する代表点抽出部130と、領域ごとの代表点の輝度値から関数形およびその初期パラメタを決定する関数決定部140と、決定された関数形およびその初期パラメタから開始して対象範囲の輝度値の分布にフィッティングするフィッティング部150と、フィッティングされた関数で、テストラインの輝度値を補正して、光源反射の影響を低減した着色濃度を算出する着色濃度算出部160とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマト法により試薬を滴下したバイオセンサーの撮影データを用いる着色濃度測定装置、着色濃度測定方法および着色濃度測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体情報を簡易に読み取るキットとして、イムノクロマト法を応用したバイオセンサーが市場に数多く流通している。非特許文献1に記載されるように、イムノクロマト法では、測定したい生体情報を抗体として持つ試薬をメンブレン状のキットの端(サンプルパッド)にたらし、毛細管現象で上昇する試薬中の抗体に金あるいは白金等のコロイド粒子を付着させる。そして、テストラインと呼ばれるライン上で抗体に選択的に反応する抗原を配置して、コロイド粒子ごと抗体をとらえることで、その着色濃度によって、試薬の濃度を推定する。一方、抗原によりとらわれなかったコロイド粒子を含む試薬はテストラインを通過し、コントロールライン上でコロイド粒子が捉えられ着色する。
【0003】
従来、ラインスキャン測定によりバイオセンサーの着色濃度から試薬濃度を推定している。ラインスキャン測定は、測定位置に対する光源と受光素子の角度を45度に固定し、一定時間をかけて試料をスライドさせて輝度を読み取ることで、コントロールラインとテストラインの着色濃度を読み取り、濃度を推定する手法である。
【0004】
一方、光源の影響を考慮した画像補正の技術が開発されている。たとえば、特許文献1記載のシステムは、基準周辺照明レベルに基づいて、第1レチナールモデルを用いて基準レチナール応答を決定し、ディスプレイ付近における実際の周辺証明レベルに基づいて、第2レチナールモデルを用いて実際のレチナール応答を決定し、これらの応答に基づいて画像補正値を決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−265678号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】難波靖治、“イムノクロマト技術の現状と将来性”、[online]、2005年12月27日、12月度ナノテクビジネスマッチングフォーラム、[2011年10月11日検索]、(URL:http://www.nbci.jp/file/051227-4.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような従来のイムノクロマト法による測定においては、専用のイムノクロマトリーダーを用いる必要があり、このような専用機器では、光源等の環境条件が一定に保たれるボックスの中での撮影が行われるため、そのサイズが大きくなってしまう。そのため、個人で専用機器を準備して読み取りを行なうのは、負担が大きい。
【0008】
このような専用機器を用いずに例えば携帯電話のカメラのような汎用撮影機器を用いて色濃度を測定する場合においては、撮影環境のバラつきの平滑化が重要であり、代表的なものに光源の位置の違いによる全体輝度分布のバラつきがある。光源による輝度分布の関数モデルとしては、ランバートの反射モデルがあるが、通常の手法では、初期値の推定のためにいくつかの初期値をそれぞれ数式に当てはめて残差を計算する必要がある。特にモデルとして規定する関数に変数制約がなく、当てはめるデータが局在して存在する場合、多大な時間がかかり、有限時間では局所最適解に収束してしまい、大域的な最適解または大域的最適解に近い局所最適解にはフィットしない。
【0009】
また、一般的に用いられる光源補正として、テクスチャなどの形状からパラメタを割り出す手法も存在するが、そもそも撮影対象のサイズが光源の分布関数に対して、十分小さい場合には、モデルに基づく関数の誤った箇所でフィットを行なう可能性がある。その場合には、結局、負担が増大し、計算に多大な時間を要することなる。このような事態は、たとえば特許文献1記載のフィッティングであっても同様に生じる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、容易に光源反射の影響を低減し、正確な測定値を得ることができる着色濃度測定装置、着色濃度測定方法および着色濃度測定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の着色濃度測定装置は、イムノクロマト法により試薬を滴下したバイオセンサーの撮影データを用いる着色濃度測定装置であって、撮影データの輝度値についてコントロールラインおよびテストラインを除く対象範囲を区分した領域ごとに代表点を抽出する代表点抽出部と、前記領域ごとの代表点の輝度値から関数形およびその初期パラメタを決定する関数決定部と、前記決定された関数形およびその初期パラメタから開始して前記対象範囲の輝度値の分布にフィッティングするフィッティング部と、前記フィッティングされた関数で、前記テストラインの輝度値を補正して、光源反射の影響を低減した着色濃度を算出する着色濃度算出部と、を備えることを特徴としている。
【0012】
このように、本発明の着色濃度測定装置は、区分した領域ごとに代表値を抽出し、これをもとにフィッティングのための初期の関数を決定するため、正確さを維持しつつフィッティングの計算負担を軽減できる。その結果、容易に光源反射の影響を低減し、着色濃度測定値として正確な着色濃度を測定できる。たとえば、個人が所有する携帯電話機にこれを搭載すれば、そのカメラを用いて撮影したデータについて、簡易に色濃度の測定を行ない、濃度推定を行なうことができる。
【0013】
(2)また、本発明の着色濃度測定装置は、前記代表点抽出部は、前記対象範囲を3以上5以下の領域に区分し、前記関数決定部は、前記区分された領域と前記抽出された代表点の輝度値との関係に当てはまるパターンから関数形を決定することを特徴としている。これにより、最低限の領域に区分することで想定される種類のパターンを区別して対応できる。また、領域の区分数を小さく限定することで計算負担を軽減できる。
【0014】
(3)また、本発明の着色濃度測定装置は、前記関数決定部が、前記対象範囲の輝度値の分布の大きさに対する前記抽出された代表点の輝度値相互の差に基づいて関数形を決定することを特徴としている。これにより、少ない計算量で多数種類のパターンから関数を決定することができる。
【0015】
(4)また、本発明の着色濃度測定装置は、前記代表点抽出部が、バイオセンサーの両端位置に対する前記コントロールラインおよびテストラインの相対位置を特定した情報に基づいて、前記対象範囲を決定することを特徴としている。これにより、テストラインとコントロールラインを除く対象範囲を容易かつ確実に決定することができる。
【0016】
(5)また、本発明の着色濃度測定装置は、前記関数決定部が、ランバート反射に従う光源モデルに基づく関数を決定することを特徴としている。これにより、光源反射による輝度値にフィッティング用いるのに適当な関数を決めることができる。
【0017】
(6)また、本発明の着色濃度測定装置は、前記関数決定部が、前記区分された領域と前記抽出された代表点の輝度値との関係に相当する関数として、指数関数形状、線形形状、放物線形状またはシグモイド形状のパターンに基づいて関数を決定することを特徴としている。これにより、それぞれの光源の位置の影響を正確に反映した関数を選択することができる。
【0018】
(7)また、本発明の着色濃度測定装置は、前記関数決定部が、前記区分された領域と前記抽出された代表点の輝度値との関係に当てはまるパターンが極小値を含む下に凸な放物線形状であると判定したときには、ランバートモデルに従う2点光源モデルまたは反射項を含めた1点光源モデルに基づく関数を決定することを特徴としている。これにより、2点光源モデルまたは反射項を含めた1点光源モデルに当てはまる状態でも、適当な関数を選択でき、十分に対応可能になる。
【0019】
(8)また、本発明の着色濃度測定装置は、バイオセンサー全体のデータの内、1番目と2番目に輝度値の低いデータまたは輝度値の変動の大きい位置およびその周辺のデータを除いたデータを対象範囲とし、前記対象範囲の輝度値の分布にフィッティングした関数の値を元データの輝度値から差し引く一連の動作を事前に有限回繰り返すことを特徴としている。これにより、特異なデータを排除し、より正確なフィッティングができる。その結果、正確に光源反射の影響を低減した着色濃度測定値として着色濃度を測定できる。
【0020】
(9)また、本発明の着色濃度測定装置は、バイオセンサー全体のデータを用いてフィッティングした関数に対して、残差の大きいデータを除いたデータで再度フィッティングして残差の大きいデータを除く一連の動作を事前に有限回繰り返すことを特徴としている。これにより、特異なデータを排除し、より正確なフィッティングができる。その結果、正確に光源反射の影響を低減した着色濃度測定値として着色濃度を測定できる。
【0021】
(10)また、本発明の着色濃度測定装置は、カメラとして設置され、前記バイオセンサーの撮影データを取得する撮影データ取得部を更に備え、カメラ付きの携帯通信端末として構成されたことを特徴としている。これにより、イムノクロマトリーダが無くても、携帯通信端末を用いて撮影データを取得し着色濃度測定を行なうことができる。また、携帯通信端末に計算負担をかけることなく、正確な測定が可能になる。
【0022】
(11)また、本発明の着色濃度測定方法は、イムノクロマト法により試薬を滴下したバイオセンサーの撮影データを用いる着色濃度測定方法であって、撮影データの輝度値についてコントロールラインおよびテストラインを除く対象範囲を区分した領域ごとに代表点を抽出するステップと、前記領域ごとの代表点の輝度値から関数形およびその初期パラメタを決定するステップと、前記決定された関数形およびその初期パラメタから開始して前記対象範囲の輝度値の分布にフィッティングするステップと、前記フィッティングされた関数で、前記テストラインの輝度値を補正して、光源反射の影響を低減したイムノクロマト測定値を算出するステップと、を含むことを特徴としている。これにより、光源反射の影響を低減し、着色濃度測定値として正確な着色濃度を容易に測定できる。
【0023】
(12)また、本発明の着色濃度測定プログラムは、イムノクロマト法により試薬を滴下したバイオセンサーの撮影データを用いる着色濃度測定プログラムであって、撮影データの輝度値についてテストラインおよびコントロールラインを除く対象範囲を区分した領域ごとに代表点を抽出する処理と、前記領域ごとの代表点の輝度値から関数形およびその初期パラメタを決定する処理と、前記決定された関数形およびその初期パラメタから開始して前記対象範囲の輝度値の分布にフィッティングする処理と、前記フィッティングされた関数で、前記テストラインの輝度値を補正して、光源反射の影響を低減したイムノクロマト測定値を算出する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴としている。これにより、光源反射の影響を低減し、着色濃度測定値として正確な着色濃度を容易に測定できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、イムノクロマト法により試薬を滴下したバイオセンサーの撮影データを用いて着色濃度測定を行なうときに、正確さを維持しつつフィッティングの計算負担を軽減できる。その結果、容易に光源反射の影響を低減し、着色濃度測定値として正確な着色濃度を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】バイオセンサーを示す概略平面図である。
【図2】バイオセンサー上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。
【図3】反射表面と各ベクトルを示す模式図である。
【図4】ランバート反射モデルによる光量分布の例を示す図である。
【図5】ニュートン法の原理を模式的に示す図である。
【図6】本発明に係る着色濃度測定装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図7】本発明に係る着色濃度測定装置の動作を示すフローチャートである。
【図8】線形形状を示す図である。
【図9】バイオセンサー上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。
【図10】各領域に対する輝度値の分布のパターンを示す図である。
【図11】バイオセンサー上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。
【図12】各領域に対する輝度値の分布のパターンを示す図である。
【図13】放物線形状を示す図である。
【図14】バイオセンサー上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。
【図15】各領域に対する輝度値の分布のパターンを示す図である。
【図16】裾野のある半放物線形状を示す図である。
【図17】バイオセンサー上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。
【図18】各領域に対する輝度値の分布のパターンを示す図である。
【図19】裾野のない半放物線形状を示す図である。
【図20】バイオセンサー上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。
【図21】各領域に対する輝度値の分布のパターンを示す図である。
【図22】シグモイド形状を示す図である。
【図23】バイオセンサー上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。
【図24】各領域に対する輝度値の分布のパターンを示す図である。
【図25】指数関数形状を示す図である。
【図26】バイオセンサー上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。
【図27】各領域に対する輝度値の分布のパターンを示す図である。
【図28】逆放物線形状を示す図である。
【図29】バイオセンサー上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。
【図30】各領域に対する輝度値の分布のパターンを示す図である。
【図31】実施例として得たバイオセンサー上の位置と輝度値データを示す表である。
【図32】実施例としてフィッティングを行なった例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
(バイオセンサー)
図1は、バイオセンサー10を示す概略平面図である。バイオセンサー10は、メンブレン状のキットとして構成されており、図1に示すように、その領域は、コントロールラインC1およびテストラインT1により3つに区分されている。領域3側のサンプルパッドに滴下された試薬は、領域3、テストラインT1、領域2、コントロールラインC1、領域1の順に浸透する。そして、このような試薬の浸透処理を終えたバイオセンサー10を被写体として撮影し、撮影データから着色濃度を測定することができる。
【0028】
たとえば、血液や尿サンプルから抗原抗体反応を利用して特定部位を着色させる場合に、バイオセンサー10を用い、その輝度値推定により特定生体情報の数値を得ることができる。バイオセンサー10のサイズは通常、数センチ程度であり、テストラインT1やコントロールラインC1の着色部位のサイズは数ミリ程度である。
【0029】
テストラインT1およびコントロールラインC1は、着色部として形成されている。テストラインT1は、生体情報の濃度に応じて、着色濃度が変わり輝度値が変化するラインである。コントロールラインC1は、測定が行なわれた場合、必ず一定の輝度値で着色されるラインである。ただし、このラインの輝度値自体は、全てのバイオセンサーで共通という訳ではなく、バラつきがある。テストラインT1の着色濃度は、その輝度値を読み取ることで推定できる。すなわち、コントロールラインC1で、試薬の付着状況を把握し、十分である場合はテストラインT1の輝度値から濃度推定を行なえばよい。
【0030】
ある関数により輝度値から濃度値を推定できるとすると、輝度値を正しく得ることが重要となる。たとえば光源の位置等によって輝度値全体にバラつきが生じる場合は、その輝度値補正を行なう必要がある。1点光源を仮定した場合、ランバートの反射則から、面の輝度値は、面の正規化法線ベクトルNと面から光源を指す正規化ベクトルLの内積として表される。
【0031】
図2は、バイオセンサー10上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。図5の例は、バイオセンサー10上の位置xに対して、バイオセンサーの解析から得られた輝度値をy軸にプロットしたものである。
【0032】
(ランバート反射モデル)
図3は、反射表面と各ベクトルを示す模式図である。ランバートの反射モデルによれば、観測点において観測されるxの全光量は、以下の数式(1)で表わされる。
【0033】
【数1】

【0034】
ここで、iは光の強さ、kは物体の反射係数、Nは法線ベクトル、Lは物体から光源へ向かうベクトルを示す。Σは光源の数だけ足し合わせることを意味する。数式(1)の第1項は全体のかさ上げ項であり、以降aで表わす。この項は、たとえば、太陽光等の全体に等しく降り注ぐ光量を表わすとイメージすればよい。
【0035】
第2項は光源による光量成分である。この項は、たとえば、近傍に存在する電球等から降り注ぐ光量を表わすとイメージすればよい。また、第3項は鏡面反射成分である。この項は、対象とする物体が鏡面反射する際に有効となり、そうでない場合には0と考えてよい。1点光源の場合、Σによる足し合わせが無いので、これらは、数式(2)のように簡単に表すことができる。
【0036】
【数2】

【0037】
なお、L・Nは内積なので、cosθと等しい。また、bやγは、k・iを適当な変数で置き換えただけの意味しか持たない。このような仮定は、鏡面反射成分がなく、物体が光を全て乱反射するとして、通常物体が特定の角度で鏡面反射しない限り問題ない。すなわち、数式(2)は、数式(3)から数式(4)を導けることを利用して、さらに数式(5)のように表すことができる。
【0038】
【数3】

【0039】
【数4】

【0040】
【数5】

【0041】
なお、aは輝度値のかさ上げのための項、bはかさ上げ値からの輝度の最大値、cはピーク値の位置、dは拡散の項を表わしている。図4は、このようなランバート反射モデルによる光量分布の例を示す図である。図4に示す例では、各パラメタをa=2、b=10、c=1、d=2と設定している。
【0042】
数式(5)のa〜dのパラメタを推定するにあたり、数式(5)は線形への式変形が難しい。このような場合には、ニュートン法等の非線形最小二乗法によりパラメタの推定を行なうのが一般的である。
【0043】
図5は、ニュートン法の原理を模式的に示す図である。図5に示すように、ニュートン法は、仮定した関数形に初期値として適当な値を与え、実数値との差を計算した上で、接線とx軸との交点でxの値を更新し、局所値へ収束させる手法である。なお、変数が複数ある場合はヘッセ行列(2階偏微分行列)を用いる。
【0044】
ニュートン法は、一般的には高々10〜20回の繰り返しで収束するため、高速なアルゴリズムといえる。しかし、バイオセンサー10の撮影データを処理するような状況では上記により仮定した光源分布に対して、バイオセンサーの大きさは極めて小さい。
【0045】
すなわち、切り出し位置によって関数形状が大きく異なる上記のような関数において、ニュートン法の初期値乱数等で決めると、局所最適解での収束が起きてしまう。上記関数例でいえば、バイオセンサー試料が光源直下にある場合、光源分布は放物線形状になるが、これをニュートン法でフィットさせると、幅広い裾野付近に初期値をとってしまい、ほぼ線形のフィットになってしまう。すなわち、完全にランダムな初期値を選ぶ手法では、上記のような関数形状において、放物線形状部分を初期値として取ることは確率0でしか起き得ない。以下に、このような問題を解消し、容易に輝度値のデータから光源反射による影響を低減できる装置の構成を説明する。
【0046】
(着色濃度測定装置の構成)
図6は、着色濃度測定装置100の機能的構成を示すブロック図である。着色濃度測定装置100は、イムノクロマト法により試薬を滴下したバイオセンサー10の撮影データを用いて着色濃度を測定する。図6に示すように、着色濃度測定装置100は、撮影データ取得部110、輝度値計算部120、代表点抽出部130、関数決定部140、フィッティング部150および着色濃度算出部160を備えている。
【0047】
撮影データ取得部110は、バイオセンサー10の撮影データを取得する。撮影データ取得部110は、たとえばカメラであってもよいし、他の端末やサーバからデータの入力を受け付けるポートであってもよい。輝度値計算部120は、取得した撮影データから検出の対象となるバイオセンサー10の領域の輝度値を算出する。
【0048】
代表点抽出部130は、撮影データの輝度値についてコントロールラインC1およびテストラインT1を除く対象範囲を区分した領域ごとに代表点を抽出する。これにより、コントロールラインC1およびテストラインT1とを除く対象範囲を容易かつ確実に決定することができる。
【0049】
代表点抽出部130は、対象範囲を3以上5以下の領域に区分するのが好ましい。これにより、最低限の領域に区分することで想定される種類のパターンを区別して対応できる。また、領域の区分数を小さく限定することで計算負担を軽減できる。特に対象範囲を3つの領域に区分するのが好ましい。これにより、コンロールラインC1とテストラインT1とで区分される領域をそのまま代表点を抽出する領域とすることができる。代表点抽出部130は、バイオセンサー10の両端位置に対するコントロールラインC1およびテストラインT1の相対位置を特定した情報に基づいて、フィッティングの対象となる対象範囲を決定する。なお、バイオセンサー10における各ラインの位置は決まっており、上記の情報は予め保持することができる。
【0050】
関数決定部140は、領域ごとの代表点の輝度値から、関数形およびその初期パラメタを決定する。関数決定部140は、区分された領域と抽出された代表点の輝度値との関係に当てはまるパターンから関数形を決定する。
【0051】
関数決定部140は、パターン照合部141、パターン保持部142および初期値推定部143を備えている。パターン照合部141は、パターン保持部142が保持しているパターンと輝度値の分布を照合する。その際には、対象範囲の輝度値分布の大きさに対する抽出された代表点の輝度値相互の差に基づいて関数形を決定する。これにより、少ない計算量で多数種類のパターンから初期の関数形を決定することができる。
【0052】
一致するパターンが決まったときには、そのパターンに対応する関数形を決定する。また、初期値推定部143は、決定された関数の初期パラメタを決定する。このようにして、正確さを維持しつつフィッティングの計算負担を軽減できる。その結果、容易に光源反射の影響を低減し、着色濃度測定値として正確な着色濃度を測定できる。
【0053】
関数決定部140は、ランバート反射に従う光源モデルに基づく関数を決定する。たとえば、区分された領域と抽出された代表点の輝度値との関係に相当する関数として、指数関数形状、線形形状、放物線形状またはシグモイド形状のパターンに基づいて関数を決定する。各パターンの詳細は後述する。
【0054】
関数決定部140は、特に区分された領域と抽出された代表点の輝度値との関係に当てはまるパターンが極小値を含む下に凸な放物線形状であると判定したときには、特にランバートモデルに従う2点光源モデルまたは反射項を含めた1点光源モデルに基づく関数を決定する。これにより、2点光源モデルまたは反射項を含めた1点光源モデルに当てはまる状態でも、適当な関数を選択でき、十分に対応可能になる。
【0055】
フィッティング部150は、決定された関数形およびその初期パラメタから開始して対象範囲の輝度値の分布にフィッティングする。フィッティング部150は、ニュートン法勾配計算・更新部151および関数形出力部152を備えている。ニュートン法勾配計算・更新部151は、ニュートン法により輝度値データに対して関数をフィッティングする。関数形出力部152は、フィッティングにより得られた関数形を出力する。
【0056】
着色濃度算出部160は、フィッティングされた関数で、テストラインT1の輝度値を補正して、光源反射の影響を低減した着色濃度を算出する。これにより、補正した着色濃度を得ることができ、生体情報を正確に知ることができる。
【0057】
なお、上記の各部の機能により、バイオセンサー全体のデータの内、1番目と2番目に輝度値の低いデータまたは輝度値の変動の大きい位置およびその周辺のデータを除いたデータをフィッティングの対象範囲とし、対象範囲の輝度値の分布にフィッティングした関数の値を元データの輝度値から差し引く一連の動作を事前に有限回繰り返してもよい。また、バイオセンサー全体のデータを用いてフィッティングした関数に対して、残差の大きいデータを除いたデータで再度フィッティングして残差の大きいデータを除く一連の動作を事前に有限回繰り返してもよい。これにより、特異なデータを排除し、より正確なフィッティングができる。その結果、光源反射の影響を低減した着色濃度測定値として正確な着色濃度を容易に測定できる。
【0058】
なお、着色濃度測定装置100は、撮影データ取得部110としてカメラを有するカメラ付きの携帯通信端末として構成されていることが好適である。これにより、イムノクロマトリーダーが無くても、個人が所有するカメラ付き携帯電話機を用いて、簡易に色濃度の測定を行い、濃度推定を行なうことができる。
【0059】
(着色濃度測定方法)
着色濃度測定方法の一例として、以上のように構成された着色濃度測定装置100の動作を説明する。図7は、着色濃度測定装置100の動作を示すフローチャートである。
【0060】
まず、撮影データを取得し(ステップS1)、輝度値を計算する(ステップS2)。次に各領域の代表点を抽出する(ステップS3)。具体的には、バイオセンサー10の着色領域の切り出しを行なう。これは、着色濃度を知るためにも必須である。着色領域のおおまかな位置は分かっているため、その位置周辺の値を取り除けばよい。このようにして着色領域を除いた3つの領域から代表点を抽出し、その輝度値の分布によって、初期値を推定する。すなわち、領域1、領域2および領域3は下記に示すテストラインT1とコントロールラインC1により分割された無着色領域である。
【0061】
たとえば、撮影試料の座標から代表点を抽出できる。すなわち、バイオセンサー10の一端から他端までがx=0〜100であって、着色領域が20〜30、50〜60に分布するものと分かっている場合は、0〜20の領域を領域1、30〜50の領域を領域2、60〜100を領域3とし、その中心付近の座標に存在する点を平均化して代表点とすればよい。
【0062】
次に、代表点の輝度値と予め保持されたパターンとを照合する(ステップS4)。具体的には、代表点の分布からパターンを割り出す。割り出し方式としては、たとえば下記のような方法が考えられる。すなわち、最高輝度の代表点と最低輝度の代表点までのy座標を3分割し、その分布によってパターンを割り出す方法である。このように輝度分布を各パターンに分類する。そして、各パターンに応じた関数形および初期パラメタを決定する。パターンが一致しているか否かを判定し(ステップS5)、一致しないときには、ステップS4に戻る。パターンが一致するときには、そのパターンに対応する関数形を初期の関数とし、さらにその関数形の初期値を推定し、ニュートン法を実行する(ステップS6)。
【0063】
次に、ニュートン法でフィッティングされた関数を出力し(ステップS7)、その関数を用いてテストラインT1の位置の輝度値から関数の分を引いて、着色濃度を算出する(ステップS8)。このようにして、ニュートン法を用いる際の初期値を推定し、大域的最適解への収束確率を高めることができる。以上の着色濃度測定装置100の動作は、プログラムにより実行することができる。また、上記の着色濃度測定方法は、装置によるものだけでなく作業者が行なうことでも可能である。
【0064】
次に、それぞれのパターンの詳細を説明する。輝度値分布は、光源モデルから、各パターンに分類できる。これにより、それぞれの光源の位置の影響を正確に反映した関数を選択することができる。
【0065】
(1.線形形状)
図8は、線形形状を示す図である。線形形状は、撮影される対象範囲が光源から十分に離れている場合の光量分布を近似できる。図9は、バイオセンサー上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。図9のような例では、光源反射の分布モデルは線形形状に近くなるため、線形形状を初期の関数形としてフィッティングを行なうのが適当である。このような分布は、全体の光源反射の分布グラフにおける中心ピークから十分離れた裾野に該当する。
【0066】
図10は、各領域に対する輝度値の分布のパターンを示す図である。パターンとは、所定の領域内の代表点における輝度値の分布を指す。このように抽出した3点の代表点の輝度値がy軸で切り分けた区分に収まっているパターンには、線形形状によるフィッティングが適当である。
【0067】
図11は、バイオセンサー上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。このように、代表点3点のy座標が一定以上の値範囲内に収まる場合も線形形状によるフィッティングが適当である。図12は、各領域に対する輝度値の分布のパターンを示す図である。このパターンの場合には、上記のように線形近似が容易である。
【0068】
一方、線形形状によるフィッティングが適当な場合には、上記の光源モデルに対して、十分大きな値を入れることでフィットすることも可能である。すなわち、数式(5)において、aの初期値として領域3に含まれるはずの最小値を選び、b、c、dとして十分大きな値を選べばよい。このような初期値を選択した上で、ニュートン法を行なえば、フィッティングした関数が線形に収束する可能性が高い。
【0069】
(2.放物線形状)
図13は、放物線形状を示す図である。放物線形状は、撮影される対象範囲が光源直下にある場合の光量分布を近似できる。図14は、バイオセンサー上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。図14のような例では、光源反射の分布モデルは放物線形状に近くなるため、放物線形状を初期の関数形としてフィッティングを行なうのが適当である。このような分布は、ピーク付近の輝度値の分布に該当している。図15は、各領域に対する輝度値の分布のパターンを示す図である。図15に示すパターンでは、領域2の輝度値が高く、領域1および領域3の値が領域2に比較して低い。このパターンの場合には、上記のように放物線近似が容易である。
【0070】
一方、このパターンにおいて数式(5)を用いるとすれば、aとして領域1または領域3に存在する最小値を、bとして領域2の代表点からその最小値を引いた値を、cとして領域2の代表点のx座標を設定する。dについては、領域2の代表点の輝度値の半分の値を持つ点を用いて推定することができる。
【0071】
上記式において、高さがピーク値に比べて半分になる点は以下の数式(6)で与えられる。
【0072】
【数6】

【0073】
この式を解くと、数式(7)が得られる。
【0074】
【数7】

【0075】
このx−cの点は、上記によれば領域2の代表点の半分の値を持つ点によって与えられるから、この点を探して、数式(7)に代入することでdの初期値を得ることができる。また、仮にごく近い光源が複数存在する場合であったとしても、十分に近い場合は光量分布を放物線形状とみなすことができ、上記の方法を適用できる。また、この場合には、ピーク値がほぼ固定であるため、ニュートン法を行なうときにピーク値をパラメタから除いてもよい。
【0076】
(3.裾野のある半放物線形状)
図16は、裾野のある半放物線形状を示す図である。このような半放物線形状は、撮影される対象範囲が光源直下付近または光源から離れている場合の光量分布を近似できる。図17は、バイオセンサー上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。図17のような例では、光源反射の分布モデルは指数関数形状に近くなるため、指数関数形状を初期の関数形としてフィッティングを行なうのが適当である。このような分布は、ピークと裾野付近の輝度値の分布に該当している。
【0077】
図18は、各領域に対する輝度値の分布のパターンを示す図である。図18に示すパターンでは、領域1の輝度値が高く、領域2および領域3の値が領域1の値に比較して低い。領域2と領域3の代表点の輝度値が近いy座標をもっており、下30%区分に含まれる。このパターンの場合には、上記のように指数関数近似が容易である。
【0078】
一方、このパターンにおいて数式(5)を用いるとすれば、aの初期値は上記の他の形状の場合と同様に設定し、bの初期値として領域1のy座標からaを引いた値を設定し、c、dについても上記の他の形状の場合と同様に設定する。
【0079】
(4.裾野のない半放物線形状)
図19は、裾野のない半放物線形状を示す図である。このような半放物線形状は、撮影される対象範囲が光源に近い場合の光量分布を近似できる。図20は、バイオセンサー上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。図20のような例では、光源反射の分布モデルは上に凸な放物線形状に近くなるため、上に凸な放物線形状を初期の関数形としてフィッティングを行なうのが適当である。このような分布は、線形形状の判定が棄却され、かつ後述のシグモイド形状の判定も棄却された場合に該当する。
【0080】
図21は、各領域に対する輝度値の分布のパターンを示す図である。図21に示すパターンでは、領域1の代表点の輝度値が最も大きく、領域3の代表点の輝度値が最も小さい。そして、領域2の代表点の輝度値は、上から30%付近に位置している。このパターンの場合には、上記のように上に凸な放物線による近似が容易である。
【0081】
一方、このパターンにおいて数式(5)を用いるとすれば、領域1の代表点の値をピーク値として選ぶ他、y軸の値が1/2になる点を探せばよい。ピーク値に対して1/2となる点は数式(6)で与えられる。そして、数式(7)からdを推測できる。
【0082】
この場合、実際のデータから得られた値を数式(5)に代入することで、かさ上げ項であるaを推測できる。たとえば、x−c=3のとき、y=100という値が観測されており、d=1、b=120と推定されている場合、数式(5)に代入することで数式(8)のように計算できる。その結果、a≒62.53が得られる。
【0083】
【数8】

【0084】
(5.シグモイド形状)
図22は、シグモイド形状を示す図である。このようなシグモイド形状は、光源が重なる場合の光量分布を近似できる。図23は、バイオセンサー上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。図23のような例では、光源反射の分布モデルはシグモイド形状に近くなるため、シグモイド形状を初期の関数形としてフィッティングを行なうのが適当である。このような分布は、領域2の代表点の取り方によっては、指数関数形状となる。
【0085】
図24は、各領域に対する輝度値の分布のパターンを示す図である。図24に示すパターンでは、領域1と領域2の代表点の輝度値が上位30%の区分に入る。このパターンの場合には、上記のようにシグモイド形状による近似が容易である。
【0086】
一方、数式(5)を用いる場合は、上記のような2光源の重ねあわせの可能性も考えられるため、領域1と領域2の中間点をピーク値として選べばよい。残りのパラメタは上記の他の形状と同様である。
【0087】
(6.指数関数形状)
図25は、指数関数形状を示す図である。このような指数関数形状は、撮影される対象範囲が光源から近くも遠くもない場合の光量分布を近似できる。図26は、バイオセンサー上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。図26のような例では、光源反射の分布モデルは下に凸な放物線形状に近くなるため、下に凸な放物線形状を初期の関数形としてフィッティングを行なうのが適当である。このような分布は、指数関数形状と線形形状の中間となる分布であり、線形形状によるフィッティングおよび指数関数形状の判定が棄却された場合、この分布を仮定することが望ましい。
【0088】
図27は、各領域に対する輝度値の分布のパターンを示す図である。図27に示すパターンでは、領域1の代表点の輝度値は大きく、領域3の代表点の輝度値は小さい。また、領域2の代表点の輝度値は、下から30%程度である。このパターンの場合には、上記のように凸な放物線形状による近似が容易である。
【0089】
一方、数式(5)を用いる場合は、bを領域1に含まれ、実際に得られた観測された輝度値の最大値から最小値を引いたものに設定し、a、c、dは上記の他の形状と同様の方法で初期値を推定すればよい。さらに、上記の他の形状と同様の方法について、代表点を抽出する必要があるが、代表点抽出において、上記の中心代表点の周辺の点の平均を代表点として用いてもよい。
【0090】
(7.逆放物線形状)
図28は、逆放物線形状を示す図である。このような逆放物線形状は、光源が2つある、または反射がある場合の光量分布を近似できる。図29は、バイオセンサー上の位置に対する輝度値の例を示すグラフである。図29のような例では、逆放物線形状を初期の関数形としてフィッティングを行なうのが適当である。光源が2つ以上ある場合であっても、多くは上記までの他の形状でフィッティングが可能である。これにより、2点光源モデルまたは反射項を含めた1点光源モデルに当てはまる状態でも、適当な関数を選択でき、十分に対応可能になる。
【0091】
光源が十分に近い場合として、または2つのグラフが重ねあわされることによって、撮影位置が十分に離れている場合として対応可能だからである。また、近くも遠くもない場合であっても、シグモイド形状による対応が可能である。しかしながら、光源の直下に対象範囲がある場合、上記の他の形状では対応が難しい。この場合には、極小値を含む下に凸な放物線となるからである。
【0092】
図30は、各領域に対する輝度値の分布のパターンを示す図である。このパターンは、領域2の値が他領域に比して低い値を取ることを基準にして検出できる。このパターンの場合には、上記のように逆放物線形状による近似が容易である。
【0093】
一方、領域2の代表点を中心にグラフを2つに分割し、それぞれについて上記の他の関数形のフィッティングを行なうことで推定が可能である。それぞれ放物線形状、指数関数形状およびシグモイド形状のうち、最も近いものを選択してフィットを行なう。
【0094】
また、上記の2点光源を1点光源の重ね合わせの関数として、フィッティングを行なってもよい。この場合、バイオセンサー10の対象範囲は光源に対して、十分小さいことが多いため、各光源の直下が領域1と領域2、領域2と領域3のように隣り合うことはまれである。すなわち、領域1と領域3にピーク値が存在する確率が高いため、領域2と領域3での代表点の値をピークとして優先的に採用する方がよい。
【0095】
以上、このようにしてフィッティングにより得た関数と着色位置の輝度の残差を取ることにより、濃度を正確に推定することができる。なお、上記の例では、領域の区分数は3であるが、3以上の数であってもよい。
【0096】
(実施例)
実施例として、試薬を滴下したバイオセンサー10を撮影し、その撮影データを着色濃度測定装置100で解析した。図31は、実施例として得たバイオセンサー上の位置と輝度値データを示す表である。左列はx座標の位置、右列がそのxでの観測値である。このデータをもとに、代表点の輝度値を抽出し、x座標が43〜53付近はコントロールラインC1の位置であり、x座標が66〜83はテストラインT1の位置であることが予め分かっている。このような大まかな位置関係から代表点を抽出する。
【0097】
コントロールラインC1およびテストラインT1の位置を除いた3つの領域、28〜42、54〜65、84〜122について、代表点の輝度値を抽出した。まず左右の端は誤差がでやすいため、いくつかカットした。5ずつカットすると、それぞれの領域は33〜42、54〜65、84〜117となる。これらの中央の点はそれぞれ、37、59、100となる。このときの観測値と、これらに隣り合うxの観測値を平均して、それぞれ以下の値が代表点の輝度値として得られた。
領域1の代表点の輝度値:(247.373718+247.327515+247.391403)/3=247.3642
領域2の代表点の輝度値:(247.133545+247.090897+247.007721)/3=247.0774
領域3の代表点の輝度値:(239.925461+239.955811+240.0345)/3=239.9719
【0098】
そして、代表点の輝度値とパターンとを照合した。まず、領域1の代表点とそれぞれの代表点の距離の差から、全体の何パーセントの区分にそれぞれの代表点が入っているかを判定した。
領域1の値-領域3の値=247.3642-239.9719=7.3923
領域1の値-領域2の値=247.3642-247.0774=0.2868
【0099】
それぞれの値は正なので、2点光源のモデルは棄却された。さらに、領域1の代表点から領域3の代表点までを全体と見て、領域1の値−領域2の値が、全体(領域1の値−領域3の値)に比べて非常に小さい。((領域1の値−領域2の値)/全体)= 0.2868/7.3923=0.0388なので、全体の中の上位30%区分に含まれている。したがって、このモデルはシグモイド形状と推定できる。このように、パターン照合の結果、分布に適した関数形はシグモイド形状と判定された。
【0100】
さらに、シグモイド形状の場合の初期パラメタを計算した。まず、a=領域3の代表点の値=239.9719が得られた。次に、ピーク値bの推定を行なった。bは領域1の代表点と領域2の代表点のx、yの平均により計算でき、ピーク位置の座標として(x,y)=((37+59)/2, (247.3642+247.0774)/2)≒(48, 247.2208)が得られた。また、c=48、b=247.2208-a=247.2208-239.9719=7.2489が得られた。また、dの計算のために、ピーク値の1/2となる点として、(7.2489/2)+ 239.9719=243.59642を得た。領域1〜3内でこの点に最も近い点は、x=86、y=241.483078となる点なので、数式(7)へそれぞれ代入すると、数式(9)となった。
【0101】
【数9】

【0102】
得られたシグモイド形状および初期パラメタを用いて、ニュートン法によりフィッティングを行なった。図32は、実施例としてフィッティングを行なった例を示す図である。図32に示すように、明らかに単純な線形形状よりもフィット精度が向上している。
【符号の説明】
【0103】
1〜3 領域
C1 コントロールライン
T1 テストライン
10 バイオセンサー
100 着色濃度測定装置
110 撮影データ取得部
120 輝度値計算部
130 代表点抽出部
140 関数決定部
141 パターン照合部
142 パターン保持部
143 初期値推定部
150 フィッティング部
151 ニュートン法勾配計算・更新部
152 関数形出力部
160 着色濃度算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イムノクロマト法により試薬を滴下したバイオセンサーの撮影データを用いる着色濃度測定装置であって、
撮影データの輝度値についてコントロールラインおよびテストラインを除く対象範囲を区分した領域ごとに代表点を抽出する代表点抽出部と、
前記領域ごとの代表点の輝度値から関数形およびその初期パラメタを決定する関数決定部と、
前記決定された関数形およびその初期パラメタから開始して前記対象範囲の輝度値の分布にフィッティングするフィッティング部と、
前記フィッティングされた関数で、前記テストラインの輝度値を補正して、光源反射の影響を低減した着色濃度を算出する着色濃度算出部と、を備えることを特徴とする着色濃度測定装置。
【請求項2】
前記代表点抽出部は、前記対象範囲を3以上5以下の領域に区分し、
前記関数決定部は、前記区分された領域と前記抽出された代表点の輝度値との関係に当てはまるパターンから関数形を決定することを特徴とする請求項1記載の着色濃度測定装置。
【請求項3】
前記関数決定部は、前記対象範囲の輝度値の分布の大きさに対する前記抽出された代表点の輝度値相互の差に基づいて関数形を決定することを特徴とする請求項2記載の着色濃度測定装置。
【請求項4】
前記代表点抽出部は、バイオセンサーの両端位置に対する前記コントロールラインおよびテストラインの相対位置を特定した情報に基づいて、前記対象範囲を決定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の着色濃度測定装置。
【請求項5】
前記関数決定部は、ランバート反射に従う光源モデルに基づく関数を決定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の着色濃度測定装置。
【請求項6】
前記関数決定部は、前記区分された領域と前記抽出された代表点の輝度値との関係に相当する関数として、指数関数形状、線形形状、放物線形状またはシグモイド形状のパターンに基づいて関数を決定することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の着色濃度測定装置。
【請求項7】
前記関数決定部は、前記区分された領域と前記抽出された代表点の輝度値との関係に当てはまるパターンが極小値を含む下に凸な放物線形状であると判定したときには、ランバートモデルに従う2点光源モデルまたは反射項を含めた1点光源モデルに基づく関数を決定することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の着色濃度測定装置。
【請求項8】
バイオセンサー全体のデータの内、1番目と2番目に輝度値の低いデータまたは輝度値の変動の大きい位置およびその周辺のデータを除いたデータを対象範囲とし、前記対象範囲の輝度値の分布にフィッティングした関数の値を元データの輝度値から差し引く一連の動作を事前に有限回繰り返すことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の着色濃度測定装置。
【請求項9】
バイオセンサー全体のデータを用いてフィッティングした関数に対して、残差の大きいデータを除いたデータで再度フィッティングして残差の大きいデータを除く一連の動作を事前に有限回繰り返すことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の着色濃度測定装置。
【請求項10】
カメラとして設置され、前記バイオセンサーの撮影データを取得する撮影データ取得部を更に備え、
カメラ付きの携帯通信端末として構成されたことを特徴とする請求項1から請求項9に記載の着色濃度測定装置。
【請求項11】
イムノクロマト法により試薬を滴下したバイオセンサーの撮影データを用いる着色濃度測定方法であって、
撮影データの輝度値についてコントロールラインおよびテストラインを除く対象範囲を区分した領域ごとに代表点を抽出するステップと、
前記領域ごとの代表点の輝度値から関数形およびその初期パラメタを決定するステップと、
前記決定された関数形およびその初期パラメタから開始して前記対象範囲の輝度値の分布にフィッティングするステップと、
前記フィッティングされた関数で、前記テストラインの輝度値を補正して、光源反射の影響を低減したイムノクロマト測定値を算出するステップと、を含むことを特徴とする着色濃度測定方法。
【請求項12】
イムノクロマト法により試薬を滴下したバイオセンサーの撮影データを用いる着色濃度測定プログラムであって、
撮影データの輝度値についてテストラインおよびコントロールラインを除く対象範囲を区分した領域ごとに代表点を抽出する処理と、
前記領域ごとの代表点の輝度値から関数形およびその初期パラメタを決定する処理と、
前記決定された関数形およびその初期パラメタから開始して前記対象範囲の輝度値の分布にフィッティングする処理と、
前記フィッティングされた関数で、前記テストラインの輝度値を補正して、光源反射の影響を低減したイムノクロマト測定値を算出する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする着色濃度測定プログラム。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図12】
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【図15】
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【図18】
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【図21】
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【図24】
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【図27】
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【図30】
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【図31】
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【図2】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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【図22】
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【図23】
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【図25】
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【図26】
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【図28】
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【図29】
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【図32】
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【公開番号】特開2013−96726(P2013−96726A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237097(P2011−237097)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】