説明

着色物

【課題】紫外線硬化型インクからなるインク層を有し、インク層の硬化後に行われる加熱下での加工および高温での使用においても、該インク層の剥がれが生じず、滲みが無く鮮明な画像を維持することのできる着色物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂層を含む基材と、該熱可塑性樹脂層に接する紫外線硬化型インク層とを含む着色物であって、該インク層のガラス転移温度が該熱可塑性樹脂層のガラス転移温度以下であり、その差が100℃以内である着色物である。前記紫外線硬化型インク層のガラス転移温度が−30〜80℃であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色物に関する。さらに詳細には、インク層の硬化後に行われる加熱下での加工および高温での使用においても、該インク層の剥がれが生じず、滲みが無く鮮明な画像を維持することのできる着色物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水系または溶剤系インクジェットプリント以外の技術として、紫外線硬化型樹脂を用いたインクジェットプリントが研究されている。この紫外線硬化型樹脂は、紫外線照射されることにより樹脂が瞬時に硬化する特徴を有しているため、記録基材に対してインク受容層を必要としないというメリットがある。このメリットのために、前記紫外線硬化型樹脂の使用は、紙への着色には留まらず、フィルム、プラスチック、金属およびガラスなど、様々な素材への着色材としての応用が検討されている。
【0003】
また、紫外線硬化型樹脂は、引っ掻き性、基材との密着性および耐候性に優れた硬化膜となるため、その記録物は、建造物の外装材、看板など、屋外でも使用されている。たとえば、外装材として使用する場合、その表面はタイル調、レンガ調または石材調とするために、エンボス加工が施されていたり、目地部を形成するためにプレス加工が施されている。ここで、金属やプラスチックからなる基材にエンボス加工やプレス加工を施した後、着色する場合、表面に凹凸が形成されているため、所望の着色を行うのが困難となることがある。その場合、前記基材に着色した後、エンボス加工やプレス加工が行われる。しかし、加熱下において、基材に対して着色層(インク層)の追従性が悪いと、インク層の剥がれが生じてしまう。
【0004】
そこで、特許文献1には、トップコートである熱硬化型樹脂のガラス転移温度を制御することにより、得られる化粧材のハンドリングや耐衝撃性を改善する方法が記載されている。しかし、凹凸加工は塗膜を硬化する前に行われているため、基材に対する硬化膜の追従性については考慮されていない。
【0005】
【特許文献1】特開2004−268375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、紫外線硬化型インクからなるインク層を有し、インク層の硬化後に行われる加熱下での加工および高温での使用においても、該インク層の剥がれが生じず、滲みが無く鮮明な画像を維持することのできる着色物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、熱可塑性樹脂層を含む基材と、該熱可塑性樹脂層に接する紫外線硬化型インク層とを含む着色物であって、該インク層のガラス転移温度が該熱可塑性樹脂層のガラス転移温度以下であり、その差が100℃以内である着色物に関する。
【0008】
前記紫外線硬化型インク層のガラス転移温度が、−30〜80℃であることが好ましい。
【0009】
前記インク層の厚さが5〜150μmであることが好ましい。
【0010】
前記熱可塑性樹脂が、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリオレフィンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の着色物は、インク層の硬化後に行われる加熱下での加工および高温での使用においても、該インク層の剥がれが生じず、滲みが無く鮮明な画像を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の着色物は、熱可塑性樹脂層を含む基材と、該熱可塑性樹脂層に接する紫外線硬化型インク層とを含む着色物であって、該インク層のガラス転移温度が該熱可塑性樹脂層のガラス転移温度以下であり、その差が100℃以内であるため、加熱下において、インク層が基材に対する優れた追従性を有する。
【0013】
本発明で使用する基材に含まれる熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、ポリアミド、ポリアセタール、ポリオレフィンなどがあげられる。なかでも、耐候性や汎用性が良いという点で、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネートが好ましく、とくにポリエステルが好ましい。
【0014】
前記熱可塑性樹脂には、一般的な添加剤、たとえば熱安定剤、可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤などが添加されている。
【0015】
本発明で使用される基材としては、前記インク層と接触する部分が熱可塑性樹脂層であればよく、熱可塑性樹脂層のみ、すなわち実質的に熱可塑性樹脂のみからなるものであってもよいし、熱可塑性樹脂層と他の層との積層体であってもよい。
【0016】
熱可塑性樹脂層と積層される他の層としては、インク層の硬化後に行われる加熱下での加工および高温での使用に耐え得るものであればとくに限定されず、具体的には、金属、木材、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂などからなる層があげられる。
【0017】
本発明で使用される熱可塑性樹脂層および基材の厚さは、とくに限定されず、用途、使用する場所、形態などに応じて適宜設定することができる。
【0018】
また、本発明で使用される紫外線硬化型インク層は、着色剤、反応性モノマーおよび/または反応性オリゴマー、および光重合開始剤を含有するものであり、そのガラス転移温度(以下、Tgとする)は、前記熱可塑性樹脂のTg以下であり、その差が100℃以内である。このように、基材を構成する熱可塑性樹脂とインク層とのTgの差が無いか、または小さいため、エンボス加工またはプレス加工などの加熱下での処理において、インク層が基材に対して優れた追従性を示し、剥がれを生じないのである。前記Tgの差は、80℃以内であることが好ましく、60℃以内であることがより好ましい。また、20℃以上であることが好ましい。インク層のTgが前記熱可塑性樹脂のTgよりも大きいと、インク層が硬くなり過ぎてインク層に亀裂が出来やすく、また、インク層のTgが前記熱可塑性樹脂のTg以下であっても、その差が100℃をこえると、インク層の硬化後に行われる加熱下での加工および高温での使用において、インクが滲んでしまい鮮明な画像が形成出来ない。
【0019】
そのインク層のTgは−30〜80℃であることが好ましく、−10〜60℃であることがより好ましい。Tgが−30℃より低いと、インク層が傷つきやすくなる傾向があり、Tgが80℃をこえると、インク層が硬くなり過ぎて熱可塑性樹脂からなる基材に追従しにくくなる傾向がある。なお、本発明におけるTgは、示差走査熱量測定法(DSC)にて測定したものである。
【0020】
前記インク層の硬さは、Tgに依存し、インク層のTgが高いと硬くなり、また、インク層のTgが低いと柔らかくなる傾向にある。インク層が、あまり柔らかすぎると傷つきやすくなり、逆に、あまり硬すぎると亀裂が出来やすかったり、基材との追従性が悪くなるので、JIS K5600による引っ掻き硬度(鉛筆法)が、B〜2Hであることが好ましい。
【0021】
前記インク層は、乾燥膜厚で5〜150μmであることが好ましい。5μmより薄いと、十分に着色することが困難となる傾向にあり、150μmをこえると、インク膜厚が厚くなりすぎるため、インク層の割れや剥れが発生する傾向にある。また、全面に付与してもよいし、部分的に模様状に付与してもよい。
【0022】
前記着色剤としては、顔料および染料のいずれも使用可能である。
【0023】
なかでも、耐候性および耐光性が求められる場合は、顔料を使用することが好ましく、有機または無機を問わず、任意のものが選択される。
【0024】
有機顔料としては、例えば、ニトロソ類、染付レーキ類、アゾレーキ類、不溶性アゾ類、モノアゾ類、ジスアゾ類、縮合アゾ類、ベンゾイミダゾロン類、フタロシアニン類、アントラキノン類、ペリレン類、キナクリドン類、ジオキサジン類、イソインドリン類、アゾメチン類およびピロロピロール類などがあげられる。
【0025】
無機顔料としては、例えば、酸化物類、水酸化物類、硫化物類、フェロシアン化物類、クロム酸塩類、炭酸塩類、ケイ酸塩類、リン酸塩類、炭素類(カーボンブラック)および金属粉類などがあげられる。
【0026】
また、耐候性や耐光性をあまり重視しない場合には、染料を利用することも可能であり、とくに限定されず任意のものが選択される。
【0027】
染料としては、例えば、アゾ類、アントラキノン類、インジゴイド類、フタロシアニン類、カルボニウム類、キノンイミン類、メチン類、キサンテン類、ニトロ類、ニトロソ類のような油溶性染料、分散染料、酸性染料、反応染料、カチオン染料および直接染料などがあげられる。
【0028】
前記着色剤は、0.1〜10重量%含有されていることが好ましく、0.5〜5重量%含有されていることがより好ましい。着色剤の含有量が0.1重量%より少ないとインクの濃度として不充分になる傾向にあり、10重量%をこえるとノズルからの吐出が困難になる傾向にある。
【0029】
前記反応性モノマーおよび反応性オリゴマーとしては特に限定されないが、紫外線の照射により硬化するものであり、いわゆる、紫外線硬化樹脂である。
【0030】
反応性モノマーとしては、例えばジペンタエリスリトールヘキサアクリレートやそれら変性体などの6官能アクリレート;ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレートなどの5官能アクリレート;ペンタジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの4官能アクリレート;トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、グリセリルトリアクリレートなどの3官能アクリレート;ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンアクリル酸安息香酸エステル、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート、ビスフェノールAジアクリレートなどの2官能アクリレート;および、カプロラクトンアクリレート、トリデシルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコールジアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ネオペンチルフリコールアクリル酸安息香酸エステル、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシ−ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ−トリエチレングリコールアクリレート、メトキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボニルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチル−コハク酸、2−アクリロイロキシエチル−フタル酸、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸などの単官能アクリレートが挙げられる。さらにこれらにリンやフッ素、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドの官能基を付与した反応性モノマーが挙げられる。これらの反応性モノマーを単独、または組み合わせて使用できる。なかでも、強じん性、柔軟性に優れる点で、2官能モノマーが好ましい。そのなかでも難黄変である点で、炭化水素からなる脂肪族反応性モノマー、具体的には1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレートおよび1,9−ノナンジオールジアクリレートなどが好ましい。
【0031】
前記反応性モノマーは、インク中に50〜85重量%含まれることが好ましい。50重量%未満の場合、インク粘度が高くなるため吐出不良を生じるおそれがあり、85重量%を超えると硬化に必要な他の薬剤が不足し硬化不良になるおそれがある。
【0032】
反応性オリゴマーとしては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、シリコンアクリレート、ポリブタジエンアクリレートが挙げられ、単独または複合して使用しても良い。なかでも、強じん性、柔軟性および密着性に優れる点で、ウレタンアクリレートが好ましい。そのなかでも、反応性モノマーと同様に難黄変である点で、炭化水素からなる脂肪族ウレタンアクリレートがさらに好ましい。
【0033】
前記反応性オリゴマーは、インク中に1重量%以上含まれることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましい。上限は、40重量%であることが好ましく、30重量%であることがより好ましい。反応性オリゴマーが1重量%以上、40重量%以下であれば、強じん性、柔軟性および密着性を、より向上させることができる傾向にある。
【0034】
光重合開始剤としては、ベンゾイン類、ベンジルケタール類、アミノケトン類、チタノセン類、ビスイミダゾール類、ヒドロキシケトン類およびアシルホスフィンオキサイド類が挙げられ、単独または複合して使用しても良い。なかでも、高反応性であり、難黄変である点で、ヒドロキシケトン類およびアシルホスフィンオキサイド類が好ましい。
【0035】
光重合開始剤の添加量は、1〜10重量%であることが好ましく、3〜7重量%であることがより好ましい。1重量%未満では重合が不完全で膜が未硬化となるおそれがあり、10重量%をこえても、それ以上の硬化率や硬化スピードの効率アップが期待できず、コスト高となる。
【0036】
その他、本発明で使用されるインクには、必要に応じて、分散剤を添加してもよい。
【0037】
分散剤としては、アニオン性化合物、カチオン性化合物、ノニオン系化合物、両性化合物および高分子化合物などが挙げられ、単独もしくは組み合わせて使用可能である。
【0038】
前記分散剤のインクへの添加量としては、分散する顔料の種類により適宜決定されるものであるが、顔料に対して5〜150重量%であることが好ましく、30〜80重量%であることがより好ましい。分散剤が5重量%より少ないと、顔料がうまく分散できない傾向にあり、150重量%をこえると、分散剤が顔料の分散を阻害したり、また、インクコストが高くなる傾向にある。
【0039】
さらに必要に応じて、光重合開始剤の開始反応を促進させるための増感剤、熱安定剤、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、浸透剤、樹脂バインダ、樹脂エマルジョン、還元防止剤、レベリング剤、pH調整剤、顔料誘導体、重合禁止剤、紫外線吸収剤および光安定剤などの添加剤を加えることも可能である。
【0040】
本発明で使用されるインクは、使用する材料を混合し、さらにその混合物をロールミル、ボールミル、コロイドミル、ジェットミルまたはビーズミルなどの分散機を使って分散させ、その後、濾過を行うことで得ることができる。なかでも、短時間且つ大量に分散できることから、ビーズミルが好ましい。
【0041】
前記インクは、凸版プリント、平版プリント、凹版プリント、孔版プリントおよびインクジェットプリントなど、従来行なわれている捺染方式を用いて、基材を構成する熱可塑性樹脂層に付与される。なかでも、版型を必要としないため、付与する模様、熱可塑性樹脂層の形状および表面の状態について制約を受けにくい点で、インクジェット方式が好ましい。
【0042】
熱可塑性樹脂層へのインク付与量は、1〜200g/m2であることが好ましく、5〜150g/m2であることがより好ましい。1g/m2未満の場合、十分に着色することが困難となる傾向にあり、200g/m2を超えると、付与量が多すぎるために滲みが発生したり、また、硬化不良を発生する傾向がある。
【0043】
本発明で使用されるインクジェット記録装置としては、とくに限定されない。たとえば、荷電変調方式、マイクロドット方式、帯電噴射制御方式およびインクミスト方式などの連続方式、ステムメ方式、パルスジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式および静電吸引方式などのオン・デマンド方式などいずれも採用可能である。
【0044】
また、これら通常のインクジェットプリンタに装備されたヘッドに加熱装置を装備し、加熱することにより粘度を低くし、吐出してもよい。その加熱温度としては25〜150℃があげられ、好ましくは30〜70℃の範囲である。加熱温度は、使用する反応性オリゴマーの熱に対する硬化性を考慮して決められ、熱により硬化が始まる温度よりも低く加熱温度を設定する。
【0045】
また、前記インクの粘度は、ノズルから吐出される温度において、1〜20mPa・sであることが好ましく、2〜15mPa・sであることがより好ましい。粘度が1mPa・sより低いと、インクの粘度が低すぎることが原因で、吐出量が多くなりすぎて吐出が不安定になるおそれがあり、20mPa・sを超えるとインクの粘度が高すぎて吐出が出来ないおそれがある。
【0046】
また、吐出時の表面張力は、様々な素材に対応することを考慮した場合、20〜40dyne/cmであることが好ましく、25〜35dyne/cmであることがより好ましい。20dyne/cmより小さいと、濡れ性が良くなりすぎるため、画像が滲む傾向にあり、また、プリンタヘッドへのインクの供給が困難になる。40dyne/cmをこえると、濡れ性が悪くなるため、インクがはじかれ、画像がスジっぽくなる傾向にある。
【0047】
紫外線照射の条件としては、紫外線ランプの出力は、50〜280W/cmが好ましく、80〜200W/cmがより好ましい。紫外線ランプの出力が、50W/cmより低いと、紫外線のピーク強度および積算光量不足によりインクが十分に硬化しない傾向にあり、280W/cmより高いと、基材が紫外線ランプの熱により変形または溶融し、またインクの硬化皮膜が劣化する傾向にある。
【0048】
紫外線の照射時間は、0.1〜20秒が好ましく、0.5〜10秒がより好ましい。紫外線ランプの照射時間が、20秒より長いと、基材が紫外線ランプの熱により変形または溶融、また紫外線硬化型インクの硬化皮膜が劣化する傾向にあり、0.1秒より短いと、紫外線の積算光量不足であり、紫外線硬化型インクが十分に硬化しない傾向にある。
【0049】
本発明の着色物は、インク層の硬化後にエンボス加工またはプレス加工を行っても、該インク層の剥がれが生じないものである。
【0050】
エンボス加工またはプレス加工は、100〜400℃の温度条件で行うことができる。温度が100℃より低いと、綺麗な凹凸が形成されにくい傾向があり、400℃をこえると、熱熱可塑性樹脂からなる基材や紫外線硬化型インク層が劣化しやすい傾向がある。
【0051】
本発明の着色物は、インク層のTgが、基材を構成する熱可塑性樹脂のTg以下であるため、該熱可塑性樹脂のTgを考慮して行われるエンボス加工またはプレス加工などの加熱下での加工の際に、インク層も基材に追従して変形し、得られた加工物はインク層の剥がれのない高品質なものとなる。さらには、そのTgの差が100℃以内であるため、後加工として行われる前記エンボス加工またはプレス加工、延伸加工およびトップコート塗布後の乾燥や、さらには、高温に曝されることが予想される使用環境、たとえば、自動車内装材のような密閉空間、屋根材(波板など)のような屋外での使用、および、熱源近辺での使用(家電製品のカバーなど)においても、インク層だけが早く軟化してしまうことがなく、とくに、型際の画像の滲みが抑えられるため、プリント直後の鮮明な画像を維持することができる。
【0052】
本発明の着色物は、屋外で使用されるものとして限定されずに使用することができ、たとえば、建造物の外装材および看板などがあげられる。
【実施例】
【0053】
次に本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
実施例1
有機顔料としてIRGALITE Blue GLVO(C.I.ピグメントブルー15:4、銅フタロシアニン、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)を3重量部、分散剤(Disperbyk−168、高分子化合物、BykChemie社製)を3重量部、反応性オリゴマー(CN985B88、脂肪族ウレタンアクリレート、2官能、サートマー(株)製)を20重量部、反応性モノマー(SR238F、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2官能、サートマー(株)製)を69重量部、および光重合開始剤(イルガキュア184、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)を5重量部加え、ビーズミル分散機を用い分散した後、濾過を行って不純物除去し、均質な青色インクを作製した。このインクのTgは、32.4℃であった。
【0055】
得られたインクを用いて、インクジェットプリンタにより熱可塑性樹脂からなる基材に印刷し、紫外線ランプによりインクを硬化させた。インク層の厚さは22μmであった。得られた着色物を下記の評価方法にて評価した結果を表1に示す。
【0056】
〔評価柄〕
単色無地柄
【0057】
〔基材〕
熱可塑性樹脂板 (ポリエステル樹脂、Tg74℃、厚さ2mm)
【0058】
〔プリント条件〕
イ)ノズル径 : 70(μm)
ロ)印加電圧 : 50(V)
ハ)パルス幅 : 20(μs)
ニ)駆動周波数: 3(kHz)
ホ)解像度 : 180(dpi)
ヘ)加熱温度 : 60(℃)
【0059】
〔紫外線照射条件〕
あ)ランプ種類: メタルハライドランプ
い)電圧 : 120(W/cm)
う)照射時間 : 1(秒)
え)照射距離 : 10(cm)
【0060】
〔評価方法〕
(1)引っ掻き硬度
硬度試験はJIS K5600 引っ掻き硬度(鉛筆法)に準じて行い、インク層が剥れたときの硬度の1つ下の硬度をインク層の硬度とした。
(2)密着性
密着性試験はカッターナイフを用い縦横1mm間隔で11本ずつ素地まで達する線を引き、100個の碁盤目を作製した。次に碁盤目上にセロハンテープを貼り、そしてセロハンテープを素早く剥がして着色物の状況を確認した。評価はJIS K5600−5−6の記載内容に準じ4段階とした。
1 ‥ カット交差点における印刷層の小さなはがれがみられる
2 ‥ 印刷層がカットの縁に沿って、および/または交差点においてはがれている
3 ‥ 印刷層がカットの縁に沿って、部分的または全体的に大はがれを生じており、および/またはいろいろな部分が、部分的または全体的にはがれている
4 ‥ 印刷層がカットの縁に沿って、部分的または全体的に大はがれを生じており、および/または数か所の目が部分的または全体的にはがれている
(3)追従性
得られた着色物に、温度200℃、折り曲げ角度90°の条件にて折り曲げ加工を行った。そして加工後の着色物の追従性を目視にて評価した。
○ ‥ インク層に亀裂がなく、基材に追従している
× ‥ インク層に亀裂が見られ、基材に追従していない
(4)着色物の滲み
得られた着色物に、温度200℃、折り曲げ角度90°の条件にて折り曲げ加工を行った。そして加工後の着色物の滲みを目視にて評価した。
○ ‥ インク層に滲みが無く、鮮明な画像が形成されている
× ‥ インク層に滲みが見られ、型際が鮮明でない
【0061】
実施例2
反応性オリゴマー(CN962、脂肪族ウレタンアクリレート、2官能、サートマー(株)製)を20重量部、反応性モノマー(SR9003、プロポキシ変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、2官能、サートマー(株)製)を69重量部用いたほかは実施例1と同様にして、Tg0.3℃のインクを作製した。得られたインクを用いて実施例1同様に印刷、評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
実施例3
反応性オリゴマー(CN962、脂肪族ウレタンアクリレート、2官能、サートマー(株)製)を20重量部、反応性モノマー(SR268、テトラエチレングリコールジアクリレート、2官能、サートマー(株)製)を69重量部用いたほかは実施例1と同様にして、Tg−9.7℃のインクを作製した。得られたインクを用いて実施例1同様に印刷、評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
比較例1
反応性オリゴマー(CN968、脂肪族ウレタンアクリレート、6官能、サートマー(株)製)を20重量部、反応性モノマー(SR212、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、2官能、サートマー(株)製)を69重量部用いたほかは実施例1と同様にして、Tg99.5℃のインクを作製した。得られたインクを用いて実施例1同様に印刷、評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
比較例2
反応性オリゴマー(CN962、脂肪族ウレタンアクリレート、2官能、サートマー(株)製)を20重量部、反応性モノマー(CD561、エトキシ変性1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2官能、サートマー(株)製)を69重量部用いたほかは実施例1と同様にして、Tg−40.4℃のインクを作製した。得られたインクを用いて実施例1同様に印刷、評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
基材である熱可塑性樹脂よりも高いTgをもつインクを使用した比較例1は、インク層が硬く、折り曲げ加工により亀裂が生じた。また、基材である熱可塑性樹脂とのTgの差が100℃以上のインクを使用した比較例2は、追従性には優れるものの、硬化後に行われる加熱下での加工によりインクが滲み、鮮明な画像が得られなかった。
【0067】
実施例4
基材として、金属板(ガルバリウム鋼板、厚さ0.3mm)と熱可塑性樹脂層(アクリル樹脂、Tg64℃、厚さ38μm)との積層体を用いたほかは、実施例1同様に印刷、評価を行った。
【0068】
その結果は、引っ掻き硬度 2H、密着性 1、追従性 ○、滲み ○であり、基材として熱可塑性樹脂層と他との積層体を用いた場合でも、本発明の効果を得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂層を含む基材と、該熱可塑性樹脂層に接する紫外線硬化型インク層とを含む着色物であって、該インク層のガラス転移温度が該熱可塑性樹脂層のガラス転移温度以下であり、その差が100℃以内である着色物。
【請求項2】
前記紫外線硬化型インク層のガラス転移温度が、−30〜80℃である請求項1記載の着色物。
【請求項3】
前記インク層の厚さが5〜150μmである請求項1または2記載の着色物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリオレフィンである請求項1、2または3記載の着色物。

【公開番号】特開2008−142631(P2008−142631A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333216(P2006−333216)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】