説明

着色透光性ジルコニア焼結体及びその用途

【課題】自然な歯と同等の審美性、同等な色調及び透光性を有し、かつ、高い強度を有するジルコニア焼結体を提供する。
【解決手段】鉄化合物及び2〜4mol%のイットリアを含み、L*a*b*表色系における明度L*が51以上80以下であり、相対密度が99.80%以上であることを特徴とする着色透光性ジルコニア焼結体を提供する。着色ジルコニア焼結体は試料厚さ1mm、D65光源における全光線透過率が20%以上であることが好ましい。着色透光性ジルコニア焼結体は、特に歯科用途で使用されるジルコニア焼結体、さらには義歯材料等のミルブランク、歯列矯正ブラケットに適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高い強度を有するだけでなく、歯に極めて近い審美性を有するジルコニア焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア焼結体は強度が高いため、歯科材料に用いられている。ジルコニア焼結体を歯科材料として使用する場合、高い強度だけでなく、自然の歯と同様な審美性を有することが必要とされる。
【0003】
これまで、ジルコニア焼結体を自然な歯と同様な審美性とするため、ジルコニア焼結体の表面に他の材料を積層し、これにより色調を調整した歯科材料が報告されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、当該歯科材料では、ジルコニアと強度の異なるガラス材料からなる複合材料であるため、歯科材料としては強度が十分ではなかった。
【0004】
そのため、他材料を積層せずに、強度を維持したまま審美性を向上させた歯科材料用のジルコニア焼結体が検討されている。
【0005】
例えば、透光性を付与することで、自然の歯と同様な透光性を有するジルコニア焼結体が報告されている。特許文献2及び3では、そのまま歯科材料で使用するため、高い強度及び高い透光性を有するジルコニア焼結体が開示されている。しかしながら、これらのジルコニア焼結体は自然な歯と同様な透光性を有するものの、自然な歯とは異なるジルコニア本来の明るい白色の色調を呈するものであった。
【0006】
さらに、着色剤として酸化物を含有させた歯科材料用の着色ジルコニア焼結体が報告されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、当該着色ジルコニア焼結体は、含有される着色成分によって可視波長が吸収されてしまう。これに加えて、着色成分が焼結の進行を阻害するために焼結体の透光性が低かった。これにより、当該着色ジルコニア焼結体は自然の歯と透光性及び色調が異なるだけでなく、強度にも低いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−207743号公報
【特許文献2】特開2008−50247号公報
【特許文献3】WO2009/125793号
【特許文献4】特表2010−501465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまでは、自然な歯と同等の審美性、特に自然な歯と同等な色調及び透光性を有し、なおかつ、高い強度を有するジルコニア焼結体は得られていなかった。
【0009】
本発明では、上記の課題を解消し、強度が高いだけではなく、審美性にも優れるジルコニア焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題に鑑み、本発明者らはジルコニア焼結体の強度と審美性の関係について鋭意検討した。その結果、組成、物性及び着色剤の種類が制御されたジルコニア焼結体が、歯科材料に適した審美性及び強度を有することを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
すなわち、本発明は鉄化合物及び2〜4mol%のイットリアを含み、L*a*b*表色系における明度L*が51以上80以下であり、相対密度が99.80%以上であることを特徴とする着色透光性ジルコニア焼結体である。
【0012】
以下、本発明の着色透光性ジルコニア焼結体について説明する。
【0013】
本発明は着色透光性ジルコニア焼結体である。そのため、本発明の焼結体は、無色以外の色調を有し、かつ、透光性を有するジルコニア多結晶体である。従って、本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、不透明のジルコニア焼結体(以下、不透明ジルコニア焼結体)、又はジルコニア単結晶とは異なる。なお、ここでいう不透明ジルコニア焼結体とは、例えば、D65光源において試料厚さ1mmの全光線透過率が10%以下のジルコニア焼結体である。
【0014】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は鉄化合物を含有する。鉄化合物は呈色するための着色剤として機能する。鉄化合物の含有量は、Fe換算で2000ppm(0.2重量%)未満であることが好ましい。鉄化合物の含有量が2000ppm未満であれば、焼結体の色調が薄い黄色の着色となり、より自然の歯と近い色調をとなりやすい。さらには、可視波長領域での光の吸収が抑制され透光性が低下しにくい。本発明の着色透光性ジルコニア焼結体では、鉄化合物を含有することで自然な歯と近い色調となる。そのため、本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、鉄化合物を含有していれば(すなわち、鉄化合物の含有量がFe換算で0ppmを超えていれば)、その下限値は特に限定されない。例えば、鉄化合物の含有量がFe換算で50ppm(0.005重量%)以上であれば、本発明の着色透光性ジルコニア焼結体が比較的色調が薄めの歯に近い自然な色調となる。
【0015】
なお、鉄化合物の含有量は着色透光性ジルコニア焼結体のZrO及びYの合計重量(着色透光性ジルコニア焼結体がアルミナを含む場合は、着色透光性ジルコニア焼結体のZrO、Y及びAlの合計重量)に対するFe換算とした鉄化合物の割合である。
【0016】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、色調の微細な調整をするため、鉄化合物に加えて、ジルコニアに固溶する化合物を含有してもよい。ジルコニアに固溶する化合物としては、例えば、周期表3a族(3族)、5a族(5族)、6a族(6族)、7a族(7族)、8族(8〜10族)及び3b族(13族)のいずれか一種以上の酸化物を挙げることができる(カッコ内は、国際純正応用化学連合(IUPAC)による表示方法)。
【0017】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は2〜4mol%のイットリアを含む。イットリア含有量が2mol%未満であると、結晶相が単斜晶(monoclinic)を含むようになるため、焼結体の強度が低下するだけでなく、水熱劣化しやすく、長期間使用した際に壊れやすくなる。一方、イットリア含有量が4mol%を超えると焼結体の強度が低くなる。
【0018】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、アルミナを含むことが好ましい。着色透光性ジルコニア焼結体がアルミナを含むこと(すなわち、アルミナの含有量が0重量%を超えること)で、水熱劣化しにくくなる。これにより、いわゆる“色抜け”現象が生じにくくなり、長期間使用しても変色や脱色が起こりにくくなる。
【0019】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体がアルミナを含有する場合、アルミナの含有量は0.25重量%未満であることが好ましく、0.15重量%以下であることがより好ましい。アルミナの含有量が0.25重量%未満であれば高い透光性を有する着色透光性ジルコニア焼結体とすることができる。一方、アルミナ含有量は0.005重量%以上であることが好ましく、0.01重量%以上であることがより好ましく、0.025重量%以上であることが更に好ましい。アルミナ含有量が0.005重量%以上であることで、例えば熱水で処理した場合などの加速試験等において、変色又は脱色がより生じにくくなるため、歯科材料として長期間使用する場合に色調の変化が生じにくくなる。
【0020】
なお、アルミナ含有量は着色透光性ジルコニア焼結体のZrO及びYの合計重量に対するAlの割合である。
【0021】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、相対密度が99.80%以上であり、99.85%以上であることが好ましく、99.90%以上であることがより好ましい。相対密度が99.80%未満では透光性が低くなりやすく、歯科材料としての審美性に劣った焼結体となる。
【0022】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、L*a*b*表色系おける明度L*(以下、単に「明度L*」又は「L*」とする)が鉄化合物の含有量が2000ppm未満であれば、51以上であることが好ましい。また、鉄化合物の含有量が500ppm未満であれば、70を超え80以下であることが好ましい
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、明度L*が51以上70以下であり、鉄化合物の含有量がFe換算で500ppm以上2000ppm未満であることが好ましい。また、本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、明度L*が70を越え80以下であり、鉄化合物の含有量がFe換算で50ppm以上500ppm未満であることが好ましい。
【0023】
透光性を有するだけでなく、明度L*がこの範囲であることで、本発明の着色透光性ジルコニア焼結体が自然な歯と同等の審美性を有する。なお、明度L*の値が小さいほど全光線透過率も低くなりやすい。
【0024】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、L*a*b*表色系おける色相a*(以下、単に「色相a*」又は「a*」とする)が−5以上10以下であることが好ましく、−4以上9以下であることがより好ましく、−3以上8以下であることが更に好ましい。さらに、色相a*がこの範囲であり、なおかつ、L*a*b*表色系おける色相b*(以下、単に「色相b*」又は「b*」とする)が0以上30以下であることが好ましく、0以上29以下であることがより好ましく、0以上28以下であることが更に好ましい。
【0025】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体の色調は明度L*、色相a*及びb*で規定される。ここで、明度L*値が大きくなると色調は明るくなり、反対にL*値が小さくなると色調は暗くなる。さらに、本発明の着色透光性ジルコニア焼結体における色調は、焼結体を透過した光と焼結体を反射した光とを集光して測定される値である。そのため、焼結体の厚さや透光性が変化すると、色調も変化する。したがって、本発明の着色透光性ジルコニア焼結体の色調は透光性を有さない不透明ジルコニア焼結体の色調、すなわち、焼結体表面の反射光のみから求められる明度L*、色相a*及びb*により求められる値とは異なる値である。
【0026】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、試料厚さ1mm、D65光源における全光線透過率(以下、単に「全光線透過率」とする)が明度L*が51以上70未満の場合、20%以上であることが好ましく、23%以上であることがより好ましく、25%以上であることが更に好ましい。また、明度L*が70をを越え80以下の場合、全光線透過率は20%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることが更に好ましい。明度L*が本発明の範囲であり、なおかつ、全光線透過率が20%以上であることで歯科材料として広く使用できる審美性となりやすい。一方、透光性が自然な歯と同程度であれば、全光線透過率は必要以上に高くする必要はない。例えば、全光線透過率が43%以下であれば自然な歯と同程度の透光性が得られる。
【0027】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、試料厚さ1mmでの波長850nmの光に対する全光線透過率(以下、「近赤外透過率」とする)が35%以上であることが好ましく、35.5%以上であることがより好ましく、36%以上であることが更に好ましい。近赤外透過率35%以上であれば、審美的な透光性を要求される歯科材料だけでなく、エネルギー変換材料(例えば太陽電池等)の保護層等にも適した材料となる。本発明の着色透光性ジルコニア焼結体の近赤外透過率は高く、近赤外透過率が40%程度の焼結体とすることができる。
【0028】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、その結晶相が正方晶(Tetragonal)を含むことが好ましく、正方晶の単相であることが好ましい。これにより、機械的強度が高くなりやすい。本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、3点曲げ強度が1000MPa以上であることが好ましく、1100MPa以上であることがより好ましく、1200MPa以上であることが更に好ましい。
【0029】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体はさらに結晶粒径が0.2μm以上0.45μm以下であることが好ましく、0.3μm以上0.45μm以下であることがより好ましい。結晶粒径が0.2μm以上であると、焼結体中に気孔が残留しにくく、相対密度が高くなりやすい。また、結晶粒径が0.45μm以下であると、焼結体の水熱劣化が抑制されやすく、歯科材料としても長期間の使用に耐えることができる。
【0030】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、140℃の熱水中に24時間浸漬させた後の単斜晶相の転移深さが20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。単斜晶相の転移深さは、水熱環境下におけるジルコニア焼結体の劣化の指標することができる。すなわち、単斜晶相の転移深さが小さいことで、歯科材料として長期間使用しても劣化しにくいことへの指標となる。単斜晶相の転移深さが20μm以下であることで焼結体の水熱劣化が進行しにくく、焼結体が破壊されにくくなる。単斜晶相の転移深さは、焼結体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)などで観察することができる。
【0031】
さらに、本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、140℃の熱水中に72時間浸漬させた後の単斜晶相の転移深さが20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0032】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、140℃の熱水中に24時間浸漬させた後の単斜晶相率が30%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。
【0033】
さらに、本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、140℃の熱水中に72時間浸漬させた後の単斜晶相率が80%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。
【0034】
ここで、単斜晶相率(M相率ともいう)とは、焼結体の鏡面部分についてXRD測定を行い、単斜晶相の(111)及び(11−1)面、正方晶相の(111)面、立方晶相の(111)面の回折強度をそれぞれ求めて、以下の数式により算出された値をいう。
【0035】
【数1】

次に、本発明の着色透光性ジルコニア焼結体の製造方法を説明する。
【0036】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、ジルコニア粉末及び鉄化合物の混合粉末を成形、焼結することで製造することができる。
【0037】
ジルコニア粉末は、BET比表面積が10m/g以上15m/g以下であることが好ましく、11m/g以上14m/g以下であることがより好ましい。ジルコニア粉末のBET比表面積が10m/g以上であることで、低い温度でも焼結しやすい粉末となる。また、15m/g以下であることで粒子間の凝集が抑制された粉末となる。
【0038】
ジルコニア粉末は、平均粒径が0.4μm以上0.7μm以下であることが好ましく、0.4μm以上0.6μm以下であることがより好ましい。ジルコニア粉末の平均粒径が0.4μm以上であると、粉末の凝集性を高める微小粒子が少なくなり、成形しやすくなる。一方、平均粒径が0.7μm以下であると硬い凝集粒子を含む粗粒が少なくなり、成形しやすくなる。さらに、粗粒が焼結の緻密化を阻害するために焼結性の悪いものとなるので、ジルコニア粉末の最大粒径が2.0μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましい。
【0039】
ジルコニア粉末は、大気中、昇温速度300℃/時の常圧焼結における相対密度70%から90%までの焼結収縮速度(△ρ/△T:g/cm・℃)(以下、単に「焼結収縮速度」とする)が0.012以上0.016以下であることが好ましい。焼結収縮速度はジルコニア粉末の焼結性の指標である。焼結収縮速度がこの範囲であることで、焼結性に優れたジルコニア粉末となる。なお、焼結収縮速度は相対密度が70%以上での測定値である。そのため、焼結収縮速度は成形体の密度のばらつきによる影響を受けない。さらに、相対密度70%から90%における焼結収縮は、その速度が一定である。このように、収縮速度が温度と相対密度の一次関数となるため、特別な近似計算処理を用いることなくても正確な収縮速度を求めることができる。
【0040】
ジルコニア粉末は、ジルコニウム塩水溶液の加水分解で得られる水和ジルコニアゾルを、乾燥,仮焼,粉砕して得られたジルコニア粉末であることが好ましい。
【0041】
水和ジルコニアゾルの製造に用いるジルコニウム塩としては、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニル、塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム並びに水酸化ジルコニウムと酸との混合物の少なくとも一種以上を挙げることができる。また、ジルコニウム塩水溶液にアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物又はその両者(以下、「アルカリ金属水酸化物等」)を添加してもよい。アルカリ金属水酸化物等としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム又はカルシウムのいずれか一種以上の水酸化物を例示することができる。
【0042】
上記で得られた水和ジルコニアゾルを乾燥させ、これを仮焼することでジルコニア仮焼粉末を得ることができる。仮焼温度は1000℃以上1200℃以下であることが好ましく、1050℃以上1150℃以下であることが好ましい。この範囲の温度で仮焼することにより、ジルコニア仮焼粉末の凝集性が緩和されやすくなるだけでなく、凝集粒子を含む粗粒が少なくなりやすい。これにより、粉砕後のジルコニア粉末の平均粒径が0.4μm以上0.7μm以下となりやすい。
【0043】
次いで、上記で得られたジルコニア仮焼粉末を粉砕することでジルコニア粉末を得ることができる。粉砕は、平均粒径が0.4μm以上0.7μm以下となるように行えば、その方法は限定されない。ジルコニアボールを用いた湿式粉砕により粉砕することが好ましい。
【0044】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、ジルコニア粉末と鉄化合物とを混合して混合粉末を得る。
【0045】
鉄化合物の種類は、塩化鉄、硝酸鉄のような水に可溶性の化合物や酸化鉄、酸化水酸化鉄のような水に不溶性の化合物を例示できる。
【0046】
水に不溶性の化合物を使用する場合、平均粒径が1μm以下の鉄化合物をジルコニア仮焼粉末の粉砕時に混合することが好ましい。これにより、水に不溶性の鉄化合物の凝集物がなくなり、得られる焼結体の色調が均一となりやすい。
【0047】
鉄化合物は、ZrO及びYの合計重量(アルミナを添加する場合は、ZrO、Y及びAlの合計重量)に対して、Fe換算で2000ppm(0.2重量%)未満となるように混合することが好ましく、1800ppm(0.18重量%)以下となるように混合することがより好ましく、1600ppm(0.16重量%)以下となるように混合することが更に好ましい。
【0048】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体がアルミナを含有する場合、アルミナ源をZrO及びYの合計重量に対して0.25重量%未満となるように添加することが好ましく、0.15重量%以下となるように添加することがより好ましい。
【0049】
アルミナ源として、アルミナ、水和アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム又は硫酸アルミニウムのいずれか一種以上を使用することを例示することができる。アルミナ源は、水不溶性のアルミナ化合物であることが好ましく、アルミナであることがより好ましい。
【0050】
ジルコニア粉末、鉄化合物及び必要に応じてアルミナ源を混合し混合粉末を得る。これにより、混合粉末の組成と、これを原料とする着色透光性ジルコニア焼結体の組成とが同等になる。
【0051】
ジルコニア粉末又は混合粉末は、これをスラリーとした後に噴霧乾燥した噴霧造粒粉末顆粒を用いることが好ましい。これにより、成形体を形成する際の粉末の流動性が高くなり、成形体から気孔が排除されやすくなる。
【0052】
噴霧造粒粉末顆粒は、粒径は30μm以上80μm以下、軽装嵩密度が1.10g/cm以上1.40g/cm以下であることが好ましい。
【0053】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、混合粉末を成形して成形体を得、当該成形体を焼結することで製造することができる。
【0054】
成形体は、その相対密度が50±5%程度となるようにすれば成形方法は限定されない。好ましい成形方法として混合粉末をプレス成形した後に、必要に応じて冷間静水圧プレス(以下、「CIP」とする)処理する方法を挙げることができる。
【0055】
得られた成形体を焼結することで本発明の着色透光性ジルコニア焼結体を得ることができる。
【0056】
焼結方法は常圧下で行う焼結方法、いわゆる常圧焼結であることが好ましい。特に上記の方法で得られたジルコニア粉末を使用した場合、熱間静水圧プレス(以下、「HIP」とする)処理をすることなく、常圧焼結のみで強度及び透光性の高い着色ジルコニア焼結体を得ることができる。
【0057】
焼結温度は1350℃以上1450℃以下であることが好ましく、1400℃以上1450℃以下であることがより好ましい。焼結温度が1350℃以上であると、相対密度が99.80%と高くなりやすい。一方、焼結温度が1450℃以下であれば、水熱劣化が起こりにくく、歯科材料として長期間の使用に耐える焼結体とすることができる。
【0058】
焼結雰囲気は、還元性雰囲気以外の雰囲気であることが好ましく、酸素雰囲気又は大気中であることが好ましい。簡便であるため、大気中で焼結することが好ましい。
【発明の効果】
【0059】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、自然な歯と同等の色調及び透光性を有し、なおかつ、高い強度を有する。そのため、本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、歯科材料に適した焼結体であり、特に、義歯材料等のミルブランク、歯列矯正ブラケットに適した焼結体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例1〜15及び比較例1〜3における明度L*と全光線透過率(D65光源における全光線透過率)との関係を示す図である。
【図2】実施例1〜15及び比較例1〜3における明度L*と近赤外透過率(波長850nmの光に対する全光線透過率)との関係を示す図である。
【図3】実施例4及び6の全光線透過率の測定波長依存性を示す図である。
【図4】実施例3,7及び9の全光線透過率の測定波長依存性を示す図である。
【図5】実施例2及び参考例の全光線透過率の測定波長依存性比較を示す図である。
【図6】実施例16〜25及び比較例4〜7における明度L*と全光線透過率(D65光源における全光線透過率)を示す図である。
【図7】実施例16〜25及び比較例4〜7における明度L*と近赤外透過率(波長850nmの光に対する全光線透過率)を示す図である。
【図8】実施例17及び19における全光線透過率の測定波長依存性を示す図である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(焼結収縮速度の測定)
混合粉末の焼結収縮速度は以下の様に測定した。混合粉末を金型に入れプレス成形した後、圧力2t/cmでCIP処理し、相対密度50±5%の成形体とした。得られた成形体を常圧下、大気中、昇温速度300℃/時、1500℃まで焼結することで熱収縮挙動を測定した。測定には、汎用的な熱膨張計(アルバック理工製、型式:DL9700)を用いた。
【0062】
得られた熱収縮挙動から、その相対密度が70%から90%に変化する温度を求め、熱収縮速度を求めた。
(平均粒径の測定)
ジルコニア粉末の平均粒径は、マイクロトラック粒度分布計(Honeywell社製、型式:9320−HRA)を用いて測定した。体積基準で表される粒径分布の累積カーブの中央値(メディアン径;累積カーブの50%に対応する粒径)を平均粒径とした。
測定に先立ち、粉末を蒸留水に懸濁させ、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製,型式:US−150T)を用いて3分間分散させて前処理を行った。
(成形体及び焼結体の密度(以下、「実測密度」とする)ρの測定)
成形体のサイズをノギスで測定して体積を求め、得られた体積と成形体重量とから成形体の実測密度を求めた。また、焼結体の実測密度はアルキメデス法により求めた。
(相対密度の測定)
相対密度は、理論密度ρ及び実測密度ρから以下の(1)式から求めた。
【0063】
相対密度(%)=(ρ/ρ)×100 ・・・(1)
また、理論密度ρは以下の(2)式から求めた。
【0064】
ρ=100/[(X/ρAl)+(Y/ρFe)+(100−X−Y)/ρZr
・・・(2)
なお、
X :アルミナ含有量;重量%
Y :Fe含有量;重量%
ρAl :アルミナの理論密度;3.987g/cm
ρZr :ジルコニアの理論密度;6.0956g/cm
ρFe :Feの理論密度;5.24g/cm
である。
(全光線透過率及び近赤外透過率の測定)
全光線透過率は、濁度計(日本電色工業(株)製、型式:NDH2000)を用いて、JIS K7361に準拠して測定した。光源としては光源D65を使用した。試料は焼結体を両面研磨した試料厚さ1mmの円板形状のものを用いた。
【0065】
また、近赤外透過率(波長850nmの光に対する全光線透過率)は、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社製、型式:V−650)に直径150mm積分球ユニット(形式:ILV−724)を取り付けて測定した。試料は焼結体を両面研磨した試料厚さ1mmの円板形状のものを用いた。
(色調の測定)
JIS Z8729に準拠して明度L*、色相a*及びb*を測定した。色調の測定に際し、試料は試料厚さ2.8mmの円板形状とし、片面を鏡面研磨した。測定は鏡面研磨をした面について行った。
(焼結体強度の測定)
焼結体強度をJIS R1601に準拠して、3点曲げ測定法で評価した。
(結晶粒径の測定)
ジルコニア焼結体の結晶粒径は、鏡面研磨した焼結体を熱エッチング処理し、走査型電子顕微鏡(SEM)観察した写真から、プラニメトリック法を用いて算出した。具体的には、顕微鏡画像上に円を描いたとき、円内の粒子数nと円周にかかった粒子数Nの合計が100個〜150個となるような円を描いて、または100個に満たない画像の場合には、粒子数の合計(n+N)が100個〜150個となるように複数視野の画像を用いて複数の円を描き、プラニメトリック法により結晶粒径を求めた。
(水熱劣化特性)
水熱劣化特性は、得られた焼結体の片面を鏡面になるまで研磨して、140℃の熱水中に24時間又は72時間浸漬させ、生成する単斜晶相の率(単斜晶相率)を求めることによって評価した。単斜相率(M相率)は、浸漬処理した焼結体の鏡面部分についてXRD測定を行い、単斜晶相の(111)及び(11−1)面,正方晶相の(111)面,立方晶相の(111)面の回折強度をそれぞれ求めて、以下の数式により算出された値をいう。
【0066】
【数2】

また、転移深さとは浸漬処理した焼結体を切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、鏡面とした面から結晶組織が粗となった深さを観察することで求めた。
【0067】
実施例1
オキシ塩化ジルコニウム水溶液に塩化イットリウムを添加し、Y濃度を3mol%としてから加水分解によって水和ジルコニアゾル得た。当該水和ジルコニアゾルを乾燥させた後、1100℃で2時間焼成し、3mol%のイットリアを含むジルコニア仮焼粉末を得た。
【0068】
得られたジルコニア仮焼粉末を水洗した後、当該ジルコニア仮焼粉末に対してアルミナ含有量で0.05重量%となるように、α−アルミナを混合した。さらに、当該ジルコニア仮焼粉末及びα−アルミナの合計重量に対してFe換算で1700ppmとなるように酸化水酸化鉄(FeOOH)を混合した。
【0069】
これらの原料を混合後、蒸留水を添加してジルコニア濃度45重量%のスラリーにした。当該スラリーを直径3mmのジルコニアボールを用いた振動ミルで24時間粉砕して粉砕スラリーとした。又、粉砕スラリーの一部をBET比表面積の測定のために乾燥して混合粉末を得た。
【0070】
粉砕スラリー中の粒子の平均粒径は0.43μm、最大粒径は1.16μm、及び混合粉末のBET比表面積は12.5m/gであった。
【0071】
得られた粉砕スラリーに有機バインダーを3重量%加えて、噴霧乾燥を行い平均顆粒径45〜50μmのジルコニア粉末を得た。
【0072】
得られたジルコニア粉末を19.6MPaの圧力で一軸プレス成形後、196MPaの圧力でCIP処理して成形体を得た。
【0073】
得られた成形体を、大気中、1000℃まで50℃/時昇温し、1時間保持してバインダーを除去した後、大気中、焼結温度1400℃、昇温速度600℃/時及び焼結温度での保持時間2時間で常圧焼結して着色透光性ジルコニア焼結体を得た。得られた着色透光性ジルコニア焼結体の結晶相は正方晶の単相であった。結果を表1に示す。
【0074】
実施例2
焼結温度を1450℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0075】
参考例
実施例2で得られた着色ジルコニア焼結体を処理温度1400℃、圧力150MPaで熱間静水圧プレス(HIP)処理した。
【0076】
HIP処理前後で着色透光性ジルコニア焼結体の相対密度及びL*値の変化はほとんどなかった。これにより、本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、HIP処理をすることなく、HIP処理と同等の特性を有する焼結体であることが分かった。
【0077】
実施例3
酸化水酸化鉄をFe換算で1500ppm添加したこと以外は実施例1と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0078】
実施例4
酸化水酸化鉄をFe換算で1500ppm添加したこと、及び、焼結温度を1450℃でしたこと以外は実施例1と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0079】
実施例5
酸化水酸化鉄をFe換算で750ppm添加したこと以外は実施例1と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0080】
実施例6
酸化水酸化鉄をFe換算で750ppm添加したこと、及び、焼結温度を1450℃でしたこと以外は実施例1と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0081】
実施例7
α−アルミナをアルミナ含有量で0.1重量%添加したこと、酸化水酸化鉄をFe換算で1500ppm添加したこと、及び、焼結温度を1450℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0082】
実施例8
α−アルミナをアルミナ含有量で0.1重量%添加したこと、及び、酸化水酸化鉄をFe換算で750ppm添加したこと以外は実施例1と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0083】
実施例9
α−アルミナをアルミナ含有量で0.15重量%添加したこと、及び、酸化水酸化鉄をFe換算で1500ppm添加したこと以外は実施例1と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0084】
実施例10
α−アルミナをアルミナ含有量で0.15重量%添加したこと、及び、酸化水酸化鉄をFe換算で750ppm添加したこと以外は実施例1と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0085】
実施例11
酸化水酸化鉄をFe換算で500ppm添加したこと以外は実施例1と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0086】
実施例12
酸化水酸化鉄をFe換算で500ppm添加したこと、及び、焼結温度を1450℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0087】
比較例1
α−アルミナを添加しなかったこと、酸化水酸化鉄をFe換算で1500ppm添加したこと、及び、焼結温度を1450℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0088】
比較例2
α−アルミナをアルミナ含有量で0.25重量%添加したこと、及び、酸化水酸化鉄をFe換算で2000ppm添加したこと以外は実施例1と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0089】
比較例3
α−アルミナをアルミナ含有量で0.25重量%添加したこと、酸化水酸化鉄をFe換算で2000ppm添加したこと、及び、焼結温度を1450℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0090】
実施例13
酸化水酸化鉄をFe換算で1350ppm添加したこと以外は実施例1と同様な方法で混合粉末を得た。得られた混合粉末を49.0MPaの圧力で一軸プレス成形後、196MPaの圧力でCIP処理して成形体を得た。
【0091】
得られた成形体を、大気中、1000℃まで50℃/時昇温し、1時間保持してバインダーを除去した後、大気中、焼結温度1400℃、昇温速度400℃/時及び焼結温度での保持時間2時間で常圧焼結して着色透光性ジルコニア焼結体を得た。得られた着色透光性ジルコニア焼結体の結晶相は正方晶の単相であった。結果を表1に示す。
【0092】
実施例14
酸化水酸化鉄をFe換算で700ppm添加したこと以外は実施例13と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0093】
実施例15
実施例1で得られた、酸化水酸化鉄をFe換算で1700ppm添加した混合粉末41%と、実施例1において、酸化水酸化鉄を添加していない粉末(ジルコニア仮焼粉末+α−アルミナ)59%をポリ瓶の中で混合してFe換算で700ppmの混合粉末を得た。
【0094】
得られた混合粉末を49.0MPaの圧力で一軸プレス成形後、196MPaの圧力でCIP処理して成形体を得た。
【0095】
得られた成形体を、大気中、1000℃まで50℃/時昇温し、1時間保持してバインダーを除去した後、大気中、焼結温度1400℃、昇温速度400℃/時及び焼結温度での保持時間2時間で常圧焼結して着色透光性ジルコニア焼結体を得た。得られた着色透光性ジルコニア焼結体の結晶相は正方晶の単相であった。結果を表1に示す。
【0096】
実施例16
オキシ塩化ジルコニウム水溶液に塩化イットリウムを添加し、Y濃度を3mol%としてから加水分解によって水和ジルコニアゾル得た。当該水和ジルコニアゾルを乾燥させた後、1100℃で2時間焼成し、3mol%のイットリアを含むジルコニア仮焼粉末を得た。
【0097】
得られたジルコニア仮焼粉末を水洗した後、当該ジルコニア仮焼粉末に対してアルミナ含有量で0.05重量%となるように、α−アルミナを混合した。さらに、当該ジルコニア仮焼粉末及びα−アルミナの合計重量に対してFe換算で200ppmとなるように酸化水酸化鉄(FeOOH)を混合した。
【0098】
これらの原料を混合後、蒸留水を添加してジルコニア濃度45重量%のスラリーにした。当該スラリーを直径3mmのジルコニアボールを用いた振動ミルで24時間粉砕して粉砕スラリーとした。又、粉砕スラリーの一部をBET比表面積の測定のために乾燥して混合粉末を得た。
【0099】
粉砕スラリー中の粒子の平均粒径は0.44μm、最大粒径は1.38μm、及び、混合粉末のBET比表面積は12.3m/gであった。
【0100】
得られた粉砕スラリーに有機バインダーを3重量%加えて、噴霧乾燥を行い平均顆粒径45〜50μmのジルコニア粉末を得た。
【0101】
得られたジルコニア粉末を19.6MPaの圧力で一軸プレス成形後、196MPaの圧力でCIP処理して成形体を得た。
【0102】
得られた成形体を、大気中、1000℃まで50℃/時昇温し、1時間保持してバインダーを除去した後、大気中、焼結温度1400℃、昇温速度600℃/時及び焼結温度での保持時間2時間で常圧焼結して着色透光性ジルコニア焼結体を得た。得られた着色透光性ジルコニア焼結体の結晶相は正方晶の単相であった。結果を表1に示す。
【0103】
実施例17
焼結温度を1450℃としたこと以外は実施例16と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0104】
実施例18
酸化水酸化鉄をFe換算で80ppm添加したこと以外は実施例16と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0105】
実施例19
酸化水酸化鉄をFe換算で80ppm添加したこと、及び、焼結温度を1450℃でしたこと以外は実施例16と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0106】
実施例20
α−アルミナをアルミナ含有量で0.1重量%添加したこと以外は実施例16と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0107】
実施例21
α−アルミナをアルミナ含有量で0.15重量%添加したこと以外は実施例16と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0108】
実施例22
α−アルミナを添加しなかったこと、及び、焼結温度を1450℃としたこと以外は実施例16と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0109】
比較例4
α−アルミナをアルミナ含有量で0.25重量%添加したこと、及び、酸化水酸化鉄をFe換算で1000ppm添加したこと以外は実施例16と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0110】
比較例5
α−アルミナをアルミナ含有量で0.25重量%添加したこと、及び、酸化水酸化鉄をFe換算で500ppm添加したこと以外は実施例16と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0111】
比較例6
α−アルミナをアルミナ含有量で0.25重量%添加したこと、酸化水酸化鉄をFe換算で1000ppm添加したこと、及び、焼結温度を1450℃としたこと以外は実施例16と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0112】
比較例7
α−アルミナをアルミナ含有量で0.25重量%添加したこと、酸化水酸化鉄をFe換算で500ppm添加したこと、及び、焼結温度を1450℃としたこと以外は実施例16と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0113】
実施例23
実施例16と同様な方法で混合粉末を得た。
【0114】
得られた混合粉末を49.0MPaの圧力で一軸プレス成形後、196MPaの圧力でCIP処理して成形体を得た。
【0115】
得られた成形体を、大気中、1000℃まで50℃/時昇温し、1時間保持してバインダーを除去した後、大気中、焼結温度1400℃、昇温速度400℃/時及び焼結温度での保持時間2時間で常圧焼結して着色透光性ジルコニア焼結体を得た。得られた着色透光性ジルコニア焼結体の結晶相は正方晶の単相であった。結果を表1に示す。
【0116】
実施例24
酸化水酸化鉄をFe換算で80ppm添加したこと以外は実施例23と同様な方法で着色透光性ジルコニア焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0117】
実施例25
実施例1で得られた酸化水酸化鉄をFe換算で1700ppm添加した混合粉末12%と、実施例1において、酸化水酸化鉄を添加していない粉末(ジルコニア仮焼粉末+α−アルミナ)88%をポリ瓶の中で混合してFe換算で200ppmの混合粉末を得た。
【0118】
得られた混合粉末を49.0MPaの圧力で一軸プレス成形後、196MPaの圧力でCIP処理して成形体を得た。
【0119】
得られた成形体を、大気中、1000℃まで50℃/時昇温し、1時間保持してバインダーを除去した後、大気中、焼結温度1400℃、昇温速度400℃/時及び焼結温度での保持時間2時間で常圧焼結して着色透光性ジルコニア焼結体を得た。得られた着色透光性ジルコニア焼結体の結晶相は正方晶の単相であった。結果を表1に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
【表2】

実施例で得られた着色透光性ジルコニア焼結体は、相対密度及び全光線透過率が高い。非常に優れた着色透光性ジルコニア焼結体であり、ミルブランク、歯列矯正ブラケット等の歯科材料として利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は高い強度を有し、歯の色調に極めて近い審美性を有する。特に、自然の歯と同程度の透光性及び色調を有する。そのため、特に歯科用途で使用されるジルコニア焼結体、さらには義歯材料等のミルブランク、歯列矯正ブラケットに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄化合物及び2〜4mol%のイットリアを含み、L*a*b*表色系における明度L*が51以上80以下であり、相対密度が99.80%以上であることを特徴とする着色透光性ジルコニア焼結体。
【請求項2】
L*a*b*表色系における明度L*が51以上70以下であることを特徴とする請求項1に記載の着色透光性ジルコニア焼結体。
【請求項3】
L*a*b*表色系における明度L*が70を越え80以下であることを特徴とする請求項1に記載の着色透光性ジルコニア焼結体。
【請求項4】
試料厚さ1mm、D65光源における全光線透過率が20%以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の着色透性ジルコニア焼結体。
【請求項5】
鉄化合物の含有量がFe換算で2000ppm未満であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の着色透光性ジルコニア焼結体。
【請求項6】
鉄化合物の含有量がFe換算で500ppm以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の着色透光性ジルコニア焼結体。
【請求項7】
鉄化合物の含有量がFe換算で500ppm未満であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の着色透光性ジルコニア焼結体。
【請求項8】
着色透光性ジルコニア焼結体が、更にアルミナを含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の着色透光性ジルコニア焼結体。
【請求項9】
アルミナの含有量が0.25重量%未満であることを特徴とする請求項8に記載の着色透光性ジルコニア焼結体。
【請求項10】
140℃熱水中に24時間浸漬させた後の単斜晶相の転移深さが10μm以下であることを特徴とする請求項9に記載の着色透光性ジルコニア焼結体。
【請求項11】
140℃熱水中に72時間浸漬させた後の単斜晶相の転移深さが10μm以下であることを特徴とする請求項10に記載の着色透光性感ジルコニア焼結体。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載の着色透光性ジルコニア焼結体を用いてなる歯科材料。
【請求項13】
歯列矯正ブラケットである請求項12に記載の歯科材料。
【請求項14】
義歯、義歯ミルブランク又はその両者である請求項12に記載の歯科材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−49616(P2013−49616A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−167773(P2012−167773)
【出願日】平成24年7月27日(2012.7.27)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】