説明

着雪氷防止用組成物及びその使用、並びに液体噴射装置

【課題】車両用照明灯カバー等に付着した雪氷を十分速やかに除去でき、しかも、照射された光の散乱を十分に抑制可能な着雪氷防止用組成物を提供する。
【解決手段】ナノ微粒子及び溶剤を含有する着雪氷防止用組成物であって、その着雪氷防止用組成物の水に対する接触角が140°以上であり、ナノ微粒子は、その平均粒子径が100nm以下であり、その表面が疎水性を呈し、かつその屈折率が2.5以下である着雪氷防止用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着雪氷防止用組成物及びその使用、並びに液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機、船舶、車両(自動車車両、鉄道車両等)などの輸送機器は、通常、その外部に窓やミラー、照明灯を備えている。これらの輸送機器においては、窓やミラー、照明灯カバーといった部材に雪氷が付着すると、視野が確保できなかったり、照明灯の照射光が散乱して対向車両へのグレアになったりするため、安全性の低下が懸念される。
【0003】
従来、前照灯(ヘッドランプ)、テールランプ、標識灯など車両の外装に設けられる照明灯は、光源からの発熱量が比較的高いものであった。そのため、白熱灯やハロゲンランプ等の照明灯のカバーに雪氷が付着しても、照明灯光源からの発熱により、比較的速やかに融解除去されていた。しかしながら、近年、新たな発光原理を利用した光源が開発され、例えば放電灯(ディスチャージ)やLEDなど照明灯光源の発光効率向上に伴い、照明灯カバーにおける表面温度が低下している。その結果、照明灯カバーに付着した雪氷を速やかに除去することが困難になってきている。この傾向は、今後、照明灯光源としてLEDの採用が増加するにつれて顕著になると考えられる。
【0004】
ところで、基材等に付着した水滴を速やかに除去する手段として、例えば特許文献1〜3に記載のものが知られている。特許文献1では、水滴の滞留を防ぐことを意図して、フッ素含有率が10重量%以上であるフッ素含有熱硬化性樹脂および平均粒子径が5μm以下の粒状物を含有することを特徴とする撥水性塗膜形成用組成物が開示されている。また、特許文献2には、基材表面に塗膜を形成することにより転水性を示すコーティング組成物の提供を意図して、特定のシロキサンからなる塗膜形成要素であって、硬化させるとシリコーン樹脂の被膜を形成するもの1重量部に対し、撥水性フッ素樹脂1〜99重量部を含有し、塗膜形成時には、その表面は水との接触角に換算して150°以上の超撥水性表面を有するとともに、20°以下の水の転落角を有するようになることを特徴とする超撥水性コーティング組成物が記載されている。特許文献3には、油に対する撥油性、防汚性を兼ね備えた被覆物の形成を意図して、フルオロカーボンシランまたはその部分加水分解物、界面活性剤、pH調整剤および金属酸化物粒子を含有する特定組成の水性エマルジョンであって、pH調整剤が、水性エマルジョンのpHを3以上に調整するための酸またはアルカリであるものが提案されている。
【特許文献1】特開平6−93225号公報
【特許文献2】特開平10−316820号公報
【特許文献3】特開2005−179402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らは、上記特許文献1〜3に記載のものを始めとする、従来の組成物について詳細に検討を行ったところ、このような従来の組成物は、水滴の除去を目的としているため、着雪氷を除去するには不十分であることを見出した。また、従来の組成物は、照明灯カバーに塗布することを想定して開発されたものではないため、光を照射した際に光の散乱を十分に抑制できるものではないことが明らかになった。
【0006】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、車両用照明灯カバー等に付着した雪氷を十分速やかに除去でき、しかも、照射された光の散乱を十分に抑制可能な着雪氷防止用組成物及びその使用、並びに液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、ナノ微粒子及び溶剤を含有する着雪氷防止用組成物であって、その着雪氷防止用組成物の水に対する接触角が140°以上であり、ナノ微粒子は、その平均粒子径が100nm以下であり、その表面が疎水性を呈し、かつその屈折率が2.5以下である着雪氷防止用組成物を提供する。
【0008】
ここで、「着雪氷防止用組成物の水に対する接触角」は下記のようにして測定される数値である。まず、厚み0.7mmのガラス平板(ダウコーニング社製、#1737)の表面上に、3000回転/分のスピンコーティングにより、着雪氷防止用組成物による塗膜を形成する。次に、着雪氷防止用組成物による塗膜を乾燥する。続いて、その後のガラス平板の該表面上に、イオン交換水14μLを滴下する。そして、イオン交換水のガラス平板表面との接触角を接触角計(協和界面科学社製)で測定する。
【0009】
また、表面が疎水性を呈するナノ微粒子は、そのナノ微粒子と同一の材質からなる平板の水に対する接触角が90°以上のものを意味する。さらには、ナノ微粒子の「屈折率」は、波長589.3nmの光に対する屈折率であり、ナノ微粒子と同一の材質からなる平板を対象として測定される。なお、ナノ微粒子が、微粒子の表面を疎水化処理されてなるものである場合、上記平板は、上記微粒子と同一の材質からなる平板の表面に上述の疎水化処理と同一の処理を施したものを指す。
【0010】
本発明の着雪氷防止用組成物を車両用照明灯カバー等の表面に塗布しておくと、その上から雪氷が一旦付着しても、雪氷の自重等により十分速やかに除去される。これは、着雪氷防止用組成物の水に対する接触角が140°以上であること、並びに、ナノ微粒子の表面が疎水性であることに主に起因すると考えられる。すなわち、従来、例えば車両用照明灯カバーの表面に付着した雪氷は、そのカバー表面付近で一部融解する。雪氷は低温の地域で発生するため、更に時間が経過すると、融解したカバー表面付近の水が再度凝固する。この凝固に伴い、カバーに対する雪氷の付着力が高まり、除去が困難となる。一方、本発明の着雪氷防止用組成物を車両用照明灯カバーの表面に塗布して乾燥すると、溶剤の揮発に伴い、ナノ微粒子がカバー表面に固着する。その後、雪氷がカバー表面に付着すると、一旦融解したカバー表面付近の雪氷、すなわち水は、着雪氷防止用組成物の水に対する接触角(140°以上)及びナノ微粒子の疎水性を要因として、自重等でカバー表面から容易に移動する。そのため、雪氷は、カバー表面付近の水の凝固前に、十分速やかにカバー表面から除去されると推測される。
【0011】
また、車両用照明灯カバーの表面に本発明の着雪氷防止用組成物を塗布した後に、照明灯を点灯すると、照明灯カバーを介して外側に照射される光は、雪氷が付着していなければ、その散乱が十分に抑制されている。これは、ナノ微粒子の平均粒子径が100nm以下であること、並びにナノ微粒子の屈折率が2.5以下であることに主に起因すると推測される。すなわち、ナノ微粒子の平均粒子径が100nmを超えて、可視光の波長(約400〜800nm)に近づくと、たとえその屈折率が2.5以下であっても光は散乱し、着雪氷の有無に関わらず、路面上の所定の場所を所定の照度で照明することが困難となる。さらに、配光パターンが崩れるため、照射される光は対向車に対してグレア(迷光)となる。また、ナノ微粒子の屈折率が2.5を超えると、たとえその平均粒子径が100nm以下であっても、ナノ微粒子表面において可視光が屈折、散乱する。一方、本発明のようにナノ微粒子の平均粒子径が100nmであって、しかもその屈折率が2.5以下であると、そのナノ微粒子が車両用照明灯カバーに固着しても、そのナノ微粒子を透過する光の散乱幅は非常に小さい。そのため、本発明の着雪氷防止用組成物を用いると、グレアの低減、すなわち防眩性の向上や、その照明灯を備えた車両に乗った人の視認性の改善が十分となる。
【0012】
また、ナノ微粒子は、金属酸化物を主成分として含む微粒子の表面を疎水化処理してなる微粒子、あるいは、フッ素化合物、ケイ素化合物及び主鎖が3以上の炭素−炭素結合を有する炭化水素化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物を主成分として含むものであってもよい。
【0013】
また、ナノ微粒子は、金属酸化物を主成分として含む微粒子の表面を疎水化処理剤により疎水化処理してなる微粒子であり、上記疎水化処理剤は、フッ化炭素鎖を有する化合物、シラン化合物及びシラザン化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物を主成分として含むものであってもよい。
【0014】
本発明は、上述の着雪氷防止用組成物を充填するための充填手段と、その充填手段に充填された着雪氷防止用組成物を外部に噴射するための噴射手段とを備える液体噴射装置を提供する。
【0015】
また、本発明は、上述の着雪氷防止用組成物を透明部材又は鏡面に噴射して、その透明部材の表面又は鏡面にナノ微粒子を付着させる着雪氷防止用組成物の使用を提供する。
【0016】
このような装置及び使用は、車両用照明灯カバー等の着雪氷防止用組成物の被塗布基材に、ナノ微粒子を十分均一に分散させて塗布することができる。その結果、着雪氷防止用組成物による上述の作用効果が、十分効率的かつ確実に発揮される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、車両用照明灯カバー等に付着した雪氷を十分速やかに除去でき、しかも、照射された光の散乱を十分に抑制可能な着雪氷防止用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。ただし、図2、3については、図面の向かって左側を上側とする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0019】
本実施形態の着雪氷防止用組成物は、ナノ微粒子及び溶剤を含有するものである。
【0020】
ナノ微粒子は、その表面が疎水性を呈し、常温で固体状の微粒子であり、平均粒子径が100nm以下、かつ屈折率が2.5以下のものであれば、材質や形状は特に限定されない。
【0021】
ナノ微粒子は、その表面に疎水性を付与するために、金属酸化物を主成分として含む被処理微粒子の表面を疎水化処理剤により疎水化処理してなるものであってもよい。ここで、被処理微粒子の材質である金属酸化物としては、例えば、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化セリウム(CeO)、酸化クロム(Cr)、酸化ガリウム(Ga)、酸化ニッケル(NiO)、酸化マグネシウム(MgO)三酸化アンチモン、酸化べリリウム、二酸化ハフニウム(HfO)、ITO(In+SnO)、五酸化ニオブ(Nb)、五酸化タンタル(Ta)、酸化イットリウム(Y)、酸化タングステン(WO)、一酸化チタン(TiO)、二酸化チタン(TiO)、五酸化チタン(Ti)、酸化亜鉛(ZnO)、ジルコン(ZrO・SiO)、ケイ酸ジルコン(ZrSiO)酸化ランタン、ゼオライト、タルク(3MgO・4SiO・HO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化スカンジウム及び酸化トリウムが挙げられる。あるいは、被処理微粒子の材質として、金属酸化物に代えて、金属窒化物や金属硫化物、金属フッ化物、金属水酸化物、金属炭酸塩及び金属炭化物などの金属化合物を採用してもよい。
【0022】
金属窒化物としては、例えば窒化ケイ素(SiN)、窒化ガリウム(GaN)が挙げられる。金属硫化物としては、例えば硫化亜鉛(ZnS)、硫化カドミウム(CdS)が挙げられる。金属フッ化物としては、例えばクリオライト(NaAlF)、チオライト(NaAl14)、フッ化セリウム(CeF)、フッ化鉛(PbF)、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化ランタン(LaF)が挙げられる。金属水酸化物としては、例えば水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))が挙げられる。金属炭酸塩としては、例えば炭酸カルシウム(CaCO)、ハイドロタルサイトが挙げられる。金属炭化物としては、例えば炭化ケイ素(SiC)が挙げられる。
【0023】
これらの材質は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0024】
疎水化処理剤としては、例えば、フッ化炭素鎖を有する化合物、シラン化合物、シラザン化合物、ポリオルガノシロキサン、ポリシランが挙げられる。より具体的には、フッ化炭素鎖を有する化合物として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、プロピレン/テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル系フッ素ゴムが挙げられる。
【0025】
シラン化合物は、1分子中に、疎水性、若しくは有機物に対して親和性及び/又は反応性を有する置換基と、無機、金属材料に対して親和性及び/又は反応性を有する加水分解性基とを有するものをいう。このようなシラン化合物としては、例えば、下記一般式(I)で表されるものが挙げられる。
−SiR3−n (I)
【0026】
式(I)中、Rは疎水性、若しくは有機物に対して親和性及び/又は反応性を有する置換基を示す。そのような置換基としては、例えば、炭化水素基、フッ化水素基が挙げられる。Rは水素原子、炭化水素基などの置換基を示す。ここで、Rが疎水性、若しくは有機物に対して親和性及び/又は反応性を有する置換基であってもよく、R及びRが、互いに同じ置換基であっても異なる置換基であってもよい。
【0027】
Xは加水分解性基を示す。Xの具体例としては、塩化物基(塩素原子)、エトキシ基、メトキシ基などのアルコキシ基、水酸基が挙げられる。また、nは1〜3の整数を示す。
【0028】
上記シラン化合物としては、例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、トリフロロプロピルトリクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリエトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラ−ハイドロデシル)ジメチルクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラ−ハイドロデシル)メチルジクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラ−ハイドロデシル)トリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラ−ハイドロデシル)トリエトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラ−ハイドロデシル)トリメトキシシラン、パーフルオロドデシル−1H,1H,2H,2H−トリエトキシシラン、パーフルオロドデシル−1H,1H,2H,2H−トリメトキシシラン、パーフルオロテトラデシル−1H,1H,2H,2H−トリエトキシシラン、パーフルオロテトラデシル−1H,1H,2H,2H−トリメトキシシラン、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラハイドロオクチル)トリエトキシシラン、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラハイドロオクチル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン及び(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシランが挙げられる。
【0029】
シラザン化合物としては、例えば、2,2,4,4,6,6,8,8−オクタメチルシクロテトラシラザン、1,3−ジメチル−1,1,3,3−テトラフェニルジシラザン、1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、2,2,4,4,6,6−ヘキサメチルシクロトリシラザン、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン、ヘプタメチルジシラザン、2,2,4,4,6,6−ヘキサメチルシクロトリシラザン、1,3−ビス(クロロメチル)テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(クロロメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(3,3,3−トリフルオロプロピル)テトラメチル−ジシラザン、1,3−ジブチル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ジオクタデシルテトラメチルジシラザン、1,3−ジ−n−オクチルテトラメチルジシラザン、1,3−ジフェニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、トリス(トリメチルシリル)アミンノナメチルトリシラザン、1,3−ジプロピル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシラザン及び2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリビニルシクロトリシラザンが挙げられる。
【0030】
ポリオルガノシロキサンとしては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ビニル基含有ポリシロキサン及びポリシルセスキオキサン、並びに、これらのポリオルガノシロキサン分子の一部分にエポキシ基やアミノ基、カルボキシル基、アクリル基、カルビノール基、メルカプト基などの官能基や高級脂肪酸、長鎖アルキル基、メチルスチレン基などで変性した変性ポリシロキサンが挙げられる。
【0031】
上記疎水化処理剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0032】
なお、ナノ微粒子の表面に疎水性を付与する手段としては、疎水化処理剤を用いる以外に、例えば、ナノ微粒子の表面に、気体状又は固体状の炭化水素類、ケイ素化合物類、フッ素化合物類の膜を、蒸着、物理気相成長法(PVD)若しくは化学気相成長法(CVD)によって設ける手段が挙げられる。
【0033】
金属酸化物を主成分として含む微粒子の表面を疎水化処理してなる微粒子の製造方法は、例えば以下のとおりである。すなわち、まず、溶剤の中に疎水化処理剤を添加する。次に、その溶剤中に、金属酸化物を主成分として含む微粒子を更に添加する。あるいは、溶剤の中に疎水化処理剤及び金属酸化物を同時に添加してもよい。その後、速やかに超音波洗浄機等を用いて、疎水化処理剤及び金属酸化物を添加された溶剤を所定時間撹拌する。こうして、金属酸化物を主成分として含む微粒子の表面を疎水化処理してなる微粒子が得られる。なお、疎水化処理剤よりも前に微粒子を溶剤中に添加したり、あるいは、それらを溶剤中に添加した後、しばらく静置したりすると微粒子が二次凝集してしまい、二次粒子の表面のみ疎水化処理される傾向にある。したがって、金属酸化物を主成分として含む微粒子を溶剤に添加するよりも前に、溶剤の撹拌を開始することが好ましい。
【0034】
また、ナノ微粒子は、その表面が疎水性を呈するように、フッ素化合物、ケイ素化合物及び主鎖が炭素数3以上の炭素−炭素結合を有する炭化水素化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物を主成分として含む微粒子であってもよい。フッ素化合物としては、フッ化炭素鎖を有する化合物が挙げられる。また、ケイ素化合物としては、例えば、シラン化合物、シラザン化合物、ポリオルガノシロキサン、ポリシランが挙げられる。これらの化合物の具体例としては、上述の疎水化処理剤として例示したものが同様に挙げられる。
【0035】
これらの具体例としては、例えば、上述の疎水化処理剤として例示したものが同様に挙げられる。
【0036】
主鎖が炭素数3以上の炭素−炭素結合を有する炭化水素化合物は、炭化水素化合物であってもよく、その誘導体であってもよい。それら炭化水素化合物及びその誘導体としては、例えば、アルカン、アルケン、芳香族化合物、脂肪酸ワックス、トリグリセリド、脂肪酸、脂肪アルコール、パラフィン、ナフテン酸、α−オレフィン、ポリオレフィン、アルキルベンゼン、アルキルフェノール、高級アルコール、ポリオキシアルキレングリコールが挙げられる。これらは公知のナノ微粒子の製造方法により製造することができる。
【0037】
これらのナノ微粒子は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0038】
上述のナノ微粒子の中では、金属酸化物を主成分として含む被処理微粒子の表面を疎水化処理剤により疎水化処理してなるものが好ましい。これを用いることにより、その他のフッ素化合物やケイ素化合物等と比較して透明性が高くなる。ナノ微粒子が金属酸化物である場合、その金属酸化物表面に化学結合若しくは物理吸着する疎水化処理剤を選択することによって分散性が向上するため、ナノ微粒子同士の凝集が減少して、光が透過しやすくなる、という利点がある。
【0039】
ナノ微粒子の平均粒子径は100nm以下であればよいが、1〜100nmであると好ましく、3〜80nmであるとより好ましい。この平均粒子径が1nm未満であると、その二次凝集が容易に起こる傾向にある。その結果、ナノ微粒子の平均粒子径が1nm未満であっても、100nmを超えても、透過光の散乱程度が大きくなる傾向にあるので、それを抑制する観点から、1〜100nmであることが好ましい。なお、ナノ微粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱法、微分型静電分級器(Differential Mobility Analyzer、DMA)、動的光散乱法、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、X線回折によって測定される。また、これらの測定法間で検量した数値を採用してもよい。
【0040】
ナノ微粒子の屈折率は2.5以下であればよいが、1.3〜2.5であると好ましく、1.35〜2.50であるとより好ましい。この屈折率が上記下限値未満のナノ微粒子は、製造することが極めて困難であり、2.5を超えると、ナノ微粒子の透過光の散乱程度が大きくなる傾向にある。
【0041】
ナノ微粒子の屈折率は、上記数値範囲内に収まるよう、単独種又は2種以上の材質を選択することによって調整されてもよい。あるいは、屈折率の低い疎水化処理剤を選択し、それをナノ微粒子表面に反応若しくは吸着させることによって屈折率を調整してもよい。
【0042】
ナノ微粒子の形状は、針状、鱗片状、板状、球状等特に問わないが、透明性の観点から球状が好ましい。形状に異方性があると見る角度によって着色したり、透過率が低下する傾向がある。
【0043】
本実施形態の着雪氷防止用組成物に含有される溶剤は、ナノ微粒子が不溶又は難溶なものであれば特に限定されず、例えば、水、アルコール、ケトン等の極性溶媒であってもよく、ヘキサン、トルエン等の非極性溶媒であってもよい。溶剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中では、人体に対する安全性、基材に塗布した時の揮発性及びナノ微粒子の分散性の観点から、アルコールが好ましく、メタノール、エタノール及びプロパノールからなる群より選ばれる1種以上のアルコールが特に好ましい。
【0044】
着雪氷防止用組成物における上記ナノ微粒子の配合割合は、着雪氷防止用組成物の総質量に対して、0.01〜50質量%であると好適であり、0.05〜30質量%であると、基板に着雪氷防止用組成物を塗布した時の透明性が更に優れることから、より好適である。この配合割合が上記下限値を下回ると、着雪氷を防止する効果が低下する傾向にあり、上記上限値を上回ると、透明性が低下する傾向にある。
【0045】
本実施形態の着雪氷防止用組成物は、ナノ微粒子及び溶剤の他、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防さび剤、防曇剤、耐電防止剤などの任意成分を、本発明の目的達成を阻害しない限りにおいて含有してもよい。これらの任意成分は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0046】
これらのうち、着雪氷防止用組成物が界面活性剤を含有すると、ナノ微粒子の分散性がより高くなる。これにより、着雪氷防止用組成物を基材表面に塗布した際に、ナノ微粒子が適切な間隔をもって基材表面上に配置されるため、着雪氷防止用組成物の水に対する接触角の調整が容易になる。また、界面活性剤は、基材表面の洗浄液としても作用する。界面活性剤は、分子内に疎水性を示す部分及び親水性を示す部分の両方を有するものであれば種類は問わない。界面活性剤は、例えば、大きく分類すると陰イオン型、陽イオン型、両性型、非イオン型のものが挙げられる。
【0047】
陰イオン型界面活性剤としては、例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩、ホスホン酸塩などの化合物が挙げられる。陽イオン型界面活性剤としては、例えば、アミン塩、四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、ポリエチレンポリアミンなどの化合物が挙げられる。両性型界面活性剤としては、例えば、アミノ酸、ベンタイン、アミノ硫酸エステル、スルホベタイン等の化合物が挙げられる。非イオン型界面活性剤としては、例えば、多価アルコール、シラン、グリセリン、グルコース、ソルビトール、しょ糖、アミノアルコール、ポリエチレングリコール、アミンオキシド、スルホキシド、アミンイミドなどの化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0048】
本実施形態の着雪氷防止用組成物は撥水性を呈し、その水に対する接触角が140°以上であり、140〜180°であると好ましく、150〜180°であるとより好ましい。水に対する接触角が140°を下回ると、着雪氷防止機能が低下する。
【0049】
本実施形態の着雪氷防止用組成物の水に対する接触角は、ナノ微粒子の表面における材質や疎水化処理剤の種類、平均粒子径、屈折率、並びに、ナノ微粒子と疎水化処理剤とその他の添加剤との配合割合を調整することにより、140°以上にすることが可能となる。これは、接触角を測定する際に用いるガラス平板上に、多数のナノ微粒子が固着することで、イオン交換水を滴下した際に、ガラス平板の表面とナノ微粒子とイオン交換水とに囲まれる大気空間が生じるためである。
【0050】
本実施形態の着雪氷防止用組成物は、そのヘーズが3.0%以下であると好ましく、0.1〜3.0%であるとより好ましい。ヘーズが3.0%を超える場合、車両用照明灯カバー等の透明基材表面や鏡面に着雪氷防止用組成物を塗布すると、透光性や反射性といった透明基材や鏡面の本来的な機能が十分に発揮され難くなる。
【0051】
ここで、ヘーズは下記のようにして測定される数値である。まず、厚み0.7mmのガラス平板(ダウコーニング社製、#1737)の表面上に、3000回転/分のスピンコーティングにより、着雪氷防止用組成物による塗膜を形成する。次に、着雪氷防止用組成物による塗膜を乾燥する。そして、その後のガラス平板のヘーズを、ヘーズコンピュータ(スガ試験機社製)を用いて測定する。
【0052】
本実施形態の着雪氷防止用組成物は、例えば下記のようにして調製される。まず、ナノ微粒子及び溶剤、並びに、必要に応じて界面活性剤等の任意成分を準備する。ナノ微粒子は乾燥した状態であってもよく、あるいは、上記溶剤中で合成したものを、その溶剤と共に準備してもよい。次に、準備した各成分を混合、撹拌することによって、本実施形態の着雪氷防止用組成物が得られる。
【0053】
本実施形態の着雪氷防止用組成物は、車両用照明灯カバー等の基材表面に塗布されると、その上に付着した雪氷を十分速やかに除去できる。また、基材が透明基材である場合、その基材表面に本実施形態の着雪氷防止用組成物が塗布されると、透明基材に照射された光の散乱が十分に抑制される。これにより、透明基材が車両用照明灯カバーである場合、グレアの発生や自車の視認性低下を防止することが可能となる。
【0054】
また、本実施形態の着雪氷防止用組成物が熱硬化性樹脂や紫外線硬化性樹脂等のバインダー成分を含有しない場合、ナノ微粒子は極めて微細な粒子であるため、基材表面への固着性が、それよりも大きな粒子径を有する粒子よりも向上する傾向にある。そこで、照射光の散乱を抑制する観点から、それらのバインダー樹脂を含有しない場合であっても、高い固着性を確保することができる。また、この場合、ナノ微粒子が基材表面から脱落しても、着雪氷防止用組成物を一回基材表面に塗布して自然乾燥させるだけで、ナノ微粒子を再度基材表面に固着させることができ、着雪氷の防止効果が発揮される。そのため、容易に着雪氷防止用組成物を繰り返し塗布することができる。すなわち、補修性に優れているといえる。
【0055】
さらには、本実施形態の着雪氷防止用組成物は、ナノ微粒子として高価なもの(例えばポリテトラフルオロエチレン)や、上述のバインダー成分を含有させる必要はないことから、低コストで製造することができる。ポリテトラフルオロエチレンによるナノ微粒子は、現状市販されていないため、これを用いた着雪氷防止用組成物は、生産コストが高くなる。
【0056】
次に、本実施形態の着雪氷防止用組成物を噴射するための液体噴射装置について説明する。この液体噴射装置は、上記着雪氷防止用組成物を充填するための充填手段と、充填手段から噴射手段へ着雪氷防止用組成物を搬送するための搬送手段と、充填手段に充填された着雪氷防止用組成物を外部に噴射するための噴射手段とを備えるものである。図1〜3を参照しつつ、この液体噴射装置の一実施態様について更に詳細に説明する。
【0057】
図1は、本実施形態の液体噴射装置の一例であるヘッドランプクリーナの模式斜視図である。このヘッドランプクリーナは車両用前照灯カバーに着雪氷防止用組成物を吹き付ける装置である。ヘッドランプクリーナ100は、充填ユニット110と、その充填ユニット110に取り付けられたポンプユニット120と、噴射ユニット130と、ポンプユニット120及び噴射ユニット130を連結する搬送管140と、によって構成されている。ヘッドランプクリーナ100は、少なくともその使用時には、接続された各部材間で着雪氷防止用組成物が移動可能なようにその内部が連通している。
【0058】
充填ユニット110は、着雪氷防止用組成物をその内部に充填するためのユニットであり、着雪氷防止用組成物を充填できるように内部に空間を有する筐体である。図1において、充填ユニット110は直方体形状を有しているが、その形状は特に限定されない。また、充填ユニット110には着雪氷防止用組成物を補充するための組成物供給管115が接続されている。
【0059】
ポンプユニット120は、充填ユニット110から搬送管140に着雪氷防止用組成物を送り出すと共に、噴射ユニット130からの着雪氷防止用組成物の噴射を可能にするためのポンプ部材である。このポンプユニット120は、例えば、ウィンドウ洗浄液の送出及び噴射に用いられるポンプ部材と同様のものであってもよい。
【0060】
搬送管140は、ポンプユニット120によって充填ユニット110から送出された着雪氷防止用組成物を、噴射ユニットまで搬送するための管状体である。図1において、搬送管140は、ポンプユニット120に接続した第1ライン141、T字継手142、第2ライン143、第1L字継手144、第3ライン145、第2L字継手146及び第4ライン147の順に連結されている。なお、図1では、T字継手142から手前側の搬送管140の各部材は省略しているが、上述の各ライン及び各継手と同様に連結されている。
【0061】
噴射ユニット130は、着雪氷防止用組成物を噴射するためのユニットであり、特開2005−178568号公報に記載された洗浄装置1と同様のものであってもよい。噴射ユニット130は、そのバックキャップ136によって、搬送管140と連結されている。噴射ユニット130は、バックキャップ136の他、バックキャップ136に接続した本体部132と、その本体部132のバックキャップとは反対側に接続した給液体138と、給液体138の本体部132とは反対側に接続した噴射ノズル154と、を備えている。
【0062】
充填ユニット110に充填されている着雪氷防止用組成物5は、まず、ポンプユニット120によって、充填ユニット110から搬送管140に送り出される。送り出された着雪氷防止用組成物5は、搬送管140の各部材内部を通過して、バックキャップ136から噴射ユニット130に供給される。噴射ユニット130に供給された着雪氷防止用組成物5は、その本体部132及び給液体138を経由して、噴射ノズル154から車両用前照灯カバーに噴射される。
【0063】
次に、噴射ノズルから車両用前照灯カバーに着雪氷防止用組成物を噴射塗布する使用態様について、より詳細に説明する。図2は、着雪氷防止用組成物を噴射塗布しない時の噴射ノズルの状態を、一部を断面にして車両用前照灯と共に示す模式側面図である。また、図3は、着雪氷防止用組成物を噴射塗布している時の噴射ノズルの状態を、一部を断面にして車両用前照灯と共に示す模式側面図である。
【0064】
まず、車両用前照灯の概要について説明する。車両用前照灯200は照射ユニット201を備え、その照射ユニット201は車両用前照灯カバー(以下、単に「前照灯カバー」と表記する。)202と前照灯ボディ203とによって取り囲まれ形成された空間204内に配置されている。
【0065】
照射ユニット201はインナーパネル205と、そのインナーパネル205の後端部に取り付けられた反射鏡206と、その反射鏡206に取り付けられた光源207と、その光源207から前方へ向けて出射された光を投影する投影レンズ208とを備え、その投影レンズ208がインナーパネル205に形成された開口205aから前方に突出されている。反射鏡206によって形成された空間209には遮光部材210が配置されている。遮光部材210は光源207の前方に位置され、光源207から出射された下向きの光を遮ると共に車両用配光における明暗境界を限定する役割を果たす。
【0066】
前照灯カバー202の下側にはカバー体211が配置され、そのカバー体211は、透明材料によって形成されたレンズ部211aと、不透明材料によって形成された反射部211bとによって構成されている。カバー体211にあっては、レンズ部211aを通して反射部211bが視認され、反射部211bの後方に配置された後述する洗浄装置は視認されないようになっている。
【0067】
カバー体211には後方へ突出された取付部212が設けられている。前照灯ボディ203の下面部203aには、その下側へ突出された保持部材213a、bが取り付けられている。
【0068】
次に、噴射ユニットの態様について、より詳細に説明する。噴射ユニット130は、その本体部132が前照灯ボディ203の下面部203aに設けられた保持部材213a、bに保持されている。本体部132は前後に長い円筒状であるシリンダー133とそのシリンダー133に前後方向へ摺動自在に支持されたピストン134とを備えている。ピストン134は前後方向に長い略円筒状に形成されている。
【0069】
カバー体211は、ピストン134に連結された給液体138から突出された取付部212に取り付けられている。シリンダー133の後端部にはバックキャップ136が外嵌状に取り付けられている。バックキャップ136は、本体部132と搬送管140とを連結するL字状の継手である。
【0070】
一方、給液体138の先端に取り付けられた噴射ノズル154には、使用時に着雪氷防止用組成物5が前照灯カバー202に吹き付けられるよう、噴射口154aが設けられている。なお噴射ノズル154は、その内部の流路面積が部分的に狭くなっている。
【0071】
次に、噴射ユニット130の動作について説明する。使用されていない状態、すなわち、着雪氷防止用組成物5がシリンダー133に供給されていない非使用時においては、シリンダー133の内部に配置された引張コイルバネ(図示せず。)のバネ力によって、ピストン134がその先端部を除いてシリンダー133の内部に引き込まれた状態とされている(図2参照)。
【0072】
充填ユニット110から着雪氷防止用組成物がポンプユニット120によって、搬送管140を経由して、シリンダー133の内部に圧送されてくると、着雪氷防止用組成物5はシリンダー133から給液体138まで供給される。シリンダー133内における着雪氷防止用組成物5の液圧が高まると、その液圧によってピストン134がシリンダー133から突出されていき、これに伴って、噴射ノズル154、給液体138及びカバー体211が一体となって車体の外側へ突出されていく(図3参照)。
【0073】
ピストン134がシリンダー133から所定の位置まで突出され、シリンダー133内の着雪氷防止用組成物5の液圧が更に高まってその液圧が所定以上の値になると、給液体138に配置されたバルブ(図示せず。)が開き、着雪氷防止用組成物5が噴射ノズル154に達する。
【0074】
着雪氷防止用組成物5は、噴射ノズル154の噴射口154aから車両用前照灯200の前照灯カバー202の表面へ向けて噴射される。噴射された着雪氷防止用組成物は、前照灯カバー202の表面に塗布され、ナノ微粒子がそこに付着する。
【0075】
噴射口154aから着雪氷防止用組成物5が噴射される直前においては、噴射ノズル154の流路面積が狭くなっている部分によって流路が変化して乱流が生じ、噴射口154aから一定の広がりを有した状態で着雪氷防止用組成物5が噴射される。したがって、前照灯カバー202に対して一定の広がりを有した状態の着雪氷防止用組成物5が噴射され、着雪氷の除去効率を向上することができる。
【0076】
充填ユニット110からの着雪氷防止用組成物のシリンダー133への供給が停止されると、液圧の低下に伴い、給液体138内部に備えられた皿バネ(図示せず。)のバネ力によってバルブ(図示せず。)が閉じられる。更に液圧が低下することによりピストン134が上記引張コイルバネ(図示せず。)のバネ力によってシリンダー133内に引き込まれ、これに伴って、噴射ノズル154、給液体138及びカバー体211が洗浄前の元の位置に戻る。
【0077】
このヘッドランプクリーナ100及び着雪氷防止用組成物5の使用によると、前照灯カバー202の全体に、均一にナノ微粒子を付着させるので、効率よく着雪氷を脱落除去することができる。また、噴射ユニット130を着雪氷防止用組成物5の塗布時に車体から外側へ突出させ、非使用時に車体の内側へ収納するようにしているので、必要な場合にのみ噴射ユニット130が車体から突出され、非使用時において車両の良好な見栄えを確保することができると共に噴射ユニット130の損傷の防止を図ることができる。
【0078】
さらには、着雪氷防止用組成物5を前照灯カバー202に噴射塗布した後は、自然乾燥により溶剤が揮発し、ナノ微粒子が容易に前照灯カバー202の表面に固着する。したがって、ポンプユニット120を車内で起動できるようにすれば、車両の運転を止めて、外に出て前照灯カバー202に着雪氷防止用組成物を塗布する必要がなくなる。また、着雪氷防止用組成物がバインダー成分を含有していなければ、ナノ微粒子が前照灯カバー202の表面から脱落除去された後に、前照灯カバー202の表面を洗浄する必要ないので、その繰り返しの使用が極めて容易になる。そして、上述から明らかなように、一回の着雪氷防止用組成物の噴射塗布及び乾燥により、ナノ微粒子が前照灯カバー202の表面上に固着する。すなわち、本実施形態のヘッドランプクリーナ100及び着雪氷防止用組成物5の使用は、補修性に非常に優れている。
【0079】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、車両用前照灯カバーに着雪氷防止用組成物を噴射塗布する場合を説明したが、その他の透明基材の表面や鏡面、例えば、車両用のテールランプ、フロントガラス、リアガラスやドアミラー等に対して着雪氷防止用組成物を噴射塗布する場合にも応用できる。
【0080】
また、着雪氷防止用組成物の塗布は噴射以外の塗布手段を用いてもよい。
【実施例】
【0081】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
[着雪氷防止用組成物の調製]
(実施例1〜9)
表1に示す微粒子(粒子)と疎水化処理剤とを、質量比80/15のエタノール/イソプロパノール混合溶液に添加して混合物を得た。混合物全量に対する微粒子及び疎水化処理剤の配合割合を表2に示す。なお、実施例5における両疎水化処理剤の配合比は質量比で1/1とした。その後、その混合物を超音波洗浄機中で5分間撹拌した。これにより、微粒子表面に疎水化処理剤が吸着したナノ微粒子を含有する着雪氷防止用組成物を得た。表1中、平均粒子径は動的光散乱法を用いた粒度分布計よって測定された数値である。
【0083】
なお、シリカ粒子は、テトラエトキシシランをアンモニア水の存在下で加水分解させることにより作製した。ジルコニア粒子は、原料となるジルコニア粒子((株)ニッカトー社製、商品名「YTZ」、平均粒子径0.1mm)を、プラズマ炎中で溶融した後、急冷させることにより得た。
【0084】
(比較例1)
表1に示す粒子を、質量比80/15のエタノール/イソプロパノール混合溶液に添加して混合物を得た。混合物全量に対する粒子の配合割合を表2に示す。その後、その混合物を超音波洗浄機中で5分間撹拌して組成物を得た。なお、粒子は、三井デュポンフロロケミカル社製のものを用いた。
【0085】
(比較例2、4〜6)
表1に示す粒子と疎水化処理剤とを、質量比80/15のエタノール/イソプロパノール混合溶液に添加して混合物を得た。混合物全量に対する粒子及び疎水化処理剤の配合割合を表2に示す。その後、その混合物を超音波洗浄機中で5分間撹拌した。これにより、粒子表面に疎水化処理剤が吸着したものを含有する組成物を得た。なお、シリカ粒子は、実施例と同様のものを用い、チタニア粒子は、石原産業(株)社製、商品名「TTO−55」を用いた。
【0086】
(比較例3)
質量比80/15のエタノール/イソプロパノール混合溶液に(ヘプタデカフロロ−1,1,2,2,−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン(以下、「特定のシラン化合物」と表記する。)を添加して第1の混合物を得た。混合物中の特定のシラン化合物の配合割合は2.5質量%とした。次いで、その第1の混合物を70℃で5時間乾留して、特定のシラン化合物の縮重合を進行させた。これとは別に、質量比80/15のエタノール/イソプロパノール混合溶液に、表1に示す粒子を添加して得られた混合物を超音波洗浄機中で5分間撹拌して第2の混合物を得た。この第2の混合物中の粒子の配合割合を表2に示す。
【0087】
【表1】



【0088】
【表2】



【0089】
[水に対する接触角の測定]
まず、厚み0.7mmのガラス平板(ダウコーニング社製、#1737)の表面上に、3000回転/分のスピンコーティングにより、実施例及び比較例で得られた組成物(比較例3を除く。)による塗膜を形成した。次に、組成物による塗膜を常温で乾燥し、その後のガラス平板の該表面上に、イオン交換水14μLを滴下した。そして、イオン交換水のガラス平板表面との接触角を接触角計(協和界面科学社製)で測定した。なお、比較例3については、まず、上記ガラス平板の表面上に、3000回転/分のスピンコーティングにより、第2の混合物による塗膜を形成した。次に、その塗膜を常温で乾燥した後、その上から、3000回転/分のスピンコーティングにより、第1の混合物による塗膜を形成した。次いで、その塗膜を常温で乾燥し、その後のガラス平板の該表面上に、イオン交換水14μLを滴下した。そして、イオン交換水のガラス平板表面との接触角を上記接触角計で測定した。結果を表2に示す。
【0090】
また、塗膜を乾燥した後のガラス平板を、1週間屋外に放置した。その後に、そのガラス平板の該表面上に、イオン交換水14μLを滴下した。そして、イオン交換水のガラス平板表面との接触角を接触角計(協和界面科学社製)で測定した。結果を「曝露後接触角」として表2に示す。
【0091】
[ヘーズの測定]
まず、厚み0.7mmのガラス平板(ダウコーニング社製、#1737)の表面上に、3000回転/分のスピンコーティングにより、実施例及び比較例で得られた組成物(比較例3を除く。)による塗膜を形成した。次に、組成物による塗膜を常温で乾燥した。そして、その後のガラス平板のヘーズを、ヘーズコンピュータ(スガ試験機社製)を用いて測定した。なお、比較例3については、まず、上記ガラス平板の表面上に、3000回転/分のスピンコーティングにより、第2の混合物による塗膜を形成した。次に、その塗膜を常温で乾燥した後、その上から、3000回転/分のスピンコーティングにより、第1の混合物による塗膜を形成した。次に、その塗膜を常温で乾燥し、その後のガラス平板のヘーズを、上記ヘーズコンピュータを用いて測定した。結果を表2に示す。
【0092】
[着雪性の評価]
まず、実施例及び比較例で得られた組成物(比較例3を除く。)を、上記ヘッドランプクリーナ100と同様の液体噴射装置における充填ユニットに充填した。次に、150mm角のポリカーボネート平板を所定位置に設置した。次いで、液体噴射装置から組成物を噴射して、ポリカーボネート平板の表面に噴射塗布した。そして、得られた塗膜を常温で乾燥して着雪性評価用の試験片を得た。
【0093】
なお、比較例3については、まず、第2の混合物を上記ヘッドランプクリーナ100と同様の液体噴射装置における充填ユニットに充填した。また第1の混合物を、上記ヘッドランプクリーナ100と同様の別の液体噴射装置における充填ユニットに充填した。次いで、150mm角のポリカーボネート平板を所定位置に設置した。次に、液体噴射装置から第2の混合物を噴射して、ポリカーボネート平板の表面に噴射塗布した。次いで、得られた塗膜を常温で乾燥した後、その塗膜上に、別の液体噴射装置から第1の混合物を噴射塗布した。そして、その塗膜を常温で乾燥して着雪性評価用の試験片を得た。
【0094】
続いて、塗膜を形成した面を上側に向けた状態で、水平から60°の角度をなすように試験片を傾けた。そして、試験片の塗膜を形成した面に、密度0.1〜0.2g/mLの人工雪を1時間降雪し、その際に塗膜を形成した面上の着雪程度を目視にて観察した。その面の全面積に対して80%以下の部分に着雪が認められた場合をA、80%よりも大きな部分に着雪が認められた場合Bと評価した。結果を表2に示す。
【0095】
実施例1と比較例1、2との対比から、粒子の平均粒子径が100nmよりも大きくなると、ヘーズが低下することが分かった。これは、その粒子による光の散乱が大きくなることに基づく。
【0096】
また、実施例1と比較例6との対比から、粒子の屈折率が2.5よりも大きくなると、ヘーズが低下することが明らかになった。これは、その粒子における光の屈折程度が大きくなることに基づく。
【0097】
実施例1、2と比較例4、5との対比から、粒子に対する疎水化処理剤の添加量が減少すると、水に対する接触角が低下し、その接触角が140°未満になると着雪しやすくなることが判明した。
【0098】
また、比較例3のように、2回の噴射と2回の乾燥が必要になる態様は、速やかなナノ微粒子の供給が困難となるため、補修性に優れているとはいえない。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の着雪氷防止用組成物は、車両用のガラスやミラーのみならず、家庭用などの一般の窓ガラス、衣服布地、建材接合部等における着雪氷防止にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の実施形態に係る液体噴射装置の模式斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る着雪氷防止用組成物を噴射塗布しない時の噴射ノズルの状態を、一部を断面にして車両用前照灯と共に示す模式側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る着雪氷防止用組成物を噴射塗布している時の噴射ノズルの状態を、一部を断面にして車両用前照灯と共に示す模式側面図である。
【符号の説明】
【0101】
5…着雪氷防止用組成物、100…ヘッドランプクリーナ、110…充填ユニット、120…ポンプユニット、130…噴射ユニット、132…本体部、133…シリンダー、134…ピストン、136…バックキャップ、138…給液体、140…搬送管、154…噴射ノズル、200…車両用前照灯、201…照射ユニット、202…前照灯カバー、203…前照灯ボディ、211…カバー体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ微粒子及び溶剤を含有する着雪氷防止用組成物であって、
その着雪氷防止用組成物の水に対する接触角が140°以上であり、
前記ナノ微粒子は、その平均粒子径が100nm以下であり、その表面が疎水性を呈し、かつその屈折率が2.5以下である、着雪氷防止用組成物。
【請求項2】
前記ナノ微粒子は、金属酸化物を主成分として含む微粒子の表面を疎水化処理してなる微粒子、あるいは、フッ素化合物、ケイ素化合物及び主鎖が炭素数3以上の炭素−炭素結合を有する炭化水素化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物を主成分として含む微粒子である、請求項1記載の着雪氷防止用組成物。
【請求項3】
前記ナノ微粒子は、金属酸化物を主成分として含む微粒子の表面を疎水化処理剤により疎水化処理してなる微粒子であり、前記疎水化処理剤は、フッ化炭素鎖を有する化合物、シラン化合物及びシラザン化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物を主成分として含む微粒子である、請求項1又は2に記載の着雪氷防止用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の着雪氷防止用組成物を充填するための充填手段と、前記充填手段に充填された前記着雪氷防止用組成物を外部に噴射するための噴射手段と、を備える、液体噴射装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の着雪氷防止用組成物を透明部材又は鏡面に噴射して、前記透明部材の表面又は鏡面に前記ナノ微粒子を付着させる、着雪氷防止用組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−1781(P2008−1781A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171709(P2006−171709)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】