説明

睡眠中の鼾および呼吸努力関連覚醒のための薬および処置

被検体の睡眠中の呼吸努力関連覚醒を予防または処置する方法を提供する。この方法は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の被検体の鼻腔内における感染または定着を抑制または阻害する有効量の薬を被検体に投与することを含む。典型的には、呼吸努力関連覚醒は鼾と関連している。本薬は、抗生物質、免疫賦活薬、プロバイオティクスおよび前述の混合物からなる群から選択することができる。さらに、被検体に本薬を投与することを含む、鼾を予防または処置する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の鼻腔における黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の定着を抑制または阻害する薬を使用して被検体の睡眠に関連した状態を予防または処置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鼾は咽頭の軟部組織の振動により起こる、一般の集団に広く見られる現象であり、一部の報告によれば少なくとも20%の人が鼾をかくことが示唆されている。中年の男性に最も多く見られるが、閉経後は女性も鼾をかきやすくなる。鼾はまた、疲労および高血圧、さらに虚血性心疾患および脳虚血といった重篤な状態など健康障害(adverse health outcomes)とも関連している。
【0003】
鼾に関する研究から鼾には複数の原因があることが明らかになっており、喫煙、アルコール、肥満、鼻中隔彎曲および他の鼻内構造の異常、慢性鼻閉(nasal congestion)、咽頭組織の鬱血、運動能力(fitness)および筋緊張度の喪失、扁桃および/または咽頭扁桃の肥大、および舌の肥大(tongue enlargement)のような生理的原因など多くの危険因子が特定されている。ベンゾダゼピンおよび精神安定薬などの薬剤も筋肉を弛緩させて鼾が起こるリスクおよび/または傾向を高める恐れがある。鼾は、軽度の鼾から、呼吸が異常に遅くて浅くなる呼吸低下、および呼吸が停止する無呼吸イベントなどの重度の鼾までいくつかのカテゴリーに分類することができる。そのうち無呼吸イベントは、完全な気道閉塞を含む閉塞型睡眠時無呼吸(OSP)を特徴とする。
【0004】
夜間の慢性鼻閉(nasal congestion)は、明白な睡眠時無呼吸のない鼾など常習性の鼾の危険因子として報告されている(Young et al,2001)。アレルギーによる鼻閉(congestion)については、中隔の彎曲などの他の原因より鼾の予測因子として信頼性が高いとは認められなかった。鼾には、抗鼻閉薬(decongestant)および鼻根部から鼻の先端に接着固定して鼻道を広げる接着性ネーザルストリップの使用から、呼吸路を開けておくように持続的に陽圧を印加するエアポンプに連結されたマスクまで様々な処置が利用可能である。しかしながら、接着性ネーザルストリップなどの介入物(interventions)の使用は不快である場合があり、皮膚アレルギーおよび刺激を引き起こす恐れがある一方、持続的に陽圧を印加して鼾を軽減する機器は不便であり、扱いにくく費用がかかる場合がある。さらにこうした設備に使用するエアポンプは比較的音が大きいため、ポンプの聞こえる範囲で睡眠しているパートナーなどの睡眠を妨げることもある。
【0005】
ラクトバチルスGG(Lactobacillus GG)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)およびビフィドバクテリウム属細菌(Bifidobacterium sp.)を含むプロバイオティクス乳飲料を摂取すると、病原性の可能性のある細菌(PPB)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)およびβ溶血性連鎖球菌(streptococci)の鼻腔内定着が抑制されると報告されている(Glueck and Gebbers,2003)。無菌療法は、頭部、副鼻腔または肺の大手術後にまたは頭部、副鼻腔または肺の障害後にPPBを保有する患者の感染制御にとって極めて重要であり、さらにおそらく集中治療室の糖尿病患者および血液透析を受けている人あるいは免疫異常の人にとっても極めて重要であると考えられてきたが、その研究は、プロバイオティクスの摂取が鼻の細菌叢に及ぼし得る効果を調査するものであった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は皮膚および鼻腔(たとえば外鼻孔)によく見られる細菌性病原体であり、皮膚の面皰、麦粒腫、おでき、膿痂疹および膿瘍などの化膿性感染症だけでなく、切り傷、擦過傷または創傷から体内に入ると髄膜炎、肺炎、心内膜炎(心臓弁の感染症)および敗血症性静脈炎など血流および関節の重篤な感染症を引き起こす恐れがある。黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対する宿主応答が局在化すると組織の炎症が起こることもある。抗生物質耐性(たとえばメチシリン耐性)黄色ブドウ球菌(S.aureus)の株がいくつか知られており、病原体がカテーテルを介して、あるいは、たとえば透析または手術中に体内に入り込む恐れがある病院内では感染症の重要な原因となっている。より広い地域社会にあっては、黄色ブドウ球菌(S.aureus)株は一般に使用される一定範囲の抗生物質に対し感受性がある場合が多い。それでも、患者、病院勤務者および一般の人々にこの病原体が定着し、病原体を伝播する感染源になることがある。10人に最大2人の割合で病原体が定着し得ると考えられている。
【0007】
本発明は、鼻腔内の黄色ブドウ球菌(S.aureus)の感染または定着が睡眠中の呼吸に影響し、鼾と関連し得るという認識によるものである。鼾は罹患者に疲労および傾眠などの有害な作用を及ぼすが、すべての突発性の(episodic)上気道抵抗が鼾(本来、多因子性であると考えられる)の原因となるわけではなく、そうした上気道抵抗はむしろ睡眠からの短い覚醒状態をもたらし得るものである。この現象は「呼吸努力関連覚醒」と呼ばれており、より重篤な睡眠障害(sleep disorder)および/または睡眠関連呼吸障害に至る恐れがあり、疲労および傾眠を起こすこともある。
【0008】
本発明は全般的には、被検体の睡眠中の呼吸努力関連覚醒を軽減する、および/または睡眠の質を改善するために、被検体の鼻腔内における黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の感染または定着を抑制または阻害する薬を投与することに関する。
【0009】
したがって、本発明の一態様では、被検体の睡眠中の呼吸努力関連覚醒を予防または処置する方法であって、被検体の鼻腔内における黄色ブドウ球菌(S.aureus)の感染または定着を抑制または阻害する有効量の薬を被検体に投与することを含む、方法を提供する。
【0010】
呼吸に関連した睡眠覚醒は鼾に起因する場合も、そうでない場合もあるが、本発明の実施形態は特に鼾の予防または処置に適用される。
【0011】
このため本発明の別の態様では、被検体の鼾を予防または処置する方法であって、被検体の鼻腔内における黄色ブドウ球菌(S.aureus)の感染または定着を抑制または阻害する有効量の薬を被検体に投与することを含む、方法を提供する。
【0012】
典型的には、本薬は黄色ブドウ球菌(S.aureus)の鼻道の外鼻孔内における感染または定着を阻害する。
【0013】
本薬は、鼻道中の黄色ブドウ球菌(S.aureus)の感染または定着を直接的または間接的に抑制または阻害することが可能で、たとえば抗生物質および免疫賦活薬からなる群から選択できるのであれば、どのような治療薬であってもよい。「免疫賦活薬」という用語は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対して被検体の特異的または非特異的免疫応答を刺激し、かつプロバイオティクスを含む薬をいう。
【0014】
プロバイオティクスは、黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対する免疫系を刺激する全(生存/生きているまたは死滅)細胞でも、またはその一部でもよい。典型的には、プロバイオティクスは、被検体の一般的な免疫系を刺激し、被検体のTh1免疫応答を刺激する、および/またはTh2免疫応答を抑制する。
【0015】
さらに少なくともいくつかの実施形態では、免疫賦活薬は、病原体の鼻腔内の感染または定着に対する特異的な免疫応答を惹起する黄色ブドウ球菌(S.aureus)抗原の調製物であってもよい。
【0016】
本発明の別の態様では、被検体の睡眠の質を改善する方法であって、被検体の鼻腔内における黄色ブドウ球菌(S.aureus)の感染または定着を抑制または阻害する有効量の薬を被検体に投与することを含む方法を提供する。
【0017】
本発明の別の態様では、被検体の鼻腔内における黄色ブドウ球菌(S.aureus)の感染または定着を抑制または阻害して、被検体の睡眠中の呼吸努力関連覚醒を予防または処置するための薬の使用を提供する。
【0018】
本発明の別の態様では、被検体の鼻腔内における黄色ブドウ球菌(S.aureus)の感染または定着を抑制または阻害して、被検体の睡眠の質を改善するための薬の使用を提供する。
【0019】
本発明の別の態様では、被検体の鼻腔内における黄色ブドウ球菌(S.aureus)の感染または定着を抑制または阻害して、被検体の鼾を予防または処置するための薬の使用を提供する。
【0020】
被検体は、鼾をかく任意の哺乳動物モデルでも、またはヒトでもよい。典型的には、被検体はヒトである。
【0021】
本明細書に言及した刊行物はすべて参照によって本明細書に援用する。本明細書に含まれる文書、行為、材料、装置、物品または同種のものに関するどのような検討も、本発明を理解する材料を提供することのみを目的としている。これらの内容のいずれかまたは全部が先行技術基準の一部を形成すること、あるいは、本出願の優先日前にオーストラリアまたは他の法域に存在していた、本発明に関連する分野の通常の一般知識であったことを承認するものと解釈してはならない。
【0022】
本発明の特徴および利点は、以下の添付図面と共に発明を実施するための形態からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、ムピロシン(Mupirocine)軟膏を黄色ブドウ球菌(S.aureus)慢性キャリアの男性の鼻孔領域に単回投与した後の被検体における鼾、および睡眠障害(sleep disorder)に関連した因子の変化を示す。記録された各パラメーターには最初に顕著な効果が現れ、それが約3日間続いた。それから2週間後には症状が再発し始めたが、ベースラインまでは戻らなかった。
【図2】図2は、プロバイオティクス(ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)/ビフィズスバクテリウムアニマリス(Bifidusbacterium animalis))による毎日の処置の期間中、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の慢性キャリアの男性の鼻閉、鼾、および睡眠障害(sleep disorder)に関連した因子における変化を示す。記録された各パラメーターには最初に顕著な効果が現れ、それが約3日間続き、その後の処置期間中、安定していた。8日目の急上昇は、被検体が報告した特にストレスの強いイベントに起因するものであった。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の鼻道内における定着を抑制または阻害することにより、鼾を予防または処置する抗生物質および免疫賦活薬(たとえばプロバイオティクスおよび黄色ブドウ球菌(S.aureus)抗原の調製物)の使用範囲を広げるものである。
【0025】
本発明により実施される方法においては一定範囲の抗生物質であれば、どのような抗生物質を使用していてもよい。現在、多くの黄色ブドウ球菌(S.aureus)株がペニシリンに抵抗性を示すが、これは主にこの細菌が、ペニシリンを分解してその抗菌活性を破壊する酵素β−ラクタマーゼを産生するためである。ペニシリンに感受性がある黄色ブドウ球菌(S.aureus)株の処置には依然としてペニシリンが使用されているものの、一般には以下に限定されるものではないが、メチシリン、フルクロキサシリン、ムピロシン(たとえばBactroban(商標)経鼻)、エリスロマイシン、シプロフロキサシン(たとえばCiproxin(商標))、バンコマイシンおよびテイコプラニン(たとえばTargocid(商標))など他の抗生物質が使用される。黄色ブドウ球菌(S.aureus)のメチシリン耐性株は、MRSAとして知られる。MRSAはなおムピロシン、または、たとえばバンコマイシンまたはテイコプラニンで処置することができる。ここに選択した抗生物質については、経口投与しても、静脈内投与しても、または鼻腔の粘膜に投与してもよい。少なくともいくつかの実施形態では、局所に塗布しても問題のないキャリア(たとえばクリームまたは軟膏)を用いて抗生物質を被検体の外鼻孔に局所塗布してもよい。抗生物質の長期的な経口使用は腸内細菌叢の集団に影響し、下痢などの意図されない副作用が生じる恐れがあるため、抗生物質は局所塗布が好ましい。
【0026】
「プロバイオティクス」という用語は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の鼻腔内における感染または定着を抑制または阻害する働きをする細菌および酵母ならびにその一部(たとえばプロバイオティクスの画分(単数または複数)または特定の細胞表面成分)を包含する。プロバイオティクスは死滅全細胞でも、または生存(生きている)全細胞でもよい。典型的には、プロバイオティクスは生存全細胞とする。
【0027】
特に好適な細菌のプロバイオティクスとして、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ビフィドバクテリム(Bifidobacterim)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)およびマイコバクテリウム(Mycobacterium)属の株が挙げられる。本発明の実施形態に適用してもよい酵母のプロバイオティクスとして、サックロマイセス・ブラウディ(Sacchromyces boulardii)などのサックロマイセス(Sacchromyces)属が挙げられる。細菌のプロバイオティクスの例としては、L.アシドフィルス(L.acidophilus)、L.ファーメンタム(L.fermentum)、L.カゼイ(L.casei)、L.プランタルム(L.plantarum)およびL.ラムノサス(L.rhamnosus)、M.バッカエ(M.vaccae)、B.ブレーベ(B.breve)、P.ジェンセニー(P.jensenii)が挙げられる。プロバイオティクスは食品(発酵食品でも非発酵食品でもよい)として摂取しても、あるいはプロバイオティクス濃縮飲料などのプロバイオティクスサプリメント調製物として摂取しても、あるいはカプセル形態または錠剤カプセル形態で摂取してもよい。カプセル形態のプロバイオティクスは広く市販されており、本明細書に記載するような方法に使用するのに特に好適である。同様に、死滅した(たとえば熱死)全プロバイオティクス細胞またはその一部を含む錠剤を経口摂取してもよい。カプセル剤および錠剤は、プロバイオティクスが胃の酸環境を通過して小腸で放出される腸溶性としてもよい。カプセル剤または錠剤は、プロバイオティクス以外にプレバイオティクスをさらに含んでもいてよい。プレバイオティクスは、たとえば炭水化物、単糖およびオリゴ糖から選択され得るが、非炭水化物プレバイオティクスを排除するものではない。使用してもよいプレバイオティクス単糖およびオリゴ糖として、フラクトオリゴ糖(FOS)、キシロオリゴ糖(XOS)、ポリデキストロース、ガラクトオリゴ糖(GOS)および単糖タガトースが挙げられる。
【0028】
経口投与されたプロバイオティクスは、小腸のパイエル板と呼ばれるリンパ節に取り込まれ得、そこで処理されプロバイオティクス抗原がエフェクター免疫細胞に(すなわち樹状細胞およびマクロファージにより)提示される。エフェクター細胞は、輸出リンパ管を通って呼吸器および鼻腔の粘膜表面など遠位の粘膜部位に移動し、黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染または定着から粘膜を保護する非特異的な細胞性免疫応答を惹起することができる。したがって、経口経路によりプロバイオティクス(単数または複数)を投与すると、遠隔の粘膜表面で免疫応答を刺激することができ、この系は「共通粘膜免疫機構(common mucosal system)」と呼ばれている(たとえば国際出願PCT/AU01/00726号パンフレットを参照)。
【0029】
エフェクターTリンパ球は適応免疫の細胞性免疫応答を担っており、3つのグループ、すなわち細胞傷害性T細胞、Th1細胞およびTh2 T細胞に大別することができる。Th1細胞は、好中球およびマクロファージなどの食細胞の抗菌メカニズムを刺激し、食細胞を感染/定着の部位に誘引するサイトカインを放出する。Th2細胞は、B細胞を活性化して細菌および他の抗原に対する抗体を産生させる役割を担っている。本発明の方法に使用されるプロバイオティクス(単数または複数)またはその一部(単数または複数)は典型的には、Th1免疫応答を惹起する、および/またはTh2応答を下方制御/抑制する。同様に、Th1免疫応答を惹起するには、免疫賦活薬に加えた任意のアジュバント(単数または複数)も選択されるのが一般的である。
【0030】
Th1細胞により分泌されるサイトカインとしては典型的には、γ−インターフェロン(γ−IFN)、IL−12およびTNF−βが挙げられる。γ−IFNは主要な食細胞活性化サイトカインである。TNF−βは、一部の細胞に対して直接の細胞障害性を有する。これに対し、Th2細胞は、IL−4、IL−5、IL−10、IL−13、TGF−βおよび他のサイトカインを分泌する。Th1およびTh2細胞は共にIL−3、GM−CSFおよび、たとえばTNF−αを同時に分泌するが、各細胞型の全体的なサイトカインプロファイルは様々である。このため、Th1応答は、サイトカインの分泌の亢進、またはγ−IFNおよび/またはIL−12などのTh1免疫応答におけるサイトカイン特性の組み合わせにより検出できる。同様に、Th2免疫応答は、サイトカインの発現の亢進、またはIL−4またはIL−10などのTh2応答におけるサイトカイン特性の組み合わせにより特徴付けを行ってもよい。
【0031】
本発明により実施される方法に使用してもよい免疫賦活薬として、病原体に対して特異的および/または全身性免疫応答を惹起できる黄色ブドウ球菌(S.aureus)抗原の調製物(たとえば減弱した抗原、死滅した全抗原または粒子状抗原)が挙げられる。免疫応答は黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対して特異的であることが望ましいものの、これは不可欠なものではなく、鼻腔内の黄色ブドウ球菌(S.aureus)の感染または定着を抑制または阻害する非特異的免疫応答を惹起する他の細菌または供給源由来の抗原を使用してもよい。免疫賦活薬は、たとえばコレラ毒素Bサブユニットおよび従来から知られているミョウバンアジュバントから選択され得るアジュバントを含んでいてもよい。
【0032】
特に好適な免疫賦活薬は、マウスモデルにおいて黄色ブドウ球菌(S.aureus)の鼻腔内定着を抑制することが明らかになっている、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のクランピング因子B(ClfB)の免疫調製物を含む(Schaffer et al.,2006)。この試験では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の野生株だけでなく、クランピング因子A(ClfA)、コラーゲン結合タンパク質、フィブロネクチン結合タンパク質AおよびB、菌体外多糖膜(polysaccharide intracellular adhesion)、またはアクセサリー遺伝子制御因子を欠損しているこの病原体の変異株でも定着が起こった。しかしながら、ClfBまたはソルターゼAが欠乏した変異株では定着が抑制されることが示された。さらに、ClfBのドメインAからなる組換えワクチンで全身的にまたは鼻腔内に免疫されたマウスでは、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の鼻腔内定着が抑制されることが示され、ClfBに対するモノクローナル抗体(MAb)で受動的に感作したマウスも同様であった。ClfBは、莢膜が存在しない対数増殖期に大量発現するが、莢膜が存在する静止期には大量発現しない。このため、本明細書に記載するような抗原として使用するClfB発現黄色ブドウ球菌(S.aureus)は、ClfBを発現する対数増殖期に回収すべきである。
【0033】
マウスの鼻には、ヒトのパイエル板に相当する高密度の免疫節があることが知られている。こうした節はヒトの鼻通路にも見られ、上記のような黄色ブドウ球菌(S.aureus)抗原を鼻腔内投与(たとえば噴霧により)または経口投与すると、この病原体に対する免疫応答を刺激するメカニズムが整えられる。
【0034】
本発明により実施される方法には、プロバイオティクスおよび黄色ブドウ球菌(S.aureus)の細胞画分を使用してもよい。画分は、死滅または生存微生物(単数または複数)を破壊し、得られた産物を濾過して様々なサイズ範囲の細胞材料得て調製すればよい。適切な界面活性剤および撹拌を使用した細胞の溶解など、適切な水準の細胞破壊を達成するのに好適であれば、どのような方法を使用してもよい。一般に、微生物(単数または複数)は超音波処理に付す。理論に拘泥するわけではないが、プロバイオティクス細胞残屑は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対する粘膜の免疫応答の刺激に資する天然のアジュバント(単数または複数)を含んでいる可能性がある。天然アジュバント(単数または複数)としては、たとえばリポ多糖およびCpGオリゴデオキシヌクレオチドが挙げられる。超音波処理ステップを数回繰り返して微生物を所望の程度に破壊し、適切なサイズの可溶性抗原/細胞材料を遊離または作製してもよい。それぞれのサイクル数および時間については、各回ごとに異なるサイクルを使用してこのプロセスを何回か繰り返して決定すればよい。あるいは、またはそれに加えて、微生物を超音波で分解する時間を変化させてもよい。回収した画分はその後、黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対する免疫応答を惹起する能力について試験してもよい。
【0035】
本明細書に記載するような免疫賦活薬は、予定の送達モードおよび追加アジュバント(単数または複数)(ある場合)を考慮し、被検体に有効量が送達されて免疫応答を惹起することを免疫の技術分野において広く認められた原理により判定できる十分な抗原を含む。典型的には、黄色ブドウ球菌(S.aureus)抗原を含む免疫賦活薬の投与量は、生存または死滅細菌約10〜約1012の範囲が一般的であり、より一般的には生存または死滅細菌約1010〜約1011の範囲である。抗原の最適な投与量は、異なる被験哺乳動物群に様々な投与量を投与してから、その後各群の動物に黄色ブドウ球菌(S.aureus)を鼻腔内(intransally)感染させ、病原体を十分に排除するか、または感染/定着を阻害するのに必要な投与量レベルを判定することにより決定してもよい。さらに、免疫賦活薬は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の鼻腔内の感染または定着に対して効果的な免疫応答を惹起するのに好適であれば、どのようなレジメンに従って投与してもよい。たとえば免疫賦活薬は単回投与で投与してもよい。数週間または数カ月の間隔で投与される1回または複数回の「ブースター」投与で投与しても構わない。
【0036】
当業者であれば理解するように、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の鼻腔内の感染または定着を抑制または阻害する本薬の送達、消費または投与に好適であれば、どのような好適な製剤、調製物、送達形態および/または組成物を使用してもよい。たとえば上記のように、プロバイオティクスは、濃縮カプセル形態で摂取しても、または錠剤カプセル形態で摂取してもよい。被検体は典型的には、1日平均約2×10〜3×1011細胞の範囲の生きている全プロバイオティクスを約1日から2週間かけて経口的に摂取して黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対する非特異的な粘膜の免疫応答を刺激する。その後は、1×10〜1×1011プロバイオティクス細胞の投与量を毎日持続的に維持して被検体に投与してもよい。あるいは、プロバイオティクスは発酵または非発酵食品として消費してもよく、こうした食品は十分な期間(たとえば数週間)かけて消費され、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の鼻腔内の感染または定着を抑制または阻害する非特異的な粘膜の免疫応答を惹起する。発酵プロバイオティクス食品は、食品中で増殖して発酵産物を産生する生きているプロバイオティクス微生物を含む。非発酵プロバイオティクス食品は、食品に添加されたプロバイオティクス微生物またはその成分を含む。発酵プロバイオティクス食品として、飲むヨーグルトを含むヨーグルトなどのプロバイオティクス乳製品、および発酵乳が挙げられる。本発明はさらに、2種以上のプロバイオティクス生物の混合培養物の使用の範囲を広げるものであり、ラクトバチルス(Lactobacillus)とビフィドバクテリウム(bifidobacterium)株、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)株および/またはプロピオニバクテリウム(Propionibacterium)株の1種または複数種との培養物を含む。
【0037】
本明細書に記載するようなプロバイオティクスおよび免疫賦活薬調製物は、予定の投与モードに好適な1種または複数種の凝結防止剤および防腐剤(たとえばチメロサール)、アミノ酸および/または糖部分などの安定剤、スクロース、ラクトースまたはサッカリンなどの甘味剤、界面活性剤、リン酸一ナトリウムおよび/またはリン酸二ナトリウムなどのpH緩衝剤およびpH調整剤、生理的食塩水などの薬学的に許容されるキャリア、溶媒および分散媒をさらに含んでもよい。医薬品のこうした成分および媒体の使用は、当該技術分野において周知である。従来の媒体または薬のいずれかが黄色ブドウ球菌(S.aureus)の分離株(単数または複数)または抗原、あるいは予定の投与モードと適合しない場合を除き、それらの使用は個々に包含される。本発明に有用な製剤および好適かつ薬学的に(局所的を含む)許容されるキャリアについては、その内容全体を参照によって本明細書に援用する「Remington:The Science and Practice of Pharmacy(Mack Publishing Co.,1995)」など当業者によく知られているハンドブックおよび指導書で確認することができる。
【0038】
以下、いくつかの非限定的な実施例によって本発明についてさらに記載する。個体の処理においては、他に記載がない限り生きているプロバイオティクス細菌を使用した。
【実施例】
【0039】
実施例1:鼾および睡眠の質に対する抗生物質の軟膏の効果
鼾および睡眠障害の病歴を持つ男性被検体において、鼾および睡眠パターンに対するムピロシン(Mupirocine)軟膏の効果を評価する試験を行った。被検体は、試験の開始前に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(S.aureus))が外鼻孔に慢性的に定着していることが認められていた。
【0040】
試験開始の晩の就寝時刻に、被検体の各鼻孔底部、および鼻孔のすぐ内側にムピロシン(Mupirocine)軟膏(Bactroban(商標)、GlaxoSmithKline)を塗布した。被検体の睡眠パートナー(妻、46歳)はその夜、耳栓を使用しないことを嫌がっていた。その後16日間にわたり経過観察を記録し、被検体の鼻閉および鼾の程度、さらに被検体および妻の朝の爽快感(freshness)を評価した。16日間の観察期間中、被検体にムピロシン(Mupirocine)軟膏を投与しなかった。
【0041】
1.被検体の背景因子の詳細
既往歴など被検体に関する情報を下記表1〜3に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
2.被検体の睡眠の経緯
臨床および実験段階の以前の試験から、被検体の鼻の外鼻孔が慢性的につまっていたことが明らかになっている。試験の開始前の1週間、被検体は外鼻孔がつまっていて、顔が重く、日中に疲労を感じ、夜間の鼾および睡眠の障害があり、覚醒して睡眠不足になっていた。被検体の妻(46歳)は耳栓を着用しても鼾により妨げられ、数晩にわたり検体と別の部屋で睡眠をとらざるを得なかった。被検体の息子は自分の寝室のドアと被検体の寝室のドアとの両方を閉めて被検体の鼾により睡眠が妨げられないようにしたこともあった。
【0046】
3.結果
被検体は、ムピロシン(Mupirocine)軟膏の投与後、早朝目が覚めると外鼻孔のつまりがとれて爽快感を感じた。被検体およびその妻は共に被検体が夜間に鼾をかかなかったことを報告した。
【0047】
その後16日間の日々の経過観察から、被検体の外鼻孔は少なくとも3日間鼻が通った状態が続いたことが示された(図1を参照)。被検体はその16日間で鼻閉感および睡眠障害の症状が再発したことを報告したものの、それでもそれらはベースラインと比較して約50%の改善を示した。被検体はこの間、ムピロシン(Mupirocine)軟膏で追加の処置を行わなかった。ムピロシン(Mupirocine)軟膏により被検体を処置してから7日間、被検体の妻も同様の日々の経過観察を行った。
【0048】
ムピロシン(Mupirocine)軟膏による被検体の処置後に被検体およびその妻により報告された自己評価パラメーターを表4および表5に示す。結果は1〜7のスコアで判定され、1は非常に良好、7は非常に不良を示す。被検体の日々のスコアを図1に図示する。
【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
表5に示すように、ムピロシン(Mupirocine)軟膏で被検体を処置する前、被検体の妻は、耳栓を着用しても測定した全パラメーターについてスコア6を記録した。被検体の妻は、ベッドでの被検体の「シャフリング(shuffling)」により午前5.00時ごろ目を覚まし、これが彼女の朝の爽快感(Freshness)に影響を与えた。ところが彼女はその晩、被検体による鼾にまったく気付かなかった。
【0052】
その後の7日間、被検体の妻により記録されたスコアの平均値から、評価対象の全パラメーターが改善したことが示され、被検体の鼾の大きさと被検体の鼾による夜間の覚醒とが共に顕著に抑制されたことが記録された。
【0053】
4.考察
この結果は、ムピロシン(Mupirocine)(抗生物質)軟膏での処置により黄色ブドウ球菌(S.aureus)の鼻道内の定着が抑制されることにより、鼾が抑制され、鼾をかく人と睡眠パートナーとの双方の睡眠の質が改善されることを示す。さらに、睡眠の質が改善されると、それ以後の朝では、鼾をかく人と睡眠パートナーとの双方の疲労も抑制される。
【0054】
実施例2:プロバイオティクスL.アシドフィルス(L.acidophilus)/ビフィズス・アニマリス(Bifidus animalis)の鼾および睡眠の質に対する効果
実施例1に記載した被検体(男性)には鼾、睡眠障害および日中の疲労という履歴がある。このことが、その睡眠パートナー(妻)の睡眠障害を助長している。実施例1に概説したように、調査からは、被検体の外鼻孔に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(S.aureus))が慢性的に定着していたことが明らかになっている。プロバイオティクス(L.アシドフィルス(L.acidophilus)/ビフィズス・アニマリス(Bifidus animalis))は一般に共通粘膜免疫機構(common mucosal immune system)を介して免疫系の機能を高めている。プロバイオティクス(L.アシドフィルス(L.acidophilus)/ビフィズス・アニマリス(Bifidus animalis))により男性被検体を経口処置すると、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の鼻腔内定着が抑制され、被検体の鼾および睡眠パターンが改善するかどうかを判定するため、試験を行った。
【0055】
被検体に、プロバイオティクスを含むカプセルを初回量2カプセルで1日3回、9日間経口投与し(ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)/ビフィズス・アニマリス(Bifidus animalis)を10細胞/カプセル含む白色カプセル;Blackmore’s,Warriewood,NSW,Australia))、次いで1日3回14日間、維持用量のプロバイオティクス1カプセルを投与した。試験期間中、毎日観察結果を記録し、被検体の鼻閉および鼾の程度、および被検体およびその妻の朝の爽快感(freshness)などのパラメーターが自己評価された。試験の前日(0日目)の観察結果も記録された。被検体により記録された自己評価パラメーターは1〜7のスコアで判定され、1は非常に良好、7は非常に不良を示す。被検体の結果を以下に示す。
【0056】
1.結果
t検定(p=0.0027)、あるいは信頼区間で判定しても、黄色ブドウ球菌(S.aureus)定着の証拠である鼻づまりに関して処置前とプロバイオティクスとの間に統計学的な差があった。t検定(p=0.0002)、あるいは信頼区間で判定しても、鼻づまりに関する処置後とプロバイオティクスとの間にも統計学的な差があった。
【0057】
プロバイオティクスによる処置のスコアと処置前のスコアの間のIntent to treat解析(ITT)も行った。特定のストレス時期に起きた、夜間の覚醒および朝の爽快感(freshness)の1つの異常値スコアを削除すると、t検定では処置前と処置との間に統計学的な差が示された。信頼区間(ITTではない)を用いて判定すると、処置前のスコアと各処置試験のスコアとの間に差があった。Intent to treat解析の結果を表6に示す。
【0058】
【表6】

【0059】
表6を見ると分かるように、プロバイオティクスによる処置のスコアと処置後のスコアとの間で下記について統計学的な差(ITT解析)が認められた:
・ 鼻閉の抑制(p<0.001)
・ 夜間の覚醒状態(p=0.02)
・ 朝の爽快感(Freshness)(p=0.01)
・ 日中の疲労(p<0.001)
【0060】
t検定、あるいは信頼区間で判定しても、プロバイオティクスのスコアと処置後のスコアとの間の差は一定していた。
【0061】
効果は処置の1日目に現れたが、最大の効果は3日目に現れた。この効果は処置を継続している間(14日間)続いたが、その後、処置後のスコアと処置前のスコアとの間に統計学的な差はなかった。
【0062】
被検体は試験の期間中、鼻閉および睡眠パターンが改善したことを報告した。試験期間の最初の9日間に関する被検体の日々のスコアを図2に図示する。評価対象の各パラメーターは、最初に顕著な効果が約3日間続き、その後処置期間中、安定していた。図2の8日目の急上昇は、被検体が報告した特にストレスの強いイベントに起因するものであった。被検体の妻も被検体の鼾および鼾の大きさが著しく改善したことを報告した。
【0063】
2.考察
本試験から、毎日のプロバイオティクス(アシドフィルス/ビフィズス)が鼾を抑制し、睡眠の質を改善することが示される。睡眠の質が改善すると朝の爽快感(freshness)が改善し、日中の疲労が抑制される。プロバイオティクスは、免疫系を穏やかに増強することにより作用する。また、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の鼻腔内定着を特異的に標的とする免疫系を特異的に増強し、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の鼻腔内定着を抑制する他の方法も睡眠の質を改善することが期待されよう。
【0064】
実施例3:プロバイオティクスL.アシドフィルス(L.acidophilus)/ビフィズス・アニマリス(Bifidus animalis)の鼾および睡眠の質に対する用量反応効果
プロバイオティクス処置の用量反応に関する第3の試験において、実施例1および2に記載した被検体(男性)を評価し、用量2×10および5×10細菌のプロバイオティクス(L.アシドフィルス(L.acidophilus)/ビフィズス・アニマリス(Bifidus animalis))による被検体の経口処置が黄色ブドウ球菌(S.aureus)の鼻腔内定着を抑制し、被検体の鼾および睡眠パターンを改善するかどうかを判定した。
【0065】
9日間の休薬期間後、被検体にプロバイオティクス(ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)/ビフィズス・アニマリス(Bifidus animalis)、10菌数/カプセルを含む白色カプセル;Blackmore’s,Warriewood,New South Wales,Australia)を含むカプセルを初回量5カプセルで4日間、次いで2カプセルで3日間経口投与した。被検体およびその妻が記録した自己評価パラメーターは、1〜7のスコアで判定され、1は非常に良好、7は非常に不良を示す。
【0066】
1.結果
黄色ブドウ球菌(S.aureus)の定着の証拠である鼻づまりについて、t検定(p<0.001)、あるいは信頼区間で判定しても、処置前とプロバイオティクスとの間に統計学的な差があった。鼻閉と翌日の疲労とについても1日3回5カプセルの投与と1日3回2カプセルの投与との間にも統計学的な差があった(p<0.05)。
【0067】
【表7】

【0068】
1日3回5カプセルの投与の場合、最初のピーク効果は実施例2(1カプセル、1日3回投与)では3日間であったのに対し、1時間以内に得られた。5カプセル投与の場合、効果は1日用量の最終投与から最大8時間持続したのに対し、2カプセル投与では5〜6時間であった。
【0069】
被検体は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)による鼻閉および鼾の各症状に対して用量反応効果を報告した。
【0070】
2.考察
本試験から、毎日のプロバイオティクス(アシドフィルス/ビフィズス)が鼾を抑制し、睡眠の質を改善することと、有効性、効果の発現時期および効果の持続期間に用量依存的効果があることとが示される。
【0071】
実施例4:個別の被検体の観察I
被検体は、数年にわたり顔の左側の慢性的な鼻閉(chronic congestion)に悩まされていた58歳の女性であった。この女性は、鼾のためCPAP(continuous positive airways pressure:持続気道陽圧器)を所有しており、慢性的に鼻閉(nasal congestion)であった。鼻閉(nasal congestion)が不快感および疼痛の原因になっていた。この人を就寝前に毎晩1×プロバイオティクス(L.アシドフィルス(L.acidophilus)/B.アニマリス(B.Animalis);2.5×1010細菌)で処置した。
【0072】
1.結果
4日後鼻閉(congestion)が軽減し、1週間後には解消された。CPAPの使用を継続しながら、睡眠の安定性を改善させた。この人がプロバイオティクスの服用を朝に切り換えたところ、その後6週間、鼻閉(congestion)をまったく経験しなかった。
【0073】
2.考察
本試験から、プロバイオティクス(アシドフィルス/ビフィズス)の連日投与が鼾を抑制し、睡眠の質を改善することが示される
【0074】
実施例5:個別の被検体の観察II
被検体は、慢性的な鼻閉(chronic congestion)、鼾および睡眠障害に悩まされていた52歳の男性であった。この人を就寝前に毎晩1×プロバイオティクス(L.アシドフィルス(L.acidophilus)/B.アニマリス(B.Animalis);1〜2.5×1010細菌)で処置した。
【0075】
1.結果
処置から6カ月後、睡眠が確実に改善した。プロバイオティクスを数晩連続して飲み忘れても、睡眠は目立って悪化しなかった。その妻は、プロバイオティクスを使用すると、鼾をかくこともあったが、その大きさがかなり小さくなり、頻度も下がり、夜間の睡眠が妨げられにくくなったと報告した。
【0076】
2.考察
本試験から、プロバイオティクス(アシドフィルス/ビフィズス)の連日投与が鼾を抑制し、睡眠の質を改善することが示される。
【0077】
実施例6:個別の被検体の観察III
実施例5に記載した52歳の男性は、慢性的な鼻閉(chronic congestion)、鼾および睡眠障害に悩まされており、L.アシドフィルス(L.acidophilus)/B.アニマリス(B.Animalis)を含むカプセルを継続服用した。この人を就寝前に毎晩1×プロバイオティクス(L.ファーメンタム(L.fermentum);>1×10細菌)で処置した。
【0078】
1.結果
L.ファーメンタム(L.fermentum)による処置から1週間後、睡眠の改善は継続した。しかしながら、驚いたことに、この人は、L.ファーメンタム(L.fermentum)の方が鼻腔内の感覚が良好であり/刺激感少ないことを報告した。
【0079】
2.考察
本試験から、L.ファーメンタム(L.fermentum)の連日投与が鼾を抑制し、睡眠の質を改善することが示される。
【0080】
いくつかの実施形態を参照しながら本発明について記載してきたが、多くの変更および/または修正が可能であることが当業者には明らかであろう。したがって、本実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。
【0081】
参考文献
Glueck,U.,and Gebbers,J−O.,Ingested probiotics reduce nasal colonization with pathogenic bacteria(Staphylococcus aureus,Streptococcus pneumoniae,and β-hemolytic streptococci).Am J Clin Nutr.,(2003),Vol.77,pp.517−20.
Schaffer,A.C.,et al,Immunization with staphylococcus aureus clumping factor B,a major determinant in nasal carriage,reduces nasal carriage in a murine model.Infection and Immunity,(2006),Vol.74,pp.2145−2153.
Young,T.,et al,Chronic nasal congestion at night is a risk factor for snoring in a population−based cohort study.Arch Intern Med.,(2001),Vol.161,pp.1514−1519.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の睡眠中の呼吸努力関連覚醒を予防または処置する方法であって、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の前記被検体の鼻腔内における感染または定着を抑制または阻害する有効量の薬を前記被検体に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記呼吸努力関連覚醒は鼾と関連している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被検体の鼾を予防または処置する方法であって、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の前記被検体の鼻腔内における感染または定着を抑制または阻害する有効量の薬を前記被検体に投与することを含む、方法。
【請求項4】
前記薬は黄色ブドウ球菌(S.aureus)の鼻道の外鼻孔への感染または定着を阻害する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記薬は抗生物質および免疫賦活薬からなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記薬は抗生物質である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
免疫賦活薬を前記被検体に投与することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記免疫賦活薬は黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対する特異的な免疫応答を刺激する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記免疫賦活薬は前記免疫応答を刺激する黄色ブドウ球菌(S.aureus)抗原を含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記免疫賦活薬は黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対する非特異的な粘膜の免疫応答を刺激する、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記免疫賦活薬はプロバイオティクスである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記プロバイオティクスはラクトバチルス(Lactobacillus)細菌、ビフィドバクテリム(Bifidobacterim)細菌、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)細菌、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)細菌 マイコバクテリウム(Mycobacterium)細菌の1種または複数種の株、および前記細菌の免疫学的に活性な部分またはアジュバント作用を有する部分の混合物からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記プロバイオティクスは生存または死滅全細胞からなる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記プロバイオティクスは前記被検体のTh1免疫応答を刺激する、および/またはTh2免疫応答を抑制する、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
被検体の睡眠の質を改善する方法であって、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の前記被検体の鼻腔内における感染または定着を抑制または阻害する有効量の薬を前記被検体に投与することを含む、方法。
【請求項16】
前記被検体はヒトである、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2012−508693(P2012−508693A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535836(P2011−535836)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【国際出願番号】PCT/AU2009/001451
【国際公開番号】WO2010/054424
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(511117222)
【Fターム(参考)】