説明

睡眠時無呼吸症候群対策装具および対策枕

【課題】大きな治療効果を期待でき、無意識に外すことの少ない睡眠時無呼吸症候群対策装具などを提供する。
【解決手段】下顎骨5の左右後縁7に接するパッド3をテープ15で皮膚に貼付ける。パッド3の後端に形成される押圧凸部9が枕13に接して、下顎骨5に顔前方への押圧する。睡眠時無呼吸症候群の原因となる舌根部や軟口蓋が気道内へのたれ下がりは、仰向けに寝た状態で、顔前から顔後へ生じる。よって、たれ下がりを防止する押圧方向にずれがない。従って、より大きな治療効果を期待できる。また、顔前より装着せず、顔後から装着でき、患者は寝ている間に無意識に装具などを外してしまうことが少ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、睡眠時無呼吸症候群を改善するための対策装具の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠時に一時的に無呼吸となる一群の症候をいい、略言すればひどいいびきの症状である。直接的な原因は、睡眠中の筋弛緩によって、舌根部や軟口蓋が気道内へたれ下がり、気道を閉塞することといわれている。
治療法としては、睡眠中に機械により加圧された空気を気道へ送る方法がある。すなわち、持続陽圧呼吸療法といい、機械からチューブを経てマスクより鼻へ加圧された空気を送り、その空気の力で、舌根の周囲の軟部組織などを押し広げ、気道閉塞を防ぐものである。この方法は、睡眠中に機械を装着しなければならず、安眠を得られにくい。
【0003】
他の治療方法として、外科的治療がある。すなわち、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術といい、口蓋垂、口蓋扁桃、軟口蓋の一部を切除し、気道を広げるものである。この方法は、手術という身体への重大な侵襲的方法をとる割には、症状治癒の成功率が低いといわれている。
【0004】
上記2つの治療方法の他に、より簡易な方法として、睡眠中に頭部に装具を装着して、いびきを改善する方法がある。例えば、下記特許文献1、特許文献2、または特許文献3には、下顎の下に装具を装着し下顎が下ることを抑止することにより、いびき発生を防止する技術が開示される。また、下記特許文献4には、頭部から下顎に設けられたベルトにより、下顎が下ることを抑止し、いびき発生を防止する技術が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実登3106876
【特許文献2】米国特許06668834
【特許文献3】米国公開特許2006-266369
【特許文献4】実登3122810
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発明者である医師の研究によると、上記特許文献1〜4に開示される頭部に装具を装着する方法は、経験的に、それほど大きな治療効果を期待できない。
理由としては以下のことが考えられる。すなわち、睡眠時無呼吸症候群の原因となる舌根部や軟口蓋が気道内へのたれ下がりは、一般的に仰向けに寝た状態で生じ、よって、方向としては顔前から顔後へたれ下がる。これに対して、上記特許文献1〜4の方法は、下顎をいわば顔下から顔上へ持上げるものである。つまり、方向として90度ずれている。 さらに、上記特許文献1〜4に開示される装具は、顔前より装着するものであり、装着感が強く、患者は寝ている間に無意識に装具を外してしまうことが多い。
【0007】
この発明は、以上の問題点を解決するために、より大きな治療効果を期待でき、無意識に外すことの少ない睡眠時無呼吸症候群対策装具および対策枕を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために、第一発明は、下顎骨の左右後縁に接するパッドと、このパッドを皮膚に貼付けるためのテープと、このパッドの後端に形成され、枕に接して前記下顎骨に顔前方への押圧力を生じる押圧凸部と、からなることを特長とする睡眠時無呼吸症候群対策装具である。
第二発明は、下顎骨の左右後縁に接するパッドと、このパッドおよび前記下顎骨を顔前方へ押圧した状態で皮膚に貼付けるためのテープと、からなることを特長とする睡眠時無呼吸症候群対策装具である。
第三発明は、さらに、前記パッドは、下顎骨の左右後縁に接する左右2個のパッドであり、軟質樹脂で下顎骨の後縁の型取りをし形成したものであることを特長とする睡眠時無呼吸症候群対策装具である。
第四発明は、軟質樹脂で後頭部の型取りをし形成した凹部と、この凹部の左右に形成され下顎骨の左右後縁に接し前記下顎骨に顔前方への押圧力を生じる接触凸部と、からなることを特長とする睡眠時無呼吸症候群対策枕である。
【発明の効果】
【0009】
第一、第二、第三、または第四発明によれば、下顎骨は顔前方へ押圧される。睡眠時無呼吸症候群の原因となる舌根部や軟口蓋が気道内へのたれ下がりは、仰向けに寝た状態で、顔前から顔後へ生じる。よって、たれ下がりを防止する方向にずれがない。従って、より大きな治療効果を期待できる。実際、発明者である医師の研究によると、上記特許文献1〜4に開示される装具に比べ、下顎骨は顔前方へ押圧する本発明による治療は、経験的に、大きな治療効果を期待できることが分かっている。
【0010】
また、顔前より装着せず、顔後から装着できる。あるいは、顔後からの押圧を受ける。このため、患者は寝ている間に無意識に装具などを外してしまうことが少ないと思われる。
さらに、第一発明によれば、下顎骨への押圧力が枕に接することで生じ、大きな押圧力が得られる。
さらに、第二発明によれば、下顎骨への押圧は、テープによって行なわれ、枕に関係ない。よって、寝返りをうっても、押圧が行なわれる。
さらに、第三発明によれば、パッドは下顎骨の後縁の型取りをし形成したものであり、下顎骨にフィットし、外れにくく、押圧力を正確に伝えられる。
さらに、第四発明によれば、第一、第二、または第三発明にくらべ、テープを必要としない。また、枕の凸部が、パッドを兼ねる。よって、装着感がきわめて小さい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の一実施形態にかかる睡眠時無呼吸症候群対策装具を装着した状態で、下顎骨との位置関係を示す図である。
【図2】図1において睡眠時無呼吸症候群対策装具の装着を外した図である。
【図3】図1において睡眠時無呼吸症候群対策装具の装着のみを表した図である。
【図4】図3の睡眠時無呼吸症候群対策装具を装着して、仰向けで枕と共に使用している状態を示す図である。
【図5】図1の睡眠時無呼吸症候群対策装具を示す図である。
【図6】他の実施形態にかかる睡眠時無呼吸症候群対策枕を使用している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1から図5において、この発明の一実施形態にかかる睡眠時無呼吸症候群対策装具1を示す。
図1に示すように、この実施形態では、パッド3は下顎骨5の左右後縁7に、いわゆるエラの部分に、接するための左右2個が用いられる。軟質樹脂の一種である軟質ウレタンフォームを材料とし、下顎骨5の後縁の型取りをし、形成したものである。このパッド3の後端には、押圧凸部9が形成される。押圧凸部9は、患者が仰向けに使用した状態で、後部11が枕13(図5)に接する。こらにより、下顎骨5に顔前方への押圧力を生じる。
【0013】
これら左右のパッド3は、医療用のテープ15で、皮膚に貼付けられる。このテープ15は、たとえば弾性があり、パッド3および下顎骨5を顔前方へ押圧した状態で皮膚への貼付けがおこなえる。
「実施形態の効果」
患者は、この実施形態にかかる睡眠時無呼吸症候群対策装具1(図5)を、そのパッド3が、下顎骨5の左右後縁7(図2)に接するように装着して(図1,図3)、仰向けで枕13と共に使用する(図4)。左右後縁7を押圧するためにパッド3が押圧する範囲には、一定の許容範囲14がある。
【0014】
このような使用により、貼り付けをおこなうテープ15及び枕13から力により、下顎骨5は顔前方へ押圧される。既に解明されているように、睡眠時無呼吸症候群の原因となる舌根部や軟口蓋が気道内へのたれ下がりは、仰向けに寝た状態で、顔前から顔後へ生じる。よって、下顎骨5が顔前方へ押圧されることで、この下顎骨5に器質的に連動する舌根部や軟口蓋が、顔前から顔後へたれ下がりることを、効率よく防止できる。すなわち防止する方向にずれがない。換言すれば、特許文献1〜4のように、方向として90度ずれる等ということがない。
また、特許文献1〜4の技術は、中心咬合位へ、すなわち上下の歯が一番安定して噛み合っている位置へ、下顎を誘導するものであるが、この装具1は、下顎の位置を通常の位置よりもさらに前の方へ誘導させることができるものであり、このことは、舌根部や軟口蓋がたれ下がりることを、より積極的に防止できることを意味する。
これらのことから気道を十分に確保できる。よって、従来に比べより大きな治療効果を期待できる。
【0015】
実際、発明者である医師の研究によると、特許文献1〜4に開示される装具に比べ、この実施形態の装具による治療は、実験例は少ないものの大きな治療効果を得ている。このような実験や経験から、大きな治療効果を期待できる。
また、この実施形態の装具は、顔前より装着せず、顔後から、詳しくは頚部背面から装着する。また、枕13からは、顔後からの押圧を受ける。このため、特許文献1〜4の装具のように顔前より装着するものに比べ、装着感が小さく、よって、患者が寝ている間に無意識に装具などを外してしまうことが、少ないと思われる。
また、この実施形態の装具は、装着感が小さいことから、装着したまま、発語、飲食などが容易に行なわれる。
【0016】
さらに、この実施形態の装具によれば、下顎骨5への押圧力は、枕13に接することによっても生じ、大きな押圧力が得られる。
さらに、この実施形態の装具によれば、下顎骨5への押圧は、テープ15によっても行なわれ、パッド3が枕13に接触していないときにも、ある程度、得られる。よって、寝返りをうっても、押圧が行なわれる。
さらに、パッド3は下顎骨5の後縁の型取りをし形成したものであり、下顎骨5にフィットし、外れにくく、押圧力を正確に伝えられる。
【0017】
「他の実施形態」
以上の実施形態では、下顎骨5への押圧は、テープ15及び枕13から力により生じるものであったが、他の実施形態では、テープ15からのみの押圧、枕13からのみの押圧でも良い。
また、テープ15から押圧を高めるには、図1,3において、テープ15を顔面に貼り付ける方向を、下顎骨方向でなく上顎骨方向に、すなわちやや上向きにするとよい。
【0018】
また、以上の実施形態では、パッド3は、左右2個設けられるものであったが、他の実施形態では、左右連続した一体的なパッド3を1個設けるものでも良い。
また、以上の実施形態では、パッド3は、軟質ウレタンフォームを材料とするものであったが、他の実施形態では、他の軟質樹脂を材料とするものでも良い。さらには、樹脂以外の材質でも、ある程度の柔らかさがあり、肌に接することに大きな違和感のないものであれば構わない。例えば、丸めた布や綿などでも構わない。
【0019】
以上の実施形態では、パッド3、テープ15、及び枕13を使用するものであったが、他の実施形態では、枕13のみを使用し、この枕13にパッド3の役割を備えさせることもできる。
例えば、図6に示すように、この睡眠時無呼吸症候群対策枕17は、軟質ウレタンフォームで後頭部の型取りをし形成した凹部19を有し、この凹部19の左右に接触凸部21が形成される。この接触凸部21が、下顎骨5の左右後縁7に接することで、下顎骨5に顔前方への押圧力を生じる。
【0020】
これにより、以上の実施形態に比べ、肌に貼付けるためのテープ15を必要としない。よって、装着感がきわめて小さい。
【符号の説明】
【0021】
1…睡眠時無呼吸症候群対策装具、3…パッド、5…下顎骨、7…左右後縁、9…押圧凸部、11…後部、13…枕、15…テープ、17…睡眠時無呼吸症候群対策枕、19…凹部、21…接触凸部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下顎骨の左右後縁に接するパッドと、このパッドを皮膚に貼付けるためのテープと、このパッドの後端に形成され、枕に接して前記下顎骨に顔前方への押圧力を生じる押圧凸部と、からなることを特長とする睡眠時無呼吸症候群対策装具。
【請求項2】
下顎骨の左右後縁に接するパッドと、このパッドおよび前記下顎骨を顔前方へ押圧した状態で皮膚に貼付けるためのテープと、からなることを特長とする睡眠時無呼吸症候群対策装具。
【請求項3】
前記パッドは、下顎骨の左右後縁に接する左右2個のパッドであり、軟質樹脂で下顎骨の後縁の型取りをし形成したものであることを特長とする請求項1、または2に記載の睡眠時無呼吸症候群対策装具。
【請求項4】
軟質樹脂で後頭部の型取りをし形成した凹部と、この凹部の左右に形成され下顎骨の左右後縁に接し前記下顎骨に顔前方への押圧力を生じる接触凸部と、からなることを特長とする睡眠時無呼吸症候群対策枕。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−10920(P2012−10920A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149819(P2010−149819)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(510182515)
【Fターム(参考)】