説明

睡眠状態推定装置及びプログラム

【課題】従来技術の睡眠推定においては、実際の睡眠の状態と一致する確率が低く、また睡眠ポリグラフに比較して睡眠状態推定の精度がかなり悪い、人体が束縛される、処理が複雑である、という問題を有していた。そこで、無拘束状態においても円滑に検出できる信号を用いながら、眠りが深い・浅いといった睡眠状態を簡易かつ精度よく推定することができる睡眠状態推定装置を提供する。
【解決手段】 人体の呼吸運動に基づく電圧波形から得られた電圧の正のピーク値、隣り合うピーク間の間隔(時間)を算出し、さらに、電圧波形等で囲まれたピーク間の面積の平均値、分散値を算出し、これらに基づいて、当該所定期間の睡眠状態を仮決めし、さらに複数の期間の設定値を参酌して当該所定期間の睡眠状態を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報に基づいて睡眠状態を推定する睡眠状態推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康意識が高まる中で、一般の家庭において日々の睡眠を管理することにより健康管理に勤めたいというニーズが生まれてきている。
【0003】
人間の睡眠状態は一晩を通じて一様ではなく、大きくは眠りの浅いレム睡眠と眠りの深いノンレム睡眠とに2分され、睡眠中にノンレム睡眠とレム睡眠が周期的に数回出現することが従来より知られている。睡眠中は、ノンレム睡眠において浅い睡眠から深い睡眠へと睡眠状態が次第に移行し、深い睡眠状態が持続した後、再び浅い睡眠状態となり、その後、レム睡眠に移行するというのが一般的である。睡眠状態は睡眠深度によってさらに詳しく定義されている。睡眠深度は国際基準では、レム睡眠、睡眠深度1,2,3,4、覚醒の状態が定義されており、睡眠深度1,2,3,4はノンレム睡眠に該当するものである。
【0004】
従来から睡眠の状態変化を検出することが種々試みられており、例えば脳波、眼球運動、顎筋電などを検出しその検出波形から睡眠深度を判定する睡眠ポリグラフ(PSG)法が知られている。しかし睡眠ポリグラフ法では、装置が大がかりであり、病院など計測設備を備えた場所でしか利用できず、健康機器のように日常的に使用する用途には不向きである。また睡眠ポリグラフ法では、有資格者でなければ判定を行うことができず、装置さえあればよいと言う訳にはいかない。
【0005】
そこで、睡眠ポリグラフに代わる手段によって睡眠の状態変化を精度良く検出することが望まれている。この睡眠深度を睡眠ポリグラフ法を用いずに推定する方法として、従来は呼吸数、心拍数、体動を測定し、測定結果から、例えば、ニューラルネットワークやカオス理論により、また実際の計測睡眠データを基に当該睡眠深度を推定する手法が知られている(特許文献1、2、非特許文献1参照)。
【0006】
かかる従来技術による睡眠深度の推定は、測定した呼吸数、心拍数、体動の情報のうち、特に心拍数の増減変動、時間的間隔に重点を置いてこれらの変化から睡眠深度を推定するものである。
【特許文献1】特開平9−294731号公報
【特許文献2】特開平2001−61820号公報
【非特許文献1】計測自動制御学会論文集 Vol138,No.7,581/58
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術の睡眠推定においては、実際の睡眠の状態変化と一致する確率が低く、深い睡眠状態と浅い睡眠状態を判別するのに睡眠ポリグラフに比較して精度がかなり悪いという問題を有していた。
【0008】
また心拍数を精度よく測定するには、一般的には心電図が用いられるが、心電図による測定では、複数の電極を直接肌に貼り付ける必要があり、各電極から測定器に伸びるコードによって人体が束縛されるという欠点がある。また、無拘束センサによる測定では、測定した心拍数の信号が微小であり、また心拍以外の影響によりノイズが多く含まれるため、信号の増幅処理や、周波数解析のためのFFTやフィルタ演算処理を行わなければならず、処理が複雑となるという課題があった。
【0009】
そこで本発明は、無拘束状態においても円滑に検出できる信号を用いながら、眠りが深い・浅いといった睡眠状態を簡易かつ精度よく推定することができる睡眠状態推定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、規則的、不規則的に時々刻々と変動する時系列方向の呼吸動作波形に基づいて睡眠状態を推定するものである。
【0011】
請求項1の発明に係る睡眠状態推定装置は、生体情報を取得するセンサからのデータに基づき呼吸に関する時系列方向の波形曲線を算出する波形算出手段と、その波形算出手段によって算出された波形曲線の波形形状に基づいて睡眠状態を推定する睡眠状態推定手段とを備えていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、呼吸に関する時系列方向の波形曲線を用いるものであるので、被験者をそれほど拘束することなく円滑に睡眠状態を推定することができる。また当該波形の形状に基づいて睡眠状態を推定するので、睡眠状態を的確に把握することができ、よって精度よく睡眠状態を推定することができる。
【0013】
なお、当該発明において睡眠状態推定手段は、請求項2に記載のように波形曲線の波形形状に応じた評価値を算出する評価値算出手段と、その評価値算出手段からの評価値と睡眠状態を規定する比較値とを比較する比較手段とを備えるよう構成することができる。
【0014】
請求項3の発明は前記請求項2に係る睡眠状態推定装置において、評価値算出手段が、波形曲線と基準軸とで囲まれた面積を算出する面積算出手段を備えていることを特徴とする。
【0015】
請求項4の発明は前記請求項3に係る睡眠状態推定装置において、評価値算出手段が、センサからのデータに基づき波形形状のピークとなるピークタイミングを算出するピーク算出手段と、ピークタイミング間において波形曲線と基準軸とで囲まれた各ピーク間面積を算出するピーク間面積算出手段とを備えていることを特徴とする。
【0016】
上記2つの発明によれば、波形が描く面積から波形形状を把握しているので、比較的簡易に算出することができ、その結果精度よく睡眠状態を推定することができる。なお、基準軸とは面積算出のために想定した、生体情報を取得するセンサからの出力が時系列方向で全て一定値、例えば零であると仮定した時に描かれる直線のことである。
【0017】
請求項5の発明は前記請求項4に係る睡眠状態推定装置において、評価値算出手段が、各ピーク間面積の分散の値をその各ピーク間面積の平均の2乗で除算した演算結果を評価値とすることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、各ピーク間面積の分散の値を使用することで精度よく睡眠状態を推定することができる。なお、各ピーク間面積の分散値が同じ値であっても例えば体位が異なれば睡眠状態が異なる場合がおこりうる。そこで、各ピーク間面積の分散値を、体位などの影響を大きく受けうる各ピーク間面積の平均の2乗で除算することで、それら体位情報などを加味することができ、画一的に扱うことが可能となる。
【0019】
請求項6の発明は前記請求項5に係る睡眠状態推定装置において、体動情報を取得する体動情報取得手段を更に備え、睡眠状態推定手段が、その体動情報取得手段からの体動情報と比較手段からの推定結果をもとに睡眠状態値を設定することを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、睡眠状態の推定のうち“覚醒”状態か、覚醒状態以外の
いわゆる“眠っている”状態であるかの推定に利用することができる体動情報も更に使用するので、睡眠状態の推定において更に精度を上げることができる。
【0021】
請求項7の発明は前記請求項6に係る睡眠状態推定装置において、睡眠状態推定手段が、所定期間毎に睡眠状態値を設定し、設定された複数期間分の睡眠状態値をもとに所定タイミングにおける睡眠状態を推定することを特徴とする。
【0022】
請求項8の発明は前記請求項7に係る睡眠状態推定装置において、各期間の睡眠状態値に重み付けをして睡眠状態を推定することを特徴とする。
【0023】
これら2つの発明によれば、所定期間における睡眠状態の推定において、前述の面積や体動を利用して精度よく推定したのに加え、複数区間の推定結果を考慮するので更なる精度の向上に貢献することができる。また各期間の睡眠状態結果の考慮の際に重み付けをすることで一層の精度の向上に貢献することができる。
【0024】
請求項9の発明は、上記請求項1乃至8の何れか一項に記載された各手段の機能をコンピュータに付与するプログラムである。
【0025】
以上のように本発明によれば、規則的、不規則的に時々刻々と変動する時系列方向の呼吸動作波形に基づいて、眠りが深い・浅いといった睡眠状態を簡易かつ精度よく推定することができる睡眠状態推定装置を提供することができる。
【0026】
本発明の特徴は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。
【0027】
ただし、以下の実施の形態は、あくまでも、本発明の一つの実施形態であって、本発明ないし各構成要件の用語の意義は、以下の実施の形態に記載されたものに制限されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照して説明する。
【0029】
図1を参照して、本実施形態に係る睡眠状態推定装置は、生体情報を取得するセンサの一つである呼気バンド1、センサからのデータに基づき呼吸に関する時系列方向特性である波形曲線を算出する波形算出手段を含む生体情報処理部2、睡眠状態を推定する睡眠状態推定部3から構成される。敷き布団4上に人体が横たわっており、人体の上半身に呼気バンド1が取り付けられている。
【0030】
呼気バンド1とは、図2に示す如く、ストレーンゲージ1a(例えば、伸縮するゴムの管の中に導電液を封入したもの)のついた弾力性のあるバンドである。この呼気バンド1を人体の胸部や腹部にまきつけると、人体の呼吸運動によりストレーンゲージ1aが伸縮し、その電気的な抵抗が変化する。
【0031】
生体情報処理部2は、ストレーンゲージ1aの抵抗変化をブリッジ回路などを介して電圧変化に変換し、この電圧変化を人体の呼吸運動による変化として測定する。図3を参照して、生体情報処理部2により測定した人体の呼吸運動による電圧変化を示す。図3では、横軸が測定時間(sec)、縦軸が電圧(V)であり電圧が正の時は吸気動作を示す。なお、図3において時間軸の20秒から30秒にかけての区間で波形に大きい変化が見られるのは体動による影響であり、体動による電圧の変化は呼吸動作に対して目立って大きいことが知られている。この体動からの情報は、睡眠状態の推定のうち“覚醒”状態か、覚醒状態以外のいわゆる“眠っている”状態であるかの推定に利用することができる。ここで言う体動とは睡眠時の寝返りなどのことだけではなく、覚醒状態での体動及び覚醒状態とみなせる状態を含む。例えば、生体情報が明らかに異常な値をとる、又は異常な周期が存在する場合は、覚醒を表す状態と判断する。
【0032】
睡眠状態推定部3では、生体情報処理部2により測定された電圧波形をサンプリング周波数100Hzでサンプリングしデジタル化する。なお、上述のように電圧の変化から体動の状態が検出可能であるため、本実施形態ではn個の各ピーク値(Vj[j=1,2,3,…,n])の比を体動検出に使用する(以下、ピーク値比と呼ぶ)。ピーク値は電圧が正でかつ最大値を示す、電圧波形形状がピークとなる箇所の値である。図3では、時間0〜59秒の区間に、正のピーク値のポイントは14ポイント(P1〜P14)存在する。また、当該各ピークのタイミング(ピーク値の時刻;Tj[j=1,2,3,…,n])間の時間間隔(以下、ピーク間隔と呼ぶ)が所定の範囲外であることは実験・調査データから覚醒又は体動ということができるので、ピーク間隔も覚醒の推定に使用する。
【0033】
なお、ピーク値、ピーク間隔は次のように算出する。即ち、測定された電圧変化のデータが所定の正の閾値(本実施形態では1V)を越えてから、所定の負の閾値(本実施形態では−1V)に達するまでの間の最大値を電圧の正のピーク値として算出する。このように負の閾値を設けることにより、ヒステリシス効果で正のピーク値の誤検出を防止することができる。また、算出した正のピーク値から次の正のピーク値に到達するまでの時間をピーク間隔とする。以上により、ピーク値比とピーク間隔は下式で表される。
【0034】
【数1】

【0035】
以下では、図4および図5に示すフローチャートに基づいて睡眠状態推定部3における睡眠状態の推定方法を説明する。
【0036】
図4を参照して、ステップS100では、時間計測用タイマーをリセットし、諸変数(ループ回数変数iなど)やメモリなどをクリアする。
【0037】
ステップS101では、各ハードウエアすなわちタイマーや生体情報データメモリなどに時間計測、生体情報データ取込みを開始させるトリガ信号を発生させる。これ以降、タイマーは時間計測を開始し、所定期間毎(本実施形態では60秒毎としている)にインタラプトT信号を発生させる。また、生体情報処理部2はセンサからの呼吸情報に基づいた電圧変化の測定を開始し、それとともに生体情報データメモリはそのデジタルデータ取込みを開始する。
【0038】
ステップS102ではインタラプトT信号の受信により、生体情報データメモリに所定期間60秒分のデータが蓄積されたかどうか確認する。確認されたらステップS103へ進み、それ以外はステップS102へ分岐する。
【0039】
スッテプS103では前記の方法によりピークを検出し、ピーク間隔、ピーク値比の算出を行う。
【0040】
スッテプS104では全てのピーク間隔が所定の範囲内にあるかどうか判定し、範囲内にある場合はフラグPIflagを1に、それ以外のときは0にセットする。なお、PIflag=0の場合とは、“覚醒”状態にある体動又は睡眠状態とはみなせない状態を表している。
【0041】
スッテプS105では全てのピーク値比が所定の範囲内にあるかどうか判定し、範囲内にある場合はフラグPVflagを1に、それ以外のときは0にセットする。なお、PVflag=0の場合とは、“覚醒”状態にある体動又は睡眠状態とはみなせない状態を表している。
【0042】
スッテプS106ではフラグPIflag、PVflagが両者とも所定の範囲内にある場合、すなわち(PIflag,PVflag)=(1,1)の場合にはステップS107に、それ以外ではステップS109cに分岐する。
【0043】
ステップS107では所定期間60秒区間内における(n−1)箇所のピーク間面積gj( [j=1,2,3,…,(n−1)])を算出し、その後各ピーク間面積の平均と分散を算出して評価値SVを算出する。この評価値は波形曲線の波形形状に応じた値を示す。ピーク間面積とは各ピークタイミング間において波形曲線と基準軸とで囲まれた各区間の面積のことで、電圧値が負である区間では積分値の絶対値を使用する。なお、基準軸は任意であるが、ここではセンサからの出力が時系列方向において全て一定値、さらには零であると想定した時の特性直線とした。なお、分散Bは、各ピーク間面積の平均をAとすると次式
【0044】
【数2】

【0045】
で与えられるので、評価値SVは下式で与えられる。
【0046】
【数3】

【0047】
ステップS108では、評価値SVと睡眠状態を規定する比較値との比較を行い、評価値SVが比較値未満のときはステップS109aに、それ以外のときはステップS109b分岐する。本実施形態では比較値として0.2を使用している。
【0048】
ステップS109a、S109b、S109cでは、SleepValue[i]にそれぞれ睡眠状態値Deep、Light、MTをセットする。
【0049】
ステップS110ではループ回数変数iをインクリメントし、当該所定期間分の睡眠状態値設定作業の終了を示すインタラプトSV信号を発生させる。次の所定期間の状態推定ルーチンを開始するためステップS102へ戻る。
【0050】
図5を参照して、ステップS200では、上記インタラプトSV信号を受信した場合のみステップS201へ進む。
【0051】
ステップ201では、ループ回数変数iが5以上であるかどうか判定する。すなわち5期間分の睡眠状態値が得られているか判定する。これは所定タイミングにおける睡眠状態推定のために、設定された複数期間分の睡眠状態値を使用するため(本実施形態では5期間分)、開始直後はその設定期間分の睡眠状態値が得られているかの判定が必要となるためである。ループ回数変数iが5以上の場合はステップS202へ、それ以外はステップS200へ分岐する。
【0052】
ステップS202では、カウント用変数DeepCount、MTCountをクリアする。
ステップS203では、SleepValue[i-4]〜SleepValue[i]の5つにおいて、DEEP、MTがいくつあるかカウントし、DEEPの数を変数DeepCount、MTの数を変数MTCountにセットする。
【0053】
ステップS204では、変数DeepCount、変数MTCountの値に応じて睡眠状態の推定を行い、SleepState[i]に推定値“WAKE”、“REM”、“DEEP”、“LIGHT”の何れかをセットする。この値は当該所定期間の睡眠状態の推定を行った最終結果の値である。ステップS106やステップS108においてフラグPIflag、PVflagや評価値SVを各閾値と比較することで、ステップS109a〜cにおいて所定期間における睡眠状態値をセットしたが、これは言わば仮決めの状態である。この段階では、例えば寝返りの体動をステップS106で“覚醒”と誤判定する可能性もあり得、より精度の向上を図るべきである。よって、本実施形態では、この段階では睡眠状態推定の確定を行わない。
【0054】
そこで、ステップS203、ステップS204では、当該期間より以前の履歴情報であるSleepValue[i−4]〜SleepValue[i-1]も用い、その仮決めされた睡眠状態値を参酌して当該期間の睡眠状態推定を行うことで、精度の向上を図っている。なお、上記の場合に限らず、所定期間の推定において過去の履歴だけでなく、それより後の睡眠状態値を参酌しても構わない。
【0055】
また、本実施形態では詳説していないが、各期間の睡眠状態値に重み付けをして睡眠状態を推定してもよい。例えば、SleepState[5]を決定するのにSleepValue[3]〜SleepValue[7]を用いて変数DeepCountを算出する際、SleepValue[3]とSleepValue[7]がDeepのときは1回とせずに0.5回、SleepValue[5] がDeepのときは1回とせずに2回とするなどして重み付けを変える。これにより一層の精度の向上が期待できる。
【0056】
なお、推定値“WAKE”は先述の国際基準により規定された睡眠深度の定義によると“覚醒”であり、“REM”は“レム睡眠”、“LIGHT”は“睡眠深度1,2”の状態、“DEEP”は“睡眠深度3,4“の状態である。
【0057】
以上のように、睡眠状態推定部3は、ピーク間隔、ピーク値比により“覚醒”かどうかの判定を行い、また呼吸動作波形のピーク間面積の平均値、分散により“深い眠り”、“浅い眠り”のいずれであるかを精度よく判定する。さらに複数区間の推定結果を考慮することで睡眠状態推定の更なる精度の向上を行っている。なお、本実施形態による睡眠状態推定結果とPSGによる推定結果との比較を図6に載せる。
【0058】
図6では、“REM”と“LIGHT”の推定を「浅い」、"DEEP"の推定を「深い」としている。図6を参照すると、就寝してから浅い睡眠に入るタイミングや、例えば1〜3時間付近の深い睡眠のタイミング、睡眠のサイクル等の傾向が、PSGの結果と比較して精度よく推定されていることが確認できる。なお、7時間以降は、PSGの結果では浅い眠りであるのに対して呼吸運動からの推定では覚醒状態と判断している傾向が見られる。この理由として、睡眠の特性上、明け方になるに従い体動が増加することが知られており、明け方に頻発した体動を覚醒と判定してしまった事が考えられる。なお、PSGの結果はAllan Rechtschaffen&Anthony Kalesの手法に基づいた判定であるが、判定者の主観によって判定のずれが生じることもあり、PSGの判定結果が被験者の実際の状態と一致しない場合もありうる。
【0059】
なお、上記実施形態では生体情報センサーとして呼気バンドを用いているが、その他の生体情報センサーとして無拘束センサー、例えば、シート状の静電容量型のセンサーを用いることもできる。この場合は、図7および図8に示すように、敷き蒲団4に該シート状静電容量型センサー5が取り付けられる。
【0060】
該シート状静電容量型センサー5では人体の上半身により圧迫されて電極間の距離が変動し、これに伴ってシート状静電容量型センサー5の静電容量が変動する。よってこの場合は、生体情報処理部2は人体の呼吸運動及び体動によるシート状静電容量型センサー5の静電容量の変動データを測定する。具体的には、例えばLC共振回路を用いてその共振周波数を測定する。この場合には、睡眠状態推定部3は、生体情報処理部2の出力信号である人体の呼吸運動や体動に基づく静電容量の変動波形曲線を用いて睡眠状態を推定する。具体的には前記の呼気バンドの例と同じである。
【0061】
図9に生体情報処理部2により測定した人体の呼吸運動による電圧変化を示す(なお、サンプリング周波数は10Hz)。図9では、横軸が測定時間(sec)、縦軸が共振周波数(Hz)である。同図(b)は同図(a)の縦軸のレンジを絞って呼吸動作の波形が確認しやすいように縦軸方向において拡大した図である。時間軸の60秒辺りから100秒辺りにかけて、波形の変化に体動による影響が見られる。このように体動による周波数の変化は呼吸動作の場合と比べてかなり大きい。以上のように、波形は共振周波数に関するものであるが、この場合でも然るべき閾値を設定することで、前記実施形態と同様に演算、推定等を行うことが可能である。
【0062】
また、上記実施形態では、睡眠状態推定部3は、生体情報処理部2により測定された電圧変化をサンプリング周波数100Hzでサンプリングしてデジタル化し、所定の一区間として60秒間の電圧測定結果に基づいてピーク間隔値、ピーク値、さらにピーク間面積の平均と分散に基づいた評価値を用いて睡眠状態を推定しているが、当該サンプリング周波数、閾値および一区間の長さは、適宜変更することができる。また、睡眠状態推定部3が睡眠状態を推定する際のピーク間隔値などの閾値は、複数の被験者からのデータを統計処理することによりチューニングした値を適用する。
【0063】
なお、図4及び図5に示す処理フローは、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIなどで実現できる。また、ソフトウエア的には、メモリにロードされたプログラムなどによって実現される。図1には、睡眠状態推定装置の構成を機能ブロックとして示したが、これらの機能ブロックが、ハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、それらの組合せ等、いろいろな形態で実現できることは言うまでもない。例えば図1における生体情報処理部2、睡眠状態推定部3の機能ないし図4及び図5の処理を実行するためのプログラムをパーソナルコンピュータにインストールして睡眠状態推定装置を構成することもできる。
【0064】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、かかる実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施の形態に係る睡眠状態推定装置の構成を示す図。
【図2】生体情報を取得するセンサーの一つである呼気バンドを示す図。
【図3】生体情報処理部により抽出された呼吸信号波形を示す図。
【図4】実施の形態に係る睡眠状態を推定するフローチャートを示す図。
【図5】実施の形態に係る睡眠状態を推定するフローチャートを示す図。
【図6】実施の形態による推定結果と睡眠ポリグラフによる実測値を比較した図。
【図7】他の実施の形態に係る睡眠状態推定装置の構成を示す図。
【図8】他の実施の形態に係る睡眠状態推定装置の構成を示す図。
【図9】他の実施の形態(シート型センサー)にて抽出した呼吸信号の波形図。
【符号の説明】
【0066】
1 生体情報センサー
2 生体情報処理部
3 睡眠状態推定部
5 シート状の静電容量型の無拘束生体情報センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体情報を取得するセンサからのデータに基づき呼吸に関する時系列方向の波形曲線を算出する波形算出手段と、該波形算出手段によって算出された波形曲線の波形形状に基づいて睡眠状態を推定する睡眠状態推定手段とを、備えていることを特徴とする睡眠状態推定装置。
【請求項2】
前記睡眠状態推定手段は、前記波形曲線の波形形状に応じた評価値を算出する評価値算出手段と、該評価値算出手段からの評価値と睡眠状態を規定する比較値とを比較する比較手段とを、備えていることを特徴とする請求項1に記載の睡眠状態推定装置。
【請求項3】
前記評価値算出手段は、前記波形曲線と基準軸とで囲まれた面積を算出する面積算出手段を、備えていることを特徴とする請求項2に記載の睡眠状態推定装置。
【請求項4】
前記評価値算出手段は、前記センサからのデータに基づき前記波形形状のピークとなるピークタイミングを算出するピーク算出手段と、ピークタイミング間において前記波形曲線と基準軸とで囲まれた各ピーク間面積を算出するピーク間面積算出手段とを、備えていることを特徴とする請求項3に記載の睡眠状態推定装置。
【請求項5】
前記評価値算出手段は、前記各ピーク間面積の分散の値を該各ピーク間面積の平均の2乗で除算した演算結果を評価値とすることを特徴とする請求項4に記載の睡眠状態推定装置。
【請求項6】
体動情報を取得する体動情報取得手段を更に備え、前記睡眠状態推定手段は、該体動情報取得手段からの体動情報と前記比較手段からの推定結果をもとに睡眠状態値を設定することを特徴とする請求項5に記載の睡眠状態推定装置。
【請求項7】
前記睡眠状態推定手段は、所定期間毎に前記睡眠状態値を設定し、設定された複数期間分の睡眠状態値をもとに所定タイミングにおける睡眠状態を推定することを特徴とする請求項6に記載の睡眠状態推定装置。
【請求項8】
前記睡眠状態推定手段は、各期間の睡眠状態値に重み付けをして睡眠状態を推定する請求項7に記載の睡眠状態推定装置。
【請求項9】
上記請求項1乃至8の何れか一項に記載された各手段の機能をコンピュータに付与するプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−20810(P2006−20810A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201155(P2004−201155)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】