説明

短光パルスの光ファイバ伝送装置および光ファイバ伝送方法

【課題】3次以上の高次の分散による波形歪みの影響を低減し、高ピークパワーを持つ短光パルスを、これを利用する光学装置の所望の位置で高ピークパワーの短光パルスが得られるように、効率良く伝送する。
【解決手段】光ファイバ伝送装置は、短光パルスに非線形効果と分散効果を与える非線形効果発生手段20と、非線形効果発生手段20から出射される短光パルスに負の群速度分散を与える負群速度分散発生手段30と、負群速度分散発生手段30から出射される短光パルスを所望の距離に渡って伝送する光ファイバ40とを備え、ダウンチャープパルスを出射する。非線形効果発生手段20は、LNLを非線形長、Loptを最適長とするとき、長さLが以下の条件式(1)を満たすように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短光パルスの光ファイバ伝送装置および光ファイバ伝送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生物学、医学、医療、加工、計測、通信などの様々な分野において、高ピークパワーを持ち、複数の波長成分を含むピコ秒以下の短光パルスが利用されるようになってきている。特に、生物学分野や医学分野では、多光子蛍光顕微鏡、高調波顕微鏡、コヒーレント・アンチストークス・ラマン散乱(Coherent Anti-Stokes Raman Scattering:CARS)顕微鏡などの非線形光学効果を利用した顕微鏡や、光応力波を用いた遺伝子導入装置、拡散光トモグラフィ装置などに、チタン:サファイアレーザやファイバレーザなどの、短光パルスを発生する光パルス源が活発に利用されている。
【0003】
これらの光パルス源から出射される高ピークパワーの短光パルスは、反射ミラーや光ファイバなどを用いて、上述の顕微鏡などの光学装置まで伝送されるが、操作性や安定性の観点から、短光パルスの伝送には、光ファイバの利用が強く望まれる。
【0004】
ところが、光ファイバを用いると、高ピークパワーの短光パルスは、光ファイバ中を伝搬する過程において、光ファイバ中の群速度分散(Group-velocity dispersion:GVD)効果、自己位相変調(Self-phase modulation:SPM)効果などの非線形光学効果、およびその相互作用の影響を受けて、光パルスの時間幅が広がることが知られている。この光パルス時間幅の広がりは、多くの応用で問題となる。
【0005】
たとえば、加工分野においては、金属の切断などにおいて金属の熱変性が同時に起きるため、微細な加工においてシャープなエッジを形成させることができない。また、通信分野においては、光パルスの時間幅が広がることにより、通信速度の低下や符号誤り率が上がってしまう。さらに、多光子蛍光顕微鏡などの非線形光学顕微鏡では、高いピークパワーの超短光パルスが要求されるが、光ファイバ中でパルス時間幅が広がると、それに伴って光パルスのピークパワーが低下して、顕微鏡画像の明度が低下してしまう。
【0006】
多光子蛍光顕微鏡では、多光子蛍光強度をI、光パルスのピークパワーをPとすると、IおよびPは、それぞれ下記の(a)および(b)式で表される。
【0007】
【数1】

【0008】
上記(a)および(b)において、nは自然数で、二光子蛍光、三光子蛍光、そしてk光子蛍光の場合には、それぞれn=2,3,そしてkになる。また、CおよびCは定数、Tは光パルスのパルス時間幅、frepは光パルスの繰り返し周波数、Pavは光パルスの平均パワーを示す。(b)式を用いて、(a)式を書き直すと、多光子蛍光強度Iは、下記の(c)式のようになる。
【0009】
【数2】

【0010】
上記(c)式から、光パルス時間幅Tが広くなると、多光子蛍光強度Iは低下し、光パルス時間幅Tが狭くなる程、多光子蛍光強度Iは高くなることがわかる。
【0011】
このような光パルス時間幅の広がりを防止するようにした短光パルスの光ファイバ伝送装置として、例えば、図12に示すように、光導波手段120と光ファイバ140との間に、回折格子対やプリズム対などの負群速度分散発生手段130を配置し、この負群速度分散発生手段130により、光導波手段120と光ファイバ140で光パルスが受けるGVD効果とSPM効果の相互作用を補償するようにして短光パルスを伝送するものが知られている。(例えば、特許文献1参照)
【0012】
特許文献1に開示された短光パルスの伝送装置によれば、光ファイバ伝送装置の後段に配置される顕微鏡などの光学装置は正常分散を持つため、光ファイバ伝送装置からの出射光パルスをダウンチャープ(レッドシフトチャープ)した短光パルスとすることで、光学装置内の所望の位置でチャープが補償された高ピークパワーを有する所望の時間幅の短光パルスが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−268589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献1の短光パルスの光ファイバ伝送装置では、負群速度分散発生手段により、負のGVD効果の他に高次の分散成分であるGVDS(Group Velocity Dispersion Slope)が発生する。仮に、光導波手段や光ファイバを長くして短光パルスの伝送装置内の正のGVD量が大きくなると、それに応じて、発生させる負のGVD量を大きくして、正のGVD量を補償しなければならない。負群速度分散発生手段でより大きな負のGVD量を発生させると、それに伴ってより大きなGVDS量が発生する。
【0015】
しかし、高次の分散成分であるGVDS量は、コストや補償方法の複雑さから、補償することは困難である。そして、補償しきれなかったGVDS量による影響で、短光パルスの時間波形は複雑に変形し(リンギングなどが発生する)、ピークパワーが低下してしまう。その結果、例えば、多光子蛍光顕微鏡などの非線形光学顕微鏡では、顕微鏡画像の明度が低下してしまう。
【0016】
図13は、負群速度分散発生手段で大きなGVDS量が発生したと想定した場合の図12の短光パルスの光ファイバ伝送装置の各部(図12(A)〜(E))における光パルスの時間波形(上段)およびスペクトル波形(下段)を示す図である。上段の時間波形上には、破線によりチャープを示している。図13に示すように、光導波手段120にピークパワーの高い短光パルスが入射すると(図13(A))、光導波路内での正のGVD効果とSPM効果との相互作用によって短光パルスのスペクトル幅が広がったアップチャープ(ブルーシフトチャープ)パルスとなる(図13(B))。一般に、ピークパワーが高い短光パルスほどSPM効果を大きく受け、短光パルスのスペクトル幅はより広がる。
【0017】
スペクトル幅が広がった光パルスが、回折格子対などの負群速度分散発生手段130に入射すると、負群速度分散発生手段130の負のGVD効果によって、ダウンチャープパルスとなる(図13(C))。一般に、光パルスが回折格子対などの負群速度分散発生手段から受けるGVD効果はスペクトル幅が広いほど大きく、それに伴って発生する3次以上の高次の分散による影響が無視できなくなる。
【0018】
負群速度分散発生手段130を出射したダウンチャープパルス(図13(C))は、3次以上の高次の分散による波形の歪がない場合は、光ファイバ140を透過させることにより、光ファイバ140の正のGVD効果とSPM効果との相互作用によってパルス時間幅およびスペクトル幅が狭まったダウンチャープパルスとなるが、高次の分散による無視できない大きさの波形の歪みを含む場合は、時間波形にリンギング等の複雑な歪が生じる(図13(D))。
【0019】
このため、光学装置150に入射し、光学装置150内でGVD効果を受けた後も、リンギング等の波形の歪により、高次分散が含まれない場合と比較して、高いピークパワーを得ることができない(図13(E))。
【0020】
したがって、これらの点に着目してなされた本発明の目的は、3次以上の高次の分散による波形歪みの影響を低減し、高ピークパワーを持つ短光パルスを、これを利用する光学装置の所望の位置で高ピークパワーの短光パルスが得られるように、効率良く伝送することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成する第1の観点に係る短光パルスの光ファイバ伝送装置の発明は、
高ピークパワーを持つ短光パルスを受けて、
該短光パルスに非線形効果と分散効果を与える非線形効果発生手段と、
該非線形効果発生手段から出射される短光パルスに負の群速度分散を与える負群速度分散発生手段と、
該負群速度分散発生手段から出射される短光パルスを所望の距離に渡って伝送する光ファイバと、
を有し、
前記非線形効果発生手段に入射した前記短光パルスを、前記光ファイバからダウンチャープした短光パルスとして出射させ、且つ、前記非線形効果発生手段は、以下の条件式(1)を満たすように構成したことを特徴とするものである。
【数3】

Lは、前記非線形効果発生手段の媒質の物理長、
γは、前記非線形効果発生手段の媒質の非線形係数、
Pは、前記非線形効果発生手段に入射する短光パルスのピークパワー、
は、前記非線形効果発生手段に入射する短光パルスのその出力強度が前記ピークパワーの1/eになるときの時間半幅、
βは、前記非線形効果発生手段の群速度分散値
である。
【0022】
第2の観点に係る発明は、第1の観点に係る短光パルスの光ファイバ伝送装置において、
前記非線形効果発生手段の媒質の物理長は、0.5Lopt以上であることを特徴とするものである。
【0023】
第3の観点に係る発明は、第1または第2の観点に係る短光パルスの光ファイバ伝送装置において、
前記非線形効果発生手段は、以下の条件式(2)を満たすことを特徴とするものである。
【数4】

は、前記非線形効果発生手段に入射する短光パルスのその出力強度が前記ピークパワーの1/eになるときの時間半幅、
βは、前記非線形効果発生手段の群速度分散値、
γは、前記非線形効果発生手段媒質の非線形係数、
Pは、前記非線形効果発生手段に入射する短光パルスのピークパワー
である。
【0024】
第4の観点に係る発明は、第1〜第3の観点のいずれかに係る短光パルスの光ファイバ伝送装置において、
前記非線形効果発生手段の前段に、高ピークパワーを持つアップチャープした短光パルスを出射するチャープパルス源を備えることを特徴とするものである。
【0025】
第5の観点に係る発明は、第1〜第3の観点のいずれかに係る短光パルスの光ファイバ伝送装置において、
前記非線形効果発生手段の前段に、前記非線形効果発生手段で発生する非線形効果の大きさを調整する非線形効果調整手段を備えることを特徴とするものである。
【0026】
第6の観点に係る発明は、第1〜第5の観点のいずれかに係る短光パルスの光ファイバ伝送装置のいずれかにおいて、
前記非線形効果発生手段は、正の群速度分散値を有することを特徴とするものである。
【0027】
第7の観点に係る発明は、第1〜第6の観点いずれかに係る短光パルスの光ファイバ伝送装置において、
前記光ファイバは、正の群速度分散値を有することを特徴とするものである。
【0028】
上記目的を達成する第8の観点に係る短光パルスの光ファイバ伝送方法の発明は、
高ピークパワーを持つ短光パルスを受け、非線形効果発生手段を透過させることにより前記短光パルスに非線形効果と分散効果を与え、
前記非線形効果発生手段から出射した短光パルスに負の群速度分散を与え、
前記負の群速度分散を与えられた短光パルスを、光ファイバを用いて所望の距離に渡って伝送し、
前記光ファイバからダウンチャープした短光パルスとして出射させる短光パルスの光ファイバ伝送方法であって、
前記非線形効果発生手段は、以下の条件式(2)を満たすことを特徴とするものである。
【数5】

Lは、前記非線形効果発生手段媒質の物理長、
γは、前記非線形効果発生手段媒質の非線形係数、
Pは、前記非線形効果発生手段に入射する短光パルスのピークパワー、
は、前記非線形効果発生手段に入射する短光パルスのその出力強度が前記ピークパワーの1/eになるときの時間半幅、
βは、前記非線形効果発生手段の群速度分散値
である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、高ピークパワーを持つ短光パルスを、条件式(1)を満たすように構成した非線形効果発生手段、負群速度分散発生手段、および光ファイバを経て、ダウンチャープした短光パルスとして出射させるので、3次以上の高次の分散による波形歪みの影響を低減し、高ピークパワーを持つ短光パルスを、これを利用する光学装置の所望の位置で高ピークパワーの短光パルスが得られるように効率良く伝送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態に係る短光パルスの光ファイバ伝送装置を有する光学システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1の各部における光パルスの時間波形(上段)およびスペクトル波形(下段)を示す図である。
【図3】図1の非線形効果発生手段の一例としての光ファイバの長さに対して、光学装置としての顕微鏡により得られた2光子蛍光強度を示すグラフである。
【図4】図1の短光パルスの光ファイバ伝送装置を有する光学システムの具体的構成例を示す図である。
【図5】図4の顕微鏡の対物レンズの前段に設けられる正群速度分散付加手段について説明する図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る短光パルスの光ファイバ伝送装置を有する光学システムの概略構成を示すブロック図である。
【図7】図6の短光パルスの光ファイバ伝送装置を有する光学システムの具体的構成例を示す図である。
【図8】図7の非線形効果発生手段の詳細な構成を示す図である。
【図9】図7のファイバレーザの後段にさらにファイバ型増幅器を設けて短光パルス源を構成した図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係る短光パルスの光ファイバ伝送装置を有する光学システムの概略構成を示すブロック図である。
【図11】図10の短光パルスの光ファイバ伝送装置を有する光学システムの具体的構成例を示す図である。
【図12】従来技術に係る短光パルスの光ファイバ伝送装置を有する光学システムの概略構成を示すブロック図である。
【図13】負群速度分散発生手段で大きなGVDS量が発生したと想定した場合の図11の各部における光パルスの時間波形(上段)およびスペクトル波形(下段)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0032】
(第1実施形態)
図1および図2は、本発明の第1実施形態を示すもので、図1は短光パルスの光ファイバ伝送装置を有する光学システムの概略構成を示すブロック図、図2は、図1の(A)〜(E)の各部における光パルスの時間波形(上段)およびスペクトル波形(下段)を示す図である。なお、図2の上段の時間波形上の破線はチャープを示している。
【0033】
本実施形態に係る光学システムは、短光パルス源10と、非線形効果発生手段20と、負群速度分散発生手段30と、光ファイバ40と、短光パルスを利用する正のGVDを有する光学装置50とを有している。
【0034】
短光パルス源10は、高ピークパワーの変換限界(TL)に近い超短光パルスを射出する、チタン:サファイアレーザ、モード同期希土類添加光ファイバレーザ、モード同期半導体レーザ、あるいは利得スイッチ半導体レーザ等の光源を用いる。さらに、光増幅器を組み合わせて構成して、例えば、100ピコ秒未満のパルス幅を持つ超短光パルスを発生させることもできる。
【0035】
非線形効果発生手段20は、条件式(1)を満たすように構成した非線形効果と分散効果とを発生する光学素子であり、例えば、光パルスの波長において正のGVD値を有する単一モード光ファイバ、多モード光ファイバ、分散補償ファイバ、フォトニック結晶ファイバ(Photonic crystal fiber:PCF)、増幅光ファイバ、導波路型半導体光増幅器、平面光導波路、屈折率分布型レンズのいずれかを含んで構成される。
【数6】

Lは、前記非線形効果発生手段の媒質の物理長、
γは、前記非線形効果発生手段の媒質の非線形係数、
は、前記非線形効果発生手段に入射する短光パルスのピークパワー、
は、前記非線形効果発生手段に入射する短光パルスのその出力強度が前記ピークパワーの1/eになるときの時間半幅、
βは、前記非線形効果発生手段の群速度分散値
である。
【0036】
なお、LNLは非線形長であり、非線形効果発生手段で非線形効果を発生させるために、LはLNL以上であることが条件となる。また、Loptは、光ファイバ中で非線形効果と群速度分散効果との相互作用によって、パルスにほぼ線形なチャープが載る最適なファイバ長であることが知られている(例えば、G. P. Agrawal, Nonlinear fiber optics, 2nd Ed., Academic Pressを参照)。
【0037】
図2(A)に示す短光パルス源10からの短光パルスは、この非線形効果発生手段20を透過することにより、非線形効果発生手段20の正のGVD効果とSPM効果との相互作用によって、図2(B)に示すように、パルス時間幅およびスペクトル幅がそれぞれ広がり、ピークパワーが低下し且つ線形なチャープがのったアップチャープパルスとなる。ここで、非線形効果発生手段20は、媒質の物理長を条件式(1)に示す範囲に制限されている。この長さは、非線形効果が十分に得られる一方、GVD効果の発生を極力抑制するように定められている。
【0038】
図3は、図1の非線形効果発生手段20の一例としての光ファイバの長さに対して、光学装置としての顕微鏡50により得られた2光子蛍光強度の実験結果を示すグラフである。この実験においては、短光パルス源10として、発振波長約800nm、平均出力約2W、パルス時間幅約200fs、繰り返し周波数約80MHz、スペクトル約幅約4.7nmのパルスレーザを用いた。
【0039】
また、非線形効果発生手段20としては、モードフィールド径12.5μm、波長800nm帯で、36pskm−1程度のGVD値を有し、非線形光学定数が約1.7W−1km−1のラージモードエリアフォトニック結晶ファイバ(LMA−PCF)を使用した。さらに、負群速度分散発生手段30は、回折格子対を用いたものであって、回折格子間の間隔を調整可能なものを使用し、顕微鏡下での2光子蛍光が最も明るくなるように調整した。さらに、光学装置50として使用した顕微鏡のGVD量は0.01psである。
【0040】
図3において、横軸αは非線形効果発生手段20としての光ファイバの長さを、条件式(2)で得られるLoptの倍数αにより示したものである。ここで、Loptは次の式で表すことができる。
【数7】

ここで、Lは、非線形効果発生手段20の媒質の物理長、γは、非線形効果発生手段20の媒質の非線形係数、Pは、非線形効果発生手段20に入射する短光パルスのピークパワー、Tは、非線形効果発生手段20に入射する短光パルスのその出力強度が前記ピークパワーの1/eになるときの時間半幅、βは、非線形効果発生手段20の群速度分散値である。
【0041】
一方、図3における縦軸は、顕微鏡から得られた2光子蛍光強度を、最大値を1とした場合の相対値として示したものである。
【0042】
図3から分かるように、観察される2光子蛍光強度は、α=1の場合、すなわち、非線形効果発生手段20である光ファイバの媒質の物理長が、条件式(2)を満たす場合に最も強くなる。また、2光子蛍光強度は、αが約0.5以上約8以下の場合に、α=1の場合の約60%となる。蛍光強度の低下がこの程度までであれば、2光子蛍光を用いたマウスの脳などの試料の表面付近の観察を行うことが可能である。また、試料深部(約300μm以下)の観察を行うためには、α=1の場合の約80%以上の2光子蛍光強度があることが望ましく、その場合の光ファイバの長さは、αが約0.8以上2以下となる長さである。なお、図3で示した実験例において、非線形長LNLは、αが約0.05に相当する。
【0043】
非線形効果発生手段20から出射されるアップチャープした光パルスは、次に、負群速度分散発生手段30へ入射させる。負群速度分散発生手段30は、例えば、光パルスの波長において負のGVD量を与える、一対の回折格子、一対のプリズム、チャープド・ファイバ・ブラッグ・グレーティング(Chirped fiber Bragg grating:CFBG)、GT(Gires-Tournois)干渉計、VIPA(Virtually Imaged Phased Array)型分散補償器、アレイ導波路格子(Arrayed Waveguide Grating:AWG)、空間液晶光変調器、中空光ファイバ、フォトニック液晶のいずれか一つを含んで構成される。
【0044】
非線形効果発生手段20からのアップチャープパルスは、この負群速度分散発生手段30を透過することにより、負群速度分散発生手段30の負のGVD効果によって、図2(C)に示すように、ダウンチャープパルスとなる。なお、この負群速度分散発生手段30により光パルスに与えられる負のGVD量は、光学装置50内の所望の地点において、光パルスが十分に再圧縮されるように決定される。
【0045】
負群速度分散発生手段30は、非線形効果発生手段20、光ファイバ40および光学装置50等の正分散をキャンセルするように調整されるので、正の分散の発生を抑制した非線形効果発生手段20を用いることにより、負群速度分散発生手段30で発生させる負の分散量を抑制することができる。その結果、負群速度分散発生手段30で発生する3次以上のより高次の分散量も小さくなる。
【0046】
負群速度分散発生手段30から出射されるダウンチャープパルスは、次に、光ファイバ40へ入射させる。光ファイバ40は、光パルスを所望の距離に渡って伝送するもので、例えば、光パルスの波長において正のGVD値を有する、単一モード光ファイバ、多モード光ファイバ、分散補償ファイバ、フォトニック結晶ファイバ、増幅光ファイバのいずれか一つを用いて構成する。ここで、光ファイバ40に入射する光パワーは、種々の光損失を受けているため、非線形効果発生手段20に入射する光パワーよりも、通常は低くなっている。そのため、光ファイバ40のGVD値に対する非線形光学定数の比は、非線形効果発生手段20のそれと同じか、それよりも大きな値とするのが好ましい場合が多い。
【0047】
負群速度分散発生手段30からのダウンチャープパルスは、この光ファイバ40を透過させることにより、光ファイバ40の正のGVD効果とSPM効果との相互作用によって、図2(D)に示すように、パルス時間幅およびスペクトル幅が、図2(C)に示す入射パルスにおけるよりもそれぞれ狭くなり、ピークパワーも高いダウンチャープパルスとなる。すなわち、光ファイバ40からは、負群速度分散発生手段30から入射したダウンチャープパルスよりも、瞬時周波数変化が緩やかなダウンチャープパルスを出射させる。また、図2(C)のダウンチャープパルスは、3次以上の高次の分散による影響を実質的に受けていないので、図2(D)のダウンチャープパルスには、リンギング等の波形の歪が実質的に生じない。なお、高次の分散による影響を実質的に受けていないとは、短光パルスの時間幅を圧縮した際に、短光パルスの時間波形に高次の分散の影響によるリンギング等の極大値が現れないような状態、あるいは、高次分散による後段の光学装置に対する影響が無視できる程度である状態を意味する。
【0048】
これにより、光ファイバ40からのダウンチャープパルスは、光学装置50に入射すると光学装置50内の光学系によるGVD効果によって、図2(E)に示すように、スペクトル幅は殆ど変わらず、光パルス時間幅がさらに狭くなり、所望の位置である、例えば、生物標本上において、短光パルス源10から出射された短光パルスと同程度かそれ以上に時間幅が圧縮され、ピークパワーも高くなる。また、その際、3次以上の高次の分散によるリンギング等の波形の歪みも実質的に生じない。したがって、生物標本の深い部位を、充分な明度で観察することが可能となる。
【0049】
なお、光ファイバ40の後段には、光ファイバ40から出射される短光パルスに正の群速度分散を与えて、当該短光パルスよりも瞬時周波数変化の緩やかなダウンチャープパルスとして出射させる正群速度分散付加手段を設けても良い。前記正群速度分散付加手段は、光透過基板、レンズ、音響光学変調素子、電気光学変調素子、回折格子、プリズムのいずれかを含んで構成される。また、正群速度分散付加手段は、正の群速度分散量を調整する調整機構を有しても良い。
【0050】
図4は、図1の短光パルスの光ファイバ伝送装置を有する光学システムの具体的構成例を示す図である。この光学システムでは、短光パルス源10として、発振波長800nm、パルス幅約100fs(フェムト秒)、繰り返し周波数80MHz、スペクトル幅約9.4nm、平均光出力約1Wの超短光パルスを発生する、チタン:サファイアモード同期レーザ11を用いる。
【0051】
また、非線形効果発生手段20としては、波長800nm帯で、36pskm−1程度のGVD値を有し、非線形光学定数が約1.7W−1km−1、長さ0.053mのラージモードエリアフォトニック結晶ファイバ(LMA−PCF)21を使用する。LMA−PCF21の長さは、上述の条件式(2)に基づいて算出された最適値である。
【0052】
負群速度分散発生手段30は、ミラー31a、回折格子31b,31c、矩形ミラー31dおよびミラー31eを有して構成され、LMA−PCF21から出射される短光パルスを、ミラー31aで偏向させ、回折格子31bおよび回折格子31cで順次回折させた後、矩形ミラー31dで光路を切り替えて、回折格子31c、回折格子31bおよびミラー31eを経て出射させるように構成する。回折格子対を構成する31b、31cの格子密度は、1200line/mm、格子間隔は31mmである。これによって、−0.12ps程度のGVD量および0.00024ps程度の群速度分散スロープ(GVDS)量を与える。なお、GVDS量とは3次の分散を示す量である。
【0053】
光ファイバ40は、モードフィールド径が12.5μm、波長800nm帯で、36pskm−1程度のGVD値を有し、非線形光学定数が約1.7W−1km−1、長さ3mのラージモードエリアフォトニック結晶ファイバ(LMA−PCF)41を用いて構成する。さらに、光学装置50としては、0.01ps程度のGVD量を有する顕微鏡51を用いる。
【0054】
図5は、図4の顕微鏡の対物レンズの前段に設けられる正群速度分散付加手段について説明する図である。LMA−PCF41を出射したダウンチャープパルスは顕微鏡51の顕微鏡本体52に導光される。顕微鏡51は複数の対物レンズ51a,51b,51cを備え、レボルバ51dにより顕微鏡観察に使用する対物レンズ51a,51b,51cを切り替えられるように構成されている。
【0055】
また、対物レンズ51b,51cの短光パルスの入射側には、51b,51cを使用する場合も対物レンズ51aを用いた場合とGVD量が変化しないように、適切なGVD量を付加する長さの異なるガラスロッド61b,61cがそれぞれ組み込まれている。すなわち、図5において、ガラスロッド61b,61cおよびレボルバ51dは、正群速度分散付加手段を構成する。また、レボルバ51dは、対物レンズ51a,51b,51cの切り替え機構と同時に、正群速度分散付加量調整機構としても機能している。
【0056】
以上のような構成によって、チタン:サファイアモード同期レーザ11から出射された超短光パルスは、LMA−PCF21に入射してこのLMA−PCF21内を通過する際に非線形効果と正分散効果を受けて時間波形および周波数波形が広がったアップチャープした短光パルスとなる。このとき、LMA−PCF21の長さを約0.053mとしたことにより、余分な正分散効果の発生が抑制される。LMA−PCF21を出射した短光パルスは、回折格子31b,31cを含む負群速度分散発生手段30に入射して、負分散効果によりダウンチャープした短光パルスとして出射される。このとき、負群速度分散発生手段30は、チタン:サファイアモード同期レーザ11から顕微鏡51に至る光学系の総分散量が略0となるように設定される。したがって、LMA−PCF21における正分散効果を抑制したことにより、負群速度分散発生手段30で発生する負の分散量も抑制することができる。このため、3次以上の高次の分散の発生も抑制される。さらに、負群速度分散発生手段30を出射した短光パルスは、LMA−PCF41に入射し、LMA−PCF41内で非線形効果と正分散効果の相互作用によりパルスが圧縮され、さらに顕微鏡51に入射し顕微鏡51の正分散によりさらに圧縮された超短光パルスとなって、顕微鏡51の標本を照射する。
【0057】
顕微鏡51内の超短光パルスは、負群速度分散発生手段30において3次以上の高次の分散の発生が抑制されているので、リンギング等の波形の歪の発生が抑えられる。これによって、顕微鏡の標本上で、波長約800nmの帯域内で、3次以上の高次の分散による波形歪みの影響が実質的に無視できる程度に低減された、光パルス時間幅が約100fs以下の超短光パルスが得られる。さらに、レボルバ51dによりガラスロッド無しまたはガラスロッド61b,61cを切り替えられるようにしたので、対物レンズ51a,51b,51cのそれぞれの分散量に応じて適切なGVD量を付加することができ、いずれの対物レンズを用いる場合も標本面で高ピークパワーの短光パルスが得られる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態によれば、高ピークパワーを持つ短光パルスを、条件式(1)を満たし、好ましくは、Lが0.5Lopt以上、さらに好ましくは条件式(2)を満たすように構成した非線形効果発生手段、負群速度分散発生手段、および光ファイバを経て、ダウンチャープした短光パルスとして出射させるので、3次以上の高次の分散による波形歪みの影響を低減し、高ピークパワーを持つ短光パルスを、これを利用する光学装置の所望の位置で高ピークパワーの短光パルスが得られるように効率良く伝送することができる。
【0059】
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態に係る短光パルスの光ファイバ伝送装置を有する光学システムの概略構成を示すブロック図である。本実施形態は、図1に示した第1実施形態に係る光学システムにおいて、短光パルス源10と非線形効果発生手段20との間に、非線形効果発生手段20で発生する非線形効果を調整する非線形効果調整手段70を設けたものである。非線形効果調整手段70は、ガラスロッドなどの光透過基板、レンズ、音響光学変調素子、電気光学変調素子、回折格子、プリズムのいずれかを含んで構成することができる
【0060】
図7は、図6の短光パルスの光ファイバ伝送装置を有する光学システムの具体的構成例を示す図である。短光パルス源10としては、発振波長1060nm、パルス時間幅約500fs、繰り返し周波数約1MHz、スペクトル幅約3.3nm、パルスエネルギー約2μJのファイバレーザ12を用いる。
【0061】
また、非線形効果調整手段70としては、凸レンズ71aおよび71bより構成されるビームエキスパンダ71を用いる。凸レンズ71aと凸レンズ71bとは、ファイバレーザ12の光路上に光軸を一致させるように対向して配置されており、凸レンズ71bを光軸方向に変位させることができる。これによって、ビームエキスパンダ71は、後段の非線形効果発生手段20に入射する光束径を変えて集光径を変えることができ、石英ロッド中で発生する非線形効果の大きさを連続的に調整することができる。
【0062】
さらに、非線形効果発生手段20は、詳細を図8に示すように、石英ロッド22aとこの石英ロッド22aを挟むように光軸に沿って配置された高NA対物レンズ22bおよび22cにより構成されている。石英ロッド22aと高NA対物レンズ22b,22cとの間には、それぞれイマージョンオイル22dを充填する。石英ロッド22aは、波長1060nm帯で、非線形光学定数が253.5W−1km−1、GVD値が17pskm−1、長さが1μmである。石英ロッド22aの長さは、上述の式
【数8】

に基づいて算出された値である。また、高NA対物レンズ22b,22cは、開口数NAが1.45(油浸)、集光半径が0.44μm、焦点深度が1μmである。ビームエキスパンダ71より出射した短光パルスは、高NA対物レンズ22b、石英ロッド22aを経て高NA対物レンズ22cより出射される。このようにすることによって、非線形効果発生手段20に光ファイバを用いた場合に比べ、ファイバへのカップリングロスが発生しないので、短光パルスの透過率をより高くすることができる。また、本実施例では高NA対物レンズとして油浸を用いているが、油などが群速度分散を発生するので、より好ましくは油浸や水浸の対物レンズを用いない方が良い。
【0063】
さらに、負群速度分散発生手段30は、ミラー31a、回折格子31b,31c、矩形ミラー31dおよびミラー31eを有して構成され、非線形効果発生手段20の高NA対物レンズ22cから出射される短光パルスを、ミラー31aで偏向させ、回折格子31bおよび回折格子31cで順次回折させた後、矩形ミラー31dで光路を切り替えて、回折格子31c、回折格子31bおよびミラー31eを経て出射させるように構成する。回折格子対31b,31cは、格子密度約600line/mm、回折格子間隔約40mm、GVD量約−0.07ps、GVDS量約0.00015psのものを用いる。これによって、−0.07ps程度のGVD量および0.00015ps程度のGVDS量を与える。
【0064】
また、光ファイバ40は、モードフィールド径12.5μm、波長1060nm帯で、17pskm−1程度のGVD値を有し、非線形光学定数が約1.28W−1km−1、長さ3mのラージモードエリアフォトニック結晶ファイバ(LMA−PCF)41を用いて構成する。さらに、光学装置50としては、0.01ps程度のGVD量を有する、第1実施形態の具体例に示したと同様の顕微鏡51を用いる。
【0065】
以上説明した光学システムの構成により、第1実施形態と同様に、顕微鏡の標本上で、波長約1060nmの帯域内で、3次以上の高次の分散による波形歪みの影響が実質的に無視できる程度に低減された超短光パルスが得られる。また、非線形効果調整手段70としてビームエキスパンダ71を設けたので、高NA対物レンズ22bに入射する光束径を変更することにより、非線形媒質である石英ロッド22a内の集光スポット径を調整することができ、それによって、石英ロッド22a内で生じる非線形効果の量を調整することができる。
【0066】
なお、図9に示すように、短光パルス源10としては、ファイバレーザ12の後段にファイバ型光増幅器13を設けても良い。ファイバ型光増幅器13は、アイソレータ13a,13eと半導体レーザ13bと光合波器13cと単一モードYb添加ファイバ13dとを含んで構成される。半導体レーザ13bは、波長978nmのレーザ光を射出し、光合波器13cを介して単一モードYb添加ファイバ13dを励起する。ファイバレーザ12から出射した波長1060nmの光パルスは、アイソレータ13a、光合波器13cを経て、半導体レーザ13bからのレーザ光により励起された単一モードYb添加ファイバ13dにおいて増幅され、アイソレータ13eから出射される。以上のように、構成した短光パルス源10を用いることにより、よりピークパワーの高い短光パルスを出射させることができ、それによって、よりピークパワーの高い短光パルスを顕微鏡51の標本上に供給することができる。
【0067】
(第3実施形態)
図10は、本発明の第3実施形態に係る短光パルスの光ファイバ伝送装置を有する光学システムの概略構成を示すブロック図である。本実施形態は、図6に示した第2実施形態に係る光学システムにおいて、光ファイバ40と光学装置50との間に、波長変換手段80を設けたものである。各構成要素の具体的な構成を以下に説明する。
【0068】
図11は、図10の短光パルスの光ファイバ伝送装置を有する光学システムの具体的構成例を示す図である。短光パルス源10として、発振波長約1030nm、パルス幅約120fs、スペクトル幅約13.0nm、繰り返し周波数90MHz、平均光出力約1Wの光パルスを発生する、チタン:サファイアモード同期レーザ11を用いる。
【0069】
また、非線形効果調整手段70として、ガラスロッド72を配置する。ガラスロッド72は硝材(SF6)により構成される、非線形光学定数が1.32W−1km−1,GVD値が1.3×10−4psmm−1、長さが0.084m、GVD量が0.006psの部材である。非線形効果発生手段20の前段に、正分散を有するガラスロッド72を配置することにより、非線形効果発生手段20にはアップチャープした短光パルスが入射する。これによって、短光パルスのピークパワーが低下し、後段の非線形効果発生手段20で発生する非線形効果によるスペクトルの広がりを抑えることができるので、負群速度分散発生手段30で受ける3次分散の影響を低減することができる。なお、ガラスロッド72は、短光パルス源10に組み込んで、一体の光源装置(チャープパルス源)として構成しても良い。
【0070】
非線形効果発生手段20は、非線形光学定数が約1.32W−1km−1、GVD値が19pskm−1、長さ0.12mのLMA−PCF21を用いる。LMA−PCF21の長さは、上述の条件式(2)に基づいて算出された最適値である。また、負群速度分散発生手段30は、図4で示したものと同様の構成を有し、回折格子対31b、31cを含んで構成される。ただし、回折格子対31b,31cは、格子密度約850line/mm、回折格子間隔約42mm、GVD量約−0.08ps、GVDS量約0.0002psのものを用いる。これによって、−0.08ps程度のGVD量および0.0002ps程度のGVDS量を与える。なお、回折格子31cに調整機構を設け位置を調整可能とし、これによって、GVD量を変化させるようにしても良い。さらに、光ファイバ40としては、非線形光学定数が約1.32W−1km−1、GVD値が19pskm−1、長さ3mのLMA−PCF41を用いる。
【0071】
また、波長変換手段80としては、周期分極ニオブ酸リチウム(Periodically Poled Lithium Niobate:PPLN)を用いる。波長変換手段80は、第2次高調波発生により、LMA−PCF41から入射した光パルスの波長を1030nmから515nmに変換して、光学装置50であるGDV量が0.006psの顕微鏡51に出射する。
【0072】
本実施形態では、波長変換手段80を用いることにより、より短波長の第2高調波の光パルスを顕微鏡51に出射させることができる。さらに、第1および第2実施の形態と同様に、高次の分散による光パルスの波形の歪が実質的に発生しないので、高ピークパワーの超短光パルスを波長変換手段に供給することができ、高い第2高調波変換効率が得られる。また、回折格子31cにGVD量を調整するための調整機構を設けた場合は、波長変換手段80の所望の位置で高ピークパワーが得られるように調整することが可能になる。
【0073】
なお、本発明は、上記実施形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、本発明は、顕微鏡に限らず、内視鏡やパルス加工機など、超短光パルスを利用する種々の分野に適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
10 短光パルス源
11 チタン:サファイアモード同期レーザ
12 ファイバレーザ
13 ファイバ型光増幅器
13a,13e アイソレータ
13b 半導体レーザ
13c 光合波器
13d 単一モードYb添加ファイバ
20 非線形効果発生手段
21 ラージモードエリアフォトニック結晶ファイバ(LMA−PCF)
22a 石英ロッド
22b,22c 対物レンズ
22d イマージョンオイル
30 負群速度分散発生手段
31a,31d,31e ミラー
31b,31c 回折格子
40 光ファイバ
41 ラージモードエリアフォトニック結晶ファイバ(LMA−PCF)
50 光学装置
51 顕微鏡
51a,51b,51c 対物レンズ
51d レボルバ
52 顕微鏡本体
61b,61c ガラスロッド
70 非線形効果調整手段
71 ビームエキスパンダ
71a,71b 凸レンズ
80 波長変換手段
110 超短光パルス源
120 光導波手段
130 負群速度分散発生手段
140 光ファイバ
150 光学装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高ピークパワーを持つ短光パルスを受けて、
該短光パルスに非線形効果と分散効果を与える非線形効果発生手段と、
該非線形効果発生手段から出射される短光パルスに負の群速度分散を与える負群速度分散発生手段と、
該負群速度分散発生手段から出射される短光パルスを所望の距離に渡って伝送する光ファイバと、
を有し、
前記非線形効果発生手段に入射した前記短光パルスを、前記光ファイバからダウンチャープした短光パルスとして出射させ、且つ、前記非線形効果発生手段は、以下の条件式(1)を満たすように構成したことを特徴とする短光パルスの光ファイバ伝送装置。
【数1】

Lは、前記非線形効果発生手段の媒質の物理長、
γは、前記非線形効果発生手段の媒質の非線形係数、
は、前記非線形効果発生手段に入射する短光パルスのピークパワー、
は、前記非線形効果発生手段に入射する短光パルスのその出力強度が前記ピークパワーの1/eになるときの時間半幅、
βは、前記非線形効果発生手段の群速度分散値
である。
【請求項2】
前記非線形効果発生手段の媒質の物理長は、0.5Lopt以上であることを特徴とする請求項1に記載の短光パルスの光ファイバ伝送装置。
【請求項3】
前記非線形効果発生手段は、以下の条件式(2)を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の短光パルスの光ファイバ伝送装置。
【数2】

は、前記非線形効果発生手段に入射する短光パルスのその出力強度が前記ピークパワーの1/eになるときの時間半幅、
βは、前記非線形効果発生手段の群速度分散値、
γは、前記非線形効果発生手段媒質の非線形係数、
Pは、前記非線形効果発生手段に入射する短光パルスのピークパワー
である。
【請求項4】
前記非線形効果発生手段の前段に、高ピークパワーを持つアップチャープした短光パルスを出射するチャープパルス源を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の短光パルスの光ファイバ伝送装置。
【請求項5】
前記非線形効果発生手段の前段に、前記非線形効果発生手段で発生する非線形効果の大きさを調整する非線形効果調整手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の短光パルスの光ファイバ伝送装置。
【請求項6】
前記非線形効果発生手段は、正の群速度分散値を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の短光パルスの光ファイバ伝送装置。
【請求項7】
前記光ファイバは、正の群速度分散値を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の短光パルスの光ファイバ伝送装置。
【請求項8】
高ピークパワーを持つ短光パルスを受け、非線形効果発生手段を透過させることにより前記短光パルスに非線形効果と分散効果を与え、
前記非線形効果発生手段から出射した短光パルスに負の群速度分散を与え、
前記負の群速度分散を与えられた短光パルスを、光ファイバを用いて所望の距離に渡って伝送し、
前記光ファイバからダウンチャープした短光パルスとして出射させる短光パルスの光ファイバ伝送方法であって、
前記非線形効果発生手段は、以下の条件式(1)を満たすことを特徴とする短光パルスの光ファイバ伝送方法。
【数3】

Lは、前記非線形効果発生手段媒質の物理長、
γは、前記非線形効果発生手段媒質の非線形係数、
Pは、前記非線形効果発生手段に入射する短光パルスのピークパワー、
は、前記非線形効果発生手段に入射する短光パルスのその出力強度が前記ピークパワーの1/eになるときの時間半幅、
βは、前記非線形効果発生手段の群速度分散値
である。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−141422(P2012−141422A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293572(P2010−293572)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】