説明

石油残渣焚きボイラの燃焼室汚れ防止燃焼方法

【課題】バナジウム含有量の大きな石油残渣などの劣質燃料を燃料として利用するときに、バナジウム酸化物を含む燃焼灰が溶解して燃焼室水管に付着して熱交換特性を劣化させたり燃焼室内を汚したりしないようにする、石油残渣焚きボイラの燃焼室汚れ防止燃焼方法を提供する。
【解決手段】出口に絞り部4を有する高温還元燃焼ゾーン2と、高温還元燃焼ゾーンの絞り部4から2段燃焼用空気の吹き込みノズル7の位置までの領域に冷却部9を形成した低温酸化燃焼ゾーン3とを備えた燃焼室1において、高温還元燃焼ゾーン2における平均ガス温度を1450〜1550℃の範囲とし、冷却部9において還元燃焼ゾーン排出ガス温度を1200〜1350℃まで冷却したところで2段燃焼用空気を吹き込んで酸化雰囲気中で燃焼させることにより、バナジウム酸化物中の低融点成分の割合を小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルコークスのようなバナジウムを含む石油系残渣を燃料として用いるボイラにおいて、バナジウムアタックを防止し燃焼室の汚れを防止する燃焼方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源の保全や燃料コストの節約の観点から、たとえば、アスファルト、オイルコークスなどの劣質燃料をボイラ燃料として用いることがある。しかし、オイルコークスなどの石油系残渣はバナジウム含有量が高いため、通常のボイラにおいて石油残渣を燃料として酸化燃焼させると、低融点の5価のバナジウム酸化物を含む灰が生成する。バナジウム酸化物はボイラ燃焼室の高温で溶融して飴のようになって伝熱面に付着し、伝熱係数を低下させボイラの収熱量を低下させたり、金属面の酸化皮膜を破壊して加速高温酸化(バナジウムアタック)により金属を腐食させたりして、ボイラの継続運転を困難にする。
【0003】
バナジウム酸化物が伝熱面に付着することを防止する方法として、マグネシウム系の添加剤を燃料に混入して燃焼灰の融点を高め、燃焼室の温度では溶融しにくくして水管表面への灰付着を軽減させる手法がある。しかし、この手法は、燃焼灰量を増大させるばかりでなく、NOxの発生量が増加するという弊害を伴う。
【0004】
また、特許文献1には、舶用ボイラにおいて、バナジウムなどを含む粗悪重油を利用するときに、低融点のバナジウム化合物の灰が融解して熱交換器の外面に飴のようになって付着して加速高温酸化により金属を腐食させるいわゆるバナジウムアタックに対し減肉に耐えられるようにするため、バナジウム含有燃焼灰が付着する伝熱管部分にバナジウムアタックの影響が小さい保護部材を当てる方法が開示されている。
特許文献1記載の方法は、保護部材が高価であるばかりでなく、伝熱管毎に伝熱管を覆う複数の板状保護部材を添設するため工事費用も大きい。
【0005】
なお、出願人は、既に、アスファルト、オイルコークスなどの劣質燃料をボイラ燃料として用いることができる、高温還元燃焼ゾーンと低温酸化燃焼ゾーンを備えた低NOxボイラを開発している。特許文献2は出願人が開示したもので、特に、炉底に溜まる燃焼灰を連続排出できるようにして長期の連続運転を可能にした倒立形の低NOxボイラを開示するものである。
特許文献2に開示された低NOxボイラは、還元雰囲気中で燃料を燃焼させる高温還元燃焼ゾーンを燃焼室の最上流部に形成し、その下流に燃焼ガス流路の絞り部を介して内周壁を水冷壁構造とし側壁に2段燃焼用空気ノズルを取り付けた低温酸化燃焼ゾーンを形成した構成になっている。
【0006】
高温還元燃焼ゾーンにおいて燃料過濃の状態で平均約1450〜1550℃の高温を維持して燃焼を行わせ、絞り部を通って低温酸化燃焼ゾーンに侵入してきた燃焼ガスに2段燃焼用空気ノズルから新たに燃焼用空気を供給して低温酸化燃焼ゾーンの下部で1100℃となるような比較的低温の酸化雰囲気で燃焼を完結させるものである。
石油系残渣等の燃焼におけるNOxの発生量は、還元雰囲気中では高温になるほど少なく、酸化雰囲気中では低温になるほど少なくなるので、石油系残渣等を高温還元燃焼と低温酸化燃焼の2段階に燃焼させることで、効果的にNOx発生量を削減することができる。
【0007】
バナジウム還元燃焼灰は1600℃以上の融点を持つが、還元燃焼においても1400℃以上の高温状態に長時間滞留させたり、酸化燃焼雰囲気で1200℃以上に長時間保持すると、バナジウム酸化物が5価の酸化物に変化して、バナジウム燃焼灰は融点が700℃以下の低融点灰になり、バナジウムアタックを活性化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−198117号公報
【特許文献2】特開2010−139176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、バナジウムアタックの原因となるバナジウム含有量の大きな石油残渣などの劣質燃料を燃料として利用するときに、バナジウム酸化物を含む燃焼灰が溶解して燃焼室水管に付着して熱交換特性を劣化させたり燃焼室内を汚したりしないようにする、石油残渣焚きボイラの燃焼室汚れ防止燃焼方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の石油残渣焚きボイラの燃焼室汚れ防止燃焼方法は、出口に絞り部を有する高温還元燃焼ゾーンと、高温還元燃焼ゾーンの絞り部から2段燃焼用空気の吹き込みノズルの位置までの領域に冷却部を形成した低温酸化燃焼ゾーンとを備えた燃焼室において、高温還元燃焼ゾーンにおける平均ガス温度を1450〜1550℃の範囲とし、冷却部において還元燃焼ゾーン排出ガス温度を1200〜1350℃まで冷却したところで2段燃焼用空気を吹き込んで酸化雰囲気中で燃焼させることを特徴とする。なお、冷却部は、水流の量と流速、熱ガスの量と流速などを調整することにより、上記冷却を実現することができる。
【0011】
温度1450〜1550℃で酸素の乏しい雰囲気にある高温還元燃焼ゾーンにおいて生成されるバナジウム燃焼灰には、融点1790℃の2価の酸化バナジウム(VO)、融点1970℃の3価の酸化バナジウム(V)、融点1640℃の4価の酸化バナジウム(V)など、融点が高いものが多く含まれ、融点が690℃と低い5価の酸化バナジウム(V)の含有量は少ない。
さらに、2段燃焼用空気を吹き込んで酸化燃焼をさせる前に、ガス温度を1200〜1350℃まで冷却することにより、5価の酸化バナジウムの生成を抑制しながら、完全燃焼をさせて熱効率を確保することができる。
【0012】
このような燃焼条件下では、殆どが高融点の酸化バナジウムで成るバナジウム酸化物は、高温還元燃焼ゾーンと低温酸化燃焼ゾーンとで構成される燃焼室内において融解せず粉体を保つので、炉壁や水管の表面に融着せず、燃焼室の汚れが発生しない。したがって、燃焼室において収熱量を維持した安定な運転を継続することができる。
【0013】
なお、低NOxボイラは、倒立形であることがより好ましい。
倒立形低NOxボイラでは、燃料が燃焼室の上端における高温の還元雰囲気中で燃焼し絞り部から噴出して冷却部で冷やされた後に2段燃焼用空気を混合して完全燃焼する間に生成したバナジウム燃焼灰は、融解せずに粉体を維持して伝熱面を汚さず、燃焼室の底に沈積する。底に堆積したバナジウム燃焼灰は、ボイラ運転中であっても運転しながら底の開口から排出させることができるので、ボイラの長期連続運転が可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の石油残渣焚きボイラの燃焼室汚れ防止燃焼方法は、バナジウム含有量の大きな石油残渣などを燃料として利用するとき、バナジウム燃焼灰が溶解して燃焼室水管に付着し金属を腐食するバナジウムアタックを抑制することにより、高い熱効率を維持してボイラ運転を継続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の1実施形態における第1実施例に係る倒立形低NOxボイラの概略機能図である。
【図2】本実施形態の倒立形低NOxボイラの概略斜視透視図である。
【図3】バナジウム酸化物の融点を示すグラフである。
【図4】本実施形態の倒立形低NOxボイラの燃焼室における燃焼ガス温度の変化を概念的に説明するグラフである。
【図5】燃料の燃え切り性と灰付着量の関係を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図番の異なる図面においても、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、理解の容易化を図った。
【0017】
(第1実施例)
図1は本実施形態の第1実施例に係る低NOxボイラの概略機能図であり、図2はその概略斜視透視図である。本実施例では、倒立形低NOxボイラを対象としている。図3はバナジウム酸化物の融点を示すグラフ、図4は燃焼室内の燃焼ガス温度の変化を概念的に説明するグラフ、図5は燃料の燃え切り性と灰付着量の関係を説明するグラフである。
【0018】
本実施例における倒立形低NOxボイラは、縦型の燃焼室1の上端部に高温還元燃焼ゾーン2、下段に低温酸化燃焼ゾーン3が形成されており、高温還元燃焼ゾーン2と低温酸化燃焼ゾーン3は高温還元燃焼ゾーン2の絞り部4で接続している。絞り部4は、燃焼室水平断面積を20〜50%減少させる開口比を持たせることが好ましい。
高温還元燃焼ゾーン2には、側壁にバーナ5が設けられており、内壁は1450℃から1550℃の炉内温度に対応する程度の耐火材6で覆われている。高温還元燃焼ゾーン2に設置するバーナ5は、複数のバーナ5が、対向する2側面に水平に並列し、かつ火炎軸が交差しないように配置することが好ましい。
【0019】
低温酸化燃焼ゾーン3には、冷却部9と2段燃焼部10と灰排出部8とが形成される。
冷却部9は、図1にレベルAとレベルBで仕切られた斜めハッチングで示す領域、すなわち、低温酸化燃焼ゾーン3の入り口になる絞り部4と側壁に設けられた2段燃焼用空気ノズル7の間に形成され、高温還元燃焼ゾーン2から絞り部4を介して供給される1450℃から1550℃の範囲にある燃焼ガスを、1200℃から1350℃の範囲まで冷却する。
冷却部9は、冷却部の形状や側壁の水管について設計することにより、冷却面の熱交換効率、冷却面の面積、水流の温度と量と流速、熱ガスの温度と量と流速などに基づいて、燃焼ガスの温度低下量を調整して、上記冷却を実現するように構成される。
【0020】
2段燃焼用空気ノズル7は、2段燃焼部10の上端部であって冷却部9の最下部に接する炉壁に配置され、冷却された燃焼ガスに新たに空気を供給して、未燃のガスを低温の酸化雰囲気中で2段燃焼させる。2段燃焼部10は、側壁に水管が配された水冷壁構造となっていて、熱交換により水管中の水から蒸気を発生させる。
水管は燃焼室1の底部で図示しない非加熱降水管に接続され、燃焼室1より高い位置に設けられた図示しない汽水胴から非加熱降水管を介して高温還元燃焼ゾーン1にも十分高圧な冷却水を供給できるように構成されている。
【0021】
低温酸化燃焼ゾーン3の底部には、灰排出部8が形成される。灰排出部8は、燃焼室の炉底を鉛直線に対して45°以下、望ましくは35°程度の傾斜面で形成し、傾斜面の下端に灰排出機構を配設したもので、炉底に溜まった燃焼灰を簡素な構造で効率的に炉外に排出することができる。
2段燃焼部10の下側面にガス流出口11が設けられ、ガス通路12に通じている。ガス通路12は、燃焼ガスを蒸気過熱器管13とエコノマイザ14を通った後、後処理工程に搬送する。蒸気過熱器管13とエコノマイザ14が配設されたガス通路の底部にも灰排出口15が備わっている。
【0022】
本実施例の倒立形低NOxボイラは、液状、ガス状、微粉状の燃料を燃焼させ、燃焼ガスから熱エネルギを回収する火力ボイラで、燃焼ガス中に含まれるNOxの量を抑制することができる。また、本実施例の倒立形低NOxボイラは、燃焼灰を容易に処理することができるので、アスファルト、オイルコークスなどの劣質燃料もボイラ燃料として用いることができる。
本実施例の倒立形低NOxボイラは、燃焼室1の上端部に燃料と空気を供給して高温還元雰囲気で燃焼させ、燃焼を上端部から下方に向かって進行させ、燃焼室1の中程でより低温の酸化雰囲気中で未燃ガスの燃焼を完結させ、燃焼ガスを下部から取り出すことに特徴がある。
【0023】
本実施例の倒立形低NOxボイラで石油系残渣などの劣質燃料を使用するときは、まず、高温還元燃焼ゾーン2におけるバーナ5に燃料と空気を導入して燃焼を開始する。高温還元燃焼ゾーン2では、空気の導入を抑制し、空気比を1以下の、たとえば0.6〜0.8程度の還元雰囲気に維持して、燃料に応じて選択される1450℃から1550℃の範囲内の高温で燃料を燃焼させる。
高温還元燃焼ゾーン2では、水平に軸をずらせて配されたバーナ5からの火炎により、燃焼ガスが水平方向に渦を巻いて対流する。さらに、高温還元燃焼ゾーン2が高温のため燃焼ガスの密度が低いことと相俟って、燃焼ガスは高温還元燃焼ゾーン2に長時間留まり、耐火材6に保温されて安定的に燃焼が行き渡る。
【0024】
高温還元燃焼ゾーン2での燃焼で高温になった燃焼ガスは、新たに投入される燃料により燃焼ガスが増加するため高温還元燃焼ゾーン2から押し出されて絞り部4を通って低温酸化燃焼ゾーン3に流下する。
低温酸化燃焼ゾーン3に流下した燃焼ガスは、冷却部9を通る間に1200℃から1350℃の範囲内の温度まで冷却され、2段燃焼部10に供給される。
2段燃焼部10では、2段燃焼用空気ノズル7から比較的低温の2段燃焼用空気が十分に供給され空気比が1.1程度になり、燃焼ガスの未燃分が酸化雰囲気内で完全に燃焼される。
2段燃焼部10で燃焼が完結する燃焼ガスは、2段燃焼部10内壁の水管と熱交換して1000℃から1100℃程度まで温度低下し、燃焼室の下側側面に設けられたガス流出口11からガス通路12に流出する。ガス通路12では、蒸気過熱器管13およびエコノマイザ14においてボイラ蒸気及び給水と熱交換を行った後、後処理工程に流出する。
【0025】
このように、本実施例の倒立形低NOxボイラでは、燃料が高温還元燃焼ゾーン2において高温還元雰囲気で初期燃焼し、さらに低温酸化燃焼ゾーン3において低温酸化雰囲気で2段燃焼する。
石油系残渣などの燃料が燃焼するときのNOx発生量は、燃焼温度と空気比に強く依存している。空気比1未満すなわち還元雰囲気下では高温になるほどNOx発生量が少なく、空気比1以上の酸化雰囲気下では低温になるほどNOx発生量が少ない。
本実施例の倒立形低NOxボイラでは、この特性を利用して、高温還元燃焼ゾーン2の高温還元雰囲気下で中間生成物と反応して窒素に還元されるようにしてNOxの生成を抑制し、低温酸化燃焼ゾーン3においてガス温度が下がった段階で2段燃焼用空気を投入して未燃分を完全に燃焼させることでサーマルNOxの生成を抑制するから、効果的にNOx発生量を削減することができる。
【0026】
オイルコークスなどの劣質燃料をボイラ燃料として用いる場合には、燃料に含まれるバナジウム金属に注意しなければならない。石油残渣を酸化燃焼させると発生する低融点のバナジウム酸化物はボイラ燃焼室の高温で溶融して伝熱面に付着し、伝熱係数を低下させたり、加速高温酸化(バナジウムアタック)により金属を腐食させたりする。
本実施例の倒立形低NOxボイラでは、高温還元燃焼ゾーン2において、燃料に含まれるバナジウムは還元雰囲気中で燃焼するため、生成するバナジウム燃焼灰は、原子価5の5酸化2バナジウム(V)の含有量が少なく、原子価が4以下のバナジウム酸化物が多く含まれるものとなる。
【0027】
図3は、バナジウム酸化物の融点を示すグラフである。図3に示すように、酸化度の高い5価の酸化バナジウム(V)の融点が690℃と比較的低温であるのに対して、2価の酸化バナジウム(VO)の融点は1790℃、3価の酸化バナジウム(V)の融点は1970℃、4価の酸化バナジウム(V)の融点は1640℃と高温である。
したがって、1450℃から1550℃の高温還元燃焼ゾーン2ではバナジウム燃焼灰が溶融せず固相を維持するので、伝熱面に粘着して伝熱効率を劣化させたり金属を腐食させたりすることが十分抑制される。
【0028】
さらに、高温還元燃焼ゾーン2において発生したバナジウム燃焼灰は、燃焼ガスに伴い、あるいは自重により落下して、低温酸化燃焼ゾーン3に流入する。原子価が小さく融点の高い成分を多く含むバナジウム燃焼灰は、低温酸化燃焼ゾーン3に入ると、初めに冷却部9で1200℃から1350℃の範囲内の温度まで冷却された後に、2段燃焼部10において酸化雰囲気中で低温燃焼される。
【0029】
低温酸化燃焼ゾーン3では酸素が過剰な環境下にあるため、高温燃焼すれば原子価の小さい酸化バナジウムはさらに酸化して、融点が690℃と低く融解しやすい5価の酸化バナジウム(V)に変化するところであるが、2段燃焼部10では比較的低温で燃焼するため、原子価の小さい酸化バナジウムを5価の酸化バナジウムに変化させる酸化反応は活発でない。このように、速やかに燃焼ガスを冷却することによって、5価の酸化バナジウムの増加を抑え、伝熱管への付着を抑制することができる。
したがって、低温酸化燃焼ゾーン3においてもバナジウム燃焼灰の融解が少なく、多くが灰のまま沈降して燃焼室1の底部の灰排出部8に堆積する。
【0030】
図4は、本実施例の倒立形低NOxボイラの燃焼室における燃焼ガス温度の変化を概念的に説明するグラフである。図4のグラフは、燃焼室における燃焼ガスの移動経路を横軸にとり、燃焼ガスの温度を縦軸にとって、還元燃焼ゾーンから酸化燃焼ゾーンに移動するときの燃焼ガスの温度変化を表したものである。グラフ中、還元燃焼ゾーンと酸化燃焼ゾーンの境界に引いた縦線は絞り部の位置、矢印は2次空気を投入する2段燃焼用空気ノズルの位置を示す。
【0031】
実線で表した線図は、本実施例の石油残渣焚きボイラの燃焼室汚れ防止燃焼方法を用いる場合の燃焼ガス温度変化の設計ラインを示す。
燃焼ガスは、空気比λが約0.7になる高温還元燃焼ゾーンで燃焼して1450℃から1550℃の温度になり、絞り部を通って低温酸化燃焼ゾーンに流れ下り、冷却部で冷却されガス温度が1200℃から1350℃程度になる領域Aにおいて、新たに2段燃焼用空気ノズルから冷えた2次空気を供給されて、空気比が約1.1の低温酸化燃焼をする。燃焼室を出るところでは、ガス温度は1000℃から1100℃になっている。
なお、還元燃焼ゾーンで生成するバナジウム燃焼灰の融点は1640℃以上あり、還元燃焼温度より高いので、粉体を維持している。
【0032】
図中の設計ラインは、倒立形低NOxボイラにおいて、超低NOx・低煤塵性能を満たし、さらに燃焼室における未燃分を減少させ灰付着量を低減することを目的として設計したものであり、低温酸化燃焼ゾーンで2次空気を吹き込む前のガス温度は、領域Aとして表した1200℃から1350℃程度にすることが好ましい。
これに対して、図4の領域Bとして表した1200℃以下にした場合は、未燃分が大量に発生して不都合であり、領域Cとして表した1350℃以上にした場合は、灰付着量が増大して不都合である。
【0033】
図5は、燃料の燃え切り性と灰付着量の関係を説明するグラフである。グラフは横軸に燃え切り性と灰付着量を任意目盛りで表し、縦軸に酸化燃焼におけるガス温度をとっている。
還元燃焼によって生成したバナジウムの燃焼灰(バナジウム還元灰)は、酸化燃焼により一部が融点の低い5価のバナジウム酸化物(V)に変化する。
ガス温度を低くすると、5価のバナジウム酸化物の生成速度が遅くなり、バナジウム酸化物の融着による灰付着量が減少する。しかし、ボイラにおける燃焼温度が低下すると燃え切りが悪くなり未燃分が大量に発生するので、ボイラの効率が低下する。
たとえば、図4,5において領域Bとして示したように、燃焼ガスを冷却部で急冷して2次空気投入位置において1200℃以下800℃付近になるようにした場合は、燃焼ガス中の未燃分が多くなるため運転条件として適当でない。
【0034】
また、逆に、領域Cで示すように、絞り部から2段燃焼用空気ノズルまでの冷却部で特に積極的に冷却しないで2次空気投入位置におけるガス温度を1350℃以上1400℃程度の高温にする場合は、燃え切り性が良化して未燃分が減少するが、5価のバナジウム酸化物の生成が盛んになるため、灰付着量が増大しバナジウムアタックを受けるようになるので、運転条件として適当でない。
これに対して、本実施例の場合、1450℃から1550℃の温度の燃焼ガスを冷却部で冷却して2段燃焼用空気ノズルの位置で1200℃から1350℃にする領域Aで表されるように、燃え切り性と灰付着量の関係のバランスがとれて、燃焼ガス中に未燃分が少なく、燃焼灰中に5価のバナジウム酸化物が少なく燃焼室内の汚れが極めて少なくなり、好ましい。
【0035】
オイルコークスの燃焼灰組成のおよそ60〜70%が酸化バナジウムであるが、その他の主成分としてニッケルやシリコンの酸化物が混入しても、本実施例の低NOxボイラの燃焼室で速やかにガス冷却することにより溶融が抑制されるので、水管表面に付着する燃焼灰の量は極めて少ない。
【0036】
灰排出部8は急勾配の傾斜面になっているため、炉底に向かって落下する固体の燃焼灰は灰排出部8の底部に集まり、底部に堆積した燃焼灰は、灰排出機構により排出することができる。灰排出機構は、常時開口する形態としても良いし、たとえば蓋状の底板を備えて開閉可能とし、必要時に底板を開いて灰を排出、回収するようにしてもよい。
なお、燃焼ガス中に同伴された残留灰分は、蒸気過熱器管13およびエコノマイザ14のあるガス通路12で燃焼ガスが低速になるとガスから分離して落下し、ガス通路12に設けられたガス通路用の灰排出口15で回収される。
【0037】
また、灰排出部8付近を流通する燃焼ガスは、2段燃焼部10で完全に燃焼しているため、不完全燃焼により生じる一酸化炭素や硫化物等の有害物質が少なく毒性が低い。また、灰排出機構が2段燃焼部10の外にあるため、開口部から大気が流入しても冷却による燃焼の阻害や、空気比が崩れることによる脱硝効果の低下の恐れが少ない。
【0038】
本実施例では、ボイラに灰排出部8を設けたことにより、炉の稼働中にも安全に灰を排出することができるため、従来の低NOxボイラでは成し得なかった長期間連続運転が可能となり、保守コストが削減される。また、例えばC重油、アスファルト、オイルコークスなどの、灰分を多く含む劣質燃料を使用することができるため、燃料コストを低減することができる。
さらに、燃料にバナジウム金属が含まれる場合にも、融解しにくい種類のバナジウム燃焼灰を生成させるので、熱交換面に融着することを防いで熱交換効率を維持させ、バナジウムアタックを防止して水管などの金属の腐食を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の石油残渣焚きボイラの燃焼室汚れ防止燃焼方法は、バナジウム含有量の大きな石油残渣などをボイラ燃料として利用するとき、バナジウム燃焼灰が溶解して燃焼室水管に付着し金属を腐食するバナジウムアタックを抑制することにより、高い熱効率を維持してボイラ運転を継続させることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 燃焼室
2 高温還元燃焼ゾーン
3 低温酸化燃焼ゾーン
4 絞り部
5 バーナ
6 耐火材
7 2段燃焼用空気ノズル
8 灰排出部
9 冷却部
10 2段燃焼部
11 ガス流出口
12 ガス通路
13 蒸気過熱器管
14 エコノマイザ
15 灰排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出口に絞り部を有する高温還元燃焼ゾーンと、該高温還元燃焼ゾーンの絞り部から2段燃焼用空気吹き込みノズルの位置までの領域に冷却部を形成した低温酸化燃焼ゾーンとを備えた燃焼室において、前記高温還元燃焼ゾーンにおける平均ガス温度を1450〜1550℃の範囲とし、前記冷却部において高温還元燃焼ゾーン排出ガス温度を1200〜1350℃まで冷却してから2段燃焼用空気を吹き込んで酸化雰囲気中で燃焼させることを特徴とする石油残渣焚きボイラの燃焼室汚れ防止燃焼方法。
【請求項2】
出口に絞り部を有する高温還元燃焼ゾーンと、該高温還元燃焼ゾーンの絞り部から2段燃焼用空気吹き込みノズルの位置までの領域に冷却部を形成した低温酸化燃焼ゾーンとを備えた燃焼室であって、該冷却部が、平均ガス温度が1450〜1550℃の範囲になる還元燃焼ゾーン排出ガスを1200〜1350℃まで冷却するように構成された、石油残渣焚きボイラの燃焼室。
【請求項3】
前記高温還元燃焼ゾーンの絞り部が前記燃焼室水平断面積を20〜50%減少させる、請求項2に記載の石油残渣焚きボイラの燃焼室。
【請求項4】
前記石油残渣焚きボイラは、上端に前記高温還元燃焼ゾーン、該高温還元燃焼ゾーンの下に前記低温酸化燃焼ゾーン、該低温酸化燃焼ゾーンの下端に燃焼灰を排出する排出部を有する燃焼室を備えた、倒立形低NOxボイラである、請求項2または3記載の石油残渣焚きボイラの燃焼室。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−112569(P2012−112569A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261208(P2010−261208)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】