説明

石油系炭化水素の処理方法

【課題】LCOやコーカー軽油などの石油系炭化水素から、高オクタン価、低硫黄分の高品質で付加価値の高いガソリン基材と、高セタン価、低硫黄分の高品質で付加価値の高い軽油基材を同時に、効率良く、経済的に得ることができる方法を提供する。
【解決手段】沸点範囲が120〜360℃で、少なくとも40質量%の芳香族炭化水素化合物を含む石油系炭化水素を、軽質分及び重質分とに分離した後、軽質分と結晶性アルミノシリケートゼオライトとを10MPa以下の水素分圧下で接触させ、リサーチオクタン価90以上、硫黄分10質量ppm以下のガソリン基材を製造するとともに、重質分と水素化活性金属を含むアルミナ触媒とを10MPa以上の水素分圧下で接触させ、セタン価45以上、硫黄分10質量ppm以下の軽油基材を製造する石油系炭化水素の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸点範囲が120〜360℃で、少なくとも40質量%の芳香族炭化水素化合物を含む石油系炭化水素の処理方法に関する。詳しくは、該石油系炭化水素から、リサーチオクタン価(以下「RON」と略することがある)90以上、硫黄分10質量ppm以下のガソリン基材と、セタン価45以上、硫黄分10質量ppm以下の軽油基材を同時に製造する方法に関し、該石油系炭化水素を軽質分及び重質分とに分離した後、各留分を特定の触媒、かつ特定の反応条件下で処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、重油需要の低迷に伴って、重油を他の基材、例えばガソリン、灯油、軽油等へ変換する技術が望まれている。流動接触分解装置(FCC装置)から生産される接触分解装置循環油(LCO)及びコーカー装置から生産されるコーカー軽油は主に重油基材として使用されており、今後余剰になってくると予想される。こうした中、LCOならびにコーカー軽油等を他の有用な基材へ変換する方法が数多く提案されている。
【0003】
例えば、LCOならびにコーカー軽油等を軽油基材へ変換する試みが行われている。LCO等の分解油は一般に芳香族分が高く、セタン価が低いため、そのまま軽油基材として用いることは出来ない。このため、LCO等の分解油を水素化精製することによって芳香族化合物を水素化し、セタン価を向上させる方法が提案されている。例えば、特許文献1には、特定の触媒を特定の反応条件下でLCOと接触させ、セタン価45以上の軽油基材を製造する方法が提案されている。この方法の場合、反応初期においてはセタン価45以上の軽油基材が得られるものの、LCOに含まれる窒素化合物、オレフィン等による触媒被毒により、触媒活性劣化が大きいものと予想される。製油所のユニファイナー装置のような固定床流通式リアクターを用いることを想定した場合、触媒の交換頻度が高くなりあまり経済的な手法とは言えない。
【0004】
また、LCO、コーカー軽油を水素化分解触媒等と接触させてガソリン基材へ変換する試みが行われている。例えば、特許文献2には、LCOもしくはコーカー軽油を原料とし、それを結晶性アルミノシリケートゼオライトと接触させ、ガソリン基材へ変換させる方法が提案されている。この方法の場合、得られるガソリン基材の収率が少ない上、未分解の軽油留分は、そのセタン価が36程度と低く、軽油基材としてそのまま利用することが出来ない。
【0005】
また、上記方法の他、特許文献3には、FCCナフサ、LCOの軽質分のみを反応させ、オクタン価の高いガソリン留分に転化する方法が提案されている。この方法の場合、得られるガソリン留分の収率は高いものの、LCOの重質分の用途に関する記載はなく、LCOの重質分の用途に課題が残されたままである。また、近年の厳しい環境規制からガソリン又は軽油中の硫黄分を10質量ppm以下にしなければならず、この方法の場合、硫黄分に関しても課題は残されたままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3291527号公報
【特許文献2】特開昭55−149386号公報
【特許文献3】特許第2788348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の状況に鑑み、LCOやコーカー軽油などの石油系炭化水素から、リサーチオクタン価90以上、硫黄分10質量ppm以下の性状の高品質で付加価値の高いガソリン基材と、セタン価45以上、硫黄分10質量ppm以下の性状の高品質で付加価値の高い軽油基材を同時に、効率良く、経済的に得ることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、少なくとも40質量%の芳香族炭化水素化合物に富む石油系炭化水素の原料を軽質分と重質分とに分離し、各留分をそれぞれ特定の反応条件下に特定の触媒と接触させることにより、上記目的を達成できることを見出して、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、上記目的を達成するために、次の石油系炭化水素の処理方法を提供する。
(1)沸点範囲が120〜360℃で、かつ、少なくとも40質量%の芳香族炭化水素化合物を含む石油系炭化水素を、軽質分及び重質分とに分離した後、得られた軽質分の一部もしくは全量と結晶性アルミノシリケートゼオライトとを10MPa以下の水素分圧下で接触させ、リサーチオクタン価90以上、硫黄分10質量ppm以下のガソリン基材を製造するとともに、得られた重質分の一部もしくは全量と水素化活性金属を含むアルミナ触媒とを10MPa以上の水素分圧下で接触させ、セタン価45以上、硫黄分10質量ppm以下の軽油基材を製造することを特徴とする石油系炭化水素の処理方法。
(2)前記石油系炭化水素の軽質分及び重質分の分離が、蒸留により軽質分と重質分に分画することにより行われることを特徴とする前記(1)に記載の石油系炭化水素の処理方法。
(3)前記軽質分の蒸留における終点が、180℃以上且つ300℃以下の範囲であることを特徴とする前記(2)に記載の石油系炭化水素の処理方法。
(4)前記石油系炭化水素が、接触分解装置循環油(LCO)、コーカー軽油、又はその混合物であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の石油系炭化水素の処理方法。
(5)前記結晶性アルミノシリケートゼオライトに長周期型周期律表第IV A族金属が含有されていることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の石油系炭化水素の処理方法。
(6)前記結晶性アルミノシリケートゼオライトに水素化活性金属が担持されていることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の石油系炭化水素の処理方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、LCOやコーカー軽油などの石油系炭化水素から、リサーチオクタン価90以上、硫黄分10質量ppm以下という高品質で付加価値の高いガソリン基材、及びセタン価45以上、硫黄分10質量ppm以下という高品質で付加価値の高い軽油基材を同時に効率よく、経済的に製造することが可能であり、本発明は、LCOやコーカー軽油などの石油系炭化水素の有効利用に技術的意義が大きいものである。さらに本発明によりガソリンおよび軽油の収率を任意にコントロールすることが可能となり、需給バランスに見合った製造方法を提供できることから経済的にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例及び比較例のフロー概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の詳細を示す。
本発明においては、石油系炭化水素として、少なくとも40質量%の芳香族炭化水素化合物を含む石油系炭化水素を用いることが必須である。芳香族炭化水素化合物とは、単環芳香族炭化水素化合物又は多環芳香族炭化水素化合物を指し、両者の混合物でも問題はない。芳香族炭化水素化合物の種類には特に制限はないが、単環芳香族炭化水素化合物としては、キシレン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、プロピルベンゼン、エチルメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、インダン、メチルインダン類が好適に用いられ、多環芳香族炭化水素化合物としては、ナフタレン、メチルナフタレン、エチルナフタレン、ジメチルナフタレン、トリメチルナフタレン、アントラセン類、フェナントレン類が好適に用いられる。
【0013】
本発明において、石油系炭化水素中の芳香族炭化水素化合物の含有量は高いほど良いが、少なくとも40質量%、好ましくは50〜100質量%、さらに好ましくは60〜100質量%である。芳香族炭化水素化合物の含有量が高いほど、得られるガソリン留分のリサーチオクタン価は向上し所望の高オクタン価基材が得られる。一方、芳香族炭化水素化合物の含有量が40質量%を下回る場合は、得られるガソリン留分は、リサーチオクタン価90以上を満たすことが困難となり、ガソリン基材に適さない。石油系炭化水素中には、芳香族炭化水素化合物以外のものとしてパラフィン、ナフテン、オレフィン類の炭化水素化合物、チオフェン、ベンゾチオフェン類などの硫黄化合物が存在しても本発明において使用し得る。
【0014】
また、本発明で用いる石油系炭化水素においては、沸点範囲として120〜360℃が規定される。沸点範囲が360℃を超える原料を用いると触媒上の堆積コーク量が増大し急激な分解活性劣化を引き起こし好ましくない。
また、本発明では、用いる石油系炭化水素として、具体的には、接触分解装置(FCC)で得られるLCO、コーカー装置で得られるコーカー軽油、又は接触改質装置から得られるボトム油などが選択される。
【0015】
本発明では、上記石油系炭化水素を軽質分と重質分に分離し、それぞれの留分を特定の触媒と特定の反応条件下で接触させることを特徴とする。軽質分と重質分との分離方法としては、溶剤抽出法や蒸留法が挙げられるが、蒸留装置により沸点の差を利用して行う蒸留法が一般的である。蒸留装置を用いて分離する場合、軽質分の沸点範囲として120〜300℃が好ましく、さらに好ましくは120〜250℃である。この軽質分においては、終点が300℃を超えないようにすれば、後述する分解触媒の性能の低下を抑制することが出来、ガソリン留分の収率の低下を抑制することが出来て好ましく、また、終点は180℃を下回らないようにすることが、後述する分離された重質分から得られる軽油留分の性状(セタン価)を満足することが出来て好ましい。ここでいう軽質分の終点の180℃以上且つ300℃以下は、換言すれば、原料にする石油系炭化水素を蒸留により軽質分と重質分に分離する場合の軽質分と重質分のカット温度の範囲である。
【0016】
本発明では、石油系炭化水素の軽質分の一部もしくは全量と結晶性アルミノシリケートゼオライトと接触させることを特徴とする。結晶性アルミノシリケートゼオライトのカチオンは水素イオンやアンモニウムイオンであることが好ましく、特に水素イオンのものが有効である。一方、結晶性アルミノシリケートゼオライト中のナトリウムイオンは、本発明においては少ない方が好ましく、NaOとして換算して0.7質量%以下、好ましくは0.5質量%以下であることが望ましい。結晶性アルミノシリケートトゼオライトの種類としては、特に限定されるものではないが、モルデナイト、フォージャサイト、ゼオライトβ、フェリエライト、ZSM−4、−5、−8、−11、−12、−20、−21、−23、−34、−35、−38、−46、MCM−41、−22、−48、UTD−1、CIT−5、VPI−5、TS−1、−2が挙げられる。好ましくは、モルデナイト、フォージャサイト、ゼオライトβである。ここでフォージャサイトには、Xゼオライト、Yゼオライト、超安定化Yゼオライト(Ultra Stable Y;USY)などが含まれる。
【0017】
本発明に用いる結晶性アルミノシリケートゼオライトのシリカ/アルミナ比は、特に制限はないが、通常ゼオライトの種類によりその値が決定される。例えば、フォージャサイト及びモルデナイトの場合は3〜200、ゼオライトβの場合は25〜300のものが通常用いられる。
【0018】
本発明では、以上のような結晶性アルミノシリケートゼオライトに加え、これらの結晶性アルミノシリケートゼオライトに長周期型周期律表第IV A族金属(以下、「長周期型周期律表」を省略することがある)を含有させたものを用いても良い。第IV A族金属を含有させた場合、結晶性アルミノシリケートゼオライト(以下、単に「ゼオライト」ということがある)の分解性向上や、得られるガソリン基材のオクタン価向上などの一層の効果が得られる。
【0019】
本発明において第IV A族金属とは、例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウムなどが挙げられ、好適にはチタン、ジルコニウムが用いられる。第IV A族金属の含有量は、酸化物換算でゼオライトに対して0.5〜30質量%、好ましくは1〜15質量%であることが望ましい。含有させる方法は、特に制限はないが、第IV A族金属の塩を含む溶液を該ゼオライトと接触させることにより第IV A族金属含有結晶性アルミノシリケートゼオライトを得ることができる。この他、第IV A族金属の単体又は酸化物を水に分散させたスラリーにより含浸させても、また粉末のまま物理混合して含有させても問題はない。水溶液を用いる場合、有機酸もしくは無機酸の塩を用いることが可能である。有機酸の塩を用いる場合は酢酸塩等のカルボン酸の塩、クエン酸、マロン酸、コハク酸等のオキシカルボン酸の塩を用いることができる。無機酸の塩を用いる場合は硫酸塩、硝酸塩、塩化物等を用いることが出来る。第IV A族金属を含有させる際には攪拌状態で行っても良く、静置状態でも均一に分散されていれば問題はない。含有させる時の温度、時間等の条件は特に規定されない。有機酸もしくは無機酸の塩の水溶液と該ゼオライトとを接触させた場合、接触後は、ゼオライトと水溶液を濾過もしくは遠心分離により分離することが出来る。こうして得られた固形物は、乾燥、焼成を行うことが好ましい。乾燥条件は、一般に20〜150℃、好ましくは50〜120℃であり、空気又は窒素気流中にて行われる。焼成条件は、一般に400〜700℃、好ましくは450〜650℃が選択されるが、使用する触媒の使用条件により適宜選択される。なお、上記ゼオライトを以下に記載するバインダーを用いて成型する場合には、上記の乾燥、焼成は省略し、以下の成型を行った後に上記の条件下で乾燥、焼成を行ってもよい。こうして得られた第IV A族金属含有結晶性アルミノシリケートゼオライトは、そのまま触媒として用いても問題はないが、アルミナ等のバインダーを加えて成型したものも本発明では使用出来る。バインダーの種類としては、アルミナ、シリカアルミナ、シリカ、ジルコニア、ボリア、アルミナボリア等が挙げられ、好ましくはアルミナ、シリカアルミナ、シリカ、アルミナボリア、ボリアが選択される。バインダーの含有量は、一般に10〜70質量%、好ましくは15〜65質量%である。バインダーの含有量が70質量%以下であれば、触媒の性能が阻害されることを抑制でき、また、10質量%以上であれば、触媒の物理的強度を高めることが出来る。上記バインダーを加えて成型して使用し得ることは、上記結晶性アルミノシリケートゼオライトをそのまま触媒として用いる場合にも、また、後記の結晶性アルミノシリケートゼオライトに水素化活性金属を担持させて触媒として用いる場合にも共通することである。
【0020】
軽質分中に硫黄分が含有されている場合には、結晶性アルミノシリケートゼオライトに水素化活性金属を含有させ、脱硫能を持たせたものも本発明では使用することが出来、またそうすることが好ましい。ここで水素化活性金属とは、長周期型周期律表第VIII族又は第VI族金属(以下、「長周期型周期律表」を省略することがある)のことを指し、具体的には、第VIII族金属としては、鉄、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金が挙げられ、第VI族金属としては、クロム、モリブデン、タングステンが挙げられる。これらの金属の中で、好ましくはニッケル、コバルト、ルテニウム、パラジウム、白金、モリブデン、タングステンが選択される。水素化活性金属としては、第VIII族金属と第VI族金属とを併用することも出来る。水素化活性金属を担持させる方法は、特に限定されないが、例えば水素化活性金属の塩を含む溶液を担体となるゼオライトに含浸させる方法が好ましく採用される。また、平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましい。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定し、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法であるが、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や担体の物性に応じて適宜選択される。水素化活性金属のゼオライトへの担持は、ゼオライトをバインダーで成形する前に行ってもよいし、ゼオライトをバインダーで成型した後に行ってもよい。水素化活性金属の担持量は、貴金属と卑金属とで範囲が異なるが、貴金属の場合、下限値として金属換算で0.1質量%、好ましくは0.3質量%が望ましい。卑金属の場合、下限値として酸化物換算で1質量%、好ましくは2質量%が望ましい。また、上限値として貴金属の場合は20質量%、好ましくは15%が望ましく、卑金属の場合は30質量%、好ましくは25質量%が望ましい。含浸処理などの処理の後は乾燥、焼成を行うことが好ましい。乾燥条件としては、一般に20〜150℃、好ましくは50〜120℃が選択され、空気又は窒素気流中にて行われる。焼成条件としては、一般に400〜700℃、好ましくは450〜650℃が選択されるが、使用する触媒の使用条件により適宜選択される。水素化活性金属の担持量が下限値以上であれば、充分な脱硫活性を得ることができず得られるガソリン基材中の硫黄分10質量ppm以下の達成が困難となることを回避することが出来、また、上限値以下であれば、脱硫の効果が飽和するだけでなく、分解活性が低下し、得られるガソリン基材のリサーチオクタン価が低下することを回避することが出来る。
【0021】
また、軽質分中に硫黄分が含有されている場合には、本発明においては、本発明における軽質分と上記結晶性アルミノシリケートゼオライトとの接触処理を行う前又は行った後に、軽質分を市販のCoMoアルミナ系触媒、あるいはNiMoアルミナ系触媒などの触媒を用いて脱硫処理を行うことが出来る。
【0022】
本発明においては、石油系炭化水素の軽質分と、結晶性アルミノシリケートゼオライト(上記第IV A族金属を含有させたものも、水素化活性金属を担持させたものも含む)との接触は、10MPa以下の水素分圧下で接触させることが必須である。水素分圧が高すぎると、得られるガソリン留分のリサーチオクタン価の低下を招き、好ましくは9MPa以下、さらに好ましくは8MPa以下である。触媒とする結晶性アルミノシリケートゼオライトと、石油系炭化水素の軽質分を接触させる方法は、固定床流通式,流動床式、移動床式等種々の方法で行うことが出来るが、操作の容易性を考慮すれば、固定床流通式で行うのが好ましい。流通式反応装置で実施する場合、一般に、水素/炭化水素比は100〜10000Nm/KL、好ましくは200〜5000Nm/KL、さらに好ましくは300〜3000Nm/KLである。また、その時の液空間速度(LHSV;Liquid Hourly Space Velocity)は、一般に、0.05〜10h−1、好ましくは0.1〜5h−1、さらに好ましくは0.2〜3h−1である。接触させるときの温度は、原料の石油系炭化水素の種類にもよるが、一般に、300〜500℃、好ましくは350〜470℃、さらに好ましくは360〜450℃である。温度が上記範囲であれば、温度が低すぎて目的生成物であるガソリン留分の収量が低減することを防ぐことが出来、また、温度が高すぎて、用いるエネルギーが無駄となり、経済性が悪くなることを防ぐことが出来る。本発明においては、RONが高いガソリン留分が得られるばかりでなく、同時にガソリン留分中の硫黄分を10質量ppm以下に低減できることを特徴とする。
【0023】
本発明では、軽質分を処理することにより得られるガソリン基材の芳香族炭化水素化合物の含有量が高いことを特徴とする。一般に、芳香族炭化水素化合物はオクタン価が高く、発熱量が大きい点でガソリン基材として優れている。軽質分の終点が250℃を超えるものを処理する場合には、軽質分の終点が250℃以下のものを処理する場合よりも未分解留分が増加するが、それをリサイクルさせ再度結晶性アルミノシリケートゼオライトと接触させてガソリン留分を増量させることも可能である。さらに、本発明の軽質分の処理で発生する未分解留分は、水素化されセタン価が向上しているため、軽油基材にブレンドすることも可能である。
【0024】
本発明で軽質分の処理により製造されるガソリン基材は、高オクタン価であり、リサーチオクタン価90以上を指し、そのままガソリン基材として使用することが可能であり、また、他の基材と混合することも可能である。この他の基材としては、例えば、原油を蒸留して得られる石油留出油、及び石油留出油に各種の処理を行ったものが挙げられる。これらの中でも、接触改質装置から得られる改質ガソリン、流動接触分解装置から得られる接触分解ガソリン、その他アルキレート、エタノール、ETBEなどの基材と好ましく混合することができる。また、本発明により得られるガソリン基材中には、ベンゼン、トルエン、キシレンを含むため、それらをそれぞれ抽出して化学工業原料として用いることが可能である。
【0025】
本発明では、石油系炭化水素の重質分の一部もしくは全量と水素化活性金属を含むアルミナ触媒と接触させ、セタン価の高い軽油留分へ変換できることも特徴である。アルミナ触媒として用いるアルミナは、特に限定されるものではないが、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナ、アルミナ水和物等の種々のアルミナを使用することができるが、多孔質で高比表面積であるアルミナが好ましく、中でもγ−アルミナが適している。アルミナは、単独でも他の酸化物を複合させることも可能である。他の酸化物としては、シリカ、ボリア、ジルコニア、チタニア、亜鉛等が挙げられる。本発明では、上記アルミナに水素化活性金属を含有させることが必須である。ここで水素化活性金属とは、第VIII族又は第VI金属のことを指し、具体的には、第VIII族金属としては、鉄、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金が挙げられ、第VI族金属としては、クロム、モリブデン、タングステンが挙げられる。これらの金属の中で、好ましくはニッケル、コバルト、ルテニウム、パラジウム、白金、モリブデン、タングステンが選択される。水素化活性金属としては、第VIII族金属と第VI族金属とを併用することも出来る。水素化活性金属を担持させる方法は、特に限定されないが、例えば水素化活性金属の塩を含む溶液を担体となるアルミナに含浸させる方法が好ましく採用される。また、平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましい。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定し、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法であるが、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や担体の物性に応じて適宜選択される。水素化活性金属の含有量は、貴金属と卑金属とで範囲が異なるが、貴金属の場合、下限値として金属換算で0.1質量%、好ましくは0.3質量%が望ましい。卑金属の場合、下限値として酸化物換算で1質量%、好ましくは2質量%が望ましい。また、上限値として貴金属の場合は20質量%、好ましくは15質量%が望ましく、卑金属の場合は30質量%、好ましくは25質量%が望ましい。含浸処理などの処理の後は乾燥、焼成を行うことが好ましい。乾燥条件としては、一般に20〜150℃、好ましくは50〜120℃が選択され、空気又は窒素気流中にて行われる。焼成条件としては、一般に400〜700℃、好ましくは450〜650℃が選択されるが、使用する触媒の使用条件により適宜選択される。水素化活性金属の担持量が下限値以上であれば、充分な脱硫活性を得ることができず得られる軽油基材中の硫黄分10質量ppm以下の達成が困難となることを回避することが出来、また、上限値以下であれば、脱硫の効果が飽和して不経済となることを回避することが出来る。
【0026】
石油系炭化水素の重質分とアルミナ触媒との接触は、10MPa以上の水素分圧下で接触させることが必須である。水素分圧が低すぎると得られる軽油留分のセタン価の低下や触媒の活性劣化を招き、好ましくは12MPa以上、さらに好ましくは14MPa以上である。水素分圧の上限値は特に制限はないが、22MPa以下にすることにより、効果が飽和して、また高耐圧性の反応器、ライン等が必要となって、不経済的となることを防ぐことが出来る。アルミナ触媒と石油系炭化水素の重質分とを接触させる方法は、固定床流通式,流動床式、移動床式等種々の方法で行うことが出来るが、操作の容易性を考慮すれば、固定床流通式で行うのが好ましい。固定床流通式反応装置で実施する場合、一般に、水素/炭化水素比は100〜10000Nm/KL、好ましくは200〜5000Nm/KL、さらに好ましくは300〜3000Nm/KLである。また、その時の液空間速度(LHSV;Liquid Hourly Space Velocity)は、一般に、0.05〜10h−1、好ましくは0.1〜5h−1、さらに好ましくは0.2〜3h−1である。接触させるときの温度は、250〜500℃、好ましくは280〜470℃、さらに好ましくは300〜450℃である。温度が上記範囲であれば、温度が低すぎて目的生成物である軽油留分のセタン価の向上を図れなくなることを回避でき、また、温度が高すぎて効果が飽和して、反応のそれ以上の促進が困難となるのみならず、用いるエネルギーが無駄となって、経済性が悪くなることを回避することが出来る。
【0027】
本発明で石油系炭化水素の重質分の処理により製造される軽油基材は、高セタン価であり、セタン価45以上且つ硫黄分10質量ppm以下を指し、そのまま軽油基材として使用することが可能である。
【0028】
本発明では、石油系炭化水素を軽質分及び重質分とに分離した後、軽質分の一部または、重質分の一部を結晶性アルミノシリケートゼオライトまたは水素化活性金属と接触させることも可能である。この場合、本発明の方法で処理する軽質分または重質分の比率は特に限定されないが、比率が大きいほどガソリン基材または軽油基材の収量が増大し好ましい。本発明の方法で処理されない軽質分の用途は限定されないが、水素化精製を行って灯油、ジェット用燃料基材として用いることが可能である。また重質分はそのまま重油基材への使用や、流動接触分解装置(FCC)等の原料として使用することが可能である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0030】
〔触媒の調製〕
触媒調製例1(結晶性アルミノシリケートゼオライト(Mo/USY)の調製)
原料ゼオライトとして、市販の酸型のUSYゼオライト(シリカアルミナモル比6.0)27gを攪拌しながら1Lのガラス製フラスコに入った50℃に加温された純水350mLに投入した。30分間攪拌を行った後、スラリーを濾過分離し、50℃の加温水1Lを用いて洗浄を行った。得られたゼオライトケーキを混練装置に入れ、60℃に加熱し、水分を除去しながら混練し、粘土状の混練物を得た。得られた混練物にベーマイト9gを加えて、押出し成型機により直径1.6mm、長さ3mmのシリンダーの形状に押出し、次いで110℃で3時間乾燥処理を行った。乾燥処理後、空気気流中(100mL/min)で500℃にて3時間焼成し成型物を得た。この成型物20gをナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターで脱気しながらモリブデン酸六アンモニウム四水和物1.3gを含む含浸溶液をフラスコ中に注入した。含浸した試料は110℃で3時間乾燥処理を行った。乾燥処理後、空気気流中(100mL/min)で500℃にて3時間焼成し、触媒Aを得た。触媒Aの組成を表6に示す。
【0031】
触媒調製例2(結晶性アルミノシリケートゼオライト(Mo/ゼオライトβ)の調製)
原料ゼオライトとして、市販の酸型のゼオライトβ(シリカアルミナモル比40)を用いた以外はすべて触媒調製例1と同様な手法を用いて触媒Bを得た。触媒Bの組成を表6に示す。
【0032】
触媒調製例3(結晶性アルミノシリケートゼオライト(TiMo/USY)の調製)
原料ゼオライトとして、触媒調製例1で用いたUSYゼオライト(シリカアルミナモル比6.0)を用い、硫酸チタン(IV)水溶液(0.05mol/L)350mLを1Lのガラス製フラスコに入れた。これを50℃に加温し、前記USYゼオライトの27gを攪拌しながら投入した。30分間攪拌を行った後、スラリーを濾過分離し、50℃の加温水1Lを用いて洗浄を行った。得られたゼオライトケーキを混練装置に入れ、60℃に加熱し、水分を除去しながら混練し、粘土状の混練物を得た。得られた混練物にベーマイト9gを加えて、押出し成型機により直径1.6mm、長さ3mmのシリンダーの形状に押出し、次いで110℃で3時間乾燥処理を行った。乾燥処理後、空気気流中(100mL/min)で500℃にて3時間焼成し、成型物を得た。この成型物20gをナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターで脱気しながらモリブデン酸六アンモニウム四水和物1.3gを含む含浸溶液をフラスコ中に注入した。含浸した試料は110℃で3時間乾燥処理を行った。乾燥処理後、空気気流中(100mL/min)で500℃にて3時間焼成し、触媒Cを得た。触媒Cの組成を表6に示す。
【0033】
触媒調製例4(水素化活性金属を含むアルミナ触媒(NiMo/アルミナ)の調製)
γ−アルミナ(比表面積372m/g、細孔容積0.65cc/g、平均細孔径62Å)をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターで脱気しながらモリブデン酸六アンモニウム四水和物6.6gを含む含浸溶液をフラスコ中に注入した。含浸した試料は110℃で3時間乾燥処理を行った。乾燥処理後、空気気流中(100mL/min)で500℃にて3時間焼成した。次いでこれをロータリーエバポレーターで脱気しながら硝酸ニッケル六水和物5.3gを含む含浸溶液をフラスコ中に注入した。含浸した試料は110℃で3時間乾燥処理を行った。乾燥処理後、空気気流中(100mL/min)で500℃にて3時間焼成し、触媒Dを得た。触媒Dの組成を表6に示す。
【0034】
触媒調製例5(水素化活性金属を含むアルミナ触媒(CoMo/アルミナ)の調製)
硝酸ニッケル六水和物の代わりに炭酸コバルト2.2gを使用した以外は触媒調製例4と同様な手法を用いて触媒Eを得た。触媒Eの組成を表6に示す。
【0035】
〔ガソリン基材と軽油基材の製造〕
実施例1
表1記載の組成をもつ分解軽油Aを蒸留装置でカット温度300℃にて軽質分と重質分とに分離した。蒸留装置は釜容量20L、実段数20段の回分式のものを使用し、還流比7、減圧下(50mmHg)の条件で蒸留を行った。蒸留塔の塔頂温度が300℃(常圧換算)に達した時点で蒸留を終了し、留出油を軽質分、釜残油を重質分とした。
次いで、前記触媒調製例1で製造した触媒A(Mo/USY)を内径15mmのステンレス製反応管に充填し、前記触媒Aと、得られた軽質分(終点300℃)を、410℃、7.0MPa、全LHSV=0.5/h、水素/炭化水素原料=600Nm/KLで接触させ、ガソリン留分を得た。
さらに、前記触媒調製例4で製造した触媒D(NiMo/アルミナ)を内径15mmのステンレス製反応管に充填し、前記触媒Dと、得られた重質分を380℃、14.0MPa、全LHSV=0.5/h、水素/炭化水素原料600Nm/KLで接触させ、軽油留分を得た。その時の条件並びに通油開始20日後の反応結果を表2に、フロー概略図を図1に示した。尚、各収率の算出方法は以下に示す通りに規定した。以下いずれの実施例、比較例とも通油開始後20日目の反応結果を示す。
【0036】
<各留分の沸点範囲>
ガソリン留分 沸点範囲30〜175℃
軽油留分 沸点範囲175〜360℃

<各収率の算出方法>
軽質分処理 C1-C4収率mass% [7]/[2]×100
ガソリン収率mass% [4]/[2]×100
未分解留分収率mass% [6]/[2]×100
重質分処理 C1-C4収率mass% [8]/[3]×100
ナフサ収率mass% [9]/[3]×100
軽油留分収率mass% [5]/[3]×100
(算出式中の数字記号は図1の概略フロー図に基づく)
【0037】
実施例2
実施例1において、分解軽油Aを軽質分と重質分とに分離するに当たって、カット温度を250℃として、蒸留塔の塔頂温度が250℃(常圧換算)に達した時点で蒸留を終了し、留出油を軽質分とし、釜残油を重質分としたこと以外は、実施例1と同様な手法でガソリン留分と軽油留分を得た。その時の条件並びに通油開始20日後の反応結果を表2に示した。
【0038】
実施例3
実施例2において、前記触媒Aの代わりに前記触媒B(Mo/ゼオライトβ)を用いたこと以外は、実施例1と同様な手法でガソリン留分と軽油留分を得た。その時の条件並びに通油開始20日後の反応結果を表2に示した。
【0039】
実施例4
実施例2において、前記触媒Aの代わりに前記触媒C(TiMo/USY)を用いたこと以外は、実施例1と同様な手法でガソリン留分と軽油留分を得た。その時の条件並びに通油開始20日後の反応結果を表2に示した。
【0040】
実施例5
実施例4において、前記触媒Dの代わりに前記触媒E(CoMo/アルミナ)を用いたこと以外は、実施例4と同様な手法でガソリン留分と軽油留分を得た。その時の条件並びに通油開始20日後の反応結果を表3に示した。
【0041】
実施例6
表1記載の分解軽油Bを、実施例1における分解軽油Aを軽質分と重質分とに分離する手法と同様の手法で蒸留して、但しカット温度を250℃として、蒸留塔の塔頂温度が250℃(常圧換算)に達した時点で蒸留を終了し、留出油を軽質分として、釜残油を重質分として得た。
次いで、前記触媒Cを内径15mmのステンレス製反応管に充填し、前記触媒Cと、得られた軽質分(終点250℃)を、410℃、7.0MPa、全LHSV=0.5/h、水素/炭化水素原料=600Nm/KLで接触させ、ガソリン留分を得た。さらに、前記触媒Dを内径15mmのステンレス製反応管に充填し、前記触媒Dと、得られた重質分を、380℃、14.0MPa、全LHSV=0.5/h、水素/炭化水素原料600Nm/KLで接触させ、軽油留分を得た。その時の条件並びに通油開始20日後の反応結果を表3に示した。
【0042】
実施例7
実施例2における分解軽油Aからの軽質分と重質分の分離と同様にして、軽質分と重質分を得た。
次いで、前記触媒Cを内径15mmのステンレス製反応管に充填し、前記触媒Cと、得られた軽質分(終点250℃)を、410℃、9.0MPa、全LHSV=0.5/h、水素/炭化水素原料=600Nm/KLで接触させ、ガソリン留分を得た。さらに、前記触媒Dを内径15mmのステンレス製反応管に充填し、前記触媒Dと、得られた重質分を、380℃、20.0MPa、全LHSV=0.5/h、水素/炭化水素原料600Nm/KLで接触させ、軽油留分を得た。その時の条件並びに通油開始20日後の反応結果を表3に示した。
【0043】
実施例8
実施例2における分解軽油Aからの軽質分と重質分の分離と同様にして、軽質分と重質分を得た。
次いで、前記触媒Cを内径15mmのステンレス製反応管に充填し、前記触媒Cと、得られた軽質分(終点250℃)を、410℃、5.0MPa、全LHSV=0.5/h、水素/炭化水素原料=600Nm/KLで接触させ、ガソリン留分を得た。さらに、前記触媒Dを内径15mmのステンレス製反応管に充填し、前記触媒Dと、得られた重質分を、380℃、11.0MPa、全LHSV=0.5/h、水素/炭化水素原料600Nm/KLで接触させ、軽油留分を得た。その時の条件並びに通油開始20日後の反応結果を表3に示した。
【0044】
比較例1
表1記載の直留系軽油Cを、実施例1における分解軽油Aを軽質分と重質分とに分離する手法と同様の手法で蒸留して、但しカット温度を300℃として、蒸留塔の塔頂温度が300℃(常圧換算)に達した時点で蒸留を終了し、留出油を軽質分として、釜残油を重質分として得た。
次いで、前記触媒Aを内径15mmのステンレス製反応管に充填し、前記触媒Aと、得られた軽質分(終点300℃)を、410℃、7.0MPa、全LHSV=0.5/h、水素/炭化水素原料=600Nm/KLで接触させ、ガソリン留分を得た。さらに、前記触媒Dを内径15mmのステンレス製反応管に充填し、前記触媒Dと、得られた重質分を、380℃、14.0MPa、全LHSV=0.5/h、水素/炭化水素原料600Nm/KLで接触させ、軽油留分を得た。その時の条件並びに通油開始20日後の反応結果を表4に示した。
【0045】
比較例2
直留系軽油Cの代わりに表1記載の直留系減圧軽油Dを用いたこと以外は、比較例1と同様な手法でガソリン留分と軽油留分を得た。その時の条件並びに通油開始20日後の反応結果を表4に示した。
【0046】
比較例3
前記触媒Aを内径15mmのステンレス製反応管に充填し、前記触媒Aと、表1記載の分解軽油Aを、410℃、7.0MPa、全LHSV=0.5/h、水素/炭化水素原料=600Nm/KLで接触させ、ガソリン留分を得た。その時の条件並びに通油開始20日後の反応結果を表4に示した。
【0047】
比較例4
前記触媒Dを内径15mmのステンレス製反応管に充填し、前記触媒Dと、表1記載の分解軽油Aを、380℃、14.0MPa、全LHSV=0.5/h、水素/炭化水素原料=600Nm/KLで接触させ、軽油留分を得た。その時の条件並びに通油開始20日後の反応結果を表4に示した。
【0048】
比較例5
前記触媒Aを内径15mmのステンレス製反応管に充填し、前記触媒Aと、実施例1で得られた軽質分(終点300℃)を、410℃、12.0MPa、全LHSV=0.5/h、水素/炭化水素原料=600Nm/KLで接触させ、ガソリン留分を得た。さらに、前記触媒Dを内径15mmのステンレス製反応管に充填し、前記触媒Dと、実施例1で得られた重質分を、380℃、8.0MPa、全LHSV=0.5/h、水素/炭化水素原料600Nm/KLで接触させ、軽油留分を得た。その時の条件並びに通油開始20日後の反応結果を表5に示した。
【0049】
上記の実施例及び比較例に記載のデータは、それぞれ以下の分析方法によって測定したものである。
蒸留性状はJIS K 2254に準拠して、芳香族分は石油学会法JPI−5S−49−97(高速液体クロマトグラフ法)に準拠して、RONはJIS K 2280に準拠して、セタン価はJIS K 2280に準拠して、そして硫黄分はJIS K 2541に準拠して測定した値である。
また、ガソリン留分、軽油留分の収率は、実施例1記載のカット温度範囲に従って分留し、実施例1記載の方法で算出した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、LCOやコーカー軽油などの石油系炭化水素から、リサーチオクタン価90以上、硫黄分10ppm以下という高品質で付加価値の高いガソリン基材、及びセタン価45以上、硫黄分10ppm以下という高品質で付加価値の高い軽油基材を同時に効率よく、経済的に製造することが可能であるため、本発明は、LCOやコーカー軽油などの石油系炭化水素の有効利用に大いに利用できる。さらに本発明によりガソリンおよび軽油の収率を任意にコントロールすることが可能となり、需給バランスに見合った製造方法を提供できることから経済的にも有用であると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点範囲が120〜360℃で、かつ、少なくとも40質量%の芳香族炭化水素化合物を含む石油系炭化水素を、軽質分及び重質分とに分離した後、得られた軽質分の一部もしくは全量と結晶性アルミノシリケートゼオライトとを10MPa以下の水素分圧下で接触させ、リサーチオクタン価90以上、硫黄分10質量ppm以下のガソリン基材を製造するとともに、得られた重質分の一部もしくは全量と水素化活性金属を含むアルミナ触媒とを10MPa以上の水素分圧下で接触させ、セタン価45以上、硫黄分10質量ppm以下の軽油基材を製造することを特徴とする石油系炭化水素の処理方法。
【請求項2】
前記石油系炭化水素の軽質分及び重質分の分離が、蒸留により軽質分と重質分に分画することにより行われることを特徴とする請求項1に記載の石油系炭化水素の処理方法。
【請求項3】
前記軽質分の蒸留における終点が、180℃以上且つ300℃以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の石油系炭化水素の処理方法。
【請求項4】
前記石油系炭化水素が、接触分解装置循環油(LCO)、コーカー軽油、又はその混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の石油系炭化水素の処理方法。
【請求項5】
前記結晶性アルミノシリケートゼオライトに長周期型周期律表第IV A族金属が含有さ
れていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の石油系炭化水素の処理方法。
【請求項6】
前記結晶性アルミノシリケートゼオライトに水素化活性金属が担持されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の石油系炭化水素の処理方法。

【図1】
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