石炭灰中の未燃焼炭素の除去方法、未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び/又は一酸化炭素の製造方法並びに石炭灰の処理方法。
【課題】高効率の石炭灰中の未燃焼炭素の除去方法、未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び/又は一酸化炭素の製造方法並びに石炭灰の処理方法を提供する。
【解決手段】未燃焼炭素を含有する石炭灰に、水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を750℃〜2000℃で接触させて、該石炭灰中の未燃焼炭素をガス化させることにより、高効率で石炭灰中の未燃焼炭素を除去でき、かつ水素及び/又は一酸化炭素を製造する。
【解決手段】未燃焼炭素を含有する石炭灰に、水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を750℃〜2000℃で接触させて、該石炭灰中の未燃焼炭素をガス化させることにより、高効率で石炭灰中の未燃焼炭素を除去でき、かつ水素及び/又は一酸化炭素を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭灰中の未燃焼炭素の除去方法、未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び/又は一酸化炭素の製造方法並びに石炭灰の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭は安定した燃料源として火力発電所等で使用されている。しかし、膨大な石炭灰が排出されている。また、火力発電所等で発生する石炭灰の用途は、集塵機で集塵されたフライアッシュと称される石炭灰の一種がセメント原料、土木・建設資材等として利用されている。しかし、未燃焼炭素含有率が6mass%以上の石炭灰はコンクリート用混和剤を吸収するために再資源化が困難となり、主に埋め立て用として廃棄されているのが現状である。
【0003】
また、燃焼法による公害防止の観点よりNOxの発生量を抑制するために、反応炉内の燃焼温度を下げていることから、不完全燃焼により石炭灰の未燃焼炭素分の含有量が多くなっている。一般に、未燃焼炭素分が約6mass%以上の石炭灰については、再資源化拡大の障害となっており、多量の石炭灰が埋め立て処分されている。
【0004】
以上の状況から、いくつかの石炭灰中の未燃焼炭素除去方法に関する報告がある(特許文献1〜3)。
【0005】
特開平5-138151号公報(特許文献1)では、水溶層と非水溶層を用いて石炭灰中の未燃焼炭素分と不燃分とを分離する技術が開示されている。しかし、現実にはほとんど利用されていない。これは、分離率や再現性の問題があると考えられる。
【0006】
特開2003-126832号公報(特許文献2)では、静電向流ベルト式の分離装置が開示されている。しかし、ベルトの磨耗が激しいと考えられ、メインテナンスコストが高くなるという問題があった。
【0007】
特開2005-66591(特許文献3)では、電圧を印加してプラスに帯電された篩網と該篩網を振動させる振動枠とを備えた超音波篩と、電圧を印加してプラスに帯電させた板電極とマイナスに帯電させた棒電極または板電極を備えた電気集塵機を利用した分離装置が開示されている。しかし、電気集塵機の装置が複雑で大型であること、また石炭灰中の未燃焼炭素と不燃分の混合状態により分離効率が左右されるという問題があった。
【0008】
また、水素の製造方法及び装置に関する報告がある(特許文献4、5)。
特開2000-128503(特許文献4)、特開2004-231459(特許文献5)では、水とアイアンカーバイトを原料として水素を発生させるものである。
【0009】
さらに、石炭灰の処理システムに関する報告がある(特許文献6、7、8)。
特開平9-108651(特許文献6)、特開平9-210338(特許文献7)、特開2001-354975(特許文献8)では、石炭灰の処理方法が開示されている。しかし、これらは、炉内に酸素を供給して、1500 ℃以上で石炭灰を溶融し、石炭灰中の未燃焼炭素を二酸化炭素や一酸化炭素として完全に除去している。よって、本発明の石炭灰の処理方法とは明らかに異なる。
【0010】
加えて、約1mass%以下の未燃焼炭素を含有する石炭灰は、高級資材(例、セラミックス原料)として利用できるので、高効率の石炭灰中の未燃焼炭素を除去する方法の開発の要望があった。
【特許文献1】特開平5-138151号公報
【特許文献2】特開2003-126832号公報
【特許文献3】特開2005-66591号公報
【特許文献4】特開2000-128503号公報
【特許文献5】特開2004-231459号公報
【特許文献6】特開平9-108651号公報
【特許文献7】特開平9-210338号公報
【特許文献8】特開2001-354975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記記載の従来技術の問題を解決すべく、高効率の石炭灰中の未燃焼炭素の除去方法、未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び/又は一酸化炭素の製造方法並びに石炭灰の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、未燃焼炭素を含有する石炭灰に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を750℃〜2000℃で接触させて、該石炭灰中の未燃焼炭素をガス化させることにより、高効率で石炭灰中の未燃焼炭素を除去でき、かつ水素及び/又は一酸化炭素を製造できることに成功した。
つまり、本発明は、以下の通りである。
「1.未燃焼炭素を含有する石炭灰に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を750℃〜2000℃で接触させて、該石炭灰中の未燃焼炭素をガス化させることを特徴とする石炭灰中の未燃焼炭素の除去方法。
2.さらに、前記ガス化工程中により発生する水素及び/又は一酸化炭素を分離することを特徴とする前項1の未燃焼炭素の除去方法。
3.未燃焼炭素を含有する石炭灰に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を750℃〜2000℃で接触させて、該石炭灰中の未燃焼炭素を該水蒸気中の水及び/又は二酸化炭素と反応させることを特徴とする未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び/又は一酸化炭素の製造方法。
4.6mass%以上の未燃焼炭素を含有する石炭灰に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を750℃〜2000℃で接触させて、該石炭灰中の未燃焼炭素をガス化させることを特徴とする未燃焼炭素含有量が6mass%以下である石炭灰の製造方法。
5.さらに、前記ガス化工程中により発生する水素及び/又は一酸化炭素を分離することを特徴とする前項4の石炭灰の製造方法。
6.以下の工程を備えることを特徴とする火力発電所で発生する未燃焼炭素を含有する石炭灰の処理方法:
(1)火力発電所で発生した未燃焼炭素を含有する石炭灰を収容した石炭灰加熱炉を用意し;
(2)前記石炭灰加熱炉内に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を供給し;
(3)前記火力発電所の炉の排熱を使用して前記石炭灰加熱炉内を750℃〜2000℃に加熱し;
(4)前記石炭灰中の未燃焼炭素と前記水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を接触させて水素及び/又は一酸化炭素を生成させ;
(5)前記生成した水素及び/又は一酸化炭素を熱交換ボイラーにおいて熱交換を行うことにより冷却し、さらに回収し;
(6) 未燃焼炭素が低減された石炭灰を前記石炭灰加熱炉内から回収する。」
【発明の効果】
【0013】
本発明の石炭灰中の未燃焼炭素の除去方法で得られる低濃度未燃焼炭素を含有する石炭灰は、土木・建設資材、セメント原料、セラミックス原料として利用可能である。
また、本発明の未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び/又は一酸化炭素の製造方法により得られる一酸化炭素及び水素は、種々の有機物化合物の合成原料又は燃料として有用であり、さらに超クリーンエネルギー源である水素は燃料電池等の燃料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(本発明の反応原理)
本発明では、主に以下の反応を利用して石炭灰中の未燃焼炭素の除去並びに水素、一酸化炭素を製造する。
C(未燃焼炭素)+H2O (供給する水蒸気)= CO+H2 吸熱反応(131kJ/mol)
C(未燃焼炭素)+CO2(供給する二酸化炭素)=2CO 吸熱反応(171 kJ/mol)
なお、最適な温度条件を設定することにより他の副反応を抑えることができる。
【0015】
(反応温度)
本発明の未燃焼炭素を含有する石炭灰の加熱温度は、約750℃〜約2000℃、好ましくは約750℃〜約1600℃であり、より好ましくは約800℃〜約1000℃である。
なお、加熱温度が高すぎると、石炭灰自体が溶解してしまうために、低濃度の未燃焼炭素を含有する石炭灰を得ることができない。
さらに、加熱温度が低すぎると、水素及び/又は一酸化炭素を製造することができない(図2参照)。加えて、十分に未燃焼炭素を石炭灰から除去することはできない。
【0016】
(圧力)
本発明の未燃焼炭素を含有する石炭灰と水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素の接触時の圧力は、常圧である大気圧で良い。本発明の反応では、高圧力下で反応を行う必要がないので経済的に利点がある。
なお、酸素分圧は可能な限り低くしたほうが良い。本発明者らは、酸素分圧を低く押さえることで、二酸化炭素の生成を低く抑えることができることを確認している。
【0017】
(使用する担体ガス)
本発明で使用する担体ガス(ガス)は、希ガスであるヘリウム、ネオン、アルゴン又は窒素を使用することができる。また、未燃焼炭素を含有する石炭灰に二酸化炭素を接触する場合には、特に担体ガスは必要ないが、不活性のガスを含んでもよい。
【0018】
(未燃焼炭素を含有する石炭灰について)
本発明で使用される未燃焼炭素を含有する石炭灰は、火力発電等で石炭を燃焼した後に生じる灰のことである。一般的に、石炭灰の主要な成分は、二酸化珪素、酸化アルミニウム、炭素で、その他の少量成分は酸化第二鉄、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等である。なお、石炭灰の組成は、JIS A 6201に公的な基準値が定められている。本発明では主に、火力発電所の炉内から発生する未燃焼炭素が6mass%以上含まれている石炭灰を使用するが、6mass%以下のものも使用できる。
【0019】
また、上記石炭灰中に存在する未燃焼炭素分の形態としては、次ぎの3つが考えられる。
第1に不燃分(無機質の灰分)と未燃焼炭素が各々独立して存在している状態、第2に不燃分の表面に未燃焼炭素が付着している状態、第3に不燃分中に未燃焼炭素が取り込まれている状態である。
第3の状態の未燃焼炭素は、粉砕、分級装置を利用して除去するのは難しい。しかしながら、本発明では、上記いずれの状態の石炭灰からでも未燃焼炭素を効率的かつ容易に除去することができる。
【0020】
(低濃度未燃焼炭素含有量の石炭灰)
本発明の方法で得られた石炭灰中の未燃焼炭素含有量は、約5〜6mass%以下であり、好ましくは約1mass%以下である。
なお、未燃焼炭素含有量が6mass%以下の石炭灰は、土木・建設資材として利用することができ、1mass%以下の石炭灰はセラミックス原料に利用することができる。
【0021】
(水素及び一酸化炭素の分離方法)
生成した水素及び一酸化炭素は、公知の方法により分離することができる。例えば、膜分離装置、圧力スイング方式(PSA)分離装置を利用することができる。
【0022】
(火力発電所で発生する未燃焼炭素を含有する石炭灰の処理方法)
本発明の火力発電所で発生する未燃焼炭素を含有する石炭灰の処理方法では、少なくとも以下の工程を備える。
(1)未燃焼炭素を含有する石炭灰を収容した石炭灰加熱炉を用意する。
なお、火力発電所の炉で発生した石炭灰を直接前記石炭灰加熱炉に供給できるように前記火力発電所の炉と前記石炭灰加熱炉を連結する石炭灰供給路を備えても良い。
(2)前記石炭灰加熱炉内に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を供給する。
供給方法は、自体公知の供給装置を利用することができる。
(3)火力発電所の炉の排熱を使用して前記石炭灰加熱炉内を750℃〜2000℃に加熱する。
火力発電所の炉の排熱を使用することにより、新たな熱源を使用する必要がなく、経済的に利点がある。
(4)前記石炭灰中の未燃焼炭素と前記水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を接触させて水素及び/又は一酸化炭素を生成させる。
(5)生成した水素及び/又は一酸化炭素を熱交換ボイラーにおいて熱交換を行うことにより冷却し、さらに回収する。
なお、回収した水素及び一酸化炭素は、自体公知の分離装置で分離される。また、回収した水素及び/又は一酸化炭素は、石炭灰加熱炉の加熱のエネルギー源として利用しても良い。
(6)未燃焼炭素が低減された石炭灰を前記石炭灰加熱炉内から回収する。
回収した石炭灰中の未燃焼炭素含有量は、約5〜6mass%以下であり、好ましくは約1mass%以下である。
【0023】
以下に本発明を実施例により具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0024】
(未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び一酸化炭素の製造)
約15mass%の未燃焼炭素を含む石炭灰(平均粒径約10μm)0.5gを電気炉に入れた。次に、800℃まで達するまでにアルゴンのみを電気炉に流し、800℃に達した後に、90℃での飽和水蒸気を含むガス(アルゴンガス)を電気炉に流し、各温度条件(800℃〜1000℃)で発生するガスの種類及び濃度を検出した。
使用した石炭灰の組成は、下記表1の通りである。
検出方法は、以下の通りである。また、測定装置の概要を図1に示す。
アルゴンガス流量:50ml/min
電気炉の容積:約30cm3
ガスクロマトグラフ:GC-8A(島津製作所)
【0025】
【表1】
【0026】
検出結果を図2に示す。水素と一酸化炭素が反応中に生成していることを確認した。また、生成量は接触温度の上昇と共に増加した。C(石炭灰中の未燃焼炭素)+ H2O(供給した水蒸気)→ H2 + COの反応により水素と一酸化炭素が発生したもと考えられる。
以上により、未燃焼炭素を含有する石炭灰から水素及び一酸化炭素を製造することができた。
【実施例2】
【0027】
(未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び一酸化炭素製造での時間依存性)
約15mass%の未燃焼炭素を含む石炭灰(実施例1で使用した石炭灰と同じ組成)0.5gを電気炉に入れた。次に、1000℃まで達するまでにアルゴンのみを電気炉に流し、1000℃に達した後に、90℃での飽和水蒸気を含むガス(アルゴンガス)を電気炉に流し、反応開始から約5時間後までに発生するガスの種類及び濃度を検出した。なお、検出方法は実施例1と同様である。
【0028】
検出結果を図3に示す。未燃焼炭素分が十分にある反応初期段階では多量の水素と一酸化炭素が発生するが、未燃焼炭素分の減少に伴い、水素と一酸化炭素の発生量が減少した。これにより、未燃焼炭素分が減少して、水素と一酸化炭素が製造されていることを確認できた。
なお、石炭灰0.5gを用いた場合、室温(25℃)での飽和水蒸気を含むガス(アルゴンガス)を流しても、発生ガス(水素、一酸化炭素)の経時変化にはほどんど相違が見られなかった。即ち、石炭灰0.5g中の未燃焼炭素分から水素と一酸化炭素を発生させるには、室温で供給できる水蒸気量で十分であることが確認できた。
【実施例3】
【0029】
(未燃焼炭素を含有する石炭灰からの一酸化炭素の製造)
約15mass%の未燃焼炭素を含む石炭灰(実施例1で使用した石炭灰と同じ組成)0.5gを電気炉に入れた。次に、850℃まで達するまでにアルゴンガスのみを電気炉に流し、850℃に達した後に、二酸化炭素とアルゴンガスを電気炉に流し、各温度条件(850℃、900℃、1000℃)で発生するガスの種類及び濃度を検出した。
検出方法は、以下の通りである。また、測定装置の概要を図4に示す。
アルゴンガス流量:50ml/min
二酸化炭素流量:50ml/min
電気炉の容積:約30cm3
ガスクロマトグラフ:GC-8A(島津製作所)
【0030】
検出結果を図5に示す。一酸化炭素が反応中に生成していることを確認した。また、生成量は接触温度の上昇と共に増加した。C (石炭灰中の未燃焼炭素)+ CO2 (供給した二酸化炭素)→ 2COの反応により一酸化炭素が発生したもと考えられる。
以上により、未燃焼炭素を含有する石炭灰から一酸化炭素を製造することができた。
【実施例4】
【0031】
(未燃焼炭素を含有する石炭灰からの一酸化炭素製造での時間依存性)
約15mass%の未燃焼炭素を含む石炭灰(実施例1で使用した石炭灰と同じ組成)0.5gを電気炉に入れた。次に、1000℃まで達するまでにアルゴンのみを電気炉に流し、1000℃に達した後に、アルゴンガスと二酸化炭素を電気炉に流し、反応開始から約4時間後までに発生するガスの種類及び濃度を検出した。なお、検出方法は実施例3と同様である。
【0032】
検出結果を図6に示す。未燃焼炭素分が十分にある反応初期段階では多量の一酸化炭素が発生するが、未燃焼炭素分の減少に伴い、一酸化炭素の発生量が減少した。これにより、未燃焼炭素分が減少して、一酸化炭素が製造されていることを確認できた。
なお、二酸化炭素と担体ガスを供給して一酸化炭素を製造することができたが、二酸化炭素のみを使用しても反応を行うことができる。
【実施例5】
【0033】
(水蒸気と二酸化炭素供給による未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び一酸化炭素製造での時間依存性)
約15mass%の未燃焼炭素を含む石炭灰(実施例1で使用した石炭灰と同じ組成)0.5gを電気炉に入れた。次に、950℃まで達するまでにアルゴンのみを電気炉に流し、950℃に達した後に、90℃での飽和水蒸気を含むガス(アルゴンガス)と二酸化炭素を電気炉に流し、反応開始から約4時間後までに発生するガスの種類及び濃度を検出した。
検出方法は、以下の通りである。また、測定装置の概要を図7に示す。
アルゴンガス流量:50ml/min
二酸化炭素流量:50ml/min
電気炉の容積:約30cm3
ガスクロマトグラフ:GC-8A(島津製作所)
【0034】
検出結果を図8に示す。未燃焼炭素分が十分にある反応初期段階では多量の水素と一酸化炭素が発生するが、未燃焼炭素分の減少に伴い、水素と一酸化炭素の発生量が減少した。これにより、未燃焼炭素分が減少して、水素と一酸化炭素が製造されていることを確認できた。
なお、水蒸気と二酸化炭素を同時に供給した場合、水蒸気だけを供給する場合(実施例2)より、生成した水素と一酸化炭素とのモル比がより1に近づいた。これは、二酸化炭素を供給することにより、CO (生成した一酸化炭素)+ H2O (供給した水蒸気)→ H2 + CO2の副反応が抑制、即ち生成した一酸化炭素の消費が抑制されたためと考えられる。
【0035】
(石炭灰中の未燃焼炭素の除去確認)
約15mass%の未燃焼炭素を含む石炭灰(実施例1で使用した石炭灰と同じ組成)0.5gと90℃での飽和水蒸気を含むガス(アルゴンガス)とを1000℃で5時間接触してガス化処理した。次に、ガス化処理された後の石炭灰に含まれる揮発成分による重量減少(weight loss(%))を室温〜1000℃まで熱分析法で測定した(図9の「ガス化処理あり」)。また、比較として、ガス化処理をしていない未燃焼炭素を含む石炭灰に含まれる揮発成分による重量減少を同一条件の熱分析法で測定した(図9の「ガス化処理なし」)。
熱分析法の条件は、以下の通りである。
昇温速度:10℃/min
標準試料:α-アルミナ
雰囲気:空気中
熱重量―示差熱分析装置:サーモプラス(理学電機)
【0036】
検出結果を図9に示す。未処理(ガス化処理なし)の石炭灰には、約15mass%の重量減少(weight loss)があった。この重量減少は、石炭灰中の未燃焼炭素が燃焼することにより二酸化炭素として除去された結果であると考えられる。すなわち、未処理の石炭灰は約15mass%の未燃焼炭素分を含んでいた。それに対し、ガス化処理後の石炭灰の重量減少は1mass%以下(約0.7mass%)であった。すなわち、ガス化処理後の石炭灰は未燃焼炭素を実質的に含まなかった。
また、石炭灰のガス化処理前後の微構造を走査電子顕微鏡(SEM)で評価した。
【0037】
評価結果を図10に示す。未処理(ガス化処理なし)の石炭灰には、球状の無機質灰分とスポンジ状の未燃焼炭素分が存在した。それに対し、ガス化処理後(ガス化処理あり)の石炭灰には、スポンジ状の未燃焼炭素分が無く、球状の無機質灰分のみが存在した。すなわち、流動性を発現する粒子の形状は保持されていることが確認できた。
さらに、石炭灰のガス化処理前後の結晶構造を粉末X線回折法(XRD)で評価した。
【0038】
評価結果を図11に示す。石炭灰中の結晶成分(α−石英、ムライト)の結晶構造はガス化処理前後(ガス化処理なし、あり)で変化しなかった。
以上により、本発明は、石炭灰中の無機質灰分の結晶構造及び形状を保持したままで、高効率で未燃焼炭素を含む石炭灰から未燃焼炭素をほぼ完全に除去することができる。なお、ガス化処理時間により、ガス化処理後の石炭灰に含まれる未燃焼炭素量(mass%)を制御できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
低濃度未燃焼炭素を含有する石炭灰の提供が可能である。また、未燃焼炭素を含有する石炭灰から得られる一酸化炭素及び水素の提供を可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】測定装置の概略図(水素及び一酸化炭素の製造)
【図2】未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び一酸化炭素の製造結果
【図3】未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び一酸化炭素製造での時間依存性の結果
【図4】測定装置の概略図(一酸化炭素の製造)
【図5】未燃焼炭素を含有する石炭灰からの一酸化炭素の製造結果
【図6】未燃焼炭素を含有する石炭灰からの一酸化炭素製造での時間依存性の結果
【図7】測定装置の概略図(水蒸気と二酸化炭素供給による水素及び一酸化炭素の製造)
【図8】水蒸気と二酸化炭素供給による未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び一酸化炭素製造での時間依存性の結果
【図9】石炭灰中の未燃焼炭素の除去確認結果
【図10】ガス化処理前後(ガス化処理あり、なし)の微構造評価結果(SEM像)
【図11】ガス化処理前後(ガス化処理あり、なし)の結晶構造評価結果(XRD図)
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭灰中の未燃焼炭素の除去方法、未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び/又は一酸化炭素の製造方法並びに石炭灰の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭は安定した燃料源として火力発電所等で使用されている。しかし、膨大な石炭灰が排出されている。また、火力発電所等で発生する石炭灰の用途は、集塵機で集塵されたフライアッシュと称される石炭灰の一種がセメント原料、土木・建設資材等として利用されている。しかし、未燃焼炭素含有率が6mass%以上の石炭灰はコンクリート用混和剤を吸収するために再資源化が困難となり、主に埋め立て用として廃棄されているのが現状である。
【0003】
また、燃焼法による公害防止の観点よりNOxの発生量を抑制するために、反応炉内の燃焼温度を下げていることから、不完全燃焼により石炭灰の未燃焼炭素分の含有量が多くなっている。一般に、未燃焼炭素分が約6mass%以上の石炭灰については、再資源化拡大の障害となっており、多量の石炭灰が埋め立て処分されている。
【0004】
以上の状況から、いくつかの石炭灰中の未燃焼炭素除去方法に関する報告がある(特許文献1〜3)。
【0005】
特開平5-138151号公報(特許文献1)では、水溶層と非水溶層を用いて石炭灰中の未燃焼炭素分と不燃分とを分離する技術が開示されている。しかし、現実にはほとんど利用されていない。これは、分離率や再現性の問題があると考えられる。
【0006】
特開2003-126832号公報(特許文献2)では、静電向流ベルト式の分離装置が開示されている。しかし、ベルトの磨耗が激しいと考えられ、メインテナンスコストが高くなるという問題があった。
【0007】
特開2005-66591(特許文献3)では、電圧を印加してプラスに帯電された篩網と該篩網を振動させる振動枠とを備えた超音波篩と、電圧を印加してプラスに帯電させた板電極とマイナスに帯電させた棒電極または板電極を備えた電気集塵機を利用した分離装置が開示されている。しかし、電気集塵機の装置が複雑で大型であること、また石炭灰中の未燃焼炭素と不燃分の混合状態により分離効率が左右されるという問題があった。
【0008】
また、水素の製造方法及び装置に関する報告がある(特許文献4、5)。
特開2000-128503(特許文献4)、特開2004-231459(特許文献5)では、水とアイアンカーバイトを原料として水素を発生させるものである。
【0009】
さらに、石炭灰の処理システムに関する報告がある(特許文献6、7、8)。
特開平9-108651(特許文献6)、特開平9-210338(特許文献7)、特開2001-354975(特許文献8)では、石炭灰の処理方法が開示されている。しかし、これらは、炉内に酸素を供給して、1500 ℃以上で石炭灰を溶融し、石炭灰中の未燃焼炭素を二酸化炭素や一酸化炭素として完全に除去している。よって、本発明の石炭灰の処理方法とは明らかに異なる。
【0010】
加えて、約1mass%以下の未燃焼炭素を含有する石炭灰は、高級資材(例、セラミックス原料)として利用できるので、高効率の石炭灰中の未燃焼炭素を除去する方法の開発の要望があった。
【特許文献1】特開平5-138151号公報
【特許文献2】特開2003-126832号公報
【特許文献3】特開2005-66591号公報
【特許文献4】特開2000-128503号公報
【特許文献5】特開2004-231459号公報
【特許文献6】特開平9-108651号公報
【特許文献7】特開平9-210338号公報
【特許文献8】特開2001-354975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記記載の従来技術の問題を解決すべく、高効率の石炭灰中の未燃焼炭素の除去方法、未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び/又は一酸化炭素の製造方法並びに石炭灰の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、未燃焼炭素を含有する石炭灰に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を750℃〜2000℃で接触させて、該石炭灰中の未燃焼炭素をガス化させることにより、高効率で石炭灰中の未燃焼炭素を除去でき、かつ水素及び/又は一酸化炭素を製造できることに成功した。
つまり、本発明は、以下の通りである。
「1.未燃焼炭素を含有する石炭灰に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を750℃〜2000℃で接触させて、該石炭灰中の未燃焼炭素をガス化させることを特徴とする石炭灰中の未燃焼炭素の除去方法。
2.さらに、前記ガス化工程中により発生する水素及び/又は一酸化炭素を分離することを特徴とする前項1の未燃焼炭素の除去方法。
3.未燃焼炭素を含有する石炭灰に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を750℃〜2000℃で接触させて、該石炭灰中の未燃焼炭素を該水蒸気中の水及び/又は二酸化炭素と反応させることを特徴とする未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び/又は一酸化炭素の製造方法。
4.6mass%以上の未燃焼炭素を含有する石炭灰に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を750℃〜2000℃で接触させて、該石炭灰中の未燃焼炭素をガス化させることを特徴とする未燃焼炭素含有量が6mass%以下である石炭灰の製造方法。
5.さらに、前記ガス化工程中により発生する水素及び/又は一酸化炭素を分離することを特徴とする前項4の石炭灰の製造方法。
6.以下の工程を備えることを特徴とする火力発電所で発生する未燃焼炭素を含有する石炭灰の処理方法:
(1)火力発電所で発生した未燃焼炭素を含有する石炭灰を収容した石炭灰加熱炉を用意し;
(2)前記石炭灰加熱炉内に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を供給し;
(3)前記火力発電所の炉の排熱を使用して前記石炭灰加熱炉内を750℃〜2000℃に加熱し;
(4)前記石炭灰中の未燃焼炭素と前記水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を接触させて水素及び/又は一酸化炭素を生成させ;
(5)前記生成した水素及び/又は一酸化炭素を熱交換ボイラーにおいて熱交換を行うことにより冷却し、さらに回収し;
(6) 未燃焼炭素が低減された石炭灰を前記石炭灰加熱炉内から回収する。」
【発明の効果】
【0013】
本発明の石炭灰中の未燃焼炭素の除去方法で得られる低濃度未燃焼炭素を含有する石炭灰は、土木・建設資材、セメント原料、セラミックス原料として利用可能である。
また、本発明の未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び/又は一酸化炭素の製造方法により得られる一酸化炭素及び水素は、種々の有機物化合物の合成原料又は燃料として有用であり、さらに超クリーンエネルギー源である水素は燃料電池等の燃料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(本発明の反応原理)
本発明では、主に以下の反応を利用して石炭灰中の未燃焼炭素の除去並びに水素、一酸化炭素を製造する。
C(未燃焼炭素)+H2O (供給する水蒸気)= CO+H2 吸熱反応(131kJ/mol)
C(未燃焼炭素)+CO2(供給する二酸化炭素)=2CO 吸熱反応(171 kJ/mol)
なお、最適な温度条件を設定することにより他の副反応を抑えることができる。
【0015】
(反応温度)
本発明の未燃焼炭素を含有する石炭灰の加熱温度は、約750℃〜約2000℃、好ましくは約750℃〜約1600℃であり、より好ましくは約800℃〜約1000℃である。
なお、加熱温度が高すぎると、石炭灰自体が溶解してしまうために、低濃度の未燃焼炭素を含有する石炭灰を得ることができない。
さらに、加熱温度が低すぎると、水素及び/又は一酸化炭素を製造することができない(図2参照)。加えて、十分に未燃焼炭素を石炭灰から除去することはできない。
【0016】
(圧力)
本発明の未燃焼炭素を含有する石炭灰と水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素の接触時の圧力は、常圧である大気圧で良い。本発明の反応では、高圧力下で反応を行う必要がないので経済的に利点がある。
なお、酸素分圧は可能な限り低くしたほうが良い。本発明者らは、酸素分圧を低く押さえることで、二酸化炭素の生成を低く抑えることができることを確認している。
【0017】
(使用する担体ガス)
本発明で使用する担体ガス(ガス)は、希ガスであるヘリウム、ネオン、アルゴン又は窒素を使用することができる。また、未燃焼炭素を含有する石炭灰に二酸化炭素を接触する場合には、特に担体ガスは必要ないが、不活性のガスを含んでもよい。
【0018】
(未燃焼炭素を含有する石炭灰について)
本発明で使用される未燃焼炭素を含有する石炭灰は、火力発電等で石炭を燃焼した後に生じる灰のことである。一般的に、石炭灰の主要な成分は、二酸化珪素、酸化アルミニウム、炭素で、その他の少量成分は酸化第二鉄、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等である。なお、石炭灰の組成は、JIS A 6201に公的な基準値が定められている。本発明では主に、火力発電所の炉内から発生する未燃焼炭素が6mass%以上含まれている石炭灰を使用するが、6mass%以下のものも使用できる。
【0019】
また、上記石炭灰中に存在する未燃焼炭素分の形態としては、次ぎの3つが考えられる。
第1に不燃分(無機質の灰分)と未燃焼炭素が各々独立して存在している状態、第2に不燃分の表面に未燃焼炭素が付着している状態、第3に不燃分中に未燃焼炭素が取り込まれている状態である。
第3の状態の未燃焼炭素は、粉砕、分級装置を利用して除去するのは難しい。しかしながら、本発明では、上記いずれの状態の石炭灰からでも未燃焼炭素を効率的かつ容易に除去することができる。
【0020】
(低濃度未燃焼炭素含有量の石炭灰)
本発明の方法で得られた石炭灰中の未燃焼炭素含有量は、約5〜6mass%以下であり、好ましくは約1mass%以下である。
なお、未燃焼炭素含有量が6mass%以下の石炭灰は、土木・建設資材として利用することができ、1mass%以下の石炭灰はセラミックス原料に利用することができる。
【0021】
(水素及び一酸化炭素の分離方法)
生成した水素及び一酸化炭素は、公知の方法により分離することができる。例えば、膜分離装置、圧力スイング方式(PSA)分離装置を利用することができる。
【0022】
(火力発電所で発生する未燃焼炭素を含有する石炭灰の処理方法)
本発明の火力発電所で発生する未燃焼炭素を含有する石炭灰の処理方法では、少なくとも以下の工程を備える。
(1)未燃焼炭素を含有する石炭灰を収容した石炭灰加熱炉を用意する。
なお、火力発電所の炉で発生した石炭灰を直接前記石炭灰加熱炉に供給できるように前記火力発電所の炉と前記石炭灰加熱炉を連結する石炭灰供給路を備えても良い。
(2)前記石炭灰加熱炉内に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を供給する。
供給方法は、自体公知の供給装置を利用することができる。
(3)火力発電所の炉の排熱を使用して前記石炭灰加熱炉内を750℃〜2000℃に加熱する。
火力発電所の炉の排熱を使用することにより、新たな熱源を使用する必要がなく、経済的に利点がある。
(4)前記石炭灰中の未燃焼炭素と前記水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を接触させて水素及び/又は一酸化炭素を生成させる。
(5)生成した水素及び/又は一酸化炭素を熱交換ボイラーにおいて熱交換を行うことにより冷却し、さらに回収する。
なお、回収した水素及び一酸化炭素は、自体公知の分離装置で分離される。また、回収した水素及び/又は一酸化炭素は、石炭灰加熱炉の加熱のエネルギー源として利用しても良い。
(6)未燃焼炭素が低減された石炭灰を前記石炭灰加熱炉内から回収する。
回収した石炭灰中の未燃焼炭素含有量は、約5〜6mass%以下であり、好ましくは約1mass%以下である。
【0023】
以下に本発明を実施例により具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0024】
(未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び一酸化炭素の製造)
約15mass%の未燃焼炭素を含む石炭灰(平均粒径約10μm)0.5gを電気炉に入れた。次に、800℃まで達するまでにアルゴンのみを電気炉に流し、800℃に達した後に、90℃での飽和水蒸気を含むガス(アルゴンガス)を電気炉に流し、各温度条件(800℃〜1000℃)で発生するガスの種類及び濃度を検出した。
使用した石炭灰の組成は、下記表1の通りである。
検出方法は、以下の通りである。また、測定装置の概要を図1に示す。
アルゴンガス流量:50ml/min
電気炉の容積:約30cm3
ガスクロマトグラフ:GC-8A(島津製作所)
【0025】
【表1】
【0026】
検出結果を図2に示す。水素と一酸化炭素が反応中に生成していることを確認した。また、生成量は接触温度の上昇と共に増加した。C(石炭灰中の未燃焼炭素)+ H2O(供給した水蒸気)→ H2 + COの反応により水素と一酸化炭素が発生したもと考えられる。
以上により、未燃焼炭素を含有する石炭灰から水素及び一酸化炭素を製造することができた。
【実施例2】
【0027】
(未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び一酸化炭素製造での時間依存性)
約15mass%の未燃焼炭素を含む石炭灰(実施例1で使用した石炭灰と同じ組成)0.5gを電気炉に入れた。次に、1000℃まで達するまでにアルゴンのみを電気炉に流し、1000℃に達した後に、90℃での飽和水蒸気を含むガス(アルゴンガス)を電気炉に流し、反応開始から約5時間後までに発生するガスの種類及び濃度を検出した。なお、検出方法は実施例1と同様である。
【0028】
検出結果を図3に示す。未燃焼炭素分が十分にある反応初期段階では多量の水素と一酸化炭素が発生するが、未燃焼炭素分の減少に伴い、水素と一酸化炭素の発生量が減少した。これにより、未燃焼炭素分が減少して、水素と一酸化炭素が製造されていることを確認できた。
なお、石炭灰0.5gを用いた場合、室温(25℃)での飽和水蒸気を含むガス(アルゴンガス)を流しても、発生ガス(水素、一酸化炭素)の経時変化にはほどんど相違が見られなかった。即ち、石炭灰0.5g中の未燃焼炭素分から水素と一酸化炭素を発生させるには、室温で供給できる水蒸気量で十分であることが確認できた。
【実施例3】
【0029】
(未燃焼炭素を含有する石炭灰からの一酸化炭素の製造)
約15mass%の未燃焼炭素を含む石炭灰(実施例1で使用した石炭灰と同じ組成)0.5gを電気炉に入れた。次に、850℃まで達するまでにアルゴンガスのみを電気炉に流し、850℃に達した後に、二酸化炭素とアルゴンガスを電気炉に流し、各温度条件(850℃、900℃、1000℃)で発生するガスの種類及び濃度を検出した。
検出方法は、以下の通りである。また、測定装置の概要を図4に示す。
アルゴンガス流量:50ml/min
二酸化炭素流量:50ml/min
電気炉の容積:約30cm3
ガスクロマトグラフ:GC-8A(島津製作所)
【0030】
検出結果を図5に示す。一酸化炭素が反応中に生成していることを確認した。また、生成量は接触温度の上昇と共に増加した。C (石炭灰中の未燃焼炭素)+ CO2 (供給した二酸化炭素)→ 2COの反応により一酸化炭素が発生したもと考えられる。
以上により、未燃焼炭素を含有する石炭灰から一酸化炭素を製造することができた。
【実施例4】
【0031】
(未燃焼炭素を含有する石炭灰からの一酸化炭素製造での時間依存性)
約15mass%の未燃焼炭素を含む石炭灰(実施例1で使用した石炭灰と同じ組成)0.5gを電気炉に入れた。次に、1000℃まで達するまでにアルゴンのみを電気炉に流し、1000℃に達した後に、アルゴンガスと二酸化炭素を電気炉に流し、反応開始から約4時間後までに発生するガスの種類及び濃度を検出した。なお、検出方法は実施例3と同様である。
【0032】
検出結果を図6に示す。未燃焼炭素分が十分にある反応初期段階では多量の一酸化炭素が発生するが、未燃焼炭素分の減少に伴い、一酸化炭素の発生量が減少した。これにより、未燃焼炭素分が減少して、一酸化炭素が製造されていることを確認できた。
なお、二酸化炭素と担体ガスを供給して一酸化炭素を製造することができたが、二酸化炭素のみを使用しても反応を行うことができる。
【実施例5】
【0033】
(水蒸気と二酸化炭素供給による未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び一酸化炭素製造での時間依存性)
約15mass%の未燃焼炭素を含む石炭灰(実施例1で使用した石炭灰と同じ組成)0.5gを電気炉に入れた。次に、950℃まで達するまでにアルゴンのみを電気炉に流し、950℃に達した後に、90℃での飽和水蒸気を含むガス(アルゴンガス)と二酸化炭素を電気炉に流し、反応開始から約4時間後までに発生するガスの種類及び濃度を検出した。
検出方法は、以下の通りである。また、測定装置の概要を図7に示す。
アルゴンガス流量:50ml/min
二酸化炭素流量:50ml/min
電気炉の容積:約30cm3
ガスクロマトグラフ:GC-8A(島津製作所)
【0034】
検出結果を図8に示す。未燃焼炭素分が十分にある反応初期段階では多量の水素と一酸化炭素が発生するが、未燃焼炭素分の減少に伴い、水素と一酸化炭素の発生量が減少した。これにより、未燃焼炭素分が減少して、水素と一酸化炭素が製造されていることを確認できた。
なお、水蒸気と二酸化炭素を同時に供給した場合、水蒸気だけを供給する場合(実施例2)より、生成した水素と一酸化炭素とのモル比がより1に近づいた。これは、二酸化炭素を供給することにより、CO (生成した一酸化炭素)+ H2O (供給した水蒸気)→ H2 + CO2の副反応が抑制、即ち生成した一酸化炭素の消費が抑制されたためと考えられる。
【0035】
(石炭灰中の未燃焼炭素の除去確認)
約15mass%の未燃焼炭素を含む石炭灰(実施例1で使用した石炭灰と同じ組成)0.5gと90℃での飽和水蒸気を含むガス(アルゴンガス)とを1000℃で5時間接触してガス化処理した。次に、ガス化処理された後の石炭灰に含まれる揮発成分による重量減少(weight loss(%))を室温〜1000℃まで熱分析法で測定した(図9の「ガス化処理あり」)。また、比較として、ガス化処理をしていない未燃焼炭素を含む石炭灰に含まれる揮発成分による重量減少を同一条件の熱分析法で測定した(図9の「ガス化処理なし」)。
熱分析法の条件は、以下の通りである。
昇温速度:10℃/min
標準試料:α-アルミナ
雰囲気:空気中
熱重量―示差熱分析装置:サーモプラス(理学電機)
【0036】
検出結果を図9に示す。未処理(ガス化処理なし)の石炭灰には、約15mass%の重量減少(weight loss)があった。この重量減少は、石炭灰中の未燃焼炭素が燃焼することにより二酸化炭素として除去された結果であると考えられる。すなわち、未処理の石炭灰は約15mass%の未燃焼炭素分を含んでいた。それに対し、ガス化処理後の石炭灰の重量減少は1mass%以下(約0.7mass%)であった。すなわち、ガス化処理後の石炭灰は未燃焼炭素を実質的に含まなかった。
また、石炭灰のガス化処理前後の微構造を走査電子顕微鏡(SEM)で評価した。
【0037】
評価結果を図10に示す。未処理(ガス化処理なし)の石炭灰には、球状の無機質灰分とスポンジ状の未燃焼炭素分が存在した。それに対し、ガス化処理後(ガス化処理あり)の石炭灰には、スポンジ状の未燃焼炭素分が無く、球状の無機質灰分のみが存在した。すなわち、流動性を発現する粒子の形状は保持されていることが確認できた。
さらに、石炭灰のガス化処理前後の結晶構造を粉末X線回折法(XRD)で評価した。
【0038】
評価結果を図11に示す。石炭灰中の結晶成分(α−石英、ムライト)の結晶構造はガス化処理前後(ガス化処理なし、あり)で変化しなかった。
以上により、本発明は、石炭灰中の無機質灰分の結晶構造及び形状を保持したままで、高効率で未燃焼炭素を含む石炭灰から未燃焼炭素をほぼ完全に除去することができる。なお、ガス化処理時間により、ガス化処理後の石炭灰に含まれる未燃焼炭素量(mass%)を制御できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
低濃度未燃焼炭素を含有する石炭灰の提供が可能である。また、未燃焼炭素を含有する石炭灰から得られる一酸化炭素及び水素の提供を可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】測定装置の概略図(水素及び一酸化炭素の製造)
【図2】未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び一酸化炭素の製造結果
【図3】未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び一酸化炭素製造での時間依存性の結果
【図4】測定装置の概略図(一酸化炭素の製造)
【図5】未燃焼炭素を含有する石炭灰からの一酸化炭素の製造結果
【図6】未燃焼炭素を含有する石炭灰からの一酸化炭素製造での時間依存性の結果
【図7】測定装置の概略図(水蒸気と二酸化炭素供給による水素及び一酸化炭素の製造)
【図8】水蒸気と二酸化炭素供給による未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び一酸化炭素製造での時間依存性の結果
【図9】石炭灰中の未燃焼炭素の除去確認結果
【図10】ガス化処理前後(ガス化処理あり、なし)の微構造評価結果(SEM像)
【図11】ガス化処理前後(ガス化処理あり、なし)の結晶構造評価結果(XRD図)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
未燃焼炭素を含有する石炭灰に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を750℃〜2000℃で接触させて、該石炭灰中の未燃焼炭素をガス化させることを特徴とする石炭灰中の未燃焼炭素の除去方法。
【請求項2】
さらに、前記ガス化工程中により発生する水素及び/又は一酸化炭素を分離することを特徴とする請求項1の未燃焼炭素の除去方法。
【請求項3】
未燃焼炭素を含有する石炭灰に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を750℃〜2000℃で接触させて、該石炭灰中の未燃焼炭素を該水蒸気中の水及び/又は二酸化炭素と反応させることを特徴とする未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び/又は一酸化炭素の製造方法。
【請求項4】
6mass%以上の未燃焼炭素を含有する石炭灰に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を750℃〜2000℃で接触させて、該石炭灰中の未燃焼炭素をガス化させることを特徴とする未燃焼炭素含有量が6mass%以下である石炭灰の製造方法。
【請求項5】
さらに、前記ガス化工程中により発生する水素及び/又は一酸化炭素を分離することを特徴とする請求項4の石炭灰の製造方法。
【請求項6】
以下の工程を備えることを特徴とする火力発電所で発生する未燃焼炭素を含有する石炭灰の処理方法:
(1)火力発電所で発生した未燃焼炭素を含有する石炭灰を収容した石炭灰加熱炉を用意し;
(2)前記石炭灰加熱炉内に水蒸気を含むガス又は二酸化炭素を供給し;
(3)前記火力発電所の炉の排熱を使用して前記石炭灰加熱炉内を750℃〜2000℃に加熱し;
(4)前記石炭灰中の未燃焼炭素と前記水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を接触させて水素及び/又は一酸化炭素を生成させ;
(5)前記生成した水素及び/又は一酸化炭素を熱交換ボイラーにおいて熱交換を行うことにより冷却し、さらに回収し;
(6)未燃焼炭素が低減された石炭灰を前記石炭灰加熱炉内から回収する。
【請求項1】
未燃焼炭素を含有する石炭灰に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を750℃〜2000℃で接触させて、該石炭灰中の未燃焼炭素をガス化させることを特徴とする石炭灰中の未燃焼炭素の除去方法。
【請求項2】
さらに、前記ガス化工程中により発生する水素及び/又は一酸化炭素を分離することを特徴とする請求項1の未燃焼炭素の除去方法。
【請求項3】
未燃焼炭素を含有する石炭灰に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を750℃〜2000℃で接触させて、該石炭灰中の未燃焼炭素を該水蒸気中の水及び/又は二酸化炭素と反応させることを特徴とする未燃焼炭素を含有する石炭灰からの水素及び/又は一酸化炭素の製造方法。
【請求項4】
6mass%以上の未燃焼炭素を含有する石炭灰に水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を750℃〜2000℃で接触させて、該石炭灰中の未燃焼炭素をガス化させることを特徴とする未燃焼炭素含有量が6mass%以下である石炭灰の製造方法。
【請求項5】
さらに、前記ガス化工程中により発生する水素及び/又は一酸化炭素を分離することを特徴とする請求項4の石炭灰の製造方法。
【請求項6】
以下の工程を備えることを特徴とする火力発電所で発生する未燃焼炭素を含有する石炭灰の処理方法:
(1)火力発電所で発生した未燃焼炭素を含有する石炭灰を収容した石炭灰加熱炉を用意し;
(2)前記石炭灰加熱炉内に水蒸気を含むガス又は二酸化炭素を供給し;
(3)前記火力発電所の炉の排熱を使用して前記石炭灰加熱炉内を750℃〜2000℃に加熱し;
(4)前記石炭灰中の未燃焼炭素と前記水蒸気を含むガス及び/又は二酸化炭素を接触させて水素及び/又は一酸化炭素を生成させ;
(5)前記生成した水素及び/又は一酸化炭素を熱交換ボイラーにおいて熱交換を行うことにより冷却し、さらに回収し;
(6)未燃焼炭素が低減された石炭灰を前記石炭灰加熱炉内から回収する。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−28715(P2009−28715A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165157(P2008−165157)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
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