説明

石綿含有無機質系廃材の処理方法

【課題】 石綿を含有する無機質系材料の廃材を、一般のセメント工場におけるセメント製造用キルンを用いて加熱することにより、石綿を非石綿化するとともにセメントに変換して再利用するための処理を、セメント製造用キルンからの排気中に石綿粉塵が混入することなく行う。
【解決手段】
石綿を含有する無機質系材料の廃材を、最大寸法が200mm未満であり且つ粒径が1mm未満である微粉の含有比率が5%以下であるように粒度調整するとともに、その含水率を2〜20%に調整し、該廃材の乾燥状態における質量として5〜30kg/袋の範囲で袋詰めし、袋詰めされた該廃材を、該廃材とセメント原料との合計量に占める廃材の比率が、乾燥状態における質量比率で1〜20%の範囲となるよう調整し、該廃材を袋詰めしたままの状態でセメント原料とともにセメント製造用キルン内にキルンの窯尻から投入し、1000〜1500℃で30〜60分間加熱処理して焼結体を得、該焼結体を粉末化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材・土木分野を始めとする広範囲な分野で使用されてきた石綿(アスベスト)を含有する無機質系材料の廃材を、非石綿化するとともにセメントに変換して再利用するための処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石綿含有廃材の処理方法としては、従来、石綿を非石綿化するために1500℃程度の高温で加熱し、石綿を溶融して固化する方法が採られていた。例えば、特許文献1には、「(1)廃石綿等排出工場から排出される廃石綿等を飛散防止処置をして、また、建築物解体・改修工事現場からの排出物は直接二重のプラスチック袋に詰めて、中間処理場へ搬送する。(2)中間処理現場では溶融施設内の溶融炉・内へ搬送して来た排出物を袋ごと直接投入し、1500℃以上の炉温で溶融固化する。固化された廃石綿の「スラグ」及び「カレル状」内にはアスベスト繊維は溶融され皆無となり無害化される。(3)溶融固化後、無害化されたスラグ等は特別管理産業廃棄物の範囲から離れ「ガラスくず及び陶器くず」に該当する物質となるために安定型最終処分場に埋め立てることが出来る。」という廃石綿等の処理方法が開示されている。しかし、石綿を溶融固化して最終処分場に埋め立てるのでは、資源としてリサイクルすることができないという問題がある。
【0003】
そこで、石綿含有廃材を、水硬性を有する物質に変換して再利用する技術が提案されている。例えば、特許文献2には、石綿セメント製品を600〜1450℃の温度で、15分〜2時間加熱処理した石綿セメント製品の加熱処理品であって、X線回折による石綿のピークが不在であり、且つガラス状固化物が不在であることを特徴とする水硬性粉体組成物が開示されている。しかし、石綿セメント製品を実際に加熱処理するにあたっては、石綿粉塵が発生するという問題があるのでその対策が重要となる。しかし、特許文献2は、石綿粉塵対策について何等開示していない。
【0004】
特許文献3には、ロータリーキルンを用いたセメントの製造方法であって、前記ロータリーキルン内の焼成帯において石綿廃材、及びセメント原料を処理することを特徴とするセメント製造方法が開示されている。しかし、一般のセメント工場において、石綿含有無機質系材料の廃材を、セメント原料とともにロータリーキルン等のセメント製造用キルンに投入して加熱処理を行い、石綿を非石綿化するとともにセメントとして再生しようとする場合、石綿粉塵の発生により作業環境が悪化するという問題があり、また、キルンには集塵装置が備えられているが該集塵装置で集塵された粉塵中に石綿粉塵が混入するので、集塵された粉塵は石綿含有物として処理しなければならないという問題があり、更に、石綿廃材をセメント原料とともにロータリーキルン内の焼成帯において加熱することによりセメントを製造するにあたっては、該廃材中の石綿が残存することなく確実に非石綿化処理されていなければならないが、特許文献3は、これらの問題の解決方法について何等開示していない。
【0005】
【特許文献1】特開平10−837547号公報
【特許文献2】特許第3198148号公報
【特許文献3】特開平9−86982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、建材等に広く使用されてきた石綿を含有する無機質系成形体について、その廃材を資源として再利用するために、該廃材を、一般のセメント工場におけるセメント製造用キルンを用いて加熱することにより、含有されている石綿を非石綿化するとともにセメントに変換するための処理を、セメント製造用キルンからの排気中に石綿粉塵が混入することなく行うための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、石綿を含有する無機質系材料の廃材を、セメント原料とともにセメント製造用キルン内に投入して加熱処理することにより、該廃材中の石綿を非石綿化するとともにセメントに変換してなる石綿を含有する無機質系材料の廃材の処理方法において、該廃材を、最大寸法が200mm未満であり且つ粒径が1mm未満である微粉の含有比率が5%以下であるように粒度調整するとともに、その含水率を2〜20%に調整し、該廃材の乾燥状態における質量として5〜30kg/袋の範囲で袋詰めし、袋詰めされた該廃材を、該廃材とセメント原料との合計量に占める廃材の比率が、乾燥状態における質量比率で1〜20%の範囲となるよう調整し、該廃材を袋詰めしたままの状態でセメント原料とともにセメント製造用キルン内にキルンの窯尻から投入し、1000〜1500℃で30〜60分間加熱処理して焼結体を得、該焼結体を粉末化することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、石綿を含有する無機質系材料の廃材を、セメント原料とともにセメント製造用キルン内に投入して加熱処理することにより、該廃材中の石綿を非石綿化するとともにセメントに変換してなる石綿を含有する無機質系材料の廃材の処理方法において、該廃材を、石綿含有廃材粉砕処理施設において、最大寸法が200mm未満であり且つ粒径が1mm未満である微粉の含有比率が5%以下であるように粒度調整するとともに、その含水率を2〜20%に調整し、該廃材の乾燥状態における質量として5〜30kg/袋の範囲で袋詰めする第1工程と、袋詰めされた該廃材を、最大寸法が5μm以上の粉塵を外部に排出しない集塵設備を備えた輸送手段を用いてセメント製造工場へ搬送する第2工程と、セメント製造工場において、該廃材とセメント原料との合計量に占める廃材の比率が、乾燥状態における質量比率で1〜20%の範囲となるよう調整し、該廃材を袋詰めしたままの状態でセメント原料とともにセメント製造用キルン内にキルンの窯尻から投入し、1000〜1500℃で30〜60分間加熱処理して焼結体を得、該焼結体を粉末化する第3工程と、からなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の石綿を含有する無機質系材料の廃材の処理方法は、最大寸法が200mm未満であり且つ粒径が1mm未満である微粉の含有比率が5%以下であるように粒度調整された石綿を含有する無機質系材料の廃材が、粒径が1mm未満である微粉の含有比率が5%を上回る石綿を含有する無機質系材料の廃材を、無機質バインダーを用いて固化処理してなるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明になる石綿含有無機質系廃材の処理方法によれば、石綿を含有する無機質系材料の廃材を、一般のセメント工場におけるセメント製造用キルンを用いて加熱することにより、石綿を非石綿化するとともにセメントに変換して再利用するための処理を、セメント製造用キルンからの排気中に石綿粉塵を混入させずに行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、石綿を含有する無機質系材料とは、繊維原料の少なくとも一部として石綿が使用されるとともに、マトリックスが、セメントの水和あるいは石灰質原料と珪酸質原料とをオートクレーブ養生して生成された珪酸カルシウム水和物等により構成された材料であり、必要に応じて各種の充填材や混和材が併用されることも多い。具体的には、石綿スレートや石綿セメント系屋根材等の石綿セメント板、石綿セメント珪酸カルシウム板等をあげることができる。石綿を含有する無機質系材料は、建築物や構築物用の材料として広範に使用されてきた材料であり、建築物や構築物の解体や補修に際しては、それらの廃材が多量に発生する。この石綿を含有する無機質系材料の廃材(以下、単に廃材と記す)を資源として再活用するためには、廃材に含有されている石綿を非石綿化すること、および再利用し易い物質あるいは状態に変換することが重要である。このような処理を行う方法としては、セメント製造用キルンを用いて、セメント製造時にセメント原料とともにキルン内で加熱することにより廃材の処理を行う方法が適しているが、廃材中の石綿が残存することなく確実に非石綿化処理しなけばならない。また、廃材を処理する際に石綿粉塵が発生し、キルンからの排気に石綿粉塵が混入すると、その排気を集塵した粉塵中に石綿が混入することになる。セメント製造に際しては粉塵が相当量発生し、且つ該粉塵中に含まれる石綿粉塵は飛散しやすい状態にあるので、セメント製造時に発生する粉塵中に石綿粉塵が混入すると、その処理に多大なコストと手間とを要することになってしまう。従って、セメント製造時にセメント原料とともにキルン内で加熱することにより廃材の処理を行うにあたっては、キルンからの排気中に石綿粉塵が混入しないようにするのが好適である。
【0012】
まず、セメント製造用キルンによるセメントの一般的な製造方法について、代表的なキルンであるロータリーキルンを使用する場合を例に説明する。なお、本発明に使用するキルンはロータリーキルンに限定されるものではない。
原料としては、石灰石を主体とし、他に粘土、珪石、鉄原料等が用いられる。粗砕、混合、微粉砕されたセメント原料は、先ず予熱装置(プレヒーター)に投入されて加熱され、次いでロータリーキルンに投入されて焼成される。予熱装置に投入されたセメント原料は、予熱装置内を下降しながら800〜900℃に加熱される。予熱装置内におけるセメント原料の加熱は、予熱装置内に熱風を送り込むことにより行われる。予熱装置で加熱されたセメント原料はロータリーキルンに送られ、ロータリーキルン内を1分間に2〜3回転し出口方向に移動しながら約1450℃程度の高温で焼成されて焼結体(セメントクリンカー)となりロータリーキルンから取り出される。ロータリーキルン内でのセメント原料の焼成は、ロータリーキルンの窯前(焼結体が取り出される側)方向から窯尻(セメント原料が投入される側)方向に向けて、微粉炭を燃焼させてロータリーキルン内に送り込むことにより行われる。ロータリーキルン内の温度は、窯尻で1000℃程度であり、最高温度が1400〜1500℃であり、窯前が1200℃程度である。ロータリーキルンから取り出された焼結体は、冷却機に送られて空気により冷却される。このようにして得られた焼結体にセメントの凝結時間調整を目的として石膏が必要に応じて加えられ、仕上げ粉砕機(仕上げミル)で粉砕されてセメントが得られる。なお、予熱装置およびロータリーキルンから排出された熱風の排気は、集塵機によりその中に含まれる粉塵が集塵される。
【0013】
通常のセメント製造設備において、予熱装置は、粉体状の原料に適用されるように構成されている。従って、廃材をセメント原料とともに、予熱装置を通してからロータリーキルンに投入しようとすると、廃材を粉末化しなければならず、多量の石綿粉塵を発生するので好ましくない。従って、廃材は、ロータリーキルンの窯尻からキルン内に投入するのがよい。また、予熱装置を通過したセメント原料もロータリーキルンの窯尻からキルン内に投入される。
【0014】
石綿粉塵が、ロータリーキルンからの排気中に混入することなく、該廃材中の石綿を確実に非石綿化し、且つセメントに変換して再利用するためには、廃材を最大寸法が200mm未満であり且つ粒径が1mm未満の微粉の含有比率が5%以下であるように粒度調整するとともにその含水率を2〜20%に調整し、該廃材の乾燥状態での質量として5〜30kg/袋の範囲で袋詰めしてロータリーキルン内へ投入することが重要である。
廃材を、最大寸法が200mm未満であり且つ粒径が1mm未満の微粉の含有比率が5%以下であるように粒度調整するための装置や方法は特に限定されるものではない。廃材の最大寸法が200mm以上である場合には、例えばハンマークラッシャー、鬼歯クラッシャー等の公知の粉砕装置を使用して廃材を粉砕し前記条件を満足するように粒度調整すればよい。この場合、廃材を粉砕する際には、粉塵の発生を抑制するために、廃材に散水しながら粉砕を行うことも有効である。また、廃材が、粒径1mm未満の微粉であったり、あるいは粒径1mm未満の微粉の含有比率が5%を上回るものである場合には、セメント等の無機質バインダーと水とを加えて混合し、造粒等を行って固化させることにより、粒径が1mm以上で且つ最大寸法が200mm未満となるように粒度調整すればよい。廃材の最大寸法が200mm以上であると、ロータリーキルン内での加熱処理により、廃材中の石綿が完全に非石綿化処理されず、得られたセメント中に石綿として残存する危険性があることから好ましくない。また、粒径が1mm未満の微粉の含有比率が5%を上回ると、窯尻から廃材をロータリーキルン内に投入したときに、石綿粉塵を生じやすくなることから好ましくない。また、廃材を粉砕する場合には、粉砕装置には当然に集塵機を備えておく必要があり、この集塵機で集塵された廃材の粉塵も、石綿を含有する無機質系材料の廃材に該当する。この粉塵は粒径が1mm未満の微粉を多量に含有するので、この粉塵の処理にあたっては、前記のとおりセメントおよび水とともに混合し造粒等を行って固化させ、粒径が1mm以上で且つ最大寸法が200mm未満となるように粒度調整すればよい。
【0015】
このようにして粒度調整された廃材は、含水率を2〜20%に調整し、廃材の乾燥状態での質量として1袋あたり5〜30kgの範囲で袋詰めされる。廃材を袋詰めしておくのは、ロータリーキルンの窯尻から廃材をキルン内に投入したときに、石綿粉塵の発生を防ぐためである。粉砕された廃材を袋詰めするための袋体としては、可燃性のものであって、廃材の袋詰めを行いやすく、廃材を袋詰めした後のハンドリング性に優れたものが好適であり、例えば厚さが0.1〜0.3mmの、ポリエステル等の樹脂、土嚢袋、ラミネート紙付クラフト紙製の袋体等をあげることができる。袋詰めされる廃材の含水率が2%を下回ると、ロータリーキルンの窯尻から廃材をロータリーキルン内に投入したときに、袋体が燃焼して廃材がロータリーキルン内に露出した際、廃材中の石綿粉塵が熱風の排気とともにロータリーキルンの外へと運び出される危険性があるので好ましくない。一方、廃材の含水率が高い方が、石綿粉塵を抑制するためには好適であるが、含水率が20%を上回ると、ロータリーキルンの窯尻から廃材をキルン内に投入したときに、廃材に含まれる水分が急激に水蒸気に変わる際の体積膨張により、廃材が爆裂して石綿粉塵を発生しやすくなり、また、ロータリーキルンに悪影響を与える危険があることから望ましくない。従って、粒度調整した廃材の含水率を2〜20%に調整して袋詰めすることが重要である。また、袋詰めされる廃材の1袋あたりの質量が30kgを上回ると、作業効率が低下することから好ましくない。また、袋詰めされる廃材の1袋あたり廃材の質量が5kgを下回ると、袋詰めに要するコストが高くなりすぎるので好ましくない。なお、本願における含水率とは、(水を含んだ状態における対象物の質量−乾燥状態における対象物の質量)/乾燥状態における対象物の質量×100(%)を意味する。
【0016】
ロータリーキルンに投入する廃材とセメント原料との合計量に占める廃材の比率は、乾燥状態における質量比率で1〜20%の範囲とするのがよい。廃材の質量比率が20%を上回ると、得られるセメントの性能のバラツキが大きくなり、セメントとして使用しにくくなることから好ましくない。また、本願は、廃材の処理を目的とするものであるから、廃材の質量比率が1%を下回ると、技術的には何等問題はないが、廃材を処理する効率が低下するので本願の趣旨にはそぐわない。
【0017】
袋詰めされた廃材のロータリーキルンの窯尻への投入は、ベルトコンベヤー等を使用すればよい。予熱装置で加熱されたセメント原料とともにロータリーキルンの窯尻からロータリーキルン内に投入された袋詰めされた廃材は、ロータリーキルン内で回転しながら1000〜1500℃で30〜60分間加熱処理される。この加熱処理の範囲内において、最高温度を1200℃以上とするとともに1200℃以上の温度で加熱される時間を15分以上とするのが好適である。この加熱処理により、廃材中の石綿が非石綿化されるとともにセメント原料とともに焼成されて焼結体(セメントクリンカー)となる。前記加熱処理に関する温度および時間の条件は、一般的なセメントの焼成条件であるので、通常のセメントを製造する条件により、廃材を処理することができる。
【0018】
ロータリーキルン内での廃材の加熱処理について更に説明すると、予熱装置で加熱されたセメント原料とともにロータリーキルンの窯尻からロータリーキルン内に投入された袋詰めされた廃材は、袋体が燃焼してロータリーキルン内に露出するとともに、廃材中の水分が蒸発する。一方、窯前方向から微粉炭を燃焼させてロータリーキルン内に送り込まれた熱風は、ロータリーキルンの窯尻側から排出され、集塵装置により熱風中の粉塵が集塵されるが、廃材を前記した条件に調整しておくことにより、集塵された粉塵中には石綿粉塵は含まれない。ロータリーキルンの外へと運び出された熱風の排気中に石綿粉塵が含まれていると、排気を集塵した粉塵に石綿粉塵が含有されるので、その処理に多大なコストと手間とを要することになり好ましくない。窯尻からロータリーキルン内に投入された廃材は、ロータリーキルン内を回転しながら窯尻側から窯前側へと移動し、セメント原料とともに混合され、1000〜1500℃で30〜60分間加熱処理され、石綿は非石綿化されるとともに、廃材を構成する成分がセメント原料とともに焼成されて焼結体となる。ロータリーキルン内の温度は、窯尻で1000℃程度であり、最高温度が1400〜1500℃であり、窯前が1200℃程度である。また、焼結体を得るためには、前記加熱処理の範囲内において、最高温度を1200℃以上とするとともに1200℃以上の温度で加熱される時間を15分以上とするのがよい。ロータリーキルン内は高温であるので、ロータリーキルン内で石綿粉塵が発生しても極めて短時間で非石綿化されるため、窯尻から廃材を投入した直後の石綿粉塵の発生を抑制することができれば、石綿粉塵がロータリーキルンからの排気中に含有されることはない。
【0019】
また、廃材の化学組成が、石灰分、珪酸分を主成分とし、副成分としてアルミナ分、マグネシア分および鉄分を含有し、各成分のモル比が、CaO/SiO=0.5〜3、Al/SiO=0〜2、MgO/SiO=0〜2、Fe/SiO=0〜2の範囲にあると、廃材中において石綿を固定しているマトリックスが加熱によって崩壊しずらいので、石綿が加熱によって非石綿化されるまでの間マトリックスに固定され、石綿粉塵の発生を防止するうえで、一層有効である。
【0020】
このようにして得られた焼結体は、通常のセメント製造の場合と同様、ロータリーキルンから取り出され、冷却機において冷却された後粉末化され、セメントとして再生される。なお、粉末化に先立ち、再生されたセメントの凝結時間調整を目的として石膏を添加することができることはいうまでもない。
【0021】
ところで、粉砕処理を伴う廃材の粒度調整は、石綿粉塵の飛散を防止するため、石綿対策が施された石綿含有廃材粉砕処理施設において行うことが好適である。一般のセメント製造工場にこのような施設を設けるためには、多大なコストを要することから、本発明においては、廃材を、最大寸法が200mm未満であり且つ粒径が1mm未満である微粉の含有比率が5%以下であるように粒度調整するとともに、その含水率を2〜20%に調整し、該廃材の乾燥状態における質量として5〜30kg/袋の範囲で袋詰めする工程(以下第1工程と記す)を、セメント製造工場とは別の、石綿含有廃材粉砕処理施設を備えた石綿含有廃材粉砕処理場において実施することができる。また、袋詰めされた廃材は、必要に応じて石綿含有廃材粉砕処理場内の保管場所に袋詰めされた状態で保管することができる。なお、ここでいう石綿対策が施された石綿含有廃材粉砕処理場とは、以下の要件を備え管理された施設を指す。
(1)大気汚染防止法(昭和四十三年法律第九十七号)第十八条の六に従い「特定粉じん発生施設」としての届け出を行い、かつ、同法第十八条の十二に義務づけられた敷地境界線濃度の測定記録を行って敷地境界基準を遵守していること。
(2)廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(昭和四十六年政令第三百号)第七条の一第八の二項に限定された「がれき類」の破砕施設として、当該施設の設置場所を管轄する自治体に設置許可された施設であること。
(3)特定化学物質等障害予防規則(昭和四十七年労働省令第三十九号)第五条第一項の規定に従い、同規則第七条の要件を備えた局所排気装置を設置した屋内作業場であること。
(4)特定化学物質等障害予防規則(昭和四十七年労働省令第三十九号)第二十七の規定に従い、特定化学物質等作業主任者を選任し、作業管理を行っていること。
【0022】
なお、第1工程の実施は、石綿含有廃材粉砕処理場に限定されるものではなく、例えば、石綿含有廃材粉砕処理施設を有し、且つ第1工程を実施する設備を有する移動車両を、廃材発生場所に派遣して実施してもよい。
【0023】
石綿含有廃材粉砕処理場において前記第1工程を実施した場合に、袋詰めされた廃材を石綿含有廃材粉砕処理場からセメント製造工場に輸送する工程が第2工程である。輸送にあたっては、石綿粉塵が発生しないようにしなければならならない。また、石綿粉塵対策のための特別な設備を備えることなく、セメント製造用キルンを用いて前記した廃材の処理を行うことができるようにしなければならない。このため第2工程で使用する輸送手段には、最大寸法が5μm以上の粉塵を外部に排出しない集塵設備を備えておくことが好適である。
【0024】
第2工程において使用する輸送手段としては、第1工程で袋詰めされた廃材を収納するための収納庫と、該収納庫内を集塵するとともにその外部に最大寸法が5μm以上の粉塵を排出しないするためのヘパフィルターを装着した集塵装置とを備えた車両をあげることができる。第1工程で袋詰めされた廃材は、ベルトコンベヤー等を介して輸送手段に備えられた収納庫に収納され、必要に応じてヘパフィルターを装着した集塵装置で集塵され、第3工程を施すためのセメント製造工場へ輸送される。なお、第2工程において、輸送手段に備えられたヘパフィルターを装着した集塵装置において集塵された粉塵は、第1工程に戻し、粉砕した廃材として取り扱うことができる。
【0025】
このようにしてセメント工場に輸送された廃材に対し、前記のとおり、該廃材とセメント原料との合計量に占める廃材の比率が、乾燥状態における質量比率で1〜20%の範囲となるよう調整し、該廃材を袋詰めしたままの状態でセメント原料とともにセメント製造用キルン内にキルンの窯尻から投入し、1000〜1500℃で30〜60分間加熱処理して焼結体を得、該焼結体を粉末化する工程(第3工程)が実施される。
【実施例】
【0026】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに説明する。
(実施例1)
石綿を含有する無機質系材料の廃材として、約25年前に倉庫の外壁として施工され、倉庫の建て替えに伴って廃材となった波形石綿スレートの廃材(当時のJIS−A−5403の大波板に該当)を用いた。
第1工程:該廃材を、粉砕装置として鬼歯クラッシャーを備えた石綿含有廃材粉砕処理場において、ベルトコンベヤーを介して鬼歯クラッシャーに送って粉砕し、目開きが200mmのふるい分け機で分級し、粒径が200mm以上のものは再度鬼歯クラッシャーに送って粉砕することを繰り返すことにより、最大寸法が200mm未満となるように粉砕した。粉砕された廃材に含まれる粒径が1mm未満の微粉の含有比率を、目開き1mmのふるい分け機を用いて測定したところ4%であった。粉砕した廃材にベルトコンベヤー上で散水し含水率を10%に調整して、厚さが0.2mmで材質がポリエステルからなる袋体に送り、廃材の乾燥質量として20kgとなるように袋詰めした。なお、鬼歯クラッシャーには集塵装置が設置されているので粉砕時の粉塵は集塵され、粉砕された廃材はベルトコンベヤー上で含水率を調整するため散水して袋詰めするので、袋詰めする際には石綿粉塵は発生しなかった。
第2工程:袋詰めされた廃材を、輸送手段として、収納庫と該収納庫内を集塵するためのヘパフィルターを装着した集塵装置とを備えたトラックに積み、セメント製造工場へ輸送した。なお、第2工程において、石綿粉塵が前記トラックの外部へ排出されることはなかった。
第3工程:セメント製造工場において、セメントの焼成能力が80トン/時のロータリーキルンを使用して第3工程を行った。セメント原料として石灰石、粘土、および銅カラミを使用し、乾燥状態としての質量比で廃材を10%、セメント原料を90%とした。袋詰めされた廃材は、予熱装置で加熱を受けたセメント原料とともに、稼働している長さ60mのロータリーキルンの窯尻から133kg/分の投入量にて連続してロータリーキルン内に投入された。ロータリーキルンの稼働条件は、温度が、窯尻で1000℃、最高温度1450℃、窯前で1300℃であり、窯尻から投入され窯前から焼結体として取り出されるまでの経過時間は45分であり、1200℃以上の加熱時間は30分であった。ロータリーキルンで加熱処理されて得られた焼結体はロータリーキルンから取り出され、冷却機において冷却された後、通常のセメントの粉砕過程により粉末化された。なお、粉砕に先だって、焼結体に対し、セメント原料に対する質量比率(外割)で3%の石膏を添加した。
得られた粉体について10サンプルを採取し、X線回折試験を実施したところ石綿の回折ピークは認められなかった。そこで、偏光顕微鏡を用いて観察を行ったが、繊維状物質は認められなかった。従って、石綿は非石綿化処理されていることが確認できた。また、ロータリーキルンに設置された集塵機で集塵された粉塵についてX線回折試験および偏光顕微鏡観察を実施した結果、石綿の回折ピークおよび石綿に該当する繊維状物質は認められなかった。次に、各サンプルについてJIS R 5201に基づいて、圧縮強さ試験(7日)を実施した結果、いずれのサンプルとも圧縮強さが22.5N/mmを上回っており、前記サンプル全てがJIS R 5210に規定された普通ポルトランドセメントに該当する性能を有していた。
【0027】
(実施例2)
実施例1において、鬼歯クラッシャーで粉砕した廃材をふるい分けする際のふるいの目開きを25mmとし、最大寸法が25mm未満となるように粉砕したところ、粒径が1mm未満の微粉の含有比率が10%となった。そこで、目開き1mmのふるいを用いて粉砕された廃材のふるい分けを行い、粒径が1mm未満の微粉の廃材について、乾燥状態における廃材とセメントと質量比率が4:1となるようにセメントを添加し、両者の合計質量に対して水を外割で30%添加し、粒径が約10mmとなるように造粒して固化処理した。固化した廃材を、前記ふるい分けにより最大寸法が25mm未満で且つ最小寸法が1mm以上に粒度調整された廃材とともに、含水率を10%に調整して厚さが0.2mmで材質がポリエステルの袋体に送り、乾燥質量として30kgとなるように袋詰めした。この袋詰めされた廃材に対し、実施例1と同一の条件にて第2工程および第3工程を実施した。ロータリーキルンで加熱処理されて得られた焼結体はロータリーキルンから取り出され、冷却機において冷却された後粉末化された。なお、粉砕に先だって、焼結体に対し、セメント原料に対する質量比率(外割)で3%の石膏を添加した。得られた粉体について10サンプルを採取し、X線回折試験を実施したところ石綿の回折ピークは認められず、偏光顕微鏡を用いた観察でも繊維状物質は認められなかった。また、ロータリーキルンに設置された集塵機で集塵された粉塵についてX線回折試験および偏光顕微鏡観察を実施した結果、石綿の回折ピークおよび石綿に該当する繊維状物質は認められなかった。次に、各サンプルについてJIS R 5201に基づいて圧縮強さ試験(7日)を実施した結果、いずれのサンプルとも圧縮強さが22.5N/mmを上回っており、前記サンプル全てが普通ポルトランドセメントに該当する性能を有していた。更に、ロータリーキルンに設置された集塵機で集塵された粉塵についてX線回折試験および偏光顕微鏡観察を実施した結果、石綿の回折ピークおよび石綿に該当する繊維状物質は認められなかった。
【0028】
(比較例1)
第1工程において、粉砕した波形石綿スレートの廃材中に、最大寸法が200mm以上のものが10質量%含まれていたこと以外は、実施例1と同一とした。第3工程を終了しロータリーキルンから取り出された焼結体は、冷却機において冷却された後粉末化された。この粉体について10サンプルを採取し、X線回折試験を実施したところ、いずれのサンプルとも石綿の回折ピークは認められなかったが、偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、10サンプル中2サンプルに微量の石綿が認められた。従って、廃材中の石綿を完全に非石綿化することはできなかった。
【0029】
(比較例2)
第1工程において、粉砕した波形石綿スレートの廃材に含まれる粒径1mm未満の微粉の含有比率を8%としたこと以外は、実施例1と同一とした。得られた粉体について10サンプルを採取し、X線回折試験を実施したところ石綿の回折ピークは認められず、偏光顕微鏡を用いた観察でも繊維状物質は認められなかった。しかし、第3工程において集塵機で集塵された熱風の排気中の粉塵について石綿粉塵の有無を検査したところ、X線回折試験では石綿の回折ピークは認められなかったが、偏光顕微鏡を用いた観察において微量の石綿が認められた。
【0030】
(比較例3)
第1工程において、粉砕した廃材の含水率を1%として袋詰めしたこと以外は、実施例1と同一とした。得られた粉体について10サンプルを採取し、X線回折試験を実施したところ石綿の回折ピークは認められず、偏光顕微鏡を用いた観察でも繊維状物質は認められなかった。しかし、第3工程において、ロータリーキルンの集塵機で集塵された熱風の排気中の粉塵について石綿粉塵の有無を検査したところ、X線回折試験では石綿の回折ピークは認められなかったが、偏光顕微鏡を用いた観察において微量の石綿が認められた。
【0031】
(比較例4)
第1工程において、粉砕した廃材の含水率を25%に調整して袋詰めしたこと以外は、実施例1と同一とした。得られた粉体について10サンプルを採取し、X線回折試験を実施したところ石綿の回折ピークは認められず、偏光顕微鏡を用いた観察でも繊維状物質は認められなかった。しかし、第3工程において、ロータリーキルンの集塵機で集塵された粉塵について石綿粉塵の有無を検査したところ、X線回折試験では石綿の回折ピークは認められなかったが、偏光顕微鏡を用いた観察において微量の石綿が認められた。
【0032】
(比較例5)
第3工程において、ロータリーキルンに投入する廃材とセメント原料との比率を、乾燥状態としての質量比で廃材を25%、セメント原料を75%としたこと以外は、実施例1と同一とした。第3工程を終了して得られた粉体について10サンプルを採取し、JISR 5201に基づいて圧縮強さ試験(7日)を実施した結果、9サンプルは22.5N/mmを上回っており普通ポルトランドセメントに該当する性能を示したが、1サンプルは20.8N/mmであり、普通ポルトランドセメントには該当せず、セメントとしての品質のバラツキが大きかった。なお、得られた粉体およびロータリーキルンの集塵機で集塵された熱風の排気中の粉塵について、X線回折試験および偏光顕微鏡観察を実施した結果、石綿の回折ピークおよび石綿に該当する繊維状物質は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明になる処理方法によれば、石綿を含有する無機質系材料の廃材を、一般のセメント工場におけるセメント製造用キルンを用いて加熱することにより、石綿を非石綿化するとともにセメントに変換して再利用するための処理を、セメント製造用キルンからの排気中に石綿粉塵が混入することなく行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石綿を含有する無機質系材料の廃材を、セメント原料とともにセメント製造用キルン内に投入して加熱処理することにより、該廃材中の石綿を非石綿化するとともにセメントに変換してなる石綿を含有する無機質系材料の廃材の処理方法において、該廃材を、最大寸法が200mm未満であり且つ粒径が1mm未満である微粉の含有比率が5%以下であるように粒度調整するとともに、その含水率を2〜20%に調整し、該廃材の乾燥状態における質量として5〜30kg/袋の範囲で袋詰めし、袋詰めされた該廃材を、該廃材とセメント原料との合計量に占める廃材の比率が、乾燥状態における質量比率で1〜20%の範囲となるよう調整し、該廃材を袋詰めしたままの状態でセメント原料とともにセメント製造用キルン内にキルンの窯尻から投入し、1000〜1500℃で30〜60分間加熱処理して焼結体を得、該焼結体を粉末化することを特徴とする石綿を含有する無機質系廃材の処理方法。
【請求項2】
石綿を含有する無機質系材料の廃材を、セメント原料とともにセメント製造用キルン内に投入して加熱処理することにより、該廃材中の石綿を非石綿化するとともにセメントに変換してなる石綿を含有する無機質系材料の廃材の処理方法において、
該廃材を、石綿含有廃材粉砕処理施設において、最大寸法が200mm未満であり且つ粒径が1mm未満である微粉の含有比率が5%以下であるように粒度調整するとともに、その含水率を2〜20%に調整し、該廃材の乾燥状態における質量として5〜30kg/袋の範囲で袋詰めする第1工程と、
袋詰めされた該廃材を、最大寸法が5μm以上の粉塵を外部に排出しない集塵設備を備えた輸送手段を用いてセメント製造工場へ搬送する第2工程と、
セメント製造工場において、該廃材とセメント原料との合計量に占める廃材の比率が、乾燥状態における質量比率で1〜20%の範囲となるよう調整し、該廃材を袋詰めしたままの状態でセメント原料とともにセメント製造用キルン内にキルンの窯尻から投入し、1000〜1500℃で30〜60分間加熱処理して焼結体を得、該焼結体を粉末化する第3工程と、
からなることを特徴とする石綿を含有する無機質系廃材の処理方法。
【請求項3】
最大寸法が200mm未満であり且つ粒径が1mm未満である微粉の含有比率が5%以下であるように粒度調整された石綿を含有する無機質系材料の廃材が、粒径が1mm未満である微粉の含有比率が5%を上回る石綿を含有する無機質系材料の廃材を、無機質バインダーを用いて固化処理してなるものであることを特徴とする請求項1乃至2に記載の石綿を含有する無機質系廃材の処理方法。

【公開番号】特開2006−43672(P2006−43672A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−253546(P2004−253546)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000126609)株式会社エーアンドエーマテリアル (99)
【Fターム(参考)】