説明

石綿発塵量の測定方法および装置

【課題】石綿含有物を対象としてその表面からの石綿発塵量を直接的に測定する。
【解決手段】測定対象物1としての石綿含有物の表面の特定部位からの石綿発塵量を測定するべく、測定対象部位の周囲をカバー2により気密裡に覆い、カバー内への送気により測定対象部位に対して所定流量の空気流を所定流速で吹き付けることによって石綿を強制的に発塵させ、カバー内に飛散した石綿粉塵をカバー内からの吸気により吸引してメンブレンフィルター4aにより捕集してその捕集量を測定し、カバー内への送気量またはカバー内からの吸気量を基準として石綿発塵量を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石綿含有物を対象としてその表面からの石綿発塵量を測定するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、石綿(アスベスト)は優れた物性を備えていることから過去には建材をはじめとして各方面で幅広く利用されてきたが、近年、その粉塵が重大な健康被害をもたらすことが明らかになり、大きな社会問題となっている。
石綿粉塵対策を講じるうえでは環境大気中の石綿粉塵濃度を把握することが不可欠であり、そのため、環境大気中のアスベスト濃度を測定するための技術的指針として「アスベストモニタリングマニュアル」が策定されている(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】「アスベストモニタリングマニュアル(改訂版)」、環境庁大気保全局大気規制課、平成5年12月、p.1−6
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記マニュアルに規定されている石綿粉塵濃度の測定手法は、測定対象地点において大気を長時間にわたって連続的にサンプリングして捕集用ろ紙(メンブランフィルター)に通すことによって大気中の石綿粉塵量を測定することを基本とするものである。
しかし、そのような測定手法では測定対象地点付近の大気中の平均的な濃度は測定できるものの、たとえば特定の建材からの発塵量を直接的に測定したり、あるいは発塵箇所を特定するようなことはできるものではない。
したがって、上記のような測定手法のみでは必ずしも充分ではなく、より高度の対策を講じるうえでは、単に環境大気中の平均的な濃度測定のみならず、特定の部材からの石綿発塵量を直接的に測定したり、さらには石綿発塵の可能性やそれに至るような建材の劣化の程度をも把握し得るような測定手法の確立が必要ともされている。
【0004】
上記事情に鑑み、本発明は石綿含有物を対象としてその表面からの石綿発塵量を直接的に測定し得る有効適切な測定方法と、そのための有効適切な測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の測定方法は石綿含有物を対象としてその表面の特定部位からの石綿発塵量を測定するための方法であって、測定対象部位の周囲をカバーにより気密裡に覆い、カバー内への送気により測定対象部位に対して所定流量の空気流を所定流速で吹き付けることによって石綿を強制的に発塵させ、カバー内に飛散した石綿粉塵をカバー内からの吸気により吸引してメンブレンフィルターにより捕集してその捕集量を測定することにより、カバー内への送気量またはカバー内からの吸気量を基準として石綿発塵量を測定することを特徴とする。
【0006】
本発明の測定装置は上記測定方法を実施するための装置であって、測定対象部位の周囲を気密裡に覆うカバーと、カバー内の測定対象部位に対して所定流量の空気流を所定流速で吹き付けることによって石綿を強制的に発塵させる送気機構と、該送気機構により発塵させてカバー内に飛散させた石綿粉塵をカバー内の空気とともに吸引してメンブレンフィルターにより捕集する吸気機構と、前記送気機構によるカバー内への送気量または前記吸気機構によるカバー内からの吸気量のいずれか一方もしくは双方を計測する空気流量計とを具備してなることを特徴とする。
【0007】
本発明の測定装置においては、カバーを半球状のカップ形状としてその開口周縁部を食い込み部として測定対象物の表面に所定寸法食い込み可能とし、かつカバーには食い込み部を気密裡に封止しかつ食い込み量を規制するストッパーを設けることが好ましい、
また、吸気機構と送気機構とを、吸気機構より吸気して送気機構に送気する送吸両用のポンプを介して接続して、吸気機構、ポンプ、送気機構、カバーとにより空気流の閉鎖循環系を構成することが好ましい。
さらに、送気機構にはポンプからの送気を系外に排気するための切替弁と、その切替弁により系外に排気した空気中の石綿粉塵を捕集する排気処理フィルターを設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の測定方法によれば、吹き付け空気流によって強制的に発塵させる際の石綿発塵量を、送気量や吸気量と関連づけて直接的にしかも定量的に求めることができる。したがって、各部位で同様の測定を同一条件で行うことによって各部位からの石綿発塵量を定量的に比較することが可能であり、各部位の劣化の有無や程度も推定し把握することができ、その結果を石綿含有物を解体したり補修するに際して有効に活用することが可能である。
【0009】
特に、本発明は測定対象部位をカバーにより気密裡に覆って測定を行うものであるし、そのカバーには測定対象物への食い込み部と食い込み部を封止するストッパーを設けることにより確実な気密保持が可能であり、測定の際に強制的に発塵させた石綿粉塵が不用意に周囲に飛散してしまう恐れもなく安全な測定を行うことが可能である。
さらに、測定を閉鎖循環系内で行うことにより、より万全の飛散防止が可能であるし、測定装置に排気処理手段も備えることにより測定終了後に系内に残る微量な石綿粉塵をも確実かつ安全に回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明の実施形態である測定装置の概略構成図である。これは、各種の石綿含有物、たとえば図示例のように表面に石綿による耐火被覆がなされている鉄骨梁等の構造部材を測定対象物1として、その表面の特定部位からの石綿の発塵量を直接的に測定するためのもので、測定対象部位の周囲を気密裡に覆うカバー2と、カバー2内に空気を送り込む送気機構3と、カバー2内から空気を吸引する吸気機構4と、それら送気機構3と吸気機構4を接続して全体として空気の閉鎖循環系を構成するポンプ5と、送気機構3および吸気機構4にそれぞれ組み込まれた空気流量計6(6a、6b)と、送気機構3に組み込まれた排気処理機構7を具備してなるものである。
【0011】
本実施形態におけるカバー2は半球状のカップ形状のものであって、その素材は適宜であるが、たとえば塩ビ材やアクリル材あるいは金属製のものが好適に採用可能である。カバー2の大きさはたとえば直径10cm程度とされ、円形の開口部の周縁部は測定対象物1の表面の石綿層に所定寸法(たとえば3mm程度)食い込むような食い込み部2aとして鋭利に形成されており、その近傍の内外には食い込み寸法が過大とならないように規制するとともに食い込み部を気密裡に封止するストッパー2bが設けられている。これにより、カバー2を測定対象物1の周囲にあてがって押し付けると、食い込み部2aがその表層部に食い込むとともにストッパー2bによってそこでの気密性能が保持され、測定対象部位が自ずと気密裡に覆われるようになっている。
なお、図1では高さ調整用のアジャスター8a付きの三脚からなるスタンド8を用いて、カバー2を床面から支持して測定対象物1の下面に押し当てた状態で装着しているが、測定対象部位の位置や向きに応じてカバー2の装着の形態は適宜変更すれば良い。
【0012】
送気機構3は、カバー2を貫通しているノズル管3aと、ノズル管3aに接続された送気チューブ3bからなり、送気チューブ3bの途中に送気側の空気流量計6aが設置されている。
ノズル管3aとしてはたとえば内径3mm程度のステンレス管が好適に採用可能であり、その先端が測定対象部位に臨んでその近傍から所定流量の空気流を所定流速で吹き付けることができるものとされ、そのような吹き付け空気流によって測定対象部位の表面の石綿を強制的に吹き飛ばしてカバー2内において微量の発塵を生じさせることができるものとされている。
ノズル管3aからの吹き付け空気流の流速は適宜設定すれば良いが、ノズル管3aの内径が3mmの場合にはたとえば5m/s程度とすることが良く、その場合の送気量は理論的には2.1195L/minとなり、後述するようにその送気量が測定基準となる。
送気チューブ3bはたとえば内径8mmの柔軟な素材のものが好適に採用可能であり、ノズル管3aに対して適宜の異形継手3cを介して接続すれば良い。
空気流量計6aとしては汎用のニードルバルブ付きのものが好適に採用可能である。
【0013】
吸気機構4は、基端にメンブレンフィルター4aが設けられ先端がカバー2に接続されている捕集管4bと、捕集管4bに接続された吸気チューブ4cからなり、吸気チューブ4cの途中に吸気側の空気流量計6bが設置されている。
捕集管4bとしてはたとえば内径40mm程度のアクリルパイプ材が好適に採用可能であり、その基端にはたとえば直径47mmのメンブレンフィルター4aがホルダーにより着脱自在に装着されているものである。吸気チューブ4cおよび吸気側の空気流量計6bは送気チューブ3bおよび送気側の空気流量計6aと同様のもので良い。
【0014】
そして、上記の送気機構3と吸気機構4とは、それらの送気チューブ3bと吸気チューブ4cとが送吸両用のポンプ5にそれぞれ接続されることでそのポンプ5を介して相互に接続されており、したがって本実施形態の測定装置は、吸気機構4、ポンプ5、送気機構3、カバー2の全体で図中矢印のように空気を循環させる一連の閉鎖循環系を構成するものとされている。
【0015】
なお、送気チューブ3bの途中には測定終了後の排気処理のための排気処理手段7も組み込まれている。その排気処理手段7は、空気の循環経路を系外に切り替えるための切替弁7aとしての三方弁と、その切替弁7aを通して系外に送られる排気中の石綿を捕集するためのHEPAフィルター等の排気処理フィルター7bから構成されている。
【0016】
上記構成の測定装置による測定方法は、測定対象部位にカバー2を装着してその周囲をカバー2により気密裡に覆い、ポンプ5を運転して送気機構3に対して送気を行ってノズル管3aから所定流量の空気を所定流速で測定対象部位に吹き付け、同時に吸気機構4によってカバー2内からの吸気を行うことによって、上述したような閉鎖循環系内における循環空気流を生じさせる。
これにより、測定対象部位に吹き付けられた空気量によってその表層部の石綿が吹き飛ばされて微量な発塵が生じ、その石綿粉塵がカバー2内において飛散し、飛散した石綿粉塵はカバー2内から吸気機構4によって捕集管4bに吸い込まれてメンブレンフィルター4aに捕集されるから、所定時間の運転の後、運転を停止してメンブレンフィルター4aを取り出し、それを分析して捕集量(すなわち強制的に発塵させた石綿粉塵量)を測定する。
また、運転時間中の送気量と吸気量をそれぞれ空気流量計6a、6bにより測定する(全体が閉鎖循環系であるので、空気流の漏れがなければ双方の計測値は自ずと一致する)。
【0017】
以上により、吹き付け空気流によって測定対象部位から強制的に発塵させた際の石綿発塵量を、送気量(=吸気量、つまり循環空気量)と関連づけて直接的にしかも定量的に求めることができる。したがって、各部位で同様の測定を同一条件で行うことにより、各部位からの石綿発塵量を定量的に比較することも可能であり、そのことから各部位からの発塵量の多寡を定量的に把握でき、各部位の劣化の有無や程度も推定することができ、その測定結果を石綿含有物に対する解体や補修に際して有効に活用することが可能である。
【0018】
しかも、上記の測定は完全なる閉鎖循環系内で行うことができるので、測定の際に強制的に発塵させた石綿粉塵が不用意に周囲に飛散してしまう恐れはなく安全な測定を行うことが可能である。
さらに、本実施形態の測定装置には排気処理手段7も備えているので、測定終了後には切替弁7aを切り替えて図中の破線矢印のように循環空気を排気処理フィルター7bに導き、そこで石綿粉塵を捕集してから大気中に排気することにより、測定終了後に系内に残る微量な石綿粉塵をも確実かつ安全に回収することができる。
【0019】
以上で本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものでは勿論なく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、すなわち吹き出し空気流によって微量の発塵を強制的に生じさせてその発塵量を測定するように構成する限りにおいて、たとえば以下に列挙するような様々な設計的変更や応用が可能である。
【0020】
上記実施形態では1台の送吸両用のポンプ5を使用して測定装置全体により閉鎖循環系を構成するものとしたが、充分なる排気処理機構を併用して測定に際して発生する石綿粉塵の飛散を有効に防止できるような場合には必ずしも閉鎖循環系に限定すべきものでもなく、たとえば送気機構3と吸気機構4の双方に独立にポンプを設けて(つまり、送気機構3には送気ポンプを設け、吸気機構4には吸気ポンプを設け)、双方のポンプを同期させて運転することによって、送気機構3により大気を吸気してノズル管3aに送気し、吸気機構4によるカバー2からの吸気を処理してから大気に排気するように構成することでも良い。
【0021】
上記実施形態では送気機構3と吸気機構4の双方に空気流量計6a、6bを設けたので、閉鎖循環系の健全性の検証や測定精度の確認を行ううえでは有利であるが、健全なる閉鎖循環系が保証される場合には循環空気量を系内のいずれか1箇所で測定することで充分であるので、その場合は1台の空気流量計6を設置することで足りる。
【0022】
測定対象部位に装着するカバー2の形状や大きさは、食い込み部2aやストッパー2bの有無も含めて、測定対象物や測定対象部位に応じて様々に変形可能すれば良いことはいうまでもなく、様々な規格のカバー2を予め用意しておいて適宜使い分けることも考えられる。
【0023】
上記実施形態のように構造部材に耐火被覆として吹き付けられている石綿を対象とするような場合には、上記で例示したように、内径3mmのノズル管3aを用いて5m/sの流速で吹き付けることが好適であると考えられるが、ノズル管3aの口径やそこからの吹き出し流速の設定は、測定対象物の材質や用途、測定目的、その他の諸条件を考慮して任意に設定すれば良く、特に吹き出し流速についてはたとえば0.5m/s程度の微風速から15m/s程度の強風速までの範囲で自由に設定することができる。いずれにしてもノズル管3aの内径と吹き出し流速を決定すれば理論的には単位時間当たりの送気量は自ずと決定され、あとは測定時間を決定すれば自ずと測定中の総送気量(閉鎖循環系ではそれがそのまま総吸気量となる)が決定されるから、ノズル径と吹き出し流速を固定すれば送気量や吸気量を直接的に測定せずとも測定時間のみをパラメーターとして測定を行うこともできることになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態である測定装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0025】
1 測定対象物
2 カバー
2a 食い込み部
2b ストッパー
3 送気機構
3a ノズル管
3b 送気チューブ
3c 異形継手
4 吸気機構
4a メンブレンフィルター
4b 捕集管
4c 送気チューブ
5 ポンプ
6(6a、6b) 空気流量計
7 排気処理手段
7a 切替弁
7b 排気処理フィルター
8 スタンド
8a アジャスター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石綿含有物を対象としてその表面の特定部位からの石綿発塵量を測定するための方法であって、
測定対象部位の周囲をカバーにより気密裡に覆い、
カバー内への送気により測定対象部位に対して所定流量の空気流を所定流速で吹き付けることによって石綿を強制的に発塵させ、
カバー内に飛散した石綿粉塵をカバー内からの吸気により吸引してメンブレンフィルターにより捕集してその捕集量を測定することにより、
カバー内への送気量またはカバー内からの吸気量を基準として石綿発塵量を測定することを特徴とする石綿発塵量の測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の石綿発塵量の測定方法を実施するための装置であって、
測定対象部位の周囲を気密裡に覆うカバーと、
カバー内の測定対象部位に対して所定流量の空気流を所定流速で吹き付けることによって石綿を強制的に発塵させる送気機構と、
該送気機構により発塵させてカバー内に飛散させた石綿粉塵をカバー内の空気とともに吸引してメンブレンフィルターにより捕集する吸気機構と、
前記送気機構によるカバー内への送気量または前記吸気機構によるカバー内からの吸気量のいずれか一方もしくは双方を計測する空気流量計とを具備してなることを特徴とする石綿発塵量の測定装置。
【請求項3】
請求項2記載の石綿発塵量の測定装置であって、
カバーを半球状のカップ形状としてその開口周縁部を食い込み部として測定対象物の表面に所定寸法食い込み可能とし、かつカバーには食い込み部を気密裡に封止しかつ食い込み量を規制するストッパーを設けてなることを特徴とする石綿発塵量の測定装置。
【請求項4】
請求項2または3記載の石綿発塵量の測定装置であって、
吸気機構と送気機構とを、吸気機構より吸気して送気機構に送気する送吸両用のポンプを介して接続して、吸気機構、ポンプ、送気機構、カバーとにより空気流の閉鎖循環系を構成してなることを特徴とする石綿発塵量の測定装置。
【請求項5】
請求項4記載の石綿発塵量の測定装置であって、
送気機構にはポンプからの送気を系外に排気するための切替弁と、その切替弁により系外に排気した空気中の石綿粉塵を捕集する排気処理フィルターを設けてなることを特徴とする石綿発塵量の測定装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−8751(P2008−8751A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179468(P2006−179468)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】