研削方法および研削装置
【課題】研削割れの発生を防止できるとともに、生産性を向上できる研削方法を提供する。
【解決手段】温度A2および温度A3を設定する設定工程と、研削点Pの温度を測定する測定工程と、研削点Pの測定温度が温度A2および温度A3により定まる温度の範囲内である場合、研削点Pの温度を低下させるように研削条件を再設定する調整工程と、を含み、温度A2は、測定工程および調整工程に要する時間、および研削前に予め設定される砥石20によるワークWへの切込量に基づいて、ワークWに引っ張り残留応力が発生するまでに研削点Pの温度を低下可能な温度に設定され、温度A3は、温度A2よりも低い温度に設定される。
【解決手段】温度A2および温度A3を設定する設定工程と、研削点Pの温度を測定する測定工程と、研削点Pの測定温度が温度A2および温度A3により定まる温度の範囲内である場合、研削点Pの温度を低下させるように研削条件を再設定する調整工程と、を含み、温度A2は、測定工程および調整工程に要する時間、および研削前に予め設定される砥石20によるワークWへの切込量に基づいて、ワークWに引っ張り残留応力が発生するまでに研削点Pの温度を低下可能な温度に設定され、温度A3は、温度A2よりも低い温度に設定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに回動する砥石の表面およびワークの加工面を接触させてワークを研削する研削方法および研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、研削加工では、互いに回動する砥石の表面およびワークの加工面を接触させ、ワークの加工面を削ってワークを所定の形状に成形している。このような研削を行う研削装置は、NCプログラム等で予め設定された切込量だけワークの研削を繰り返す。
【0003】
このような研削装置では、砥石とワークとの接触点(研削点)の温度が上昇しても決められた動作を継続してしまう。
従って、焼入れ等の熱処理が行われたワークを研削する場合、想定した以上にワーク形状がバラついたときに、ワークが部分的に再加熱されて、ワークが部分的に割れる可能性がある。つまり、研削割れが発生する可能性がある。
【0004】
例えば、図13に示すように、想定した以上にワークが部分的に突出した場合には、当該突出部分での研削量が多くなってしまう。このような場合には、砥石をワークに接近させるエアカットを行う段階で前記突出部分を研削してしまう。つまり、研削を行う前の段階で研削が行われ、さらに本来の研削が行われるため、研削時の発熱量が多くなり、研削点の温度が上昇し、研削割れが発生する可能性がある。
【0005】
また、研削割れの発生を防止するために、切込量を小さな値に設定するとともに、前記エアカットで砥石をワークに接近させる距離を遠くすることが考えられる。つまり、ワーク形状のバラツキを予め大きく想定して研削を行うことが考えられるが、この場合、砥石の空転時間および実際の研削時間が長くなり、生産性が低下してしまう。
【0006】
つまり、研削割れの発生を防止するとともに生産性の低下を防止するためには、研削点の温度を測定する必要がある。
【0007】
特許文献1に開示される研削装置では、ワーク(工作物)に接触するフィンガーに二つの熱電対線を接続し、研削時にワーク表面(フィンガーとワークとの接触点)の温度が上昇することで発生する電圧に基づいて、ワーク表面の温度を測定する。
【0008】
このような研削装置にて測定される温度は、ワーク表面の温度であり、研削点の温度ではない。より詳細には、ワーク表面の温度は研削点の温度よりも低い。また、フィンガーをワークに接触させて温度を測定する構成では、研削点にフィンガーを接触できない。従って、研削点の温度を正確に測定することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−246632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、研削割れの発生を防止できるとともに、生産性を向上できる研削方法および研削装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1においては、互いに回動する砥石の表面およびワークの加工面を接触させて前記ワークを研削する研削方法であって、第一温度および第二温度を設定する設定工程と、研削点の温度を測定する測定工程と、前記研削点の測定温度が前記第一温度および前記第二温度により定まる温度の範囲内である場合、前記研削点の温度を低下させるように研削条件を再設定する調整工程と、を含み、前記第一温度は、前記測定工程および前記調整工程に要する時間に基づいて、前記ワークに引っ張り残留応力が発生するまでに前記研削点の温度を低下可能な温度に設定され、前記第二温度は、前記第一温度よりも低い温度に設定される、ものである。
【0012】
請求項2においては、前記測定工程では、前記ワークに接続されるとともに前記ワークに対応する第一金属線と、一端部が前記砥石の表面より露出した状態で前記砥石の回動と一体的に回動するとともに前記第一金属線に対応し、研削時に前記ワークの加工面と接触する第二金属線と、を用い、前記第二金属線の一端部が前記ワークの加工面に接触したとき、前記各金属線および前記ワークによって構成される電気回路の電圧値に基づいて、前記研削点の温度を測定する、ものである。
【0013】
請求項3においては、前記調整工程では、前記砥石による前記ワークへの切込量を削減する、ものである。
【0014】
請求項4においては、互いに回動する砥石の表面およびワークの加工面を接触させて前記ワークを研削する研削装置であって、前記砥石および前記ワークの研削点の温度を測定する測定手段と、前記測定手段と接続され、前記研削点の温度の測定結果に基づいて、前記研削点の温度を低下させるように研削条件を再設定する調整手段と、を具備し、前記調整手段は、前記研削点の温度測定に要する時間および前記研削点の温度低下に要する時間に基づいて、前記ワークに引っ張り残留応力が発生するまでに前記研削点の温度を低下可能な第一温度と、前記第一温度よりも低い温度である第二温度と、を設定し、前記研削点の測定温度が前記第一温度および前記第二温度により定まる温度の範囲内である場合、前記研削点の温度を低下させる、ものである。
【0015】
請求項5においては、前記測定手段は、前記ワークに接続されるとともに前記ワークに対応する第一金属線と、一端部が前記砥石の表面より露出した状態で前記砥石の回動と一体的に回動するとともに前記第一金属線に対応し、研削時に前記ワークの加工面と接触する第二金属線と、を備え、前記調整手段は、前記第二金属線の一端部が前記ワークの加工面に接触したとき、前記各金属線および前記ワークによって構成される電気回路の電圧値に基づいて、前記研削点の温度を測定する、ものである。
【0016】
請求項6においては、前記研削条件を再設定は、前記砥石による前記ワークへの切込量を削減することである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、研削点の温度に応じて切込量を最適に設定できるため、研削割れの発生を防止できるとともに、生産性を向上できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】研削装置を示す説明図。
【図2】同じく側面図。
【図3】ワークを研削する状態を示す側面図。
【図4】研削点の温度測定を開始する状態を示す側面図。
【図5】ワークの残留応力と研削点の温度との相関を示す図。
【図6】研削方法を示すフロー図。
【図7】研削点の温度測定が終了した状態を示す側面図。
【図8】切込量を削減した状態を示す側面図。
【図9】温度設定の別実施形態を示す図。
【図10】研削装置の別実施形態を示す側面図。
【図11】残留応力とモータの電流値との相関を示す図。
【図12】研削方法の別実施形態を示すフロー図。
【図13】ワーク形状のバラツキを示すワークの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本実施形態の研削装置10の構成について説明する。
【0020】
図1に示すように、研削装置10は、ワークWの加工面W1を削ってワークWを所定の形状に成形するものである。
【0021】
本実施形態のワークWは、熱処理(焼入れおよび焼き戻し)が行われた後で、研削装置10により研削加工が行われる。実施形態においては、説明の便宜上、鉄によって構成される略円柱形状のものとするが、これに限定されるものでなく、例えば、クランクシャフトやカム等であっても構わない。
【0022】
図1および図2に示すように、研削装置10は、砥石20、測定機構40、治具30、および制御機構50等を具備する。
【0023】
砥石20は、ダイヤモンド等からなる砥粒を粘結材で固めることで、略円盤状に形成される。砥石20は、モータの回転軸と連結される主軸21に回動可能に支持されて、前記モータの駆動によって一定の回転数R1で回動する。
また、砥石20は、ワークWに対して近接離間可能な砥石台に支持され、前記砥石台の移動によってワークWに対して近接離間する(図2に示す矢印M参照)。
【0024】
治具30は、ワークWを所定の姿勢で支持するとともに、砥石20の回転方向と同じ方向にワークWを回動させる。このとき、治具30は、ワークWを一定の回転数R2で回動させる。治具30は、ワークWと同じ金属部材、すなわち、本実施形態では鉄によって構成される。
【0025】
本実施形態の研削装置10では、砥石20およびワークWを互いに回動させた状態で、砥石20をワークWの近傍まで接近させる(エアカットを行う)。そして、図3に示すように、砥石20の表面20aをワークWの加工面W1に接触させ、前記研粒にてワークWの加工面W1を削って、ワークWを研削する。
この場合、どの程度砥石20をワークWに接触させるかで、砥石20によるワークWへの切込量(以下、単に「切込量」と表記する)が決まる。
【0026】
以下では、砥石20の表面20aとワークWの加工面W1とが接触する部分を「研削点P」と表記する。研削点Pでは、研削時にその温度が大きく上昇し、その上昇度合いは、切込量に応じて変動する。より詳細には、切込量が多くなるにつれて、温度の上昇度合いが大きくなる。
【0027】
なお、ワークWを研削するための構成はこれに限定されるものでなく、例えば、治具30を砥石20に対して近接離間可能に構成し、ワークWを砥石20に接近させるような構成であっても構わない。
【0028】
測定手段としての測定機構40は、研削点Pの温度を測定するものである。測定機構40は、鉄線41、コンスタンタン線42、および電圧計43を備える。
【0029】
鉄線41は、その一端部41aが治具30と接触する。つまり、鉄線41は、治具30を介してワークWに接続される。また、鉄線41の他端部は、電圧計43の+端子に接続される。
【0030】
なお、鉄線41は、ワークWを構成する金属部材に対応している。例えば、ワークWが銅で構成される場合、鉄線41に代えて銅線が用いられる。この場合、治具30も銅によって構成される。
このように、第一金属線としての鉄線41は、ワークWに対応する金属部材である鉄で構成される。
【0031】
図1に示すように、コンスタンタン線42の一端部42aは、砥石20の表面20aより露出する。また、図3および図4に示すように、前記露出した状態で砥石20の回動と一体的に回動する。つまり、コンスタンタン線42の一端部42aは、砥石20より突出する、または砥石20内に収容されることもなく、砥石20の表面20aと同じ面に位置する。従って、研削時に砥石20の表面20aと同じようにワークWの加工面W1と接触する。
コンスタンタン線42の他端部は、電圧計43の−端子に接続される。
【0032】
図1に示すように、コンスタンタン線42は、その中途部が主軸21の内側を通って砥石20まで連通する。また、コンスタンタン線42の中途部は、砥石20が回動するときにかかる負荷で断線しないように、所定の部材によって支持された状態で、砥石20および主軸21の内側に配設される。このようなコンスタンタン線42には、極細のコンスタンタン線が用いられる。
【0033】
ここで、治具30およびワークWは、前述のように鉄によって構成される。このため、図4に示すように、コンスタンタン線42の一端部42aがワークWの加工面W1に接触したとき、各線41・42と治具30とワークWとにより電気回路Eが構成される。
【0034】
このとき、研削点Pと各線41・42の他端部(電圧計43に接続される側の端部)との間に温度差が生じている場合、電気回路Eに電圧が発生し、電気回路Eに電流が流れる(図4に示す電流i参照)。つまり、熱電対として機能する。
【0035】
コンスタンタン線42は、このような熱電対として機能するように、鉄線41に対応している。例えば、前述のようにワークWを銅で構成する場合、前記銅線に対応する金属線が用いられる。
このように、第二金属線としてのコンスタンタン線42は、鉄線41に対応する金属部材であるコンスタンタンで構成される。
【0036】
電圧計43は、電気回路Eに発生する電圧値を測定する。電圧計43は、制御機構50と電気的に接続され、測定結果を制御機構50に送信する(図4に示す電圧値V参照)。
【0037】
調整手段としての制御機構50は、通信機能や演算機能を有し、電圧計43で測定される電気回路Eの電圧値に基づいて、所定の演算処理を行って、研削点Pの温度を算出(測定)する。
また、制御機構50は、砥石台と電気的に接続され、砥石台に信号を送信することで、砥石20を移動可能に構成される(図2に示す信号S参照)。このような制御機構50は、例えば、市販のパーソナルコンピュータ等によって構成される。
【0038】
研削装置10は、制御機構50に記憶されるワークWを研削するための専用のプログラム(例えば、NCプログラム)を実行することで研削を行う。
【0039】
研削時には、コンスタンタン線42の一端部42aがワークWと接触し、そのときの研削点Pの温度に応じた電圧が発生する。つまり、研削装置10では、砥石20が一回転する度に、測定機構40によって研削点Pの温度を測定する。
【0040】
ワークWの加工面W1と接触したコンスタンタン線42の一端部42aは、砥石20の表面20aとともに摩滅していく。従って、コンスタンタン線42の一端部42aは、研削時にワークWと接触することで、常に砥石20の表面20aと同じ面に位置する。
【0041】
ここで、図5に示すように、ワークWには、熱処理(焼入れおよび焼き戻し)が行われているため、ワークWを研削するまでは、ワークWに圧縮残留応力が発生している(図5に示す研削前の温度A0(℃)参照)。
【0042】
研削により研削点Pの温度が上昇すると、ある温度を境に圧縮残留応力は減少し始める(残留応力が0に近付く)。
そして、温度A1(℃)まで研削点Pの温度が上昇したときに、圧縮残留応力がなくなる(残留応力が0になる)。さらに温度A1よりも研削点Pの温度が上昇すると、ワークWに引っ張り残留応力が発生する(残留応力が0より大きくなる)。
【0043】
これは、研削時の発熱でワークWが再加熱されて、部分的にワークWに対して更なる焼き戻しが行われることに起因する。
【0044】
このように、研削点Pの温度が上昇し、ワークWに引っ張り残留応力が発生した場合、研削中または研削後にワークWが部分的に割れる可能性がある。つまり、研削割れが発生する可能性がある。
【0045】
このような場合としては、例えば、ワーク形状がバラついた場合等がある。
すなわち、想定した以上にワークが部分的に突出した場合には、エアカットの段階で前記突出部分を研削してしまう(図13参照)。つまり、研削を行う前の段階で研削が行われ、さらに本来の研削が行われるため、研削時の発熱量が多くなり、研削点の温度が上昇し、研削割れが発生する可能性がある。
【0046】
研削装置10では、このようにワーク形状がバラついた場合でも、研削点Pの温度を測定し、研削点Pの温度が温度A1よりも大きくなる前に、砥石20をワークWより離間させることで切込量を削減し、研削点Pの温度を低下させる。
【0047】
以下では、研削方法が用いられて行われる研削装置10によるワークWの研削について具体的に説明する。
なお、説明の便宜上、研削装置10は、最初に設定した切込量で研削を行ってワークWを所定の形状に成形するものとする。
【0048】
まず、図2および図6に示すように、治具30にワークWをセットする(S110)。
【0049】
ワークWをセットした後で、切込量を設定する(S120)。このとき、生産性を確保できるとともに、ある程度ワーク形状のバラツキを吸収できる程度の切込量を設定する。このとき、エアカットを行うときの砥石20の接近量も設定する。
【0050】
例えば、生産ライン等に研削装置10を設置する場合、生産ラインのサイクルタイムを確保できるとともに、ワーク形状がある程度バラついた場合でも、研削点Pの温度が大きく上昇しない程度の切込量を設定する。また、接近量についても切込量と同様の観点で設定する。
【0051】
切込量を設定した後で、図5および図6に示すように、温度A2(℃)および温度A3(℃)を設定する(S130)。温度A2は温度A1よりも低い温度であり、温度A3は温度A2よりも低い温度である。
【0052】
ここで、研削点Pの温度測定には所定の時間を要する。つまり、研削点Pの測定温度は、ワークWの加工面W1とコンスタンタン線42の一端部42aとが接触した時点(図4に示す時点)での温度である。このため、研削点Pの温度を実際に測定するまでの間にタイムラグが発生する。
【0053】
具体的には、図4に示す時点での研削点Pの温度が、図4に示す時点から若干研削(砥石20の回転)が進んだ図7に示す時点で算出されることとなる。従って、図4に示す時点から図7に示す時点までの間、さらに研削が行われることとなり、図7に示す時点で把握される図4に示す時点での研削点Pの測定温度よりも、図7に示す時点での実際の研削点Pの温度の方が高くなっている可能性がある。
【0054】
また、測定機構40では、砥石20が一回転する度に研削点Pの測定を行う。このため、研削が砥石20の一回転分だけ進んだ、次の測定時に研削点Pの温度が大きく上昇している可能性がある。
【0055】
つまり、研削点Pの温度測定に要する時間として、実際に温度測定に要する時間および測定間隔を考慮する必要がある。
【0056】
また、研削点Pの温度を低下させる際には所定の時間を要する。つまり、切込量を削減して実際に研削を行うまでの間にタイムラグが発生する。
【0057】
具体的には、図7に示す時点で切込量を削減する動作を開始した場合、図8に示す時点で実際に切込量を削減することとなる。従って、図7に示す時点から図8に示す時点までの間、さらに研削が行われることとなり、研削点Pの測定温度よりも図8に示す時点での実際の研削点Pの温度の方が高くなっている可能性がある。
【0058】
つまり、研削点Pの温度低下に要する時間として、実際に切込量を削減する時間を考慮する必要がある。
【0059】
仮に、研削点Pの測定温度が温度A1となった時点を測定機構40で検出する場合、あるいは研削点Pの測定温度が温度A1となった時点で研削点Pの温度を低下させる場合、前記タイムラグ等の影響で、研削点Pの温度低下が間に合わない可能性がある。
つまり、研削点Pの温度が温度A1を超えてしまい、ワークWに引っ張り残留応力が発生する可能性がある。この場合、研削時または研削後にワークWに研削割れが発生する可能性がある。
【0060】
このように、研削点Pの温度が温度A1よりも大きくなる前に研削点Pの温度を低下させるためには、研削点Pの温度測定および研削点Pの温度低下に要する時間を考慮する必要がある。
【0061】
研削装置10では、ステップS120の切込量でワークWの研削を行ったとき、前記研削点Pの温度測定および研削点Pの温度低下に要する時間等の間に、研削点Pの温度がどの程度上昇するかを予め実験等で測定している。また、図5に示すように、当該測定結果等により、研削点Pの温度の上昇度合い(マージンX1)を算出している。
本実施形態のステップS120にて設定される温度A2は、温度A1よりもマージンX1分だけ低い温度である。なお、温度A2は、温度A1からマージンX1を減じた温度よりも低い温度でも構わない。
【0062】
ステップS130にて温度A2および温度A3を設定した後で、図3および図6に示すように、砥石20によってワークWを切り込む(S140)。
すなわち、砥石20およびワークWの回動を開始するとともにエアカットを行う。そして、ステップS120の切込量に基づいて、砥石20をワークWに接触させて、前記切込量で研削を行う。
【0063】
研削中は、図4および図6に示すように、研削点Pの温度を測定する(S150)。
前述のように、コンスタンタン線42の一端部42aとワークWの加工面W1とが接触したときに発生する電圧の電圧値を電圧計43で測定し、当該電圧値に基づいて、制御機構50が研削点Pの温度を測定する。研削点Pの温度を実際に測定したとき、研削装置10は図4に示す状態から図7に示す状態となる。
【0064】
このように、研削点Pの温度を測定する工程(S150)は、研削方法における測定工程として機能する。
また、研削点Pの温度を測定する工程(S150)では、各線41・42と治具30とワークWとによって構成される電気回路Eの電圧値に基づいて、研削点Pの温度を測定する。
【0065】
ステップS150にて研削点Pの温度を測定した後で、研削点Pの測定温度が温度A3以上であるかを確認する(S160)。
【0066】
研削点Pの測定温度が温度A3以上でない(温度A3未満である)場合、ワーク形状が仕上寸法となっているかを確認する(S160:No、S170)。
つまり、研削装置10でワークWを必要な分だけ研削したかを確認する。言い換えれば、これ以上ワークWを研削する必要があるか確認する。
【0067】
仕上寸法となっている場合、研削を正常に行うことができたと判断する(S170:Yes、S180)。
つまり、研削装置10は、研削中にワークWに引っ張り残留応力が発生することなく研削が完了したと判断する。言い換えれば、研削割れが発生する可能性がない状態で研削が完了したと判断する。そして、研削を終了する。
【0068】
一方、仕上寸法となっていない場合、ステップS140に戻り、切込量等の研削条件を変更せずに研削を継続する(S170:No)。
研削装置10は、このような研削動作を繰り返し、ワークWを所定の形状に成形する。
【0069】
研削点Pの測定温度が温度A3以上である場合、研削点Pの測定温度が温度A2以下であるかを確認する(S160:Yes、S165)。
つまり、研削点Pの温度が温度A1を越える前に、研削点Pの温度を低下可能であるかを確認する。
【0070】
研削点Pの温度が温度A2以下である場合、切込量を削減して研削割れの発生を防止可能であると判断し、切込量を削減して研削を継続する(S165:Yes、S155)。
つまり、研削装置10は、研削点Pの温度が温度A3以上であるとともに、温度A2以下である場合、砥石20をワークWより離間させて切込量を削減する(図7に示す矢印M1参照)。
【0071】
仮に、温度A3が低い温度、例えば、温度A0よりやや高い温度である場合、多くのワークWの研削で切込量の削減が行われ、生産性が低下してしまう。また、温度A3が高い温度、例えば、温度A2よりやや低い温度である場合、ワーク形状のバラツキで突出した部分等を研削したときに急激に温度が上昇し、温度A3を超えたときに、温度A2まで超えてしまう可能性がある。
つまり、温度A3は、生産性を確保できるとともに、急激な温度変化に対応できる程度に、温度A2よりも低い温度が設定される。
【0072】
このように、制御機構50は、研削点Pの温度の測定結果に基づいて、切込量を削減する。
また、研削点Pの測定温度が温度A2および温度A3により定まる温度の範囲内(温度A3以上、温度A2以下)である場合に切込量を削減する工程(S160:Yes、S165:Yes、S155)は、研削方法における調整工程として機能する。
【0073】
実際に切込量を削減したとき、研削装置10は、図7に示す状態から図8に示す状態となる。
これにより、研削装置10は研削点Pの温度を低下させる。そして、ステップS140に戻り、再設定した切込量で研削を継続しながら研削点Pの温度を測定する。
【0074】
切込量を削減した当初は、ステップS120の切込量で研削を行っていない部分が、ステップS155の切込量で研削されるとともに、ステップS120の切込量で研削を行った部分が研削されない(砥石20が空回りする)。
そして、ステップS155の切込量で研削を継続するうちに、ワークWの研削が進み、ステップS120の切込量で研削を行った部分も研削されるようになる。そして、ステップS170の仕上寸法となるまで研削したとき、研削が終了する。
【0075】
これによれば、研削点Pの温度を測定し、研削割れが発生する可能性がある温度である温度A1となる前に、研削点Pの温度を低下できる。従って、研削点Pの温度に応じて切込量を最適に設定できる。
【0076】
このため、ワーク形状がバラついて、研削中に研削点Pの温度が大きく上昇した場合でも、研削点Pの温度を低下できるため、研削割れの発生を防止できる。
また、ワーク形状のバラツキを予め大きく想定することなく切込量やエアカットによる砥石20の接近量を設定できるため、砥石20の空転時間および実際の研削時間を最適に設定できる。従って、生産性を向上できる。
【0077】
このように、制御機構50は、ワークWに引っ張り残留応力が発生するまでに研削点Pの温度を低下可能な第一温度としての温度A2を設定する。
また、温度A2よりも低い温度である第二温度としての温度A3を設定する。
そして、温度A2および温度A3を設定する工程(S130)は、研削方法における設定工程として機能する。
【0078】
また、制御機構50は、研削点Pの測定温度が温度A2および温度A3により定まる温度の範囲内(温度A3以上、温度A2以下)である場合、研削点Pの温度を低下させる。
【0079】
一方、ステップS165にて研削点Pの測定温度が温度A2より大きい場合、既に研削点Pの温度が温度A1を超えてワークWに引っ張り残留応力が発生し、研削割れが発生する可能性があると判断し、研削を中止する(S165:No、S175)。
そして、研削点Pの測定温度が温度A2以上となったワークWを回収し、別のワークWを治具30にセットして、始めから研削加工を行う(S185)。
【0080】
これによれば、研削割れが発生したことを速やかに検出できる。従って、研削割れが発生する可能性があるワークWが研削工程以降の工程に搬送されることを防止できる。
【0081】
なお、温度A2および温度A3の設定値を本実施形態よりも低くして、ワークWの圧縮残留応力が減少しないように研削を行う構成であっても構わない。
【0082】
この場合、図9に示すように、圧縮残留応力が減少し始める温度A4(℃)を予め測定し、当該温度A4とマージンX1との差である温度A5(℃)を設定するとともに、温度A5よりも低い温度である温度A6(℃)を設定する。そして、研削点Pの温度が研削時に温度A6以上であるとともに温度A5以下となったときに切込量を削減する。
【0083】
コンスタンタン線42は、ワークWと接触したときに研削点Pの温度を測定できるものであればよく、例えば、箔状のコンスタンタン線42であっても構わない。
【0084】
本実施形態では、研削点Pの温度を低下させるために切込量を削減したが、これに限定されるものでない。すなわち、以下のようにして研削点Pの温度を低下させても構わない。
【0085】
例えば、ワークWの回転数R1を上昇させても構わない。これによれば、熱源である研削点PからワークWの接触部分が早く離間するようになるため、熱がワークWの内側まで伝導し難くなる。このため、研削点Pの温度を低下できる。
【0086】
また、砥石20の回転数R2を低下させても構わない。これによれば、ワークWと砥石20との間の摩擦抵抗を減少できる。このため、研削点Pの温度を低下できる。
この場合、測定機構40による測定間隔が長くなるため、温度A2(マージンX1)は、このような砥石20の回転数R2の低下も考慮して設定すればよい。
【0087】
さらに、研削を中断しても構わない。具体的には、砥石20とワークWとの接触状態を解除しても構わない。これによれば、研削点Pの温度を低下できる。
【0088】
このように、研削点Pの温度の測定結果に基づいて、研削点Pの温度を低下させるように研削条件を再設定する工程(S160:Yes、S165:Yes、S155)は、研削方法における調整工程として機能する。
【0089】
ここで、「研削条件」とは、前述のような、ワークWおよび砥石20の回転数R1・R2、砥石20とワークWとの接触状態の解除、および切込量を指す。また、「再設定する」とは、このような研削条件のうち、少なくともいずれか一つを変更することをいう。
【0090】
ただし、より生産性を向上できるとともに、より研削点Pの温度低下に要する時間を短くできるという観点から、研削条件の再設定は、切込量を削減することで行うことが好ましい。
【0091】
以下では、研削装置10の別実施形態について説明する。
【0092】
図10に示すように、別実施形態の研削装置110は、本実施形態の測定機構40に変えて、モータの電流値を測定する測定機構140を具備する。
【0093】
ここで、モータの電流値は研削中常に変動している。これは、一定の回転数R1で回動している砥石20がワークWと接触した場合、モータに負荷がかかり、モータの電流値が上昇することに起因する。従って、切込量が多い程、モータにかかる負荷が大きくなり、モータの電流値が大きくなる。
例えば、ワーク形状がバラついて一部が大きく突出している場合等は、当該突出した部分を研削したときに、モータの電流値が大きくなる。
【0094】
このように、モータの電流値と切込量との間には相関がある。また、前述のように研削点Pの温度は、切込量に応じて変化するため、実際の切込量がわかれば研削点Pの温度を算出可能である。
【0095】
つまり、モータの電流値と研削点Pの温度との間には相関があり、モータの電流値を測定することで、研削点Pの温度を算出できる。図11は、このようなモータの電流値と研削点Pの温度との間の相関に基づいて、モータの電流値とワークWの残留応力との関係を示したグラフである。
【0096】
図11に示すように、モータの電流値が電流値B1(A)まで上昇すると、切込量が増加して研削点Pの温度が上昇し、ワークWに引っ張り残留応力が発生する可能性がある。従って、モータの電流値が電流値B1まで上昇するまでに、切込量を削減することで、ワークWに引っ張り残留応力が発生することを防止できる。
【0097】
研削装置110は、このような図11に示すモータの電流値とワークWの残留応力との関係に基づいて、切込量を削減する点が、本実施形態の研削装置10と異なる点である。
【0098】
すなわち、図11および図12に示すように、ワークWをセットして、切込量を設定した後で(S210、S220)、電流値B2(A)および電流値B3(A)を設定する(S230)。
【0099】
電流値B2は、研削点Pの温度測定(モータの電流値を測定してから研削点Pの温度を算出するまで)に要する時間および研削点Pの温度低下に要する時間に基づいて、電流値B1までモータの電流値が上昇するまでに、研削点Pの温度を低下可能な電流値が設定される。
つまり、研削装置110は、このような温度測定に要する時間および研削点Pの温度低下に要する時間の間に、モータの電流値がどの程度上昇するかを予め実験等で測定している。また、当該測定結果等により、モータの電流値の上昇度合い(マージンX2)を算出している。
【0100】
電流値B2は、電流値B1よりもマージンX2分だけ低い電流値である。また、電流値B3は、電流値B2よりも低い電流値である。
【0101】
ステップS230にて電流値B2・B3を設定した後は、モータの電流値が電流値B2および電流値B3により定まる電流値の範囲内であるかを確認する点(S260、S265)を除いて、本実施形態の研削装置10と同様である。
【0102】
これによれば、本実施形態の研削装置10よりも簡素な構成で、研削割れの発生を防止できるとともに、生産性を向上できる。
【0103】
このように、測定機構140による研削点Pの温度測定は、研削点Pの温度と相関のあるもの(別実施形態では砥石20を回動させるモータの電流値)に基づいて、間接的に測定しても構わない。
ただし、研削点Pの温度をより正確に測定できるという観点から、本実施形態のように、熱電対として機能する測定機構40よって研削点Pの温度を直接的に測定することが好ましい。
【符号の説明】
【0104】
10 研削装置
20 砥石
20a 砥石の表面
40 測定機構(測定手段)
50 制御機構(調整手段)
A2 温度(第一温度)
A3 温度(第二温度)
P 研削点
W ワーク
W1 ワークの加工面
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに回動する砥石の表面およびワークの加工面を接触させてワークを研削する研削方法および研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、研削加工では、互いに回動する砥石の表面およびワークの加工面を接触させ、ワークの加工面を削ってワークを所定の形状に成形している。このような研削を行う研削装置は、NCプログラム等で予め設定された切込量だけワークの研削を繰り返す。
【0003】
このような研削装置では、砥石とワークとの接触点(研削点)の温度が上昇しても決められた動作を継続してしまう。
従って、焼入れ等の熱処理が行われたワークを研削する場合、想定した以上にワーク形状がバラついたときに、ワークが部分的に再加熱されて、ワークが部分的に割れる可能性がある。つまり、研削割れが発生する可能性がある。
【0004】
例えば、図13に示すように、想定した以上にワークが部分的に突出した場合には、当該突出部分での研削量が多くなってしまう。このような場合には、砥石をワークに接近させるエアカットを行う段階で前記突出部分を研削してしまう。つまり、研削を行う前の段階で研削が行われ、さらに本来の研削が行われるため、研削時の発熱量が多くなり、研削点の温度が上昇し、研削割れが発生する可能性がある。
【0005】
また、研削割れの発生を防止するために、切込量を小さな値に設定するとともに、前記エアカットで砥石をワークに接近させる距離を遠くすることが考えられる。つまり、ワーク形状のバラツキを予め大きく想定して研削を行うことが考えられるが、この場合、砥石の空転時間および実際の研削時間が長くなり、生産性が低下してしまう。
【0006】
つまり、研削割れの発生を防止するとともに生産性の低下を防止するためには、研削点の温度を測定する必要がある。
【0007】
特許文献1に開示される研削装置では、ワーク(工作物)に接触するフィンガーに二つの熱電対線を接続し、研削時にワーク表面(フィンガーとワークとの接触点)の温度が上昇することで発生する電圧に基づいて、ワーク表面の温度を測定する。
【0008】
このような研削装置にて測定される温度は、ワーク表面の温度であり、研削点の温度ではない。より詳細には、ワーク表面の温度は研削点の温度よりも低い。また、フィンガーをワークに接触させて温度を測定する構成では、研削点にフィンガーを接触できない。従って、研削点の温度を正確に測定することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−246632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、研削割れの発生を防止できるとともに、生産性を向上できる研削方法および研削装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1においては、互いに回動する砥石の表面およびワークの加工面を接触させて前記ワークを研削する研削方法であって、第一温度および第二温度を設定する設定工程と、研削点の温度を測定する測定工程と、前記研削点の測定温度が前記第一温度および前記第二温度により定まる温度の範囲内である場合、前記研削点の温度を低下させるように研削条件を再設定する調整工程と、を含み、前記第一温度は、前記測定工程および前記調整工程に要する時間に基づいて、前記ワークに引っ張り残留応力が発生するまでに前記研削点の温度を低下可能な温度に設定され、前記第二温度は、前記第一温度よりも低い温度に設定される、ものである。
【0012】
請求項2においては、前記測定工程では、前記ワークに接続されるとともに前記ワークに対応する第一金属線と、一端部が前記砥石の表面より露出した状態で前記砥石の回動と一体的に回動するとともに前記第一金属線に対応し、研削時に前記ワークの加工面と接触する第二金属線と、を用い、前記第二金属線の一端部が前記ワークの加工面に接触したとき、前記各金属線および前記ワークによって構成される電気回路の電圧値に基づいて、前記研削点の温度を測定する、ものである。
【0013】
請求項3においては、前記調整工程では、前記砥石による前記ワークへの切込量を削減する、ものである。
【0014】
請求項4においては、互いに回動する砥石の表面およびワークの加工面を接触させて前記ワークを研削する研削装置であって、前記砥石および前記ワークの研削点の温度を測定する測定手段と、前記測定手段と接続され、前記研削点の温度の測定結果に基づいて、前記研削点の温度を低下させるように研削条件を再設定する調整手段と、を具備し、前記調整手段は、前記研削点の温度測定に要する時間および前記研削点の温度低下に要する時間に基づいて、前記ワークに引っ張り残留応力が発生するまでに前記研削点の温度を低下可能な第一温度と、前記第一温度よりも低い温度である第二温度と、を設定し、前記研削点の測定温度が前記第一温度および前記第二温度により定まる温度の範囲内である場合、前記研削点の温度を低下させる、ものである。
【0015】
請求項5においては、前記測定手段は、前記ワークに接続されるとともに前記ワークに対応する第一金属線と、一端部が前記砥石の表面より露出した状態で前記砥石の回動と一体的に回動するとともに前記第一金属線に対応し、研削時に前記ワークの加工面と接触する第二金属線と、を備え、前記調整手段は、前記第二金属線の一端部が前記ワークの加工面に接触したとき、前記各金属線および前記ワークによって構成される電気回路の電圧値に基づいて、前記研削点の温度を測定する、ものである。
【0016】
請求項6においては、前記研削条件を再設定は、前記砥石による前記ワークへの切込量を削減することである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、研削点の温度に応じて切込量を最適に設定できるため、研削割れの発生を防止できるとともに、生産性を向上できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】研削装置を示す説明図。
【図2】同じく側面図。
【図3】ワークを研削する状態を示す側面図。
【図4】研削点の温度測定を開始する状態を示す側面図。
【図5】ワークの残留応力と研削点の温度との相関を示す図。
【図6】研削方法を示すフロー図。
【図7】研削点の温度測定が終了した状態を示す側面図。
【図8】切込量を削減した状態を示す側面図。
【図9】温度設定の別実施形態を示す図。
【図10】研削装置の別実施形態を示す側面図。
【図11】残留応力とモータの電流値との相関を示す図。
【図12】研削方法の別実施形態を示すフロー図。
【図13】ワーク形状のバラツキを示すワークの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本実施形態の研削装置10の構成について説明する。
【0020】
図1に示すように、研削装置10は、ワークWの加工面W1を削ってワークWを所定の形状に成形するものである。
【0021】
本実施形態のワークWは、熱処理(焼入れおよび焼き戻し)が行われた後で、研削装置10により研削加工が行われる。実施形態においては、説明の便宜上、鉄によって構成される略円柱形状のものとするが、これに限定されるものでなく、例えば、クランクシャフトやカム等であっても構わない。
【0022】
図1および図2に示すように、研削装置10は、砥石20、測定機構40、治具30、および制御機構50等を具備する。
【0023】
砥石20は、ダイヤモンド等からなる砥粒を粘結材で固めることで、略円盤状に形成される。砥石20は、モータの回転軸と連結される主軸21に回動可能に支持されて、前記モータの駆動によって一定の回転数R1で回動する。
また、砥石20は、ワークWに対して近接離間可能な砥石台に支持され、前記砥石台の移動によってワークWに対して近接離間する(図2に示す矢印M参照)。
【0024】
治具30は、ワークWを所定の姿勢で支持するとともに、砥石20の回転方向と同じ方向にワークWを回動させる。このとき、治具30は、ワークWを一定の回転数R2で回動させる。治具30は、ワークWと同じ金属部材、すなわち、本実施形態では鉄によって構成される。
【0025】
本実施形態の研削装置10では、砥石20およびワークWを互いに回動させた状態で、砥石20をワークWの近傍まで接近させる(エアカットを行う)。そして、図3に示すように、砥石20の表面20aをワークWの加工面W1に接触させ、前記研粒にてワークWの加工面W1を削って、ワークWを研削する。
この場合、どの程度砥石20をワークWに接触させるかで、砥石20によるワークWへの切込量(以下、単に「切込量」と表記する)が決まる。
【0026】
以下では、砥石20の表面20aとワークWの加工面W1とが接触する部分を「研削点P」と表記する。研削点Pでは、研削時にその温度が大きく上昇し、その上昇度合いは、切込量に応じて変動する。より詳細には、切込量が多くなるにつれて、温度の上昇度合いが大きくなる。
【0027】
なお、ワークWを研削するための構成はこれに限定されるものでなく、例えば、治具30を砥石20に対して近接離間可能に構成し、ワークWを砥石20に接近させるような構成であっても構わない。
【0028】
測定手段としての測定機構40は、研削点Pの温度を測定するものである。測定機構40は、鉄線41、コンスタンタン線42、および電圧計43を備える。
【0029】
鉄線41は、その一端部41aが治具30と接触する。つまり、鉄線41は、治具30を介してワークWに接続される。また、鉄線41の他端部は、電圧計43の+端子に接続される。
【0030】
なお、鉄線41は、ワークWを構成する金属部材に対応している。例えば、ワークWが銅で構成される場合、鉄線41に代えて銅線が用いられる。この場合、治具30も銅によって構成される。
このように、第一金属線としての鉄線41は、ワークWに対応する金属部材である鉄で構成される。
【0031】
図1に示すように、コンスタンタン線42の一端部42aは、砥石20の表面20aより露出する。また、図3および図4に示すように、前記露出した状態で砥石20の回動と一体的に回動する。つまり、コンスタンタン線42の一端部42aは、砥石20より突出する、または砥石20内に収容されることもなく、砥石20の表面20aと同じ面に位置する。従って、研削時に砥石20の表面20aと同じようにワークWの加工面W1と接触する。
コンスタンタン線42の他端部は、電圧計43の−端子に接続される。
【0032】
図1に示すように、コンスタンタン線42は、その中途部が主軸21の内側を通って砥石20まで連通する。また、コンスタンタン線42の中途部は、砥石20が回動するときにかかる負荷で断線しないように、所定の部材によって支持された状態で、砥石20および主軸21の内側に配設される。このようなコンスタンタン線42には、極細のコンスタンタン線が用いられる。
【0033】
ここで、治具30およびワークWは、前述のように鉄によって構成される。このため、図4に示すように、コンスタンタン線42の一端部42aがワークWの加工面W1に接触したとき、各線41・42と治具30とワークWとにより電気回路Eが構成される。
【0034】
このとき、研削点Pと各線41・42の他端部(電圧計43に接続される側の端部)との間に温度差が生じている場合、電気回路Eに電圧が発生し、電気回路Eに電流が流れる(図4に示す電流i参照)。つまり、熱電対として機能する。
【0035】
コンスタンタン線42は、このような熱電対として機能するように、鉄線41に対応している。例えば、前述のようにワークWを銅で構成する場合、前記銅線に対応する金属線が用いられる。
このように、第二金属線としてのコンスタンタン線42は、鉄線41に対応する金属部材であるコンスタンタンで構成される。
【0036】
電圧計43は、電気回路Eに発生する電圧値を測定する。電圧計43は、制御機構50と電気的に接続され、測定結果を制御機構50に送信する(図4に示す電圧値V参照)。
【0037】
調整手段としての制御機構50は、通信機能や演算機能を有し、電圧計43で測定される電気回路Eの電圧値に基づいて、所定の演算処理を行って、研削点Pの温度を算出(測定)する。
また、制御機構50は、砥石台と電気的に接続され、砥石台に信号を送信することで、砥石20を移動可能に構成される(図2に示す信号S参照)。このような制御機構50は、例えば、市販のパーソナルコンピュータ等によって構成される。
【0038】
研削装置10は、制御機構50に記憶されるワークWを研削するための専用のプログラム(例えば、NCプログラム)を実行することで研削を行う。
【0039】
研削時には、コンスタンタン線42の一端部42aがワークWと接触し、そのときの研削点Pの温度に応じた電圧が発生する。つまり、研削装置10では、砥石20が一回転する度に、測定機構40によって研削点Pの温度を測定する。
【0040】
ワークWの加工面W1と接触したコンスタンタン線42の一端部42aは、砥石20の表面20aとともに摩滅していく。従って、コンスタンタン線42の一端部42aは、研削時にワークWと接触することで、常に砥石20の表面20aと同じ面に位置する。
【0041】
ここで、図5に示すように、ワークWには、熱処理(焼入れおよび焼き戻し)が行われているため、ワークWを研削するまでは、ワークWに圧縮残留応力が発生している(図5に示す研削前の温度A0(℃)参照)。
【0042】
研削により研削点Pの温度が上昇すると、ある温度を境に圧縮残留応力は減少し始める(残留応力が0に近付く)。
そして、温度A1(℃)まで研削点Pの温度が上昇したときに、圧縮残留応力がなくなる(残留応力が0になる)。さらに温度A1よりも研削点Pの温度が上昇すると、ワークWに引っ張り残留応力が発生する(残留応力が0より大きくなる)。
【0043】
これは、研削時の発熱でワークWが再加熱されて、部分的にワークWに対して更なる焼き戻しが行われることに起因する。
【0044】
このように、研削点Pの温度が上昇し、ワークWに引っ張り残留応力が発生した場合、研削中または研削後にワークWが部分的に割れる可能性がある。つまり、研削割れが発生する可能性がある。
【0045】
このような場合としては、例えば、ワーク形状がバラついた場合等がある。
すなわち、想定した以上にワークが部分的に突出した場合には、エアカットの段階で前記突出部分を研削してしまう(図13参照)。つまり、研削を行う前の段階で研削が行われ、さらに本来の研削が行われるため、研削時の発熱量が多くなり、研削点の温度が上昇し、研削割れが発生する可能性がある。
【0046】
研削装置10では、このようにワーク形状がバラついた場合でも、研削点Pの温度を測定し、研削点Pの温度が温度A1よりも大きくなる前に、砥石20をワークWより離間させることで切込量を削減し、研削点Pの温度を低下させる。
【0047】
以下では、研削方法が用いられて行われる研削装置10によるワークWの研削について具体的に説明する。
なお、説明の便宜上、研削装置10は、最初に設定した切込量で研削を行ってワークWを所定の形状に成形するものとする。
【0048】
まず、図2および図6に示すように、治具30にワークWをセットする(S110)。
【0049】
ワークWをセットした後で、切込量を設定する(S120)。このとき、生産性を確保できるとともに、ある程度ワーク形状のバラツキを吸収できる程度の切込量を設定する。このとき、エアカットを行うときの砥石20の接近量も設定する。
【0050】
例えば、生産ライン等に研削装置10を設置する場合、生産ラインのサイクルタイムを確保できるとともに、ワーク形状がある程度バラついた場合でも、研削点Pの温度が大きく上昇しない程度の切込量を設定する。また、接近量についても切込量と同様の観点で設定する。
【0051】
切込量を設定した後で、図5および図6に示すように、温度A2(℃)および温度A3(℃)を設定する(S130)。温度A2は温度A1よりも低い温度であり、温度A3は温度A2よりも低い温度である。
【0052】
ここで、研削点Pの温度測定には所定の時間を要する。つまり、研削点Pの測定温度は、ワークWの加工面W1とコンスタンタン線42の一端部42aとが接触した時点(図4に示す時点)での温度である。このため、研削点Pの温度を実際に測定するまでの間にタイムラグが発生する。
【0053】
具体的には、図4に示す時点での研削点Pの温度が、図4に示す時点から若干研削(砥石20の回転)が進んだ図7に示す時点で算出されることとなる。従って、図4に示す時点から図7に示す時点までの間、さらに研削が行われることとなり、図7に示す時点で把握される図4に示す時点での研削点Pの測定温度よりも、図7に示す時点での実際の研削点Pの温度の方が高くなっている可能性がある。
【0054】
また、測定機構40では、砥石20が一回転する度に研削点Pの測定を行う。このため、研削が砥石20の一回転分だけ進んだ、次の測定時に研削点Pの温度が大きく上昇している可能性がある。
【0055】
つまり、研削点Pの温度測定に要する時間として、実際に温度測定に要する時間および測定間隔を考慮する必要がある。
【0056】
また、研削点Pの温度を低下させる際には所定の時間を要する。つまり、切込量を削減して実際に研削を行うまでの間にタイムラグが発生する。
【0057】
具体的には、図7に示す時点で切込量を削減する動作を開始した場合、図8に示す時点で実際に切込量を削減することとなる。従って、図7に示す時点から図8に示す時点までの間、さらに研削が行われることとなり、研削点Pの測定温度よりも図8に示す時点での実際の研削点Pの温度の方が高くなっている可能性がある。
【0058】
つまり、研削点Pの温度低下に要する時間として、実際に切込量を削減する時間を考慮する必要がある。
【0059】
仮に、研削点Pの測定温度が温度A1となった時点を測定機構40で検出する場合、あるいは研削点Pの測定温度が温度A1となった時点で研削点Pの温度を低下させる場合、前記タイムラグ等の影響で、研削点Pの温度低下が間に合わない可能性がある。
つまり、研削点Pの温度が温度A1を超えてしまい、ワークWに引っ張り残留応力が発生する可能性がある。この場合、研削時または研削後にワークWに研削割れが発生する可能性がある。
【0060】
このように、研削点Pの温度が温度A1よりも大きくなる前に研削点Pの温度を低下させるためには、研削点Pの温度測定および研削点Pの温度低下に要する時間を考慮する必要がある。
【0061】
研削装置10では、ステップS120の切込量でワークWの研削を行ったとき、前記研削点Pの温度測定および研削点Pの温度低下に要する時間等の間に、研削点Pの温度がどの程度上昇するかを予め実験等で測定している。また、図5に示すように、当該測定結果等により、研削点Pの温度の上昇度合い(マージンX1)を算出している。
本実施形態のステップS120にて設定される温度A2は、温度A1よりもマージンX1分だけ低い温度である。なお、温度A2は、温度A1からマージンX1を減じた温度よりも低い温度でも構わない。
【0062】
ステップS130にて温度A2および温度A3を設定した後で、図3および図6に示すように、砥石20によってワークWを切り込む(S140)。
すなわち、砥石20およびワークWの回動を開始するとともにエアカットを行う。そして、ステップS120の切込量に基づいて、砥石20をワークWに接触させて、前記切込量で研削を行う。
【0063】
研削中は、図4および図6に示すように、研削点Pの温度を測定する(S150)。
前述のように、コンスタンタン線42の一端部42aとワークWの加工面W1とが接触したときに発生する電圧の電圧値を電圧計43で測定し、当該電圧値に基づいて、制御機構50が研削点Pの温度を測定する。研削点Pの温度を実際に測定したとき、研削装置10は図4に示す状態から図7に示す状態となる。
【0064】
このように、研削点Pの温度を測定する工程(S150)は、研削方法における測定工程として機能する。
また、研削点Pの温度を測定する工程(S150)では、各線41・42と治具30とワークWとによって構成される電気回路Eの電圧値に基づいて、研削点Pの温度を測定する。
【0065】
ステップS150にて研削点Pの温度を測定した後で、研削点Pの測定温度が温度A3以上であるかを確認する(S160)。
【0066】
研削点Pの測定温度が温度A3以上でない(温度A3未満である)場合、ワーク形状が仕上寸法となっているかを確認する(S160:No、S170)。
つまり、研削装置10でワークWを必要な分だけ研削したかを確認する。言い換えれば、これ以上ワークWを研削する必要があるか確認する。
【0067】
仕上寸法となっている場合、研削を正常に行うことができたと判断する(S170:Yes、S180)。
つまり、研削装置10は、研削中にワークWに引っ張り残留応力が発生することなく研削が完了したと判断する。言い換えれば、研削割れが発生する可能性がない状態で研削が完了したと判断する。そして、研削を終了する。
【0068】
一方、仕上寸法となっていない場合、ステップS140に戻り、切込量等の研削条件を変更せずに研削を継続する(S170:No)。
研削装置10は、このような研削動作を繰り返し、ワークWを所定の形状に成形する。
【0069】
研削点Pの測定温度が温度A3以上である場合、研削点Pの測定温度が温度A2以下であるかを確認する(S160:Yes、S165)。
つまり、研削点Pの温度が温度A1を越える前に、研削点Pの温度を低下可能であるかを確認する。
【0070】
研削点Pの温度が温度A2以下である場合、切込量を削減して研削割れの発生を防止可能であると判断し、切込量を削減して研削を継続する(S165:Yes、S155)。
つまり、研削装置10は、研削点Pの温度が温度A3以上であるとともに、温度A2以下である場合、砥石20をワークWより離間させて切込量を削減する(図7に示す矢印M1参照)。
【0071】
仮に、温度A3が低い温度、例えば、温度A0よりやや高い温度である場合、多くのワークWの研削で切込量の削減が行われ、生産性が低下してしまう。また、温度A3が高い温度、例えば、温度A2よりやや低い温度である場合、ワーク形状のバラツキで突出した部分等を研削したときに急激に温度が上昇し、温度A3を超えたときに、温度A2まで超えてしまう可能性がある。
つまり、温度A3は、生産性を確保できるとともに、急激な温度変化に対応できる程度に、温度A2よりも低い温度が設定される。
【0072】
このように、制御機構50は、研削点Pの温度の測定結果に基づいて、切込量を削減する。
また、研削点Pの測定温度が温度A2および温度A3により定まる温度の範囲内(温度A3以上、温度A2以下)である場合に切込量を削減する工程(S160:Yes、S165:Yes、S155)は、研削方法における調整工程として機能する。
【0073】
実際に切込量を削減したとき、研削装置10は、図7に示す状態から図8に示す状態となる。
これにより、研削装置10は研削点Pの温度を低下させる。そして、ステップS140に戻り、再設定した切込量で研削を継続しながら研削点Pの温度を測定する。
【0074】
切込量を削減した当初は、ステップS120の切込量で研削を行っていない部分が、ステップS155の切込量で研削されるとともに、ステップS120の切込量で研削を行った部分が研削されない(砥石20が空回りする)。
そして、ステップS155の切込量で研削を継続するうちに、ワークWの研削が進み、ステップS120の切込量で研削を行った部分も研削されるようになる。そして、ステップS170の仕上寸法となるまで研削したとき、研削が終了する。
【0075】
これによれば、研削点Pの温度を測定し、研削割れが発生する可能性がある温度である温度A1となる前に、研削点Pの温度を低下できる。従って、研削点Pの温度に応じて切込量を最適に設定できる。
【0076】
このため、ワーク形状がバラついて、研削中に研削点Pの温度が大きく上昇した場合でも、研削点Pの温度を低下できるため、研削割れの発生を防止できる。
また、ワーク形状のバラツキを予め大きく想定することなく切込量やエアカットによる砥石20の接近量を設定できるため、砥石20の空転時間および実際の研削時間を最適に設定できる。従って、生産性を向上できる。
【0077】
このように、制御機構50は、ワークWに引っ張り残留応力が発生するまでに研削点Pの温度を低下可能な第一温度としての温度A2を設定する。
また、温度A2よりも低い温度である第二温度としての温度A3を設定する。
そして、温度A2および温度A3を設定する工程(S130)は、研削方法における設定工程として機能する。
【0078】
また、制御機構50は、研削点Pの測定温度が温度A2および温度A3により定まる温度の範囲内(温度A3以上、温度A2以下)である場合、研削点Pの温度を低下させる。
【0079】
一方、ステップS165にて研削点Pの測定温度が温度A2より大きい場合、既に研削点Pの温度が温度A1を超えてワークWに引っ張り残留応力が発生し、研削割れが発生する可能性があると判断し、研削を中止する(S165:No、S175)。
そして、研削点Pの測定温度が温度A2以上となったワークWを回収し、別のワークWを治具30にセットして、始めから研削加工を行う(S185)。
【0080】
これによれば、研削割れが発生したことを速やかに検出できる。従って、研削割れが発生する可能性があるワークWが研削工程以降の工程に搬送されることを防止できる。
【0081】
なお、温度A2および温度A3の設定値を本実施形態よりも低くして、ワークWの圧縮残留応力が減少しないように研削を行う構成であっても構わない。
【0082】
この場合、図9に示すように、圧縮残留応力が減少し始める温度A4(℃)を予め測定し、当該温度A4とマージンX1との差である温度A5(℃)を設定するとともに、温度A5よりも低い温度である温度A6(℃)を設定する。そして、研削点Pの温度が研削時に温度A6以上であるとともに温度A5以下となったときに切込量を削減する。
【0083】
コンスタンタン線42は、ワークWと接触したときに研削点Pの温度を測定できるものであればよく、例えば、箔状のコンスタンタン線42であっても構わない。
【0084】
本実施形態では、研削点Pの温度を低下させるために切込量を削減したが、これに限定されるものでない。すなわち、以下のようにして研削点Pの温度を低下させても構わない。
【0085】
例えば、ワークWの回転数R1を上昇させても構わない。これによれば、熱源である研削点PからワークWの接触部分が早く離間するようになるため、熱がワークWの内側まで伝導し難くなる。このため、研削点Pの温度を低下できる。
【0086】
また、砥石20の回転数R2を低下させても構わない。これによれば、ワークWと砥石20との間の摩擦抵抗を減少できる。このため、研削点Pの温度を低下できる。
この場合、測定機構40による測定間隔が長くなるため、温度A2(マージンX1)は、このような砥石20の回転数R2の低下も考慮して設定すればよい。
【0087】
さらに、研削を中断しても構わない。具体的には、砥石20とワークWとの接触状態を解除しても構わない。これによれば、研削点Pの温度を低下できる。
【0088】
このように、研削点Pの温度の測定結果に基づいて、研削点Pの温度を低下させるように研削条件を再設定する工程(S160:Yes、S165:Yes、S155)は、研削方法における調整工程として機能する。
【0089】
ここで、「研削条件」とは、前述のような、ワークWおよび砥石20の回転数R1・R2、砥石20とワークWとの接触状態の解除、および切込量を指す。また、「再設定する」とは、このような研削条件のうち、少なくともいずれか一つを変更することをいう。
【0090】
ただし、より生産性を向上できるとともに、より研削点Pの温度低下に要する時間を短くできるという観点から、研削条件の再設定は、切込量を削減することで行うことが好ましい。
【0091】
以下では、研削装置10の別実施形態について説明する。
【0092】
図10に示すように、別実施形態の研削装置110は、本実施形態の測定機構40に変えて、モータの電流値を測定する測定機構140を具備する。
【0093】
ここで、モータの電流値は研削中常に変動している。これは、一定の回転数R1で回動している砥石20がワークWと接触した場合、モータに負荷がかかり、モータの電流値が上昇することに起因する。従って、切込量が多い程、モータにかかる負荷が大きくなり、モータの電流値が大きくなる。
例えば、ワーク形状がバラついて一部が大きく突出している場合等は、当該突出した部分を研削したときに、モータの電流値が大きくなる。
【0094】
このように、モータの電流値と切込量との間には相関がある。また、前述のように研削点Pの温度は、切込量に応じて変化するため、実際の切込量がわかれば研削点Pの温度を算出可能である。
【0095】
つまり、モータの電流値と研削点Pの温度との間には相関があり、モータの電流値を測定することで、研削点Pの温度を算出できる。図11は、このようなモータの電流値と研削点Pの温度との間の相関に基づいて、モータの電流値とワークWの残留応力との関係を示したグラフである。
【0096】
図11に示すように、モータの電流値が電流値B1(A)まで上昇すると、切込量が増加して研削点Pの温度が上昇し、ワークWに引っ張り残留応力が発生する可能性がある。従って、モータの電流値が電流値B1まで上昇するまでに、切込量を削減することで、ワークWに引っ張り残留応力が発生することを防止できる。
【0097】
研削装置110は、このような図11に示すモータの電流値とワークWの残留応力との関係に基づいて、切込量を削減する点が、本実施形態の研削装置10と異なる点である。
【0098】
すなわち、図11および図12に示すように、ワークWをセットして、切込量を設定した後で(S210、S220)、電流値B2(A)および電流値B3(A)を設定する(S230)。
【0099】
電流値B2は、研削点Pの温度測定(モータの電流値を測定してから研削点Pの温度を算出するまで)に要する時間および研削点Pの温度低下に要する時間に基づいて、電流値B1までモータの電流値が上昇するまでに、研削点Pの温度を低下可能な電流値が設定される。
つまり、研削装置110は、このような温度測定に要する時間および研削点Pの温度低下に要する時間の間に、モータの電流値がどの程度上昇するかを予め実験等で測定している。また、当該測定結果等により、モータの電流値の上昇度合い(マージンX2)を算出している。
【0100】
電流値B2は、電流値B1よりもマージンX2分だけ低い電流値である。また、電流値B3は、電流値B2よりも低い電流値である。
【0101】
ステップS230にて電流値B2・B3を設定した後は、モータの電流値が電流値B2および電流値B3により定まる電流値の範囲内であるかを確認する点(S260、S265)を除いて、本実施形態の研削装置10と同様である。
【0102】
これによれば、本実施形態の研削装置10よりも簡素な構成で、研削割れの発生を防止できるとともに、生産性を向上できる。
【0103】
このように、測定機構140による研削点Pの温度測定は、研削点Pの温度と相関のあるもの(別実施形態では砥石20を回動させるモータの電流値)に基づいて、間接的に測定しても構わない。
ただし、研削点Pの温度をより正確に測定できるという観点から、本実施形態のように、熱電対として機能する測定機構40よって研削点Pの温度を直接的に測定することが好ましい。
【符号の説明】
【0104】
10 研削装置
20 砥石
20a 砥石の表面
40 測定機構(測定手段)
50 制御機構(調整手段)
A2 温度(第一温度)
A3 温度(第二温度)
P 研削点
W ワーク
W1 ワークの加工面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに回動する砥石の表面およびワークの加工面を接触させて前記ワークを研削する研削方法であって、
第一温度および第二温度を設定する設定工程と、
研削点の温度を測定する測定工程と、
前記研削点の測定温度が前記第一温度および前記第二温度により定まる温度の範囲内である場合、前記研削点の温度を低下させるように研削条件を再設定する調整工程と、
を含み、
前記第一温度は、
前記測定工程および前記調整工程に要する時間に基づいて、前記ワークに引っ張り残留応力が発生するまでに前記研削点の温度を低下可能な温度に設定され、
前記第二温度は、
前記第一温度よりも低い温度に設定される、
研削方法。
【請求項2】
前記測定工程では、
前記ワークに接続されるとともに前記ワークに対応する第一金属線と、
一端部が前記砥石の表面より露出した状態で前記砥石の回動と一体的に回動するとともに前記第一金属線に対応し、研削時に前記ワークの加工面と接触する第二金属線と、
を用い、
前記第二金属線の一端部が前記ワークの加工面に接触したとき、前記各金属線および前記ワークによって構成される電気回路の電圧値に基づいて、前記研削点の温度を測定する、
請求項1に記載の研削方法。
【請求項3】
前記調整工程では、
前記砥石による前記ワークへの切込量を削減する、
請求項1または請求項2に記載の研削方法。
【請求項4】
互いに回動する砥石の表面およびワークの加工面を接触させて前記ワークを研削する研削装置であって、
前記砥石および前記ワークの研削点の温度を測定する測定手段と、
前記測定手段と接続され、前記研削点の温度の測定結果に基づいて、前記研削点の温度を低下させるように研削条件を再設定する調整手段と、
を具備し、
前記調整手段は、
前記研削点の温度測定に要する時間および前記研削点の温度低下に要する時間に基づいて、前記ワークに引っ張り残留応力が発生するまでに前記研削点の温度を低下可能な第一温度と、前記第一温度よりも低い温度である第二温度と、を設定し、
前記研削点の測定温度が前記第一温度および前記第二温度により定まる温度の範囲内である場合、前記研削点の温度を低下させる、
研削装置。
【請求項5】
前記測定手段は、
前記ワークに接続されるとともに前記ワークに対応する第一金属線と、
一端部が前記砥石の表面より露出した状態で前記砥石の回動と一体的に回動するとともに前記第一金属線に対応し、研削時に前記ワークの加工面と接触する第二金属線と、
を備え、
前記調整手段は、
前記第二金属線の一端部が前記ワークの加工面に接触したとき、前記各金属線および前記ワークによって構成される電気回路の電圧値に基づいて、前記研削点の温度を測定する、
請求項4に記載の研削装置。
【請求項6】
前記研削条件を再設定は、
前記砥石による前記ワークへの切込量を削減することである、
請求項4または請求項5に記載の研削装置。
【請求項1】
互いに回動する砥石の表面およびワークの加工面を接触させて前記ワークを研削する研削方法であって、
第一温度および第二温度を設定する設定工程と、
研削点の温度を測定する測定工程と、
前記研削点の測定温度が前記第一温度および前記第二温度により定まる温度の範囲内である場合、前記研削点の温度を低下させるように研削条件を再設定する調整工程と、
を含み、
前記第一温度は、
前記測定工程および前記調整工程に要する時間に基づいて、前記ワークに引っ張り残留応力が発生するまでに前記研削点の温度を低下可能な温度に設定され、
前記第二温度は、
前記第一温度よりも低い温度に設定される、
研削方法。
【請求項2】
前記測定工程では、
前記ワークに接続されるとともに前記ワークに対応する第一金属線と、
一端部が前記砥石の表面より露出した状態で前記砥石の回動と一体的に回動するとともに前記第一金属線に対応し、研削時に前記ワークの加工面と接触する第二金属線と、
を用い、
前記第二金属線の一端部が前記ワークの加工面に接触したとき、前記各金属線および前記ワークによって構成される電気回路の電圧値に基づいて、前記研削点の温度を測定する、
請求項1に記載の研削方法。
【請求項3】
前記調整工程では、
前記砥石による前記ワークへの切込量を削減する、
請求項1または請求項2に記載の研削方法。
【請求項4】
互いに回動する砥石の表面およびワークの加工面を接触させて前記ワークを研削する研削装置であって、
前記砥石および前記ワークの研削点の温度を測定する測定手段と、
前記測定手段と接続され、前記研削点の温度の測定結果に基づいて、前記研削点の温度を低下させるように研削条件を再設定する調整手段と、
を具備し、
前記調整手段は、
前記研削点の温度測定に要する時間および前記研削点の温度低下に要する時間に基づいて、前記ワークに引っ張り残留応力が発生するまでに前記研削点の温度を低下可能な第一温度と、前記第一温度よりも低い温度である第二温度と、を設定し、
前記研削点の測定温度が前記第一温度および前記第二温度により定まる温度の範囲内である場合、前記研削点の温度を低下させる、
研削装置。
【請求項5】
前記測定手段は、
前記ワークに接続されるとともに前記ワークに対応する第一金属線と、
一端部が前記砥石の表面より露出した状態で前記砥石の回動と一体的に回動するとともに前記第一金属線に対応し、研削時に前記ワークの加工面と接触する第二金属線と、
を備え、
前記調整手段は、
前記第二金属線の一端部が前記ワークの加工面に接触したとき、前記各金属線および前記ワークによって構成される電気回路の電圧値に基づいて、前記研削点の温度を測定する、
請求項4に記載の研削装置。
【請求項6】
前記研削条件を再設定は、
前記砥石による前記ワークへの切込量を削減することである、
請求項4または請求項5に記載の研削装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−125853(P2012−125853A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277274(P2010−277274)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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