説明

研削用砥石

【課題】研削時に生じる熱を高い効率で冷却して、研削焼け等の表面品位劣化を引き起こすことなく、高能率で研削することができる研削用砥石を提供する。
【解決手段】研削盤40の砥石台44に回転軸線回りに軸承された砥石軸42に装着されるコア4の周囲に複数個の砥粒16と結合剤14とを含む砥粒層12が形成される研削用砥石10において、前記砥粒層12には、常温時に固体で、融点が研削点温度以下の添加材20が含有されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削に使用される砥石に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼材料を砥石車で高能率研削する場合には、砥粒として超砥粒の1つであるCBN(Cubic Boron Nitride:立方晶窒化ホウ素)を使用した砥石が使われる。CBN砥石は、図8に示すように、複数のCBN砥粒16と骨材72とをビトリファイドボンド14で固定したもので、ビトリファイドボンド14は焼結による製造の際に気孔18を生じて、立体的網目状の構造に形成される。このような研削用砥石を使用した研削時には工作物との摩擦によって生じる研削熱によって、工作物Wに研削焼けや割れが発生するため、一般に、図9に示すように、冷却液70の供給や良熱伝導性材料を結合剤に使用するなどして研削熱の冷却が図られている。そして特許文献1のCBN砥石によると、ビトリファイドボンドの気孔内に固形油脂が充填され、この固形油脂が、研削時の発熱によって溶融して潤滑剤として作用する。この油脂の潤滑作用によって研削点における砥粒と工作物の摩擦を和らげ、発熱を抑制して研削抵抗を低下させる働きをしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−291114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、端面研削や内面研削では冷却液の供給が難しい場合があり、研削条件によっては、熱伝導による冷却では十分な冷却能力が得られない場合がある。また、特許文献1の固形油脂は、研削に使用されることで固形油脂が消費されて、効果が少なくなってしまうというおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は上記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、研削時に生じる熱を高い効率で冷却して、研削焼け等の表面品位劣化を引き起こすことなく、高能率で研削することができる研削用砥石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明の構造上の特徴は、研削盤の砥石台に回転軸線回りに軸承された砥石軸に装着されるコアの周囲に複数個の砥粒と結合剤とを含む砥粒層が形成される研削用砥石において、前記砥粒層には、常温時に固体で融点が研削点温度以下の添加材が含有されていることである。
【0007】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記結合剤は立体的網目状に形成され、該網目状の空洞部に前記添加材が含有されていることである。
【0008】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記添加材は、前記結合剤の中に分散して含有されていることである。
【0009】
請求項4に係る発明の構造上の特徴は、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記添加材の融点が220℃以下であることである。
【0010】
請求項5に係る発明の構造上の特徴は、請求項1乃至4のいずれか1項において、前記添加材は、密度が940Kg/m以上のポリエチレンであることである。
【0011】
請求項6に係る発明の構造上の特徴は、請求項1乃至4のいずれか1項において、前記添加材は、融点が100℃以上の脂肪酸塩であることである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、固体から液体に相転移する際には大きな融解熱(潜熱)が必要となり、研削時に砥石と工作物との間で発生する研削熱により上昇する温度(研削点温度)を、前記研削熱を砥石に含まれる添加材の融解熱として消費させることで、砥石の温度を効率よく冷却することができる。さらに、接研削点を冷却する必要がないため、冷却液の供給が困難な端面研削や内面研削においても容易に冷却することができる。これによって、研削焼けや割れといった工作物の表面品位劣化を防止することができる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、網目状の空洞部に含有された添加材が砥粒に隣接し、砥粒と工作物との間で発生する研削熱が、砥粒から添加材に伝導し、添加材の上昇温度が融点に達したときに、大きな熱量を添加材の融解熱として消費する。これによって、砥粒の温度が上昇するのを抑えるので、研削焼け等の表面品位劣化を引き起こすことなく、高能率で研削することができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、砥粒と工作物との間で発生する研削熱が、砥粒から結合剤及び添加材に伝導する。添加材の上昇温度が融点に達したときに、大きな熱量を融解熱として消費し、工作物に接する砥粒の温度が上昇するのを抑えることができる。そして、結合剤中に含まれる添加材は、夫々独立した状態で結合剤中に含まれるので、研削熱によって融解温度を超えて液化した場合でも、結合剤中に保持される。そのため、研削によって添加材が消費されてなくなることなく、使用後の冷却によって固体に戻り冷却効果を繰り返し持続させることができる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、220℃以下の融点温度の添加材を使用することで、研削熱により砥粒全体の温度が鉄鋼のMs点である220℃以上となるのを抑えるので、工作物が鉄鋼である場合に、軟化して表面品位劣化を生じることを防止することができる。
【0016】
請求項5に係る発明によれば、密度940Kg/m以上のポリエチレンの融点温度はおよそ120℃〜135℃であり、常温で固体状態を保持する。研削時には、研削熱によってポリエチレンが融点に達した場合に、融解熱によって多くの熱量を消費する。これによって、工作物に接する砥粒の温度が研削熱によって上昇するのを抑えることができる。
【0017】
請求項6に係る発明によれば、添加材として使用される脂肪酸塩の融点は100℃以上であるため、常温では固体状態を保持する。研削時には、研削熱によって脂肪酸塩の融点である100℃以上に達した場合に、脂肪酸塩が融解する際の融解熱(潜熱)によって多くの熱量を消費する。これによって、工作物に接する砥粒の温度が研削熱によって上昇するのを抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0018】
本発明に係る研削用砥石の実施例について図面に基づいて以下に説明する。研削用砥石10は、図1に示すように、円盤状のコア4とこのコア4の外周に接着剤或いは焼結により固着したリング状又はセグメント状の砥粒層12とから構成される。コア4は鋼、アルミニュウム或いはチタン等の金属材料或いはFRP(繊維強化プラスチック)材料で形成される。砥粒層12は、CBN(立方晶窒化ホウ素)砥粒16を結合剤としてのビトリファイドボンド14で3〜5mmの厚さに結合したものである。なお、結合剤としては、ビトリファイドボンド14の他に、レジノイドボンドまたはメタルボンド等を使用することもできる。砥粒層12は、図3の拡大模式図に示すように、例えば多数のCBN砥粒16と、砥粒同士を立体網目状にブリッジ結合してなるビトリファイドボンド14とからなる。そして、空洞部としての網目状の気孔18には、添加材として例えば融点が約150℃のステアリン酸カルシウム(脂肪酸塩)が充填・固着されてステアリン酸カルシウム充填部20が形成されている。
【0019】
研削用砥石10は、図2に示すように、研削盤40の砥石台44に軸線O回りに回転駆動可能に軸承された砥石軸42にコア4で装着される。研削盤40の工作物支持装置43には工作物Wが回転駆動可能に支承され、砥石台44の前進により研削用砥石10の砥粒層12に形成された研削面が工作物Wに接触面で当接して工作物Wの外周面を研削加工する。
【0020】
次に、第1実施例に係る研削用砥石10の製造方法について説明する。まずCBNの砥粒層12が公知の方法で製造される。この場合、CBN砥粒16と液状のビトリファイドボンド14とが混練され、この混合物が砥粒層12の形状(例えばリング状)に対応する空間を形成する図略の型枠に充填されて加圧成形される。次に、加圧成形されたリング状砥粒層12が型枠から抜き出され、ビトリファイドボンド14が固化する例えば900℃前後の温度で数時間加熱焼成され、焼成後、自然冷却される。その後、リング状砥粒層12は、予め加工したコア4の外周に接着剤で接着されて固着され、添加材含有前の研削用砥石10Aが製造される。
【0021】
続いて、図5に示す添加材含浸工程において、添加材含有前の研削用砥石10Aは、ステアリン酸カルシウムが真空含浸法により含浸される。具体的には、加熱室50内の容器52内に収容した固形状態のステアリン酸カルシウムを加熱溶融し、このステアリン酸カルシウム液20A内に添加材含有前の研削用砥石10Aを浸漬し、蓋54を被せて止め具56により固定し、容器52内を大気と遮断し密閉する。この状態において、蓋54に設けた吸引口58からバキューム装置59により容器52内部の大気を吸引し、容器52内を真空とする。これにより、添加材含有前の研削用砥石10Aの砥粒層12の気孔18に含まれていた空気が容器52外へ吸引され、代わりにステアリン酸カルシウム液20Aが気孔18を埋め尽くす。その後、研削用砥石10を常温まで冷却させた後、容器52から取り出すことにより、図3に示すような、固体のステアリン酸カルシウム充填部20が形成された砥粒層マトリックス組織を持つ研削用砥石10が製造される。
【0022】
次に、本実施例に係る研削用砥石10を用いて工作物Wを研削する方法について説明する。研削用砥石10は、図2に示すように、研削盤40の砥石台44に軸承された砥石軸42にコア4で装着されて回転駆動され、工作物Wは主軸台及び心押台からなる工作物支持装置43に支承されて回転駆動される。砥石台44が工作物Wに向かって研削送りされ、研削用砥石10により工作物Wが研削加工される。研削の際には、図4に示すように、工作物WとCBN砥粒16との間で研削熱が発生する。研削熱は、CBN砥粒16から隣接するステアリン酸カルシウム充填部20へ直接的に伝導される(図4における白抜き矢印参照)。研削作業の進行に伴って研削熱が上昇し、ステアリン酸カルシウム充填部20の温度も上昇する。ステアリン酸カルシウム充填部20が融点である約150℃に達すると、融解熱(潜熱)として多量の熱量が消費され、研削熱によるCBN砥粒16の温度上昇が抑えられる。これによって、研削焼けや焼き戻しによって、工作物Wが表面品位劣化するのを防止する。研削熱が多量に発生して、ステアリン酸カルシウム充填部20が融点温度を超えてしまうと、液化して研削時の砥石の回転によってステアリン酸カルシウムが飛散してしまうので、ステアリン酸カルシウムが液化しない範囲において研削熱の発生が管理される。
【0023】
上記構成の研削用砥石10によると、ステアリン酸カルシウム充填部20が固体から液体に相転移する際には大きな融解熱(潜熱)が必要となるが、研削によって生じる砥石10と工作物Wの間の研削熱を、砥石10に含まれるステアリン酸カルシウム充填部20の融解熱として消費させることで、砥石を冷却することができる。研削点に十分な冷却液が供給されなくとも冷却されるので、研削点に冷却液の供給が困難な端面研削や内面研削においても効率的に冷却することができる。また、冷却液を使用しない乾式研削が可能となり、研削作業環境が改善されるとともに、冷却液の廃棄処理にかかわる環境への負荷が低減される。
【0024】
また、網目状の気孔18に含有されたステアリン酸カルシウム充填部20がCBN砥粒16に隣接し、CBN砥粒16と工作物Wとの間で発生する研削熱が、CBN砥粒16からステアリン酸カルシウム充填部20に伝導し、ステアリン酸カルシウム充填部20の上昇温度が融点150℃(220℃以下である)に達したときに、大きな熱量を固体のステアリン酸カルシウムの融解熱として消費する。これによって、CBN砥粒16の温度が上昇するのを抑えるので、研削焼け等の表面品位劣化を引き起こすことなく、高能率で研削することができる。
【0025】
また、このように220℃以下の融点温度の添加材を使用することで、研削熱により砥粒全体の温度が鉄鋼のMs点である220℃以上となるのを抑えるので、工作物が鉄鋼である場合に、軟化して表面品位劣化を生じることを防止することができる。
【0026】
また、添加材として使用されるステアリン酸カルシウムの融点は100℃以上であるため、常温では固体状態を保持する。研削時には、研削熱によってステアリン酸カルシウムの融点である150℃以上に達した場合に、ステアリン酸カルシウムが融解する際の融解熱によって多くの熱量を消費する。
【0027】
なお、本実施例では、脂肪酸塩としてステアリン酸カルシウムを使用したが、これに限定されず、例えば、ステアリン酸亜鉛(融点140℃)、ラウリン酸カルシウム(融点210℃)、リシノール酸バリウム(融点120℃)等を使用してもよい。
【0028】
なお、上記実施例において、添加材として脂肪酸塩を使用したが、密度が940Kg/m以上のポリエチレンでもよい。また、添加材は、例えば図6に示すように、結合剤の中に分散して含有されるものでもよい。結合剤として例えばレジノイドボンドを使用することができる。この場合においても、図7に示すように、研削熱によってポリエチレン62が融点(およそ120℃〜135℃)に達した場合に、融解熱によって多くの熱量を消費する。これによって、工作物Wに接する砥粒16の温度が研削熱によって上昇するのを抑えることができる。
【0029】
そして、ポリエチレン62は、夫々独立した状態でレジノイドボンド64中に含まれるので、研削熱によって融解温度を超えて液化した場合でも、レジノイドボンド64中に保持される。そのため、研削によってポリエチレン62が消費されてなくなることなく、使用後の冷却によって固体に戻り冷却効果を繰り返し持続させることができる。
【0030】
なお、本実施形態では、まったく冷却液を使用しない乾式研削を行うものとしたが、これに限定されず、例えば冷却液を併用した湿式研削や半乾式研削に使用してもよく、冷却手段を併用することで効率よく砥石研削面の冷却を行って、研削焼けや焼き戻し等の表面品位劣化を効果的に防止することができる。
【0031】
斯様に、上記した実施の形態で述べた具体的構成は、本発明の一例を示したものにすぎず、本発明はそのような具体的構成に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の態様を採り得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
冷却液の供給が難しい端面研削や内面研削に使用する研削用砥石に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施例における研削用砥石の斜視図である。
【図2】同研削用砥石を研削装置に装着した斜視図である。
【図3】同研削用砥石の砥粒層の拡大模式図である。
【図4】同研削用砥石の研削時の研削熱の伝導状態を示す図である。
【図5】同研削用砥石の気孔内に添加材を含浸させる装置の概要を示す図である。
【図6】他の実施例における研削用砥石の砥粒層の拡大模式図である。
【図7】同研削用砥石の研削時の研削熱の伝導状態を示す図である。
【図8】従来例における研削用砥石の砥粒層の拡大模式図である。
【図9】同研削用砥石の研削時の研削熱の伝導状態を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
4…コア、10…研削用砥石、12…砥粒層、14…結合剤(ビトリファイドボンド)、16…砥粒(CBN砥粒)、18…空洞部(気孔)、20…添加材・脂肪酸塩(ステアリン酸カルシウム)、40…研削盤、42…砥石軸、44…砥石台、62…添加材(ポリエチレン)、64…結合剤(レジノイドボンド)、W…工作物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削盤の砥石台に回転軸線回りに軸承された砥石軸に装着されるコアの周囲に複数個の砥粒と結合剤とを含む砥粒層が形成される研削用砥石において、
前記砥粒層には、常温時に固体で、融点が研削点温度以下の添加材が含有されていることを特徴とする研削用砥石。
【請求項2】
請求項1において、前記結合剤は立体的網目状に形成され、該網目状の空洞部に前記添加材が含有されていることを特徴とする研削用砥石。
【請求項3】
請求項1において、前記添加材は、前記結合剤の中に分散して含有されていることを特徴とする研削用砥石。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、前記添加材の融点が220℃以下であることを特徴とする研削用砥石。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、前記添加材は、密度が940Kg/mのポリエチレンであることを特徴とする研削用砥石。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項において、前記添加材は、融点が100℃以上の脂肪酸塩であることを特徴とする研削用砥石。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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