研削異常監視方法および研削異常監視装置
【課題】閾値をより適切に設定することにより、工作物に加工変質層が発生した場合でも研削異常の判定精度を向上することができる研削異常監視方法および研削異常監視装置を提供する。
【解決手段】工作物Wを研削したときの研削負荷が変化すると工作物Wの加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、研削送り位置に対する研削負荷についての閾値を設定する。これにより、工作物Wに加工変質層が発生した場合でも、その後の研削により加工変質層を取り除くことが可能となり、研削異常の判定精度を向上することができる。
【解決手段】工作物Wを研削したときの研削負荷が変化すると工作物Wの加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、研削送り位置に対する研削負荷についての閾値を設定する。これにより、工作物Wに加工変質層が発生した場合でも、その後の研削により加工変質層を取り除くことが可能となり、研削異常の判定精度を向上することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作物の研削において研削異常の監視を行う方法および研削異常の監視を行う装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特開平4−176541号公報(特許文献1)には、工作物の研削において異常を判定する方法として、工具の送りモータの電流値が所定の閾値を超えたときに異常と判定することが記載されている。つまり、研削負荷が所定値より大きくなった場合、工作物に加工変質層が発生することから、異常であると判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−176541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、工作物に加工変質層が発生しても、その後の研削工程により加工変質層を取り除くことが可能であれば、正常であると判定してもよい。ところが、従来の工作物の研削において異常を判定する方法では、工作物に加工変質層が発生しないように閾値を設定していた。そのため、最終加工品が正常であっても途中の工程で一度閾値を越えてしまうと異常であると判定されてしまう。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、閾値をより適切に設定することにより、工作物に加工変質層が発生した場合でも研削異常の判定精度を向上することができる研削異常監視方法および研削異常監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(研削異常監視方法)
(請求項1)本発明の研削異常監視方法は、工作物と砥石車とを相対移動させることにより前記工作物を研削する研削盤を用いて、研削異常を監視する研削異常監視方法において、前記工作物を研削するときの前記砥石車の相対的な研削送り位置を検出する研削送り位置検出工程と、前記工作物を研削するときの研削負荷を検出する研削負荷検出工程と、前記工作物を研削したときの研削負荷が変化すると前記工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、前記研削送り位置に対する前記研削負荷についての閾値であり、前記研削送り位置に対応した前記閾値を設定する閾値設定工程と、検出した前記研削送り位置における前記研削負荷が前記研削送り位置に対応した前記閾値を超えた場合に研削異常であると判定する研削異常判定工程と、を備える。
【0007】
(請求項2)本発明の研削異常監視方法は、工作物と砥石車とを相対移動させることにより前記工作物を研削する研削盤を用いて、研削異常を監視する研削異常監視方法において、前記工作物を研削するときの研削残り取代を検出する研削残り取代検出工程と、前記工作物を研削するときの研削負荷を検出する研削負荷検出工程と、前記工作物を研削したときの研削負荷が変化すると前記工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、前記研削残り取代に対する前記研削負荷についての閾値であり、前記研削残り取代に応じて前記閾値を設定する閾値設定工程と、検出した前記研削残り取代における前記研削負荷が前記研削残り取代に対応した前記閾値を超えた場合に研削異常であると判定する研削異常判定工程と、を備える。
【0008】
(請求項3)前記研削異常監視方法は、前記砥石車の研削条件を変更する制御工程、を備え、前記制御工程は、検出した前記研削負荷が前記閾値を超えず、且つ前記閾値に近づくように前記砥石車の研削条件を変更するようにしてもよい。
【0009】
(請求項4)前記研削異常監視方法は、前記工作物の粗研削において適用するようにしてもよい。
【0010】
(請求項5)また、前記工作物の複数の研削部位を同時に研削する研削盤に適用され、複数の変位センサまたは温度センサにより前記工作物の複数の研削部位のそれぞれのたわみ変位量または温度を検出し、それぞれの前記たわみ変位量または温度に基づいてそれぞれの前記研削負荷を算出し、それぞれの前記研削負荷に基づいてそれぞれの前記研削部位の研削異常を判定するようにしてもよい。
【0011】
(研削異常監視装置)
(請求項6)本発明の研削異常監視装置は、工作物と砥石車とを相対移動させることにより前記工作物を研削する研削盤を用いて、研削異常を監視する研削異常監視装置において、前記工作物を研削するときの前記砥石車の相対的な研削送り位置を検出する研削送り位置検出手段と、前記工作物を研削するときの研削負荷を検出する研削負荷検出手段と、前記工作物を研削したときの研削負荷が変化すると前記工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、前記研削送り位置に対する前記研削負荷についての閾値であり、前記研削送り位置に対応した前記閾値を設定する閾値設定手段と、検出した前記研削送り位置における前記研削負荷が前記研削送り位置に対応した前記閾値を超えた場合に研削異常であると判定する研削異常判定手段と、を備える。
【0012】
(請求項7)本発明の研削異常監視装置は、工作物と砥石車とを相対移動させることにより前記工作物を研削する研削盤を用いて、研削異常を監視する研削異常監視装置において、前記工作物を研削するときの研削残り取代を検出する研削残り取代検出手段と、前記工作物を研削するときの研削負荷を検出する研削負荷検出手段と、前記工作物を研削したときの研削負荷が変化すると前記工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、前記研削残り取代に対する前記研削負荷についての閾値であり、前記研削残り取代に応じて前記閾値を設定する閾値設定手段と、検出した前記研削残り取代における前記研削負荷が前記研削残り取代に対応した前記閾値を超えた場合に研削異常であると判定する研削異常判定手段と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
(請求項1)工作物に加工変質層が発生しても、その後の研削により加工変質層を取り除くことが可能であれば、正常であると判定してもよい。そこで、本発明の研削異常監視方法のように、工作物を研削したときの研削負荷が変化すると工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、研削送り位置に対する研削負荷についての閾値を設定する。これにより、工作物に加工変質層が発生した場合でも研削異常の判定精度を向上することができる。
【0014】
(請求項2)工作物に加工変質層が発生しても、その後の研削により加工変質層を取り除くことが可能であれば、正常であると判定してもよい。そこで、本発明の研削異常監視方法のように、工作物を研削したときの研削負荷が変化すると工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、研削残り取代に対する研削負荷についての閾値を設定する。これにより、工作物に加工変質層が発生した場合でも研削異常の判定精度を向上することができる。
(請求項3)研削異常の判定に際して、研削負荷が閾値を超えなければ、正常であると判定している。そこで、研削負荷が閾値を超えず、且つ閾値に近づくように研削条件を変更しても、正常であると判定できる。そこで、閾値を超えず、且つ閾値に近い条件変更用目標値を設定し、この条件変更用目標値を超えたら条件変更用目標値を下回るように研削条件を変更することで、研削時間、すなわち研削サイクルタイムを短縮できる。
【0015】
(請求項4)研削異常監視方法を工作物の粗研削において適用することにより、加工変質層が発生してもよい速い研削速度で研削を行うことができるため、研削時間、すなわち研削サイクルタイムを短縮できる。
【0016】
(請求項5)これにより、工作物の複数の研削部位を同時に研削する場合に、それぞれの研削部位の研削異常を判定することができる。
【0017】
(請求項6)本発明の研削異常監視装置によれば、上述した研削異常監視方法における効果と同様の効果を奏する。また、研削異常監視方法における他の特徴部分について、本発明の研削異常監視装置に同様に適用できる。そして、同様の効果を奏する。
【0018】
(請求項7)本発明の研削異常監視装置によれば、上述した研削異常監視方法における効果と同様の効果を奏する。また、研削異常監視方法における他の特徴部分について、本発明の研削異常監視装置に同様に適用できる。そして、同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】研削盤の平面図である。
【図2】第一実施形態:研削異常監視装置の機能ブロック図である。
【図3】第一実施形態:異常監視プログラムのフローチャートである。
【図4】研削負荷と加工変質層厚さとの関係のテーブルデータを示す図である。
【図5】一般的な研削送り位置に対する研削負荷を閾値と共に示す図である。
【図6】第一実施形態:研削送り位置に対する研削負荷を閾値と共に示す図である。
【図7】表示装置の画面の履歴表示状態を示す。
【図8】第二実施形態:研削異常監視装置の機能ブロック図である。
【図9】第二実施形態:異常監視プログラムのフローチャートである。
【図10】第二実施形態:研削残り取代に対する研削負荷を示す図である。
【図11】第三実施形態における第一例を示す図である。
【図12】第三実施形態における第二例を示す図である。
【図13】第三実施形態における第三例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1.研削盤の機械構成)
研削盤1の一例として、主軸台トラバース型内面研削盤を例に挙げ、図1を参照して説明する。そして、当該研削盤1の研削対象の工作物Wを軸受の外輪とし、当該研削盤1を用いて当該軸受の外輪の内周軌道面を研削する場合を例に挙げて説明する。そして、ここでは、同種の工作物Wを複数個研削する場合、すなわち量産製品としての工作物Wを製造する場合を対象として説明する。
【0021】
図1に示すように、研削盤1は、ベッド10と、テーブル20と、主軸台30と、砥石支持装置40と、近接スイッチ50と、接触検知センサ80と、砥石車成形装置(図示せず)と、制御装置60と、定寸装置90とから構成される。
【0022】
ベッド10は、ほぼ矩形状からなり、床上に配置される。ただし、ベッド10の形状は矩形状に限定されるものではない。このベッド10の上面には、一対のZ軸ガイドレール11a,11bが、図1の左右方向(Z軸方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。一対のZ軸ガイドレール11a,11bは、テーブル20が摺動可能なレールである。さらに、ベッド10には、一対のZ軸ガイドレール11a,11bの間に、テーブル20を図1の左右方向に駆動するための、Z軸ボールねじ11cが配置され、このZ軸ボールねじ11cを回転駆動するZ軸モータ11dが配置されている。
【0023】
さらに、ベッド10の上面には、砥石台42が摺動可能な一対のX軸ガイドレール12a,12bが、図1の上下方向(X軸方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。さらに、ベッド10には、一対のX軸ガイドレール12a,12bの間に、砥石台41を図1の上下方向に駆動するための、X軸ボールねじ12cが配置され、このX軸ボールねじ12cを回転駆動するX軸モータ12dが配置されている。
【0024】
テーブル20は、長手矩形の平板状に形成されており、ベッド10の上面のうち、一対のZ軸ガイドレール11a,11b上を摺動可能に配置されている。テーブル20は、Z軸ボールねじ11cのナット部材に連結されており、Z軸モータ11dの駆動により一対のZ軸ガイドレール11a,11bに沿って移動する。このZ軸モータ11dはエンコーダを有しており、エンコーダによりZ軸モータ11dの回転角を検出することができる。
【0025】
主軸台30は、テーブル20の上面に設けられ、工作物Wを回転可能に支持する。具体的には、主軸台30は、主軸台本体31と、マグネットチャック32と、シュー33と、主軸モータ34とを備えている。主軸台本体31は、テーブル20の上面のうち、図1の左側に固定されている。この主軸台本体31には、Z軸周りに回転可能にマグネットチャック32が設けられている。マグネットチャック32は、工作物Wである軸受を磁力により吸着して保持する。シュー33、マグネットチャック32は、主軸台30に設けられ、シュー33によって工作物Wの側面を支持することにより、工作物Wの位置決めを行う。そして、マグネットチャック32は、主軸モータ34により主軸台本体31に対して回転駆動される。この主軸モータ34はエンコーダを有しており、エンコーダにより主軸モータ34の回転角を検出することができる。
【0026】
砥石支持装置40は、砥石台41と、砥石車駆動用モータ42と、砥石車43とを備えている。砥石台41は、ベッド10の上面のうち、一対のX軸ガイドレール12a,12b上を摺動可能に配置されている。そして、砥石台41は、X軸ボールねじ12cのナット部材に連結されており、X軸モータ12dの駆動により一対のX軸ガイドレール12a,12bに沿って移動する。
【0027】
そして、この砥石台41のうち主軸台30側のX軸方向端面には、砥石車駆動用モータ42が固定されている。この砥石車駆動用モータ42の先端には、工作物Wである軸受外輪の内周軌道面を研削する砥石車43が設けられている。つまり、砥石車43は、砥石台41に対して、Z軸周りに回転可能に取り付けられている。
【0028】
近接スイッチ50は、ベッド10の上面に設けられ、砥石車43により工作物Wである軸受外輪の研削サイクル開始および研削サイクル終了を検出するスイッチである。つまり、近接スイッチ50は、近接スイッチ50に砥石台41が接近して、近接スイッチ50と砥石台41とのZ軸方向離間距離が設定値以下になると研削サイクル開始と判断する。一方、近接スイッチ50は、近接スイッチ50から砥石台41が遠ざかり、近接スイッチ50と砥石台41とのZ軸方向離間距離が設定値を超えた場合に研削サイクル終了と判断する。
【0029】
接触検知センサ80は、主軸台本体31の側面に設けられ、砥石車43により工作物Wである軸受外輪の研削開始を検出するセンサである。つまり、接触検知センサ80は、工作物Wに砥石車43が接触すると該接触を検知して研削開始と判断する。接触検知センサ80としては、例えばAEセンサが用いられる。
なお、接触検知センサ80は、本実施形態において、研削負荷データの収集開始および収集終了の判定に用いている。接触検知センサ80に代えて、砥石台41のX軸位置およびテーブル20のZ軸位置に基づいて研削負荷データの収集開始および収集終了の判定を行うこともできる。
【0030】
砥石車成形装置(図示せず)は、例えば主軸台30やベッド10に設けられ、砥石車43の外周面を成形するドレッサーである。この砥石車成形装置によりドレッシングされた砥石車43は、切れ味の良好な状態となり、かつ、所望形状に形成される。
【0031】
定寸装置90は、テーブル20の上面に設けられ、砥石車43により工作物Wである軸受外輪の内周軌道面を研削しているときの研削送り位置における工作物Wの内径を測定する装置である。この定寸装置90は、装置本体から延びるL字状のアーム91が図略の駆動装置により図1の左右方向および上下方向に移動可能に構成され、アーム91の先端に装着されたプローブ92が軸受外輪の内周軌道面に常に当接可能に構成されている。
【0032】
制御装置60は、各モータを制御して、工作物WをZ軸周りに回転させ、砥石車43を回転させ、且つ、工作物Wと砥石車43とをZ軸方向およびX軸方向の相対移動することにより工作物Wである軸受外輪の内周軌道面の研削の適応制御を行う。詳細は後述する。また、制御装置60は、工作物Wの粗研削において研削負荷が閾値を超えたときの研削異常を監視する研削異常監視装置70を備えている。ただし、研削異常監視装置70は、制御装置60の内部に備えるものに限られず、外部装置として適用することもできる。
【0033】
(2.研削異常および閾値の説明)
次に、研削異常監視装置70により監視する研削異常および研削異常監視装置70に設定される閾値について説明する。研削異常としては、研削負荷が所定値より大きくなった場合に発生する研削焼け(加工変質層)がある。この加工変質層の厚さaは、例えば、図4に示すように、研削負荷PがPnからP1と大きくなるにつれてanからa1と厚くなる関係にある。
【0034】
ここで、砥石車43のX軸方向の研削送り位置Xと研削負荷Pとの一般的な関係の概略を図5を参照して説明する。研削送り位置XがX0に達すると黒皮(加工が施されていない表面)の研削が開始され、研削負荷Pが徐々に上昇する。研削送り位置XがXsに達すると粗研削が開始され、研削送り位置XがXeに達すると粗研削が終了して仕上げ研削が開始され、研削負荷Pが徐々に下降する。そして、研削送り位置Xが最終研削送り位置Xfに達すると仕上げ研削が終了する。
【0035】
従来の研削異常監視装置では、工作物Wに加工変質層が発生しない研削負荷Pを閾値Ptとして設定しているが、本実施形態の研削異常監視装置70では、工作物Wに発生した加工変質層をその後の研削により取り除くことが可能な研削負荷Pを閾値として設定する。すなわち、加工変質層の発生が許容される粗研削において、図4に示す研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係に基づいて、研削送り位置Xに対する研削負荷Pについての閾値P(X)を設定する。この閾値P(X)は、例えば、図6に示すように、研削送り位置XがXsからXeと進むにつれてPsからPeと小さくなる関係にある。
【0036】
この閾値P(X)を設定することにより、粗研削の初期段階において工作物Wに加工変質層が発生しても、その後の研削により加工変質層を取り除くことが可能となるので、従来は異常であると判定されていたものが正常であると判定されることになる。また、研削負荷Pが閾値P(X)より大きくなった場合は、その後の研削により加工変質層を取り除くことが不可能となるので、異常であると判定されることになる。よって、工作物Wの研削不良率を低減させることができると共に、研削異常の判定精度を向上することができる。また、図6に示すように、粗研削において従来(図示点線のグラフ)よりも研削負荷Pを増加させることができるので、研削のサイクルタイムを短縮させることができる。
【0037】
(3.研削異常監視装置の構成)
次に、研削異常監視装置70について、図2の機能ブロック図を参照して説明する。ここで研削異常監視装置70を説明するに当たり、図2には、上述した研削盤1の一部構成についても記載する。ここで、図2において、図1の研削盤1の構成と同一構成については、同一符号を付す。そして、砥石車駆動用モータ42には、当該砥石車駆動用モータ42の駆動電力を計測するモータ電力計42aが取り付けられている。なお、モータ電力計42aに代えて、砥石車駆動用モータ42のモータアンプにより直接電力値を収集してもよい。
【0038】
研削異常監視装置70は、研削送り位置読込部71と、研削負荷算出部72と、閾値設定用データ記憶部73と、閾値設定部74と、異常判定部75と、出力部76とを備えて構成される。研削送り位置読込部71は、制御装置60から砥石車43の研削送り位置を読み込む。
【0039】
研削負荷算出部72は、モータ電力計42aから取り込んだ砥石車駆動用モータ42の駆動電力に基づいて、工作物Wを砥石車43により研削することにより発生する研削負荷Pを算出する。研削負荷Pは、砥石車駆動用モータ42の駆動電力が大きくなれば大きくなる関係を有している。なお、研削負荷Pの算出方法として、本実施形態においては、砥石車駆動用モータ42の駆動電力を用いるが、この他に以下により研削負荷Pを算出することもできる。例えば、研削負荷Pは、砥石車駆動用モータ42の電流値、砥石車43と工作物Wとの相対移動を行うX軸モータ12dの電流値、電力値、工作物Wを回転可能に駆動する主軸モータ34の電流値、電力値、砥石車43または工作物Wの支持部分のたわみ変形量などにより算出できる。
【0040】
また、研削負荷Pは、工作物Wにおける研削部位の変形量、すなわち砥石車43に押し付けられることにより生じる工作物Wのたわみ変位量に基づいて算出できる。当該たわみ変位量は、研削負荷Pに応じたものとなるためである。工作物Wにおける研削部位のたわみ変位量は、例えば、変位センサにより計測する。
【0041】
また、研削負荷Pは、工作物Wの研削部位の温度により算出できる。当該温度は、研削負荷に応じたものとなるためである。ただし、工作物Wにおける砥石車43に接触している点、すなわち研削点の温度を計測することは容易でない。そこで、工作物Wの研削部位(内周面または外周面)のうち研削点(砥石車43との接触点)からずれた位相の部位の温度を計測する。工作物Wの研削部位の温度は、研削点と研削点からずれた位相では異なるが、研削点からずれた位相の温度は、研削点の温度に応じた値となる。従って、研削点からずれた位相であっても十分に計測できる。そして、工作物Wの研削部位のうち研削点からずれた位相の温度の計測は、当該部位に接触させる接触式温度センサまたは当該部位に非接触とする非接触式温度センサにより計測する。
【0042】
閾値設定用データ記憶部73は、作業者によって予め実測された研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係のテーブルデータ(図4参照)を記憶する。
【0043】
閾値設定部74は、閾値設定用データ記憶部73に記憶された研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係に基づいて、研削送り位置読込部71により読み込まれる粗研削時の研削送り位置Xに対する研削負荷Pについての閾値P(X)を設定する。
【0044】
異常判定部75は、研削負荷算出部72により算出される粗研削時の研削負荷Pが閾値P(X)を超えた場合に、研削異常であると判定する。
【0045】
出力部76は、研削異常であると判定された場合に、研削異常に関する情報について、表示装置81の画面への表示処理、印刷装置82による印字処理、記憶装置83への記憶処理、または通信装置84により外部装置への通信出力などを行う。出力の選択は、作業者により行われる。これにより、研削異常に関する情報について、作業者によって選択された出力形態により、作業者は確実に研削異常を把握することができる。
【0046】
(4.研削異常監視装置による処理)
次に、研削異常監視装置70による研削異常監視プログラムの実行について、図3を参照して説明する。研削異常監視プログラムは、図6に示すように、現在の研削負荷Pと予め設定された閾値P(X)とに基づいて、研削異常が発生したか否かを判定する。以下に詳細に説明する。
【0047】
図3に示すように、閾値設定用データとして研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係のテーブルデータ(図4参照)が既に記憶されているか否かを判定する(ステップS1)。まだ記憶されていなければ、閾値設定用データを読込む(ステップS2)。
【0048】
閾値設定用データが記憶されていれば、砥石車43の径の読込、算出を行う(ステップS3)。この砥石車43の径に基づいて、最終研削送り位置Xfを算出する(ステップS4)。この最終研削送り位置Xfを基準に、研削スタート位置までの各研削送り位置Xnの相対距離In=|Xf−Xn|を算出する(ステップS5)。
【0049】
閾値設定用データを参照して相対距離Inが加工変質層の厚さanのときの研削負荷Pnを算出する(ステップS6)。そして、各研削送り位置Xnでの研削負荷Pnを設定する(ステップS7)。
【0050】
続いて研削サイクルを開始する(ステップS8)。研削サイクルが開始されることで、図2に示すように、制御装置60が各モータを駆動し、砥石車43により工作物Wである軸受外輪の内周軌道面を研削し始める。より詳細には、研削サイクル開始後、図1に示すように、砥石車43が工作物Wである軸受外輪の径方向内側に進入可能となる位置に向かって、砥石台41を基準位置(図示せず)からX軸方向へ移動させる。その後、テーブル20をZ軸方向に移動させることにより、砥石車43が工作物Wである軸受外輪の径方向内側に進入する。そして、砥石車43が工作物Wである軸受外輪の内周軌道面に向かってX軸方向に移動し、工作物Wと砥石車43との接触検知後、研削を開始する。工作物Wの研削は、黒皮を研削してから粗研削を行った後に、仕上研削を連続して行う。研削が終了すると、研削開始までとは逆の順序で動作し、基準位置に戻り、研削サイクルを終了する。
【0051】
近接スイッチ50がON状態、すなわち研削サイクルが開始されたら、接触検知センサ80が工作物Wと砥石車43との接触を検知したか否かを判定する(ステップS9)。
【0052】
そして、接触検知センサ80が工作物Wと砥石車43との接触を検知したら(ステップS9:Yes)、工作物Wを砥石車43により研削するときの研削送り位置Xnを読み込み、研削負荷Pnを測定する(ステップS10)。具体的には、図2に示す研削送り位置読込部71が制御装置60から砥石車43の研削送り位置Xnを読み込む。そして、研削送り位置Xnが最終研削送り位置Xf、すなわち工作物Wの研削が終了して最終寸法になったか否かを判定する(ステップS11)。
【0053】
そして、研削送り位置Xnが最終研削送り位置Xfでない場合には、研削送り位置Xnでの研削負荷Pnを閾値設定用データから読込む(ステップS12)。具体的には、図2に示す閾値設定用データ記憶部73に記憶された研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係に基づいて、研削送り位置読込部71により読み込まれる粗研削時の研削送り位置Xnに対する研削負荷Pnを読込む。
【0054】
そして、研削負荷Pnの読込直後から、研削異常判定を行う(ステップS13)。つまり、粗研削の現時点における研削負荷Pnが閾値P(X)を超えず、且つ閾値P(X)に近づくように砥石車43の研削条件、例えば砥石車43の研削送り速度、回転速度、工作物Wの回転速度等を変更し、粗研削の現時点における研削負荷Pnが閾値P(X)を超えたら研削異常の判定を行う。
【0055】
具体的には、図6に示すように、閾値P(X)を超えず、且つ閾値P(X)に近い条件変更用目標値Q(X)を設定し、この条件変更用目標値Q(X)を超えたら条件変更用目標値Q(X)を下回るように研削条件を変更する。そして、粗研削の現時点における研削負荷Pが、閾値P(X)を超えていない場合には、正常と判定し(ステップS14)、ステップS10に戻って上述の処理を行う。
【0056】
一方、ステップS13において、粗研削の現時点における研削負荷Pnが、閾値P(X)を超えている場合には、研削異常と判定し、図2の出力部76により、表示装置81に異常内容を表示し、記憶装置83に異常内容を記憶する(ステップS15)。そして、研削サイクルを停止する(ステップS16)。
【0057】
一方、ステップS11において、研削送り位置Xnが最終研削送り位置Xf、すなわち工作物Wの研削が終了して最終寸法になった場合には、近接スイッチ50がOFF状態、すなわち研削サイクルが終了したか否かを判定する(ステップS17)。そして、研削サイクルが終了した場合には、次の工作物Wが有るか否かを判定し(ステップS18)、次の工作物Wが有れば、該工作物Wの設置の段取りを行い(ステップS19)、ステップS8から処理を繰り返す。一方、次の工作物Wがなければ、研削サイクルを停止する(ステップS16)。
【0058】
(5.表示装置の画面の履歴表示状態)
次に、図7を参照して、表示装置81の画面の履歴表示状態について説明する。図3の研削異常監視プログラムの実行により、研削異常が発生した場合には(図3のステップS15)、異常内容が記憶装置83に記憶される。なお、記憶装置83には、異常内容の他、正常内容についても記憶しても良い。そして、多数の工作物Wの研削が行われた場合、記憶装置83には、過去の異常履歴が記憶される。また、研削異常として記憶されていない工作物Wは、正常であることが分かる。また、記憶装置83に正常内容が記憶されている場合には、直接的に正常である工作物Wを把握できる。
【0059】
そうすると、図7に示すように、表示装置81の画面には、全ての工作物Wについて、正常であるか研削異常であるかが表示される。このように、研削異常に関する情報の過去の履歴を記憶することで、研削異常の傾向を把握できる。そこで、研削異常の傾向を用いることで、今後の研削を行う際に、研削異常の発生の前兆を予測できる。その結果、今後の研削について、適切な対策を決定できる。
【0060】
以上説明したように、加工変質層の発生が許容される粗研削において、研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係に基づいて、研削送り位置Xに対する研削負荷Pについての閾値P(X)を設定している。これにより、粗研削において工作物Wに加工変質層が発生しても、その後の研削により加工変質層を取り除くことが可能となるので、従来は異常であると判定されていたものが正常であると判定されることになる。また、研削負荷Pが閾値P(X)より大きくなった場合は、その後の研削により加工変質層を取り除くことが不可能となるので、異常であると判定されることになる。よって、工作物Wの研削不良率を低減させることができると共に、研削異常の判定精度を向上することができる。また、粗研削において従来よりも研削負荷Pを増加させることができるので、研削のサイクルタイムを短縮させることができる。
【0061】
<第二実施形態>
次に、第二実施形態の研削異常監視装置について説明する。上述した研削異常監視装置70は、砥石車43の研削送り位置Xを算出して閾値P(X)を設定することとした。本実施形態では、定寸装置90を用いて研削残り取代Rを算出して閾値P(R)を設定することとした。以下に詳細に説明する。
【0062】
(1.研削異常監視装置の構成)
本実施形態における研削異常監視装置170について図8を参照して説明する。本実施形態の研削異常監視装置170は、研削残り取代測定部171と、研削負荷算出部72(第一実施形態と同様)と、閾値設定用データ記憶部73(第一実施形態と同様)と、閾値設定部174と、異常判定部75(第一実施形態と同様)と、出力部76(第一実施形態と同様)とを備えて構成される。
【0063】
研削残り取代測定部171は、定寸装置90から読み込んだ工作物Wを砥石車43により研削するときの研削送り位置における工作物Wの内径に基づいて、研削残り取代Rを算出する。閾値設定部174は、閾値設定用データ記憶部73に記憶された研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係に基づいて、研削残り取代算出部171により算出される粗研削時の研削残り取代Rに対する研削負荷Pについての閾値P(R)を設定する。この閾値P(R)は、例えば、図10に示すように、研削残り取代RがReからRsと多くなるにつれてPeからPsと大きくなる関係にある。
【0064】
(2.研削異常監視装置による処理)
研削異常監視装置170による処理について図9を参照して説明する。閾値設定用データとして研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係のテーブルデータ(図4参照)が既に記憶されているか否かを判定する(ステップS21)。まだ記憶されていなければ、閾値設定用データを読込む(ステップS22)。
【0065】
閾値設定用データが記憶されていれば、研削サイクルを開始する(ステップS23)。研削サイクルが開始されることで、図8に示すように、制御装置60が各モータを駆動し、砥石車43により工作物Wである軸受外輪の内周軌道面を研削し始める。
【0066】
研削サイクル開始後、工作物Wを砥石車43により研削するときの研削残り取代Rsを測定する(ステップS24)。具体的には、図8に示す研削残り取代測定部171が定寸装置90から読み込んだ工作物Wを砥石車43により研削するときの研削送り位置における工作物Wの内径に基づいて、研削残り取代Rsを測定する。
【0067】
そして、閾値設定用データから各研削残り取代Rnに対する研削負荷Pnを設定する(ステップS25)。具体的には、図8に示す閾値設定用データ記憶部73に記憶された研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係に基づいて、研削残り取代測定部171により測定される各研削残り取代Rnに対する研削負荷Pを設定する。
【0068】
近接スイッチ50がON状態、すなわち研削サイクルが開始されたら、接触検知センサ80が工作物Wと砥石車43との接触を検知したか否かを判定する(ステップS26)。
【0069】
そして、接触検知センサ80が工作物Wと砥石車43との接触を検知したら(ステップS26:Yes)、工作物Wを砥石車43により研削するときの研削残り取代Rnを測定する(ステップS27)。そして、研削残り取代Rnが0になったか否かを判定する(ステップS28)。
【0070】
そして、研削残り取代Rnが0でない場合には、研削残り取代Rnでの研削負荷Pnを閾値設定用データから読込む(ステップS29)。具体的には、図8に示す閾値設定用データ記憶部73に記憶された研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係に基づいて、研削残り取代測定部171により測定される研削残り取代Rnに対する研削負荷Pnを読込む。
【0071】
そして、研削負荷Pnの読込直後から、研削異常判定を行う(ステップS30)。つまり、研削残り取代Rnに対する研削負荷Pnが閾値P(R)を超えず、且つ閾値P(R)に近づくように砥石車43の研削条件、例えば砥石車43の研削送り速度、回転速度、工作物Wの回転速度等を変更し、粗研削の現時点における研削負荷Pnが閾値P(R)を超えたら研削異常の判定を行う。そして、研削残り取代Rnに対する研削負荷Pnが、閾値P(R)を超えていない場合には、正常と判定し(ステップS31)、ステップS27に戻って上述の処理を行う。
【0072】
一方、ステップS31において、研削残り取代Rnに対する研削負荷Pnが、閾値P(R)を超えている場合には、研削異常と判定し、図8の出力部76により、表示装置81に異常内容を表示し、記憶装置83に異常内容を記憶する(ステップS32)。そして、研削サイクルを停止する(ステップS33)。
【0073】
一方、ステップS28において、研削残り取代Rnが0になった場合には、近接スイッチ50がOFF状態、すなわち研削サイクルが終了したか否かを判定する(ステップS34)。そして、研削サイクルが終了した場合には、次の工作物Wが有るか否かを判定し(ステップS35)、次の工作物Wが有れば、該工作物Wの設置の段取りを行い(ステップS36)、ステップS23から処理を繰り返す。一方、次の工作物Wがなければ、研削サイクルを停止する(ステップS33)。
【0074】
以上説明したように、加工変質層の発生が許容される粗研削において、研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係に基づいて、第一実施形態での研削送り位置Xに対する研削負荷Pの代わりに、研削残り取代Rに対する研削負荷Pについての閾値P(R)を設定しており、この研削異常監視装置170によっても、第一実施形態の研削異常監視装置70と同様の効果を得ることができる。
【0075】
なお、研削負荷データの収集開始および収集終了の判定は、上記実施形態において接触検知センサ80を用いたが、この接触検知センサ80を用いずに、砥石台41およびテーブル20が予め設定されたX軸位置およびZ軸位置に移動してきたことにより行うこともできる。
【0076】
<第三実施形態>
次に、工作物Wの複数位置を同時に研削する場合には、以下のようにすることができる。つまり、それぞれの研削部位の研削負荷を算出し、それぞれの研削負荷を用いて、それぞれの研削部位における異常監視を行うようにすることもできる。第三実施形態について図11〜図13を参照して説明する。
【0077】
第一例は、図11に示す。第一例の工作物Wは、複数のフランジ部Wb,Wb、Wbを有する軸状に形成されている。そして、工作物Wのうち隣り合うフランジ部Wb,Wb,Wbの間に位置する小径軸部Wa,Waの外周面のそれぞれを砥石車43,43により研削する。そして、複数の変位センサ100,100により、工作物Wのそれぞれの小径軸部Wa,Waの外周面(研削部位)のうち砥石車43,43に研削される研削点から180°位相をずらした位置のたわみ変位量を検出する。
【0078】
それぞれの変位センサ100,100は、それぞれの研削部位の局所的なたわみ変位量を検出する。それぞれの変位センサ100,100は、工作物Wに接触するセンサでもよいし、非接触のセンサでもよい。例えば、非接触式センサとしては渦電流センサを適用できる。ここで、たわみ変位量は、各研削部位の局所的な研削負荷に応じた値となる。そして、研削負荷算出部72(図2,8に示す研削負荷算出部72に相当)が、変位センサ100,100により検出されたたわみ変位量に基づいて、各研削部位の研削負荷または研削負荷に応じた値を算出する。そして、上記実施形態と同様に、各研削部位が図2に示す異常判定部75にて研削異常であるか否かを判定する。このように、複数の研削部位のそれぞれについて、研削異常が発生しているか否かを判定できる。
【0079】
また、変位センサ100,100を温度センサ100,100に置換することができる。温度センサ100,100は、変位センサ100,100と同様に、工作物Wに接触するセンサでもよいし、非接触のセンサでもよい。それぞれの温度センサ100,100は、工作物Wの各研削部位の温度を検出する。温度センサ100,100は、工作物Wのそれぞれの小径軸部Wa,Waの外周面(研削部位)のうち砥石車43,43に研削される研削点から位相をずらした位置、例えば、90°や180°の位置の温度を検出する。ここで、研削負荷が大きいほど、研削部位の温度は高くなる。つまり、それぞれの温度センサ100,100により検出される研削部位の温度は、各研削部位の研削負荷に応じた値となる。そして、研削負荷算出部72が、各研削部位の温度に基づいて、各研削部位の研削負荷または研削負荷に応じた値を算出する。
【0080】
次に、第二例を説明する。図12に示すように、第二例の工作物Wは、軸方向に連設する大径軸部Wcおよび小径軸部Wdを有する。工作物Wの研削部位は、大径軸部Wcの外周面、小径軸部Wdの外周面、および、大径軸部Wcと小径軸部Wdとの段差端面である。これらを同時に総型の砥石車43により研削する。
【0081】
そして、変位センサ200,300は、大径軸部Wcの外周面および小径軸部Wdのそれぞれの径方向たわみ変位量を検出する。そして、研削負荷算出部72が、変位センサ200,300により検出されたそれぞれのたわみ変位量に基づいて、各研削部位の研削負荷または研削負荷に応じた値を算出する。そして、上記実施形態と同様に、各研削部位が図2に示す異常判定部75にて研削異常であるか否かを判定する。なお、この例においても、変位センサ200,300を温度センサに置換することができる。
【0082】
次に、第三例を説明する。図13に示すように、第三例の工作物Wは、軸部Weおよびフランジ部Wfを有する。工作物Wの研削部位は、軸部Weの外周面およびフランジ部Wfの端面である。これらを同時に砥石車43(アンギュラ砥石)の外周面によりアンギュラ研削を行う。ここで、アンギュラ研削とは、砥石車43の回転中心軸を工作物Wの回転中心軸に対して傾斜させた状態で、工作物Wの外周面および端面を研削する方法をいう。
【0083】
そして、変位センサ400は、研削部位である軸部Weの外周面の径方向たわみ変位量を検出する。一方、変位センサ500は、もう一つの研削部位であるフランジ部Wfの端面の軸方向たわみ変位量を検出する。そして、研削負荷算出部72が、変位センサ400,500により検出されたそれぞれのたわみ変位量に基づいて、各研削部位の研削負荷または研削負荷に応じた値を算出する。そして、上記実施形態と同様に、各研削部位が図2に示す異常判定部75にて研削異常であるか否かを判定する。なお、この例においても、変位センサ400,500を温度センサに置換することができる。
【0084】
また、第一例から第三例において、複数の研削部位のそれぞれを変位センサまたは温度センサによる検出値を用いて、それぞれの研削部位の研削負荷を算出した。この他に、第一実施形態に示したように、砥石車駆動用モータ42の駆動電力などを併用することで、1つの変位センサまたは温度センサを減らすことができる。つまり、砥石車駆動用モータ42の駆動電力に基づいて工作物W全体に生じる研削負荷を算出し、変位センサまたは温度センサにより局所的な研削部位の研削負荷を算出する。そして、変位センサおよび温度センサを設けていない研削部位は、工作物W全体の研削負荷から局所的な研削負荷を減算することにより算出できる。
【符号の説明】
【0085】
1:研削盤
10:ベッド、 11a,11b:Z軸ガイドレール、11c:Z軸ボールねじ
11d:Z軸モータ、12a,12b:X軸ガイドレール、 12c:X軸ボールねじ
12d:X軸モータ
20:テーブル
30:主軸台、 31:主軸台本体、 32:マグネットチャック、 33:シュー
34:主軸モータ
40:砥石支持装置、41:砥石台、 42:砥石車駆動用モータ
42a:モータ電力計、 43:砥石車
50:近接スイッチ、 60:制御装置、 80:接触検知センサ、 90:定寸装置
70:研削異常監視装置、 71:研削送り位置読込部、 72:研削負荷算出部
73:閾値設定用データ記憶部、 74:閾値設定部、 75:異常判定部
76:出力部
170:研削異常監視装置、 171:研削残り取代測定部、 174:閾値設定部
100,200,300,400,500:変位センサまたは温度センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作物の研削において研削異常の監視を行う方法および研削異常の監視を行う装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特開平4−176541号公報(特許文献1)には、工作物の研削において異常を判定する方法として、工具の送りモータの電流値が所定の閾値を超えたときに異常と判定することが記載されている。つまり、研削負荷が所定値より大きくなった場合、工作物に加工変質層が発生することから、異常であると判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−176541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、工作物に加工変質層が発生しても、その後の研削工程により加工変質層を取り除くことが可能であれば、正常であると判定してもよい。ところが、従来の工作物の研削において異常を判定する方法では、工作物に加工変質層が発生しないように閾値を設定していた。そのため、最終加工品が正常であっても途中の工程で一度閾値を越えてしまうと異常であると判定されてしまう。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、閾値をより適切に設定することにより、工作物に加工変質層が発生した場合でも研削異常の判定精度を向上することができる研削異常監視方法および研削異常監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(研削異常監視方法)
(請求項1)本発明の研削異常監視方法は、工作物と砥石車とを相対移動させることにより前記工作物を研削する研削盤を用いて、研削異常を監視する研削異常監視方法において、前記工作物を研削するときの前記砥石車の相対的な研削送り位置を検出する研削送り位置検出工程と、前記工作物を研削するときの研削負荷を検出する研削負荷検出工程と、前記工作物を研削したときの研削負荷が変化すると前記工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、前記研削送り位置に対する前記研削負荷についての閾値であり、前記研削送り位置に対応した前記閾値を設定する閾値設定工程と、検出した前記研削送り位置における前記研削負荷が前記研削送り位置に対応した前記閾値を超えた場合に研削異常であると判定する研削異常判定工程と、を備える。
【0007】
(請求項2)本発明の研削異常監視方法は、工作物と砥石車とを相対移動させることにより前記工作物を研削する研削盤を用いて、研削異常を監視する研削異常監視方法において、前記工作物を研削するときの研削残り取代を検出する研削残り取代検出工程と、前記工作物を研削するときの研削負荷を検出する研削負荷検出工程と、前記工作物を研削したときの研削負荷が変化すると前記工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、前記研削残り取代に対する前記研削負荷についての閾値であり、前記研削残り取代に応じて前記閾値を設定する閾値設定工程と、検出した前記研削残り取代における前記研削負荷が前記研削残り取代に対応した前記閾値を超えた場合に研削異常であると判定する研削異常判定工程と、を備える。
【0008】
(請求項3)前記研削異常監視方法は、前記砥石車の研削条件を変更する制御工程、を備え、前記制御工程は、検出した前記研削負荷が前記閾値を超えず、且つ前記閾値に近づくように前記砥石車の研削条件を変更するようにしてもよい。
【0009】
(請求項4)前記研削異常監視方法は、前記工作物の粗研削において適用するようにしてもよい。
【0010】
(請求項5)また、前記工作物の複数の研削部位を同時に研削する研削盤に適用され、複数の変位センサまたは温度センサにより前記工作物の複数の研削部位のそれぞれのたわみ変位量または温度を検出し、それぞれの前記たわみ変位量または温度に基づいてそれぞれの前記研削負荷を算出し、それぞれの前記研削負荷に基づいてそれぞれの前記研削部位の研削異常を判定するようにしてもよい。
【0011】
(研削異常監視装置)
(請求項6)本発明の研削異常監視装置は、工作物と砥石車とを相対移動させることにより前記工作物を研削する研削盤を用いて、研削異常を監視する研削異常監視装置において、前記工作物を研削するときの前記砥石車の相対的な研削送り位置を検出する研削送り位置検出手段と、前記工作物を研削するときの研削負荷を検出する研削負荷検出手段と、前記工作物を研削したときの研削負荷が変化すると前記工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、前記研削送り位置に対する前記研削負荷についての閾値であり、前記研削送り位置に対応した前記閾値を設定する閾値設定手段と、検出した前記研削送り位置における前記研削負荷が前記研削送り位置に対応した前記閾値を超えた場合に研削異常であると判定する研削異常判定手段と、を備える。
【0012】
(請求項7)本発明の研削異常監視装置は、工作物と砥石車とを相対移動させることにより前記工作物を研削する研削盤を用いて、研削異常を監視する研削異常監視装置において、前記工作物を研削するときの研削残り取代を検出する研削残り取代検出手段と、前記工作物を研削するときの研削負荷を検出する研削負荷検出手段と、前記工作物を研削したときの研削負荷が変化すると前記工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、前記研削残り取代に対する前記研削負荷についての閾値であり、前記研削残り取代に応じて前記閾値を設定する閾値設定手段と、検出した前記研削残り取代における前記研削負荷が前記研削残り取代に対応した前記閾値を超えた場合に研削異常であると判定する研削異常判定手段と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
(請求項1)工作物に加工変質層が発生しても、その後の研削により加工変質層を取り除くことが可能であれば、正常であると判定してもよい。そこで、本発明の研削異常監視方法のように、工作物を研削したときの研削負荷が変化すると工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、研削送り位置に対する研削負荷についての閾値を設定する。これにより、工作物に加工変質層が発生した場合でも研削異常の判定精度を向上することができる。
【0014】
(請求項2)工作物に加工変質層が発生しても、その後の研削により加工変質層を取り除くことが可能であれば、正常であると判定してもよい。そこで、本発明の研削異常監視方法のように、工作物を研削したときの研削負荷が変化すると工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、研削残り取代に対する研削負荷についての閾値を設定する。これにより、工作物に加工変質層が発生した場合でも研削異常の判定精度を向上することができる。
(請求項3)研削異常の判定に際して、研削負荷が閾値を超えなければ、正常であると判定している。そこで、研削負荷が閾値を超えず、且つ閾値に近づくように研削条件を変更しても、正常であると判定できる。そこで、閾値を超えず、且つ閾値に近い条件変更用目標値を設定し、この条件変更用目標値を超えたら条件変更用目標値を下回るように研削条件を変更することで、研削時間、すなわち研削サイクルタイムを短縮できる。
【0015】
(請求項4)研削異常監視方法を工作物の粗研削において適用することにより、加工変質層が発生してもよい速い研削速度で研削を行うことができるため、研削時間、すなわち研削サイクルタイムを短縮できる。
【0016】
(請求項5)これにより、工作物の複数の研削部位を同時に研削する場合に、それぞれの研削部位の研削異常を判定することができる。
【0017】
(請求項6)本発明の研削異常監視装置によれば、上述した研削異常監視方法における効果と同様の効果を奏する。また、研削異常監視方法における他の特徴部分について、本発明の研削異常監視装置に同様に適用できる。そして、同様の効果を奏する。
【0018】
(請求項7)本発明の研削異常監視装置によれば、上述した研削異常監視方法における効果と同様の効果を奏する。また、研削異常監視方法における他の特徴部分について、本発明の研削異常監視装置に同様に適用できる。そして、同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】研削盤の平面図である。
【図2】第一実施形態:研削異常監視装置の機能ブロック図である。
【図3】第一実施形態:異常監視プログラムのフローチャートである。
【図4】研削負荷と加工変質層厚さとの関係のテーブルデータを示す図である。
【図5】一般的な研削送り位置に対する研削負荷を閾値と共に示す図である。
【図6】第一実施形態:研削送り位置に対する研削負荷を閾値と共に示す図である。
【図7】表示装置の画面の履歴表示状態を示す。
【図8】第二実施形態:研削異常監視装置の機能ブロック図である。
【図9】第二実施形態:異常監視プログラムのフローチャートである。
【図10】第二実施形態:研削残り取代に対する研削負荷を示す図である。
【図11】第三実施形態における第一例を示す図である。
【図12】第三実施形態における第二例を示す図である。
【図13】第三実施形態における第三例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1.研削盤の機械構成)
研削盤1の一例として、主軸台トラバース型内面研削盤を例に挙げ、図1を参照して説明する。そして、当該研削盤1の研削対象の工作物Wを軸受の外輪とし、当該研削盤1を用いて当該軸受の外輪の内周軌道面を研削する場合を例に挙げて説明する。そして、ここでは、同種の工作物Wを複数個研削する場合、すなわち量産製品としての工作物Wを製造する場合を対象として説明する。
【0021】
図1に示すように、研削盤1は、ベッド10と、テーブル20と、主軸台30と、砥石支持装置40と、近接スイッチ50と、接触検知センサ80と、砥石車成形装置(図示せず)と、制御装置60と、定寸装置90とから構成される。
【0022】
ベッド10は、ほぼ矩形状からなり、床上に配置される。ただし、ベッド10の形状は矩形状に限定されるものではない。このベッド10の上面には、一対のZ軸ガイドレール11a,11bが、図1の左右方向(Z軸方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。一対のZ軸ガイドレール11a,11bは、テーブル20が摺動可能なレールである。さらに、ベッド10には、一対のZ軸ガイドレール11a,11bの間に、テーブル20を図1の左右方向に駆動するための、Z軸ボールねじ11cが配置され、このZ軸ボールねじ11cを回転駆動するZ軸モータ11dが配置されている。
【0023】
さらに、ベッド10の上面には、砥石台42が摺動可能な一対のX軸ガイドレール12a,12bが、図1の上下方向(X軸方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。さらに、ベッド10には、一対のX軸ガイドレール12a,12bの間に、砥石台41を図1の上下方向に駆動するための、X軸ボールねじ12cが配置され、このX軸ボールねじ12cを回転駆動するX軸モータ12dが配置されている。
【0024】
テーブル20は、長手矩形の平板状に形成されており、ベッド10の上面のうち、一対のZ軸ガイドレール11a,11b上を摺動可能に配置されている。テーブル20は、Z軸ボールねじ11cのナット部材に連結されており、Z軸モータ11dの駆動により一対のZ軸ガイドレール11a,11bに沿って移動する。このZ軸モータ11dはエンコーダを有しており、エンコーダによりZ軸モータ11dの回転角を検出することができる。
【0025】
主軸台30は、テーブル20の上面に設けられ、工作物Wを回転可能に支持する。具体的には、主軸台30は、主軸台本体31と、マグネットチャック32と、シュー33と、主軸モータ34とを備えている。主軸台本体31は、テーブル20の上面のうち、図1の左側に固定されている。この主軸台本体31には、Z軸周りに回転可能にマグネットチャック32が設けられている。マグネットチャック32は、工作物Wである軸受を磁力により吸着して保持する。シュー33、マグネットチャック32は、主軸台30に設けられ、シュー33によって工作物Wの側面を支持することにより、工作物Wの位置決めを行う。そして、マグネットチャック32は、主軸モータ34により主軸台本体31に対して回転駆動される。この主軸モータ34はエンコーダを有しており、エンコーダにより主軸モータ34の回転角を検出することができる。
【0026】
砥石支持装置40は、砥石台41と、砥石車駆動用モータ42と、砥石車43とを備えている。砥石台41は、ベッド10の上面のうち、一対のX軸ガイドレール12a,12b上を摺動可能に配置されている。そして、砥石台41は、X軸ボールねじ12cのナット部材に連結されており、X軸モータ12dの駆動により一対のX軸ガイドレール12a,12bに沿って移動する。
【0027】
そして、この砥石台41のうち主軸台30側のX軸方向端面には、砥石車駆動用モータ42が固定されている。この砥石車駆動用モータ42の先端には、工作物Wである軸受外輪の内周軌道面を研削する砥石車43が設けられている。つまり、砥石車43は、砥石台41に対して、Z軸周りに回転可能に取り付けられている。
【0028】
近接スイッチ50は、ベッド10の上面に設けられ、砥石車43により工作物Wである軸受外輪の研削サイクル開始および研削サイクル終了を検出するスイッチである。つまり、近接スイッチ50は、近接スイッチ50に砥石台41が接近して、近接スイッチ50と砥石台41とのZ軸方向離間距離が設定値以下になると研削サイクル開始と判断する。一方、近接スイッチ50は、近接スイッチ50から砥石台41が遠ざかり、近接スイッチ50と砥石台41とのZ軸方向離間距離が設定値を超えた場合に研削サイクル終了と判断する。
【0029】
接触検知センサ80は、主軸台本体31の側面に設けられ、砥石車43により工作物Wである軸受外輪の研削開始を検出するセンサである。つまり、接触検知センサ80は、工作物Wに砥石車43が接触すると該接触を検知して研削開始と判断する。接触検知センサ80としては、例えばAEセンサが用いられる。
なお、接触検知センサ80は、本実施形態において、研削負荷データの収集開始および収集終了の判定に用いている。接触検知センサ80に代えて、砥石台41のX軸位置およびテーブル20のZ軸位置に基づいて研削負荷データの収集開始および収集終了の判定を行うこともできる。
【0030】
砥石車成形装置(図示せず)は、例えば主軸台30やベッド10に設けられ、砥石車43の外周面を成形するドレッサーである。この砥石車成形装置によりドレッシングされた砥石車43は、切れ味の良好な状態となり、かつ、所望形状に形成される。
【0031】
定寸装置90は、テーブル20の上面に設けられ、砥石車43により工作物Wである軸受外輪の内周軌道面を研削しているときの研削送り位置における工作物Wの内径を測定する装置である。この定寸装置90は、装置本体から延びるL字状のアーム91が図略の駆動装置により図1の左右方向および上下方向に移動可能に構成され、アーム91の先端に装着されたプローブ92が軸受外輪の内周軌道面に常に当接可能に構成されている。
【0032】
制御装置60は、各モータを制御して、工作物WをZ軸周りに回転させ、砥石車43を回転させ、且つ、工作物Wと砥石車43とをZ軸方向およびX軸方向の相対移動することにより工作物Wである軸受外輪の内周軌道面の研削の適応制御を行う。詳細は後述する。また、制御装置60は、工作物Wの粗研削において研削負荷が閾値を超えたときの研削異常を監視する研削異常監視装置70を備えている。ただし、研削異常監視装置70は、制御装置60の内部に備えるものに限られず、外部装置として適用することもできる。
【0033】
(2.研削異常および閾値の説明)
次に、研削異常監視装置70により監視する研削異常および研削異常監視装置70に設定される閾値について説明する。研削異常としては、研削負荷が所定値より大きくなった場合に発生する研削焼け(加工変質層)がある。この加工変質層の厚さaは、例えば、図4に示すように、研削負荷PがPnからP1と大きくなるにつれてanからa1と厚くなる関係にある。
【0034】
ここで、砥石車43のX軸方向の研削送り位置Xと研削負荷Pとの一般的な関係の概略を図5を参照して説明する。研削送り位置XがX0に達すると黒皮(加工が施されていない表面)の研削が開始され、研削負荷Pが徐々に上昇する。研削送り位置XがXsに達すると粗研削が開始され、研削送り位置XがXeに達すると粗研削が終了して仕上げ研削が開始され、研削負荷Pが徐々に下降する。そして、研削送り位置Xが最終研削送り位置Xfに達すると仕上げ研削が終了する。
【0035】
従来の研削異常監視装置では、工作物Wに加工変質層が発生しない研削負荷Pを閾値Ptとして設定しているが、本実施形態の研削異常監視装置70では、工作物Wに発生した加工変質層をその後の研削により取り除くことが可能な研削負荷Pを閾値として設定する。すなわち、加工変質層の発生が許容される粗研削において、図4に示す研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係に基づいて、研削送り位置Xに対する研削負荷Pについての閾値P(X)を設定する。この閾値P(X)は、例えば、図6に示すように、研削送り位置XがXsからXeと進むにつれてPsからPeと小さくなる関係にある。
【0036】
この閾値P(X)を設定することにより、粗研削の初期段階において工作物Wに加工変質層が発生しても、その後の研削により加工変質層を取り除くことが可能となるので、従来は異常であると判定されていたものが正常であると判定されることになる。また、研削負荷Pが閾値P(X)より大きくなった場合は、その後の研削により加工変質層を取り除くことが不可能となるので、異常であると判定されることになる。よって、工作物Wの研削不良率を低減させることができると共に、研削異常の判定精度を向上することができる。また、図6に示すように、粗研削において従来(図示点線のグラフ)よりも研削負荷Pを増加させることができるので、研削のサイクルタイムを短縮させることができる。
【0037】
(3.研削異常監視装置の構成)
次に、研削異常監視装置70について、図2の機能ブロック図を参照して説明する。ここで研削異常監視装置70を説明するに当たり、図2には、上述した研削盤1の一部構成についても記載する。ここで、図2において、図1の研削盤1の構成と同一構成については、同一符号を付す。そして、砥石車駆動用モータ42には、当該砥石車駆動用モータ42の駆動電力を計測するモータ電力計42aが取り付けられている。なお、モータ電力計42aに代えて、砥石車駆動用モータ42のモータアンプにより直接電力値を収集してもよい。
【0038】
研削異常監視装置70は、研削送り位置読込部71と、研削負荷算出部72と、閾値設定用データ記憶部73と、閾値設定部74と、異常判定部75と、出力部76とを備えて構成される。研削送り位置読込部71は、制御装置60から砥石車43の研削送り位置を読み込む。
【0039】
研削負荷算出部72は、モータ電力計42aから取り込んだ砥石車駆動用モータ42の駆動電力に基づいて、工作物Wを砥石車43により研削することにより発生する研削負荷Pを算出する。研削負荷Pは、砥石車駆動用モータ42の駆動電力が大きくなれば大きくなる関係を有している。なお、研削負荷Pの算出方法として、本実施形態においては、砥石車駆動用モータ42の駆動電力を用いるが、この他に以下により研削負荷Pを算出することもできる。例えば、研削負荷Pは、砥石車駆動用モータ42の電流値、砥石車43と工作物Wとの相対移動を行うX軸モータ12dの電流値、電力値、工作物Wを回転可能に駆動する主軸モータ34の電流値、電力値、砥石車43または工作物Wの支持部分のたわみ変形量などにより算出できる。
【0040】
また、研削負荷Pは、工作物Wにおける研削部位の変形量、すなわち砥石車43に押し付けられることにより生じる工作物Wのたわみ変位量に基づいて算出できる。当該たわみ変位量は、研削負荷Pに応じたものとなるためである。工作物Wにおける研削部位のたわみ変位量は、例えば、変位センサにより計測する。
【0041】
また、研削負荷Pは、工作物Wの研削部位の温度により算出できる。当該温度は、研削負荷に応じたものとなるためである。ただし、工作物Wにおける砥石車43に接触している点、すなわち研削点の温度を計測することは容易でない。そこで、工作物Wの研削部位(内周面または外周面)のうち研削点(砥石車43との接触点)からずれた位相の部位の温度を計測する。工作物Wの研削部位の温度は、研削点と研削点からずれた位相では異なるが、研削点からずれた位相の温度は、研削点の温度に応じた値となる。従って、研削点からずれた位相であっても十分に計測できる。そして、工作物Wの研削部位のうち研削点からずれた位相の温度の計測は、当該部位に接触させる接触式温度センサまたは当該部位に非接触とする非接触式温度センサにより計測する。
【0042】
閾値設定用データ記憶部73は、作業者によって予め実測された研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係のテーブルデータ(図4参照)を記憶する。
【0043】
閾値設定部74は、閾値設定用データ記憶部73に記憶された研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係に基づいて、研削送り位置読込部71により読み込まれる粗研削時の研削送り位置Xに対する研削負荷Pについての閾値P(X)を設定する。
【0044】
異常判定部75は、研削負荷算出部72により算出される粗研削時の研削負荷Pが閾値P(X)を超えた場合に、研削異常であると判定する。
【0045】
出力部76は、研削異常であると判定された場合に、研削異常に関する情報について、表示装置81の画面への表示処理、印刷装置82による印字処理、記憶装置83への記憶処理、または通信装置84により外部装置への通信出力などを行う。出力の選択は、作業者により行われる。これにより、研削異常に関する情報について、作業者によって選択された出力形態により、作業者は確実に研削異常を把握することができる。
【0046】
(4.研削異常監視装置による処理)
次に、研削異常監視装置70による研削異常監視プログラムの実行について、図3を参照して説明する。研削異常監視プログラムは、図6に示すように、現在の研削負荷Pと予め設定された閾値P(X)とに基づいて、研削異常が発生したか否かを判定する。以下に詳細に説明する。
【0047】
図3に示すように、閾値設定用データとして研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係のテーブルデータ(図4参照)が既に記憶されているか否かを判定する(ステップS1)。まだ記憶されていなければ、閾値設定用データを読込む(ステップS2)。
【0048】
閾値設定用データが記憶されていれば、砥石車43の径の読込、算出を行う(ステップS3)。この砥石車43の径に基づいて、最終研削送り位置Xfを算出する(ステップS4)。この最終研削送り位置Xfを基準に、研削スタート位置までの各研削送り位置Xnの相対距離In=|Xf−Xn|を算出する(ステップS5)。
【0049】
閾値設定用データを参照して相対距離Inが加工変質層の厚さanのときの研削負荷Pnを算出する(ステップS6)。そして、各研削送り位置Xnでの研削負荷Pnを設定する(ステップS7)。
【0050】
続いて研削サイクルを開始する(ステップS8)。研削サイクルが開始されることで、図2に示すように、制御装置60が各モータを駆動し、砥石車43により工作物Wである軸受外輪の内周軌道面を研削し始める。より詳細には、研削サイクル開始後、図1に示すように、砥石車43が工作物Wである軸受外輪の径方向内側に進入可能となる位置に向かって、砥石台41を基準位置(図示せず)からX軸方向へ移動させる。その後、テーブル20をZ軸方向に移動させることにより、砥石車43が工作物Wである軸受外輪の径方向内側に進入する。そして、砥石車43が工作物Wである軸受外輪の内周軌道面に向かってX軸方向に移動し、工作物Wと砥石車43との接触検知後、研削を開始する。工作物Wの研削は、黒皮を研削してから粗研削を行った後に、仕上研削を連続して行う。研削が終了すると、研削開始までとは逆の順序で動作し、基準位置に戻り、研削サイクルを終了する。
【0051】
近接スイッチ50がON状態、すなわち研削サイクルが開始されたら、接触検知センサ80が工作物Wと砥石車43との接触を検知したか否かを判定する(ステップS9)。
【0052】
そして、接触検知センサ80が工作物Wと砥石車43との接触を検知したら(ステップS9:Yes)、工作物Wを砥石車43により研削するときの研削送り位置Xnを読み込み、研削負荷Pnを測定する(ステップS10)。具体的には、図2に示す研削送り位置読込部71が制御装置60から砥石車43の研削送り位置Xnを読み込む。そして、研削送り位置Xnが最終研削送り位置Xf、すなわち工作物Wの研削が終了して最終寸法になったか否かを判定する(ステップS11)。
【0053】
そして、研削送り位置Xnが最終研削送り位置Xfでない場合には、研削送り位置Xnでの研削負荷Pnを閾値設定用データから読込む(ステップS12)。具体的には、図2に示す閾値設定用データ記憶部73に記憶された研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係に基づいて、研削送り位置読込部71により読み込まれる粗研削時の研削送り位置Xnに対する研削負荷Pnを読込む。
【0054】
そして、研削負荷Pnの読込直後から、研削異常判定を行う(ステップS13)。つまり、粗研削の現時点における研削負荷Pnが閾値P(X)を超えず、且つ閾値P(X)に近づくように砥石車43の研削条件、例えば砥石車43の研削送り速度、回転速度、工作物Wの回転速度等を変更し、粗研削の現時点における研削負荷Pnが閾値P(X)を超えたら研削異常の判定を行う。
【0055】
具体的には、図6に示すように、閾値P(X)を超えず、且つ閾値P(X)に近い条件変更用目標値Q(X)を設定し、この条件変更用目標値Q(X)を超えたら条件変更用目標値Q(X)を下回るように研削条件を変更する。そして、粗研削の現時点における研削負荷Pが、閾値P(X)を超えていない場合には、正常と判定し(ステップS14)、ステップS10に戻って上述の処理を行う。
【0056】
一方、ステップS13において、粗研削の現時点における研削負荷Pnが、閾値P(X)を超えている場合には、研削異常と判定し、図2の出力部76により、表示装置81に異常内容を表示し、記憶装置83に異常内容を記憶する(ステップS15)。そして、研削サイクルを停止する(ステップS16)。
【0057】
一方、ステップS11において、研削送り位置Xnが最終研削送り位置Xf、すなわち工作物Wの研削が終了して最終寸法になった場合には、近接スイッチ50がOFF状態、すなわち研削サイクルが終了したか否かを判定する(ステップS17)。そして、研削サイクルが終了した場合には、次の工作物Wが有るか否かを判定し(ステップS18)、次の工作物Wが有れば、該工作物Wの設置の段取りを行い(ステップS19)、ステップS8から処理を繰り返す。一方、次の工作物Wがなければ、研削サイクルを停止する(ステップS16)。
【0058】
(5.表示装置の画面の履歴表示状態)
次に、図7を参照して、表示装置81の画面の履歴表示状態について説明する。図3の研削異常監視プログラムの実行により、研削異常が発生した場合には(図3のステップS15)、異常内容が記憶装置83に記憶される。なお、記憶装置83には、異常内容の他、正常内容についても記憶しても良い。そして、多数の工作物Wの研削が行われた場合、記憶装置83には、過去の異常履歴が記憶される。また、研削異常として記憶されていない工作物Wは、正常であることが分かる。また、記憶装置83に正常内容が記憶されている場合には、直接的に正常である工作物Wを把握できる。
【0059】
そうすると、図7に示すように、表示装置81の画面には、全ての工作物Wについて、正常であるか研削異常であるかが表示される。このように、研削異常に関する情報の過去の履歴を記憶することで、研削異常の傾向を把握できる。そこで、研削異常の傾向を用いることで、今後の研削を行う際に、研削異常の発生の前兆を予測できる。その結果、今後の研削について、適切な対策を決定できる。
【0060】
以上説明したように、加工変質層の発生が許容される粗研削において、研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係に基づいて、研削送り位置Xに対する研削負荷Pについての閾値P(X)を設定している。これにより、粗研削において工作物Wに加工変質層が発生しても、その後の研削により加工変質層を取り除くことが可能となるので、従来は異常であると判定されていたものが正常であると判定されることになる。また、研削負荷Pが閾値P(X)より大きくなった場合は、その後の研削により加工変質層を取り除くことが不可能となるので、異常であると判定されることになる。よって、工作物Wの研削不良率を低減させることができると共に、研削異常の判定精度を向上することができる。また、粗研削において従来よりも研削負荷Pを増加させることができるので、研削のサイクルタイムを短縮させることができる。
【0061】
<第二実施形態>
次に、第二実施形態の研削異常監視装置について説明する。上述した研削異常監視装置70は、砥石車43の研削送り位置Xを算出して閾値P(X)を設定することとした。本実施形態では、定寸装置90を用いて研削残り取代Rを算出して閾値P(R)を設定することとした。以下に詳細に説明する。
【0062】
(1.研削異常監視装置の構成)
本実施形態における研削異常監視装置170について図8を参照して説明する。本実施形態の研削異常監視装置170は、研削残り取代測定部171と、研削負荷算出部72(第一実施形態と同様)と、閾値設定用データ記憶部73(第一実施形態と同様)と、閾値設定部174と、異常判定部75(第一実施形態と同様)と、出力部76(第一実施形態と同様)とを備えて構成される。
【0063】
研削残り取代測定部171は、定寸装置90から読み込んだ工作物Wを砥石車43により研削するときの研削送り位置における工作物Wの内径に基づいて、研削残り取代Rを算出する。閾値設定部174は、閾値設定用データ記憶部73に記憶された研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係に基づいて、研削残り取代算出部171により算出される粗研削時の研削残り取代Rに対する研削負荷Pについての閾値P(R)を設定する。この閾値P(R)は、例えば、図10に示すように、研削残り取代RがReからRsと多くなるにつれてPeからPsと大きくなる関係にある。
【0064】
(2.研削異常監視装置による処理)
研削異常監視装置170による処理について図9を参照して説明する。閾値設定用データとして研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係のテーブルデータ(図4参照)が既に記憶されているか否かを判定する(ステップS21)。まだ記憶されていなければ、閾値設定用データを読込む(ステップS22)。
【0065】
閾値設定用データが記憶されていれば、研削サイクルを開始する(ステップS23)。研削サイクルが開始されることで、図8に示すように、制御装置60が各モータを駆動し、砥石車43により工作物Wである軸受外輪の内周軌道面を研削し始める。
【0066】
研削サイクル開始後、工作物Wを砥石車43により研削するときの研削残り取代Rsを測定する(ステップS24)。具体的には、図8に示す研削残り取代測定部171が定寸装置90から読み込んだ工作物Wを砥石車43により研削するときの研削送り位置における工作物Wの内径に基づいて、研削残り取代Rsを測定する。
【0067】
そして、閾値設定用データから各研削残り取代Rnに対する研削負荷Pnを設定する(ステップS25)。具体的には、図8に示す閾値設定用データ記憶部73に記憶された研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係に基づいて、研削残り取代測定部171により測定される各研削残り取代Rnに対する研削負荷Pを設定する。
【0068】
近接スイッチ50がON状態、すなわち研削サイクルが開始されたら、接触検知センサ80が工作物Wと砥石車43との接触を検知したか否かを判定する(ステップS26)。
【0069】
そして、接触検知センサ80が工作物Wと砥石車43との接触を検知したら(ステップS26:Yes)、工作物Wを砥石車43により研削するときの研削残り取代Rnを測定する(ステップS27)。そして、研削残り取代Rnが0になったか否かを判定する(ステップS28)。
【0070】
そして、研削残り取代Rnが0でない場合には、研削残り取代Rnでの研削負荷Pnを閾値設定用データから読込む(ステップS29)。具体的には、図8に示す閾値設定用データ記憶部73に記憶された研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係に基づいて、研削残り取代測定部171により測定される研削残り取代Rnに対する研削負荷Pnを読込む。
【0071】
そして、研削負荷Pnの読込直後から、研削異常判定を行う(ステップS30)。つまり、研削残り取代Rnに対する研削負荷Pnが閾値P(R)を超えず、且つ閾値P(R)に近づくように砥石車43の研削条件、例えば砥石車43の研削送り速度、回転速度、工作物Wの回転速度等を変更し、粗研削の現時点における研削負荷Pnが閾値P(R)を超えたら研削異常の判定を行う。そして、研削残り取代Rnに対する研削負荷Pnが、閾値P(R)を超えていない場合には、正常と判定し(ステップS31)、ステップS27に戻って上述の処理を行う。
【0072】
一方、ステップS31において、研削残り取代Rnに対する研削負荷Pnが、閾値P(R)を超えている場合には、研削異常と判定し、図8の出力部76により、表示装置81に異常内容を表示し、記憶装置83に異常内容を記憶する(ステップS32)。そして、研削サイクルを停止する(ステップS33)。
【0073】
一方、ステップS28において、研削残り取代Rnが0になった場合には、近接スイッチ50がOFF状態、すなわち研削サイクルが終了したか否かを判定する(ステップS34)。そして、研削サイクルが終了した場合には、次の工作物Wが有るか否かを判定し(ステップS35)、次の工作物Wが有れば、該工作物Wの設置の段取りを行い(ステップS36)、ステップS23から処理を繰り返す。一方、次の工作物Wがなければ、研削サイクルを停止する(ステップS33)。
【0074】
以上説明したように、加工変質層の発生が許容される粗研削において、研削負荷Pと加工変質層の厚さaとの関係に基づいて、第一実施形態での研削送り位置Xに対する研削負荷Pの代わりに、研削残り取代Rに対する研削負荷Pについての閾値P(R)を設定しており、この研削異常監視装置170によっても、第一実施形態の研削異常監視装置70と同様の効果を得ることができる。
【0075】
なお、研削負荷データの収集開始および収集終了の判定は、上記実施形態において接触検知センサ80を用いたが、この接触検知センサ80を用いずに、砥石台41およびテーブル20が予め設定されたX軸位置およびZ軸位置に移動してきたことにより行うこともできる。
【0076】
<第三実施形態>
次に、工作物Wの複数位置を同時に研削する場合には、以下のようにすることができる。つまり、それぞれの研削部位の研削負荷を算出し、それぞれの研削負荷を用いて、それぞれの研削部位における異常監視を行うようにすることもできる。第三実施形態について図11〜図13を参照して説明する。
【0077】
第一例は、図11に示す。第一例の工作物Wは、複数のフランジ部Wb,Wb、Wbを有する軸状に形成されている。そして、工作物Wのうち隣り合うフランジ部Wb,Wb,Wbの間に位置する小径軸部Wa,Waの外周面のそれぞれを砥石車43,43により研削する。そして、複数の変位センサ100,100により、工作物Wのそれぞれの小径軸部Wa,Waの外周面(研削部位)のうち砥石車43,43に研削される研削点から180°位相をずらした位置のたわみ変位量を検出する。
【0078】
それぞれの変位センサ100,100は、それぞれの研削部位の局所的なたわみ変位量を検出する。それぞれの変位センサ100,100は、工作物Wに接触するセンサでもよいし、非接触のセンサでもよい。例えば、非接触式センサとしては渦電流センサを適用できる。ここで、たわみ変位量は、各研削部位の局所的な研削負荷に応じた値となる。そして、研削負荷算出部72(図2,8に示す研削負荷算出部72に相当)が、変位センサ100,100により検出されたたわみ変位量に基づいて、各研削部位の研削負荷または研削負荷に応じた値を算出する。そして、上記実施形態と同様に、各研削部位が図2に示す異常判定部75にて研削異常であるか否かを判定する。このように、複数の研削部位のそれぞれについて、研削異常が発生しているか否かを判定できる。
【0079】
また、変位センサ100,100を温度センサ100,100に置換することができる。温度センサ100,100は、変位センサ100,100と同様に、工作物Wに接触するセンサでもよいし、非接触のセンサでもよい。それぞれの温度センサ100,100は、工作物Wの各研削部位の温度を検出する。温度センサ100,100は、工作物Wのそれぞれの小径軸部Wa,Waの外周面(研削部位)のうち砥石車43,43に研削される研削点から位相をずらした位置、例えば、90°や180°の位置の温度を検出する。ここで、研削負荷が大きいほど、研削部位の温度は高くなる。つまり、それぞれの温度センサ100,100により検出される研削部位の温度は、各研削部位の研削負荷に応じた値となる。そして、研削負荷算出部72が、各研削部位の温度に基づいて、各研削部位の研削負荷または研削負荷に応じた値を算出する。
【0080】
次に、第二例を説明する。図12に示すように、第二例の工作物Wは、軸方向に連設する大径軸部Wcおよび小径軸部Wdを有する。工作物Wの研削部位は、大径軸部Wcの外周面、小径軸部Wdの外周面、および、大径軸部Wcと小径軸部Wdとの段差端面である。これらを同時に総型の砥石車43により研削する。
【0081】
そして、変位センサ200,300は、大径軸部Wcの外周面および小径軸部Wdのそれぞれの径方向たわみ変位量を検出する。そして、研削負荷算出部72が、変位センサ200,300により検出されたそれぞれのたわみ変位量に基づいて、各研削部位の研削負荷または研削負荷に応じた値を算出する。そして、上記実施形態と同様に、各研削部位が図2に示す異常判定部75にて研削異常であるか否かを判定する。なお、この例においても、変位センサ200,300を温度センサに置換することができる。
【0082】
次に、第三例を説明する。図13に示すように、第三例の工作物Wは、軸部Weおよびフランジ部Wfを有する。工作物Wの研削部位は、軸部Weの外周面およびフランジ部Wfの端面である。これらを同時に砥石車43(アンギュラ砥石)の外周面によりアンギュラ研削を行う。ここで、アンギュラ研削とは、砥石車43の回転中心軸を工作物Wの回転中心軸に対して傾斜させた状態で、工作物Wの外周面および端面を研削する方法をいう。
【0083】
そして、変位センサ400は、研削部位である軸部Weの外周面の径方向たわみ変位量を検出する。一方、変位センサ500は、もう一つの研削部位であるフランジ部Wfの端面の軸方向たわみ変位量を検出する。そして、研削負荷算出部72が、変位センサ400,500により検出されたそれぞれのたわみ変位量に基づいて、各研削部位の研削負荷または研削負荷に応じた値を算出する。そして、上記実施形態と同様に、各研削部位が図2に示す異常判定部75にて研削異常であるか否かを判定する。なお、この例においても、変位センサ400,500を温度センサに置換することができる。
【0084】
また、第一例から第三例において、複数の研削部位のそれぞれを変位センサまたは温度センサによる検出値を用いて、それぞれの研削部位の研削負荷を算出した。この他に、第一実施形態に示したように、砥石車駆動用モータ42の駆動電力などを併用することで、1つの変位センサまたは温度センサを減らすことができる。つまり、砥石車駆動用モータ42の駆動電力に基づいて工作物W全体に生じる研削負荷を算出し、変位センサまたは温度センサにより局所的な研削部位の研削負荷を算出する。そして、変位センサおよび温度センサを設けていない研削部位は、工作物W全体の研削負荷から局所的な研削負荷を減算することにより算出できる。
【符号の説明】
【0085】
1:研削盤
10:ベッド、 11a,11b:Z軸ガイドレール、11c:Z軸ボールねじ
11d:Z軸モータ、12a,12b:X軸ガイドレール、 12c:X軸ボールねじ
12d:X軸モータ
20:テーブル
30:主軸台、 31:主軸台本体、 32:マグネットチャック、 33:シュー
34:主軸モータ
40:砥石支持装置、41:砥石台、 42:砥石車駆動用モータ
42a:モータ電力計、 43:砥石車
50:近接スイッチ、 60:制御装置、 80:接触検知センサ、 90:定寸装置
70:研削異常監視装置、 71:研削送り位置読込部、 72:研削負荷算出部
73:閾値設定用データ記憶部、 74:閾値設定部、 75:異常判定部
76:出力部
170:研削異常監視装置、 171:研削残り取代測定部、 174:閾値設定部
100,200,300,400,500:変位センサまたは温度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物と砥石車とを相対移動させることにより前記工作物を研削する研削盤を用いて、研削異常を監視する研削異常監視方法において、
前記工作物を研削するときの前記砥石車の相対的な研削送り位置を検出する研削送り位置検出工程と、
前記工作物を研削するときの研削負荷を検出する研削負荷検出工程と、
前記工作物を研削したときの研削負荷が変化すると前記工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、前記研削送り位置に対する前記研削負荷についての閾値であり、前記研削送り位置に対応した前記閾値を設定する閾値設定工程と、
検出した前記研削送り位置における前記研削負荷が前記研削送り位置に対応した前記閾値を超えた場合に研削異常であると判定する研削異常判定工程と、
を備える研削異常監視方法。
【請求項2】
工作物と砥石車とを相対移動させることにより前記工作物を研削する研削盤を用いて、研削異常を監視する研削異常監視方法において、
前記工作物を研削するときの研削残り取代を検出する研削残り取代検出工程と、
前記工作物を研削するときの研削負荷を検出する研削負荷検出工程と、
前記工作物を研削したときの研削負荷が変化すると前記工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、前記研削残り取代に対する前記研削負荷についての閾値であり、前記研削残り取代に応じて前記閾値を設定する閾値設定工程と、
検出した前記研削残り取代における前記研削負荷が前記研削残り取代に対応した前記閾値を超えた場合に研削異常であると判定する研削異常判定工程と、
を備える研削異常監視方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記研削異常監視方法は、
前記砥石車の研削条件を変更する制御工程、
を備え、
前記制御工程は、検出した前記研削負荷が前記閾値を超えず、且つ前記閾値に近づくように前記砥石車の研削条件を変更する研削異常監視方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、
前記研削異常監視方法は、前記工作物の粗研削において適用する研削異常監視方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項において、
前記工作物の複数の研削部位を同時に研削する研削盤に適用され、
複数の変位センサまたは温度センサにより前記工作物の複数の研削部位のそれぞれのたわみ変位量または温度を検出し、それぞれの前記たわみ変位量または温度に基づいてそれぞれの前記研削負荷を算出し、
それぞれの前記研削負荷に基づいてそれぞれの前記研削部位の研削異常を判定する研削異常監視方法。
【請求項6】
工作物と砥石車とを相対移動させることにより前記工作物を研削する研削盤を用いて、研削異常を監視する研削異常監視装置において、
前記工作物を研削するときの前記砥石車の相対的な研削送り位置を検出する研削送り位置検出手段と、
前記工作物を研削するときの研削負荷を検出する研削負荷検出手段と、
前記工作物を研削したときの研削負荷が変化すると前記工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、前記研削送り位置に対する前記研削負荷についての閾値であり、前記研削送り位置に対応した前記閾値を設定する閾値設定手段と、
検出した前記研削送り位置における前記研削負荷が前記研削送り位置に対応した前記閾値を超えた場合に研削異常であると判定する研削異常判定手段と、
を備える研削異常監視装置。
【請求項7】
工作物と砥石車とを相対移動させることにより前記工作物を研削する研削盤を用いて、研削異常を監視する研削異常監視装置において、
前記工作物を研削するときの研削残り取代を検出する研削残り取代検出手段と、
前記工作物を研削するときの研削負荷を検出する研削負荷検出手段と、
前記工作物を研削したときの研削負荷が変化すると前記工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、前記研削残り取代に対する前記研削負荷についての閾値であり、前記研削残り取代に応じて前記閾値を設定する閾値設定手段と、
検出した前記研削残り取代における前記研削負荷が前記研削残り取代に対応した前記閾値を超えた場合に研削異常であると判定する研削異常判定手段と、
を備える研削異常監視装置。
【請求項1】
工作物と砥石車とを相対移動させることにより前記工作物を研削する研削盤を用いて、研削異常を監視する研削異常監視方法において、
前記工作物を研削するときの前記砥石車の相対的な研削送り位置を検出する研削送り位置検出工程と、
前記工作物を研削するときの研削負荷を検出する研削負荷検出工程と、
前記工作物を研削したときの研削負荷が変化すると前記工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、前記研削送り位置に対する前記研削負荷についての閾値であり、前記研削送り位置に対応した前記閾値を設定する閾値設定工程と、
検出した前記研削送り位置における前記研削負荷が前記研削送り位置に対応した前記閾値を超えた場合に研削異常であると判定する研削異常判定工程と、
を備える研削異常監視方法。
【請求項2】
工作物と砥石車とを相対移動させることにより前記工作物を研削する研削盤を用いて、研削異常を監視する研削異常監視方法において、
前記工作物を研削するときの研削残り取代を検出する研削残り取代検出工程と、
前記工作物を研削するときの研削負荷を検出する研削負荷検出工程と、
前記工作物を研削したときの研削負荷が変化すると前記工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、前記研削残り取代に対する前記研削負荷についての閾値であり、前記研削残り取代に応じて前記閾値を設定する閾値設定工程と、
検出した前記研削残り取代における前記研削負荷が前記研削残り取代に対応した前記閾値を超えた場合に研削異常であると判定する研削異常判定工程と、
を備える研削異常監視方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記研削異常監視方法は、
前記砥石車の研削条件を変更する制御工程、
を備え、
前記制御工程は、検出した前記研削負荷が前記閾値を超えず、且つ前記閾値に近づくように前記砥石車の研削条件を変更する研削異常監視方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、
前記研削異常監視方法は、前記工作物の粗研削において適用する研削異常監視方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項において、
前記工作物の複数の研削部位を同時に研削する研削盤に適用され、
複数の変位センサまたは温度センサにより前記工作物の複数の研削部位のそれぞれのたわみ変位量または温度を検出し、それぞれの前記たわみ変位量または温度に基づいてそれぞれの前記研削負荷を算出し、
それぞれの前記研削負荷に基づいてそれぞれの前記研削部位の研削異常を判定する研削異常監視方法。
【請求項6】
工作物と砥石車とを相対移動させることにより前記工作物を研削する研削盤を用いて、研削異常を監視する研削異常監視装置において、
前記工作物を研削するときの前記砥石車の相対的な研削送り位置を検出する研削送り位置検出手段と、
前記工作物を研削するときの研削負荷を検出する研削負荷検出手段と、
前記工作物を研削したときの研削負荷が変化すると前記工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、前記研削送り位置に対する前記研削負荷についての閾値であり、前記研削送り位置に対応した前記閾値を設定する閾値設定手段と、
検出した前記研削送り位置における前記研削負荷が前記研削送り位置に対応した前記閾値を超えた場合に研削異常であると判定する研削異常判定手段と、
を備える研削異常監視装置。
【請求項7】
工作物と砥石車とを相対移動させることにより前記工作物を研削する研削盤を用いて、研削異常を監視する研削異常監視装置において、
前記工作物を研削するときの研削残り取代を検出する研削残り取代検出手段と、
前記工作物を研削するときの研削負荷を検出する研削負荷検出手段と、
前記工作物を研削したときの研削負荷が変化すると前記工作物の加工変質層の厚さが変化する関係に基づいて、前記研削残り取代に対する前記研削負荷についての閾値であり、前記研削残り取代に応じて前記閾値を設定する閾値設定手段と、
検出した前記研削残り取代における前記研削負荷が前記研削残り取代に対応した前記閾値を超えた場合に研削異常であると判定する研削異常判定手段と、
を備える研削異常監視装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−161906(P2012−161906A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−280850(P2011−280850)
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]