説明

研削装置

【課題】研削中の板状ワークがチャックテーブルから横ずれすることを防止する。
【解決手段】研削装置10に備えたチャックテーブル1は、板状ワークWを吸引保持する吸引保持板2と、吸引保持板2に吸引力を伝達する吸引領域6a,6bを有する基台3とを備え、基台3の上面であって吸引保持板2より外側にリング形状の制限リング5が埋設され、制限リング5の内径は、制限リング5の内周5aと板状ワークWの外周Wsが当接したときに吸引保持板2の保持面2aが露出しない大きさであり、基台3の上面からの制限リング5の突出部分高さHは、板状ワークWの仕上げ厚さTより低い高さとなっている。そして、研削中の板状ワークWに対する吸引力より研削砥石23,33の回転力が大きくなったときに制限リング5によって板状ワークWの横ずれを防止し、研削不良と研削割れとを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を吸引保持するチャックテーブルを備えた研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
研削装置による板状ワーク等の研削は、チャックテーブルに板状ワークを保持させて行われる。具体的には、チャックテーブルには、多孔質部材により形成されるポーラス板とポーラス板を支持する基台とを備えており、ポーラス板の保持面に板状ワークを吸引保持させて、研削砥石を回転させながら板状ワークに接触させて研削が行われる(例えば下記の特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−014939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような研削装置では、板状ワークをチャックテーブルのポーラス板の保持面に吸引保持させ、研削砥石を回転させながら板状ワークを研削するため、研削砥石の回転力が板状ワークを保持する吸引力より大きくなったときに、研削中の板状ワークがポーラス板の保持面から横にずれることがある。したがって、このままの状態で板状ワークに対して研削を続行すると、板状ワークに研削不良が発生したり、板状ワーク自体が割れたりすることがある。
【0005】
本発明は、上記の事情にかんがみてなされたものであり、板状ワークの研削中において、研削砥石の回転力が板状ワークを吸引保持する吸引力より大きくなったときに、板状ワークがチャックテーブルのポーラス板の保持面から横にずれることを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る研削装置は、板状ワークを吸引保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された板状ワークを研削する研削手段とを少なくとも備えた研削装置であって、該チャックテーブルは、板状ワーク外径より小径の多孔質部材で形成され板状ワークを吸引保持する吸引保持板と、該吸引保持板を支持すると共に該吸引保持板に吸引力を伝達する吸引領域を有する基台と、を備え、該基台の上面であって該吸引保持板より外側にリング形状の制限リングが埋設され、該制限リングの内径は、該制限リング内周と板状ワーク外周とが当接したときに該吸引保持板の板状ワーク保持面が露出しない大きさであり、該基台上面より突出している制限リングの高さは、該チャックテーブルに保持された板状ワークの仕上げ厚さより低い高さである、研削装置により板状ワークを研削する。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、研削装置に備えたチャックテーブルは、板状ワークを吸引保持する吸引保持板と、吸引保持板を支持すると共に吸引保持板に吸引力を伝達する吸引領域を有する基台とを備えており、基台の上面であって吸引保持板より外側にリング形状の制限リングが埋設されている。そして、制限リングの内径は、制限リング内周と板状ワーク外周とが当接したときに吸引保持板の板状ワーク保持面が露出しない大きさであり、基台上面より突出している制限リングの高さは、チャックテーブルに保持された板状ワークの仕上げ厚さより低い高さとなっているため、板状ワークを研削する研削砥石の回転力が板状ワークを吸引保持する吸引力より大きくなって該吸引力が研削砥石の回転力に負けたとしても、制限リングの内周に板状ワークが当接することによって板状ワークが吸引保持板の保持面から横ずれすることを防止でき、板状ワークの研削不良と板状ワーク自体が割れることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】チャックテーブルを複数備えた研削装置を模式的に示す斜視図である。
【図2】実施形態に係るチャックテーブルの平面図である。
【図3】実施形態に係るチャックテーブルの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に示す研削装置10は、被加工物の横ずれを防止できるチャックテーブル1を複数搭載した研削装置の一例である。まず、研削装置10の装置構成について図1を参照しながら説明する。
【0010】
研削装置10は、Y軸方向に伸びる直方体形状の装置ベース11を備え、装置ベース11の上面中央に回転可能な円盤形状の回転テーブル12が配設されている。さらに、回転テーブル12の上面には、被加工物の横ずれを防止できるチャックテーブル1が複数配設されている。
【0011】
チャックテーブル1は、被加工物を吸引保持する吸引保持板2と吸引保持板2を支持する基台3とから構成されている。そして、チャックテーブル1はチャックテーブルベース4によって支持されている。チャックテーブル1は自転可能であり、回転テーブル12の回転によりチャックテーブル1を公転させることができる。
【0012】
装置ベース11の後部には、被加工物に対し粗研削を施す第1の研削手段20と仕上げ研削を施す第2の研削手段30とが配設されている。第1の研削手段20には、回転可能なスピンドル21と、スピンドル21の下端に取り付けられた研削ホイール22と、研削ホイール22の下部に固着された粗研削用の研削砥石23とを備えている。また、第2の研削手段30には、回転可能なスピンドル31と、スピンドル31の下端に取り付けられた研削ホイール32と、研削ホイール32の下部に固着された仕上げ研削用の研削砥石33とを備えている。そして、スピンドル21の回転により研削ホイール22を回転させ、また、スピンドル31の回転により研削ホイール32を回転させることができる。
【0013】
装置ベース11の後部上面には、第1の研削手段20及び第2の研削手段30を支持してZ軸方向に昇降させる移動ユニット40がそれぞれ配設されている。移動ユニット40には、直方体形状の支持ベース41と、Z軸方向に延びるボールスクリュー42と、ボールスクリュー42の一端に接続されたモータ43と、ボールスクリュー42と平行に配設された一対のガイドレール44と、第1の研削手段20及び第2の研削手段30の高さ位置を制御するための移動基台45とをそれぞれ備えている。
【0014】
移動基台45の一方の面には、一対のガイドレール44が摺接し、中央部分に図示しないナット構造が形成されており、当該ナット構造にボールスクリュー42が螺合している。そして、モータ43によって回転駆動されたボールスクリュー42が回動することにより、移動基台45がガイドレール44にガイドされてZ軸方向に移動し、併せて第1の研削手段20及び第2の研削手段30をそれぞれZ軸方向に昇降させることができる。
【0015】
装置ベース11の前面11aには、供給カセット13と回収カセット14とが備えてあり、供給カセット13には加工前の被加工物が収容され、回収カセット14には加工後の被加工物が収容されている。
【0016】
供給カセット13及び回収カセット14の近傍には、供給カセット13からの被加工物の搬出及び回収カセット14への被加工物の搬入を行う搬送ロボット15が配設されている。搬送ロボット15の可動領域には、加工前の被加工物を仮置きする仮置き手段16と加工後の被加工物を洗浄する洗浄手段19とが配設されている。
【0017】
仮置き手段16の近傍には、仮置き手段16に仮置きされた被加工物を着脱領域Pに位置するチャックテーブル1に搬送する第1の搬送手段17が配設されている。また、洗浄手段19の近傍には、着脱領域Pに位置するチャックテーブル1に保持された加工後の被加工物を洗浄手段19に搬送する第2の搬送手段18が配設されている。
【0018】
次に、本実施形態に係るチャックテーブル1の構成および作用について、より詳細に説明する。
【0019】
図2に示すチャックテーブル1は、板状ワークWを吸引保持板2の保持面2aに保持させた状態を示している。吸引保持板2は、板状ワークWの外径より小径であり、ポーラスセラミックス等の多孔質部材から構成されている。
【0020】
図3に示すように、基台3は、吸引保持板2を嵌合して支持し、基台3の内部には吸引保持板2に連通した吸引領域6aが複数形成されている。また、基台3の下部には、チャックテーブル1を支持するチャックテーブルベース4が連結されている。チャックテーブルベース4の内部には吸引領域6aと連通した連通路4aが形成され、連通路4aは板状ワーク吸引源7に接続されている。これにより、板状ワーク吸引源7から発生する吸引力はチャックテーブルベース4の連通路4aおよび基台3の吸引領域6aを通じて吸引保持板2に伝達され、保持面2aに載置された板状ワークWの下面を吸引することができる。
【0021】
図3に示すように、板状ワークWの横ずれを防止するための制限リング5が基台3の上面に埋設されている。制限リング5は、図2に示すようにリング形状に形成され、吸引保持板2より外側に埋設されている。
【0022】
ここで、制限リング5の内径は、図3の右側部分拡大図に示すように板状ワークWの外周Wsが制限リング5の内周5aに当接したときに、板状ワークWの中心を基準としてその当接した位置と反対側に位置する吸引保持板2の保持面2aが板状ワークWの外周Wsから露出しない大きさを有している。すなわち、図3の左側部分拡大図に示すように、制限リング5は、吸引保持板2の外周2bが板状ワークWの外周Wsより外側にはみ出さずに保持面2aが露出しない状態となる内径を有している。
【0023】
板状ワークWの保持位置は、必ずしもチャックテーブル1の中心でなくてもよい。したがって、図2に示すように、吸引保持板2の保持面2aの全面が板状ワークWから隠れる位置で、かつ、制限リング5の内側の位置に保持されればよい。
【0024】
吸引保持板2の保持面2aの全面が板状ワークWに当接することにより、板状ワーク吸引源7からの吸引力がもれることなく板状ワークWに伝達される。
【0025】
図3の部分拡大図に示すように、制限リング5は、基台3の上面から突出して埋設されている。基台3の上面からの制限リング5の突出部分の高さHは、チャックテーブル1に保持された板状ワークWの仕上げ厚さTより低い高さとなっている。これにより、板状ワークWの研削時に図1に示す研削砥石23,33が制限リング5に接触することを防止することができる。
【0026】
基台3の内部には、制限リング5を吸引保持するために、制限リング5に連結する吸引領域6bが形成されている。また、チャックテーブルベース4の内部にも吸引領域6bと連通する吸引孔8が形成されている。そして、吸引孔8は、吸引力を発生する制限リング吸引源9に接続されている。これにより、制限リング吸引源9から発生する吸引力は吸引孔8および吸引領域6bを通じて制限リング5に伝達され、制限リング5を吸引することができる。そして、制限リング5を基台3に吸引保持することができる。
【0027】
以下においては、上記のように構成されるチャックテーブル1を搭載した研削装置10の動作について説明する。
【0028】
図1に示す搬送ロボット15が供給カセット13に収容されている板状ワークWを取り出し、仮置き手段16に搬送する。仮置き手段16においていた状ワークWが一定の位置に位置決めされた後、第1の搬送手段17が作動し、仮置き手段16から板状ワークWを着脱領域Pに待機するチャックテーブル1に搬送する。
【0029】
チャックテーブル1の吸引保持板2の保持面2aに板状ワークWが載置されたら、図3に示す板状ワーク吸引源7から吸引が開始される。
【0030】
板状ワーク吸引源7からの吸引力は、連通路4a、吸引領域6aを通じて吸引保持板2に伝達される。そして、吸引保持板2に形成された空気孔を通じて保持面2aに載置されている板状ワークWを吸引保持する。
【0031】
板状ワークWを吸引保持した後、チャックテーブル1が自転を開始するとともに回転テーブル12が回転し、チャックテーブル1を第1の研削手段20、第2の研削手段30の下方に順次送り込む。
【0032】
チャックテーブル1が第1の研削手段20の下方に位置づけられたら、研削ホイール22を回転させて研削砥石23も回転させる。また、移動ユニット40を作動させ、モータ43の回転により、ボールスクリュー42が回動して移動基台45がガイドレール44にガイドされZ軸方向に下降する。併せて移動基台45に支持される第1の研削手段20についても研削砥石23を回転させながら下降する。
【0033】
回転中の研削砥石23がチャックテーブル1に保持されている板状ワークWに接触し研削が行われる。このとき、研削砥石23の回転力が板状ワークWに対する吸引源7からの吸引力より大きくなったときに、すなわち、板状ワークWの下方から伝達される吸引力が研削砥石23の回転力に負けると、板状ワークWが吸引保持板2の保持面2aから横ずれすることになる。
【0034】
しかしながら、チャックテーブル1においては、板状ワークWに研削砥石23の回転による圧力が加わったとしても、図3に示すように、基台3に埋設されている制限リング5の内周5aに板状ワークWが当接するため、板状ワークWの横ずれを防止することができる。したがって、板状ワークの研削不良と板状ワーク自体が割れることを防止することができる。
【0035】
第1の研削手段20による研削が施された後は、回転テーブル12を回転させて、チャックテーブル1を第2の研削手段30の下方に移動させ、粗研削が施された板状ワークWに対して仕上げ研削を行う。第2の研削手段30においても第1の研削手段20と同様に、研削砥石33の回転力が板状ワークWに対する吸引源7からの吸引力より大きくなったときでも、図3に示すように、基台3に埋設されている制限リング5の内周5aに板状ワークWが当接するため、板状ワークWの横ずれを防止することができる。
【0036】
板状ワークWに対して全ての研削が施されたら、板状ワークWには研削屑が付着しているため、洗浄工程に移動する。回転テーブル12を回転させてチャックテーブル1を着脱領域Pに移動させ、第2の搬送手段18によって板状ワークWを洗浄手段19に搬送する。
【0037】
洗浄手段19による洗浄が施された後、板状ワークWは搬送ロボット15により回収カセット14に搬送されて収容される。
【0038】
なお、図3に示した制限リング5は、制限リング吸引源9の吸引により基台3に吸引保持させているが、ネジで基台3に固定するようにしても良い。
【符号の説明】
【0039】
1:チャックテーブル
2:吸引保持板 2a:保持面 2b:外周
3:基台
4:チャックテーブルベース 4a:連通路
5:制限リング 5a:内周
6a,6b:吸引領域
7:板状ワーク吸引源
8:吸引孔
9:制限リング吸引源
10:研削装置
11:装置ベース 11a:前面
12:回転テーブル
13:供給カセット
14:回収カセット
15:搬送ロボット
16:仮置き手段
17:第1の搬送手段
18:第2の搬送手段
19:洗浄手段
20:第1の研削手段 21:スピンドル 22:研削ホイール 23:研削砥石
30:第2の研削手段 31:スピンドル 32:研削ホイール 33:研削砥石
40:移動ユニット 41:支持ベース 42:ボールスクリュー 43:モータ 44:ガイドレール 45:移動基台
W:板状ワーク Ws:外周
H:突出部分高さ T:仕上げ厚さ
P:着脱領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状ワークを吸引保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された板状ワークを研削する研削手段とを少なくとも備えた研削装置であって、
該チャックテーブルは、板状ワーク外径より小径の多孔質部材で形成され板状ワークを吸引保持する吸引保持板と、
該吸引保持板を支持すると共に該吸引保持板に吸引力を伝達する吸引領域を有する基台と、を備え、
該基台の上面であって該吸引保持板より外側にリング形状の制限リングが埋設され、
該制限リングの内径は、該制限リング内周と板状ワーク外周とが当接したときに該吸引保持板の板状ワーク保持面が露出しない大きさであり、
該基台上面より突出している制限リングの高さは、該チャックテーブルに保持された板状ワークの仕上げ厚さより低い高さである、
研削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−82044(P2013−82044A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224815(P2011−224815)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】