説明

研磨フィルムおよび該研磨フィルムを用いた研磨方法

【課題】 2回目使用以降も研磨効率の低下を抑制し得るとともに各研磨工程に必要な研磨端面を確保し得る研磨フィルムと研磨方法とを提供することにある。
【解決手段】 基材2と、該基材上に配され砥粒3aとバインダー樹脂3bとを含んでなる研磨材層3とを備え、被研磨物と前記研磨材層3とを接触させて研磨を行う研磨領域5と研磨を行わない非研磨領域6とを有する研磨フィルム1であって、前記非研磨領域6に、水に可溶なpH調整剤4を備えていることを特徴とする研磨フィルム1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として光コネクタフェルール用部材の研磨などに用いられる研磨フィルムと該研磨フィルムを用いた光コネクタフェルール用部材の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバー通信網において、光ファイバー同士を接続する光ファイバーコネクタなどを通過する際の光の減衰は、光ファイバー自体を通過する際の減衰に比べて大きく、改良が望まれている。
光ファイバーコネクタを通過する際の減衰は、主に、光ファイバー端面の位置精度と表面粗さとに起因する。そのため、光ファイバーコネクタに用いられる光コネクタフェルールには、その外形精度を向上させることおよび表面粗さがより小さく仕上げられていることが望まれている。
そのため、この光コネクタフェルールは、ジルコニアなどのセラミックスからなるフェルール部と、石英ガラスからなり前記フェルール部の中心部に挿通される光ファイバー部からなる光コネクタフェルール用部材を、先端部を特定の曲率を有する所定の形状に研磨され製造されている。
従来の光コネクタフェルール用部材の研磨は、特許文献1にも示すように砥粒となる研磨材粒子をバインダーに分散させた研磨材層をフィルム状基材上に有する研磨フィルム(研磨テープ)を用い、該研磨フィルムと光コネクタフェルール用部材との間に水やグリコールなどの研磨液を介在させて行われている。
【特許文献1】特開平9−248771号公報
【0003】
この時、粗い砥粒を高濃度で研磨材層に充填した研磨フィルムほど時間あたりの研削量、すなわち、研磨効率は、高くなる。
しかし、このような研磨フィルムを用いて光コネクタフェルール用部材を研磨すると砥粒が光コネクタフェルール用部材の表面に深い傷を多数生じさせながら研磨することになるために、仕上がった光コネクタフェルールの表面粗さが大きくなり、しかも、屈折率の異なる加工変質層を表面に生じて光が通過する際の減衰が高いものとなる。
また、逆に、硬度の低い砥粒を備えた研磨フィルムにより光コネクタフェルール用部材を研磨すると、光コネクタフェルール用部材の表面に生じさせる傷が浅いものとなり光コネクタフェルールの表面粗さを小さなものとすることができるが、研磨効率が低いために長大な加工時間を要し実用に適さないものとなるおそれがある。
そのため、光コネクタフェルール用部材の研磨は、粗仕上げ、中仕上げ、細仕上げ、最終仕上げなどと複数段階の研磨工程によって実施され、各工程に求められる表面粗さに仕上げるため、それぞれの工程に適した研磨フィルムが用いられている。
ところで、このような光コネクタフェルール用部材などの研磨には、それぞれ所望される表面粗さに応じ砥粒の種類や平均粒径を変えた各種研磨フィルムが用いられているが、これらの研磨フィルムは、所定の研磨(粗さ)工程で2回目使用以降研磨効率が急激に低下し、効率よく研磨できなくなり、逆に研磨効率を重視すると研磨端面の表面粗さや精度が悪くなるという問題を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点に鑑み、粗仕上げ、中仕上げ、細仕上げおよび最終仕上げなどの各工程において、2回目使用以降も研磨効率の低下を抑制し得るとともに各研磨工程に必要な研磨端面を確保し得る研磨フィルムと研磨方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、研磨時に被研磨物と研磨フィルムとの間に介在する液体を従来の水に代えて、pH調整された水溶液とすることで、被研磨物の研削性を調整し得ることを見出し、前記pH調整された水溶液を随時、研磨領域に供給することで、度重なる研磨を行っても、研磨効率の低下を抑制し得ることを見出した。
なお、pH調整された水溶液を得る手段として、pH調整剤を砥粒とともに研磨材層に分散させることも考え得るが、その場合は、バインダー樹脂をpH調整剤と砥粒との両方に適したものにする必要があり、さらに、研磨領域のpH調整剤は、被研磨物と接触して研磨フィルムから脱落するおそれを有するものとなることを見出し本発明に至ったものである。
【0006】
すなわち、本発明は、基材と、該基材上に配され砥粒とバインダー樹脂とを含んでなる研磨材層とを備え、被研磨物と前記研磨材層とを接触させて研磨を行う研磨領域と研磨を行わない非研磨領域とを有する研磨フィルムであって、前記非研磨領域に、水に可溶なpH調整剤を備えていることを特徴とする研磨フィルムを提供する。
また、本発明は、前記砥粒としてダイヤモンドを用い、前記pH調整剤として酸性pH調整剤を用いた第一の研磨工程の後に、前記砥粒としてシリカを用い、前記pH調整剤としてアルカリ性pH調整剤を用いた第二の研磨工程を実施することを特徴とする光コネクタフェルール用部材の研磨方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、研磨フィルムがpHを調整し得るpH調整剤を備えているため、度重なる研磨加工により研磨効率が低下することを抑制できる。
また、前記pH調整剤が研磨フィルムの非研磨領域に配されているため研磨領域にpH調整剤が配されている場合に比べ、前記pH調整剤が研磨時に被研磨物と接触して研磨フィルムから脱落してpHを調整する効果が低下してしまうことを防止でき、しかも、バインダー樹脂を砥粒に最適なものとし得るため砥粒の脱落も防止でき、脱落によるスクラッチ傷の発生や研磨効率が低下することをさらに防止し得る。また、研磨のためにpH調整した水溶液を別途準備する必要もない。
したがって、研磨フィルムを2回目使用以降も研磨効率の低下を抑制し得るとともに各研磨工程に必要な研磨端面を確保できるものとし得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について添付図面に基づき説明する。
【0009】
本実施形態において、研磨フィルム1は、図1(イ)に示すように、フィルム状の基材2と、該基材2上に配され砥粒3aとバインダー樹脂3bとを含んでなる研磨材層3とを備え、被研磨物と前記研磨材層3とを接触させて研磨を行う研磨領域5と、研磨を行わない非研磨領域6とを有し、水に可溶なpH調整剤を保持するpH調整剤保持部4を前記非研磨領域6に備えている。
前記研磨フィルム1は、上面視円形であり、前記非研磨領域6は、前記研磨フィルム1の中心と同じ中心を有する小円形をなしている。また、前記研磨領域5は、前記非研磨領域6の周方向外方にドーナッツ形状をなしている。
pH調整剤保持部4は、前記非研磨領域より僅かに径小なる円形で研磨フィルム1の中心部に位置し、基材2の上に直接積層されて形成されている。
また、前記研磨材層3は、前記研磨領域5より内側および外側に僅かに広い領域を有するように、前記pH調整剤保持部4の周方向外方にドーナッツ状に形成されている。
本実施形態において、pH調整剤保持部を形成する領域は、研磨フィルムの中央部であるため、研磨フィルムを回転させて研磨する場合に、水を供給しpH調整剤を溶解させたpH調整剤の溶液が遠心力により周囲の研磨領域に自動的に供給し得る点において好適である。
なお、本発明において、pH調整剤保持部を形成する領域は、前記中央部に限定されるものではなく、被研磨物と接触することのない非研磨領域であれば、何れの場所にも形成することができる。
【0010】
本実施形態において、前記pH調整剤保持部のpH調整剤は、前記研磨材層のバインダー樹脂と同じバインダー樹脂に分散され、基材上に直接塗布、乾燥され形成されている。
なお、本発明において、前記pH調整剤保持部の形成方法としては、前記バインダー樹脂による方法に代えて、一般的な接着手段を用いることができる。
また、別部材として作成したpH調整剤を研磨フィルム上に貼り付ける構成としても良い。
また、本実施形態においては、非研磨領域の基材上に直接pH調整剤保持部を形成したが、図1(ロ)に示すように、基材上の全面に研磨材層を形成し、非研磨領域の前記研磨材層の上にpH調整剤保持部を設けることも可能である。
【0011】
本実施形態において前記pH調整剤としては、水に可溶で、水溶液のpHを2以上7未満の酸性に調整し得る酸性pH調整剤や、7を超え12以下に調整し得るアルカリ性pH調整剤を好適に使用することができる。
【0012】
前記pH調整剤として酸性pH調整剤を用いた場合には、被研磨物表面に水和層が生成されるのを抑制させることができ、水和層により研削性が必要以上に高められて被研削物の表面粗さが粗くなることを抑制し得る点において好適であり、例えば、比較的研削性の高い砥粒が用いられる粗仕上げ、中仕上げなどの工程に適したものとなる。
このとき、前記溶液のpHが2未満となる場合には、酸性が強すぎて被研磨物の表面を荒れさせてしまうおそれを有するばかりでなく人体への有害性や廃液処理に手間がかかるなどの問題が生じるおそれを有する。
前記酸性pH調整剤としては、水に対する難溶性すなわち、徐々に溶出する徐放性によりpH調整効果を持続させる点から、好ましくは、エチレンジアミン四酢酸、シュウ酸、酒石酸、キナルジン酸、無水マレイン酸、クエン酸などのカルボキシル基を含有している物質が例示でき、中でも、エチレンジアミン四酢酸は、水に対する溶解度が低く徐放性とし得る点、ならびに添加量が少量でもpHを低下させる能力に優れより多くの回数繰り返して使用し得る点においてより好ましい。
【0013】
また、前記pH調整剤としてアルカリ性pH調整剤を用いた場合には、被研磨物表面に水和層が生成するのを促進し研削性を高め得る点において好適であり、例えば、比較的研削性の低い砥粒が用いられる最終仕上げなどに適したものとなる。
このとき、前記溶液のpHが12を超える場合には、アルカリ性が強すぎて光ファイバーを劣化させるおそれがあるとともに、研磨効率(速度)が低下するおそれを有する。さらに前記溶液のpHが12を超える場合には、人体への有害性や廃液処理に手間がかかるなどの問題が生じるおそれを有する
前記アルカリ性pH調整剤としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物であるKOH、NaOH、Ca(OH)2、Sr(OH)2、Ba(OH)2や、NH4OH、トリエチルアミンなどがあげられる。なかでも、水に対する溶解性が適度でpHの調整が容易で、しかも、長期にわたり添加した水への溶解量が安定している点においてCa(OH)2、Ba(OH)2が好適である。
【0014】
また、前記研磨材層の砥粒としては、ダイヤモンド、アルミナ、シリカなどを用いることができ、前記ダイヤモンドを用いた場合には高い研磨効率が得られ、例えば、粗仕上げ、中仕上げなどの工程に適したものとなる。
また、前記酸性pH調整剤と前記ダイヤモンドとを組み合わせて用いた場合には、特に優れた研磨効率の研磨フィルムとなし得る。
【0015】
また、前記シリカを前記砥粒として用いた場合には、例えば、比較的低い研磨効率で、小さな表面粗さが求められる最終仕上げなどに適したものとなる。
また、前記アルカリ性pH調整剤と前記シリカとを組み合わせて用いた場合には、被研磨物を特に優れた表面粗さに仕上げ得る研磨フィルムとなる。
【0016】
前記バインダー樹脂としては、ポリエステル、ポリウレタンなどの樹脂を例示することができるが、砥粒や基材との接着が良好なるものであればどのようなものでも良い。
また、前記バインダーに対する砥粒の含有量は、砥粒としてダイヤモンドが用いられる場合には、好ましくは20〜60体積%、さらに好ましくは25〜50体積%であり、砥粒としてシリカが用いられる場合には、好ましくは60〜90体積%、さらに好ましくは75〜85体積%である。
また、前記バインダー樹脂には、分散剤、カップリング剤、界面活性剤、潤滑剤、消泡剤、着色剤など各種助剤および添加剤などを目的に応じて適宜含有させることも可能である。
【0017】
前記基材としては、適度な剛性を有し、研磨材層3との接着性が良好なものが好ましく、例えば、ポリエステルフィルム、ポリアミド、ポリイミド等の合成樹脂フィルムおよびそれらに化学処理、コロナ処理、プライマー処理など接着性を高める処理の施されたものが挙げられる。
【0018】
次いで、本実施形態の研磨フィルムを用いて光コネクタフェルール用部材を研磨する方法について説明する。
光コネクタフェルール用部材14は、前記研磨フィルム1と、図2に示す光コネクタ端面研磨機10にて研磨される。
光コネクタ端面研磨機10は、駆動装置(図示せず)と、該駆動装置により駆動されて自転軸11により自転し、かつ、公転軸18を中心に前記自転軸が回転し、公転範囲17を回転運動する略円盤状の研磨定盤12と、該研磨定盤12上に搭載された弾性パッド13とを備えている。さらに、前記光コネクタ端面研磨機10は、アーム21に固定された支持円筒20と、該支持円筒20の下端部に研磨定盤12の回転に誘われて回転しないように固定され、光コネクタフェルール用部材保持部を有するフェルール押圧治具15とを備えている。
【0019】
前記、光コネクタ端面研磨機10を用いて光コネクタフェルール用部材14の端面を研磨するには、まず、研磨材層3を上にして、研磨フィルム1を弾性パッド13上に搭載する。次いで、前記フェルール押圧治具15のフェルール保持部に、研磨する端面を下にして光コネクタフェルール用部材14を配置し、前記アーム21に下方向の荷重を加えることで、研磨フィルム1の研磨材層3の表面に前記光コネクタフェルール用部材14の端面を押し付けながら、研磨フィルム1を前記研磨定盤12と共に回転運動および公転運動させる。これにより、前記光コネクタフェルール用部材14の端面は、研磨フィルム1の径方向において前記研磨材層3の研磨定盤外周近傍と中心近傍との間を往復運動しながら、前期研磨材層3によって研磨加工される。
このとき、研磨フィルム1の中央部に配されたpH調整剤保持部4に研磨開始前に研磨フィルムのpH調整剤保持部4に水を滴下させておくことで、該滴下された水はpH調整剤保持部4にてpH調整剤を溶解してpH調整剤溶液となり、研磨フィルム1の回転による遠心力により研磨フィルム1の中央部から外周部(図2矢印方向)へと供給され、特別に研磨フィルム全面にpH調整剤溶液を供給させる手段を必要としない。
前記pH調整剤溶液のpHは、滴下させる水の量により所望の値に調節することができまた、研磨途中にさらに水を滴下させてpHを調整することも可能である。
【0020】
光コネクタフェルール用部材14の端面を粗仕上げ、および、中仕上げの研磨加工する場合には、例えば、粒径10μmから0.3μmの間から適宜選択されるダイヤモンドを砥粒として用い、前記pH調整剤として例えば、エチレンジアミン四酢酸を用いる。
このとき、滴下水により生成したエチレンジアミン四酢酸水溶液が光コネクタフェルール用部材14と研磨フィルムとの間に介在して、研磨時に光コネクタフェルール用部材の光ファイバー部に水和層が形成され研削性が必要以上に高くなることを抑制する。したがって、表面粗さが粗く仕上がることを抑制し得る。
また、前記エチレンジアミン四酢酸は、研磨フィルム上に、光コネクタフェルール用部材と接触しないように配されているため、光コネクタフェルール用部材と接触して脱落することもなく、繰り返し使用しても効果が持続することとなる。
次いで、前記中仕上げされた光コネクタフェルール用部材14を最終仕上げする場合には、例えば、粒径10〜100nm程度のシリカを砥粒として用い、前記pH調整剤として例えば、Ca(OH)2を用いる。
このとき、滴下水により生成したCa(OH)2水溶液が光コネクタフェルール用部材14と研磨フィルムとの間に介在して、光コネクタフェルール用部材の表面に水和層が形成され研削性が高められる。このことから、ダイヤモンドよりも研削力の低いシリカを用いても前記中仕上げで生じた加工変質層を研磨して除去することができ、さらに、ナノサイズのシリカを用いることによりソフトに研磨され、小さな表面粗さに仕上がることとなる。
また、前記アルカリ性pH調整剤も研磨フィルム上に、光コネクタフェルール用部材と接触しないように配されているため、光コネクタフェルール用部材と接触して脱落することもなく、繰り返し使用しても効果が持続することとなる。
なお、本実施形態においては、ジルコニアなどのセラミックスからなるフェルール部と、石英ガラスからなる光ファイバー部との研削性の異なる材料を同時に、段差が生じないように研磨しつつ、表面粗さを小さく仕上げ、加工変質層を除去し得るという優れた効果を奏する点から光コネクタフェルール用部材を例示したが、本発明の研磨フィルムは、光コネクタフェルール用部材に用途が限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
実施例1(中仕上げ)
溶剤シクロヘキサン500重量部に分散剤1.3重量部、ダイヤモンド砥粒〔トーメイダイヤ社製、IRMシリーズ 呼び粒径3μm〕480重量部を、ジルコニアビーズを用いた分散機で混合し、ポリエステル樹脂〔東洋紡社製、バイロン280〕100重量部とイソシアネート〔住化バイエルウレタン社製、スミジュールL〕33重量部を加え、さらに混合し、溶剤で固形分濃度が31%になるよう調整し研磨材層用混合物を得た。
溶剤シクロヘキサン500重量部にpH調整剤としてエチレンジアミン四酢酸120重量部、ポリエステル樹脂〔東洋紡社製、バイロン280〕100重量部、イソシアネート〔住化バイエルウレタン社製、スミジュールL〕33重量部を加え混合し、溶剤で固形分濃度が50重量%になるよう調整しpH調整剤保持部用塗布液を得た。
基材として厚み75μm×大きさφ110mmのPETフィルム〔帝人デュポンフィルム社製、易接着性HPEタイプ〕を用い、ロールコーター塗布機にて前記研磨材層用塗布液を基材全面に塗布し、自然乾燥の後、100℃で24時間架橋させ、研磨材層の厚みを7μmに形成した。
次いで、pH調整剤保持部用塗布液を用い、研磨材層と同様に塗布乾燥し、研磨フィルムの中央部に厚み0.1〜0.3mm×大きさ約φ30mmのpH調整剤保持部を形成した。
得られた、研磨フィルムは市販の光コネクタ端面研磨機〔セイコーインスルメンツ社製、OFL15〕の研磨定盤に弾性パッドを介して取り付け、光ファイバー心線が接着一体化された光コネクタフェルール用部材の粗研磨品(フェルール端面粗さRa:約50nm)12個を前記光コネクタ端面研磨機の固定治具に取り付け、イオン交換水を予めpH調整剤保持部に滴下させ、光コネクタフェルール用部材12本全体で荷重1150g+治具重量330g=1480gをかけ、回転速度180rpm、研磨幅約20mmにて60秒間、光コネクタフェルール用部材の研磨を行った。なお、別途遠心力で研磨領域に流れるpH調整剤水溶液のpHを測定したところpH4.0であった。
また、先述の研磨幅とは、研磨フィルムに残るリング状研磨跡の径方向の距離差を示している。
【0023】
実施例2(細仕上げ)
砥粒としてダイヤモンド砥粒〔トーメイダイヤ社製、IRMシリーズ 呼び粒径3μm〕に代えてダイヤモンド砥粒〔トーメイダイヤ社製、IRMシリーズ 呼び粒径1μm〕を用い、前述の中仕上げされた光コネクタフェルール(表面粗さRa:約8nm)を研磨したこと以外は、実施例1と同様に光コネクタフェルールの研磨を行った。なお、この研磨フィルムについて、別途遠心力で研磨領域に流れるpH調整剤水溶液のpHを測定したところpH5.0であった。
【0024】
実施例3(最終仕上げ)
ポリオール成分として、末端にエチレンオキサイドを導入した1級化ポリプロピレング
リコール(商品名「ハイパーライトE824」、住化バイエルウレタン社製、OH価=3
5mg/KOH)を80℃で1時間以上減圧脱泡して用い、イソシアネート成分(架橋剤
)として、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)(商品名「スミジュール」、住
化バイエル社製)の2,4’−と4,4’−とを、重量比で2,4’−:4,4’−が4
7:53になるように混合した混合MDIを用いた。そして、このイソシアネート成分8
0重量部にエポキシ成分としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「エポトートY
D128」、東都化成社製)20重量部を混合してエポキシ成分含有イソシアネートを調
製した。
次いで、上記エポキシ含有イソシアネート130重量部に上記1級ポリプロピレングリ
コール52重量部およびアミン系触媒(商品名「テスモラビットDB」、住化バイエルウ
レタン社製)1.3重量部を、常温で混合し(エポキシ成分/ポリオール成分=33.3
/66.7)、この混合物に対し砥粒であるシリカの含有率が30重量%のオルガノシリ
カゾル(商品名「NPC−ST30」、日産化学社製、70重量%が溶剤)7600重量
部を加え、混合分散させて、砥粒含有率(容量%)が85%の研磨層を形成するための塗
布液(固形分含量22.9容量%)を調製した。
ポリエステル基材フィルムとして、幅300mmのPETフィルム(帝人デュポン社製
HPE−75)をバーコータ式塗布機に供給し、上記塗布液を塗布し、ウエット状態でオ
ーブン内の加熱体(100℃)上に裁置して1分間ポリエステル基材側から加熱して乾燥
させ、次いで、温風を循環させて100℃で1分間1次キュアーした後、500mm長さ
に裁断し、更に、100℃で12時間アフターキュアーした後、冷めるまで常温で放置し
た。更に、直径110mmの円板状に打ち抜き加工して所望の研磨フィルムを得た。
上記研磨フィルムより外径110mmに打抜き、光コネクタフェルール研磨機(セイコーインスツルメンツ社製 OFL−15)の研磨パッド上に裁置し、前述の細仕上げのフェルール(表面粗さRa:約5nm)を12本セットで冶具に取り付け、12本全体で荷重1150+冶具重量330=1480gかけ、回転数:180rpmで光コネクタフェルールの研磨を行った。
【0025】
比較例1
pH調整剤保持部を設けなかった研磨フィルムを用いたこと以外は、実施例1と同様に光コネクタフェルール用部材の端面研磨を行った。
【0026】
比較例2
pH調整剤保持部に添加したpH調整剤を研磨材層用混合物に添加して研磨フィルムの研磨材層にpH調整剤を分散させた研磨フィルムを用いたこと以外は、実施例1と同様に光コネクタフェルール用部材の端面研磨を行った。
【0027】
比較例3
pH調整剤保持部を設けなかった研磨フィルムを用いたこと以外は、実施例2と同様に光コネクタフェルール用部材の端面研磨を行った。
【0028】
比較例4
pH調整剤保持部に添加したpH調整剤を研磨材層用混合物に添加して研磨フィルムの研磨材層にpH調整剤を分散させた研磨フィルムを用いたこと以外は、実施例2と同様に光コネクタフェルール用部材の端面研磨を行った。
【0029】
比較例5
pH調整剤保持部を設けなかった研磨フィルムを用いたこと以外は、実施例3と同様に光コネクタフェルール用部材の端面研磨を行った。
【0030】
比較例6
pH調整剤保持部に添加したpH調整剤を研磨材層用混合物に添加して研磨フィルムの研磨材層にpH調整剤を分散させた研磨フィルムを用いたこと以外は、実施例3と同様に光コネクタフェルール用部材の端面研磨を行った。
【0031】
(評価)
各実施例、比較例の評価については次のとおり実施した。
【0032】
<光コネクタフェルール表面粗さ>
研磨終了後の光コネクタフェルール用部材加工面の表面粗さを、フェルール端面測定機〔NORLAND社製、AC-3000〕を用いて測定した。結果を図3〜5に示す。
【0033】
図3〜5からもわかるように、前記非研磨領域に、水に可溶なpH調整剤を備えていることを特徴とする研磨フィルムを用いることで、研磨フィルムを2回目使用以降も研磨効率の低下を抑制し得るとともにスクラッチ傷などの無い各研磨工程に必要な研磨端面を確保できるものとし得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】一実施形態の研磨フィルムを示す断面図。
【図2】同実施形態の研磨方法を示す模式図。
【図3】中仕上げにおける研磨回数と表面粗さとの関係を示すグラフ。
【図4】細仕上げにおける研磨回数と表面粗さとの関係を示すグラフ。
【図5】最終仕上げにおける研磨回数と表面粗さとの関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0035】
1 研磨フィルム
2 基材
3 研磨材層
3a 砥粒
3b バインダー樹脂
4 pH調整剤保持部
5 研磨領域
6 非研磨領域
14 光コネクタフェルール用部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に配され砥粒とバインダー樹脂とを含んでなる研磨材層とを備え、被研磨物と前記研磨材層とを接触させて研磨を行う研磨領域と研磨を行わない非研磨領域とを有する研磨フィルムであって、
前記非研磨領域に、水に可溶なpH調整剤を備えていることを特徴とする研磨フィルム。
【請求項2】
前記pH調整剤を備える領域が中心部である、請求項1記載の研磨フィルム。
【請求項3】
前記pH調整剤が、水溶液のpHを2以上7未満に調整し得る酸性pH調整剤である請求項1又は2記載の研磨フィルム。
【請求項4】
前記酸性pH調整剤が、カルボキシル基を含有する物質からなる請求項3記載の研磨フィルム。
【請求項5】
カルボキシル基を含有する物質が、エチレンジアミン四酢酸である請求項4記載の研磨フィルム。
【請求項6】
前記pH調整剤が、水溶液のpHを7を超え12以下に調整し得るアルカリ性pH調整剤である請求項1又は2記載の研磨フィルム。
【請求項7】
前記pH調整剤が水溶液のpHを2以上7未満に調整し得る酸性pH調整剤であり、且つ、前記砥粒がダイヤモンドである請求項1記載の研磨フィルム。
【請求項8】
前記pH調整剤が水溶液のpHを7を超え12以下に調整し得るアルカリ性pH調整剤であり、且つ、前記砥粒がシリカである請求項1記載の研磨フィルム。
【請求項9】
請求項7記載の研磨フィルムを用いた第一の研磨工程の後に、請求項8記載の研磨フィルムを用いて第二の研磨工程を実施することを特徴とする光コネクタフェルール用部材の研磨方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−255819(P2006−255819A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74637(P2005−74637)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】