説明

研磨ブラシ用毛材および研磨ブラシ

【課題】研磨性、耐熱性、耐摩耗性に優れ、持続的な研磨性能を発揮する研磨ブラシ用毛材および研磨ブラシを提供する。
【解決手段】デカメチレンジアミンとセバシン酸をモノマー成分として重合して得られたナイロン1010樹脂またはこのナイロン1010樹脂を主成分とし他の相溶可能な熱可塑性樹脂との混合物100重量部に対し、研磨砥材粒子5〜50重量部を含有せしめた樹脂組成物を溶融紡糸したモノフィラメントからなることを特徴とする研磨ブラシ用毛材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属などを研削するために使用する研磨ブラシ用毛材および研磨ブラシに関するものである。さらに詳しくは、優れた研磨性、耐熱性、耐磨耗性とを兼ね備え、高温、高湿などの過酷な研削環境において持続的な研磨性能を発揮する研磨ブラシ用毛材および研磨ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から金属板の製造工程における金属板表面の研磨には、ディスクロールブラシ、チャンネルロールブラシ、カップ状ブラシ、セグメントブラシなどの研磨ブラシが使用されており、さらにこれらの研磨ブラシの毛材には研磨砥材粒子を含有したモノフィラメントが使用されている。研磨ブラシに要求される毛材の特性としては、毛材の腰、耐熱性、研磨性、耐摩耗性等が挙げられ、使用用途に応じてこれらの特性を満たしたブラシが使用されている。
【0003】
これらの研磨ブラシは、回転しながら金属板表面に押圧され、金属板表面に付着したスラッジや錆を除去するために使用されるものであるが、使用時に、高温、高湿などの過酷な研削環境によって毛材が劣化するという問題があった。
【0004】
こうした問題に対し、ポリエチレンナフタレート単位60モル%以上を含有するポリエステル樹脂100重量部に対し、研磨砥材粒子を10〜50重量部含有せしめたモノフィラメントからなる研磨ブラシ用毛材(例えば、特許文献1参照)が知られているが、この研磨ブラシ用毛材は、耐熱性に優れるものの、毛材のフィブリル化が起こりやすいことから、実用時に研磨砥材粒子が脱落し、研磨性能が低下しやすいばかりか、毛折れが起きやすいため、未だに十分な研磨性を発揮し得るものではなかった。
【0005】
また、ポリアミド系樹脂100重量部に対して研磨砥材粒子10〜60重量部およびアジン系化合物0.1〜5重量部を含有せしめたモノフィラメントからなる研磨ブラシ用毛材(例えば、特許文献2参照)も知られているが、この研磨ブラシ用毛材は、耐熱性が比較的優れ、研磨砥材粒子が脱落しにくいといった利点を有してはいるものの、使用時の高温、高湿などの過酷な研削環境においては毛材の劣化が早く、毛材自身の磨耗も早いために、未だ十分な研磨性が得られない点において問題を残していた。
【0006】
以上のことから、優れた研磨性、耐熱性、耐磨耗性とを兼ね備え、持続的な研磨性能を発揮する研磨ブラシ用毛材および研磨ブラシの開発がしきりに求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−39335号公報
【特許文献2】特開2003−145434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。したがって、本発明の目的は、優れた研磨性、耐熱性、耐磨耗性とを兼ね備え、高温、高湿などの過酷な研削環境において持続的な研磨性能を発揮する研磨ブラシ用毛材および研磨ブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため本発明によれば、デカメチレンジアミンとセバシン酸をモノマー成分として重合して得られたナイロン1010樹脂またはこのナイロン1010樹脂を主成分とし他の相溶可能な熱可塑性樹脂との混合物100重量部に対し、研磨砥材粒子を5〜50重量部を含有せしめた樹脂組成物を溶融紡糸したモノフィラメントからなることを特徴とする研磨ブラシ用毛材が提供される。
【0010】
なお、本発明の研磨ブラシ用毛材においては、
前記研磨砥材粒子の番手が#36〜#3000であること、および
前記モノフィラメントの糸直径が0.1〜4.0mmであること、
がいずれも好ましい条件として挙げられる。
【0011】
また、本発明の研磨ブラシ用毛材は、上記研磨ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた研磨性、耐熱性、耐磨耗性とを兼ね備えたブラシ用毛材および研磨ブラシが得られる。したがって、本発明の研磨ブラシ用毛材は、高温、高湿などの過酷な研削環境を要求される研磨加工用の研磨ブラシに極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の研磨ブラシ用毛材は、ナイロン1010樹脂を主成分とする樹脂または樹脂組成物100重量部に対し、研磨砥材粒子を5〜50重量部含有せしめた混合物を溶融紡糸したモノフィラメントからなることを特徴とする。
【0014】
本発明で使用するナイロン1010樹脂とは、デカメチレンジアミンとセバシン酸をモノマーとして重合したポリアミド樹脂であり、ナイロン66やナイロン610などと同様に、ジアミン成分とジカルボン酸成分が有するそれぞれの炭素数10から、ナイロン1010と名づけられたものである。ナイロン1010樹脂は、特には限定されないが、とうごまの実から採取されるヒマシ油、セバシン酸を素原料としていることから、植物由来100%の樹脂であり、自然に優しい樹脂として注目されている。
【0015】
なお、ナイロン1010樹脂には、本発明の目的を阻害しない範囲において他の相溶可能な熱可塑性樹脂を混合することも可能である。ここでいう他の相溶可能な熱可塑性樹脂は特に限定されないが、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン510、ナイロン1012、ナイロン1212、ナイロン46、ナイロンMXD6、ナイロン11、ナイロン12などのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂や、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロエチレン・プロピレン共重合体、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロジオキソール共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフルオライド共重合体テトラフルオロエチレン・エチレンクロライド共重合体、フルオロビニルエーテル共重合体などのフッ素系樹脂などの、ナイロン1010樹脂と相溶可能な樹脂であればいずれでも使用することができる。ただし、これら相溶可能な樹脂の配合量が多い場合には研磨性や毛材の強度の低下を招くため、前記相溶可能な他の熱可塑性樹脂の配合量は、ナイロン1010樹脂100重量部に対し、50重量部以下であることが好ましく、さらには30重量部以下であることが好ましい。なお、これら相溶可能な樹脂のなかでも、研磨ブラシ用毛材としての耐久性、研磨性などに優れるとの理由から、ナイロン6、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン510、ナイロン1212などのポリアミド系樹脂の使用が特に好ましく、環境負荷の面においてはナイロン610、ナイロン612、ナイロン510、ナイロン1212を使用することが好ましい。
【0016】
本発明の研磨ブラシ用毛材に含有させる研磨砥材粒子としては、炭化珪素、緑色炭化珪素、酸化アルミナおよび人工ダイヤモンドなどを使用することができ、その粒子径番手については、研磨性の面から、#36〜#3000の範囲にあることが好ましく、さらには#60〜#1500の範囲にあることがより好ましい。
【0017】
なお、前記研磨砥材粒子の含有量が多い場合は、研磨ブラシ用毛材の強度が低下する傾向にあることから、ナイロン1010樹脂を主成分とする樹脂または樹脂組成物100重量部に対して5〜50重量部の範囲にあることが好ましく、さらには10〜30重量部の範囲にあることがより好ましい。
【0018】
また、本発明の研磨ブラシ用毛材の直径は、研磨性の面から、0.1〜4.0mmの範囲にあることが好ましく、さらには0.3〜3.0mmの範囲にあることがより好ましい。
【0019】
本発明の研磨ブラシ用毛材の製造には、何ら特殊な製造装置を使用する必要はなく、例えば公知のエクストルダー型溶融紡糸機を使用して製造することができる。
【0020】
具体的には、ナイロン1010樹脂または樹脂組成物と砥材粒子とを二軸押出型溶融紡糸機に供給し、溶融混練した混合物を紡糸口金から押し出し、冷却固化、加熱延伸、必要に応じて加熱弛緩処理を施し、モノフィラメントを一旦束状に巻き取る。次に、研磨ブラシの用途に応じた長さにカットすることにより本発明の研磨ブラシ用毛材が得られる。
【0021】
なお、本発明の研磨ブラシ用毛材には、研磨ブラシの用途に応じて、その側面長手方向に波形状を付与することもできる。そして、本発明の研磨ブラシは、上記製造方法で得られた研磨ブラシ用毛材をブラシ基材の少なくとも一部に植毛してなるものであり、公知の製造方法により得られる。
【0022】
以上説明した通り、本発明によれば、優れた研磨性、耐熱性、耐磨耗性とを兼ね備えた研磨ブラシ用毛材が得られ、この研磨ブラシ用毛材をロールブラシ、カップブラシ、筒状ブラシおよびホイルブラシなどの研磨ブラシにおいて、毛材の少なくとも一部に使用した場合には、上記の特性が要求される研磨加工用の研磨ブラシとして極めて有用である。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における毛材の研磨性、耐熱性、耐摩耗性の評価を以下の通り行った。
【0024】
[耐熱性評価]
得られたモノフィラメントを熱風乾燥機に入れ、150℃で168時間処理し、JIS L 1095に記載する引張試験機で引張強力を測定し、引張強度を算出した。何も処理していないモノフィラメントの引張強力を100%とし、処理したモノフィラメントの強力保持率を割合で算出した。割合が高い程、耐熱性に優れることを示す。
A:強度保持率が90%以上(極めて良好な耐熱性が得られた)、
B:強度保持率が70%〜90%(良好な耐熱性が得られた)、
C:強度保持率が50%〜70%(耐熱性がやや悪い)、
D:強度保持率が50%以下(耐熱性が悪い)。
【0025】
[研磨性評価]
得られたモノフィラメントを使用し、内径45mm、外径70mm、毛丈50mmのカップ状ブラシを作成した。そして、このカップ状ブラシをハンドグラインダーに取り付け、圧力50N、回転数12000rpmでステンレス金属板の表面を30分間研磨した。研磨前のステンレス金属板の質量から研磨後のステンレス金属板の質量を差し引いて、削り取られたステンレス粉の質量を算出し、判定基準は以下の通りとした。
【0026】
削り取られたステンレス粉の質量が多い程、毛材の研磨性が優れることを示す。
A:削り取られたステンレス粉の質量が40g以上(研磨性が極めて良い)、
B:削り取られたステンレス粉の質量が31〜40g(研磨性が良い)、
C:削り取られたステンレス粉の質量が21〜30g(研磨性がやや悪い)、
D:削り取られたステンレス粉の質量が20g以下(研磨性が悪い)。
【0027】
[耐磨耗性評価]
得られたモノフィラメントを使用し、内径45mm、外径70mm、毛丈50mmのカップ状ブラシを作成した。そして、このカップ状ブラシをハンドグラインダーに取り付け、圧力50N、回転数12000rpmでステンレス金属板の表面を30分間研磨した。研磨前の毛材の質量から研磨後の毛材の質量を差し引いて、毛材の磨耗量を算出し、判定基準は以下の通りとした。毛材の磨耗量が少ない程、毛材の耐磨耗性が優れることを示す。
A:毛材の磨耗量が0.5g以下(耐磨耗性が極めて良い)、
B:毛材の磨耗量が0.5g以上1g以下(耐磨耗性が良い)、
C:毛材の磨耗量が1g以上2g以下(耐磨耗性がやや悪い)、
D:毛材の磨耗量が3g以上(耐磨耗性が悪い)。
【0028】
[実施例1]
ナイロン1010樹脂(山東東辰工程塑料有限公司社製;PA1010−I型)100重量部に、砥粒度番手#100の炭化珪素砥材粒子(昭和電工(株)社製)10重量部を含有させた樹脂組成物をエクストルダー型溶融紡糸機に供給し、250℃の温度で溶融混練した後、口金孔から押し出した。次いで、押し出された糸条を20度の冷却浴で冷却固化した後、引き続き170℃の熱風雰囲気中で3.0倍に延伸することにより、直径0.5mmの円形断面モノフィラメントを得た。各評価結果を表1に示す。
【0029】
[実施例2]
実施例1において、砥粒含有率を20重量部、糸直径を1.0mmに変更したこと以外は、実施例1と同じ条件でモノフィラメントを得た。各評価結果を表1に示す。
【0030】
[実施例3]
実施例1において、砥粒度番手を#500に変更したこと以外は、実施例1と同じ条件でモノフィラメントを得た。各評価結果を表1に示す。
【0031】
[実施例4]
実施例2において、ナイロン1010樹脂を、ナイロン1010樹脂90重量部と、ナイロン610樹脂10重量部からなる樹脂組成物に変更したこと以外は、実施例2と同じ条件でモノフィラメントを得た。各評価結果を表1に示す。
【0032】
[実施例5]
実施例3において、ナイロン1010樹脂を、ナイロン1010樹脂80重量部と、ナイロン610樹脂20重量部からなる樹脂組成物に変更したこと以外は、実施例3と同じ条件でモノフィラメントを得た。各評価結果を表1に示す。
【0033】
[比較例1]
実施例2において、ナイロン1010樹脂を、ナイロン610樹脂(東レ(株)社製;M2001)に変更したこと以外は、実施例2と同じ条件でモノフィラメントを得た。各評価結果を表1に示す。
【0034】
[比較例2]
実施例2において、ナイロン1010樹脂を、ポリエチレンテレフタレート樹脂(東レ(株)社製;T301)に、溶融紡糸温度を300℃に、砥粒含有率を3重量部に、それぞれ変更したこと以外は、実施例2と同じ条件でモノフィラメントを得た。各評価結果を表1に示す。
【0035】
[比較例3]
実施例2において、砥粒含有率を3重量部に変更したこと以外は、実施例2と同じ条件でモノフィラメントを得た。各評価結果を表1に示す。
【0036】
[比較例4]
実施例2において、砥粒含有率を60重量部に変更したこと以外は、実施例2と同じ条件でモノフィラメントを得た。各評価結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1の結果から明らかなように、本発明の条件を満たす研磨ブラシ用毛材(実施例1〜5)は、研磨性、耐熱性、耐磨耗性の優れた毛材であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の研磨ブラシ用毛材は、研磨性、耐熱性、耐磨耗性に優れているため、これを毛材の少なくとも一部に使用したロールブラシ、カップブラシ、筒状ブラシおよびホイルブラシなどの研磨ブラシは、高い耐熱性を要求される研磨加工用途に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デカメチレンジアミンとセバシン酸をモノマー成分として重合して得られたナイロン1010樹脂またはこのナイロン1010樹脂を主成分とし他の相溶可能な熱可塑性樹脂との混合物100重量部に対し、研磨砥材粒子を5〜50重量部を含有せしめた樹脂組成物を溶融紡糸したモノフィラメントからなることを特徴とする研磨ブラシ用毛材。
【請求項2】
前記研磨砥材粒子の番手が#36〜#3000であることを特徴とする請求項1に記載の研磨ブラシ用毛材。
【請求項3】
前記モノフィラメントの糸直径が0.1〜4.0mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の研磨ブラシ用毛材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の研磨ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とする研磨ブラシ。

【公開番号】特開2012−179691(P2012−179691A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45255(P2011−45255)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】