説明

研磨用添加剤及び高分散性研磨スラリー

【課題】分散性だけでなく、再分散性にも優れた研磨スラリーを実現することができる研磨用添加剤、及び高分散性研磨スラリーを提供すること。
【解決手段】酸化セリウムからなる研磨砥粒を水に分散させた研磨スラリーに添加する研磨用添加剤及びこれを用いた高分散研磨スラリーである。研磨用添加剤は、有機酸とアルカリ又はこれらの塩を含有し、上記有機酸に対する上記アルカリのモル比は1.1以上である。また、有機酸は、分子内に下記の一般式(1)で表される構造を少なくとも1つ有し、第1の解離定数pKa1が0.1〜3.5である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化セリウムからなる研磨砥粒を水に分散させた研磨スラリーに添加する研磨用添加剤及びこれを用いた高分散性研磨スラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス製品は、レンズ、光学部材、フォトマスク(合成石英)、ハードディスク等に幅広く用いられている。さらに近年は、液晶テレビ、STN、携帯電話、タッチパネル等においても、ガラス製のフラットパネルディスプレイ(FPD)が用いられている。
これらのガラス製品は、表面の粗さの軽減、軽量化、キズの除去、及び異物の除去等を目的として、表面を研磨して作製される。
【0003】
上記ガラス製品の表面の研磨には、酸化セリウムからなる研磨砥粒を水に分散した研磨スラリーが用いられていた。このような研磨スラリーにおいては、研磨速度及び研磨面品質の向上のために、研磨砥粒が均一に分散されていることが望まれる。ところが、研磨スラリー中において研磨砥粒は自重により沈降し易い。そこで、研磨砥粒の沈降を抑制し、研磨砥粒の分散性を向上させるために、ピロリン酸ナトリウムやポリカルボン酸などを添加した研磨スラリーが開発されている(特許文献1〜6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4420391号公報
【特許文献2】特許第3986960号公報
【特許文献3】特許第3525824号公報
【特許文献4】特許第4290465号公報
【特許文献5】特開2008−182179号公報
【特許文献6】国際公開第WO2006/035771号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ピロリン酸ナトリウムやポリカルボン酸を配合した研磨スラリーにおいても、該研磨スラリーを長時間静置すると研磨砥粒が沈降する。このとき、酸化セリウムからなる研磨砥粒は凝集して堅い沈殿物を形成するため、再度研磨砥粒を分散させることが困難になるという問題がある。それ故、研磨スラリーを繰り返し使用することが困難になるおそれがある。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、分散性だけでなく、再分散性にも優れた研磨スラリーを実現することができる研磨用添加剤、及び高分散性研磨スラリーを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、酸化セリウムからなる研磨砥粒を水に分散させた研磨スラリーに添加する研磨用添加剤であって、
有機酸とアルカリ又はこれらの塩を含有し、
上記有機酸に対する上記アルカリのモル比は1.1以上であり、
上記有機酸は、分子内に下記の一般式(1)で表される構造を少なくとも1つ有し、第1の解離定数pKa1が0.1〜3.5であることを特徴とする研磨用添加剤にある(請求項1)。
【化1】

(但し、上記一般式(1)において、X1、X2は、それぞれ独立してPO(OH)2、COOH、SO2(OH)、PHO(OH)から選ばれる少なくとも1種であり、Aは、X1とX2との間に存在する炭素数1〜4の直鎖状有機鎖である。該直鎖状有機鎖は少なくともCを一つ含有し、炭素数が1の場合には、上記直鎖状有機鎖を構成するCにO、N、Sのいずれかの原子が結合しており、炭素数2〜4の場合には上記直鎖状有機鎖を構成するCの一部がO、N、及びSから選ばれる少なくとも1つの原子によって置換されていてもよい。また、上記直鎖状有機鎖はsp3原子及び/又はsp2原子からなり、sp2原子を少なくとも1つ含有する場合には、上記直鎖状有機鎖の炭素数は3又は4である。)
【0008】
第2の発明は、第1の発明の研磨用添加剤を、酸化セリウムからなる研磨砥粒を水に分散させた研磨スラリーに添加してなることを特徴とする高分散性研磨スラリーにある(請求項4)。
【発明の効果】
【0009】
上記第1の発明の研磨用添加剤は、上記一般式(1)で表される特定構造を少なくとも部分的に有し、上記第1の解離定数pKa1が上記特定の範囲内にある有機酸とアルカリとを含有するか、又は上記有機酸とアルカリとの塩を含有している。
そのため、酸化セリウムからなる研磨砥粒を水に分散させた研磨スラリーに、上記研磨用添加剤を添加することにより、上記研磨砥粒の分散性を向上させることができる。また、一旦研磨スラリーを静置し、上記研磨砥粒を沈降させた後、再度上記研磨砥粒を分散させても、比較的容易に分散性よく再分散させることが可能になる。したがって、上記研磨用添加剤を用いることにより、再分散性に優れた研磨スラリーを実現することができる。
【0010】
また、上記第2の発明の高分散性研磨スラリーは、上記第1の発明の研磨用添加剤を、酸化セリウムからなる研磨砥粒を水に分散させた研磨スラリーに添加してなる。そのため、上記高分散性研磨スラリーにおいては、上述のごとく、上記研磨砥粒の分散性を向上させることができると共に、比較的容易に再分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】代表的な有機酸の構造を示す説明図であって、クエン酸の構造を示す説明図(a)、酒石酸の構造を示す説明図(b)、2,6−ピリジンジカルボン酸の構造を示す説明図(c)、エチレンジアミン四酢酸の構造を示す説明図(d)、フィチン酸の構造を示す説明図(e)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸の構造を示す説明図(f)、ニトリロトリスメチレンホスホン酸の構造を示す説明図(g)、リンゴ酸の構造を示す説明図(h)。
【図2】代表的な有機酸の構造を示す説明図であって、グリコール酸の構造を示す説明図(a)、マロン酸の構造を示す説明図(b)、シュウ酸の構造を示す説明図(c)、乳酸の構造を示す説明図(d)、マレイン酸の構造を示す説明図(e)、コハク酸の構造を示す説明図(f)、フマル酸の構造を示す説明図(g)、グルタル酸の構造を示す説明図(h)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
上記研磨用添加剤は、酸化セリウムからなる研磨砥粒を水に分散させた研磨スラリーに添加して用いられる。
上記研磨用添加剤は、上記特定の有機酸とアルカリとを含有するか、又は上記特定の有機酸とアルカリとの塩を含有する。上記研磨用添加剤は、上記有機酸とアルカリ又はこれらの塩を含有する水溶液の形態にすることができる。この場合には、使用時に、水溶液状態の上記研磨用添加剤と、研磨砥粒を水に分散させた研磨スラリーとを混合して用いることができる。上記研磨用添加剤を水溶液形態で供給する場合には、水溶液中における有機酸、アルカリ、及びこれらの塩の濃度は必要に応じて適宜調整することができる。
【0013】
上記研磨用添加剤において、有機酸としては、一般式(1)で表される構造を少なくとも1つ有するものを採用する。上記一般式(1)は、有機酸の部分構造を示すものであり、本発明においては、かかる構造を少なくとも部分的に有する有機酸を採用することができる。
【0014】
【化2】

【0015】
以下、上記一般式(1)で表される構造について、説明する。
上記一般式(1)において、X1、X2は、それぞれ独立してPO(OH)2、COOH、SO2(OH)、PHO(OH)から選ばれる少なくとも1種である。X1及びX2は同じであってもよいが異なっていてもよい。入手の容易性という観点から、X1とX2が同じ有機酸が好ましい。
【0016】
また、Aは、X1とX2との間に存在する炭素数1〜4の直鎖状有機鎖である。換言すれば上記有機酸におけるX1とX2との間に存在する直鎖状の有機鎖がAであり、該有機鎖の炭素数が1〜4である構造を備えた有機酸を採用することができる。上記有機酸は、上記直鎖状有機鎖から分岐する有機鎖を有していてもよいが、かかる分岐鎖は、Aには該当せず、Aの炭素数には算入しない。
代表的な有機酸の構造を図1及び図2に示す。図1及び図2においては、一般式(1)におけるX1及びX2に相当する部分を点線で囲って示し、Aに相当する部分を実線で囲って示してある。例えば、図1(f)に示すように、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸は、X1及びX2としていずれもPO(OH)2を有し、X1とX2との間に存在する直鎖状有機鎖は炭素数1である。1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸は、X1とX2との間に存在する直鎖状有機鎖(炭素数1)から分岐する有機鎖(炭素数1)を有しているが、かかる分岐鎖は、X1とX2との間に存在し、X1とX2とに結合する直鎖状の有機鎖ではないため、Aには該当しない。したがって、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸は、X1及びX2としていずれもPO(OH)2を有し、炭素数1の直鎖状有機鎖を有する有機酸である。
上記一般式において、直鎖状有機鎖の炭素数は好ましくは1〜3、より好ましくは1〜2がよい。
【0017】
また、上記一般式(1)において、直鎖状有機鎖には、OHなどの官能基が結合していてもよい。例えば図1(b)に示す酒石酸及び図1(h)に示すリンゴ酸は、いずれも、X1及びX2としてCOOHを有し、X1とX2との間に存在し、これらに結合する直鎖状有機鎖の炭素数が2の有機酸である。そして、酒石酸(図1(b)参照)においては、直鎖状有機酸を構成する2つの炭素の両方に水酸基が結合しており、リンゴ酸(図1(h)参照)においては、直鎖状有機酸を構成する2つの炭素のうちの一方に水酸基が結合している。これらはいずれも上記一般式(1)で表される構造を有する有機酸に相当する。
【0018】
また、上記一般式(1)において、Aの直鎖状有機鎖は、炭素原子(C)を少なくとも一つ有し、炭素数が1の場合には、上記直鎖状有機鎖を構成するCにO、N、Sのいずれかの原子が結合する。好ましくは、O、Nがよく、さらに好ましくはOがよい。
例えば、上述の1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(図1(f)参照)は、一般式(1)のAに相当する直鎖状有機鎖として炭素数1の有機鎖を有し、該有機鎖にはO(OH)が結合している。したがって、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸は、上記一般式(1)で表される構造を有する有機酸に該当する。
一方、マロン酸(図2(b)参照)は、X1及びX2としていずれもCOOHを有し、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸と同様に、X1とX2との間に存在する直鎖状有機鎖の炭素数が1の有機酸である。しかし、マロン酸においては、炭素数1の有機鎖にO、N、Sのいずれの原子も結合していない。したがって、マロン酸は、上記一般式(1)で表される構造を有する有機酸に該当しない。
【0019】
また、上記一般式(1)において、Aの直鎖状有機鎖の炭素数が2〜4の場合には上記直鎖状有機鎖を構成するCの一部がO、N、及びSから選ばれる少なくとも1つの原子によって置換されていてもよい。好ましくはCに置換する原子はO又はNがよい。
例えば、2,6−ピリジンジカルボン酸(図1(c)参照)は、X1及びX2としていずれもCOOHを有し、X1とX2との間に存在する直鎖状有機鎖Aの炭素数が3の有機酸であるが、Cの一部(真ん中に位置するC)がNに置換された構造を有している。同様に、エチレンジアミン四酢酸(図1(d)参照)及びニトリロトリスメチレンホスホン酸(図1(g)参照)においても、X1とX2との間に存在する直鎖状有機鎖Aの炭素数が3の有機酸であるが、Cの一部がNに置換された構造を有している。これらの有機酸はいずれも上記一般式(1)で表される構造を有する有機酸に該当する。
【0020】
また、上記一般式(1)において直鎖状有機鎖Aはsp3原子及び/又はsp2原子からなる。即ち、直鎖状有機鎖Aは、単結合及び/又は二重結合で結合した有機鎖である。また、sp2原子を少なくとも1つ含有する場合、即ち、二重結合を少なくとも一つ含有する場合には、上記直鎖状有機鎖の炭素数は3又は4である。これは炭素数2以下でsp2原子を有する直鎖状有機鎖Aを備えた有機酸は上記一般式(1)で表される構造を有する有機酸に該当しないことを意味する。
【0021】
例えば、2,6−ピリジンジカルボン酸(図1(c)参照)は、X1とX2との間に存在する直鎖状有機鎖Aの炭素数が3であり、sp2原子を含有する有機酸である。したがって、2,6−ピリジンジカルボン酸は、上記一般式(1)で表される構造を有する有機酸に該当する。
これに対し、マレイン酸(図2(e)参照)及びフマル酸(図2(g)参照)は、直鎖状有機鎖Aにsp2原子を含有するが、直鎖状有機鎖Aの炭素数が2である。したがって、フマル酸及びマレイン酸は、上記一般式(1)で表される構造を有する有機酸に該当しない。
【0022】
また、X1又はX2のいずれか一方しか有していない酸として、グリコール酸(図2(a)参照)、乳酸(図2(d)参照)等があり、またX1及びX2を含有するがX1とX2との間にこれらを結合する直鎖状有機鎖を有さない酸としてシュウ酸(図2(c)参照)等がある。これらも上記一般式(1)で表される構造を有する有機酸には該当しない。
【0023】
また、有機酸は、上記一般式(1)で表される構造を少なくとも一つ有していればよく、2つ以上有していてもよい。上記一般式(1)で表される構造を2つ以上有する有機酸としては、例えばクエン酸(図1(a)参照)、エチレンジアミン四酢酸(図1(d)参照)、フィチン酸(図1(e)参照)、ニトリロトリスメチレンホスホン酸(図1(g))等がある。
【0024】
図1及び図2に示す有機酸においては、図1における(a)〜(h)、図2(f)及び図2(h)の有機酸が上記一般式(1)で表される構造を有するものである。図2における(a)〜(e)、及び(g)の有機酸は、上記一般式(1)で表される構造を有していない。上記一般式(1)で表される構造を有しない有機酸を用いた場合には、上記研磨スラリーにおける研磨砥粒の分散性が不十分になったり、再分散性が不十分になったりするおそれがある。なお、図2(f)に示すコハク酸及び図2(h)に示すグルタル酸は、上記一般式(1)の構造を有するものの、後述のpKa1が大きすぎるため、上記研磨用添加剤に適していない。
【0025】
上記研磨用添加剤において、有機酸としては、1段目の解離定数(酸解離定数)、即ち第1の解離定数pKa1が0.1〜3.5のものを用いる。
pKa1が3.5を超える場合には、上記研磨スラリーにおける研磨砥粒の分散性が不十分になるおそれがある。一方、pKa1が0.1未満の場合には、研磨砥粒の再分散性が不十分になるおそれがある。より好ましくは、pKa1は0.3〜3.0がよく、さらにより好ましくは、pKa1は0.5〜2.5がよい。
【0026】
また、上記有機酸の2段目の解離定数(酸解離定数)、即ち第2の解離定数pKa2は1.5〜10であることが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記研磨スラリーにおける研磨砥粒の分散性及び再分散性をより向上させることができる。より好ましくは、pKa2は2.0〜9.0がよく、さらにより好ましくは、pKa2は2.5〜7.0がよい。
【0027】
上述のpKa1及びpKa2は、25℃での無限希釈水溶液中の値で規定することができる。
【0028】
上記有機酸としては、具体的には、例えばフィチン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、エチレンジアミン四酢酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、N−2−ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、N−2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、アスパラギン酸、3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、(S,S)−エチレンジアミンジコハク酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、1,3-ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、及びグリコールエーテルジアミン四酢酸等を用いることができる。これらの酸は1種又は2種以上用いることができる。
【0029】
また、アルカリとしては、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン;トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン等の1級、2級、又は3級のアミン;ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等の水酸化4級アンモニウム等を用いることができる。これらのアルカリは1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
上記有機酸及びアルカリは、水溶性であるものが好ましい。また、有機酸及びアルカリとの塩が水溶性であるものが好ましい。
【0031】
また、上記研磨用添加剤においては、上記有機酸に対する上記アルカリのモル比は1.1以上である。
有機酸に対するアルカリの含有量がモル比で1.1未満の場合には、上記研磨スラリーにおける研磨砥粒の分散性及び再分散性が不十分になるおそれがある。好ましくは、有機酸に対するアルカリの含有量はモル比で1.5以上がよく、より好ましくは2.0以上がよい。また、上記研磨用添加剤が強アルカリ性となると取り扱いが困難になるため、有機酸に対するアルカリの含有量はモル比で10以下が好ましく、5以下がより好ましい。
【0032】
また、上記研磨用添加剤は、水溶性ポリマーを含有することが好ましい(請求項3)。
この場合には、酸化セリウムからなる上記研磨砥粒の分散性をより向上させることができる。
【0033】
水溶性ポリマーとしては、例えば、カルボン酸系重合体/共重合体、スルホン酸系重合体/共重合体等のような酸性官能基を有するポリマー又はその塩等を用いることが好ましい。入手の容易さという観点から、アクリル酸系重合体/共重合体、ナフタレンスルホン酸−ホルマリン縮合物、又はそのナトリウム塩を用いることがより好ましい。
具体的には、水溶性ポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリアクリル酸アンモニウム塩、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、ナフタレンスルホン酸ナトリウム−ホルマリン縮合物、マレイン酸−スチレン共重合体、ポリアセトアミド等を用いることができる。
また、水溶性ポリマーとしては、例えば分子量1000〜10000のものを用いることができる。
【0034】
上記研磨用添加剤が上記水溶性ポリマーを含有する場合には、上記水溶性ポリマーの濃度が2wt%以下となるとなるように、上記研磨用添加剤を上記研磨スラリーに添加して用いることができる。過剰に添加しすぎると、かえって分散性が悪くなるおそれがある。
【0035】
次に、酸化セリウムからなる研磨砥粒を水に分散させた研磨スラリーに上記研磨用添加剤を添加してなる高分散性研磨スラリーにおいて、上記研磨用添加剤は、上記研磨砥粒100質量部に対する上記有機酸の量が0.01〜50質量部となるように上記研磨スラリーに添加されていることが好ましい(請求項5)。
上記有機酸の量が0.01質量部未満の場合には、研磨砥粒の分散性及び再分散性の向上効果が十分に得られなくなるおそれがある。一方、50質量部を超える場合には、研磨砥粒に対する凝集作用を示し、かえって分散性を悪化させてしまうおそれがある。上記有機酸の量はより好ましくは0.1質量部以上がよく、20質量部以下がよい。
【0036】
上記高分散性研磨スラリーは、ガラス又は水晶等の被研磨材の研磨に好適に用いることができる。具体的には、ハードディスク、フォトマスク、液晶などに用いられるガラス基板及び半導体基板の研磨に用いることができる。
上記高分散研磨スラリーは、被研磨材の研磨面に供給して使用される。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
次に、本発明の実施例及び比較例にかかる研磨用添加剤について説明する。
本例において、研磨用添加剤は、酸化セリウムからなる研磨砥粒を水に分散させた研磨スラリーに添加して用いられるものである。
本発明の実施例にかかる研磨用添加剤は、有機酸とアルカリ又はこれらの塩を含有し、有機酸に対するアルカリのモル比は1.1以上である。上記有機酸は、分子内に下記の一般式(1)で表される構造を少なくとも1つ有し、第1の解離定数pKa1が0.1〜3.5である。
【0038】
【化3】

【0039】
本例においては、有機酸、アルカリ、これらの塩、及び水溶性ポリマー等の配合を変えて、研磨用添加剤が配合された92種類の研磨スラリー試料(試料X1〜試料X92)を調整した。各成分の配合はスターラーによる撹拌下で行った。
各試料は、酸化セリウムからなる研磨砥粒と、有機酸とアルカリ又はこれらの塩とを含有する。また、一部の試料は、さらに水溶性ポリマーを含有する。各試料X1〜X92の配合組成、即ち、研磨砥粒の含有量、有機酸の種類、pKa1、pKa2、有機酸の含有量、アルカリの種類、その含有量、塩の種類、その含有量、有機酸に対するアルカリの配合割合(モル比)、水溶性ポリマーの種類とその含有量、水の含有量を表1〜表10に示す。なお、有機酸とアルカリの代わりに塩を用いた場合には、有機酸の代わりに塩の種類と量を表中に示し、有機酸に対するアルカリの配合割合としては、塩を構成する有機酸とアルカリのモル比を示した。また、表1〜10において、水溶性ポリマーのポリアクリル酸(分子量6000)としては東亞合成(株)製の「アロンA−10SL」を用い、ポリアクリル酸ナトリウム(分子量3000)としては東亞合成(株)製の「アロンA−210」を用い、ポリアクリル酸ナトリウム(分子量6000)としては東亞合成(株)製の「アロンT−540」を用い、ポリアクリル酸アンモニウム(分子量6000)としては東亞合成(株)製の「アロンA−30SL」を用い、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(分子量10000)としては東亞合成(株)製の「アロンA−12SL」を用いた。
【0040】
そして、各試料について、次のようにして分散性及び再分散性の評価を行った。
「分散性の評価」
各試料(100g)をスターラーで60分間撹拌した後、撹拌を停止し、容積100mlの活栓付き比色管に各試料を移して1時間又は24時間静置させた。静置後、3mlガラスピペットを用い、比色管中の試料の中心位置付近(50ml±3mlの位置)から試料を採取し、予め秤量した100mlビーカーに約2gを採取し、秤量した。
秤量した試料を温度105℃の恒温槽に2時間放置させ、水分を除去した。次いで、デシケーターにビーカーを移し、1時間冷却した。冷却後、ビーカーを秤量し、残渣(研磨砥粒)の重量を求めた。そして、この残渣重量と、予め測定した試料2mlの重量とから各試料中に分散している研磨砥粒の濃度(研磨砥粒濃度A)を算出した。一方、各試料の調整時に使用した研磨用添加剤の成分及び研磨砥粒の量から、各試料の調整時における研磨砥粒の濃度(研磨砥粒濃度B)を算出した。研磨砥粒濃度Bに対する研磨砥粒濃度Aの割合を百分率で示し、これを分散率とした。分散率は、静置1時間後及び静置24時間後の各試料について算出した。
【0041】
静置1時間後の分散率が80%以上で静置24時間後の分散率が20%以上の場合を「○」として判定し、静置1時間後の分散率が70%以上で静置24時間後の分散率が10%以上の場合を「○△」として判定し、静置1時間後の分散率が30%以上で静置24時間後の分散率が10%以上の場合を「△」として判定し、静置1時間後の分散率が20%以上で静置24時間後の分散率が5%以上の場合を「△×」として判定し、「○」、「○△」、「△」、及び「△×」のいずれにも該当しない場合を「×」として判定した。「○」、「○△」、及び「△」を合格とし、「△×」及び「×」を不合格とする。その結果を表1〜10に示す。
【0042】
「再分散性の評価」
各試料(100g)をスターラーで60分間撹拌した後、撹拌を停止し、容積100mlの活栓付き比色管に各試料を移して48時間静置させた。
静置後、活栓付き比色管の上下を反転させてそのまま10分間静置させた(ステップA)。次いで、反転させた状態から元の位置に戻した後、再度反転させた後10分間静置させた。即ち、反転させた状態から比色管を一回転させた後10分間静置させた(ステップB)。そして、活栓付き比色管の底部に溜まった研磨砥粒がなくなるまでステップ2を繰り返し行った。
【0043】
ステップA又は1回目のステップBを行ったときに比色管に溜まった研磨砥粒を目視で確認できなくなった場合を「○」として判定した。ステップBを2〜4回繰り返し行ったときに比色管に溜まった研磨砥粒を目視で確認できなくなった場合を「○△」として判定した。ステップBを5〜7回繰り返し行ったときに比色管に溜まった研磨砥粒を目視で確認できなくなった場合を「△」として判定した。ステップBを8〜10回繰り返し行ったときに比色管に溜まった研磨砥粒を目視で確認できなくなった場合を「△×」として判定した。ステップBを11回以上繰り返し行ったときに比色管に溜まった研磨砥粒を目視で確認できなくなった場合を「×」として判定した。
「○」、「○△」、及び「△」を合格とし、「△×」及び「×」を不合格とする。その結果を表1〜表10に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
【表6】

【0050】
【表7】

【0051】
【表8】

【0052】
【表9】

【0053】
【表10】

【0054】
表1〜表10より知られるごとく、上記一般式(1)で表される構造を少なくとも1つ有し、第1の解離定数pKa1が0.1〜3.5である有機酸とアルカリ又はこれらの塩を含有し、有機酸に対するアルカリのモル比が1.1以上である研磨用添加剤が添加された試料X6〜X15、X17〜X26、X29〜X32、X34〜X37、X39〜X45、X48〜X55、X80〜X92は、分散性及び再分散性が優れていた。
【0055】
これに対し、酸に対するアルカリのモル比が小さすぎる試料X1〜X5、X16、X27、X28、X33、X38、X46、及びX47においては、分散性及び再分散性の少なくとも一方が不十分であった。
また、上記一般式(1)で表される構造を有さない有機酸又は無機酸塩を用いた試料X56〜X68においても、分散性及び再分散性の少なくとも一方が不十分であった。
また、第1の解離定数pKa1が0.1〜3.5の範囲にない有機酸を用いた試料X69〜X79においては、分散性及び再分散性の両方が不十分であった。
【0056】
以上のように、本例によれば、上記一般式(1)で表される構造を少なくとも1つ有し、第1の解離定数pKa1が0.1〜3.5である有機酸とアルカリ又はこれらの塩を含有し、有機酸に対するアルカリのモル比が1.1以上である研磨用添加剤を用いることにより、分散性だけでなく、再分散性にも優れた研磨スラリーを実現できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウムからなる研磨砥粒を水に分散させた研磨スラリーに添加する研磨用添加剤であって、
有機酸とアルカリ又はこれらの塩を含有し、
上記有機酸に対する上記アルカリのモル比は1.1以上であり、
上記有機酸は、分子内に下記の一般式(1)で表される構造を少なくとも1つ有し、第1の解離定数pKa1が0.1〜3.5であることを特徴とする研磨用添加剤。
【化1】

(但し、上記一般式(1)において、X1、X2は、それぞれ独立してPO(OH)2、COOH、SO2(OH)、PHO(OH)から選ばれる少なくとも1種であり、Aは、X1とX2との間に存在する炭素数1〜4の直鎖状有機鎖である。該直鎖状有機鎖は少なくともCを一つ含有し、炭素数が1の場合には、上記直鎖状有機鎖を構成するCにO、N、Sのいずれかの原子が結合しており、炭素数2〜4の場合には上記直鎖状有機鎖を構成するCの一部がO、N、及びSから選ばれる少なくとも1つの原子によって置換されていてもよい。また、上記直鎖状有機鎖はsp3原子及び/又はsp2原子からなり、sp2原子を少なくとも1つ含有する場合には、上記直鎖状有機鎖の炭素数は3又は4である。)
【請求項2】
請求項1に記載の研磨用添加剤において、上記有機酸の第2の解離定数pKa2が1.5〜10であることを特徴とする研磨用添加剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の研磨用添加剤は、水溶性ポリマーを含有することを特徴とする研磨用添加剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の研磨用添加剤を、酸化セリウムからなる研磨砥粒を水に分散させた研磨スラリーに添加してなることを特徴とする高分散性研磨スラリー。
【請求項5】
請求項4に記載の高分散性研磨スラリーにおいて、上記研磨用添加剤は、上記研磨砥粒100質量部に対する上記有機酸の量が0.01〜50質量部となるように上記研磨スラリーに添加されていることを特徴とする高分散性研磨スラリー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−121086(P2012−121086A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272544(P2010−272544)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000180449)四日市合成株式会社 (17)
【Fターム(参考)】