説明

研磨用組成物

【解決課題】Ni-Pめっきを施した磁気基板の研磨、特に仕上げ研磨用として、スクラッチや突起等の表面欠陥を低減することが可能である研磨用組成物を提供する。
【解決手段】金属イオンに配位可能な共重合樹脂(A)、研磨促進剤、及び水を含有することを特徴とするNi含有基板の研磨用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni金属を含む磁気ディスク基板用研磨液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のメモリーハードディスクドライブには、高容量・小径化が求められ、記録密度を上げるために磁気ヘッドの浮上量を低下させ、単位記録面積を小さくすることが強いられている。 それに伴い、磁気ディスク用基板の製造工程においても研磨後に要求される表面品質は年々厳しくなっており、ヘッドの低浮上に対応して、表面平滑性の向上や表面欠陥の低減が求められている。
【0003】
このような要求に対して、表面粗さ、スクラッチ、ピット、突起等の欠陥を低減し、平滑性を向上させた研磨用組成物が提案されている。特開平11-167715、特開平11-246849は、コロイド状シリカ粒子を研磨剤として用いることによりスクラッチを低減できる研磨用組成物と磁気ディスク基板の製造方法を開示している。しかし、このような表面平滑性向上の結果、これまでに検出されなかったピット、突起、あるいは微小スクラッチ等の表面欠陥が新たに発見されるようになり、これらの欠陥発生を低減することが課題となっている。特開2001-288455は、高い研磨速度が得られ、スクラッチ、ピット等の欠陥の発生を抑制したポリアミノカルボン酸のFe塩及び/又はAl塩とシリカ粒子を含有する研磨用組成物について記載されている。特開2003-147337は、リンを含む無機酸またはその塩と酸化剤の添加によってスクラッチ発生を抑制できる研磨用組成物が開示されている。特開2001-288455および特開2003-147337は、研磨剤として従来のアルミナや炭化珪素に比べ硬度の低いコロイダルシリカを使用しているが、機械的な作用により被対象金属を研磨しているため、研磨屑や砥粒の凝集物による微小なスクラッチの発生が懸念される。
【特許文献1】特開平11−167715
【特許文献2】特開平11−246849
【特許文献3】特開2001−288455
【特許文献4】特開2003−147337
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、主にNi-Pめっきを施した磁気基板の研磨、特に仕上げ研磨用として、スクラッチや突起等の表面欠陥を低減することが可能である研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明の研磨用組成物は、
金属イオンに配位可能な共重合樹脂(A)、研磨促進剤および水を含有するNi金属含有基板の研磨用組成物である。
金属イオンに配位可能な共重合樹脂(A)の官能基が、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、シアノ基、アミド基であり、研磨促進剤を含有することは、高い研磨速度が得られる点で好ましい態様である。さらに共重合樹脂(B)からなる粒子を含有することは、より高い研磨速度を得る点で好ましい態様である。
【0006】
前記共重合樹脂(A)が、全単量体の重量をベースとして、金属イオンに配位可能な官能基を有する単量体30〜99重量部、より好ましくは50〜80重量部それ以外のビニル単量体1〜70重量部、より好ましくは20〜50重量部を重合して得られる共重合樹脂であることは、高い研磨速度を維持する点で好ましい態様である。
【0007】
研磨促進剤が、エチレンジアミン四酢酸塩等のキレート性化合物、有機酸、酸化性基を有する無機酸および/またはそれらの塩から選ばれる少なくとも1種であることは、高い研磨速度を得る点で好ましい態様である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の研磨用組成物は、アルミナやシリカ等の無機砥粒を含有するスラリーに比べて、スクラッチや突起等の欠陥の発生を著しく抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の研磨用組成物は、金属イオンに配位可能な共重合樹脂(A)を含む。
以下に各成分につき具体的に説明する。
【0010】
(共重合樹脂(A))
本発明に係る共重合樹脂は、金属イオンに配位可能な官能基を有する。金属イオンに配位可能な官能基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等の陰イオンを形成しうる官能基、アミド基、シアノ基、カルボニル基、アセトアセチル基等の電気陰性度の高い中性官能基が好ましい。研磨スラリー中での存在形態は、水に完全に溶解した状態あるいは樹脂の凝集体が水に分散した状態のいずれでもよい。 本発明に係る共重合樹脂は、公知の水溶液重合、乳化重合、分散重合等により製造できるが、これらに限定されるものではない。
【0011】
共重合樹脂(A)を構成する単量体の組成は、全単量体の重量をベースとして、金属イオンに配位可能な官能基を有する単量体30〜80重量部、それ以外のビニル単量体20〜70重量部を重合して得られる共重合体樹脂であることは、高い研磨速度を維持し、重合安定性の高い樹脂を得る点で好ましい態様である。金属イオンに配位可能な官能基を有する単量体の含有量は、さらに好ましくは50〜70重量部である。 それ以外のビニル単量体としては、スチレン、(メタ)アクリル酸アルキル等の疎水性ビニル単量体、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有ビニル単量体、グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有ビニル単量体などの官能基含有ビニル単量体などが挙げられる。共重合樹脂(A)の含有率は、研磨用組成物中1〜20重量%が好ましく、特に好ましくは2〜10重量%である。 1重量%未満では、金属と共重合樹脂の化学反応が進行せず、目的とする研磨速度が達成できない場合がある。20重量%を超えると、組成物の粘度が上昇して流動性が低下し、充分な研磨速度が達成できない場合がある。
【0012】
本発明で用いられる金属イオンに配位可能な官能基を有する単量体としては、(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有単量体、アクリル酸などの不飽和一塩基酸、イタコン酸などの不飽和二塩基酸又はこれらのモノエステル類、スチレンスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸含有単量体、アクリロニトリルなどのシアノ基含有単量体、アセトアセトキシエチルアクリレートなどのケトン基含有単量体が挙げられ、2種以上を使用しても構わない。 特に(メタ)アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2-メタクロイロキシエチルアシッドフォスフェート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシブチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0013】
(共重合樹脂(B)からなる粒子)
本発明に係る研磨用組成物は、高い研磨速度が得られる上で、共重合樹脂(B)からなる粒子を含有することが好ましい。また、共重合樹脂(B)からなる粒子は金属イオンを捕捉しうる官能基を有することが好ましい。 金属イオンを捕捉しうる官能基として、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸等の陰イオンを形成しうる官能基、ヒドロシル基、シアノ基、カルボニル基、アセトアセチル基等の電気陰性度の高い中性官能基が好ましい。 本発明に係る共重合樹脂からなる粒子(B)は、公知の水溶液重合、乳化重合、分散重合等により製造できるが、これらに限定されるものではない。
共重合樹脂(B)からなる粒子を構成する単量体の組成は、全単量体の重量をベースとして、金属イオンを捕捉しうる官能基を有する単量体1〜80重量部、それ以外のビニル単量体20〜99重量部であることが好ましい。 金属イオンを捕捉しうる官能基を有する単量体の含有量は、さらに好ましくは5〜60重量部である。 それ以外のビニル単量体としては、スチレン、(メタ)アクリル酸アルキル等の疎水性ビニル単量体、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有ビニル単量体、グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有ビニル単量体などの官能基含有ビニル単量体などが挙げられる。 共重合樹脂(B)からな粒子の含有率は、研磨用組成物中1〜20重量%が好ましく、特に好ましくは2〜10重量%である。 1重量%未満では、金属と共重合樹脂の化学反応が進行せず、目的とする研磨速度が達成できない場合がある。10重量%を超えると、組成物の粘度が上昇して流動性が低下し、充分な研磨速度が達成できない場合がある。
【0014】
また、共重合樹脂を得る場合に、必要に応じてt−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類、イソプロパノールなどのアルコール類を分子量調整剤として使用することも可能である。 必要に応じて重合開始剤、水溶性高分子や界面活性剤などの分散剤、その他添加剤を使用することで製造することができる。必要に応じて、架橋性ビニル単量体を使用しても良く、該単量体としては、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコール鎖含有ジ(メタ)アクリレートなどが例示できる。 また、架橋性ビニル単量体として2つ以上のビニル基を含有するものであっても構わない。
【0015】
重合開始剤としては、例えば、過酸化水素や過硫酸アンモニウム、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾビスシアノ吉草酸、2,2‘‐アゾビス(2‐アミノジプロパン)二塩基酸塩等のアゾ化合物等が挙げられ、これらの1種、または2種以上を選択して使用することができる。 開始剤としては水溶性であることが好ましく、過硫酸アンモニウム、アゾビスシアノ吉草酸、2,2‘‐アゾビス(2‐アミノジプロパン)二塩基酸塩がより好ましい。 一般的な開始剤の使用量は、(共)重合させる単量体の全重量を基準として0.1〜5重量%である。
【0016】
共重合樹脂(A)は、水溶性樹脂がこのましい。本発明において、粒子とは透過型電子顕微鏡で観察できる球形状の樹脂を意味し、水溶性樹脂とは水を主とする溶媒中でその媒体中に溶解した形態を形成する樹脂を意味し、共重合体樹脂(B)より溶媒に対する溶解度が高い樹脂である。
(研磨促進剤)
研磨促進剤としては、キレート化合物、有機酸、無機酸および/またはそれらの塩が好ましく、硫酸、アミド硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、クエン酸、グリコール酸などのカルボン酸類、およびそれらの金属塩、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類、グリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸などのアミノ酸類、アセチルアセトン類のケトン類、アンモニア、エチレンジアミン四酢酸等のキレート性化合物が挙げられる。 好ましくは、硫酸、硝酸、シュウ酸、マロン酸、酒石酸、グリコール酸、エチレンジアミン四酢酸およびその塩が挙げられる。含有量は、研磨促進剤の種類によって異なるが、研磨用組成物中0.1〜10重量%の範囲が好ましい。 0.1重量%未満では、その効果が充分に発揮できず、目的とする研磨速度が達成できない場合がある。 また、10重量%を超えると、共重合樹脂(B)からなる粒子の分散性が低下する場合がある。
【0017】
必要に応じて、酸化剤として、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等を含むことができる。pHは、研磨速度向上の観点から酸性にすることが好ましく、好ましくは6.0未満であるが、樹脂砥粒の分散安定性向上、周辺機材の腐食抑制の観点からは中性付近が好ましく、総合的に好ましい範囲は3〜6、より好ましくは3〜5.5である。pHは硝酸、硫酸等の無機酸、アンモニウム塩、アンモニア水、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アミン等の塩基性物質を適宜配合することによって調整できる。
【0018】
添加剤は共重合樹脂の重合前、重合中、重合後いずれにおいても使用することができる。 添加剤としては、防食剤、濡れ剤、帯電防止剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、浸透剤、消泡剤、制泡剤、抑泡剤、流動性改良剤が挙げられるが、金属が含有しないものを適時選択することが好ましい。 その添加量、種類については、本発明の目的を達成することができる限り、特に限定されない。
【0019】
(製造方法)
共重合樹脂(A)および共重合樹脂(B)からなる粒子、水、研磨促進剤、pH調整剤などを徐々に加えてスラリーを製造することができる。 特に限定はないが、それぞれpH調整した、研磨促進剤の水溶液、共重合樹脂からなる粒子を、少量ずつ攪拌混合することが好ましい。そして、最終的なpHと濃度を調整後、不溶解物と凝集体を取り除き、研磨用組成物とする。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの諸例によって限定されるものではない。 なお、諸例中の部数及び%は特に指定のない場合はすべて重量部および重量%を表す。
また、研磨用組成物の評価は下記の方法で行った。
1.研磨速度
研磨用スラリー :本発明の組成物
被研磨物 :アルミナ砥粒を含有する研磨液であらかじめ粗研磨したNi板、20mm角
研磨機 :ラップマスターSTF社製、形式「LGP-15MCK」
研磨パッド :ロデール・ニッタ社製SUBA400
研磨荷重 :8 kPa
研磨時間 :5 min
スラリー供給量 :50cc/min
定盤回転数 :60rpm
基板側回転数:60rpm

2.研磨速度算出
被研磨物を超純水洗浄および超音波洗浄した後、乾燥させ、研磨前後の重量変化から研磨速度を算出した。

3.研磨傷の評価方法
洗浄後の基板3枚を微分干渉式顕微鏡(対物レンズ50倍、モニター倍率28倍、実質倍率1400倍)を用い、研磨面をXY方向すべて観察し、それらの個数を1面当りのXY観察個数として平均化し、下記の基準で評価した。
◎:研磨傷が1個以下
○:研磨傷が5個以下
△:研磨傷が10個以下
×:研磨傷が10個以上

4.共重合樹脂(A)および樹脂(B)からなる粒子の合成方法
<共重合樹脂(A)製造例1および2>
攪拌機、還流冷却付きのセパラブルフラスコに蒸留水200重量部を仕込み、窒素ガスで置換した後、75℃に昇温した。次いで過硫酸アンモニウム2.0部を添加してから、表1に記載した組成のビニル単量体と蒸留水200重量部の混合物を攪拌しながら2時間かけて連続的に添加した後、同温度で2時間熟成し、重合を完結させ、共重合樹脂(A-1、A-2)を得た。

【表1】


共重合樹脂(B)からなる粒子の製造例3〜5>
攪拌機、還流冷却付きのセパラブルフラスコに蒸留水260重量部と製造例1および2にて合成した共重合樹脂(A-1、A-2)100重量部を仕込み、窒素ガスで置換したあと、80℃に昇温した。次いで過硫酸アンモニウム2.0部を添加してから、表2に記載した組成のビニル単量体と蒸留水の乳化物を攪拌しながら3時間かけて連続的に前記フラスコ内に添加し、さらに3時間保持して、重合を完結させた。

【表2】

(実施例)
スラリー調製
あらかじめ水酸化ナトリウムでpH調整した表3に記載の研磨促進剤水溶液を、共重合樹脂10重量部を含有する水系スラリーに滴下混合したのち、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液にて表3に記載のpHに調整した。
【表3】


(比較例1,2)
あらかじめ水酸化ナトリウムでpH調整した表4に記載の研磨促進剤水溶液を、α−アルミナ(平均粒子径0.65μm)あるいはコロイダルシリカ(平均粒子径45nm)を10重量部含有する水系スラリーに滴下混合したのち、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液にて表3に記載のpHに調整した。
【表4】


(評価)

実施例1〜5の樹脂砥粒スラリーは、高い硬度のアルミナ、シリカ粒子を用いたスラリーに匹敵する研磨速度が得られ、研磨面のスクラッチを大幅に低減できることが分かった。

【表5】

【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の研磨用スラリーは、精密部品用基板、例えば磁気ディスク、光ディスクなどの磁気記録媒体の基板やMEMS等の金属材料を使用した回路基板の研磨加工に好適に使用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンに配位可能な共重合樹脂(A)、研磨促進剤、及び水を含有することを特徴とするNi金属含有基板の研磨用組成物。
【請求項2】
さらに共重合樹脂(B)からなる粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載のNi金属含有基板の研磨用組成物。
【請求項3】
共重合樹脂(A)が、カルボキシル基、アミド基、スルホン酸基、リン酸基、シアノ基から選ばれる少なくとも1種を含むビニル単量体を重合して得られる樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載の研磨用組成物。
【請求項4】
研磨促進剤が、キレート化合物、有機酸、無機酸および/またはそれらの塩であることを特徴とする請求項1〜3いずれか一項に記載のNi金属含有基板の研磨用組成物。
【請求項5】
研磨促進剤が、硫酸、硝酸、リン酸、シュウ酸、エチレンジアミン四酢酸およびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3何れか一項に記載のNi金属含有基板の研磨用組成物。

【公開番号】特開2007−231209(P2007−231209A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57116(P2006−57116)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】