説明

破骨細胞の分化・増殖阻害剤

【課題】
破骨細胞の分化及び/又は増殖に対する阻害作用を有する医薬及び食品を提供する。
【解決手段】
破骨細胞の分化及び/又は増殖に対する阻害作用を有する医薬又は食品であって、下記の式(1)で表される化合物を有効成分として含む医薬又は食品。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、破骨細胞の分化及び/又は増殖を抑制する活性を有する化合物を有効成分として含む医薬及び該化合物を含む健康食品に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では2006年9月には高齢化率が20%を突破し、平均寿命も22年間世界一の高齢化社会を維持している。75歳以上に限っていえばその2/3は女性である。今後も高齢化率は上昇し続け、2025年には30%程度になると予想されている。この急激な高齢化に伴い老化によるさまざまな慢性疾患が急増している。特に高齢者の生活の質を脅かす骨折とその原因となる骨粗鬆症の予防に関心が寄せられている。日本の骨粗鬆症患者は1000万人を超え、その多くが閉経後骨粗鬆症であり、骨折の発生率は年間約10%である。又、寝たきり高齢者の20%が骨折を原因とすると言われている。
【0003】
骨は常時、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収を繰り返しながら一定の骨量を保ち、強度、形態を維持するといったリモデリングという営みを行っている臓器である。骨粗鬆症は、この骨リモデリングのバランスの破綻という骨代謝異常により発症する疾患である。閉経後骨粗鬆症とはエストロゲンの減少により、骨形成に比較し骨吸収の優位な亢進が生じる高回転代謝型の骨粗鬆症である。
【0004】
破骨細胞は造血系の幹細胞に由来し、単球・マクロファージ系の前駆細胞から分化する巨細胞である。破骨細胞は正常な骨組織の発達及びリモデリングに関与しているが、骨粗鬆症における骨量減少、慢性関節リウマチにおける骨関節破壊、及び悪性腫瘍の骨転移などの病態に破骨細胞が重要な役割を果たしていることが知られている(非特許文献1及び2)。
【0005】
進行性の悪性腫瘍はしばしば骨転移をきたし、患者のQOLを損なう。骨転移の初期には、先ず破骨細胞が骨基質の破壊を促進し、そこに悪性腫瘍細胞が生着すると言われている。また、悪性腫瘍の成長に重要な血管新生促進因子と破骨細胞の骨吸収活性との間に強い因果関係があることが示唆されている(非特許文献3、4、5、及び6)。
【0006】
これまで、骨粗鬆症治療薬としてはカルシウム製剤、エストロゲン製剤、イソフラボン製剤、カルシトニン製剤、ビスホスフォネート製剤、活性型ビタミンD製剤、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)製剤及びビタミンK製剤が使用されているが、副作用や、骨折予防効果がないなどの問題を抱えている。微生物由来の物質としてリベロマイシンA(特許文献1)、植物由来の物質として大豆やクローバーのイソフラボンやマチョエキス(特許文献2)が知られている。また、破骨細胞の分化及び増殖を抑制する医薬及び食品が提供されている(特許文献3及び4)。
【特許文献1】 特許第1905330号
【特許文献2】 特開2003−313137号公報
【特許文献3】 国際公開WO2005/087248
【特許文献4】 特願2006−193772号
【非特許文献1】 Woodhouse,E.C.,Cancer,80(8Suppl),pp.1529−1537,1997
【非特許文献2】 Paleolog,E.M.,J.Rheumatol.,35,pp.917−919,1996
【非特許文献3】 Leung,D.W.,Science,246,pp.1306−1309,1989
【非特許文献4】 Goad,D.L.,Endocrinology,137,pp.2262−2268,1996
【非特許文献5】 Gerber,H.P.,Nat.Med.,5,pp.623−628,1999
【非特許文献6】 Niida,S.,J.Exp.Med.,190,pp.293−298,1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、骨粗鬆症における骨量減少の抑制や慢性関節リウマチにおける骨関節破壊、あるいは悪性腫瘍の骨転移などの予防及び/又は治療のために有用な医薬又は食品を提供することにある。より具体的には、破骨細胞の分化又は増殖に対して抑制作用を有する物質を有効成分として含む医薬又は食品を提供することが本発明の課題である。さらに、破骨細胞の分化又は増殖に対して抑制作用を有する物質であって、安全性の高い物質を提供することも本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、安全性の高い物質を大量かつ安価に入手すべく、長い食習慣を有する食材としての茸に着目した。そして、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、茸粉砕物、茸抽出物などの茸の加工物が破骨細胞の分化又は増殖を抑制する作用を有することを見出した。そして、下記の式(1)で表される化合物が骨粗鬆症における骨量減少の抑制、慢性関節リウマチにおける骨関節破壊、又は悪性腫瘍の骨転移などの破骨細胞の分化又は増殖が関与する疾患の予防及び/又は治療のための医薬の有効成分として優れた作用を有していること、及び下記の式(1)で表される化合物を含む食品が上記疾患の予防及び/又は治療のための健康食品として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明により、破骨細胞の分化及び/又は増殖が関与する疾患の予防及び/又は治療のための医薬であって、下記の式(1):
【化1】

で表される化合物を有効成分として含む医薬が提供される。
【0010】
上記発明の好ましい態様によれば、破骨細胞の分化及び/又は増殖が関与する疾患が、骨粗鬆症、慢性関節リウマチ、及び悪性腫瘍からなる群から選ばれる疾患である上記の医薬、及び骨粗鬆症における骨量減少の抑制、慢性関節リウマチにおける骨関節破壊、又は悪性腫瘍の骨転移の予防及び/又は治療のために用いる上記の医薬が提供される。
【0011】
別の観点からは、破骨細胞の分化及び/又は増殖に対する阻害作用を有する医薬であって、上記式(1)で表される化合物を有効成分として含む医薬;及び、上記式(1)で表される化合物を有効成分として含む破骨細胞の分化及び/又は増殖の阻害剤が提供される。
また、上記の医薬の製造のための上記式(1)で表される化合物の使用、及びヒトを含む哺乳類動物の体内において破骨細胞の分化及び/又は増殖を阻害する方法であって、上記式(1)で表される化合物を該動物に投与する工程を含む方法、破骨細胞の分化及び/又は増殖が関与する疾患の予防及び/又は治療方法であって、上記式(1)で表される化合物をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法が本発明により提供される。
【0012】
さらに別の観点からは、破骨細胞の分化及び/又は増殖に対する阻害作用を有する食品であって、上記式(1)で表される化合物を有効成分として含む食品が本発明により提供される。上記発明の好ましい態様によれば、飲食品の形態の上記食品も本発明により提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の医薬は、破骨細胞の分化及び/又は増殖に対する阻害作用を有しており、破骨細胞の分化及び/又は増殖が関与する疾患(例えば、骨粗鬆症、慢性関節リウマチ、又は悪性腫瘍など)の予防及び/又は治療のための医薬として有用である。上記の医薬は、特に骨粗鬆症における骨量減少の抑制、慢性関節リウマチにおける骨関節破壊、又は悪性腫瘍の骨転移の予防及び/又は治療のために用いることができる。
【0014】
また、本発明の食品は、破骨細胞の分化及び/又は増殖に対する阻害作用を有しており、例えば骨粗鬆症における骨量減少の抑制、慢性関節リウマチにおける骨関節破壊、又は悪性腫瘍の骨転移の予防及び/又は治療などを目的とする健康食品として用いることができる。
さらに、本発明により提供される上記式(1)で表される化合物は、上記の医薬又は上記食品の有効成分として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明により提供される医薬及び食品の有効成分である上記式(1)で表される化合物は酸化エルゴステロールで既知化合物である。しかし、上記式(1)で表される酸化エルゴステロールが破骨細胞の分化及び/又は増殖に対して抑制作用を有していることは知られていない。
【0016】
上記式(1)で表される化合物は、例えば本明細書の実施例に具体的に記載された方法に従って、茶樹茸から分離・精製することができるが、茶樹茸に限定されるものではなく、上記式(1)で表される化合物を含むあらゆる茸類を用いることができる。また、化学合成手段により製造することも可能であり、エルゴステロールを酵素的あるいは非酵素的に酸化することにより上記式(1)で表される化合物を製造することもできる。
【0017】
エルゴステロールは骨形成にかかわるのに対して、その分解物である上記式(1)で表される化合物が破骨細胞の分化及び/又は増殖に対して阻害作用を呈することを発見した。また、下記式(2)及び式(3)で表される化合物(式中、R及びRは水素原子、アルキル基、又はアルカノイル基を示し、式中の立体配置は絶対配置を示す)が同様の活性を有することが知られている(上記特許文献4)。本発明者は、これらの下記式(2)及び式(3)で表される化合物は上記式(1)で表される化合物を分解して得られることを発見している。すなわち、容易に入手できるエルゴステロールを分解して、これらの物質の製造方法を提供できる。
【化2】

【0018】
本発明の医薬は、破骨細胞の分化及び/又は増殖に対して抑制作用を有している。この作用はインビトロで破骨細胞活性に対する直接作用を調べることにより当業者が容易に確認することができ、例えば本明細書の実施例に具体的に説明された方法に従って確認することができる。
【0019】
本発明の医薬は、破骨細胞の分化及び/又は増殖が関与する疾患の予防及び/又は治療のための医薬として用いることができる。上記疾患としては、例えば、骨粗鬆症、慢性関節リウマチ、又は悪性腫瘍などを挙げることができるが、本発明の医薬の適用疾患はこれらの疾患に限定されることはない。より具体的には、本発明の医薬は、骨粗鬆症における骨量減少の抑制、慢性関節リウマチにおける骨関節破壊、又は悪性腫瘍の骨転移の予防及び/又は治療のための医薬として好ましく用いられる。
【0020】
本発明の医薬としては、有効成分である上記式(1)で表される化合物、又はそれらの混合物を単独で投与してもよいが、骨組織と親和性の強い化合物、たんぱく質、又はペプチドなどの物質と組み合わせた医薬組成物、又はこれらの物質と上記式(1)で表される化合物とを結合させた有効成分を含む医薬を調製して投与することもできる。医薬組成物として調製する場合には、医薬の製造に通常用いられる1種又は2種以上の製剤用添加物(例えば賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、分散化剤、又は香料など)を用いることができ、常法により、液剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ドライシロップ剤、チュアブル剤等の経口投与用の医薬組成物を調製することができる。また、注射剤や坐剤などの非経口投与用の医薬組成物を調製してもよい。
【0021】
本発明の医薬の投与量は特に限定されず、患者の体重、性別、及び年齢等の条件、予防又は治療の目的、対象疾患の種類などの条件に応じて適宜選択できる。通常は、有効成分である上記式(1)で表される化合物の重量として成人1日あたり1〜1,000mg程度である。
【0022】
本発明により提供される食品は、破骨細胞の分化及び/又は増殖に対する阻害作用を有する食品であって、上記式(1)で表される化合物を有効成分として含むことを特徴としている。本発明の食品の種類は特に限定されず、例えば、健康飲料、菓子類、加工食品などに適宜の量の上記式(1)で表される化合物を配合することが可能である。本発明の食品は、骨量減少の抑制や骨関節破壊などの予防を目的とした健康食品として用いることができるが、本発明の食品の使用目的は上記に例示した目的に限定されることはない。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0024】
(1)抽出法
茶樹茸の乾燥粉末100gをクロロホルム:メタノール(C−M)混液(2:1)1,000mlで1昼夜、室温にて抽出した。ろ過後、残渣をC−M混液(1:2)1,000mlで更に2昼夜、室温抽出し、2:1抽出液と混合して溶媒を減圧留去した。乾燥後、C−M混液(2:1)800mlに溶解し、水200ml加えて振とうした。放置すると2層に分離するので、上層(高極性画分)と下層(低極性画分)に分け、下層の溶媒を減圧留去し、乾燥して4.08gを得た。乾燥した下層抽出物をC−M−水(W)(95:5:0.1)に溶解し、粒状シリカゲル(Iatorobeads、60μ、ヤトロン社)クロマトグラフィー(2.5x60cm)を行った。
【0025】
(2)脾臓細胞を用いた破骨細胞の誘導
8週齢のC57BL6雌マウスより脾臓を採取し、細切後充分にピペッティングして細胞を採取し、10%牛胎児血清入りRPMI培養液にて2回洗浄する。得られた細胞を1x10/mlに浮遊し、MCSF(SIGMA社)を終濃度15ng/mlに添加し16時間培養する。培養後、細胞を上記培養液にて2回洗浄後、2x10/mlの細胞浮遊液を作成し、MCSF30ng/ml RANKL50ng/ml(R&D社)になるように添加する。細胞浮遊液を100μlずつ96穴培養プレートに播種する。つづいて(1)のクロマトグラフィーの各分画をDMSOにて溶解したものを終濃度100ppmから2倍段階希釈した溶液を100μlずつ培養プレートに添加する。37℃にて7日間培養する。
【0026】
(3)毒性試験
(2)にて7日間培養した細胞に細胞活性測定MTTアッセイ変法であるWST−1法(WST−1キット、宝バイオ)試薬50ml添加し2時間培養器にて培養後、エライザプレートリーダー(波長470nm)にて測定した。陰性コントロールとして培養液のみのプレート、陽性コントロールとして界面活性剤Tween−20を終濃度2%になるように添加したものを用いた。その結果、いずれの分画にも有意な毒性は認められなかった。
【0027】
(4)酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ(TRAP)活性定量
破骨細胞の活性測定を目的として培養細胞中のTRAP活性を、活性測定した。Lu−Pingら(Acata Pharma acol Sin2003,24(2),181−186)の方法に従った。培養ウエルに10μlのTritonX−100を添加し10分間細胞を融解した。その後TRAPアッセイ液(0.4gp−nitro−disodium phenylphosphate、2g pottssium tartrateを150mlの純水に溶解後塩酸にてpH3.5に調整し、最終的に200mlに純水にて作成)を細胞溶解液に100μl添加37℃にて30分反応させたのち1規定の水酸化ナトリウムにて反応を停止し、吸光度を405nmにて測定した。(1)のクロマトグラフィーの各分画について検討したところ、第9分画に強い活性が100、10ppmの濃度で認められた。同分画の再分画にて第2分画に再現性良く強い抑制活性が認められた。さらに再分画して検討したところ第13分画に2ppmという低濃度で強い抑制活性を認めた。同分画(分画9−2−13)の動物での活性を検討すべく卵巣摘除マウスに投与する実験に進んだ。
【0028】
(5)卵巣摘除マウスの作成
8−20週齢の雌マウスを用いた。マウスを10%ネンブタールにて麻酔したのち、後腹膜を開放し、卵巣を確認した。その後、卵管采子宮側に4−0絹糸を用いて結紮し、卵巣周囲脂肪組織と一塊に卵巣を摘除した。コントロールとして卵巣を確認した後閉腹させたものを同様に作成した。
【0029】
(6)骨レントゲン写真撮影
Sofron Type SRO−M50(SPOKEN社)にて撮影した。
【0030】
(7)骨カルシウム含量の定量(DEXA法:Dual−energy−X−ray−absorptiometry)
骨塩量の測定をDEXA法にておこなった。QDR−1000w plus Densitometer(HOLOGIC社)をヒト腰椎ファントムにてキャリブレーションした後に、70%エタノールにて固定したマウス大腿骨および頚骨の骨塩量を定量した。骨は卵巣摘除後、1、2、3、4週にて採取したものを用いた。スキャンは直径1.270mmのcollimator、0.762mmのline Spacing、0.380mmのpoint resolutionにて行い、aquisition timeは9分とした。得られた値をBMD(bone mineral density)mg/cmとして表出した。
【0031】
(8)血漿コラーゲンテロペプチド(CTX:C−terminal telopeptide of type I collagen)の測定
NORDIC社製造CTX定量キットを用いて血漿CTX濃度を定量した。
【0032】
(9)骨形態計測
骨形態計測はBone morphometry softwear(System Supply社)を装備したデジタイザー連結ニコンLabphoto microscopeにて計測した。データはASBMR(American society for bone and mineral research)の規約に従って計算した。(Partif et al.,J Bone Miner Res 1987,7(2),595−610)
【0033】
(10)統計解析
Student’s t−testを用いて実験群およびコントロール群の優位差を検討した。P<0.05を閾値として優位とした。
【0034】
(11)卵巣摘除マウスを用いた分画9−2−13の抑制活性の検討
マウスに10ppmの濃度となるように調整した分画9−2−13を浸透圧ポンプを用いて2週間投与した。卵巣除去後初めの2週間および後半の2週間投与し、血漿および骨を採取した。血漿ではCTX濃度に変化はなかった。骨エックス線の検討でも優位な差はなかった。BMDにても差は認められなかった。つぎに骨形態計測をHE染色大腿骨標本にて検討した。分画9−2−13は、Trabecular bone volumeおよびTrabecular thicknessに有意な抑制活性を示した。しかし皮質骨の形態には有意な差は認められなかった。
【0035】
以上の結果により、分画9−2−13にインビトロおよびインビボにて骨吸収抑制活性が認められた。とくに閉経後骨粗鬆症のモデルである卵巣摘除マウスにおける骨吸収抑制活性は重要な知見を与えた。
【0036】
【表1】

【0037】
(12)構造解析
茶樹茸より得られた分画9−2−13の構造解析を行った。質量分析(EI−MS)により、m/z428(分子量)、m/z410(脱水ピーク)、m/z396(脱酸素ピーク)が観測された。また、ミリマスによる元素分析の結果、C26H4403の組成式を持つことが明らかになった。このことから、不飽和数7が計算される。
【0038】
一次元プロトンNMRスペクトルより、プロトン数とメチル基の数および質量分析の結果からこの物質はトリテルペンあるいはステロイド系と予測された。2重結合は2組存在すること、一組(δ5.15ppm)はトランス型で他の一組(δ6.35ppm)はシス型であることが判明した。
また、この化合物をアセチル化してNMRを測定したところ、δ3.90ppmのmultipletがδ5.00ppmに低磁場シフトすることから、δ3.90ppmのピークは二級水酸基の付け根の水素であることが証明された。
2次元COSYスペクトルから、シス−二重結合は孤立二重結合であり、トランスのそれは1、2−2置換であることが明らかである。
1次元Carbon−NMRより、四級炭素に結合するメチル基が2個、メチンに結合するメチル基が4個であることが明らかである。更に、メチンが6個、メチレンが6個、四級炭素が4個検出された。以下に帰属した炭素を示す(CDC13、室温、125.76Hz)。Chemical Shift(ppm):30.10(1C)、34.68(2C)、66.43(3C)、39.33(4C)、82.13(5C)、135.18(6C)、130.73(7C)、79.39(8C)、51.08(9C)、36.94(10C)、20.61(11C)、36.91(12C)、44.54(13C)、51.67(14C)、23.38(15C)、28.62(16C)、56.19(17C)、12.85(18C)、18.15(19C)、39.70(20C)、20.85(21C)、135.40(22C)、132.30(23C)、42.75(24C)、33.04(25C)、19.92(26C)、19.62(27C)、17.54(28C)。
また、HSQC−TOCSYでは炭素と水素の結合状態(HSQC)や隣接する水素や遠隔水素間および水素−炭素間のカップリングが観測される(TOCSY)ため、炭素と水素の帰属が完全となった。
【0039】
以上の結果より、茶樹茸から得られた酸化エルゴステロールは構造既知の学名22E,24E−5α,8α−epidioxyerugosta−6,22−diene−3β−olであった。本物質はエルゴステロールが酵素的あるいは非酵素的に生体内で酸化されたものと推定される。これはプロビタミンDであるエルゴステロールが紫外線によってビタミンD前駆体になるように、紫外線やその他の活性物質に反応性が高いことに起因する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
破骨細胞の分化及び/又は増殖が関与する疾患の予防及び/又は治療のための医薬であって、下記の式(1):
【化1】

で表される化合物を有効成分として含む医薬。
【請求項2】
破骨細胞の分化及び/又は増殖が関与する疾患が、骨粗鬆症、慢性関節リウマチ、及び悪性腫瘍からなる群から選ばれる疾患である請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
骨粗鬆症における骨量減少の抑制、慢性関節リウマチにおける骨関節破壊、又は悪性腫瘍の骨転移の予防及び/又は治療のために用いる請求項2に記載の医薬。
【請求項4】
請求項1に記載の式(1)で表される化合物を含む破骨細胞の分化及び/又は増殖に対する阻害剤。
【請求項5】
破骨細胞の分化及び/又は増殖に対する阻害作用を有する食品であって、請求項1に記載の式(1)で表される化合物を有効成分として含む食品。
【請求項6】
飲食品の形態の請求項5に記載の食品。
【請求項7】
エルゴステロールを原料として得られる請求項1に記載の式(1)で表される化合物を製造する方法。
【請求項8】
エルゴステロールを原料として得られる下記式(2)あるいは式(3)で表される化合物(式中、R及びRは水素原子、アルキル基、又はアルカノイル基を示し、式中の立体配置は絶対配置を示す)を製造する方法。
【化2】


【公開番号】特開2008−127378(P2008−127378A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337601(P2006−337601)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(506415643)SEIRYU Bio株式会社 (2)
【Fターム(参考)】