説明

硝酸溶液からの白金族金属分離回収法

【課題】硝酸溶液からの白金族金属分離回収方法を提供する。
【解決手段】下記の一般式で示されるアミン化合物及び硫黄含有アミド化合物を有効成分とすることを特徴とする白金族金属分離剤。


(式中、R〜Rのうち少なくとも1つが、炭素数が1〜18の分岐してもよい鎖式炭化水素基、炭素数が1〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が1〜14の芳香族炭化水素基を表し、該炭化水素基以外のR〜Rは水素原子またはアミド基を表す。または、式中、R〜Rの全てが該アミド基を表す。)


または、

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミン化合物及び硫黄含有アミド化合物を混合して使用する硝酸溶液からの白金族金属の分離回収方法である。
【背景技術】
【0002】
工業用触媒、自動車用排ガス浄化触媒に加え多くの電化製品に白金族金属が用いられている。これらの白金族金属は高価であることから、従来から使用後には回収してリサイクルされているが、その技術は下記に示すように十分とは言えない。
【0003】
従来、工業的に広く用いられている、イオン交換法(特許文献1)、溶媒抽出法(特許文献2〜7)、などの湿式分離では、塩素系酸溶液からの白金族金属分離が念頭におかれている。これは、塩素含有の塩酸溶液で白金族金属を溶解する設備を有する工場では使用可能であるが、それ以外では、王水といった硝酸イオンを含んだ溶液で処理されることが多く、硝酸イオン共存下での白金族金属分離の必要性は高い。さらに、自動車排ガス触媒の製造工程のように塩化物イオンを排除する必要がある場合、工程内リサイクルを考える際に硝酸溶液からの白金族金属分離が条件となる。
【0004】
CO削減の有効な手段の一つとして、原子力発電の注目度は年々増している。その中で発電後に生じる使用済み核燃料の処理は重要な問題であり、安全で安定したガラス固化の技術開発は、核燃料サイクルの高効率化には必須である。使用済み核燃料には、ロジウム、パラジウム、ルテニウムといった白金族金属を多量に含有しているが、近年、高レベル廃液中の白金族金属がガラスメルターに対し、重大な障害を及ぼすことが明らかになっている。ガラス固化体の製造が停止すると高レベル廃液が滞留してしまい、我が国の核燃料サイクルが停滞するため、廃液中の白金族金属の除去を含めた取り扱いは喫緊の課題である。また、将来に向けて高レベル廃液中の白金族金属(ルテニウム、ロジウムなどは国の備蓄量に匹敵する量が毎年発生)を確保することは、資源セキュリティーの面からも必要と考えられる。
【0005】
使用済み核燃料は硝酸溶液に溶解されることから、硝酸溶液からの白金族金属分離が必要となるが、いまだ有効な回収法は未確立で、現状では廃液中に残されており、その白金族金属による問題がクローズアップされている。
【0006】
本発明者らは、塩酸溶液からのパラジウム及びロジウム、それぞれに対し有用な抽出剤を開発している。パラジウム抽出剤に関しては、従来、硫黄含有有機化合物ジアルキルスルフィド(DAS)によるパラジウムの選択的抽出が広く用いられてきた(特許文献5)。一般に、DASのうち、ジヘキシルスルフィド(DHS)が用いられるが、抽出速度の点で難があり、スルフィド基が酸化されやすいことが指摘されている。本発明者らは、白金族金属の中のパラジウムの抽出剤として、従来のDHSに代えて、チオグリコールアミド、3,3'−チオジプロピオンアミド、又は3,6−ジチアオクタンジアミドなどの硫黄含有ジアミド化合物を用いることにより、従来から用いられてきたDHSを用いる場合と比較して、パラジウムを短時間で抽出し、且つ他の白金族金属及びベースメタルとの分離が可能であり、高効率にパラジウムの分離回収を行うことができることを見い出した(特許文献6)。
【0007】
ロジウム抽出剤については、アミド基を含有した3級アミン化合物が塩酸溶液中のパラジウム、白金、ロジウムに対し高い抽出率を示し、かつ抽出後の有機相と高濃度塩酸を接触させると、ロジウムのみが選択的に逆抽出でき、さらに高濃度硝酸溶液との接触ではパラジウム、白金も逆抽出可能なことを明らかにした(特許文献7)。
【0008】
しかしながら、塩酸の代わりに同モル濃度の硝酸溶液を用い、同じ条件下で上記の抽出剤を用いて実験を行うと、パラジウム以外の白金族金属はほとんど抽出しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平07−310129号公報
【特許文献2】特公平01−30896号公報
【特許文献3】特開平08−193228号公報
【特許文献4】特開2004−332041号公報
【特許文献5】特開平09−279264号公報
【特許文献6】特許第4448937号公報
【特許文献7】国際公開第2009/001897号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、これまで金属分離の分野において極めて困難であった硝酸溶液からの白金族金属分離回収方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アミン化合物と硫黄含有アミド化合物の混合溶媒と白金族金属を含有する硝酸溶液とを接触させると、パラジウム、ルテニウム、ロジウムを抽出可能で、特にロジウムについてこれまでにない高抽出率が得られ、さらにこの混合溶媒を親油性基材に含浸させたものを吸着剤として用いても、硝酸溶液中の白金族金属に対し高い吸着率を示すという知見を得た。
【0012】
本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、以下の通りのものである。
(1)下記の一般式で示されるアミン化合物及び硫黄含有アミド化合物を有効成分とすることを特徴とする白金族金属分離剤。
【化1】

(式中、R〜Rのうち少なくとも1つが、炭素数が1〜18の分岐してもよい鎖式炭化水素基、炭素数が1〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が1〜14の芳香族炭化水素基を表し、該炭化水素基以外のR〜Rは水素原子または
【化2】

で表されるアミド基(R〜Rは、炭素数が1〜18の分岐してもよい鎖式炭化水素基、炭素数が1〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が1〜14の芳香族炭化水素基から選ばれる基を表す)を表す。または、式中、R〜Rの全てが該アミド基を表す。)
【化3】

(式中、R〜Rは、分岐していてもよい炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数1〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数1〜14の芳香族炭化水素基から選ばれる基を表す。また、nは1〜4の整数を表す。)または、
【化4】

(式中、R10、R11は炭素数1〜18の鎖式炭化水素基(これらの基は分岐していても差し支えない)、炭素数1〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数1〜14の芳香族炭化水素基から選ばれる基を表す。R12は、{(CHS(CHlで表される基を表す(n、m、lは、1〜4の整数を表す。))
(2)ルテニウム、ロジウム及びパラジウムを含有する硝酸溶液の水相と、(1)に記載の白金族金属分離剤を含有する有機相を接触させることにより、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムを前記有機相に抽出することを特徴とする白金族金属の分離方法。
(3)(1)に記載の白金族金属分離剤を含浸させてなる白金族金属の分離用基材。
(4)ルテニウム、ロジウム及びパラジウムを含有する硝酸溶液の水相と、(1)に記載の白金族金属分離剤を含浸させた分離用基材を接触させることにより、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムを前記基材に吸着することを特徴とする白金族金属の分離方法。
(5)ルテニウム、ロジウム及びパラジウムを含有する硝酸溶液が放射性廃棄物を含有することを特徴とする(2)又は(4)に記載の白金族金属の分離方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明(1)〜(3)によれば、上記一般式で示されるアミン化合物と硫黄含有アミド化合物の混合溶媒を分離剤として用いることで、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムからなる白金族金属を含有する硝酸溶液から、ルテニウムを90%程度以上の高い抽出率で抽出すると共に、ロジウムを15%を超える抽出率、かつルテニウムを約40%以上の抽出率で抽出でき、さらに混合溶媒を基材に含浸させて作成した吸着剤により、硝酸溶液からルテニウム、ロジウム及びパラジウムを同時に吸着分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】単独抽出系による白金族金属抽出率を示す図
【図2】協同抽出系(硫黄含有アミドを含む)による白金族金属抽出率を示す図
【図3】協同抽出系(硫黄含有アミドを含まない)による白金族金属抽出率を示す図
【図4】溶媒含浸繊維による白金族金属吸着率を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明(1)〜(3)は、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムからなる白金族金属を含有する硝酸溶液から、これらの白金族金属を同時に分離する分離剤として、下記の一般式で示されるアミン化合物(化1、化2)と硫黄含有アミド化合物(化3、化4)を用いるものである。
【化1】

(式中、R〜Rのうち少なくとも1つが、炭素数が1〜18の分岐してもよい鎖式炭化水素基、炭素数が1〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が1〜14の芳香族炭化水素基を表し、該炭化水素基以外のR〜Rは水素原子または
【化2】

で表されるアミド基(R〜Rは、炭素数が1〜18の分岐してもよい鎖式炭化水素基、炭素数が1〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が1〜14の芳香族炭化水素基から選ばれる基を表す)を表す。または、式中、R〜Rの全てが該アミド基を表す。)
【化3】

(式中、R〜Rは、分岐していてもよい炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数1〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数1〜14の芳香族炭化水素基から選ばれる基を表す。また、nは1〜4の整数を表す。)または、
【化4】

(式中、R10、R11は炭素数1〜18の鎖式炭化水素基(これらの基は分岐していても差し支えない)、炭素数1〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数1〜14の芳香族炭化水素基から選ばれる基を表す。R12は、{(CHS(CHlで表される基を表す(n、m、lは、1〜4の整数を表す。))
【0016】
上記R〜R11の鎖式炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基について、前記鎖式炭化水素基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、イソプロピル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、t−ペンチル、2−エチルヘキシル等の置換されていてもよいアルキル基、ビニル、1−プロペニル、イソプロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、2−メチルアリル、1−ペプチニル、1−ヘキセニル、1−ヘプテニル、1−オクテニル、2−メチル−1−プロペニル等の置換されていてもよいアリル基が、脂環式炭化水素基の例としては、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロペプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、シクロヘキセニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘキサトリエニル、シクロオクテニル、シクロオクタジエニル等の置換されていてもよい飽和脂環式炭化水素基、又は置換されていてもよい不飽和脂環式炭化水素基が、芳香族炭化水素基の例としては、フェニル、ナフチル、アントリル、トリル、キシリル、クメニル、ベンジル、フェネチル、スチリル、シンナミル、ビフェニリル、フェナントリル等がそれぞれ挙げられる。
なかでも、上記R〜Rとして、水素、鎖式炭化水素基及び又は脂環式炭化水素基とするのが好ましく、上記R〜R11としては、鎖式炭化水素基とするのが好ましい。
【0017】
本発明の上記一般式で示されるアミン化合物と硫黄含有アミド化合物を有効成分とする分離剤を用いて、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムからなる白金族金属を含有する硝酸溶液から、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムを抽出するには、該分離剤を含有する抽出溶液を予め調製しておく必要があるが、該抽出溶液は、分離剤を、疎水性有機溶媒、例えば、n−ドデカンなどの脂肪族炭化水素、2−エチル−1−ヘキサノールなどのアルコール、クロロホルムなどの脂肪族塩化物、ベンゼンなどの芳香族炭化水素などに溶解させることにより調製できる。これらの溶媒中の分離剤濃度は適宜定めることができる。
このように本発明の分離剤を含有する抽出溶液を用いて、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムからなる白金族金属を含有する硝酸溶液から、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムを抽出すると、パラジウムは95%以上の抽出率にて抽出できるので好ましい。
【0018】
また、本発明の上記一般式で示されるアミン化合物と硫黄含有アミド化合物を有効成分とする分離剤の混合溶媒を基材に含浸させて、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムからなる白金族金属を含有する硝酸溶液から、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムを吸着分離するには、該混合溶媒を含浸した吸着剤を予め調製しておく必要があるが、該混合溶媒は、親油性基材、例えば、スチレン系、アクリル系、ポリプロピレン系などの樹脂、綿、カポック、木材などの天然繊維、ポリプロピレン系、ユレアホルム系等の合成繊維などに含浸させることにより調製できる。これらの基材中の分離剤濃度は適宜定めることができる。
【0019】
本発明のルテニウム、ロジウム及びパラジウムの分離回収方法に用いられる被処理溶液は、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムを少なくとも含む硝酸溶液であればよく、例えば、被処理溶液が、ルテニウム、ロジウム及びパラジウム以外の金属等が含まれていてもよい。硝酸溶液が放射性廃棄物を含有する場合には、その非処理溶液は希土類、アクチノイド、セシウム、ストロンチウム、ヨウ素、テクネチウム等の元素も含有する。
【実施例】
【0020】
以下に本発明の特徴を更に具体的に明らかにするための実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
(実施例1:分離剤の準備)
アミン系分離剤として、ジ−n−オクチルアミン(DOA)、トリ−n−オクチルアミン(TOA)、アミド含有アミン系分離剤として、N−ジ−n−ヘキシル−(N−メチル−N−n−オクチル−エチルアミド)アミン(m−AA)、N−n−ヘキシル−ビス(N−メチル−N−n−オクチルエチルアミド)アミン)(b−AA)、トリス(N−メチル−N−n−オクチル−エチルアミド)アミン(t−AA)、硫黄含有アミド系抽出剤として、N−メチル−N−n−オクチル−3−チアペンタンアミド(TPA)、N,N´−ジメチル−N,N´−n−ジオクチル−チオジグリコールアミド(TDGA)(上記〔化4〕の式において、n=m=2、R10=オクチル、R11=メチルの化合物)、比較としてジ−n−ヘキシルスルフィド(DHS)、N,N´−ジメチル−N,N´−n−ジオクチル−ジグリコールアミド(DGA)を用意した。DOA、TOA及びDHSは容易に購入できる。m−AA及びb−AAはHelvetica Chimica Acta vol.63,p2264−2270(1980年)に、t−AAは、Journal of Molecular Structure vol.657,p177−183(2003年)に、TPA、TDGAはChemistry Letters,vol.33, p1144−1145(2004年)に、DGAはRadiochimica Acta,vol.81, p223−226(1998年)に記載された方法を参考にして合成した。
【0021】
(実施例2:抽出実験)
実施例1で得られた分離剤を用いて、以下のようにして、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムを分離した。
上記試薬を、所定の濃度になるようにクロロホルムで希釈した。この有機溶媒に、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムをそれぞれ100mg/L含む等体積の7mol/Lの硝酸溶液を加え、60分間激しく振とうすることで、有機相に金属の抽出を行った。抽出率は振とう前後の水相の金属濃度をICP発光分光器で測定して求めた。
抽出率% = 100×(抽出前水相金属濃度―抽出後水相金属濃度)/(抽出前水相金属濃度)
【0022】
0.5mol/LのDOA、TOA、t−AA及びTDGAをそれぞれ単独で用いた際の金属抽出率を図1に示す。図1に示す例はいずれも対照例であり、いずれの抽出剤もロジウムを全く抽出しない。TDGA及びt−AAでは、パラジウムに対し高い抽出率を示し、さらにt−AAはルテニウムも抽出する。DOA、TOAはいずれの金属に対しても低抽出率を示す。
【0023】
混合抽出系における抽出率を調べるために、まず、0.5mol/LのDOA、TOA、t−AAに0.5mol/LのTDGAを加えた混合抽出剤による白金族金属の抽出を行った。実験結果を図2Aに示す。いずれの系もパラジウムをほぼ100%抽出する。またDOA―、TOA―TDGA系ではルテニウムを90%以上抽出する。さらに、これまで抽出分離することが極めて困難だった硝酸溶液中のロジウムの抽出に関しても、いずれも50%を超える高い抽出率を示している。
【0024】
続いて、0.5mol/LのTOAに0.5mol/LのTPAを加えた混合抽出剤、及び0.5mol/Lのm−AA、b−AAに0.5mol/LのTDGAを加えた混合抽出剤による白金族金属の抽出を行った。実験結果を図2Bに示す。
いずれの抽出系もパラジウムに対して高い抽出率を示した。ロジウムに関しては、m−AA―及びb−AA―TDGA系はロジウムを60%以上抽出するが、ルテニウムについては前者が約90%、後者が約30%の抽出率である。TOA−TPA系ではロジウムを若干抽出するものの、15%程度の抽出率であり、ルテニウムに関しては約40%である。
【0025】
次に、硫黄含有アミドを含まない混合抽出系を調べた。0.5mol/LのDOA又はTOAに0.5mol/LのDHS、DGA又はb−AAを加えた混合抽出剤による白金族金属の抽出を行った。実験結果を図3A及び図3Bに示す。図3A及び図3Bに示す例も対照例であり、いずれの系もパラジウムは良く抽出するが、ロジウムに関してはほとんど抽出せず、せいぜい10%程度の抽出率に留まる。
【0026】
以上の結果より、図1に記載のDOA、TOA、t−AA、TDGA単独を使用した場合には、t−AAを用いてPdとRuを分離する場合、及びTDGAを用いてPdを分離する場合以外はほとんど抽出できないという結果によれば、本発明におけるアミン化合物単独、あるいは硫黄含有アミド化合物単独の場合には、白金族金属をほとんど抽出できない。
しかしながら、図2A及びBに示された結果をみると、該アミン化合物としてDOA、TOA、t−AAのうちの1種、及び該硫黄含有アミドとしてTPA又はTDGAを併用することにより、アミン化合物や硫黄含有アミド化合物を単独で使用した場合と比較して、Pdを90%程度、あるいは100%抽出できると共に、Rh、Ruの2種の白金族金属についても明らかに高い抽出率を得ることができた。
この本発明のアミン化合物と、GHS、DGAあるいは、本発明におけるアミン化合物に包含されるb−AAを組み合わせた場合、つまり、本発明における硫黄含有アミド化合物を使用しない場合には、抽出率はそれほど向上しなかった。
本発明は特定の硫黄含有アミド化合物とアミン化合物を混合した有機溶媒を用いることで、高い抽出率にて硝酸溶液中のルテニウム、ロジウム及びパラジウムを同時に抽出分離可能であることが示された。
【0027】
(実施例3:分離剤含浸分離用基材による分離)
実施例1で得られた抽出剤TOAにTDGAを加えた混合溶媒を、天然繊維カポックを主成分とした親油性繊維(カクイ製:オイルキャッチャー)に含浸させたものを吸着剤として白金族金属の分離を行った。
TOAとTDGAのモル比は1対2とし、その混合溶媒0.26gを1cm角に調製した親油性繊維0.1gに含浸し、自然乾燥させたものを吸着剤とした。この吸着剤に、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムをそれぞれ100mg/L含む10mLの3又は7mol/Lの硝酸溶液を加え、60分間撹拌することで、金属の吸着を行った。吸着率は吸着前後の水溶液の金属濃度をICP発光分光器で測定して求めた。
吸着率% = 100×(吸着前水溶液金属濃度―吸着後水溶液金属濃度)/(吸着前水溶液金属濃度)
【0028】
TOA−TDGA混合溶媒より調製した溶媒含浸繊維におる金属吸着率を図4に示す。パラジウムに関しては硝酸濃度3mol/L及び7mol/Lのいずれにおいてもほぼ100%吸着されている。硝酸濃度7mol/Lでは、ルテニウムが95%以上、ロジウムも約90%と非常に高い吸着率を示す。
【0029】
以上の結果より、上記の混合抽出剤は単に抽出用の組成として使用できるばかりではなく、親油性基材に含浸して調製した吸着剤とすることで、硝酸溶液中のルテニウム、ロジウム及びパラジウムを同時に吸着分離可能であり、吸着剤として機能することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、金属精錬分野、核燃料サイクルにおける放射性廃棄物処理分野及び自動車廃ガス用触媒や電気製品の使用済み製品を対象とした白金族金属リサイクル産業における白金族金属分離精製工程において、新規の回収方法として期待されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式で示されるアミン化合物及び硫黄含有アミド化合物を有効成分とすることを特徴とする白金族金属分離剤。
【化1】

(式中、R〜Rのうち少なくとも1つが、炭素数が1〜18の分岐してもよい鎖式炭化水素基、炭素数が1〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が1〜14の芳香族炭化水素基を表し、該炭化水素基以外のR〜Rは水素原子または
【化2】

で表されるアミド基(R〜Rは、炭素数が1〜18の分岐してもよい鎖式炭化水素基、炭素数が1〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が1〜14の芳香族炭化水素基から選ばれる基を表す)を表す。または、式中、R〜Rの全てが該アミド基を表す。)
【化3】

(式中、R〜Rは、分岐していてもよい炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数1〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数1〜14の芳香族炭化水素基から選ばれる基を表す。また、nは1〜4の整数を表す。)または、
【化4】

(式中、R10、R11は炭素数1〜18の鎖式炭化水素基(これらの基は分岐していても差し支えない)、炭素数1〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数1〜14の芳香族炭化水素基から選ばれる基を表す。R12は、{(CHS(CHで表される基を表す(基のn、m、lは、1〜4の整数を表す。))
【請求項2】
ルテニウム、ロジウム及びパラジウムを含有する硝酸溶液の水相と、請求項1に記載の白金族金属分離剤を含有する有機相を接触させることにより、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムを前記有機相に抽出することを特徴とする白金族金属の分離方法。
【請求項3】
請求項1に記載の白金族金属分離剤を基材に含浸させてなる白金族金属の分離用基材。
【請求項4】
ルテニウム、ロジウム及びパラジウムを含有する硝酸溶液の水相と、請求項1に記載の白金族金属分離剤を含浸させた分離用基材を接触させることにより、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムを前記基材に吸着することを特徴とする白金族金属の分離方法。
【請求項5】
ルテニウム、ロジウム及びパラジウムを含有する硝酸溶液が放射性廃棄物を含有することを特徴とする請求項2又は4に記載の白金族金属の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−25994(P2012−25994A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164817(P2010−164817)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】