説明

硫化によって鉄合金部材を処理する方法

本発明は、鉄合金部材を硫化によって処理する方法に関する。その方法によれば、その部材は、電流を流すことなく所定濃度の苛性ソーダとチオ硫酸ナトリウムと硫化ナトリウムとを含む水溶液の収容槽に含浸され、前記水溶液は約5分から30分間かけて約100℃から140℃の間の温度にされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャミングに対する抵抗性を改善するために金属表面を処理する方法、さらには、鉄合金部材の表面を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような処理は完全に当業者によく知られており、例えば、重度の負荷や加圧条件下において互いに擦られる部材のような機械構成部品の設計において広く用いられている。このような処理は、潤滑剤を使用する場合(オイルやグリースなどを使用して)、または、潤滑剤を使用しない場合の何れの場合にも適用させることができる。
【0003】
鉄合金部材の表面上に、環境との相互作用を改善するために適切な化合物を形成する種々の方法が提案されている。
【0004】
表面酸化方法を含む種々の知られた処理方法は、耐食性を改善するために適している。リン酸塩処理方法という手段も知られており、その方法は、リン酸鉄の表層を形成することによって、十分な比率で潤滑の効果を改善することに用いられている。
【0005】
さらに、硫化処理という方法が知られている。
【0006】
本発明は、特に後者のタイプの処理に関する。
【0007】
鋼鉄(スチール)の硫化およびリン酸鉄の表層の潤滑における効果は、当業者に完全に知られており、例えば、仏国特許第1406530号明細書、第2823227号明細書の教示するところである。
【0008】
仏国特許第1406530号明細書の教示するところによれば、処理される金属部材はイオン化された溶融塩の収容槽に浸される。溶融塩を用いた電解による硫化は、環境に脅威を与えることができる。
【0009】
仏国特許第2823227号明細書の教示するところによれば、適当な厚さ及び鉄/硫黄比を有する硫化鉄コーティングは処理される部材上に堆積され、そのコーティングは、少なくとも2.6のフラクタル次元を有する表面の材料から選択される。さらにここで、その方法は、その生産性を制限する技術的な制約を生じさせることができる電解による硫化を採用する。使用される塩が高価であるということが見られる。
【0010】
米国特許第6139973号明細書の教示するところの他の解決方法は、水溶液の陰極電気分解によって硫化鉄を堆積するために用いられる方法に関する。欠点として、処理された部材の形状に関する電解法に特有の制限は別として、その鉄/硫黄層は、化学反応によって得ることはできないが、鋼鉄表面に堆積することはでき、これは接着に関する大問題を引き起こす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、一方では、毒性を低減させることであり、他方では、水溶液を所定温度に維持するために必要なエネルギーを制限できるように電気分解の使用を避けることである。
【0012】
電流フローなしで、表層の組成、厚さ及び連続性を極めて正確に高い再現性で制御することを可能にし、また、キャビティ(ボア、止まり穴、ギアなど)を有する部材を含む複雑な形状の部材を処理することを可能にするということが見られる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そのような問題を解決するために設計され、開発された方法は、硫化によって鉄合金部材を処理する方法であって、前記部材は、電流を流すことなく水溶液の収容槽に含浸され、前記水溶液は、5分から約30分間にわたって約100℃から140℃の間の温度に加熱される。その水溶液の収容槽は、所定濃度の苛性ソーダとチオ硫酸ナトリウムと硫化ナトリウムとを含む。
【0014】
苛性ソーダは、鉄合金部材に対して腐食性を示し、その部材上に硫化鉄の層が沈積するのに必要なFe2+とFe3+の単体分離を可能にする。また、チオ硫酸塩の硫黄成分は、この硫化鉄の層が沈積するのを可能にする。さらに、硫化鉄は、硫化方法における重要な薬剤でもある。
【0015】
有利には、その収容槽で硫化する能力を発揮するには、400から1000g/lの濃度の苛性ソーダと、30から300g/lの濃度のチオ硫酸ナトリウムと、60から120g/lの濃度の硫化ナトリウムと、の存在を必要とする。
【0016】
有利には、その収容槽の使用温度は、約120℃から140℃である。簡略化のために、水溶液の組成に依存する沸点で動作することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明による処理方法によって得られるジャミングへの抵抗性は、ASTM−D−2170基準に従ってファビルレバリー(Faville-Levally)社製の装置での試験で評価される。
【0018】
当業者に完全に知られている方式で、この試験では、直径が6.35mm、高さが50mmの16NC6鋼鉄円筒試験片に表面硬化の処理をし、急冷し、粉砕した。その試験片は、時間の関数として負荷が線形的に印加される、直角のV字にカットされた2つの顎(ジョー)の間にクランプされる。試験片にジャミングあるいはフローが発生すると、その試験は終了する。この試験は、ファビル度(Faville grade)と呼ばれる量によって特徴付けられ、それは時間に対して印加される負荷の積分であり、daN.sで表現される。この点において、その試験片が本発明による方法によって処理された時、ファビル度は12000daN.sより高いはずであり、その試験片はフローされていて妨害されていないはずである。
【0019】
情報を得るために参考試料として以下のように限定されない例が用意され、従来文献による処理と比較して本発明による方法の特徴で得られた結果を示す。
【0020】
(実験例1)
この実験例では、未処理の試料(1)と、リン酸化された試料(2)と、酸化された試料(3)と、本発明の方法による試料(4)とにおいて、表面硬化され、急冷された16NC6鋼鉄の試験片のファビル度の比較がされる。その結果を以下の表に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
本発明によって処理された試料は、その収容槽の混合液において、775g/lの苛性ソーダと200g/lのチオ硫酸ナトリウムと90g/lの硫化ナトリウムとを含有する水溶液中で急冷される。その処理は130℃で15分間行われる。
【0023】
この試験から、溶液1、2及び3は、その部材に如何なる反ジャミング特性を与えないことは明らかであり、本発明による溶液4は、高い反ジャミング効果によって特徴付けられ、ファビル度が3倍であると考えられる。
【0024】
(実験例2)
この実験例では、本発明の方法によって硫化され、表面硬化され、急冷された16NC6鋼鉄のファビル試験片(1)と、仏国特許第2823227号明細書の教示するところの電解法によって硫化され、表面硬化され、急冷された16NC6鋼鉄のファビル試験片の比較がされる。その結果を以下の表に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
本発明による試料は、その収容槽の混合液において、775g/lの苛性ソーダと200g/lのチオ硫酸ナトリウムと90g/lの硫化ナトリウムとを含有する水溶液中で処理される。
【0027】
その処理は130℃で15分間行われる。
【0028】
これらの試験から、溶液1及び2は反ジャミング特性を有し、発明の方法によって硫化された試料は、反ジャミング性質において36%の改善を与えた。
【0029】
(実験例3)
この実験例では、温度と、苛性ソーダ(NaOH)とチオ硫酸ナトリウム(Na)と硫化ナトリウム(NaS)の初期濃度とを変化させた水溶液中ですべての試料が処理される。その結果を以下の表に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
この表から以下のことが分かる。
−溶液1は、調整条件によって得られる所望の特性とファビル試験の評価に適合する。
−溶液2と3は、チオ硫酸ナトリウムと硫化ナトリウムの初期濃度を考慮すると、適合しない。これらの2つの実験例は、鋼鉄の処理においてチオ硫酸塩と硫化物の相乗効果を示す。
−溶液4は、水溶液に関しては溶液1と類似しているが、ジャミングに対する抵抗性を与え、その試料が効率的に反応を起こすためには処理温度が低すぎるため、適合しない。
−溶液5は、溶液1と異なる収容槽の組成にも関わらず、反ジャミング特性の点で満足できる結果を与える。
−溶液6は、苛性ソーダの濃度が低すぎるため、満足できる反ジャミング反応を生じない。
【0032】
本発明の特徴によれば、クレームされた方法によって処理された部材は、異なる層に酸素を有することが観察される。
【0033】
その利点は詳細な説明から明確になり、以下の特徴、
−環境に対する尊重、
−表層の組成、厚さ及び連続性における非常に正確で大いに再生可能な制御、
−電流フローなしに、特に、孔を有する部材を含む複雑な形状の部材を処理することを可能にすること、
が強調され、繰り返される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化によって鉄合金部材を処理する方法であって、
前記部材は、電流を流すことなく、所定濃度の苛性ソーダとチオ硫酸ナトリウムと硫化ナトリウムとを含む水溶液の収容槽に含浸され、
前記水溶液は、5分から約30分間かけて約100℃から140℃の間の温度まで加熱されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記苛性ソーダの濃度は400から約1000g/lであり、前記チオ硫酸ナトリウムの濃度は30から約300g/lであり、前記硫化ナトリウムの濃度は60から約120g/lであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記収容槽の使用温度は、約120℃から140℃であり、好ましくは130℃であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記含浸時間は、好ましくは約15分であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載された方法によって処理された部材。

【公表番号】特表2007−508459(P2007−508459A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534808(P2006−534808)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【国際出願番号】PCT/FR2004/050487
【国際公開番号】WO2005/038083
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(506126266)
【Fターム(参考)】