説明

硫化水素ガスの分解除去方法及び硫化水素ガスの分解処理装置

【課題】人々の生活に起因する各種の廃棄物から発生する硫化水素ガス、或いはメタン発酵工程等で発生する硫化水素ガスを、簡易に効率よく安全な状態に分解処理することができ、その後の二次処理も容易な、経済性に優れる硫化水素ガスの分解除去方法及び分解処理装置の提供。
【解決手段】発生した硫化水素ガスを含むガスを、110〜230℃に加熱保持されている酸化鉄系触媒と接触させることにより加熱分解させ、少なくとも亜硫酸ガスを生成させて、硫化水素ガスを分解する工程を有することを特徴とする硫化水素ガスの分解除去方法及び分解処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素(H2S)ガスの分解除去方法及び硫化水素ガスの分解処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、生活環境で問題とされている悪臭物質には多種のものがあるが、その中でも、生活汚水や汚物、食物カス等の腐敗により生成する、硫化水素、硫化メチル、メチルメルカプタン等の含硫黄物質は、人々の暮らしに起因して生じる避けることのできない悪臭物質であるといえる。これらの含硫黄物質は、微量でも強い臭気を示すため、悪臭を除去するためには、これらの含硫黄物質を完全に除去できる方法が必要とされる。また、含硫黄物質の中でも発生量の多い硫化水素ガスは毒性があるため、処理物を安全な状態にして除去処理する必要がある。さらに、発生した硫化水素ガスの別の問題として腐食性がある。例えば、メタン発酵で生成するバイオガス中に含まれる硫化水素ガスは、発電機やボイラー等の設備に、腐食等の悪影響を及ぼすことが問題となっている。このため、上記した場合に発生する数十ppm〜数千ppm程度の硫化水素ガスを、効率的に除去することができる簡易な方法の開発が求められている。硫化水素ガスを除去処理するための従来の方法としては、例えば、酸化鉄脱硫剤による乾式脱硫方法がある。この方法では、主に3H2S+Fe23→Fe23+3H2Oの反応により、硫黄分を硫化鉄として除去する。しかしながら、この方法は、吸着による脱硫方法のため、脱硫剤の必要量が多く、処理装置が大型化してしまう問題と、脱硫剤の脱硫能力の低下の問題や、使用後の脱硫剤の処理が問題となっており、このような問題のない新たな硫化水素ガスの除去処理方法の開発が待望されている。
【0003】
ここで、硫化水素を加熱分解して硫黄を生成させる技術としては、一般的にクラウス反応が知られている。例えば、天然ガスや石油の精製工程では、下記のような除去処理が行われている。先ず、副産物で生じた硫化水素ガスを850℃以上の反応炉内で一部酸化分解させて、3H2S+3/2O2→2H2S+SO2ガス+H2Oの分解反応を進行させる。次に、反応後の混合ガスを活性アルミナや酸化チタン触媒の入った触媒反応塔に入れ、250〜350℃の温度で2H2S+SO2→3/2S2+2H2Oの反応により硫黄を生成させ、その後に冷却凝集して硫黄を回収している。そして、上記技術に関しては、種々の改良がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1では、反応燃焼炉から未反応の硫化水素ガスを多段階でクラウス反応を行わせ、硫黄回収率を上げることが提案されている。具体的には、冷却ガス中に残存する硫化水素を酸化する触媒層と、この触媒層の後段に反応ガス中の亜硫酸ガスと硫化水素とを反応させて硫黄が含まれる反応ガスを生成するクラウス触媒層とを備えた多段階処理を行っている。そして、前段の酸化触媒として、Fe23−Al23、NiO−Al23、TiO2、V23−TiO2、MoO3−TiO2等が使用され、後段のクラウス触媒には活性アルミナやチタニア系触媒が使用されている。しかしながら、このような従来技術の硫黄回収方法では硫化水素を酸化分解する触媒層とクラウス反応を行うクラウス層の2段階、若しくはそれ以上の反応工程が必要であり、さらに装置も大型化するため、人々の暮らしに起因して発生する硫化水素ガスを簡易に処理するための方法に適したものではない。
【0005】
【特許文献1】特開2004−345904公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、人々の生活に起因する各種の廃棄物から、或いはメタン発酵工程等で発生する硫化水素ガスを、簡易に効率よく安全な状態に分解処理することができ、その後の二次処理も容易な、経済性に優れる硫化水素ガスの分解除去方法及び分解処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、発生した硫化水素ガスを含むガスを、110〜230℃に加熱保持されている酸化鉄系触媒と接触させることにより加熱分解させ、少なくとも亜硫酸ガスを生成させて硫化水素ガスを分解する工程を有することを特徴とする硫化水素ガスの分解除去方法である。
【0008】
本発明の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。さらに、硫化水素ガスを分解する工程で硫黄を生成させる上記の硫化水素ガスの分解除去方法。上記酸化鉄系触媒の主成分が、ヘマタイト(α−Fe23)、マグヘマイト(γ−Fe23)、マグネタイト(Fe34)又はこれらの2種或いは3種の混合物のいずれかである上記の硫化水素ガスの分解除去方法。上記酸化鉄系触媒の主成分が、マグヘマイト、マグネタイト又はこれらの1種或いは2種とヘマタイトとの混合物であり、かつ、該触媒をマイクロ波加熱によって加熱する上記の硫化水素ガスの分解除去方法。
【0009】
本発明の別の実施形態は、触媒が充填されたカラム及び該カラム内の触媒を110〜230℃に加熱できる加熱部とからなる硫化水素ガスを含む含硫黄ガスの加熱分解手段と、上記カラム内に含硫黄ガスを導入するためのガス導入路とを少なくとも有してなる硫化水素ガスを含む含硫黄ガスの分解処理装置であって、上記触媒が酸化鉄系触媒であることを特徴とする硫化水素ガスの分解処理装置である。
【0010】
本発明の好ましい形態としては、上記酸化鉄系触媒の主成分が、マグヘマイト、マグネタイト又はこれらの1種或いは2種とヘマタイトとの混合物であり、かつ、マイクロ波による加熱部が設けられている上記硫化水素ガスの分解処理装置が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、下記の効果が得られる。
(1)本発明の技術により、人々の生活に起因する各種の廃棄物から、或いはメタン発酵工程等で発生する悪臭や腐食の原因物質である硫化水素ガスを、簡易な小型の装置で、安全な状態に分解して除去することが可能となる。
(2)これまでにない低い温度で硫化水素ガスを分解できるので、省エネルギーで経済的な処理が可能である。
(3)加熱温度や触媒量を変えることで、分解成分の比率を適宜に変えることができる。条件によっては、一つの触媒層で分解成分の50%以上を固体硫黄として回収することも可能である。
(4)加熱手段にマイクロ波加熱を採用すれば、分解効率をより向上させることができ、しかも装置のさらなる小型化を達成できる。
(5)本発明で使用する酸化鉄系触媒は、その原料資源が豊富であり、安価で入手しやすいものである。また、本発明で使用する酸化鉄系触媒によれば、白金等の貴金属触媒を使用して硫化水素ガスを酸化分解するよりも、さらに低い温度で硫化水素ガスを完全分解することができる。このため、高価な貴金属触媒を使うことなく、硫化水素ガスの分解を効率よく経済的に行うことができる。
(6)本発明の方法及び装置は、硫化水素ガスだけでなく、硫化メチルやメチルメルカプタン等の他の含硫黄ガスの分解除去にも有効に利用できる。従って、悪臭除去対策として極めて有効な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。本発明者らは、人々の生活に起因する各種の廃棄物等から発生する硫化水素ガスを簡易に処理するため、二次処理等に問題のあった脱硫剤を使用する従来の方法に変えて硫化水素ガスを加熱分解する方法の適用について鋭意検討を行った。この結果、従来にない低温の条件で、硫化水素ガスを安全な状態に分解処理することができる有用な触媒を見出して本発明に至った。硫化水素は毒性があり、安全な状態にして処理する必要があるが、そのままでは加熱分解し難く、850℃以上の高温で処理したり、高価な酸化触媒を必要としたりして、硫化水素の加熱分解処理を簡易且つ経済的にすることはできなかった。これに対して、本発明では、酸化鉄系触媒を使用することで、110〜230℃という従来の方法と比べて極めて低温で、硫化水素ガスの分解処理を簡易に行うことを達成している。
【0013】
本発明者らは、酸化鉄系触媒を使用して、110〜230℃の低い温度で硫化水素ガスを酸化分解した場合に、分解後に得られる成分は、主として亜硫酸ガスと硫黄であることを確認した。このように、本発明における加熱分解で、硫黄を析出しながら硫化水素ガスを極めて低い温度で加熱分解できたのは、酸化鉄系触媒の影響により、硫化水素の分解反応で生成した亜硫酸ガスと未分解の硫化水素とが瞬時に反応して硫黄を析出した結果と考えられる。また、本発明の方法によれば、このように分解生成成分として硫黄が生じるため、分解ガスを冷却することで硫黄成分を固体硫黄として回収することも可能であり、その後の処理が容易になる。
【0014】
本発明で使用する酸化鉄系触媒としては酸化鉄系材料であればいずれのものも用いることができる。例えば、ヘマタイト、マグヘマイト、マグネタイト又はこれらの2種或いは3種の混合物、等を主成分とした材料を使用することができる。本発明者らの検討によって、これらを主成分とした材料を使用した場合に、特に硫化水素ガスの高い分解効果が確認され、上記に挙げたような材料が、硫化水素の分解触媒として有用であることがわかった。但し、マグネタイトの場合は、110〜230℃での加熱を繰り返すことによりマグヘマイトに変化するので、長期間の使用ではマグヘマイトの酸化分解効果と同じになると考えられる。
【0015】
本発明で使用するこれらの酸化鉄系触媒は、通常、粒状物をカラムに充填して用いるが、分解処理にあたっては該触媒を110〜230℃に加熱した状態にし、その状態のカラム内に処理対象のガスを導入する。本発明で使用する酸化鉄系触媒の形状は特に規定されるものではないが、カラムに充填することができ、カラム内で、導入した被処理ガスと酸化鉄系触媒とが良好な状態で接触できるような形状とすることが好ましい。被処理ガスと酸化鉄系触媒との接触効率は、カラムに導入する触媒形状によって影響されるので、被処理ガスの流量によって効率的な触媒形状を検討すればよい。一般的には、先に挙げたような酸化鉄系粉末を5mm以下、例えば、2〜3mm程度に造粒処理したものが使用し易いが、場合によっては、上記の材料を用いてハニカム形状としたり、他材質のハニカム担体等の基材に、粉末にした上記材料を塗布するように構成したものでもよい。
【0016】
本発明では、カラム内の酸化鉄系触媒を110〜230℃に加熱して硫化水素ガスの加熱分解を行う。本発明者らの検討によれば、触媒量や加熱手段にもよるが、例えば、触媒温度を110〜230℃とすることで、人々の生活に起因する各種の廃棄物等から、或いはメタン発酵工程等で発生する、数十ppm〜数千ppm程度の濃度の硫化水素ガスを完全に分解することができる。さらに、この場合の加熱温度を適宜に制御することで、加熱分解によって生じる成分を、硫黄の多いものとすることができる。硫黄は冷却して固体として回収できるため、加熱分解後の処理を容易にできる。つまり、硫黄生成量を多くすることで、分解成分の亜硫酸ガスの生成量を少なくすることが可能であり、亜硫酸ガスの処理が必要な場合でも、その処理が容易となる。
【0017】
本発明において使用する酸化鉄系触媒の加熱手段は、特に限定されない。例えば、電気ヒーターやガスバーナーによる加熱であってもよいし、熱風を吹き付けることによる加熱、マイクロ波による加熱であってもよい。本発明者らの検討によれば、酸化鉄系触媒が、マグヘマイト、マグネタイト又はこれらの1種或いは2種とヘマタイトとの混合物である場合に、触媒を2.45GHzのマイクロ波で加熱すると触媒自体が急速昇温することを見出した。これは、前記した酸化鉄系触媒のマイクロ波吸収特性が極めて高いことを示している。実施例に示したように、マグヘマイトを触媒としてマイクロ波加熱した場合における硫化水素ガスの酸化分解力は、ガス流量・濃度・触媒量を同じにした電気炉加熱の時よりも、低い温度で硫化水素ガスが完全分解することを確認した。マイクロ波加熱の場合には、マグヘマイト又はマグネタイト触媒表面にマイクロ波が集中し易く、触媒表面の急速な温度上昇により、触媒表面で生じる酸化分解反応が効率よく行われた結果と考えられる。但し、マイクロ波を用いた場合は、酸化分解反応が進行し易いため、分解生成物は亜硫酸ガスの割合が多くなる。
【0018】
次に、本発明の硫化水素ガスの分解処理装置について説明する。本発明の装置は、触媒が充填されたカラム及び該カラム内の触媒を110〜230℃に加熱できる加熱部とからなる硫化水素ガスを含む含硫黄ガスの加熱分解手段と、上記カラム内に含硫黄ガスを導入するためのガス導入路とを少なくとも有してなり、上記触媒が酸化鉄系触媒であることを特徴とする。かかる装置を用いれば、人々の生活に起因する各種の廃棄物からや発生する数十ppm〜数百ppm程度の硫化水素ガスや、メタン発酵工程等で発生する数百ppm〜数千ppm程度の硫化水素ガスを、簡易に効率よく安全な状態に分解処理することができる。本発明の装置には、通常、含硫黄ガスの加熱分解によって生成し、排ガス中に含まれることとなった硫黄化合物をさらに分離或いは処理するための各種の手段が設けられる。図1及び2は、本発明の硫化水素ガスの分解処理装置の好ましい実施形態を模式的に示したものである。図1に示した装置では、排ガス中の硫黄を固体状態で分離除去するための硫黄回収手段が設けられている。図2に示した装置では、硫黄回収手段に加えて、固体硫黄の回収後の排ガス中の亜硫酸ガスを硫酸アンモニウムや硫酸カルシウム等の固体として分離する亜硫酸ガスの除去手段が設けられている。以下、これらについて図を参照して説明する。
【0019】
図1及び2に示したように、本発明の装置において、硫化水素ガスを含む含硫黄ガスの加熱分解手段を構成するカラムは、温度制御することができる加熱部によって、カラム内に充填した触媒を110〜230℃の範囲の所望の温度に加熱できるように構成されている。加熱部を構成する具体的な加熱手段としては、電気ヒーターやガスバーナーによってカラムの外周を加熱してカラム内の触媒を加熱する方法、カラム内に熱風を送り込んで触媒を加熱する方法、マイクロ波で触媒を加熱する方法等があるが、いずれであってもよい。勿論、本発明は、これらに限定されるものではない。カラム内には、先に説明したような本発明を特徴づける酸化鉄系触媒が充填されている。
【0020】
本発明の装置は、上記のようにして加熱される触媒を充填したカラム内に、ガス導入路から、処理対象の硫化水素ガス或いは硫化メチルやメルカプタン類のガスを含む含硫黄ガスを導入できるように構成されている。ガス導入路から導入された硫化水素ガス等を含む含硫黄ガスは、カラム内の加熱された触媒と接触することで加熱分解されて、ガス状の硫黄や亜硫酸ガスになる。図1及び2に示した装置では、加熱分解が行われた後の排ガスを硫黄回収手段へと導き、分解によって生じたガス状の硫黄を固体硫黄として除去できるように構成されている。硫黄回収手段の具体的なものとしては、排ガスの温度を急冷でき、且つ、冷却されることで排ガス中から析出してくる固体硫黄を分離回収できるような構造のガス冷却塔が挙げられる。本発明者らの検討によれば、触媒の種類や形状、或いは加熱温度や加熱手段を適宜に選択することで、含硫黄ガス中の硫黄分の大半を固体硫黄として除去することも可能である。この場合には、図1に示したように、排ガスを冷却する等の手段で固体硫黄を回収し、回収後のガスは処理ガスとして、そのまま廃棄することもできる。また、加熱分解条件によっては、分解ガスの組成が亜硫酸ガスを多く含むものとなる。この場合には、図2に示したように、硫黄回収手段によって固体硫黄を除去した後の排ガスを、亜硫酸ガスの除去手段へと導き、亜硫酸ガスを、硫酸アンモニウムや硫酸カルシウム等の無害な処理物(固形物或いは溶液)として取り除き、その後に処理ガスとして廃棄するようにする。
【0021】
本発明者らの検討によれば、上記したように構成されてなる本発明の硫化水素ガスの分解処理装置は、硫化水素ガスを含む含硫黄ガスは勿論のこと、硫化メチルやメルカプタン類のガスを低濃度で含む含硫黄ガスを、連続して流しながら処理できる。処理するガス中に含まれる硫黄の量や処理ガス流量にもよるが、例えば、人々の生活に起因する各種の廃棄物から発生するような、数十ppm〜数百ppm程度の硫化水素ガスを含有する低濃度の含硫黄ガスであれば、小型の装置でガスを1〜10m3/分程度で流しながら連続処理できる。
【0022】
本発明の硫化水素ガスの分解処理装置の好ましい形態としては、カラム内に充填させる酸化鉄系触媒の主成分が、マグヘマイト、マグネタイト又はこれらの1種或いは2種とヘマタイトとの混合物であり、かつ、加熱分解手段における加熱をマイクロ波で行うように構成したものが挙げられる。このような構成の装置の場合は、カラム内に充填させた触媒に対して、良好な状態にマイクロ波加熱できる構成にすればよい。
【実施例】
【0023】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
ヘマタイト粉末をφ2mmの球状に造粒した触媒を作成し、乾燥後、内径φ25mmの石英管カラムに8ml入れた。このカラムを電気炉にセットし、触媒の温度を熱電対で測温しながら表1に示した所定温度に加熱した。カラム内の温度を昇温後、空気で400ppmに希釈した硫化水素ガスを、カラム内に流速800ml/分でそれぞれ導入しながら分解処理試験を行った。そして、この状態で3時間経過後の出口ガスをサンプリングし、硫化水素ガスと亜硫酸ガスの濃度をガス検知管で測定した。また、カラム出口を冷却して、分解生成した硫黄を固体として析出させた。3時間で析出した固体硫黄は回収し、重量を化学天秤で測定した。測定値と導入した硫化水素ガスの分解率、硫黄の生成率を表1にまとめて示した。
【0024】

【0025】
[実施例2]
ヘマタイト粉末をマグへマイト粉末に代えてφ2mmの球状に造粒した触媒を作成し、触媒の加熱温度を表2に示した以外は実施例1と同様にして硫化水素ガスの分解処理試験を行った。そして、実施例1と同様の方法で評価を行い、その結果を表2にまとめて示した。
【0026】

【0027】
[実施例3]
実施例2で使用したマグへマイト粉末のφ2mm造粒品を入れた石英管カラムをマイクロ波炉にセットし、触媒を2.45GHzのマルチモードによるマイクロ波加熱によって表3に示した各温度に加熱した以外は、実施例1と同様の方法で、硫化水素ガスの分解処理試験を行った。その評価結果を表3にまとめて示した。
【0028】

【0029】
[比較例1]
触媒温度を100℃とした以外は実施例3と同様の方法で硫化水素ガスの処理を行い、実施例3と同様に評価した。その結果、硫化水素の分解率は92%であり、処理は完全とは言い難かった。
【0030】
[比較例2]
実施例1のヘマタイト粉末を、触媒用酸化チタン粉末(石原産業製)に代えてφ2mmの造粒触媒を作成し、カラムに入れた触媒の加熱温度を表4に示した以外は実施例1と同様にして硫化水素ガスの分解処理試験を行った。その評価結果を表4にまとめて示した。
【0031】

【0032】
[比較例3]
市販のφ2mmのγ−Al23−Pt触媒(田中貴金属製)を使用し、触媒の加熱温度を200℃にした以外は実施例1と同様にして硫化水素ガスの分解処理試験を行った。その結果、硫化水素の分解率は48%であり、200℃と高温にしても完全分解には至らないことを確認した。
【0033】
表1〜4に示した実施例及び比較例の結果から、比較例と比べて実施例では以下のように優れた効果が得られることが確認された。
(1)表1及び2に示したように、触媒としてヘマタイト又はマグヘマイトを用い、電気炉加熱した実施例1又は2では、ヘマタイトで120℃、マグヘマイトで140℃の処理温度から硫化水素ガスが完全分解した。
(2)また、この時の分解生成物は、触媒としてヘマタイト又はマグヘマイトを使用したいずれの場合も、亜硫酸ガスと硫黄であった。
(3)比較例2で使用した触媒用酸化チタンの場合は、表4に示したように、硫化水素の完全分解温度は330℃であった。
(4)比較例3で使用したγ−Al23−Ptの白金触媒は酸化分解力の強い触媒として一般的に知られているが、白金触媒を使った場合でも、200℃に温度を上げても硫化水素は半分しか分解されなかった。
(5)実施例3では、触媒にマグヘマイトを使い、加熱源に2.45GHzのマイクロ波を使用した。表3に示したように、この場合の硫化水素ガスの完全分解温度は110℃であった。また、同じ触媒を使って電気炉で完全分解できた温度は、実施例2の結果より、140℃であった。このことから、加熱方法にマイクロ波を用いると、電気炉加熱よりさらに低い温度で、硫化水素ガスの分解が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明を利用することで、数十ppm〜数千ppmの硫化水素ガスを、簡易に効率よく安全な状態に加熱分解処理することができ、しかも、その後の処理物の処理も容易となるため、人々の生活に起因する各種の廃棄物から発生する硫化水素ガス、或いはメタン発酵工程等で発生する硫化水素ガスを経済的に処理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の硫化水素ガスの分解処理装置の一例の模式図である。
【図2】本発明の硫化水素ガスの分解処理装置の別の一例の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発生した硫化水素ガスを含むガスを、110〜230℃に加熱保持されている酸化鉄系触媒と接触させることにより加熱分解させ、少なくとも亜硫酸ガスを生成させて、硫化水素ガスを分解する工程を有することを特徴とする硫化水素ガスの分解除去方法。
【請求項2】
さらに、硫化水素ガスを分解する工程で硫黄を生成させる請求項1に記載の硫化水素ガスの分解除去方法。
【請求項3】
前記酸化鉄系触媒の主成分が、ヘマタイト、マグヘマイト、マグネタイト又はこれらの2種或いは3種の混合物のいずれかである請求項1に記載の硫化水素ガスの分解除去方法。
【請求項4】
前記酸化鉄系触媒の主成分が、マグヘマイト、マグネタイト又はこれらの1種或いは2種とヘマタイトとの混合物であり、かつ、該触媒をマイクロ波加熱によって加熱する請求項1に記載の硫化水素ガスの分解除去方法。
【請求項5】
触媒が充填されたカラム及び該カラム内の触媒を110〜230℃に加熱できる加熱部とからなる硫化水素ガスを含む含硫黄ガスの加熱分解手段と、上記カラム内に含硫黄ガスを導入するためのガス導入路とを少なくとも有してなる硫化水素ガスを含む含硫黄ガスの分解処理装置であって、上記触媒が酸化鉄系触媒であることを特徴とする硫化水素ガスの分解処理装置。
【請求項6】
前記酸化鉄系触媒の主成分が、マグヘマイト、マグネタイト又はこれらの1種或いは2種とヘマタイトとの混合物であり、かつ、マイクロ波による加熱部が設けられている請求項5に記載の硫化水素ガスの分解処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−125651(P2009−125651A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302743(P2007−302743)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(391009419)美濃窯業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】