説明

硫化水素含有ガスの圧縮方法

(i)硫化水素含有ガス流を、圧縮機で圧縮する工程、(ii)ジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含む混合物で、圧縮機を洗浄する工程を有する、硫化水素含有ガス流の圧縮方法;硫化水素含有ガス流の反応を含む、アルキルメルカプタン、ジアルキルジスルフィド、及びアルカンスルホン酸から成る群から選択される硫黄化合物の製造方法であって、前記硫化水素含有ガス流を、前記工程(i)及び(ii)を含む方法により圧縮する前記製造方法;並びにジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含む混合物を、硫化水素含有ガス流の圧縮時に生じる硫黄堆積物の除去に用いる使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
(i)硫化水素含有ガス流を、圧縮機で圧縮する工程、
(ii)ジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含む混合物で、圧縮機を洗浄(Spuelen)する工程、
を有する硫化水素含有ガス流の圧縮方法;
硫化水素含有ガス流の反応を含む、アルキルメルカプタン、ジアルキルジスルフィド、及びアルカンスルホン酸から成る群から選択される硫黄化合物の製造方法であって、硫化水素含有ガス流を工程i)及びii)を含む方法により圧縮する、前記製造方法;並びに
ジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含む混合物を、硫化水素含有ガス流の圧縮時に生じる硫黄堆積物の除去に用いる使用
に関する。
【0002】
硫化水素含有ガス流の圧縮は、しばしば方法技術的に問題となる。硫化水素の適用は、しばしば圧力下で行われる。そこで例えば、圧力下で溶液から重金属の沈殿を行う。これにより容積が小さい沈殿装置を使用できる。さらにアルキルメルカプタンの合成は、硫化水素とアルカノールとの反応によって、通常は圧縮された硫化水素を用いて行われる。アルキルメルカプタンは引き続きさらに反応させて、例えばジアルキルスルフィド、及び/又はアルカンスルホン酸にする。
【0003】
上記の方法で使用される硫化水素は例えば、酸性ガス洗浄、精製プロセスから、又は元素の硫黄及び水素の変換により得ることができる。硫化水素の毒性が原因で、生産工程で処理される硫化水素の量についても、また硫化水素が処理される圧力についても、可能な限り低く保とうという努力がなされている。よって硫化水素は通常、ほとんど無圧で製造若しくは準備され、それから適用段階で圧縮される。
【0004】
硫化水素含有流を圧縮する際にしばしば、硫黄堆積物が圧縮機を塞ぐことが観察される。このことは圧縮性能の低下、又は堆積にも拘わらず圧縮機をさらに稼働させると、圧縮機で機械的な損傷につながる。
【0005】
硫黄堆積の原因の1つは、使用される硫化水素含有供給源からの元素の硫黄の巻き込みであり、これはとりわけ熱くない表面に堆積する。さらなる原因は、硫化水素含有供給源に一般的に含まれるポリスルファンの分解である(H2x、とりわけ硫化水素と硫黄への分解)。
【0006】
よってアルキルメルカプタン若しくはこれから製造されるジアルキルジスルフィド及びスルホン酸を合成するための生成装置の有用性に対する基本的な要素は、硫化水素含有ガスに対する圧縮機の有用性である。
【0007】
圧縮機の有用性を向上させる可能性は、圧縮機への導入前に硫化水素含有ガスを浄化することである。
【0008】
そこでWO 2004/022482は、多孔質媒体による硫化水素の浄化に関する。WO 2004/022482によれば、水素と液体硫黄との反応により得られる硫化水素含有ガスを、浄化のために活性炭、酸化アルミニウム、及び二酸化ケイ素から選択される固体を含むフィルターに通す。WO 2004/022482によれば、このようにして浄化されたガスは、固体の硫黄を分離することは、ほんの僅かにしか、又は全くできない。
【0009】
DE 102 45 164 A1は、ポリスルファンの変換方法に関する。このポリスルファンH2xは硫化水素合成の際、水素と硫黄との反応により生じる。硫化水素含有ガス流を圧縮する際には、ポリスルファンは制御不能に硫化水素と硫黄に分解してしまい、このことが圧縮機領域全体での不所望の硫黄堆積につながる。DE 102 45 164 A1によればポリスルファンは硫化水素含有ガス中で、水素及び硫黄の反応による合成から触媒により、硫化水素含有ガスを触媒作用のある固体、触媒作用のある液体、又は気体と接触させることによって硫化水素と硫黄に変換される。適切な触媒作用のある固体は、DE 102 45 164 A1によれば活性炭、Al23、SiO2、ゼオライト、ガラス、酸化物、及び混合酸化物、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び他の塩基性の混合物、又はこれらの水酸化物である。適切な触媒作用のある液体は、アンモニア、アミン、又はアミノアルコールの塩基性、水性、又はアルコール性溶液、並びにアルカリ金属、アルカリ土類金属、又は他の塩基性酸化物又は水酸化物、硫化物、又は硫化水素の溶液である。適切なガスは、アンモニア、アミン、又はアミノアルコールである。
【0010】
水素と硫黄との反応から得られる硫化水素を精製するための上記方法の欠点は、精製に用いられる成分の消費が持続的なことである。
【0011】
代替的には、硫化水素含有ガス中の硫黄含有不純物を、凝縮(Auskondensieren)又は昇華(Desublimieren)によって交互に稼働される熱交換器で除去可能なことが提案されており、この熱交換器はその後必要であれば加熱により硫黄堆積物を除去できる(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 2008年発行、第7版、DOI: 10.1002/14356007.a13_467, "Hydrogen Sulfide"の章、"4.1 Production by chemical reaction"の部分を参照)。
【0012】
基本的にはさらに、圧縮機を硫化水素堆積物から機械的に浄化することがででる。しかしながらこのことは常に、装置の開放、及び硫化水素放出の可能性と結びついている。装置の開放はその上、毒性媒体を有する装置の場合には先の精製方法が原因で、長い取り外し時間と結びついている。
【0013】
従って本発明の課題は、圧縮機との関連で可能な限り高い有用性を有し、可能な限り僅かな投資コストで間に合う、硫化水素含有ガスを圧縮するための方法の提供である。
【0014】
この課題は、以下の工程:
(i)硫化水素含有ガス流を、圧縮機で圧縮する工程
(ii)ジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含む混合物で、圧縮機を洗浄する工程、
を含む、硫化水素含有ガス流の圧縮法により解決される。
【0015】
工程i)
本願の意味合いにおいて「圧縮機」とは、圧縮機自体のみと理解されるべきではなく、またその周辺装置、すなわちとりわけ圧縮機、及び1つ又は複数の連結された熱交換器、例えば管束型又はプレート型の熱交換器、並びに場合により連結された液体分離器とも理解されるべきである。
【0016】
本願の方法において圧縮機としては、当業者に公知のすべての圧縮機が適している。本願の方法で好ましくは、循環ガス圧縮機、特に好ましくはスクリュー式圧縮機又は液体リング圧縮機(Fluessigkeitsringverdichter)を使用し、ここで液体リング圧縮機が極めて特に好ましい。循環ガス圧縮機、とりわけスクリュー式圧縮機及び液体リング圧縮機は、当業者に公知である。
【0017】
スクリュー式圧縮機は、内側に圧縮機を有する、回転式の二軸押出圧縮機(Verdraengerverdichter)に属する。スクリュー式圧縮機は、1段階又は2段階に構成されていてよい。圧縮された硫化水素含有ガス流を冷却するため、圧縮の間に射出媒体をノズル注入することができる。この射出は、第一及び/又は第二の段階の前に行うことができる。射出媒体としては例えば、水又はアルコール(例えばメチルメルカプタン製造の際にはメタノール)が使用できる。射出媒体は、射出工程及び圧縮行程の間に部分的に又は完全に蒸発させ、これにより工程ガスが冷える。圧縮後、射出媒体を凝縮させるか、又は工程ガス中にそのままにしておくことができる(射出媒体としてメタノールを用いるスクリュー式圧縮機での圧縮のための例は、例えばDE- A 196 54 515に開示されている)。射出媒体の凝縮及び/又は冷却の際、この媒体は場合により濾過後、再度射出媒体として使用できる。
【0018】
本発明による方法で使用される液体リング圧縮機は特に好ましくは、1軸式構造の回転式押出圧縮機である。本発明による方法で使用される液体リング圧縮機におけるリング液体としては例えば、水、又は本発明によれば圧縮機洗浄のために使用される、ジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含有する混合物が使用できる。好ましい実施態様では、水をリング液体として使用する。圧縮行程で持って行かれたリング液体は、圧縮機を出た後に液体分離器(Demistor社、気液分離装置)で分離され、熱交換器によって冷却に導かれ、そこから圧縮機に戻される。適切な熱交換器は例えば、管束型又はプレート型の熱交換器である。液体リング圧縮機の場合、硫黄堆積物は、硫化水素含有ガス流を圧縮する際、とりわけリング液体圧縮機自体で、並びに1つ若しくは複数の熱交換器に現れる。
【0019】
圧縮は本発明による方法の行程i)で、1段階、2段階、又は多段階で行うことができる。好ましくは、圧縮は1段階又は2段階で行う。
【0020】
硫黄堆積物を有さない圧縮機は一般的に、後続工程に必要なガスより多くのガスを圧縮するほど圧縮性能が高い。過剰に圧縮されたガスは、圧縮機の操作(Umgang)によって圧縮機の圧力側から吸引側に返送される(そして再度圧縮機に供給される)。圧縮機を硫黄堆積物が塞いでいる場合、圧縮性能は圧縮機中の硫黄堆積物の量により低下する。これはつまり、より少ないガスが操作により圧縮機に戻されるということである。硫黄堆積物のせいで操作によりガスが返送されないほど圧縮性能が僅かな場合には、圧縮機を洗浄しなければならない。
【0021】
圧縮機の稼働条件
圧縮機への導入圧力は一般的に、700mbar〜3000mbar(絶対圧)、好ましくは1000〜2000mbar(絶対圧)、特に好ましくは1100〜1500mbar(絶対圧)である。圧縮機からの排出圧力は一般的に1000〜7000mbar(絶対圧)、好ましくは1500〜4000mbar(絶対圧)、特に好ましくは2000〜3200mbar(絶対圧)、極めて特に好ましくは2200〜2800mbar(絶対圧)であり、ここで導入圧力は排出圧力よりも低い。よって本発明による方法で使用される圧縮機における圧力条件は基本的に、通常約80barの圧力が存在する穴(Bohrloch)での圧力条件とは異なる。
【0022】
圧縮機への導入温度は一般的に10〜70℃、好ましくは15〜50℃、特に好ましくは20〜30℃である。圧縮機からの排出温度は一般的に、15〜200℃、好ましくは20〜100℃、特に好ましくは25〜50℃、極めて特に好ましくは30〜40℃である。一般的に導入温度は、排出温度よりも低い。
【0023】
硫化水素含有ガス流
圧縮機を通じて導入される硫化水素含有ガス流は、当業者に公知の任意の方法により製造可能である。ガス流は酸ガス洗浄若しくは精油工程に由来するか、又は元素の硫黄及び水素から得ることができる。硫化水素含有ガス流は好ましくは、元素の硫黄及び水素から、触媒の存在下、又は触媒によらずに製造する。硫化水素含有ガス流の適切な製造方法は、当業者に公知である。
【0024】
硫化水素含有ガス流の製造は例えば、従来技術に従って、GirdlerによるH2S法により行う(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry、第6版、2003、第17巻、291頁)。ここで硫化水素は非触媒的に元素の硫黄及び水素から、構造物と、基本的に水平に配置された、拡大された塔底とを有する塔で製造される。沸騰している硫黄で満たされた塔底には水素を導通させ、この水素は上昇する気相へとストリッピングする。水素、及び上昇する硫黄は塔のガス空間で反応し、ここでこの際に放出される反応熱は、液体硫黄による洗浄によって生成ガスから奪われる。このために塔の塔底から液体硫黄を取り去り、新鮮な常温の硫黄と混合し、そして塔の塔頂で入れる。充分に硫化水素を含有する生成ガスは、2つの熱交換器で冷却される。
【0025】
触媒による硫化水素の製造は例えば、Angew. Chem., 74、1962年; No. 4; 151頁に記載されている。ここで水素は、外側から温度調節された硫黄浴を通じて導入される。硫黄蒸気が負荷された水素は、触媒空間で穿孔を通じて入る。反応しきっていない硫黄は触媒空間を出た後、硫化水素排出管の上部で濃縮され、返送管を介して硫黄浴に戻る。触媒空間は、硫化水素排出管の周りに同心円状に配置されている。
【0026】
元素の硫黄と水素から触媒により硫化水素を製造するためのさらなる例は、DE 1 113 446及びUS 2,863,725に記載されている。
【0027】
DE 1 113 446には触媒的な硫化水素の製造方法が記載されており、ここではコバルト及びモリブデン塩を用いて、触媒含有担体上で500℃未満の温度、好ましくは300〜400℃の温度で水素と硫黄の化学量論混合物を反応させる。ここで触媒は、水素と硫黄の混合物を貫流させる管内に配置されている。
【0028】
US 2,863,725によれば、モリブデン含有触媒を用いて水素及び硫黄から硫化水素が製造され、ここでは気体状の水素を硫黄溶融物を有する反応器に導入し、そして前記水素はこの硫黄溶融物によりガス吹き込みの形で上昇する。
【0029】
硫化水素含有ガス流の製造は通常、0.7〜2barの圧力、好ましくは0.9〜1.5bar、極めて特に好ましくは1bar〜1.4barの圧力(絶対圧)で実施される。
【0030】
製造後に得られる硫化水素含有ガス流の温度は一般的に、10〜60℃、好ましくは15〜50℃、特に好ましくは20〜45℃、極めて特に好ましくは25〜40℃である。
【0031】
水素及び硫黄から硫化水素を合成する場合、得られる硫化水素含有粗製ガス流中には通常、副生成物としてポリスルファン(H2x)が一般的に10〜200質量ppm、好ましくは15〜100質量ppm、特に好ましくは20〜75質量ppm、極めて特に好ましくは25〜50質量ppmの量で存在する。
【0032】
硫化水素含有ガス流圧縮のための本発明による方法の実施前に、ポリスルファンを硫化水素含有ガス流から除去するのが好ましい。これは例えば、上記文献WO 2004/022482、又はDE 102 45 164 A1に記載された方法で行うことができる。多孔質材料(活性炭フィルター又は分子ふるい)による導通によってポリスルファンを減少させることが同様に可能であり、例えばWO 2008/087125に開示されている。
【0033】
好ましい実施態様においてはさらに、熱交換器での昇華によって硫化水素含有ガス流のさらなる予備精製を行う。昇華器を出るガスは好ましくは、分子状の硫黄割合が0.001〜5質量ppm、特に好ましくは0.005〜2質量ppm、極めて特に好ましくは0.01〜1質量ppmである。
【0034】
本発明による方法で圧縮のために使用される硫化水素(硫化水素含有ガス流)の純度は一般的に、90〜99.9体積%、好ましくは95〜99.8体積%、特に好ましくは98〜99.7体積%、及び極めて特に好ましくは99〜99.6体積%である。
【0035】
工程ii)
本発明によれば工程ii)において、ジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含有する混合物で圧縮機の洗浄を行う。
【0036】
硫黄含有材料輸送用の導管内で硫黄堆積物、とりわけ硫黄分が多い天然ガス源から天然ガスを輸送する際の堆積物を溶解させるために、ジアルキルポリスルフィドを溶剤として使用することは、例えばDE 36 10 580 A1から当業者に公知である。ここには液体のジアルキルポリスルフィドによって硫黄を溶解させるための方法が記載されており、ここで溶剤はジメチルポリスルフィド混合物から成り、この混合物はジメチルジスルフィド1〜3質量%、CH3xCH3(ここでxの値は3〜5である)35〜45質量%、残分として均質なポリスルフィド(ここでxの値は6又は6より大きく、とりわけ6〜8である)。付加的に、使用されるジアルキルポリスルフィドは、アミン、アミド、メルカプタン、及び/又はメルカプチドを2〜10質量%含むことができる。DE 36 0 580 A1に開示された溶剤は、硫黄含有材料の輸送用の導管内に現れうる硫黄堆積物の溶解に役立つ。ここでDE 36 10 580 A1に記載の硫黄堆積の問題は、硫黄分の高い天然ガス源の場合に非常に重要であり、この際に著しく硫黄を含有するガスは、配管内壁での硫黄堆積につながる。DE 36 10 580 A1によればジメチルジスルフィド(DMDS)は、硫黄に対してかなりの溶解能力を有する。連続的な精製のためには、使用される溶剤の組成がほぼ一定であることが必要なので、従来技術で通常使用されるジメチルジスルフィドは、精製の間に吸収されるより多くのポリスルフィドの分解によって再生しなければならない。DE 36 10 580 A1によればジメチルジスルフィドに対する代替物として、特定の前記組成を有するジメチルポリスルフィド混合物を、硫黄含有材料輸送用の導管内の硫黄堆積物除去のために使用することができる。
【0037】
しかしながらDE 36 10 580 A1は、硫化水素含有ガスを硫黄分が多い天然ガス源から輸送する導管内で硫黄を溶解させるための方法に関する。その一方で本願発明は、ジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含有する混合物による圧縮機の洗浄を含む、硫化水素含有ガスを圧縮するための方法に関する。DE 36 10 580 A1に記載の導管内にある温度条件と圧力条件、並びに使用される硫化水素含有ガス流は、硫化水素含有ガスを圧縮する際に生じる条件、及びその際に使用される硫化水素含有ガス流とはかなり異なる。さらにまた、硫黄堆積物が観察される装置が異なる。しかしながらDE 36 10 580 A1は配管内の硫黄堆積物の問題に関する一方、本願は圧縮機での硫黄堆積物の問題に関し、この圧縮機には圧縮機の周辺装置、例えば熱交換器も含まれる。圧縮機、とりわけ圧縮機に接続された熱交換器は、狭い溝を有することによって特徴付けられる。当業者であれば溝の洗浄のため、低粘度の洗浄溶液を使用することであろう。
【0038】
従ってジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含有する混合物の性能は、DE 36 10 580 A1の知見からは、とりわけ以下の理由から容易に想到可能なものではない。
【0039】
穴では一般的に圧力が約80barであるのに対して、圧縮機は一般的に700mbar〜3000mbar(絶対圧)の導入圧力、1000〜7000mbar(絶対圧)の排出圧力で稼働される。
【0040】
さらに、穴での構造的な所与条件が異なり、ここでは一般的に直径数cmの導管が対象となるが、これは一般的にmm範囲の狭い溝を有する圧縮機及びその周辺装置の構造的な所与条件とは異なる。
【0041】
この相違点により当業者は、穴の洗浄に適しているDE 36 10 580 A1に記載の高粘性混合物を、圧縮機及びその周辺装置の洗浄に使用しないであろう。と言うのもこの高粘性混合物は、圧縮機内にある圧力条件では圧縮機の狭い溝に到達させることが非常に困難であり、また同様に再度洗い流すことが困難だからである。
【0042】
従って当業者は圧縮機洗浄のためにはむしろ、通常硫黄堆積物の除去のために穴で使用される、より低粘度のジアルキルジスルフィド含有溶液を使用するであろう。このことは例えば文献("Production challenges in developing sour gas reserves", Chemical Engineering World 24(3), 87-93, Hyne. J.B.から明らかであり、ここではジメチルジスルフィドが、酸性ガス孔における適用の際に硫黄のための最良な溶剤として(91頁)説明されている。
【0043】
しかしながら、穴の中で硫黄堆積物を除去するために通常使用されるジアルキルジスルフィドは意外なことに、圧縮機における硫黄堆積物の迅速かつ持続的な除去には適していない。このことは本願の比較例で示されている。意外なことに、本発明により使用されるジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含む混合物によって、高い粘性にも拘わらず、圧縮機における硫黄堆積物の迅速かつ持続的な除去について基本的により良好な結果が得られることが判明した。
【0044】
さらに、DE 36 10 580 A1に記載の配管内とは異なる、本願による圧縮機での様々な圧力条件と温度条件により、各装置内の硫黄堆積物が異なる変性を有しうるという結果が得られた。異なる硫黄変性は、異なる溶解性によって明らかに示される。ロームビッシャー(Rhombischer)硫黄S8は例えば、いわゆるμ硫黄よりも基本的に高い反応性と溶解性を有する。常温の平面、例えば熱交換器面で素早く冷却することによりμ硫黄が得られることは公知である。硫黄堆積物の種類、ひいては硫黄堆積物の溶解性は、基本的に温度履歴、及び硫黄堆積物を生成する硫化水素含有ガスの由来に依存している。よって硫黄堆積物を熱い穴から除去することは、圧縮機における硫黄堆積物を除去することに容易に転用できない。2つは完全に技術分野が異なる。
【0045】
本発明による方法の工程ii)に記載の圧縮機の洗浄は、連続的、又は非連続的に行うことができる。
【0046】
連続的な洗浄の場合、圧縮機から連続的に、硫黄堆積物が本発明により使用されるジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含む混合物によって取り除かれる。ここで本発明により使用される混合物は、例えば液体リング圧縮機を用いる際にリング液体に添加され、前記液体は圧縮機へと返送される。別の圧縮機を使用して本発明による方法を連続的に実施することは、当業者は自身の知見をもって問題なく可能である。連続的な実施における圧縮機の温度条件及び圧力条件は、圧縮機における前述の圧力条件及び温度条件に相応する。
【0047】
非連続的な洗浄の場合、圧縮機を短時間洗浄作業のために停止し、本発明により使用されるジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含む混合物で処理する。
【0048】
本発明により使用されるジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含有する混合物を用いた圧縮機の非連続的な洗浄は通常、圧縮機が液体状の混合物により貫流される形で行われる。この洗浄工程で温度は一般的に、30〜160℃、好適には40〜140℃、特に好適には60〜120℃、極めて特に好ましくは75〜110℃、及びとりわけ極めて特に好ましくは90〜100℃である。
【0049】
非連続的洗浄の場合、圧縮機は洗浄に使用される混合物で部分的に、又は完全に満たされている。好ましくは、完全な充填を行う。非連続的な洗浄の場合、洗浄時間は5分〜1時間、好ましくは10分〜50分、特に好ましくは20〜40分である。
【0050】
ジアルキルジスルフィド及びジアルキルポリスルフィド
ジアルキルジスルフィド及びジアルキルポリスルフィドの適切なアルキル基は、あらゆるジアルキルジスルフィド若しくはジアルキルポリスルフィドで相互に独立して、通常はC1〜C14アルキル基、好ましくはC1〜C6アルキル基、特に好ましくはC1〜C3アルキル基である。極めて特に好ましくはアルキル基がメチル、エチル、n−プロピル、又はイソプロピルであり、極めて特に好ましくはアルキル基がメチル基である。アルキル基は、ジアルキルポリスルフィド若しくはジアルキルジスルフィド中でそれぞれ、同じであっても異なっていてもよい。同じであるのが好ましい。特に好ましくは、本発明による方法で使用されるジアルキルポリスルフィドがジメチルポリスルフィドであり、かつジアルキルジスルフィドがジメチルジスルフィドである。
【0051】
適切なジアルキルポリスルフィドは、一般式R−Sx−R’を有し、この式中、R及びR’は前述のアルキル基である。xはジアルキルポリスルフィド中で、3〜12、好ましくは3〜10である。ジアルキルポリスルフィドは通常、様々な鎖長のジアルキルポリスルフィドの混合物の形で存在する。
【0052】
アミン
本発明によれば工程ii)で使用される、少なくとも1つのアミンを含有する混合物は、第一級、第二級、又は第三級の脂肪族又は芳香族アミンであってよい。好ましくは、第一級、第二級、又は第三級の脂肪族アミンを使用する。特に好ましいのは、水に対する溶解性が低い、液体又は固体のアミンである。極めて特に好ましくはアミンは、6〜60個の炭素原子を有する第一級、第二級、又は第三級アミンである。適切なアミンの例は、トリデシルアミン、脂肪アミン、例えばN,N−ジメチルC12〜C14アミン、並びにジシクロヘキシルアミンである。
【0053】
本発明によれば工程ii)で洗浄のために使用される、ジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含有する混合物は、好ましい実施態様において
a)ジアルキルポリスルフィドを10〜98質量%、好ましくは20〜95質量%、特に好ましくは35〜90質量%、
b)ジアルキルジスルフィドを1.9〜80質量%、好ましくは4.8〜72質量%、特に好ましくは9.5〜60質量%、
c)少なくとも1つのアミンを0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜8質量%、特に好ましくは0.5〜5質量%、
含み、
ここでジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンの合計は、100質量%である。
【0054】
好ましいジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及びアミンは、前掲のものである。
【0055】
本発明による方法の工程ii)で圧縮のための洗浄を連続的に、又は非連続的に行うかどうかによって、ジアルキルポリスルフィド含有混合物の好ましく使用される組成は、変わり得る。
【0056】
本発明による方法の工程ii)の好ましい実施態様では、
a)ジアルキルポリスルフィドを50〜98質量%、好ましくは70〜95質量%、特に好ましくは80〜90質量%、
b)ジアルキルジスルフィドを1.9〜40質量%、好ましくは4.8〜22質量%、特に好ましくは9.5〜15質量%、
c)少なくとも1つのアミンを0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜8質量%、特に好ましくは0.5〜5質量%、
ここでジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンの合計は、100質量%である、
含む混合物を使用する。
【0057】
前掲の混合物は特に好ましくは、本発明による方法の工程ii)の非連続的な実施で使用する。
【0058】
本発明による方法の工程ii)のさらなる好ましい実施態様では、
a)ジアルキルポリスルフィドを10〜70質量%、好ましくは20〜60質量%、特に好ましくは35〜50質量%、
b)ジアルキルジスルフィドを29.9質量%〜80質量%、好ましくは38.8〜72質量%、特に好ましくは49.5〜60質量%、
c)少なくとも1つのアミンを0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜8質量%、特に好ましくは0.5〜5質量%、
ここでジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンの合計は、100質量%である、
含む混合物を使用する。
【0059】
前掲の混合物は特に好ましくは、本発明による方法の工程ii)の連続的な実施で使用する。
【0060】
工程ii)で使用される混合物は、さらに別の成分を僅かな量で、例えば僅かな量のアルキルメルカプタン及び硫化水素を含むことができる。好ましい実施態様において混合物は、場合により存在する前掲のアルキルメルカプタン及び硫化水素の他には、別の成分を含まない。とりわけ洗浄のために使用される混合物は、本発明の好ましい実施態様において界面活性剤を含まない。
【0061】
本発明の好ましい実施態様において、圧縮機の洗浄のために工程ii)で使用される混合物は、洗浄という目的のために特別に製造する必要があった混合物ではなく、本発明による方法に従って圧縮された硫化水素含有ガスから出発する硫黄化合物の製造方法で生じる混合物である。このような硫黄化合物は例えば、アルキルメルカプタン、ジアルキルジスルフィド、及びアルカンスルホン酸である。特に好ましくは、洗浄のために本発明による方法の工程ii)で使用される混合物は、ジアルキルジスルフィド合成からのアミン含有粗製排出物であり、これは当業者により公知の方法に従って実施できるのだが、これについては後でより詳しく説明する。
【0062】
硫化水素含有ガス流を圧縮するための本発明による方法は、本発明の1つの実施態様において硫黄化合物の製造、とりわけアルキルメルカプタン、ジアルキルジスルフィド、及びアルカンスルホン酸の群から選択される硫黄化合物の製造と組合わせて使用する。よって本発明のさらなる対象は、硫化水素含有ガス流の反応を含む、アルキルメルカプタン、ジアルキルジスルフィド、及びアルカンスルホン酸の群から選択される硫黄化合物の製造方法であり、ここで硫化水素含有ガス流は、工程i)及びii)を有する硫化水素含有ガス流を圧縮するための本発明による方法に従って圧縮される。
【0063】
アルキルメルカプタンの製造方法
アルキルメルカプタンの製造方法は当業者に公知である。本発明によればアルキルメルカプタンを製造するために圧縮された硫化水素含有ガス流を使用し、ここでアルキルメルカプタン製造のために使用される硫化水素含有ガス流の圧縮は、工程i)及びii)を有する。好ましくはアルキルメルカプタンの製造は、アルカノールと、工程i)及びii)を有する本発明による方法に従って圧縮された硫化水素含有ガス流との反応によって行う。
【0064】
よって本発明のさらなる対象は、以下の工程:
i)硫化水素含有ガス流を圧縮機で圧縮する工程、
ここで圧縮された硫化水素含有ガス流が得られ、
ii)ジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含有する混合物で圧縮機を洗浄する工程、
工程i)で得られる圧縮された硫化水素含有ガス流を、1つ又は複数のアルカノールと反応させる工程
を有するアルキルメルカプタンの製造方法である。
【0065】
工程i)及びii)は、先に述べたものである。
【0066】
工程iii)
ここで工程iii)における反応は、通常の、当業者に公知の方法によって行うことができる。適切な方法は例えば、DE 101 37 773 A1に挙げられている。アルカノールと圧縮された硫化水素含有ガス流との反応は通常、触媒の存在下で行われる。適切な触媒は例えば、US 2,874,129(多孔質担体、例えばAl23又は軽石上のトリウム、ジルコン、チタン、バナジウム、タングステン、モリブデン、又はクロムの金属酸化物)、EP-A 0 749 961(Al23上のアルカリ金属炭酸塩)、EP-A 1 005 906(酸化ジルコンベースの触媒、マグネシウム又はアルカリ土類金属でドープしたもの)、EP-A 0 038 540(アルカリ金属カチオンの量を減らしたゼオライト触媒)、EP-A 0 564 706(非晶質のAl23ゲル製の触媒、若しくはアルミニウム含有材料上に施与されたAl23ゲル製の触媒)、 US 2,822,401(活性化されたAl23)、US 2,820,062(促進剤(Promotor)としてタングステン酸カリウムを1.5〜15質量%有する活性Al23)、DE 196 39 584(促進剤としてタングステン酸セシウムを15〜40質量%有する活性Al23)、及びUS 5,874,630(遷移金属化合物を0〜20質量%、及びアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の重炭酸塩、炭酸塩、酸化物、又は水酸化物を0.1〜10質量%有する、Al23)に開示されている。好ましくはAl23、特に好ましくはγ-Al23をベースとする触媒を使用し、この触媒は促進剤でドープされていてよい。適切な促進剤は、WO3、K2WO4、H2WO4、Cs2WO4、Na2WO4、MoO3、K2MoO4、H2MoO4、Na2MoO4、ホスホタングステン酸塩、ホスホモリブデン酸塩、及びシリコタングステン酸塩から成る群から選択される遷移金属化合物である。促進剤の含分は一般的に、触媒の質量に対して1〜40質量%、好ましくは5〜25質量%である。工程IIIにおけるアルキルメルカプタン合成では特に好ましくは、促進剤としてのK2WO4でドープされているγ-Al23を触媒として使用する。好ましいアルキルメルカプタンは、1〜14個、特に好ましくは1〜6個、極めて特に好ましくは1〜3個の炭素原子を有するアルキル基、すなわちメチル基、エチル基、n−プロピル基、又はイソプロピル基を有する。よってアルカノールROHとしては、アルキルメルカプタンを製造するための方法の工程iii)で相応するアルカノールを使用する。
【0067】
アルキルメルカプタンを製造するための工程iii)は一般的に、気相反応として行われる。ここでアルカノール及び硫化水素含有ガス流は通常、アルカノールも所望のアルキルメルカプタンも蒸気相に存在するのに充分な温度に上げる。この際に温度は、アルキルメルカプタンの分解が始まるほど高い温度には選択しない。本方法は一般的に、工程iii)に従って250〜500℃の温度、好ましくは300〜450℃の温度で行う。圧力は一般的に、絶対圧で1〜25bar、好ましくは1〜10barである。
【0068】
得られるアルキルメルカプタンは直接、さらにジアルキルジスルフィドに変換することができる。さらには、アルキルメルカプタンをアルカンスルホン酸の製造に使用することができる。
【0069】
好ましい実施態様において前述の方法により製造される「粗製メルカプタン流」、すなわち抽出又は蒸留により精製されていないメルカプタン流、反応しきっていない硫化水素、水、及び副成分としてのジアルキルスルフィド、僅かな量のアルコール及びジアルキルエーテルを、ジアルキルジスルフィドの製造にさらに使用できる。
【0070】
ジアルキルジスルフィドの製造
ジアルキルジスルフィドは、硫化水素含有ガス流を圧縮するための工程を有していれば、当業者に公知の任意の方法に従って製造できる。硫化水素含有ガス流の圧縮は、工程i)及びii)を有する本発明による方法に従って行う。
【0071】
好ましい実施態様では、ジアルキルジスルフィドは以下の工程:
a)先に述べたように工程i)、ii)、及びiii)を有する、アルキルメルカプタンの製造工程、
b)工程a)で得られるアルキルメルカプタンを酸化により硫黄と反応させてジアルキルジスルフィドにする工程
を有する方法によって製造する。
【0072】
工程a)
工程a)でのアルキルメルカプタンの製造は、先にアルキルメルカプタンの製造について記載したように行う。
【0073】
工程b)
工程a)及びb)を有する方法によるジアルキルジスルフィドの製造では、工程b)において工程a)で得られるアルキルメルカプタンと、好ましくは有機ジスルフィドに溶解させた硫黄との反応を、アミンによる触媒作用のもとで行う。適切なアミンは、先に本発明による方法の工程ii)で洗浄のために使用する混合物について挙げたアミンである。
【0074】
工程b)は通常、反応塔で行い、ここで生じる低沸点成分は、工程a)に返送する。
【0075】
好ましい実施態様では、前述の方法の工程b)に続いて、排出される水相と硫黄有機相との混合物の相分離を行う。
【0076】
引き続きさらなる好ましい実施態様において、硫黄有機相(この相は場合により低沸点成分、所望の有機ジスルフィド、ポリスルフィド、アミン、及び僅かな量のさらなる副生成物を含む)の後処理を行い、ここで有機ジスルフィドを取り出し、場合により生じる低沸点成分を工程(a)に返送し、生じるポリスルフィド及びアミンを工程(b)に返送し、硫黄及び場合によりアミンを添加し、ここで相分離及び水相排出は、工程(a)又は(b)に続いて行うことができる。
【0077】
溶剤として工程(b)で使用される有機ジスルフィドは、好ましくは製造すべき有機ジスルフィドである。
【0078】
ジアルキルジスルフィド製造のための特に適切な方法は、DE 198 54 427 A1に挙げられており、ここでは工程a)でアルカノールと硫化水素との反応を適切な触媒を用いて、メルカプタン、水、硫化水素、並びに僅少量のさらなる副生成物、例えば有機の硫化物及びエーテルを含有する「粗製メルカプタン流」にし、引き続き工程b)で「粗製メルカプタン流」と、有機ジスルフィドに溶解させた硫黄との反応を、アミンによる触媒作用で行う。本発明によれば工程a)で使用される硫化水素は、工程i)及びii)を有する方法に従って圧縮する。
【0079】
ジアルキルジスルフィドを製造するためのさらなる好ましい方法は、DE 101 16 817 A1に開示されており、ここでは有機ジスルフィドの製造を、温度調節可能な床に設置された塔を用いて、粗製メルカプタン流から事前の蒸留分離無しで行うことが言及されている。硫化水素の圧縮は前述のように、本発明によれば工程i)及びii)を有する方法によって行う。
【0080】
アルカンスルホン酸の製造
本発明のさらなる対象は、アルカンスルホン酸の製造方法に関し、この方法は、同様に本発明による方法で圧縮された硫化水素含有ガス流から出発して行われるものである。
【0081】
圧縮された硫化水素ガス流から出発するアルカンスルホン酸の適切な製造方法は、当業者に公知である。
【0082】
好ましい実施態様では、アルカンスルホン酸は
a)アルカノールと、工程)及びii)を有する本発明による圧縮法で圧縮されたガス流との反応によって、アルキルメルカプタンを製造する工程、
b)工程a)で製造されるメルカプタンを酸化により硫黄と反応させてジアルキルジスルフィドにする工程
c)工程b)で得られたジアルキルジスルフィドを酸化剤により酸化して、アルカンスルホン酸にする工程
を有する方法によって製造する。
【0083】
ここで工程a)及びb)は、ジアルキルジスルフィドの製造について言及した工程a)及びb)に相当する。
【0084】
工程c)での酸化は、様々な酸化剤によって行うことができる。そこで酸化剤としては、過酸化水素、塩素、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシドとヨウ化水素酸とからの混合物、並びに硝酸、又は上記酸化剤の混合物が使用できる。さらには、電気化学的な酸化が可能である。相応するジアルキルジスルフィドの酸化によるアルカンスルホン酸の適切な製造方法は当業者に公知であり、例えばWO 98/34914、US 2,697,722、US 2,727,920、及びWO 00/31027に開示されている。
【0085】
アルキルメルカプタン、ジアルキルジスルフィド、及びアルカンスルホン酸から選択される硫黄化合物を製造するための前述の方法の場合に重要なのは、この方法が硫化水素含有ガスの圧縮工程を有することであり、ここで硫化水素含有ガスの圧縮は、工程i)及びii)を有する本発明による方法に相応して行う。
【0086】
特に好ましい実施態様では、本発明はジアルキルジスルフィドの製造方法、とりわけ上述の工程(a)及び(b)を有するジアルキルジスルフィドの製造方法に関する。
【0087】
本発明によるジアルキルジスルフィドの製造方法において圧縮機は、好ましくはジアルキルジスルフィド、ジアルキルポリスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含有する混合物で洗浄し、ここでこの混合物は、ジアルキルジスルフィド合成からのアミン含有粗製排出物である。ここで粗製排出物の好ましい組成は、それぞれ非連続的な洗浄、若しくは連続的な洗浄のところで先に挙げたものである。洗浄に使用される混合物は、本発明による方法の工程ii)での洗浄後、再度ジアルキルジスルフィドの製造方法に、一般的にはジアルキルジスルフィド純粋蒸留(Reindestillation)の塔底に(好ましくは非連続的な洗浄法において工程ii)で)、又はジアルキルジスルフィド反応塔の塔底に水相の分離後(好ましくは連続的な洗浄法で工程ii)で)、返送することができる。
【0088】
図1は、ジアルキルジスルフィドの製造を示す概略図である。この図において、
2S 硫化水素含有ガス流の供給部
ROH アルカノールの供給
V 圧縮機
A アルキルメルカプタン製造のための反応器
B ジアルキルジスルフィド製造のための反応器、通常はジアルキルジスルフィド反応塔
8 元素の硫黄供給部
NRR’ アミンの供給部
C 相分離器
D ジアルキルジスルフィド蒸留塔、通常はジアルキルジスルフィド純粋蒸留塔
2O 水相の取り出し部
P 生成物取り出し部(純粋なジアルキルジスルフィド)
Pu 蓄積(Aufpegelung)回避のための排出流(パージ)。
【0089】
x若しくはxxという記号は、アミン含有粗製排出物が本発明による圧縮方法の工程ii)における洗浄のために取り出されるのが好ましい箇所である。ここでxで印を付した箇所は、ジアルキルジスルフィドの純粋蒸留の塔底物、つまり、好ましくは非連続的な洗浄に使用される混合物からの取り出し点を表す。そしてxxで印を付した箇所は、水相を分離後、ジアルキルジスルフィドの反応塔の塔底物、つまり、好ましくは連続的な洗浄に使用される混合物からの取り出し点を表す。
【0090】
図1における図解から明らかなように、好ましくは圧縮方法の工程i)での非連続的な洗浄に使用される混合物は、ジアルキルジスルフィド合成の最後の塔Dからの、好ましくはジアルキルジスルフィド純粋蒸留塔からの塔底物に相当する。好ましくは本発明による圧縮法の工程ii)における連続的な洗浄に使用する混合物は好ましくは、相分離器Cでの相分離後の塔Bからの塔底物に相当し、水相は分離され、有機相は洗浄のために使用される。
【0091】
本発明による方法の基本的な利点は、圧縮機の洗浄のために使用される混合物をコストを掛けて製造しなくてよいことであり、それどころか前記混合物がジアルキルジスルフィド合成からのアミン含有粗製排出物に相当することである。このことはとりわけ、圧縮された硫化水素含有ガス流を、ジアルキルジスルフィド製造のために使用する場合に有利である。
【0092】
上述の硫黄化合物製造の際に圧縮機を通じて導入される硫化水素含有ガスは、一般的に、方法の最初で使用される純粋な硫化水素含有ガス流には相当せず、それどころか循環に導入されたガスは通常、硫化水素を60〜90質量%、好ましくは70〜80質量%、ジメチルスルフィドを2〜20質量%、好ましくは5〜15質量%、並びに僅かな量の一酸化炭素、メチルメルカプタン、及びジメチルエーテルを含む。
【0093】
本発明のさらなる対象は、ジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含有する混合物を、硫化水素含有ガス流の圧縮の際に生じる硫黄堆積物の除去に用いる使用に関する。ここでこの硫黄堆積物は一般的に圧縮機内に現れ、ここで圧縮機とは、圧縮機自体、また先に述べたようにその周辺装置とも理解される。使用されるのが好ましい混合物、並びに行うのが好ましい圧縮法は、上記の通りである。
【0094】
次の実施例は本発明を更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明によるジアルキルジスルフィドの製造を示す。
【0096】
実施例
実施例はそれぞれ、リング液体冷却のためのプレート状熱交換器と、周辺装置とを有する液体リング圧縮機を用いて行い、前記圧縮機は、元素からの合成に由来するH2S圧縮工程からの硫黄堆積物を有し、かつメチルメルカプタンの合成法で使用されるものである。硫黄堆積物は、実施例と比較例で同一である。
【0097】
1.比較例、非連続的な洗浄
非連続的な洗浄のために圧縮機と周辺装置を停止し、硫黄のための良好な溶剤として知られているジメチルスルフィドで充填した。圧縮機は90℃の温度で30分の作用時間後、3週間のさらなる稼働の間、付着物はない(frei)。
【0098】
2.本発明による実施例、非連続的な洗浄
実施例1のように、圧縮機とその周辺装置を停止する。しかしながらジメチルジスルフィドの代わりに、ジメチルジスルフィド純粋蒸留の塔底物からのポリスルフィド溶液で圧縮機を充填する。このために圧縮機とその周辺装置を、塔底排出物で充填する。圧縮機とその周辺装置は、90℃の温度で30分の作用時間後、3ヶ月のさらなる稼働の間、付着物はない。洗浄液は、ジメチルジスルフィド純粋蒸留の塔底に返送する。
【0099】
3.本発明による実施例、連続的な洗浄
連続的な洗浄のため、ジメチルジスルフィド純粋蒸留の後の相分離器からの有機相を使用した。このために相分離器から、圧縮された硫化水素100kgにつき有機相を0.5〜10kg、好ましくは1〜5kg取り出し、圧縮機に吸引側若しくはリング液供給部のところで液体リング圧縮機使用の際に供給する。圧縮機により分離された液相は、好ましくはジメチルスルフィド反応塔の塔底に供給する。
【符号の説明】
【0100】
2S 硫化水素含有ガス流の供給部、 ROH アルカノールの供給、 V 圧縮機、 A アルキルメルカプタン製造のための反応器、 B ジアルキルジスルフィド製造のための反応器、 S8 元素の硫黄供給部、 NRR’ アミンの供給部、 C 相分離器、 D ジアルキルジスルフィド蒸留塔、 P 生成物取り出し部(純粋なジアルキルジスルフィド)、 Pu レベル上昇回避のための排出流(パージ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化水素含有ガス流の圧縮方法であって、
(i)硫化水素含有ガス流を、圧縮機で圧縮する工程、
(ii)ジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含む混合物で、圧縮機を洗浄する工程、
を有する、前記方法。
【請求項2】
前記圧縮機が、循環ガス圧縮機、好ましくは液体リング圧縮機、又はスクリュー式圧縮機であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(i)における圧縮を1段階又は2段階で行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(ii)における洗浄を連続的に行うことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(ii)における洗浄を非連続的に行うことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(ii)における圧縮機の洗浄を、30〜160℃の温度で行うことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程(ii)で洗浄のために使用する混合物が、
a)ジアルキルポリスルフィドを10〜98質量%、好ましくは20〜95質量%、特に好ましくは35〜90質量%、
b)ジアルキルジスルフィドを1.9〜80質量%、好ましくは4.8〜72質量%、特に好ましくは9.5〜60質量%、
c)少なくとも1つのアミンを0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜8質量%、特に好ましくは0.5〜5質量%、
ここでジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンの合計は100質量%である、
有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記硫化水素含有ガス流が、元素の硫黄及び水素から硫化水素を製造することにより得られることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
硫化水素含有ガス流の反応を含む、アルキルメルカプタン、ジアルキルジスルフィド、及びアルカンスルホン酸から成る群から選択される硫黄化合物の製造方法であって、前記硫化水素含有ガス流を、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法により圧縮する、前記製造方法。
【請求項10】
アルキルメルカプタンを製造する請求項9に記載の方法において、アルカノールと、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法により圧縮された硫化水素含有ガス流とを反応させる工程を有することを特徴とする、前記製造方法。
【請求項11】
ジアルキルジスルフィドを製造する請求項9に記載の方法において、
a)アルカノールと、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法により圧縮された硫化水素含有ガス流との反応によってアルキルメルカプタンを製造する工程、
b)工程a)で得られるアルキルメルカプタンを、酸化により硫黄と反応させてジアルキルジスルフィドにする工程、
を有することを特徴とする、前記製造方法。
【請求項12】
アルカンスルホン酸を製造する請求項9に記載の方法において、
a)アルカノールと、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法により圧縮された硫化水素含有ガス流との反応によってアルキルメルカプタンを製造する工程、
b)工程a)で製造されるアルキルメルカプタンを、酸化により硫黄と反応させてジアルキルジスルフィドにする工程、
c)工程b)で得られるジアルキルジスルフィドを、酸化剤で酸化させてアルカンスルホン酸にする工程、
を有することを特徴とする、前記製造方法。
【請求項13】
ジアルキルポリスルフィド、ジアルキルジスルフィド、及び少なくとも1つのアミンを含む混合物を、硫化水素含有ガス流の圧縮時に生じる硫黄堆積物の除去に用いる使用。

【図1】
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【公表番号】特表2012−513367(P2012−513367A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542812(P2011−542812)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067739
【国際公開番号】WO2010/072756
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】