説明

硫化水素産生菌抑制剤及び硫化水素産生菌抑制方法

【課題】人や家畜に投与しても安全であるとともに、副作用をともなうことなく、硫化水素産生菌を効果的に抑制できる硫化水素産生菌抑制剤及び硫化水素産生菌抑制方法を提供する。
【解決手段】酪酸菌(Clostridium butyricum)を含有すること、または、酪酸菌(Clostridium butyricum)培養エキスに酪酸菌を加えたことを特徴とする硫化水素産生菌抑制剤。酪酸菌(Clostridium butyricum)、または、酪酸菌(Clostridium butyricum)培養エキスに酪酸菌を加えたものを、硫化水素産生菌が存在する部位へ添加する工程を含むことを特徴とする硫化水素産生菌抑制方法。これによれば、人や家畜に投与しても安全であるとともに、副作用をともなうことなく、硫化水素産生菌を効果的に抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素産生菌を効果的に抑制する硫化水素産生菌抑制剤及び硫化水素産生菌抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化水素は、腐敗した卵に似た特徴的な強い刺激臭があり、目、皮膚、粘膜を刺激する有毒な物質である。このため、悪臭防止法に基づく特定悪臭物質のひとつに指定されていて、問題視されている。硫化水素は、石油化学工業の過程において産生するほか、硫酸還元細菌によって下水処理場、ごみ処理場などでも発生する。このとき、硫酸還元細菌は、水環境中の底泥などのような嫌気的な条件下で、硫酸イオンが還元して、硫化水素を産生する。
【0003】
近年、このような硫酸還元細菌による悪臭や腐食などのトラブルを抑制する方法として、微生物を用いる方法が開発されている。特許文献1では、微生物の培養物を硫化水素が発生する汚泥等に投入して増殖させることにより、硫酸還元細菌による硫化水素の発生を防止することが開示されている。
【0004】
ところで、硫化水素を産生する菌(硫化水素産生菌)は、硫酸還元細菌とアミノ酸発酵細菌からなる。硫酸還元細菌は、上記の下水処理場、ごみ処理場といった産業施設ばかりでなく、人や家畜の腸内にもその存在が確認されている。一方、腸内では、含硫アミノ酸から硫化水素を産生するアミノ酸発酵細菌が存在することが知られている。
【0005】
近年の研究により、硫化水素は、人や家畜に対して毒性が強く、口腔内及び消化管内で発生した硫化水素が消化管粘膜細胞の代謝を阻害するなどして傷害する可能性が示唆されている。近年増加傾向にある難病である炎症性腸疾患の患者は、健康人や炎症性腸疾患以外の腸疾患患者と比較して、ある種の硫化水素産生菌が有意に分離されることが報告されている。また、硫酸還元菌が産生する硫化水素は、潰瘍性大腸炎の一因であることが示唆されている(非特許文献1)。腸管内でこれらの硫化水素産生菌が産生した硫化水素は、腸管のクリプトに存在する細胞のロダナーゼ(rhodanase)により解毒されることが明らかとなっている。そのため、通常の場合にはその有害作用が抑制されていると考えられる。しかし、食生活などの変化により腸管内で過剰に産生された硫化水素は、人の腸管粘膜に障害作用、有害作用を示すと考えられる。また、なんらかの原因で、人の粘膜、粘膜下における硫化水素の解毒作用が低下した個体においては、通常量の硫化水素によっても人に有害作用を示すようになると考えられる。
【0006】
これらのことより、消化管内の環境を良好に保つため又は炎症性粘膜疾患の治療をするため、または、硫化水素産生菌起因の口内炎の粘膜を修復するため、生体内の硫化水素産生菌の硫化水素産生を抑制する方法が望まれている。
【特許文献1】特開2004−344757
【非特許文献1】William et al., Gastroenterology, 104, 802-809 (1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、生体内の硫化水素の産生を抑制することは、消化管内の環境を良好に保つため、又は炎症性粘膜疾患の治療のため、または、硫化水素産生菌起因の口内炎の粘膜を修復するため、有効な手段の一つである。しかし、この抑制のために抗生物質を用いた場合、長期投与時の副作用など安全性や耐性菌の出現の問題がある。また、特許文献1に記載されている硫化水素の発生を抑制する微生物は、有害菌から構成されており、動物体内において用いることはできない。このため、生体内の硫化水素産生菌を安全かつ効果的に抑制できる方法は未だ知られていない。そこで本発明は、人や家畜に投与しても安全であるとともに、副作用をともなうことなく、生体内の硫化水素産生菌を効果的に抑制できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を鑑みて鋭意検討した結果、酪酸菌(Clostridium butyricum)は、腸内細菌の中の種々の硫化水素産生菌を抑制する働きを有することが明らかになった。また、酪酸菌は、すでに整腸剤として人や動物に利用され、永年にわたり、安全に利用されている実績があるプロバイオテイックスの一つであり、本発明の目的にかなう。このことより、酪酸菌を用いて、腸内細菌の中の種々の硫化水素産生菌の硫化水素産生を効率よく抑制するという本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0009】
本発明の請求項1は、酪酸菌(Clostridium butyricum)を含有することを特徴とする硫化水素産生菌抑制剤である。
【0010】
本発明の請求項2は、酪酸菌(Clostridium butyricum)培養エキスに酪酸菌を加えたことを特徴とする硫化水素産生菌抑制剤である。
【0011】
本発明の請求項3は、酪酸菌(Clostridium butyricum)を含有することを特徴とする生体内硫化水素産生菌抑制剤である。
【0012】
本発明の請求項4は、酪酸菌(Clostridium butyricum)培養エキスに酪酸菌を加えたことを特徴とする生体内硫化水素産生菌抑制剤である。
【0013】
本発明の請求項5は、酪酸菌(Clostridium butyricum)を含有することを特徴とする生体内硫化水素産生菌抑制飲料である。
【0014】
本発明の請求項6は、酪酸菌(Clostridium butyricum)培養エキスに酪酸菌を加えたことを特徴とする生体内硫化水素産生菌抑制飲料である。
【0015】
本発明の請求項7は、酪酸菌(Clostridium butyricum)を硫化水素産生菌が存在する部位へ添加する工程を含むことを特徴とする硫化水素産生菌抑制方法である。
【0016】
本発明の請求項8は、酪酸菌(Clostridium butyricum)培養エキスに酪酸菌を加えたものを、硫化水素産生菌が存在する部位へ添加する工程を含むことを特徴とする硫化水素産生菌抑制方法である。
【0017】
本発明の請求項9は、酪酸菌(Clostridium butyricum)を人以外の動物へ投与する工程を含むことを特徴とする生体内硫化水素産生菌抑制方法である。
【0018】
本発明の請求項10は、酪酸菌(Clostridium butyricum)培養エキスに酪酸菌を加えたものを、人以外の動物へ投与する工程を含むことを特徴とする生体内硫化水素産生菌抑制方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、人や家畜に投与しても安全であるとともに、副作用をともなうことなく、硫化水素産生菌を効果的に抑制できる。安全であるという特性より、人を含めた動物に投与することが可能であり、生体内硫化水素産生菌を効果的に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
本発明に用いられる酪酸菌(Clostridium butyricum)(以下、かっこ内は省略する)は、偏性嫌気菌で芽胞を形成するグラム陽性の桿菌である。芽胞の形成により、耐熱性、耐酸性をもち、生菌としての安定性に富んでいる。これらの種に属する菌株としては、一般に市販されているものを容易に入手できる。さらに、これらの種に属する菌株としては、様々な寄託機関や研究機関等で維持されている各種の菌株を使用することもできる。例えば、理化学研究所 微生物系統保存施設(Japan Collection of Microorganisms; JCM)からそれらの菌株を入手することができる。本発明の酪酸菌株としては、例えば、Clostridium butyricum NCIB 7423株、Clostridium butyricum M588株またはATCC 19398T株のような菌株を好適に用いることができる。
【0022】
本発明において酪酸培養液とは、酪酸菌を通常、培養する培地例えば、アミノ酸,バレイショデンプン,水等を含む培地で20〜42℃、20〜72時間培養して得られる培養液のことをいう。
【0023】
また、本発明において培養エキスとは、上記培養液を遠心分離等により固液分離して、得られる液部のことをいう。
【0024】
なお、酪酸菌培養液又は酪酸菌培養エキス中には、代謝産物である酪酸,酢酸,プロピオン酸等の有機酸、アミラーゼ、各種アミノ酸、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、及び自己融解した菌体成分等が含まれている。また、酪酸菌培養液又は酪酸菌培養エキスには有機酸として酪酸や酢酸等を含有しているため、特異臭を有する欠点があるが、この臭いを例えば香料でマスキングしてもよい。香料としては、酪酸菌臭のマスキングに有効なものであれば特に制限されないが、食品添加物として用いられるものが好ましい。
【0025】
本発明に用いられる酪酸菌は、芽胞形成期のものでも栄養体期のものでもよく、特に限定はされない。酪酸菌は、栄養体、芽胞を含む。栄養体を豊富に含有する酪酸菌は、例えばペプトン,イーストエクストラクト,グルコース,水等を含有するPYG培地などで、20〜42℃、20〜72時間培養し、遠心分離等の方法で集菌して得ることができる。また、芽胞の形成に最適な培養液の組成を検討することが主に行われており、そのような最適な炭素源、窒素源等の各種の栄養素を含む液体培地で培養増殖させ芽胞を形成させた後、遠心分離等により芽胞を培養液より分離回収することができる。
【0026】
本発明の硫化水素産生菌は、硫化水素を産生する菌をさす。硫化水素産生菌は、硫酸還元細菌とアミノ酸発酵細菌からなる。硫酸還元細菌が硫酸塩から硫化水素を産生するのに対して、アミノ酸発酵細菌は、含硫アミノ酸から硫化水素を産生する。硫酸還元細菌としては、Desulfovibrio pigerやDesulfovibrio fairfieldensisを中心とするデスルホビブリオ(Desulfovibrio)属が挙げられる。アミノ酸発酵細菌としては、クロストリジウム(Clostridum)属といった嫌気性細菌が挙げられる。後述の実施例で述べるように、本発明者らにより、生体内の硫化水素産生能の高い細菌として、以下の細菌が確認された。
Clostridium sporogenes (図1.)、Clostridium sordellii (図2.)、Clostridium difficile (図3.)、Clostridium perfringens(図4.)、E.coil(図5.)、Bilophila wadsworthia(図6.)、Sutterella wadsworthensis(図7.)、Desulfovibrio desulfuricans 、Desulfovibrio piger(図8.)、Desulfovibrio fairfieldensis、Campylobacter gracilis(図9.)、Campylobacter rectus、Dialister pneumosintes、Fusobacterium varium、Fusobacterium nucleatum、Fusobacterium necrophorum
実施例では、酪酸菌を含んでいる酪酸菌培養エキスがこれらの各硫化水素産生菌に対して抑制作用を有することを示している。
【0027】
本発明の硫化水素産生菌抑制剤は、酪酸菌を含有することを特徴とする。また、本発明の硫化水素産生菌抑制剤は、酪酸菌培養エキスに酪酸菌を加えることを特徴とする。このとき、酪酸菌培養エキスに、酪酸菌が103個/ml以上含まれていることが好ましい。本発明の硫化水素産生菌抑制剤により、硫化水素産生菌を抑制することができる。上記のように、酪酸菌は、すでに整腸剤として人や動物に利用され、永年にわたり、安全に利用されている実績があるプロバイオテイックスの一つである。さらに、本発明者らは、酪酸菌は、同時に硫化水素を産生しない有用菌として知られているビフィドバクテリア(Bifidobacterium)属や食物繊維の利用に関わるバクテロイド(Bacteroides)属の増殖を抑制しないことを明らかにした(図10)。このため、本発明の硫化水素産生菌抑制剤は、生体内硫化水素産生菌にも効果的に適用することができる。本発明の硫化水素産生菌抑制剤の用途は限定されず、下水処理場、ごみ処理場等の硫化水素産生菌を抑制するために用いてもよい。また、特許文献1に記載されている硫化水素の発生を抑制する微生物は、硫化水素産生菌のうち硫酸還元細菌だけに対する抑制作用を有するのに対して、本発明の硫化水素産生菌抑制剤は、硫酸還元細菌とアミノ酸発酵細菌の両方の硫化水素産生菌に対して抑制作用を有する。
【0028】
本発明の硫化水素産生菌抑制剤を製剤するには、目的、投与形態、投与対象、最終形態等に応じて、上記のようにして得られた酪酸菌又は酪酸菌培養エキスに酪酸菌を加えたものに、任意成分としてその他の添加剤を配合し、例えば錠剤,散剤,顆粒剤,カプセル剤,丸剤,トローチ剤,液剤,エキス剤等の任意の形状に調製することができる。これらは当業者の通常の方法に従って調製することができる。例えば、硫化水素産生菌抑制剤が錠剤である場合には、酪酸菌又は酪酸菌培養エキスに酪酸菌を加えたものに所定の配合物をよく混合し、これを打錠機のような圧縮成形手段によって圧縮成形することにより製造することができる。
【0029】
本発明の硫化水素産生菌抑制飲料は、酪酸菌を含有することを特徴とする。また、本発明の硫化水素産生菌飲料は、酪酸菌培養エキスに酪酸菌を加えることを特徴とする。このとき、酪酸菌培養エキスに、酪酸菌が103個/ml以上含まれていることが好ましい。上記の酪酸菌又は酪酸菌培養エキスに酪酸菌を加えたものを飲料に加えて、一般の製造法により、本発明の硫化水素産生菌抑制飲料を加工製造することができる。飲料としては、炭酸飲料、清涼飲料、乳飲料、コーヒー飲料、ミネラルウォーター、アルコール飲料、果汁飲料、茶類,ゼリー、栄養飲料等が挙げられる。また、上記の酪酸菌培養液又は酪酸菌培養エキスを上記飲料以外の飲食物に加え、一般の製造法により、あめ、せんべい、ガム、クッキー、調味料、米穀類、パン、麺類等の飲食物を加工製造することができる。本発明の硫化水素産生菌抑制飲料は、生体内硫化水素産生菌にも適用できる。
【0030】
本発明の硫化水素産生菌抑制方法は、酪酸菌を硫化水素産生菌が存在する部位へ添加する工程を含むことを特徴とする。また、本発明の硫化水素産生菌抑制方法は、酪酸菌培養エキスに酪酸菌を加えたものを、硫化水素産生菌が存在する部位へ添加する工程を含むことを特徴とする。このとき、酪酸菌培養エキスに、酪酸菌が103個/ml以上含まれていることが好ましい。各種工場廃水処理あるいは公共汚水処理等の硫化水素の発生が問題となる環境や施設において、酪酸菌又は酪酸菌培養エキスに酪酸菌を加えたものを硫化水素産生菌が存在する部位へ添加することにより、硫化水素が発生するのを抑制することができる。
【0031】
本発明の生体内硫化水素産生菌抑制方法は、酪酸菌を人以外の動物へ投与する工程を含むことを特徴とする。また、本発明の生体内硫化水素産生菌抑制方法は、酪酸菌培養エキスに酪酸菌を加えたものを、人以外の動物へ投与する工程を含むことを特徴とする。このとき、酪酸菌培養エキスに、酪酸菌が103個/ml以上含まれていることが好ましい。本発明の酪酸菌又は酪酸菌培養エキスに酪酸菌を加えたものを配合飼料と配合することにより、食餌として人以外の動物に投与できる。また、上記のように、硫化水素産生菌抑制剤又は硫化水素産生菌抑制飲料として加工したものを人以外の動物に投与してもよい。以上のように硫化水素産生菌抑制剤の投与方法としては、経口投与が例示されるが、他にも肛門注入等が挙げられ、その投与方法は特に限定されない。
【0032】
以下、具体的な実施例について説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
[培地]
培地として、以下の培地1又は培地2を用いた。
【0034】
1.培地1:Watanabe's SRB培地
15gの混合ペプトン、7.5gのダイズペプトン、7.5gの酵母エキス、7.5gの肉エキス、1.0gのクエン酸鉄アンモニウム、0.75gのLーシステイン塩酸塩、5〜10gのデキストラン硫酸ナトリウム、30gの寒天及び1Lの蒸留水、pH7.6からなる培地。硫酸還元細菌はこの培地で硫化鉄を形成し、黒色集落を形成する。
【0035】
2.培地2:クロストリジア寒天(日水製薬株式会社)
15gの混合ペプトン、7.5gのダイズペプトン、7.5gの酵母エキス、7.5gの肉エキス、1.0gのクエン酸鉄アンモニウム、1.0gのメタ重亜硫酸ナトリウム、0.75gのLーシステイン塩酸塩、30gの寒天、及び1Lの蒸留水、pH7.6からなる培地。アミノ酸発酵菌と硫酸還元細菌が、この培地で硫化鉄を形成し、黒色集落を形成する。
【0036】
[実験方法]
嫌気培養は、嫌気性グローブボックス法で行った。嫌気性グローブボックス法は、高圧滅菌した培地を冷却後、すぐ嫌気性グローブボックスの中に入れて、その後のすべての作業をその中で行う方法である。以下、硫化水素産生菌による硫化水素が抑制されるかどうかについて硫化水素産生抑制試験を実施した。以下、硫化水素産生抑制試験の方法について述べる。この方法は、硫化水素産生菌が抑制されたとき、硫化水素の発生が抑えられ、硫化水素による上記培地の黒色の呈色が失われることを利用している。
1)適当な嫌気性菌用寒天培地(ブルセラHK血液寒天培地)に試験菌の純培養菌を得る。試験菌としては、以下に示す硫化水素産生菌を用いた。
Clostridium sporogenes (図1.)、Clostridium sordellii (図2.)、Clostridium difficile (図3.)、Clostridium perfringens(図4.)、E.coil(図5.)、Bilophila wadsworthia(図6.)、Sutterella wadsworthensis(図7.)、Desulfovibrio piger(図8.)、Campylobacter gracilis(図9.)
2)培地上の集落を滅菌綿棒でかきとり、滅菌0.05%酵母エキス水溶液2ml中に、マックファーランド#3程度の濁度の菌液を調整する。
3)滅菌した培地2を50℃の温浴中に準備する。
4)培地2の40mlに対し、試験菌液の400μlを加えて、よく混合する。
5)混合後、所定の滅菌ペトリ皿に培地の厚さが5mmとなるように分注し、固化させる。固化後、すみやかに培地の表面に酪酸菌液又はコントロール液(約70μl)などをしみ込ませたペーパーデイスクを置き、水素ガス炭酸ガス窒素ガスの三種混合ガスと触媒で嫌気的にされた嫌気性ワークステーション内(嫌気性環境)に移す。ここでのコントロール液は、酪酸菌培養液と同濃度に調整した酪酸と酢酸等を用いた。
6)36度で1日〜7日培養し、デイスク周囲の阻止円の形成、デイスク周囲の培地黒色化の抑制の有無およびデイスク自体(培地接触面と培地非接触面)の黒色化の有無と程度を観察する。
【0037】
次に、酪酸菌が、硫化水素を産生しない有用菌として知られているBifidobacterium adolescentis(図10)の増殖を抑制しないこと確認試験を実施した。実験方法は、有用菌をBifidobacterium adolescentisとした以外は、上述の硫化水素産生抑制試験と同様である。
【0038】
「実験結果」
図1〜図9に、以下に示す硫化水素産生菌を用いた場合の、硫化水素産生抑制試験結果(48時間後)を示す。
Clostridium sporogenes (図1.)、Clostridium sordellii (図2.)、Clostridium difficile (図3.)、Clostridium perfringens(図4.)、E.coil(図5.)、Bilophila wadsworthia(図6.)、Sutterella wadsworthensis(図7.)、Desulfovibrio piger(図8.)、Campylobacter gracilis(図9.)
硫化水素産生菌を用いた場合を用いた場合でも、ペトリ皿内は黒色となっており硫化水素が発生したことが確認された。また、いずれの硫化水素産生菌を用いた場合を用いた場合も、酪酸菌液をしみ込ませたペーパーデイスクの周囲には白色の阻止円が形成されており、酪酸菌液により、硫化水素産生菌の増殖が抑制された。
【0039】
図10に、有用菌をBifidobacterium adolescentisとした場合の試験結果を示す。酪酸菌が、Bifidobacterium adolescentisの増殖を抑制しないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】硫化水素産生菌Clostridium sporogenesに対する、酪酸菌液の抑制試験結果を示す。
【図2】硫化水素産生菌Clostridium sordelliiに対する、酪酸菌液の抑制試験結果を示す。
【図3】硫化水素産生菌Clostridium difficileに対する、酪酸菌液の抑制試験結果を示す。
【図4】硫化水素産生菌Clostridium perfringensに対する、酪酸菌液の抑制試験結果を示す。
【図5】硫化水素産生菌E.coilに対する、酪酸菌液の抑制試験結果を示す。
【図6】硫化水素産生菌Bilophila wadsworthiaに対する、酪酸菌液の抑制試験結果を示す。
【図7】硫化水素産生菌Sutterella wadsworthensisに対する、酪酸菌液の抑制試験結果を示す。
【図8】硫化水素産生菌Desulfovibrio pigerに対する、酪酸菌液の抑制試験結果を示す。
【図9】硫化水素産生菌Campylobacter gracilisに対する、酪酸菌液の抑制試験結果を示す。
【図10】有用菌Bifidobacterium adolescentisに対する、酪酸菌液の抑制試験結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酪酸菌(Clostridium butyricum)を含有することを特徴とする硫化水素産生菌抑制剤。
【請求項2】
酪酸菌(Clostridium butyricum)培養エキスに酪酸菌を加えたことを特徴とする硫化水素産生菌抑制剤。
【請求項3】
酪酸菌(Clostridium butyricum)を含有することを特徴とする生体内硫化水素産生菌抑制剤。
【請求項4】
酪酸菌(Clostridium butyricum)培養エキスに酪酸菌を加えたことを特徴とする生体内硫化水素産生菌抑制剤。
【請求項5】
酪酸菌(Clostridium butyricum)を含有することを特徴とする生体内硫化水素産生菌抑制飲料。
【請求項6】
酪酸菌(Clostridium butyricum)培養エキスに酪酸菌を加えたことを特徴とする生体内硫化水素産生菌抑制飲料。
【請求項7】
酪酸菌(Clostridium butyricum)を硫化水素産生菌が存在する部位へ添加する工程を含むことを特徴とする硫化水素産生菌抑制方法。
【請求項8】
酪酸菌(Clostridium butyricum)培養エキスに酪酸菌を加えたものを、硫化水素産生菌が存在する部位へ添加する工程を含むことを特徴とする硫化水素産生菌抑制方法。
【請求項9】
酪酸菌(Clostridium butyricum)を人以外の動物へ投与する工程を含むことを特徴とする生体内硫化水素産生菌抑制方法。
【請求項10】
酪酸菌(Clostridium butyricum)培養エキスに酪酸菌を加えたものを、人以外の動物へ投与する工程を含むことを特徴とする生体内硫化水素産生菌抑制方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−189947(P2007−189947A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−11250(P2006−11250)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(599126110)エースバイオプロダクト株式会社 (7)
【Fターム(参考)】