説明

硫化水素発生を抑制できる石膏組成物及び石膏系建材

【課題】安価であり、土壌改質の際に使用する固化材や、建材等の大量に消費される用途においても利用ができ、かつ、廃棄された場合や土壌改質等に使用された場合に、従来のものに比較して硫化水素発生がしにくい仕様のものである実用価値の高い石膏組成物を提供すること、さらに、従来の品質や施工作業性を維持した状態で、さらに上記の優れた特性が付与された石膏系建材を提供すること。
【解決手段】(A)焼石膏100質量部に対して、(B)酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルミニウム化合物が0.8〜20質量部の範囲で添加されてなることを特徴とする硫化水素発生を抑制できる石膏組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素発生を抑制できる石膏組成物及び石膏系建材に関し、さらに詳しくは、石膏の硫黄成分によって硫化水素が発生し難いように構成されている硫化水素発生を抑制できる石膏組成物及び石膏系建材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、不法投棄現場などで石膏が硫黄源となって硫化水素を発生することが問題となっている。その発生のメカニズムも明らかになってきており、下記の条件の全てが揃った場合に硫化水素が発生することがわかってきた。すなわち、この場合に硫化水素が発生する主たる原因は、土壌等の中に生息している硫酸塩還元菌の活動による。そして、硫酸塩還元菌が硫化水素を発生させるには、少なくとも、硫酸イオンが高濃度で存在しており、無酸素状態(嫌気性)で、栄養源となる有機物が高濃度で存在し、さらに水が溜まった状態であり、かつ、硫酸塩還元菌の活動に適した温度(30〜38℃)、pH(3〜9)であるという全ての条件が揃うことが必要である。
【0003】
石膏中の硫黄成分が原因となる硫化水素の発生は、前述のように石膏製品の廃棄物等が不法投棄される等、不適切な処理によるものが大半であるが、このような状況の発生を根絶することは難しいと考えられる。したがって、石膏製品の廃棄物等の不法投棄等がされた場合でも、硫化水素の発生を抑制できることが望まれるが、そのためには、石膏製品そのものが硫化水素を発生しにくい仕様となっていることが要望される。
【0004】
一方、汚泥や泥土の改質を中性で行う一つの方法として、石膏系の固化材を利用することが行われている。さらに、建材のリサイクルを推進するために、石膏系の固化材の原料として、建築廃材である廃石膏ボードから分離・回収されるリサイクル石膏、あるいは石膏故型(ふるがた)に由来するリサイクル石膏等(以後「廃石膏」と略す)を利用することも検討されている。しかし、廃石膏には、一部有機物の混入も予想されるため、この場合は、石膏中の硫黄成分が硫化水素の硫黄の供給源となるという問題に加えて、僅かではあるが硫酸塩還元菌の栄養源が増加して硫化水素発生の可能性が高まる点も考慮しなければならない。出願人の一はこれまでに、石膏を主材とする土壌処理剤において、アントラキノン化合物を添加することで、石膏中の硫黄成分に起因する硫化水素の発生を抑制することを提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−177992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アントラキノン化合物は高価であり製品の価格上昇を招来するため、例えば、土壌改質の際に使用する固化材等、石膏組成物を大量に使用する用途にあっては経済的な問題があり、利用が拡大できないという実用上の課題があった。また、石膏系建材の原料として利用できる石膏組成物とするためには、石膏ボード製品や、石膏プラスターや、石膏ボード用目地処理材等の製品とした場合に、その品質や施工作業性において従来品と何ら遜色のないものであることを要し、その観点から原料選択しなければならないという制約がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、安価であり、土壌改質の際に使用する固化材等の大量に消費される用途においても利用ができ、かつ、廃棄された場合や土壌改質等に使用された場合に、従来のものに比較して硫化水素発生がしにくい仕様のものである実用価値の高い石膏組成物(すなわち、硫化水素発生を抑制できる石膏組成物)を提供することにある。さらに、本発明の別の目的は、従来品に、さらに上記の優れた特性が付与された石膏系建材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、(A)焼石膏100質量部に対して、(B)酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルミニウム化合物が0.8〜20質量部の範囲で添加されてなることを特徴とする硫化水素発生を抑制できる石膏組成物である。
【0009】
また、本発明の好ましい形態としては、さらに、(C)カルシウム又はマグネシウム成分を含む中和剤が添加混合されてなる前記の石膏組成物が挙げられる。
【0010】
また、本発明の好ましい形態としては、前記(B)のアルミニウム化合物がアルミニウム硫酸塩水和物[Al2(SO4)3・nH2O]であり、かつ、(C)中和剤が水酸化カルシウム[Ca(OH)2]であり、該(C)の中和剤が、上記(B)のアルミニウム化合物の0.1〜0.75倍の質量の範囲で添加混合されている上記の石膏組成物が挙げられる。
【0011】
また、本発明の好ましい形態としては、前記焼石膏の一部又は全部が、廃石膏を焼成したものである上記いずれかの石膏組成物が挙げられる。
【0012】
さらに、本発明の別の実施形態としては、上記いずれかの石膏組成物を原料としてなることを特徴とする石膏系建材が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、埋め立てなどに使用される建設残土や汚泥等を固化処理する場合に安価な固化材として利用することができ、かつ、従来のものに比べて、施工後に硫化水素の発生を有効に抑制できる石膏組成物が提供される。また、本発明の好ましい形態によれば、固化処理後の処理物は充分な強度を有し、運搬や埋立て時のハンドリングが容易であり、しかも、確実に環境へ配慮した中性のものにすることができる石膏組成物が提供される。また、本発明の好ましい形態によれば、その原料として廃石膏を焼成したものが利用できるため、建築廃材である廃石膏ボードのリサイクルの問題にも寄与でき、上述の優れた性能と併せて、さらなる環境配慮型の石膏組成物の提供が可能となる。さらに、本発明によれば、従来品と何ら遜色のない品質や施工作業性を有するものでありながら、不法投棄等され、特定の条件下に放置されたとしても、硫化水素発生を有効に抑制できる石膏系建材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明者らは、上記した従来技術の課題を解決し、石膏系建材が不法投棄等されたり、固化材等として大量に使用された場合にも硫化水素の発生を抑制でき、しかも、石膏系建材の原料とした場合に製品の品質や施工性に影響がなく、大量使用が可能となる安価な石膏組成物を提供することを目的として鋭意検討を行った。その結果、石膏にアルミニウムイオンを併存させると硫酸塩還元菌の活動が抑制され、結果として、硫化水素の発生を有効に抑制できることを見出して本発明に至った。より具体的には、酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルミニウム化合物が、焼石膏100質量部に対して、0.8〜20質量部の範囲で添加されてなる石膏組成物は、硫化水素の発生を抑制できる仕様のものとなる。
【0015】
本発明者らは、土壌に、焼石膏、有機酸(乳酸あるいは酢酸)、硫酸塩還元菌としてDesulfovibrio desulfuricans NBRC 13699Tを加えて、嫌気条件下で培養するという過酷な条件下で、種々の化合物を添加して、硫化水素の発生の抑制効果についての確認試験を行った。その結果、上記した培養条件にアルミニウム化合物を加えると、硫化水素の発生に有意な抑制効果があることを解明し、本発明に至った。先に述べたように、アントラキノン化合物を添加してなる石膏組成物に硫化水素発生の抑制効果があることは、従来知られている。しかし、アントラキノン化合物は非常に高価であり、実用化のためには経済性を満足しなければならなかったが、アルミニウム化合物は比較的に安価であり、経済性の問題が解決される。
【0016】
本発明者らは、上記した知見に基づき、さらに詳細な検討を行った結果、アルミニウム化合物の中でも、アルミニウム硫酸塩水和物[Al2(SO4)3・nH2O]を使用した場合に、より顕著な効果が得られることを見出した。さらに、カルシウム又はマグネシウム成分を含む中和剤を添加混合させることが好ましく、特に中和剤として水酸化カルシウム[Ca(OH)2]を添加させることが好ましいことがわかった。このような形態とすれば、石膏組成物からの硫化水素発生が有効に抑制できると同時に、例えば、固化材として大量に使用した場合にも、その処理物は中性となるので環境に与える影響が少ない。
【0017】
本発明者らの検討によれば、本発明の石膏組成物は、焼石膏と、硫酸塩還元菌の活動を抑制する機能を有するアルミニウム化合物とが均一な状態に混合されたものとなる。このため、例えば、本発明の石膏組成物を固化材として使用した場合に、その効果の発現が安定に得られ、固化処理後の土壌からの硫化水素の発生がより効率的に抑制される。
【0018】
以下、本発明の石膏組成物を構成する各資材について説明する。
(焼石膏)
焼石膏は、硫酸カルシウムの1/2水和物[CaSO4・1/2H2O]であり、固化性能を有する。すなわち、半水石膏は、泥土中の水と化学反応し、容易に二水石膏に変化するため、これで処理した泥土等は固化して強度を有するものとなる。焼石膏としては、β型半水石膏、α型半水石膏、III型無水石膏、又はそれらの混合物などが挙げられ、いずれも用いることができる。焼石膏の原料石膏としては、天然物、副生石膏あるいは廃石膏のいずれでもよいが、経済性を考慮すると廃石膏を用いることがより好ましい。
【0019】
(アルミニウム化合物)
本発明の石膏組成物を構成するアルミニウム化合物は、硫酸塩還元菌の活動を抑制でき、これによって硫化水素の発生を抑制させることを可能にする成分である。本発明で使用するアルミニウム化合物は、酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる。本発明者らの検討によれば、これらの中でも特に、アルミニウム硫酸塩水和物[Al2(SO4)3・nH2O(n=6,10,16,18,27)]は、反応性に富み、そのアルミニウムイオンが硫酸塩還元菌の活動をより効率よく抑制できる。その結果、石膏を構成する硫黄成分を一因として生じることのあった硫化水素の発生を、より確実に抑制することができるようになる。
【0020】
本発明の石膏組成物は、焼石膏100質量部に対して、上記に挙げたようなアルミニウム化合物を0.8〜20質量部の範囲で添加してなる。すなわち、焼石膏100質量部に対して、アルミニウム化合物の添加量が0.8質量部よりも少ないものは、硫化水素の発生抑制効果が充分ではなく、一方、20質量部よりも多く混合させたものは、材料コストが高くなって経済的でない。好ましくは、焼石膏100質量部に対して、アルミニウム化合物を3〜20質量部の範囲で添加するとよい。より好ましくは、焼石膏100質量部に対して、アルミニウム化合物を8〜15質量部の範囲で添加するとよい。
【0021】
(カルシウム成分又はマグネシウム成分を含む中和剤)
本発明の石膏組成物は、必要に応じてカルシウム成分又はマグネシウム成分を含む中和剤を含有してなるが、特に水酸化カルシウムが好適である。その他、酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムなども使用できる。かかる成分は、焼石膏とアルミニウム化合物との組成物のpHを中性域に調整する。本発明に好適な水酸化カルシウム[Ca(OH)2]は、酸化カルシウムを加水して得られる。酸化カルシウムの原料となる炭酸カルシウムは、重質炭酸カルシウムでも軽質炭酸カルシウムでもよく、種類は問わない。中和剤の添加量は、処理後の処理物が、中性になる範囲であればよく、具体的には、本発明の石膏組成物のpHが5.8〜8.6になる範囲であればよい。中和剤として、例えば、水酸化カルシウムを用いる場合には、前記したアルミニウム化合物の0.1〜0.75倍の質量となる範囲で添加混合させることが好ましい。
【実施例】
【0022】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお、以下の記載で「部」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0023】
[実施例及び比較例]
焼石膏とアルミニウム化合物と、中和剤として水酸化カルシウムを用いて、表1に示した配合の実施例及び比較例の石膏組成物を作製した。焼石膏には、廃石膏を粉砕して焼成して得られたものを使用した。アルミニウム化合物としては、アルミニウム硫酸塩水和物[Al2(SO4)3・16H2O]を用いた。
【0024】

【0025】
<評価>
表1に示した配合からなる実施例及び比較例の各石膏組成物1kgに、酢酸を0.02mLと、硫酸塩還元菌としてDesulfovibrio desulfuricans NBRC 13699T(4×106cells/mL)を4mL加えて、それぞれを嫌気条件下で培養した。なお、この条件は、硫化水素を発生させるために行ったかなり過酷なものであり、決して、土壌改質現場や不法投棄等の現場の状態を再現したものではない。上記の状態で1ヶ月養生した後における硫化水素の発生量と、硫酸塩還元菌の菌体数を測定した。そして、得られた結果を表2に示した。
【0026】

【0027】
表2に示した通り、実施例の石膏組成物を用いた場合はいずれも、比較例の場合に比べて明確に硫化水素の発生が抑制されていることが確認された。さらに、硫酸塩還元菌の菌体数の測定結果から、実施例の石膏組成物を用いた場合はいずれも、比較例の場合に比べて明確に硫酸塩還元菌の活動が抑制されていることが確認された。また、実施例の石膏組成物を含水比率40%の泥土1m3のそれぞれに対して、100kg添加後、十分に混練して固化処理を行った。その結果、処理物はいずれも固化されており、ハンドリングに耐え得る十分な強度を有するものであり、さらに、そのいずれもが、環境への影響のない中性と判断される範囲であることを確認した。
【0028】
また一方、実施例の石膏組成物を用いて、板状に成型した、例えばJIS A6901石膏ボード製品や、粉粒状で水と反応して硬化するJIS A6904せっこうプラスター、JISA6914石膏ボード用目地処理材等、の石膏系建材を製造することが可能で、これら石膏系建材の製造ラインで問題を引き起こすことがないことを確認した。そして、原料となる石膏組成物によって、これらの石膏系建材そのものの性能や施工作業性に何らの悪影響を及ぼさないことも確認した。さらに、実施例の石膏組成物を原料として製造された石膏ボードや石膏プラスターを試料として、先に述べたと同様の過酷な条件による試験を実施したところ、従来のものと比較して硫化水素の発生の抑制が明確に認められた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の活用例としては、廃石膏を原料としているにもかかわらず、汚泥や泥土の固化材として使用した場合に、硫化水素の発生を格段に抑制することができる石膏組成物が挙げられる。本発明の活用例としては、不法投棄等された場合にも硫化水素の発生を格段に抑制することができる各種石膏系建材の原料として有用な石膏組成物が挙げられる。本発明の活用例としては、廃石膏の有効利用を可能とする石膏組成物が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)焼石膏100質量部に対して、(B)酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルミニウム化合物が0.8〜20質量部の範囲で添加されてなることを特徴とする硫化水素発生を抑制できる石膏組成物。
【請求項2】
さらに、(C)カルシウム又はマグネシウム成分を含む中和剤が添加混合されてなる請求項1に記載の石膏組成物。
【請求項3】
前記(B)のアルミニウム化合物がアルミニウム硫酸塩水和物[Al2(SO4)3・nH2O]であり、かつ、(C)中和剤が水酸化カルシウム[Ca(OH)2]であり、該(C)の中和剤が、上記(B)のアルミニウム化合物の0.1〜0.75倍の質量の範囲で添加混合されている請求項1又は2に記載の石膏組成物。
【請求項4】
前記焼石膏の一部又は全部が、廃石膏を焼成したものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の石膏組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の石膏組成物を原料としてなることを特徴とする石膏系建材。

【公開番号】特開2010−208870(P2010−208870A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53660(P2009−53660)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000160359)吉野石膏株式会社 (48)
【Fターム(参考)】