説明

硫化精鉱の乾燥方法

【課題】 非鉄製錬の原料である硫化精鉱の乾燥工程において、排ガス中の硫黄酸化物濃度を低減させることができる乾燥方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 原料乾燥炉に装入する硫化精鉱の一部として、ゼオライト構造を有する粘土成分を含む硫化精鉱を添加混合することにより、発生する硫黄酸化物ガスを吸着させる。ゼオライト構造を有する粘土成分の添加混合割合は、原料乾燥炉に装入する硫化精鉱原料の0.1〜0.8重量%の範囲が好ましい。ゼオライト構造を有する粘土成分中に硫黄酸化物ガスを吸着した乾燥後の硫化精鉱は、そのまま熔錬工程に供給することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に原料乾燥工程、熔錬工程、電解工程を経て目的金属を生産する非鉄製錬において、その原料乾燥工程から排出される排ガス中の有害成分を低減させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄製錬に用いる硫化精鉱は天然に産出される銅鉱石を原料としているため、産出地によって銅品位並びに硫黄品位、その他の不純物品位など組成に差がある。そのため、一般に産出地の異なる複数の硫化精鉱を混合して使用するが、その場合は熔錬工程における製錬反応を一定の範囲内に保持できるように、硫化精鉱原料全体の組成が略一定となるように混合して使用されている。
【0003】
また、硫化精鉱には7〜10重量%程度の水分が含有されているため、そのまま熔錬工程で高温の炉に装入すると、水蒸気爆発などが発生する危険がある。このような危険を回避するため、熔錬工程に先立って原料乾燥工程を設け、例えば自熔炉に装入する硫化精鉱を乾燥することにより、含有される水分を0.3重量%程度にまで減少させている。
【0004】
上記原料乾燥工程においては、例えばロータリードライヤーのような原料乾燥炉に硫化精鉱を装入して加熱乾燥する。この加熱乾燥の際に、硫化精鉱中に含有される硫黄分の一部が酸化されて硫黄酸化物(SOx)が発生するため、原料乾燥工程からの排ガスは百数十ppm程度の希薄な硫黄酸化物ガスとなる。
【0005】
この硫黄酸化物を含む排ガスは有毒であるため、そのまま排出せずに処理する必要がある。例えば、この硫黄酸化物を含む排ガスを硫酸製造工程に原料ガスとして供給することも考えられるが、硫黄酸化物濃度が百数十ppm程度と希薄であるため硫酸として回収することは困難である。
【0006】
そこで、上記硫黄酸化物を含む排ガスの処理方法として、排ガス中の硫黄酸化物をアルカリ反応剤によって捕集することが一般に行われている。しかしながら、操業資材として苛性ソーダや消石灰などのアルカリ反応剤が必要であり、その使用量が増えるほどランニングコストの上昇を招くという問題があった。また、アルカリ反応剤の使用が設備の腐食を進行させるなどの問題もあった。
【0007】
一方、排ガス中の硫黄酸化物を除去する技術として、例えば、特開昭63−072322号公報(特許文献1)には活性化ゼオライトと排ガスを接触させる方法が、また特開平10−052624号公報(特許文献2)にはスラリー状にしたゼオライトを排ガスと接触させる方法が開示されている。
【0008】
しかし、上記いずれの方法においても、硫黄酸化物ガスを吸着させた後のゼオライトについては、廃棄物として廃棄処理するか、あるいは再生処理するなどの後処理が必要となる。従って、後処理に要する時間や経費などがかさみ、コストの上昇が避けられないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63−072322号公報
【特許文献2】特開平10−052624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑み、非鉄製錬の原料である硫化精鉱の乾燥工程において、発生する排ガス中の硫黄酸化物濃度を低減させることができ、従って排ガス中に残留する硫黄酸化物を捕集するためのアルカリ反応剤の使用量を削減でき、しかも特別な後処理を必要としない硫化精鉱の乾燥方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明者らは、硫化精鉱の銘柄や混合比率について検討を重ね、使用銘柄によって硫化精鉱の乾燥工程で発生する排ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度が変動する現象が認められることに着目し、特定の粘土成分を含む硫化精鉱を混合すると排ガス中の硫黄酸化物の濃度が低減することを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0012】
即ち、本発明が提供する硫化精鉱の乾燥方法は、非鉄製錬における硫化精鉱の乾燥工程において、原料乾燥炉に装入する硫化精鉱の一部としてゼオライト構造を有する粘土成分を含む硫化精鉱を添加混合して、発生する硫黄酸化物ガスをゼオライト構造を有する粘土成分に吸着させることを特徴とする。
【0013】
上記本発明の硫化精鉱の乾燥方法においては、前記硫化精鉱を予めゼオライト構造を有する粘土成分を含む硫化精鉱と該成分を含まない硫化精鉱とに区分し、ゼオライト構造を有する粘土成分が原料乾燥炉に装入する硫化精鉱原料の0.1〜0.8重量%となるように、ゼオライト構造を有する粘土成分を含む硫化精鉱を添加混合することが好ましい。
【0014】
また、上記本発明の硫化精鉱の乾燥方法においては、乾燥され且つゼオライト構造を有する粘土成分中に硫黄酸化物ガスを吸着した硫化精鉱は、そのまま硫化精鉱原料中に混合された状態で熔錬工程に供給されることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、非鉄製錬における硫化精鉱の乾燥工程で発生する排ガス中の硫黄酸化物濃度を大幅に低減させることができ、従って排ガス中の硫黄酸化物を捕集するアルカリ反応剤の使用量を大幅に削減することができる。しかも、本発明方法により乾燥され且つゼオライト構造を有する粘土成分中に硫黄酸化物ガスを吸着した硫化精鉱は、そのまま他の原料と共に熔錬工程に供給して処理できるので、特別な後処理を行う必要がなくなり、極めて高効率で且つ低コストにて硫化精鉱を乾燥することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】硫化精鉱の乾燥工程の実操業において、ゼオライト構造を有する粘土成分を含む銘柄の硫化精鉱を添加混合したとき、排ガス中に含まれる硫黄酸化物SOxの濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
非鉄製錬における硫化銅精鉱などの硫化精鉱の乾燥工程では、次工程の熔錬工程における反応状況を一定に保つため、銘柄毎に異なる硫化精鉱の銅品位や硫黄品位、その他の不純物品位を勘案し、複数銘柄の硫化精鉱を適切な混合比率で混合して原料乾燥炉に装入する。その際、本発明方法では、原料乾燥炉に装入する硫化精鉱の一部として、ゼオライト構造を有する粘土成分を含む硫化精鉱を添加混合する。尚、硫化精鉱中の粘土成分がゼオライト構造を有するか否かについては、X線回折の測定結果から容易に確認することができる。
【0018】
硫化精鉱中に含まれる粘土成分はSiOを主成分とし、ゼオライト構造を有している場合がある。ゼオライト構造を有する粘土成分は微細孔を有する多孔質であって、その微細孔内に様々な物質を吸着することができる。そのため、乾燥工程で硫化精鉱から発生する希薄な硫黄酸化物ガスは、ゼオライト構造を有する粘土成分に吸着されて排ガスから除去される。その結果、原料乾燥炉の排ガス中に含まれる硫黄酸化物の濃度を大幅に低減させることができる。
【0019】
しかも、上記乾燥工程を終えた硫化精鉱(以下、乾鉱という)は、そのまま熔錬工程に供給することができる。熔錬工程における製錬反応では、乾鉱中の硫黄分のほとんどが酸化され、排出される濃厚な硫黄酸化物ガスは硫酸製造工程の原料となる。一方、乾鉱中の粘土成分はスラグとして分離され、通常のスラグ処理工程に供給される。従って、上記乾燥工程の後、粘土成分に硫黄酸化物ガスを吸着させた乾鉱は、通常の製錬工程に従って処理でき、廃棄処理や再生処理などの新たな後処理を必要としないので、コスト的にも極めて有利である。
【0020】
本発明方法を更に具体的に説明する。まず、硫化精鉱の銘柄毎にX線回折測定を実施し、硫化精鉱中にゼオライト構造を有する粘土成分を含むか否かを判定する。このX線回折の測定結果に基づいて、ゼオライト構造を有する粘土成分を含む硫化精鉱と、ゼオライト構造を有する粘土成分を含まない通常の硫化精鉱とに区分する。一般にゼオライト構造を有する粘土成分を含む硫化精鉱の銘柄は極めて少なく、大部分の銘柄はゼオライト構造を有する粘土成分を含まない。
【0021】
上記のごとく区分した硫化精鉱の複数の銘柄から、ゼオライト構造を有する粘土成分を含まない1種又は2種以上の銘柄とゼオライト構造を有する粘土成分を含む特定の銘柄とを選び、原料の大部分を占める通常のゼオライト構造を有する粘土成分を含まない硫化精鉱に対してゼオライト構造を有する粘土成分を含む硫化精鉱を添加混合した後、混合した硫化精鉱を原料乾燥炉に装入する。
【0022】
ゼオライト構造を有する粘土成分を含む硫化精鉱の添加量は、ゼオライト構造を有する粘土成分が原料乾燥炉に装入する硫化精鉱原料全体の0.1〜0.8重量%となるように調整することが好ましい。ゼオライト構造を有する粘土成分が0.1重量%未満では硫黄酸化物ガスの吸着量が不十分であり、逆に0.8重量%より多くなっても吸着量に大きな変化はないからである。
【0023】
ただし、ゼオライト構造を有する粘土成分が0.3重量%以上になれば、硫黄酸化物ガスの吸着量を従来に比較してほぼ半減することができるので、ゼオライト構造を有する粘土成分の添加量は硫化精鉱原料全体の0.3〜0.8重量%の範囲が更に好ましい。
【0024】
ゼオライト構造を有する粘土成分を含む硫化精鉱が不足する場合には、ゼオライト構造を持つ粘土鉱物、あるいはゼオライト構造を持つ粘土鉱物を含有する無機物質を、不足分に相当する量だけ追加して添加混合しても良い。このような粘土鉱物又は無機物質は、排ガス中の硫黄酸化物ガスを吸着すると共に、原料乾燥工程後は乾鉱と共にそのまま熔錬工程に供給でき、最終的に製錬工程で発生する廃棄物として通常の工程に従って処理できる。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
銅製錬の原料として3種類の硫化精鉱を用意し、これら銘柄A〜Cの硫化精鉱についてX線回折分析(粉末回折法)を実施した。その結果、銘柄Aにゼオライト構造を有する粘土成分が含まれていること、他の銘柄B及び銘柄Cにはゼオライト構造を有する粘土成分は含まれていないことを確認した。
【0026】
尚、銘柄Aの硫化精鉱はオクテディ鉱山(パプアニューギニア)産であり、粘土成分の含有量が5〜7重量%、そのうちの約半分がX線回折の結果からゼオライト構造を有する粘土成分であることが分った。また、銘柄Bはチリ産及び銘柄Cは豪州産であり、共にゼオライト構造を有しない粘土成分のみを含んでいる。
【0027】
上記銘柄Aの硫化精鉱を他の銘柄B及び銘柄Cに添加混合し、銘柄Aの添加割合を原料乾燥工程に装入する硫化精鉱の総重量の5重量%とすると共に、実操業に必要な品位となるように他の2銘柄の割合を調整した。混合後の硫化精鉱原料中のゼオライト構造を有する粘土成分量は0.12重量%であり、また混合後の硫化精鉱原料中には8.5重量%の水分が含まれていた。
【0028】
上記により得られた試料1の硫化精鉱原料を原料乾燥炉に装入し、水分が0.3重量%となるように乾燥したところ、排ガス中に含まれる硫黄酸化物(SOx)の濃度は90ppmであった。
【0029】
上記試料1の場合と同様に銘柄Aの硫化精鉱を他の銘柄B及び銘柄Cに添加混合したが、銘柄Aの硫化精鉱の混合割合を変えることにより、試料2〜6の各硫化精鉱原料を調整した。即ち、硫化精鉱原料中のゼオライト構造を有する粘土成分量を、試料2では0.30重量%、試料3では0.45重量%、試料4では0.60重量%、試料5では0.09重量%、及び試料6では0重量%とした。
【0030】
これら試料2〜6の硫化精鉱原料についても、上記と同様に原料乾燥炉に装入して水分が0.3重量%となるように乾燥し、発生する排ガス中に含まれる硫黄酸化物濃度をそれぞれ測定した。得られた結果を、上記試料1の結果と共に下記表1にまとめて示した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から分るように、ゼオライト構造を有する粘土成分量を硫化精鉱原料全体の0.1〜0.8重量の範囲とした本発明方法による試料1〜4では、硫化精鉱原料の乾燥工程で発生する排ガス中の硫黄酸化物濃度を100ppm未満に抑えることができた。特に、ゼオライト構造を有する粘土成分の割合を硫化精鉱原料の0.3重量%以上とした試料3〜4では、排ガス中の硫黄酸化物濃度を60ppm程度にまで抑制することができた。
【0033】
一方、ゼオライト構造を有する粘土成分量が硫化精鉱原料全体の0.1重量%未満である試料5〜6では、排ガス中の硫黄酸化物濃度が100ppmを大幅に超え、140ppm程度であった。この140ppm程度という排ガス中の硫黄酸化物濃度は、従来から一般的に実施されていた硫化精鉱の原料乾燥工程からの排ガスにおける値とほぼ同じ濃度である。
【0034】
従って、本発明方法の硫化精鉱の乾燥方法によれば、原料乾燥工程の排ガス中に残留している硫黄酸化物を更に捕集するためのアルカリ反応剤の使用量を、従来例に相当する試料5〜6の場合に比較して、試料1〜2の場合でおよそ3割程度削減でき、試料3〜4の場合にはおよそ5割程度削減できることが分る。
【0035】
[実施例2]
上記実施例1と同じ3種類の銘柄A〜Cの硫化精鉱を準備し、最初は銘柄Bと銘柄Cの硫化精鉱を実操業に必要な品位となるように混合し、原料乾燥炉に装入して水分が0.3重量%となるまで乾燥する操業を連続して行い、排ガス中に含まれる硫黄酸化物濃度を連続的に測定した。
【0036】
数日後、銘柄Bと銘柄Cの硫化精鉱に、銘柄Aの硫化精鉱を硫化精鉱原料の総重量に対し14重量%(ゼオライト構造を有する粘土成分量で硫化精鉱原料全体の0.4重量%)添加混合し、原料乾燥炉に装入して水分が0.3重量%となるまで乾燥する操業を連続して行い、排ガス中の硫黄酸化物濃度を連続的に測定した。
【0037】
その後、銘柄Bと銘柄Cの硫化精鉱に混合する銘柄Aの硫化精鉱の添加量を硫化精鉱原料の総重量に対し22重量%(ゼオライト構造を有する粘土成分量で硫化精鉱原料全体の0.7重量%)まで増やし、原料乾燥炉に装入して水分が0.3重量%となるまで乾燥する操業を連続して行い、排ガス中の硫黄酸化物濃度を連続的に測定した。
【0038】
上記の実操業について、硫化精鉱原料の乾燥原料乾燥炉から排出される排ガス中の硫黄酸化物濃度の経時変化を図1に示す。ゼオライト構造を有する粘土成分を含む硫化精鉱を硫化精鉱原料の一部として添加混合することによって、実操業においても乾燥工程で発生する排ガス中の硫黄酸化物濃度が百数十ppmから100ppm以下にまで大幅に低下することが分る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非鉄製錬における硫化精鉱の乾燥工程において、原料乾燥炉に装入する硫化精鉱の一部としてゼオライト構造を有する粘土成分を含む硫化精鉱を添加混合し、発生する硫黄酸化物ガスを硫化精鉱中のゼオライト構造を有する粘土成分に吸着させることを特徴とする硫化精鉱の乾燥方法。
【請求項2】
前記硫化精鉱を予めゼオライト構造を有する粘土成分を含む硫化精鉱と該成分を含まない硫化精鉱とに区分し、ゼオライト構造を有する粘土成分が原料乾燥炉に装入する硫化精鉱原料の0.1〜0.8重量%となるように、ゼオライト構造を有する粘土成分を含む硫化精鉱を添加混合することを特徴とする、請求項1に記載の硫化精鉱の乾燥方法。
【請求項3】
乾燥され且つゼオライト構造を有する粘土成分中に硫黄酸化物ガスを吸着した硫化精鉱は、そのまま硫化精鉱原料中に混合された状態で熔錬工程に供給されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の硫化精鉱の乾燥方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−180466(P2010−180466A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27062(P2009−27062)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】