説明

硫黄化合物の分析方法

【課題】試料ガス中に含まれる硫黄化合物の濃度を炎光光度検出器を使用して迅速かつ正確に測定することができる硫黄化合物の分析方法を提供する。
【解決手段】試料ガス中に含まれる硫黄化合物の濃度を、炎光光度検出器を使用して測定する硫黄化合物の分析方法において、前記試料ガスにおける最も成分濃度が高いガスをキャリアガスとして用いる。試料ガスを同伴したキャリアガスは、従来の分離カラムに代えて設置した抵抗管17を通って直接的に炎光光度検出器19に導入する。抵抗管は、計量管前後の配管及び炎光光度検出器の導入配管よりも流路抵抗が大きく設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄化合物の分析方法に関し、詳しくは、試料ガス中に不純物として微量に含まれる硫黄化合物の濃度を炎光光度検出器を使用して測定する硫黄化合物の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス製造分野や半導体製造分野では、多成分混合ガス中に含まれる各種不純物の濃度を短時間かつ高感度に測定する必要性が増している。従来使用されている炎光光度検出器は、硫黄化合物やリン化合物を選択的に検出する検出器であり、硫化水素、メチルメルカプタンなどの悪臭成分の分析、薬品中の微量硫黄分の検出、残留農薬の分析、生化学成分の分析などに、広く利用されている。混合ガス中に不純物として含まれる数ppbレベルの硫黄化合物については、液体窒素による濃縮システムを組み合わせた炎光光度検出器で分析を行っている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−250722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、炎光光度検出器を用いて純ガス中の硫黄不純物をppbレベルで測定する際に、試料ガスとキャリアガスとが異なる場合、キャリアガス由来のピークが出現する。例えば、酸素又はアルゴン中の硫黄不純物を測定するときに、キャリアガスとして窒素を使用すると、クロマトグラフのチャートに酸素やアルゴンのピークが硫黄化合物のピークと重なって現れるため、正確な測定が困難になり、また、両ピークを分離するためにキャリアガスの流速を低くすると、測定に要する時間が長くなるという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、試料ガス中に含まれる硫黄化合物の濃度を炎光光度検出器を使用して迅速かつ正確に測定することができる硫黄化合物の分析方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の硫黄化合物の分析方法は、試料ガス中に含まれる硫黄化合物の濃度を炎光光度検出器を使用して測定する硫黄化合物の分析方法において、前記試料ガスにおける最も成分濃度が高いガスをキャリアガスとして用いることを特徴としている。
【0007】
さらに、本発明の硫黄化合物の分析方法は、前記試料ガスを計量管に導入して計量後、該計量管に前記キャリアガスを導入して計量した試料ガスをキャリアガスに同伴させた状態で、前記計量管前後の配管及び前記炎光光度検出器の導入配管よりも流路抵抗が大きい抵抗管を介して前記炎光光度検出器に導入することを特徴としている。また、前記キャリアガスは、試料ガスの種類及び前記炎光光度検出器の状態に応じて複数種のガスのいずれかを切り替えて導入することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の硫黄化合物の分析方法によれば、試料ガス中の最も成分濃度が高いガス、すなわち、主成分ガスをキャリアガスとして用いるので、主成分ガスとは異なるガスをキャリアガスとして使用したときの問題を解消できるとともに、主成分ガスの影響も排除することができ、従来の分析操作では必須だった分離カラムによる成分分離を必要とせずに炎光光度検出器で硫黄化合物の濃度を測定することができる。成分分離を行わないことから操作時間を大幅に短縮することができるだけでなく、硫黄化合物のピークを高くすることができ、かつ、半値幅を小さくできるので、検出下限の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の硫黄化合物の分析方法を実施可能な分析装置の一例を示す説明図である。
【図2】炎光光度検出器を使用した従来の分析装置の一例を示す説明図である。
【図3】実験例1の結果を示す図である。
【図4】実験例2の結果を示す図である。
【図5】実験例3の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、図1に示すように、本発明の硫黄化合物の分析方法を実施可能な分析装置は、試料ガス導入経路11と、圧力調整器12a,12bをそれぞれ備えた第1キャリアガス導入経路13a及び第2キャリアガス導入経路13bと、装置に導入するキャリアガスを切り替えるキャリアガス切替器14と、試料ガスを計量するための計量管15と、試料ガス及びキャリアガスの流路を切り替えるための六方切替弁16と、抵抗管17を備えた分析経路18と、分析経路18から導入されたガスの分析を行う炎光光度検出器19及び測定手段20と、流量計21を備えた排気経路22とを有している。
【0011】
試料ガス中に含まれる硫黄化合物の濃度を炎光光度検出器を使用して測定する際には、各ガスの圧力や流量をあらかじめ設定された値に調整し、所定の前処理(パージ、温度調整等)を行った状態で、最初に試料ガスの計量を行う。六方切替弁16は、図1において実線で示す経路に切り替えられ、試料ガス導入経路11から分析装置に導入された試料ガスは、六方切替弁16の実線で示す経路を通り、計量管15を通って再び六方切替弁16を通り、流量計21を通って排気経路22から排出される。このとき、キャリアガス切替器14によって選択されたキャリアガスは、第1キャリアガス導入経路13a又は第2キャリアガス導入経路13bから六方切替弁16に入り、分析経路18に流出して抵抗管17を通り、炎光光度検出器19に導入されている。
【0012】
計量管15に十分に試料ガスを流通させて計量管15内を試料ガスに置換した後、六方切替弁16を図1において破線で示す経路に切り替え、計量管15で計量した試料ガスを、キャリアガスに同伴させて炎光光度検出器19に導入する。すなわち、キャリアガス切替器14を通って六方切替弁16に導入されたキャリアガスは、六方切替弁16の破線で示す経路を通り、計量管15を通って試料ガスを同伴し、再び六方切替弁16を通り、分析経路18の抵抗管17を通って炎光光度検出器19に導入される。一方、試料ガス導入経路11から導入された試料ガスは、六方切替弁16の破線で示す経路を通り、流量計21を通って排気経路22から排出される。
【0013】
このとき、試料ガスを同伴するキャリアガスには、試料ガス中の成分のなかで最も成分濃度が高いガス、即ち主成分ガスを使用する。例えば、試料ガスの主成分がアルゴンの場合は、アルゴンをキャリアガスとして使用し、試料ガスの主成分が酸素の場合は、酸素をキャリアガスとして使用する。また、複数種のガスが混合した混合ガスの場合も、該混合ガス中の成分のなかで最も成分濃度が高いガスをキャリアガスとして選択する。
【0014】
抵抗管17は、前記計量管15の前後の配管や前記炎光光度検出器19の導入配管、即ち分析経路18の配管よりも流路抵抗を大きく設定したものであって、例えば、オリフィスのようなものや、適度な長さの細管を用いることができる。計量管15で計量されてキャリアガスに同伴された試料ガスは、流路抵抗が大きな抵抗管17を通ることにより、ガス流れが安定化した状態で炎光光度検出器19に導入される。すなわち、キャリアガスに同伴された試料ガスは、従来のような成分分離を行うことなく、抵抗管17でガス流れを安定化させるだけで計量管15から直接的に炎光光度検出器19に導入される。
【0015】
また、前記キャリアガス切替器14には、例えば、特開2001−4100号公報に記載されているようなマルチポジションバルブを使用することが好ましい。すなわち、マルチポジションバルブは、バルブ内の各切替流路のガスを滞留させずに、僅かな流量で連続して流しておくことができるので、種類が異なる複数のキャリアガスを使用して切替供給する場合に、バルブ周りにキャリアガスが滞留することを防ぐことができ、ガスの滞留による悪影響を回避することができる。さらに、マルチポジションバルブは、10種類以上のキャリアガスを切替供給することも可能であり、各種試料ガスの分析を行う際に、各試料ガスに合わせたキャリアガスを効率よく供給することができる。
【0016】
一方、図2に示す従来の分析装置は、分析経路18に、前記抵抗管ではなく、通過するガス中の成分分離を行う分離カラム(キャピラリーカラム)31が設けられている。また、キャリアガスは、圧力調整器12を備えたキャリアガス導入経路13の1系統のみが設けられている。なお、図2において、前記図1に示した分析装置の構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0017】
分離カラム31は、試料ガス中の各成分を分離するものであって、測定対象となる硫黄化合物と他の成分、特に、硫黄化合物と主成分ガスとを分離するための充填剤を充填した長い流路を有している。一般的に、分離カラム31で成分分離を行う際には、キャリアガスの流速が早いと十分な成分分離を行うことが困難で、成分分離を十分に行うためにはキャリアガスの流速を遅くする必要がある。したがって、測定時間を短くするためにキャリアガスの流速を早くすると成分分離を十分に行えず、成分分離を十分に行うためにキャリアガスの流速を遅くすると測定時間が長くなるという問題がある。
【0018】
実験例1
図2に示した従来の分析装置を用いてアルゴン中に含まれる硫黄化合物(濃度1ppm)を分析する実験を行った。キャリアガスに窒素を使用し、キャリアガスの流速を毎分40mlとした。その結果、図3に示すように、キャリアガスである窒素のピークと硫黄化合物のピークとが重なって正確な分析を行うことができなかった。
【0019】
実験例2
キャリアガスの流速を毎分20mlとした以外は実験例1と同様にした。その結果、図4に示すように、キャリアガスである窒素のピークと硫黄化合物のピークとは分離したが、測定時間が約2倍に延びてしまった。
【0020】
実験例3(本発明の実施例)
図1に示した装置を使用し、キャリアガスにアルゴンを使用して流速を毎分40mlとした。その結果、図5に示すように、硫黄化合物のピークのみを得ることができた。また、測定時間は、実験例2に比べて半分程度に短縮することができた。
【符号の説明】
【0021】
11…試料ガス導入経路、12,12a,12b…圧力調整器、13,13a,13b…キャリアガス導入経路、14…キャリアガス切替器、15…計量管、16…六方切替弁、17…抵抗管、18…分析経路、19…炎光光度検出器、20…測定手段、21…流量計、22…排気経路、31…分離カラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガス中に含まれる硫黄化合物の濃度を、炎光光度検出器を使用して測定する硫黄化合物の分析方法において、前記試料ガスにおける最も成分濃度が高いガスをキャリアガスとして用いる硫黄化合物の分析方法。
【請求項2】
前記試料ガスを計量管に導入して計量後、該計量管に前記キャリアガスを導入して計量した試料ガスをキャリアガスに同伴させた状態で、前記計量管前後の配管及び前記炎光光度検出器の導入配管よりも流路抵抗が大きい抵抗管を介して前記炎光光度検出器に導入する請求項1記載の硫黄化合物の分析方法。
【請求項3】
前記キャリアガスは、試料ガスの種類及び前記炎光光度検出器の状態に応じて複数種のガスのいずれかを切り替えて導入する請求項1又は2記載の硫黄化合物の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−211802(P2012−211802A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77158(P2011−77158)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】