説明

硫黄化合物用吸着剤及びこれを用いた硫黄化合物の吸着方法

【課題】 燃料ガス等に含まれる硫黄化合物を、環境要因による影響を受けることなく優れた脱硫性能を発揮可能な硫黄化合物用吸着剤を提供する。
【解決手段】 硫黄化合物用吸着剤として脂肪酸銀を用いることを特徴とし、特にペレット状に成型し、これを充填して成る脱硫器内に、硫黄化合物を含有する気体を流通させることにより硫黄化合物の吸着を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄化合物用吸着剤及びこれを用いて成る硫黄化合物の吸着方法に関するものであり、より詳細には、燃料電池等の脱硫器に好適に使用できる硫黄化合物用吸着剤及びこれを用いた硫黄化合物の吸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する為、発電効率が高く、且つ環境保全の観点からも有利であることが知られている。この種の燃料電池の負極活物質には水素が利用される。この水素は、通常はメタン、エタン、エチレン、プロパン、ブタン等の低級炭化水素ガス、あるいはこれらを含む天然ガス、都市ガス、LPガス等の燃料ガスから水蒸気改質法により得られている。即ち、かかる燃料ガスは、Ni系、或いはRu系等の触媒の存在下で水蒸気を添加することで、水素を主成分とするガスに改質される。
一方、都市ガスやLPガス等の燃料ガス中には漏洩保安を目的とする付臭剤として、サルファイド類やチオフェン類、あるいはメルカプタン類などの硫黄化合物が含まれている。具体的には、サルファイド類としてジメチルサルファイド(以下DMSと表記)やエチルメチルサルファイドやジエチルサルファイド、チオフェン類としてテトラヒドロチオフェン、メルカプタン類としてターシャリーブチルメルカプタン(以下TBMと表記)やイソプロピルメルカプタンやノルマルプロピルメルカプタンやターシャリーアミルメルカプタンやターシャリーヘプチルメルカプタンやメチルメルカプタンやエチルメルカプタンなどであり、特に汎用に添加される付臭剤はTBM、DMSである。
しかしながら上述の水蒸気改質法で用いられる触媒は、これらの硫黄化合物により被毒し、触媒活性を著しく低下させることが知られている。そのため燃料ガス中のそれらの硫黄化合物は、水蒸気改質反応に付される前に、燃料ガスから予め除去しておく必要がある。
【0003】
かかる硫黄化合物の除去方法として、水添脱硫法や吸着剤による方法が知られている。
水添脱硫法では、ニッケル系触媒(特許文献1)や銅−亜鉛系触媒(特許文献2)、或いはニッケル−亜鉛系触媒(特許文献3)等の触媒の存在下、硫黄化合物を硫化水素に分解させ、分解生成物である硫化水素を酸化亜鉛、酸化鉄等の脱硫剤に吸着させて脱硫する。一方、吸着剤による方法は、活性炭、金属酸化物、あるいはゼオライト等(特許文献4)を主成分とする吸着剤に燃料ガスを通過させることにより、硫黄化合物を吸着させて除去する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−188405号公報
【特許文献2】特開平2−302302号公報
【特許文献3】特開2001−62297号公報
【特許文献4】特開平10−273473号公報
【特許文献5】特許第4026700号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した特許文献1〜3に記載された水添脱硫法は、水素を主成分とする燃料ガスを原燃料ガスに適宜な混合比で混合する必要があり、且つ脱硫は150〜400℃程度の温度条件下で行う必要があり、更には酸化亜鉛や酸化鉄を用いて硫化水素を除去する必要があり、脱硫操作は非常に複雑である。その為、水添脱硫法は確実な方法とされているが、小型装置への適用は困難である。
一方、硫黄化合物を吸着除去する吸着剤による方法は、水素等の添加操作や温度調節を必要とせず、より簡易な脱硫方法であるといえる。しかしながら、従来のゼオライト等を用いた脱硫剤は、水分子等、硫黄化合物以外の物質に対しても吸着作用を示す。燃料ガス中には、その製造過程あるいは供給過程において、微量の水分が含まれる。その為、かかる吸着剤はガス中の水分の影響を受け、硫黄化合物の吸着能力が大幅に低下してしまう問題がある。かかる問題に対して、疎水性の強いY型ゼオライトを銀イオン交換してなる吸着剤が、X型ゼオライト等のより汎用なゼオライトに比して、水分が含まれていても、硫黄化合物を有効に吸着可能であることが開示されている(特許文献5)。
しかしながら、Y型ゼオライトはイオン交換能が低い為、硫黄化合物の吸着に特に有効である銀イオンを、その構造に十分に取り込むことが出来ないという問題がある。さらにY型ゼオライトは他種のゼオライトと比較すれば、疎水性は高いものの、水分子の吸着を十分に抑制できるには至らない。故に硫黄化合物の吸着能力低下の問題を本質的に解決することは困難である。
更に、吸着剤がこれに吸着された硫黄化合物で飽和してしまうとガス中の硫黄化合物を除去することができなくなるので、再生や交換が必要である。即ち、脱硫剤の必要量や交換頻度は、各種環境要因や吸着剤の吸着能力の大小により大きく左右される。従って高効率で吸着容量が大きく、且つ水分等の外部要因により性能低下の生じない、硫黄化合物用吸着剤が求められている。
【0006】
従って本発明の目的は、燃料ガス等に含まれる硫黄化合物を、各種環境要因による影響を受けることなく、且つ高効率に硫黄化合物を吸着除去することを可能にする硫黄化合物用吸着剤を提供することである。
本発明の他の目的は、燃料電池に用いられる燃料ガス中の硫黄化合物を効率よく吸着することができ、燃料電池システムの脱硫器の脱硫材として好適に使用可能な硫黄化合物用吸着剤を提供することである。
本発明の更に他の目的は、燃料電池システムに用いられる燃料ガス中の硫黄化合物を効率よく吸着可能な硫黄化合物の吸着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の現状を鑑み、燃料電池システムの脱硫器の脱硫材として好適に使用可能な材料を模索した結果、脂肪酸の銀塩が水分等の影響を受けることなく、燃料ガス中の硫黄化合物を選択的に高効率に吸着可能であることを見出した。
即ち、本発明によれば、脂肪酸銀から成ることを特徴とする硫黄化合物用吸着剤が提供される。
本発明の硫黄化合物用吸着剤においては、
1.脂肪酸銀が、炭素数8乃至18の脂肪酸銀であること、
2.脂肪酸が、モノカルボン酸であること、
が好適である。
本発明によればまた、上記硫黄化合物用吸着剤から成る脱硫材を充填して成る脱硫器内に、硫黄化合物を含有する気体を流通させることを特徴とする硫黄化合物の吸着方法が提供される。
また本発明の吸着方法においては、脂肪酸銀を造粒或いは粉砕して、ペレット状、顆粒状等に成型して用いることにより、取扱い性に優れ、脱硫器への充填、交換が容易であると共に、少ない圧力損失で硫黄化合物を吸着可能な脱硫剤が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の硫黄化合物用吸着剤は、長期間にわたって有効に硫黄化合物を除去することができる。
特に、燃料電池システムの脱硫器の脱硫材として使用する場合、従来の脱硫剤に比べて優れた脱硫性能を示すことから、脱硫器の小型化や交換頻度の低減が可能となる。
更に水分による影響をほとんど受けない為、燃料ガスに含まれる水分により脱硫性能が低下する問題を有効に防止できる。
更に脂肪酸銀は合成、或いは脱硫材への成形加工が容易である。従って本発明によれば生産性に優れた硫黄化合物用吸着剤を提供できる。
更に高価な貴金属である銀の利用効率が従来の銀イオン交換ゼオライトに比べて高く経済性にも優れている。即ち脱硫量(mol)/使用Ag量(mol)×100で表わされる銀の利用効率が、銀イオン交換ゼオライトが4%程度であるのに対して、本発明の吸着剤は10%以上である。このことから本発明の吸着剤は銀を有効に利用した、経済性にも優れた脱硫剤として、燃料電池システムの脱硫器に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例における試験装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(脂肪酸銀)
本発明の硫黄化合物用吸着剤に用いる脂肪酸銀としては、炭素数3〜30の脂肪酸の銀塩を用いることができ、脂肪酸は、モノカルボン酸であることが特に好ましく、飽和、不飽和のいずれであってもよいが、炭素数6〜20、特に8〜18の直鎖飽和脂肪酸の銀塩が生成、入手が容易であると共に、硫黄化合物の吸着性の点から好適に使用できる。
このようなモノカルボン酸銀としては、例えば、プロパン酸、ブタン酸(酪酸)、ペンタン酸(吉草酸)、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸(エナント酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸(ペラルゴン酸)、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等の銀塩を挙げることができ、特にデカン酸銀、ラウリン酸銀、ミリスチン酸銀、オクタン酸銀、ステアリン酸銀を好適に用いることができる。
【0011】
本発明において、脂肪酸銀の一次粒子径は、特に限定されないが、燃料ガスとの接触機会を増大させる為には、後述する方法で測定した平均粒径が100μm以下であることが好ましい。かかる意味において平均粒径の下限は特に制限されないが、脂肪酸銀の生産性の観点からは1μm程度である。
尚、脂肪酸銀は、一種類のみを用いてもよいし、複数種を組み合わせで使用することもできる。
【0012】
脂肪酸銀は、溶融法、複分解法の従来公知の製造方法により調製することができる。
溶融法は、脂肪酸を加熱溶融後、銀の酸化物あるいは水酸化物と反応させて脂肪酸銀を生成させるものであり、生産設備が簡単であるが、反応を完全に進行させるのが難しいため、反応物が容易に生成物に残留する、また、生成物を粉砕細粒化する工程が必要であるといった欠点がある。
一方、複分解法は、脂肪酸を水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物とけん化反応させるか、あるいは脂肪酸アルカリ金属塩を溶解させて作製した水溶液に金属イオンを含む水溶液を添加して脂肪酸金属塩を生成させるものであり、この反応は高温条件を必要とせず、かつ後処理がろ過、洗浄、乾燥、解砕といった簡便な工程のみであり、粒子径の小さい粒子が得られるという利点があるため、商業生産によく利用されている。
本発明に用いる脂肪酸銀は上述の溶融法、複分解法いずれの製法により調製されたものであってもよいが、粒子径の小さい脂肪酸金属塩が得られる点において、複分解法が好ましく適用される。
銀の原料は水溶性であれば特に限定されないが、特に硝酸銀が好ましい。
脂肪酸の原料には脂肪酸か、脂肪酸のアルカリ金属塩、脂肪酸のアンモニウム塩を使用できる。脂肪酸を用いる場合はNaOH等のアルカリを用いて水に脂肪酸を溶解させる。
【0013】
本発明に用いる脂肪酸銀を製造する際の配合は、原料として用いる脂肪酸の価数をA、モル量をX、銀イオンの価数をB、モル量をYとすると、AX/BYは0.9以上1.1未満であることが望ましい。0.9未満であると、脂肪酸銀の生成効率が悪く、1.1以上であると、銀含有量が低くなり、硫黄化合物の吸着性能が低下するおそれがある。
また、合成に用いる反応溶媒は水、或いは水と有機化合物との混合溶液であってよい。混合可能な有機化合物は水と混和可能なものであり、かつ原料や生成物の構造を破壊しないものに限られる。混合可能な有機化合物の例として、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのアルコール類や、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル等のグリコールエーテル類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどの環状エーテル類、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの極性溶媒などを挙げることができる。
【0014】
複分解法において、粒子径が小さく、凝集の少ない脂肪酸銀を得るには、脂肪酸のアルカリ金属塩を含む水溶液と銀イオンを含む水溶液を混合し、所望の脂肪酸銀へと反応させる工程において、(1)混合時の攪拌を強化する、(2)混合を出来るだけ速やかに行う、のが望ましい。当該反応工程が不適切である場合、粒子径の大きな脂肪酸銀や、凝集の激しい脂肪酸銀が生成してしまう。
かかる反応工程を行った後、得られた脂肪酸銀を含むスラリーは洗浄、及び濾過の工程を経て、乾燥に処される。乾燥方法は特に限定はされず、真空乾燥機、凍結乾燥機、気流式乾燥機等を好適に使用することができる。
乾燥は熱風式乾燥機の場合には、80乃至120℃の温度で行うのが望ましく、特に90乃至110℃の温度が好ましい。80℃以下では水分が十分に蒸発せず、120℃以上で行うと脂肪酸が一部、熱により分解を受ける等の好ましくない反応が生じる上、一部の粒子が溶着し粒子径が増大してしまう要因となる。
【0015】
(脱硫材)
本発明の硫黄化合物用吸着剤から成る脱硫材においては、脱硫材を充填する脱硫器の大きさ及び形状に適合するように、上述した脂肪酸銀を造粒・粉砕、或いは圧縮成形等により成型して、円柱状、球状等種々の形状の脱硫材を製造することができるが、上述した脂肪酸銀の製造工程の乾燥工程に賦される前に、所望の大きさ及び形状に造粒或いは成型した後乾燥して製造することが、成形性の点で好適である。
脱硫材の大きさは、脱硫材を充填する脱硫器(充填塔)の大きさや、脱硫材の形状等によって適宜決定することができるが、燃料ガスとの効率的な接触や圧力損失を考慮すると、造粒等の加工後の大きさが0.3乃至1.5mmの範囲にあることが好適である。
本発明においては、造粒・粉砕或いは成型された脱硫材が、0.1m/g以上、特に0.5乃至50m/gの範囲の比表面積を有することが好適である。上記範囲よりも比表面積が小さい場合には、上述した範囲にある場合に比して効率よく硫黄化合物を吸着することができないおそれがある。
本発明においては、造粒、成型に際して、脂肪酸銀の硫黄化合物吸着性能を損なわない範囲で、ワックス、溶剤、シリカ等の造粒助剤や、樹脂バインダー等を配合することができる。
また脂肪酸銀を気体透過性に優れた樹脂に含有させて、成型することもでき、これにより、硫黄化合物の吸着能力を確保しながら、ペレットの成形性、強度を向上することができると共に、経済性にも優れた脱硫材を得ることができる。
【0016】
(吸着方法)
本発明の硫黄化合物用吸着剤は、メタノール、メタンを主体とする液化天然ガス、この天然ガスを主成分とする都市ガス、天然ガスを原料とする合成液体燃料、石油系のナフサや灯油等の炭化水素油等の気体又は液体の何れの燃料に対しても硫黄化合物を取り除くことが可能であるが、特に気体から効率よく硫黄化合物を取り除くことができ、上記硫黄化合物用吸着剤から成る脱硫材を充填して成る脱硫器(充填塔)内に、硫黄化合物を含有する気体(燃料ガス)を流通させることにより、気体中の硫黄化合物を効率よく吸着することができる。
脱硫器に硫黄化合物を含有する気体(燃料ガス)を流通させる条件は、これに限定されないが、0.1乃至2.5Pa、特に0.5乃至2.0Paの圧力で、0乃至60℃の温度で行うことが好適である。
本発明の吸着方法においては、脱硫材を充填した脱硫器の圧力損失が2.5kPa以下、特に0.5乃至2.0kPaの範囲にあることが、効率よく硫黄化合物を吸着する上で重要であり、脱硫器の大きさ、脱硫材の形状及び大きさ並びに充填量を考慮して、圧力損失を上記範囲にすることが重要である。
【0017】
本発明の吸着方法により硫黄化合物が除去可能な硫黄化合物としては、これに限定されないが、ジメチルサルファイド,エチルメチルサルファイドやジエチルサルファイド等のサルファイド類、テトラヒドロチオフェン等のチオフェン類、ターシャリーブチルメルカプタン,イソプロピルメルカプタン,ノルマルプロピルメルカプタン,ターシャリーアミルメルカプタン,ターシャリーヘプチルメルカプタン,メチルメルカプタンやエチルメルカプタン等のメルカプタン類を挙げることができ、これらは付臭剤として、燃料ガス中に含有されている。
【実施例】
【0018】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0019】
《実施例1》 (ステアリン酸銀の調製)
ステアリン酸ナトリウム0.36mol(=69.6g)を90℃の脱イオン水3000gに溶解させてA液を、硝酸銀0.36mol(=60.9g)を脱イオン水600gにmol比が等量になる様に溶解させてB液を調整した。次に、A液を撹拌しながら、B液をA液に投入した。投入後15分撹拌し、吸引ろ過により固液分離を行いながら、脱イオン水を用いて十分に洗浄を行った。洗浄後の固体に少量のエタノールを混ぜ、湿式押出造粒機(ダルトン製、MG−55)を用いて、0.7mmの円柱形に造粒した後、熱風乾燥機(タバイエスペック社製)にて乾燥して、円柱形のステアリン酸銀からなるペレットを得た。
【0020】
《実施例2》 (ステアリン酸銀(高湿暴露)の調製)
脂肪酸銀系吸着剤の吸着性能に及ぼす水分の影響を調査する為に、実施例1のステアリン酸銀を温度25℃、湿度80%の条件で12時間静置したサンプルを調製した。(ステアリン酸銀(高湿暴露))
【0021】
《実施例3》 (ミリスチン酸銀の調製)
ステアリン酸ナトリウムをミリスチン酸ナトリウムに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、円柱形のミリスチン酸銀からなるペレットを得た。
【0022】
《実施例4》 (ミリスチン酸銀(高湿暴露)の調製)
実施例2と同条件で実施例3のミリスチン酸銀を高湿暴露したサンプルを調製した。(ミリスチン酸銀(高湿暴露品))
【0023】
《実施例5》 (ラウリン酸銀の調製)
ステアリン酸ナトリウムをラウリン酸ナトリウムに変更した以外は、実施例1と同様
の操作を行い、円柱形のラウリン酸銀からなるペレットを得た。
【0024】
《実施例6》 (ラウリン酸銀(高湿暴露)の調製)
実施例2と同条件で実施例5のラウリン酸銀を高湿暴露したサンプルを調製した。(ラウリン酸銀(高湿暴露))
【0025】
《実施例7》 (デカン酸銀の調製)
ステアリン酸ナトリウムをデカン酸ナトリウムに変更した以外は、実施例1と同様
の操作を行い、円柱形のデカン酸銀からなるペレットを得た。
【0026】
《実施例8》 (デカン酸銀(高湿暴露)の調製)
実施例2と同条件で実施例7のデカン酸銀を高湿暴露したサンプルを調製した。(デカン酸銀(高湿暴露))
【0027】
《実施例9》 (オクタン酸銀の調製)
オクタン酸0.40mol(=57.4g)を60℃の脱イオン水2000gに溶解させてC液を、水酸化ナトリウム0.40mol(=15.9g)を脱イオン水1000gに溶解させてD液を調整した。次に、C液を撹拌しながら、D液をC液に投入しE液を得た。さらに、硝酸銀0.40mol(=67.7g)を水600gに溶解した液をE液に投入した。投入後15分撹拌し、吸引ろ過により固液分離を行いながら、脱イオン水を用いて十分に洗浄を行った。以降は実施例1と同様の操作を行い、円柱形のオクタン酸銀からなるペレットを得た。
【0028】
《実施例10》(オクタン酸銀(高湿暴露)の調製)
実施例2と同条件で実施例9のオクタン酸銀を高湿暴露したサンプルを調製した。(オクタン酸銀(高湿暴露))
【0029】
《比較例1》 (酸化銀)
実施例の脂肪酸銀と硫黄化合物の吸着能力を比較する為の酸化銀には、市販の試薬(和光純薬)を用いた。
【0030】
《比較例2》 Na−Yゼオライト(乾燥)
Y型ゼオライトには日本化学工業製のNA−01Y〔SiO:Al比(モル比)=5.7〕を熱風乾燥機(タバイエスペック社製)にて100℃で12時間乾燥したものを用いた。尚、乾燥後のY型ゼオライトは、後述のTBM吸着試験に供する直前まで、防湿保管を行なった。
【0031】
《比較例3》 Na−Yゼオライト(水和)
比較例2で得たNa−Yゼオライト(乾燥)を再水和させることを目的に、温度25℃、湿度80%の条件で12時間静置し、比較例3に供するNa−Yゼオライト(水和)を得た。
【0032】
《比較例4》 Ag−Yゼオライト(乾燥)
硝酸銀22.9gを脱イオン水2000gに溶解して、硝酸銀の水溶液を調整した。これに日本化学工業製のY型ゼオライト(NA−01Y)を30g加えて懸濁させた。懸濁液を室温で24時間攪拌した後、吸引ろ過により固液分離を行いながら、脱イオン水を用いて十分に洗浄を行った。得られた白色固体を熱風乾燥機(タバイエスペック社製)にて乾燥してAg−Yゼオライト(乾燥)を得た。
【0033】
《比較例5》 Ag−Yゼオライト(水和)
比較例4で得たAg−Yゼオライト(乾燥)を再水和させることを目的に、温度25℃、湿度80%の条件で12時間静置し、比較例3に供するAg−Yゼオライト(水和)を得た。
【0034】
(TBM吸着試験)
図1に示す試験装置を用いて、TBMの吸着試験を実施した。試験条件は以下のとおりとした。
脱硫部として充填管(内径8mm)に、各サンプル0.070gを充填した。試験ガスには、都市ガス〔13A:メタン≒87.8%(容量%、以下同じ)、エタン≒5.9%、プロパン≒4.6%、n−ブタン≒0.8%、i−ブタン≒0.8%〕を用いて、下記の条件で吸着試験を実施した。
硫黄化合物濃度:TBM=1.5ppm(容量ppm)
都市ガス流量:1L/min(水分量:約1000ppm)
温度:25℃
圧力:1atm
尚、本試験は、実施例、比較例を含めてすべて同一装置、同一条件で行った。
【0035】
上記試験条件で、脱硫部下部から都市ガスを流通させ、脱硫部上部から排出される都市ガスを経時的にガス検知管(ガステック社製 (商品名)70L)を用いてサンプリングしガス中のTBM濃度を求めた。
TBMの吸着量は、脱硫部から排出される都市ガス内のTBM濃度が0.2ppm算出された時点までの全TBM吸着量として算出したものである。
更に各TBMの吸着量から、銀の利用効率を求めた。銀の利用効率は下記式(1)により全TBM吸着量の分子量を脂肪酸銀ないしは銀ゼオライトに含まれる銀の分子量で割り百分率で表した値をAgの利用効率とした。
Agの利用効率(%)=脱硫量(mol)/サンプル中のAg量(mol)×100 ・・・(1)
【0036】
実施例1〜10、及び比較例1〜5で得た吸着剤のTBM吸着量、及びTBM吸着量から算出した銀の利用効率について、表1に示す。尚、表中の脂肪炭素数欄において「×」と記載されているものは吸着剤に脂肪酸が含まれていないという意味であり、Agの利用効率の欄で、「―」と記載されているものはサンプル内にAgが含まれていないという意味である。
【0037】
【表1】

【0038】
本発明の範囲内に属しない比較例1の酸化銀は、実質的にTBMを吸着しないのに対し、実施例1〜10の脂肪酸銀は好適にTBMを吸着した。特に炭素数8のオクタン酸銀、炭素数10のデカン酸銀、炭素数12のラウリン酸銀は高いTBM吸着能力を発現した。銀の利用効率が示す通り、吸着剤中の銀イオンが効率的にTBMを吸着した結果であると推認される。
更に、特筆すべきは、比較例2〜5に示した通り、従来の吸着剤であるゼオライトは水和することで、TBM吸着能力が著しく低下してしまうのに対し、本発明のいずれの脂肪酸銀も高湿暴露の影響を受けず、安定したTBM吸着能力を示した。燃料ガス中には事実上、水が含まれていることを勘案すると、水分の影響を受けずにTBMを除去できることは、実用上非常に有利である。
従って、本発明の硫黄化合物用吸着剤は、硫黄化合物を含有する気体から硫黄化合物を効率よく除去することが可能であり、燃料電池の脱硫器に好適に使用することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の硫黄化合物用吸着剤は、硫黄化合物を含有する気体から硫黄化合物を効率よく除去することが可能であり、これに限定されないが、燃料電池の脱硫器に好適に使用することができ、燃料ガス中の硫黄化合物を効率よく吸着することができる。
また燃料ガス以外にも、エアゾール缶に用いられるプロペラントを都市ガスから調製する際にも利用することができ、都市ガス中の硫黄化合物を効率よく吸着して硫黄臭のないプロペラントを調製することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸銀から成ることを特徴とする硫黄化合物用吸着剤。
【請求項2】
前記脂肪酸銀が、炭素数8乃至18の脂肪酸銀である請求項1記載の硫黄化合物用吸着剤。
【請求項3】
前記脂肪酸が、モノカルボン酸である請求項1又は2記載の硫黄化合物用吸着剤。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の硫黄化合物用吸着剤から成る脱硫材を充填して成る脱硫器内に、硫黄化合物を含有する気体を流通させることを特徴とする硫黄化合物の吸着方法。
【請求項5】
前記脱硫器が燃料電池用の脱硫器である請求項4記載の硫黄化合物の吸着方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−45526(P2012−45526A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192516(P2010−192516)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(000229874)東罐マテリアル・テクノロジー株式会社 (27)
【Fターム(参考)】