説明

硫黄又は硫黄化合物を使用する電池のための電解質組成物に関連する改良

特別な濃度のバックグラウンド塩を有する、極性非プロトン性溶媒中の大アニオンを有するリチウム塩の溶液を含む電解質が開示される。バックグラウンド塩の濃度は、使用された非プロトン性溶媒中のこれらの塩の飽和溶液の濃度と等しいか、又は近接するように選択される。開示された電解質は、化学電池、例えば、硫黄系正極活物質を含む二次(充電式)セル及び電池、に使用できる。そのような電解質の使用は、セル及び電池のサイクリング効率及びサイクル寿命を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極(カソード)と負極(アノード)を含む化学電池用の電解質組成物に関する。詳細には、本発明の実施形態は、イオンを提供する負極(リチウム、ナトリウムもしくは他の活物質又は組成物から製造)(アノード)と、セルの充放電サイクルの間、源である電極材料からのイオンがそこを通ってセル電極間を移動する、液体又はゲル電解質溶液を含有する中間セパレーター要素と、硫黄、硫黄に基づく有機又は無機化合物を電極減極剤物質(カソード活物質)として含む正極(カソード)とを含む、充電式(二次)電池セルに関する。本発明の実施形態は、前記電解質を含む化学電池にも関する。更に、本発明の実施形態は、非プロトン性非水溶媒、リチウム塩及び変性剤を含み、かつリチウム−硫黄電池への使用に合わせて設計された電解質系の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
この出願を通じて、種々の特許及び公開された特許出願が、文献を特定して、引用されている。本発明が属する技術水準を更に完全に記載するために、引用された特許及び公開された特許出願の開示は、本明細書の一部をなすものとする。
【0003】
電池に使用される構造物として製作された電気活性物質は、電極と呼ばれる。本明細書で化学電池と呼ばれるセルに使用される1対の電極のうち、より高い電気化学ポテンシャルを有する側の電極は、正極又はカソードと呼ばれ、他方、より低い電気化学ポテンシャルを有する側の電極は、負極又はアノードと呼ばれる。
【0004】
カソード、即ち正極に使用される電気化学的活物質は、以下、カソード活物質と呼ばれる。アノード、即ち負極に使用される電気化学的活物質は、以下、アノード活物質と呼ばれる。電気化学的活性を有し、かつ電気化学的活物質、任意選択的な導電性添加物と結着剤、更に他の任意選択的な添加物も含む多成分組成物は、以下、電極組成物と呼ばれる。カソード活物質が酸化状態にあるカソードと、アノード活物質が還元状態にあるアノードとを含む化学電池、即ち電池は、充電状態にあると称される。従って、カソード活物質が還元状態にあるカソードと、アノード活物質が酸化状態にあるアノードとを含む化学電池は、放電状態にあると称される。
【0005】
溶液の伝導率を保持するために、溶媒又は溶媒混合物に溶解された、リチウム、ナトリウムもしくは他のアルカリ金属塩又はそのような塩の混合物は、以降は、支持塩と呼ばれる。
【0006】
化学電池のカソード活性層に利用できる多種多様な電気活性物質がある。例えば、これらの多くが、Mukherjeeらの米国特許第5919587号明細書に記載されている。これらの電気活性物質では、その比密度(g/cm3)及び比容量(mAh/g)が広く変化するので、カソード活性層の電気活性物質の所望の容積密度(mg/cm3)は、それに対応して広範囲に変化する。リチウム及び硫黄は、活物質の公知組み合わせの何れの重量又は容積に基づいても可能な限りほぼ最高のエネルギー密度を提供するので、これらは、化学電池のアノード及びカソードのための電気化学的活物質として、それぞれ非常に望ましい。高エネルギー密度を得るために、リチウムは、合金中の純金属又は層間挿入された形状の純金属として存在してよく、硫黄は、元素の硫黄として、又は高い硫黄含分、好ましくは75重量%以上の硫黄を有する、有機又は無機材料中の成分として存在してよい。元素硫黄は、例えばリチウムアノードと組み合わせて、比容量1680mAh/gを有する。この高い比容量は、電池の低重量が重要である、ポータブル電子素子及び電気自動車のような用途に特に望ましい。
【0007】
個々の双極性非プロトン性溶媒及びそれらの混合物中の大きなアニオンを有するリチウム塩の溶液は、リチウム及びリチウムイオン充電式電池に電解質として広く使用される。これらの電解質の主要な要件は、
・高い伝導率、
・広い温度範囲にわたり、液体又はゲル(ゲル電解質用の)状態に留まる能力、
・電極活物質に対する高い安定性、
・化学的及び電気化学的安定性(広い電気化学的安定範囲)、
・火災安全性及び爆発安全性、
・無毒性
である。
【0008】
前記要件のうちで主要なのは、広い温度範囲にわたる高い伝導率である。電解質の伝導率は、溶媒及び塩の物理的及び化学的性質により決定される。高い伝導率を得るために、高いドナー特性、高い誘電定数及び低い粘性を有する溶媒を使用するのが好ましく、このようにして、リチウム塩に高い誘電解離度を供与する。大きなアニオンを有するリチウム塩は、高い解離能力を有するので、使用が好ましい。
【0009】
塩溶液の伝導率は、その濃度により決定される。塩濃度が増加するにつれ、伝導率は、最初増加し、次いで最大に達し、最後に減少する。塩濃度は通常、生じる電解質の最大伝導率が得られるように選択される(Lithium batteries:Science and Technology.Gholam−Abbas Nazri and Gianfranco Pistoia(Eds.)Kluwer Academic Published 2004.pp.509〜573)。
【0010】
個々の溶媒又はそれらの混合物中の1種又は数種のリチウム塩の溶液も、リチウム−硫黄電池に電解質として使用される(Chuらの米国特許第6030720号明細書)。溶媒の性質(物理的及び化学的性質)が電池特性に対し主要な影響を有するので、リチウム−硫黄電池用電解質を設計する際に、溶媒の選択は重要である。
【0011】
主要な従来技術のリチウム及びリチウムイオン電池に使用される電解質塩は、リチウム−硫黄電池に、支持塩として使用することができる。一般に、本出願人が承知している、先行技術特許の開示内容は、特定の好ましい塩濃度について提言せず、その代わりに、非常に広い範囲の可能性ある濃度を与えている。
【0012】
本発明に最も近い先行技術は、Hwangらの米国特許第6613480号明細書に記載されていると、現在のところ考えられている。この特許公報は、リチウム−硫黄電池用電解質塩が、六フルオロリン酸リチウム(LiPF6)、六フルオロヒ酸リチウム(LiAsF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、リチウムスルホニルイミドトリフルオロメタン(LiN(CF3SO22)、及びトリフルオロスルホン酸リチウム(CF3SO3Li)を含むリストから選択できるという情報を開示する。電解質塩濃度は、0.5〜2.0Mの範囲から選ぶべきである。
【0013】
広い温度範囲にわたる高い伝導率は(電気化学的安定性と共に)、慣用の硬質カソード活物質を有するリチウム及びリチウムイオン電池に使用される電解質組成物の主要な要件である。硫黄が電解質溶媒に溶解し、その成分と反応することがあり、電池特性に重要な影響を及ぼすので、リチウム−硫黄電池用電解質組成物の選択は非常に困難である。
【0014】
充電式セルに使用するために多数の電解質溶媒及び電解質塩が提案されたにもかかわらず、硫黄系正極活物質を含む化学電池の有効寿命の間に有益な効果を提供する、改良された非水性電解質組成物への需要が依然としてある。
【0015】
そのため、本発明の実施形態は、硫黄系正極活物質を含む充電式セルへの使用に適する、改良された非水性電解質組成物を提供することに努め、この電解質組成物は、より大きな温度安定性及び伝導率を有し、電池のより高いサイクリング効率と長いサイクル寿命を与える。
【発明の開示】
【0016】
本発明の実施形態は、例えば、所定の濃度の支持塩(supporting salt)を有する極性非プロトン性溶媒中の大きなアニオンを有するリチウム塩の溶液を含む電解質のような、リチウム−硫黄電池用電解質に関する。具体的には、本発明の実施形態で、溶媒(又は溶媒混合物)中のリチウム塩の飽和溶液の濃度に実質的に等しいか又は少なくとも近接する濃度で、リチウム塩又はリチウム塩混合物を、電解質に使用することができる。そのような電解質をリチウム−硫黄電池に使用することにより、改良された効率とサイクリング持続期間が得られる。
【0017】
本発明の第一の態様により、少なくとも1つの非プロトン性非水溶媒及び少なくとも1つのアルカリ金属塩を含む、硫黄系化学電池用の電解質組成物が提供され、少なくとも1つの塩の濃度が、少なくとも1つの溶媒中の少なくとも1つのアルカリ金属塩の飽和濃度に実質的に等しいか又は近似するように、前記電解質組成物が選択される。
【0018】
好ましくは、少なくとも1つの塩の濃度は、飽和濃度の少なくとも90%であり、好ましくは少なくとも95%であり、更に好ましくは、少なくとも99%である。
【0019】
少なくとも1つの塩は、アルカリ金属の単独塩又はアルカリ金属塩の混合物であってよい。リチウム塩が特に好ましいが、ナトリウム及び他のアルカリ金属塩並びにそれらの混合物も使用することができる。
【0020】
リチウム塩の例として、六フルオロリン酸リチウム(LiPF6)、六フルオロヒ酸リチウム(LiAsF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CF3SO22)、及びトリフルオロスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)が挙げられる。
【0021】
少なくとも1つの非プロトン性溶媒は、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、プロピオン酸メチルプロピル、プロピオン酸エチルプロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、ジメトキシエタン、1,3−ジオキサラン、ジグライム(2−メトキシエチルエーテル)、テトラグライム、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、γ−ブチロラクトン、スルホラン及び少なくとも1つのスルホンを含む群から選択される、単独の溶媒又は溶媒混合物であってよい。
【0022】
本発明の第二の態様により、イオンを供与するアノード活物質を含む負極(アノード)と、硫黄又は硫黄に基づく有機もしくは無機化合物を含むカソード活物質を含む正極(カソード)と、化学電池の充放電サイクルの間に、負極からのイオンがそこを通って正極へと移動する、液体又はゲル電解質溶液を含有する中間セパレーター要素とを含む、化学電池が提供され、電解質溶液は、本発明の第一の態様による電解質組成物を含む。
【0023】
化学電池は、セル又は電池であってよい。
アノード活物質は、アルカリ金属、例えばリチウムもしくはナトリウム、もしくは他の活物質又は組成物を含んでよい。
【0024】
特に好ましいアノード活物質は、金属リチウム、リチウム合金、金属ナトリウム、ナトリウム合金、アルカリ金属又はその合金、金属粉末、アルカリ金属−炭素及びアルカリ金属−グラファイト層間物質、アルカリ金属イオンとの酸化還元を可逆的に遂行できる化合物並びにこれらの混合物を含む。
【0025】
硫黄含有カソード活物質は、硫黄元素、リチウムポリスルフィド(Li2n(n≧1))、硫黄に基づく無機及び有機化合物(オリゴマー及びポリマー化合物を含む)並びにこれらの混合物を含む群から選択されてよい。
【0026】
カソード活物質は、更に、結着剤と導電材料を含んでよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
リチウム−硫黄電池を設計する際に遭遇する主要な問題は、容量の急速な低下と相対的に低いサイクリング効率である。正極(カソード)から負極(アノード)表面への硫黄の非可逆移動と、その場所での硫化リチウム又は二硫化リチウムの形での蓄積は、リチウム−硫黄セルのサイクリングの間に容量が低下することの主要な原因の1つである。リチウム−硫黄電池の低いサイクリング効率は、充電及び放電プロセスの最中における硫黄の可逆的移動が原因である。この移動は、硫化物サイクルとして知られるもの、即ち、電池内部でのエネルギー移動(内部回路)を生じる。
【0028】
硫黄元素及び硫黄還元の最終産物(硫化リチウム又は二硫化リチウム)は、大抵の有機溶媒にあまり溶解しないことが知られている。これと対照的に、リチウムポリスルフィド(硫黄元素の還元又は硫化及び二硫化リチウムの酸化の間に生じる中間体)は、多数の有機溶媒に良く溶解する。
【0029】
リチウム−硫黄電池の正極と負極との間の硫黄移動率は、電解質溶液中に存在する硫黄の形状により決定される。リチウム−硫黄電池の電解質中に存在する硫黄及び硫黄−リチウム化合物の形状は、電解質系組成物及びその特性に依存する。特に、使用する溶媒の極性及びドナー特性に依存し、支持塩の濃度により左右される。
【0030】
リチウムポリスルフィドは、電解質系に、3形状、即ち、分子、モノアニオン性及びジアニオン性の形状、で存在することができる。従って、電解質中の硫黄は、分子(中性)又はイオン(アニオン性)形状で移動することができる。電解質中に溶解された硫黄元素及び非解離リチウムポリスルフィドの拡散が、硫黄の分子移動に寄与する。ポリスルフィドのモノ−及びジアニオン並びに硫黄アニオン−ラジカルの拡散及びエレクトロマイグレーションは、イオン形状の硫黄移動に寄与する。2つのメカニズムの存在が、総合的な硫黄移動を増加させる。硫黄移動は、拡散−マイグレーションプロセスの場合に、純粋の拡散メカニズムと比較して、より高いであろう。結果として、リチウム−硫黄電池の容量低下率及びサイクリング効率は、電解質溶液中に存在する硫黄形状に依存し、正極から電極間のスペースへ、そこから負極表面へと移動する硫黄の形状に依存する。硫黄が、荷電粒子(イオン形)に対立するものとして、中性粒子(分子形)として存在するならば、リチウム−硫黄電池の容量低下率は、はるかに低くなり、かつそのサイクリング効率は、はるかに高くなろう。
【0031】
電解質溶液中の各塩の電離度は、電解質組成物中の2つ以上の異なる塩(ここでは、例えば、リチウムポリスルフィド及び支持塩)の存在下での夫々の濃度及び解離定数により決定されるであろう。関連アニオンの性質に基づき、本出願人は、リチウムポリスルフィドの電離定数は、支持塩として使用できる大抵のリチウム塩のそれよりはるかに低いと信じる。この場合に、支持塩濃度が増加するにつれ、リチウムポリスルフィドの解離反応での平衡は、イオン形より分子形が多数存在するほうにシフトするであろう。
【0032】
従って、リチウムポリスルフィドの解離度は、支持塩の濃度が増加すると、減じるであろう。それ故、電極間の硫黄移動率の減少が見られ、相応して、サイクリングの間にリチウム−硫黄セルの容量低下率の減少が見られる。更に、硫化物サイクルの割合が減少する結果として、サイクリング効率は増加する。このことは、以下の実施例で明白に示される。
【0033】
本発明の実施形態の電解質組成物を形成する際に、以下の考察を考慮に入れることができる。
1)電解質組成物は、非プロトン性非水溶媒、リチウム又は他のアルカリ金属塩及び場合により変性剤を含む。
2)前記塩は、個々の塩又は複数の異なる塩であってよい。
3)前記塩又は複数の塩は、個々の極性非プロトン性溶媒又は溶媒混合物に溶解される。
4)前記電解質組成物は、リチウム塩又は塩混合物の濃度が、溶媒又は溶媒混合物中に使用される塩の飽和溶液の濃度に等しい(又は近似する)ように選択される。
【0034】
本発明をより良く理解し、どのように実行に移すことができるかを示すために、一例として、添付図に言及する。
【実施例】
【0035】
(例1)
金属リチウムホイル製アノードと、多孔性セパレーターCelgard(登録商標)2500(Celgard Inc.の登録商標、Celgard K.K.,東京、日本から市販、Celgard Inc.South Lakes,North Carolina USAからも市販)と、減極剤としての硫黄元素(70重量%)、炭素−導電性添加剤(10重量%)Ketjenblack(登録商標)EC−600JD(Akzo Nobel Polymer Chemicals BV,オランダから市販)及び結着剤(分子量4000000のポリエチレンオキシド、20重量%)を含む硫黄カソードとをアセンブルして、リチウム−硫黄セルを製造した。硫黄カソードは、自動フィルムアプリケーターElcometer(登録商標)SPRLにより、電流コレクタ兼基材である、導電性カーボンで被覆されたアルミニウムホイル(厚さ18μm:Inteli Coat(登録商標),South Hadley,Mass.から市販)の片側上に溶着させた。カソードの比表面容量は、1mAh/cm2であった。組み立てられたセルに、スルホラン中の0.1MLiClO4溶液を含む電解質を充填した。セルを組み立てかつ充填する全ての段階は、「Jacomex Type BS531」グローブボックス中で実施した。セルは、温度25℃、充電及び放電レート0.25Cでサイクルを行った。サイクリングの間の、セルの充電及び放電容量の変化は、図1に示す。
【0036】
サイクリングの間の、サイクリング効率及び容量低下率の変化は、図2に示す。サイクリング効率は、放電容量と充電容量の比として%で表して計算した。容量低下率は、相互に続く2つのサイクルの容量の差を、これらのサイクルでの平均容量により割って計算し、%で表した。図2に見られるように、サイクリング効率及び容量低下率は、最初に、サイクリングの開始後に変化するが、後に安定する。10回目と20回目のサイクルの間での平均サイクリング効率は、68%であり、容量低下率は4.5%であった。
【0037】
(例2)
リチウム−硫黄セルを、例1に記載のようにして製造するが、今回は組み立てたセルにスルホラン中のLiClO4の1M溶液を含む電解質を充填した。セルは、温度25℃、充電及び放電レート0.25Cでサイクルを行った。サイクリングの間の、セルの充電及び放電容量の変化は、図3に示す。
【0038】
サイクリングの間の、サイクリング効率及び容量低下率の変化は、図4に示す。図4に見られるように、サイクリング効率及び容量低下率は、最初、サイクリング開始後に変化するが、後に、安定する。10回目と20回目のサイクルの間での平均サイクリング効率は、90%であり、容量低下率は2.25%であった。これは、例1のセルを上回る著しい改良である。
【0039】
(例3)
リチウム−硫黄セルを、例1に記載のようにして製造するが、今回は組み立てたセルに、本発明の実施形態により、スルホラン中のLiClO4の2M飽和溶液を含む電解質を充填した。セルは、温度25℃、充電及び放電レート0.25Cでサイクルを行った。サイクリングの間の、セルの充電及び放電容量の変化は、図5に示す。
【0040】
サイクリングの間の、サイクリング効率及び容量低下率の変化は、図6に示す。図6に見られるように、サイクリング効率及び容量低下率は、最初、サイクリング開始後に変化するが、後に、安定する。10回目と20回目のサイクルの間での平均サイクリング効率は、96%であり、容量低下率は1.75%であった。これは、例1及び例2のセルを上回る著しい改良である。
【0041】
(例4)
リチウム−硫黄セルを、例1に記載のようにして製造するが、今回は組み立てたセルに、メチルプロピルスルホン中のLiClO4の0.1M溶液を含む電解質を充填した。セルは、温度25℃、充電及び放電レート0.25Cでサイクルを行った。サイクリングの間の、セルの充電及び放電容量の変化は、図7に示す。
【0042】
サイクリングの間の、サイクリング効率及び容量低下率の変化は、図8に示す。図8に見られるように、サイクリング効率及び容量低下率は、最初、サイクリング開始後に変化するが、後に、安定する。10回目と20回目のサイクルの間での平均サイクリング効率は、55%であり、容量低下率は3.1%であった。
【0043】
(例5)
リチウム−硫黄セルを、例1に記載のようにして製造するが、今回は組み立てたセルに、メチルプロピルスルホン中のLiClO4の1.7M溶液(飽和溶液に近接した濃度)を含む電解質を充填した。セルは、温度25℃、充電及び放電レート0.25Cでサイクルを行った。サイクリングの間の、セルの充電及び放電容量の変化は、図9に示す。
【0044】
サイクリングの間の、サイクリング効率及び容量低下率の変化は、図10に示す。図10に見られるように、サイクリング効率及び容量低下率は、最初、サイクリング開始後に変化するが、後に、安定する。10回目と20回目のサイクルの間での平均サイクリング効率は、90%であり、容量低下率は1.15%であった。これは、例4のセルを上回る著しい改良である。
【0045】
例4と5から、サイクリング効率及び容量低下率における改良は、溶媒の化学的同一性に依存せず、その代わりに電解質濃度に依存することが例証される。
【0046】
本発明の一部の実施形態が図解され、記述されるが、本発明はこれらの特定の実施形態に限定されないことは明白である。本発明の範囲から逸脱せずに多数の修正、変更、バリエーション、置換及び均等物が、当業者に思い浮かぶことであろう。
【0047】
本発明の好ましい特徴は、本発明の全ての態様に当てはまり、あらゆる組み合わせで使用することができる。
【0048】
本明細書の記述及び特許請求の範囲を通じて、用語「含む」及び「含有する」並びにこれらの用語の変形、例えば「含んでいる」は、「含むが、限定はしない」を意味し、他の成分、整数、部分、添加物又はステップを除外することを意図しない(すなわち除外しない)。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】標準リチウム−硫黄セルのサイクリングの間の充電及び放電の容量低下を示すグラフである。
【図2】標準リチウム−硫黄セルのサイクリング効率及び容量低下率の変化を示すグラフである。
【図3】より濃厚な電解質を有する第二のリチウム−硫黄セルのサイクリングの間の充電及び放電の容量低下を示すグラフである。
【図4】第二のリチウム−硫黄セルのサイクリング効率及び容量低下率の変化を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態による飽和電解質溶液を有する第三のリチウム−硫黄セルのサイクリングの間の充電及び放電の容量低下を示すグラフである。
【図6】第三のリチウム−硫黄セルのサイクリング効率及び容量低下率の変化を示すグラフである。
【図7】異なる非飽和電解質を有する第四のリチウム−硫黄セルのサイクリングの間の充電及び放電の容量低下を示すグラフである。
【図8】第四のリチウム−硫黄セルのサイクリング効率及び容量低下率の変化を示すグラフである。
【図9】本発明の実施形態による飽和電解質溶液を有する第五のリチウム−硫黄セルのサイクリングの間の充電及び放電の容量低下を示すグラフである。
【図10】第五のリチウム−硫黄セルのサイクリング効率及び容量低下率の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの非水性非プロトン性溶媒と、少なくとも1つのアルカリ金属塩とを含む硫黄系化学電池用の電解質組成物であって、前記少なくとも1つの塩の濃度が、前記少なくとも1つの溶媒中における前記少なくとも1つのアルカリ金属塩の飽和濃度に実質的に等しいか又は近似するように、選択される電解質組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの溶媒が、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、プロピオン酸メチルプロピル、プロピオン酸エチルプロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、ジメトキシエタン、1,3−ジオキサラン、ジグライム(2−メトキシエチルエーテル)、テトラグライム、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、γ−ブチロラクトン、スルホラン及び少なくとも1つのスルホンを含む群から選択される請求項1に記載の電解質。
【請求項3】
前記少なくとも1つのアルカリ金属塩が、六フルオロリン酸リチウム(LiPF6)、六フルオロヒ酸リチウム(LiAsF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CF3SO22)、トリフルオロスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、もしくは他のリチウム塩又は他のアルカリ金属の塩又はこれらの混合物を含む群から選択される請求項1又は2に記載の電解質。
【請求項4】
前記少なくとも1つの溶媒中における前記少なくとも1つのアルカリ金属塩の濃度が、その飽和濃度の少なくとも90%である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電解質。
【請求項5】
前記少なくとも1つの溶媒中における前記少なくとも1つのアルカリ金属塩の濃度が、その飽和濃度の少なくとも95%である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電解質。
【請求項6】
前記少なくとも1つの溶媒中における前記少なくとも1つのアルカリ金属塩の濃度が、その飽和濃度の少なくとも99%である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電解質。
【請求項7】
イオンを供与するためのアノード活物質を含有する負極(アノード)と、硫黄又は有機硫黄もしくは無機硫黄化合物を含むカソード活物質を含有する正極(カソード)と、化学電池の充放電サイクルの間に、前記負極からのイオンがそこを通って前記正極へと移動する液体又はゲル電解質溶液を含有する中間セパレーター要素とを含む化学電池であって、前記電解質溶液が、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電解質組成物を含むものである化学電池。
【請求項8】
前記硫黄を含有するカソード活物質が、硫黄元素、リチウムポリスルフィド(Li2n(n≧1))、無機硫黄及び有機硫黄化合物(オリゴマー及びポリマー化合物を含む)並びにこれらの混合物を含む群から選択される請求項7に記載の化学電池。
【請求項9】
前記硫黄を含有するカソード活物質が、結着剤と導電材料を更に含む請求項7又は8に記載の化学電池。
【請求項10】
前記アノード活物質が、金属リチウム、リチウム合金、金属ナトリウム、ナトリウム合金、アルカリ金属又はその合金、金属粉末、アルカリ金属−炭素及びアルカリ金属−グラファイト層間物質、アルカリ金属イオンとの酸化還元を可逆的に遂行できる化合物並びにこれらの混合物を含む群から選択される請求項7乃至9のいずれか1項に記載の化学電池。
【請求項11】
請求項1で請求され、かつ実質的にこれ以前に記載されている電解質組成物。
【請求項12】
請求項7で請求され、かつ実質的にこれ以前に記載されている化学電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−527662(P2008−527662A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550839(P2007−550839)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【国際出願番号】PCT/GB2006/000103
【国際公開番号】WO2006/077380
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(507030472)オクシス・エナジー・リミテッド (8)
【Fターム(参考)】