説明

硫黄酸化物を含むガスの脱硫方法および脱硫装置

【課題】必要な水の量を減少させ、濃度の高い硫酸を得ることができ、しかも、硫酸と臭化水素の分離を簡単にすることができる効率的な硫黄酸化物を含むガスの中の硫黄分を硫酸にすることによって前記ガスを脱硫する方法および脱硫装置を提供する。
【解決手段】硫黄酸化物を含むガスの脱硫方法であって、前記ガス中のSO2と、気体の臭素および水蒸気とを、気相で反応させることにより効率的に反応させることを特徴とする前記ガスの脱硫方法およびその脱硫装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄酸化物を含むガスの中の硫黄分を硫酸にすることによって、前記ガ スを脱硫する方法および脱硫装置に関する。具体的には、製錬炉や硫黄炉などで発生 する排ガス中のSO2と、臭素(Br2)、水(H2O)を反応させる脱硫プロセスにお いて、効率良く反応させる前記ガスの脱硫方法および脱硫装置に関する。
【背景技術】
【0002】
硫黄酸化物を含むガスの中の硫黄分を硫酸にすることによって、前記ガスを脱硫する方法に関しては従来から種々の提案がなされている。
例えば、US Patent 4,668,490号公報には、ブンゼン反応と呼ばれる下記反応式(A)により、SO2を含む排ガスと水と臭素から、硫酸と臭化水素を生成する工程において、臭素の水溶液と排ガスを接触させる方式が記載されている。
SO2+Brr+2H2O → H2SO4+2HBr ・・・(A)
しかし、US Patent 4,668,490号公報の方法は以下のような問題点があった。
1)臭素の水への溶解度が低く(最大重量濃度3%、モル濃度0.35%)、使用している臭素水溶液は重量濃度で0.5%であるため、臭素水溶液中の臭素の反応性が悪く、反応に寄与しない水が大量に必要であり、大量の臭素水溶液を循環させる必要があった。
2)得られる硫酸濃度が15%と低いため、硫酸を濃縮するのに大量の熱が必要となりエネルギーコストが高かった。
【特許文献1】US Patent 4,668,490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、前述のような従来技術の問題点を解決し、必要な水の量を減少させ、濃度の高い硫酸を得ることができ、しかも、硫酸と臭化水素の分離を簡単にすることができる効率的な硫黄酸化物を含むガスの脱硫方法および脱硫装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、前述の課題を解決するため鋭意検討の結果なされたものであり、SO2と、気体の臭素および水蒸気とを、気相で反応させることにより、必要な水の量を減少させ、濃度の高い硫酸を得ることができ、しかも、硫酸と臭化水素の分離を簡単にすることができる効率的な硫黄酸化物を含むガスの脱硫方法および脱硫装置を提供するものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
(1)SO2を用いて硫酸を製造する方法であって、前記SO2と、気体の臭素および水蒸気とを、気相で反応させることにより反応式(A)の反応を効率的に行うことを特徴とする硫黄酸化物を含むガスの脱硫方法。
(2)前記気体の臭素は、高濃度臭素から供給することを特徴とする(1)に記載の硫黄酸化物を含むガスの脱硫方法。
(3)前記脱硫に用いる反応槽の温度を常温〜200℃とすることを特徴とする(1)または(2)に記載の硫黄酸化物を含むガスの脱硫方法。
(4)1モルのSO2に対して、水蒸気を2〜30モル供給することを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の硫黄酸化物を含むガスの脱硫方法。
(5)1モルのSO2に対して、臭素を0.6〜2モル供給することを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の硫黄酸化物を含むガスの脱硫方法。
(6)(1)乃至(5)のいずれかに記載の製造方法に用いる硫酸の製造装置であって、
臭素・水混合液を比重分離によって、高濃度な臭素と臭素水溶液に分離する臭素分離槽と、
前記高濃度な臭素と水蒸気とを接触させて、水蒸気の圧力および/または熱を利用して気体の臭素を供給し、臭素と接触する水蒸気の量を制御することにより供給臭素量を制御する臭素供給槽と、
SO2と前記気体の臭素および水蒸気とを反応させる主反応槽とを有することを特徴とする硫黄酸化物を含むガスの脱硫装置。
(7)さらに、前記臭素水溶液を前記主反応槽の排ガスと接触させて、前記排ガス中の未反応SO2と前記反応(A)を行うことにより、臭素を処理し、脱硫率をさらに向上させるHBr吸収塔を有することを特徴とする(6)に記載の硫黄酸化物を含むガスの脱硫装置。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、SO2と、気体の臭素および水蒸気とを、気相で反応させることにより、必要な水の量を減少させ、濃度の高い硫酸を得ることができ、しかも、硫酸と臭化水素の分離を簡単にすることができる硫黄酸化物を含むガスの効率的な脱硫方法および脱硫装置を提供することができ、具体的には以下のような産業上有用な著しい効果を奏する。
1)臭素の溶解度によって規制されていた、過剰な水の量を削減できる。
2)臭素の濃度が上がるため、未反応の臭素の量を削減できる。
3)反応を起こす際に硫酸と臭化水素があらかじめ、全部又は一部分離される。
4)全部又は一部の硫酸を濃硫酸として得ることができ、濃縮のための熱量を削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明を実施するための最良の形態について、図1乃至図3を用いて詳細に説明する。
図1は、前述のUS Patent 4,668,490号公報に記載されたSO2を含む排ガスと水と臭素から、硫酸と臭化水素を生成する方法に基づいて本発明者等が行った実験結果を示す図である。
図1に示すように、主反応槽1に重量濃度で0.51%の臭素水溶液を入れて、SO2を吹き込んで下記反応式(A)のブンゼン反応をさせ、揮発したHBrをHBr吸収槽2に入れた蒸留水に吸収させたところ、図1の下段の表に示すように、反応物質のモル比は、SO2:Br2:H2O=1:1:1736.5となり、SO2の反応率は40%と低い値を示した。
SO2+Brr+2H2O → H2SO4+2HBr ・・・(A)
【0007】
そこで本発明者等は、SO2の反応率を50%以上にする方法を検討した結果、SO2と、気体の臭素および水蒸気とを、気相で反応させることによりSO2の反応率が50%以上となり効率的に脱硫することを見出した。
SO2と、気体の臭素および水蒸気とを、気相で反応させることによりSO2の反応率が向上する理由は以下のように考えられる。
臭素は水に溶けにくいため臭素水溶液を用いて脱硫すると臭素濃度が低いため、十分な量の臭素がSO2と反応しにくいが、本発明のように気体の臭素を用いると溶解度の影響を受けないので、供給する物質のモル比を各々任意に変化させることができるため、必要十分な量の臭素がSO2と反応することができるのでSO2の反応率が向上するものと考えられ、従来用いていた水溶液のように反応に寄与しない大量の水は必要ない。
また、従来用いていた水溶液より高濃度の臭素が供給されるため、未反応の臭素の量を削減され、反応率が上がる。
【0008】
また、前記脱硫に用いる反応槽の温度を常温〜200℃とすることが好ましい。
反応温度を常温〜200℃とするのは、反応槽の温度が、硫酸の沸点より低く、臭化水素の沸点より高いため、硫酸の全部又は一部が、反応槽で液化し、臭化水素と水蒸気の大部分は液化しないで、通り抜けるため、反応槽内に濃度が高く、不純物の少ない硫酸が得られるからである。
また、通り抜けるガスにはHBrが高濃度であるため、水に溶解させて利用するか、そのまま直接利用することができる。
また、1モルのSO2に対して、水蒸気を2〜30モル供給することが好ましい。水蒸気を2モル以上とするのは、前述のブンゼン反応式(A)の理論値が2モルだからであり、30モル以下とするのは、30モルより多くなると臭素濃度が相対的に低くなって、反応率が低下するからである。
また、1モルのSO2に対して、臭素を0.6〜2モル供給することが好ましい。
臭素0.6モル以上とするのは、0.6モル以上でSO2の反応率が50%以上になるからであり、2モル以下とするのは、2モルを超えると未反応の臭素を環境に排出しないための処理が難しくなるためである。
【実施例】
【0009】
図2は、本発明における硫酸の製造方法の実施形態を例示する図である。
臭素溜3および蒸気溜4の温度を一定にし、それぞれに送る窒素の量を一定にすることにより、気体の臭素および蒸気を一定量主反応槽1に送る。SO2も一定量送り、主反応槽1を200℃以下の一定の温度に保ち、ブンゼン反応を起こさせたところ、一部がここで液化し、残りのガスは冷却管5を経て、臭素トラップ6で冷却することにより、一部を液化し、残りのガスはHBr吸収槽2で、蒸留水の中を通すことにより、HBr等を水に溶解する成分が溶解した。
排ガス中のSO2濃度を測定し、ガスの流路に生成された溶液の重量とHBrおよび硫酸の濃度測定して、それぞれの生成量を測定した。供給水量を変化させて実験を行ったところ、1パスで93%と高い反応率を得、主反応槽1内では、50%程度の高濃度の硫酸を得た。
【0010】
図3は、本発明における硫酸の製造装置の実施形態を例示する図である。
まず、臭化水素分解反応から送られる臭素・水混合液は臭素分離槽7で高濃度臭素と臭素水溶液に比重分離され、高濃度臭素は臭素供給槽3´に、臭素水溶液はHBr吸収塔2´に送られる。
次に、主反応塔1´にSO2を含む排ガスを導入し、蒸気と臭素を導入することにより、ブンゼン反応を促進する。
主反応塔の温度を常温〜200℃で保持することにより生成された硫酸の大部分は液化し、反応塔の下に滴下し、臭化水素の大部分は気体のまま後段に流れるため、硫酸と臭化水は全部又は一部分離される。
臭素は、高濃度臭素が入っている臭素供給槽3´に蒸気を導入して、蒸気の圧力および/または熱を利用して気体の臭素を供給し、供給量は導入する蒸気量によって制御する。臭素および蒸気は必要に応じて、主反応塔に多段式で導入する。下に滴下した硫酸は精製して出荷する。
これによって全部又は一部の硫酸を濃硫酸として得ることができ、濃縮のための熱量を削減できる。
【0011】
主反応塔1´からの排ガスはさらにHBr吸収塔2´に導入し、臭素水溶液と接触させて、ブンゼン反応をさらに促進することができるので、脱硫率を上げることができるうえ、臭素水溶液の処理が不要となる。
また、HBrを一定量含む溶液をさらに上から循環させることにより、気相のHBrおよび未反応臭素を溶解させ、排ガスを清浄ガスとして排出することができる。HBr水溶液の一部を臭化水素分解反応に送る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来のSO2を含む排ガスと水と臭素から、硫酸と臭化水素を生成する方法に基づいて本発明者等が行った実験結果を示す図である。
【図2】本発明における硫黄酸化物を含むガスの脱硫方法の実施形態を例示する図である。
【図3】本発明における硫黄酸化物を含むガスの脱硫装置の実施形態を例示する図である。
【符号の説明】
【0013】
1 主反応槽
1´主反応塔
2 HBr吸収槽
2´ HBr吸収塔
3 臭素溜
3´ 臭素供給槽
4 蒸気溜
5 冷却管
6 臭素トラップ
7 臭素分離槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄酸化物を含むガスの中の硫黄分を硫酸にすることによって前記ガスを脱硫する方法であって、
前記ガス中のSO2と、気体の臭素および水蒸気とを、気相で下記反応(A)をさせることにより、
効率的に反応を行うことを特徴とする硫黄酸化物を含むガスの脱硫方法。
SO2+Br2+2H2O → H2SO4+2HBr ・・・(A)
【請求項2】
前記気体の臭素は、高濃度臭素から供給することを特徴とする請求項1に記載の硫黄酸化物を含むガスの脱硫方法。
【請求項3】
前記反応に用いる反応槽の温度を常温〜200℃とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の硫黄酸化物を含むガスの脱硫方法。
【請求項4】
1モルのSO2に対して、水蒸気を2〜30モル供給することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の硫黄酸化物を含むガスの脱硫方法。
【請求項5】
1モルのSO2に対して、臭素を0.6〜2モル供給することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の硫黄酸化物を含むガスの脱硫方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の脱硫方法に用いる硫黄酸化物を含むガスの脱硫装置であって、
臭素・水混合液を比重分離によって、高濃度な臭素と臭素水溶液に分離する臭素分離槽と、
前記高濃度な臭素と水蒸気とを接触させて、水蒸気の圧力および/または熱を利用して気体の臭素を供給し、臭素と接触する水蒸気の量を制御することにより供給臭素量を制御する臭素供給槽と、
SO2と前記気体の臭素および水蒸気とを反応させる主反応槽とを有することを特徴とする硫黄酸化物を含むガスの脱硫装置。
【請求項7】
さらに、前記臭素水溶液を前記主反応槽の排ガスと接触させて前記排ガス中の未反応SO2と前記反応(A)を行うことにより、臭素を処理し、脱硫率をさらに向上させるHBr吸収塔を有することを特徴とする請求項6に記載の硫黄酸化物を含むガスの脱硫装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−759(P2007−759A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183163(P2005−183163)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】