説明

硬さ測定装置

【課題】ヒトによる触診を行いながら、同時に硬さに関する定量的な情報取得を可能にすることができ、ヒトによる個人差や体調による誤差などを、センサによる客観的な評価で補うことができる硬さ測定装置を提供する。
【解決手段】指腹部を拘束しないように、高分子圧電フィルム1bおよび絶縁ゴムシート1cから成るシート状センサ1を接着したセンサ取り付けプレート1aを爪2に貼り付け、さらに、シート状センサ1をつけた指5の付け根部に、機械的な振動を発生させる振動源6を装着し、測定対象物の硬さによって変化する指5の振動を高分子圧電フィルム1bで測定し、解析することにより、ヒトによる触診と同時にシート状センサ1による測定対象物の硬さ評価を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの指の触診による対象物の硬さ測定と、機械的振動による対象物の硬さ測定を同時に行う硬さ測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒトは自らの手指を用いて触診を行い、患部の状態や食物の鮮度などを判断している。ヒトによる触診は個人差や体調による誤差を含んだ評価となるため、定量的な情報を得るために、測定対象物に変位を与え、その時の応力を測定し、変位−応力の関係から硬さを評価する装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この装置は、管状の生体軟組織の測定を対象としており、触診の中でも限定したものに対してのみ行うことができ、皮膚など平面状の対象の測定は不可能である。
【0003】
また、振動する探触子を測定対象物に押し付け、その共振周波数の変化から硬さを評価する装置もある(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この装置では、さまざまな部位の測定が可能であるが、指感覚を利用することが不可能であり、センサを測定したい部位へ誘導することや硬さ以外の情報を得ることが不可能である。
【0004】
さらに、センサを指先端腹部に装着し、指を振動させ、その状態で、測定対象物に接触させて測定を行い、測定対象物の硬さによってセンサの振動の振幅が変化することを利用する装置がある(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、この装置では、指を活用しており、指感覚により測定位置への誘導は可能であるが、対象物と指との間にセンサが介在することになり、センサによる測定と同時に手指を測定部位に直接接触させることができず、指感覚を利用する同時の触診は不可能である。
【0005】
つまり、従来の装置は、測定対象物の硬さを測定するためにセンサ装置を測定部位に当てる仕組みであり、そのため、硬さ以外の情報による判断や測定部位の位置関係などの、これまでのヒトによる触診で得られた知見を活用することが困難であり、それを行うためには一度、センサを取りはずし、同じ場所を再度指で触診しなければならない。しかし、繰り返し測定部位を計測することによる患者への負担の増加(医師による触診の場合)、および同時に行わないことによる硬さ計測位置とヒトによる触診の位置との不一致の問題がある。さらに、センサを測定部位へ正確に誘導したり、接触圧力を調整したりすることにも、ヒトの指感覚の利用が有効である。以上のことから、最も効果的で精度の良い測定手法は、ヒトによる触診と定量的な測定が可能なセンサによる硬さ評価とを同時に行うことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−220038号公報
【特許文献2】特開平8−29312号公報
【特許文献3】特開2006−247332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ヒトによる触診において問題となる判断の客観性および定量性の欠如と、その解決手段としての装置による硬さ測定がもつ測定位置の特定の困難さ、およびヒトによる触診で得られる硬さ以外の情報の欠如という、従来同時には解決できなかった2つの課題を解決しようとするものであり、ヒトの指の触診による対象物の硬さ測定と同時に、機械的振動による対象物の硬さ測定を行う硬さ測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ヒトによる触診と同時にセンサによる硬さ評価を行うために、指感覚を妨げない必要があり、指腹部を拘束しない構造にしなければならない。そこで、本発明に係る硬さ測定装置は、指の爪上に固定可能なシート状センサと、前記指の爪以外の部位に取付可能な振動源と、前記シート状センサの出力を硬さに変換する演算装置とを、有することを特徴とする。
【0009】
前記シート状センサは、表面に電極を形成した高分子圧電フィルムを有し、前記高分子圧電フィルムは、柔軟な絶縁シートを介してつづら折した構造であることが好ましい。また、前記シート状センサは、センサ取り付けプレートに接着され、前記センサ取り付けプレートを介して爪に固定されることが好ましい。
【0010】
本発明に係る硬さ測定装置では、シート状センサをつけた指の付け根部等に取り付けた振動源によって生じた機械的な振動が、指に伝達し、指を微振動させる。振動源を装着した指を測定対象物に接触させると、測定対象物の硬さに応じて、指先の振動の振幅や周波数が変化する。その振動がシート状センサに伝達するため、その振動により発生した高分子圧電フィルムの出力電圧を測定し、演算装置により硬さ情報に変換する。その結果を、触診実施者にリアルタイムにモニター部で表示し、指感覚からの情報と同時に測定対象物の硬さを客観的かつ定量的に評価することができる。
【0011】
シート状センサが直接測定対象物に接触しないため、シート状センサは指が測定対象物に接触した際の指の変化を敏感に計測する必要がある。爪は他の生体組織に比べて硬く変形しないため、爪にシート状センサを装着することで、シート状センサと指との間に安定かつ高い密着性を確保し、指の振動情報のみを正確に取得できるという特徴がある。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、これまで不可能であったヒトによる触診を行いながら、同時に硬さに関する定量的な情報取得を可能にすることができ、ヒトによる個人差や体調による誤差などを、センサによる客観的な評価で補うことができる硬さ測定装置を提供することができる。硬さ測定装置によれば、触診の精度の向上につながり、また、センサによる硬さ情報を測定しながら、各自の指感覚を確認できることから、ヒトによる触診のトレーニングとしても用いることができるという効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態の硬さ測定装置の使用状態を示す概略図である。
【図2】図1に示す硬さ測定装置のシート状センサの拡大図である。
【図3】図1に示す硬さ測定装置の(a)前立腺の正常組織に相当するヤング率の測定対象物に対する出力波形を示すグラフ、(b)前立腺の癌組織に相当するヤング率の測定対象物に対する出力波形を示すグラフ、(c)出力波形の振幅とヤング率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の実施の形態の硬さ測定装置の使用状態を示す概略図である。シート状センサ1は、センサ取り付けプレート1aに接着され、爪2に装着される。図2は、シート状センサ1の拡大図であり、シート状センサ1は、高分子圧電フィルム1bと、柔軟な絶縁ゴムシート1cとで構成される。高分子圧電フィルム1bは、大きな表面積を得ながら、センサ取り付けプレート1aに貼り付け可能な小型な形状にするために、絶縁ゴムシート1cを挟み、つづら折した構造とする。つづら折した高分子圧電フィルム1bは、センサ取り付けプレート1aに接着される。そのセンサ取り付けプレート1aは、爪2に装着され、センサ取り付けプレート1aと爪2との接着は、容易に着脱可能な構造とする。センサ取り付けプレート1aは、つけ爪を利用してもよい。高分子圧電フィルム1bは、オシロスコープ3および解析装置4に接続され、解析結果がモニター部で表示される。なお、演算装置は、オシロスコープ3および解析装置4から成っている。
【0015】
指5に微振動を与えるために、振動源6として、電磁コイル又はモータを用いた振動子6aを、振動源固定バンド6bで指根元に固定し、振動子6aを振動装置電源6cに接続する。
【0016】
振動装置電源6cに接続されている振動子6aを指根元に取り付け、指5を微振動させた状態で、指5を測定対象物に接触させる。高分子圧電フィルム1bからなるセンサ1で検出される振動波形をオシロスコープ3で取り込み、解析装置4で解析を行い、出力波形の振幅の大きさを硬さ情報に変換し、モニター部7に表示する。
【0017】
出力電圧波形から硬さ情報への変換のために,測定対象物に接触する前後の振幅あるいは周波数の変化を解析して利用してもよい。また、押し付け力の調整は、指感覚を利用する方法の他に、押し付け力測定センサを指腹部以外に装着する方法でもよい。押し付け力測定センサを用いる場合は、測定結果をモニター部7にリアルタイムで表示し、触診実施者が押し付け力を調整しながら触診を行う方法の他に、解析装置4で押し付け力の出力波形への影響をリアルタイムで補正し、硬さ情報の修正を行う方法を利用してもよい。
【0018】
本発明は、生体組織の診察の他に、食物の鮮度や食べ頃を評価する際に利用してもよい。
【実施例1】
【0019】
本発明の実施例として、図1に示すように、指5の示指の爪2に、高分子圧電フィルム1bからなるシート状センサ1を、つけ爪から成るセンサ取り付けプレート1aを介して装着し、前立腺のヤング率を参考に製作した測定対象物の触診を行った。このとき、押し付け力の調整は、測定結果をモニター部7に表示し、触診実施者が調整を行う方法とした。
【0020】
ヤング率で表現した測定対象物の硬さと高分子圧電フィルム1bの波形振幅との関係を、図3に示す。図3(a)は、前立腺の正常組織のヤング率を参考に製作した測定対象物を触診した際の高分子圧電フィルム1bの出力波形であり、図3(b)は、前立腺の癌組織のヤング率を参考に製作した測定対象物を触診した際の高分子圧電フィルム1bの出力波形である。これらの出力波形の振幅の平均値を計算する。図3(c)は、計算した出力波形の振幅の平均値と測定対象物のヤング率との関係をまとめたものである。測定は、5種類のヤング率の異なる測定対象物に対して各5回行い、その誤差範囲も合わせて示している。ヤング率が大きく硬い場合は大きな振幅となり、ヤング率が小さく軟らかい場合は小さな振幅となる。ヤング率の違いにより振幅が変化することがわかり、本実施例から本発明に係る硬さ測定装置が硬さの評価に有効であることが確認できる。
【符号の説明】
【0021】
1 シート状センサ
1a センサ取り付けプレート
1b 高分子圧電フィルム
1c 絶縁ゴムシート
2 爪
3 オシロスコープ
4 解析装置
5 指
6 振動源
6a 振動子
6b 振動源固定バンド
6c 振動装置電源
7 モニター部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
指の爪上に固定可能なシート状センサと、
前記指の爪以外の部位に取付可能な振動源と、
前記シート状センサの出力を硬さに変換する演算装置とを、
有することを特徴とする硬さ測定装置。
【請求項2】
前記シート状センサは、表面に電極を形成した高分子圧電フィルムを有し、前記高分子圧電フィルムは、柔軟な絶縁シートを介してつづら折した構造であることを、特徴とする請求項1記載の硬さ測定装置。
【請求項3】
前記シート状センサは、センサ取り付けプレートに接着され、前記センサ取り付けプレートを介して爪に固定されることを、特徴とする請求項1または2記載の硬さ測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−256307(P2010−256307A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109960(P2009−109960)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】