説明

硬化コンクリートの配合組成推定方法

【課題】 骨材の種類による影響が比較的少なく、信頼性に優れた硬化コンクリートの配合組成推定方法を提供することを課題としている。
【解決手段】 電子プローブマイクロアナライザを用いて硬化コンクリート表面を面分析することにより、該表面の区画ごとに少なくとも二酸化珪素及び酸化カルシウムの濃度を測定する硬化コンクリートの配合組成推定方法であって、
前記面分析により不連続相と認識された不連続部分の二酸化珪素濃度又は酸化カルシウム濃度から骨材の種類を推定する骨材種類推定工程と、
骨材の種類に応じて二酸化珪素又は酸化カルシウムの基準濃度範囲を決定し、二酸化珪素又は酸化カルシウムの濃度が該基準濃度範囲内である区画を含む領域を骨材部分と判定する骨材部分判定工程と、
該骨材部分の面積から骨材含量を推定する骨材含量推定工程とをおこなうことにより骨材含量を推定する硬化コンクリートの配合組成推定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化コンクリートの配合組成推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硬化コンクリートの配合組成推定方法としては、例えば、セメント協会コンクリー卜専門委員会報告F−18「硬化コンクリートの配合推定に関する共同試験報告」に記載されている方法が広く知られている。
【0003】
しかしながら、斯かる従来の方法は、硬化コンクリート試料の不溶残分(%)をコンクリート用骨材の不溶残分(%)の平均値で除することにより骨材含量を推定するものであり、斯かる平均値に全てのコンクリート用骨材の不溶残分(%)を代表させているものである。従って、斯かる従来の方法においては、骨材種類の相違による影響を受けて、推定した骨材含量が本来の骨材含量と大きく異なるものとなりやすく、ひいては斯かる骨材含量から求められる硬化コンクリートの配合組成の推定値が信頼性に乏しいものとなり得る。
【0004】
これに対して、硬化コンクリート試料中のCaO含有率(%)を分析によって求め、斯かる値と骨材に含まれるCaO含有率(%)の仮定値とを利用して計算によってセメント含量を推定し、さらにこのセメント含量から順次、結合水含量、骨材含量等を推定する方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
ところが、この種の方法は、骨材にCaOがほとんど含まれていないことを前提とした上記の仮定値を採用してセメント含量等の推定をおこなうものであるため、骨材種類の相違による影響を受けて、セメント含量等の推定値が本来のセメント含量と大きく異なるものとなりやすく、依然として結果の信頼性が比較的低いという問題がある。
【0006】
具体的には、この種の方法においては、例えば骨材が石灰岩の粉砕物である場合、分析によって求めたCaO含有率(%)に、セメント由来のCa分だけでなく骨材の主成分である石灰岩のCa分が含まれることから、骨材にCaがほとんど含まれていないことを前提として推定したセメント含量等の値が本来のセメント含量と大きく異なってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−066031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、骨材の種類による影響が比較的少なく、信頼性に優れた硬化コンクリートの配合組成推定方法が要望されている。
【0009】
本発明は、上記問題点、要望点等に鑑み、骨材の種類による影響が比較的少なく、信頼性に優れた硬化コンクリートの配合組成推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明に係る硬化コンクリートの配合組成推定方法は、電子プローブマイクロアナライザを用いて硬化コンクリート表面を面分析することにより、該表面の区画ごとに少なくとも二酸化珪素及び酸化カルシウムの濃度を測定する硬化コンクリートの配合組成推定方法であって、
前記面分析により不連続相と認識された不連続部分の二酸化珪素濃度又は酸化カルシウム濃度から骨材の種類を推定する骨材種類推定工程と、
骨材の種類に応じて二酸化珪素又は酸化カルシウムの基準濃度範囲を決定し、二酸化珪素又は酸化カルシウムの濃度が該基準濃度範囲内である区画を含む領域を骨材部分と判定する骨材部分判定工程と、
該骨材部分の面積から骨材含量を推定する骨材含量推定工程とをおこなうことにより骨材含量を推定することを特徴とする。
【0011】
上記構成からなる硬化コンクリートの配合組成推定方法によれば、前記骨材種類推定工程により骨材の種類を推定した後、骨材の種類に応じて骨材含量を推定することから、骨材含量の精度を比較的高いものにすることができる。即ち、例えば、骨材が二酸化珪素に富む岩石でなる場合であっても、また、酸化カルシウムに富む岩石でなる場合であっても、骨材の種類を推定したうえで、骨材の種類に応じて二酸化珪素又は酸化カルシウムの基準濃度範囲を決定し、骨材部分の領域を判定することから、骨材含量の精度が骨材の種類によって影響されにくい。従って、推定された配合組成の信頼性が比較的高いものとなり得る。
【0012】
また、本発明に係る硬化コンクリートの配合組成推定方法では、前記骨材部分判定工程で推定した骨材部分以外の部分をセメント水和物部分と推定し、前記面分析により求めたセメント水和物部分の平均酸化カルシウム濃度と、ポルトランドセメントの平均酸化カルシウム濃度との比から、水セメント比を推定することが好ましい。
斯かる構成により、骨材含量だけでなく水セメント比を推定することができることから、硬化コンクリートの配合組成をより詳細に推定でき、得られた結果の信頼性がより優れたものになり得るという利点がある。
【0013】
また、本発明に係る硬化コンクリートの配合組成推定方法では、前記骨材部分の面積から算出したセメント水和物部分の面積と前記水セメント比とからセメント含量を推定することが好ましい。
斯かる構成により、骨材含量だけでなくセメント含量を推定することができることから、硬化コンクリートの配合組成をより詳細に推定でき、得られた結果の信頼性がより優れたものになり得るという利点がある。
【0014】
なお、本明細書において“コンクリート”との用語は、特に示さない限りモルタルをも含む意味で用いる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明に係る硬化コンクリートの配合組成推定方法は、骨材の種類による影響が比較的少なく、信頼性に優れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いた面分析による各元素の濃度マッピング図。
【図2】電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いた面分析による所定CaO濃度範囲及び所定SiO2濃度範囲のマッピング図。
【図3】硬化コンクリートにおける石灰岩骨材比率の理論値と推定値との関係を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る硬化コンクリートの配合組成推定方法の一実施形態について説明する。
【0018】
本実施形態の硬化コンクリートの配合組成推定方法は、電子プローブマイクロアナライザを用いて硬化コンクリート表面を面分析することにより、該表面の区画ごとに少なくとも二酸化珪素及び酸化カルシウムの濃度を測定する硬化コンクリートの配合組成推定方法であって、
前記面分析により不連続相と認識された不連続部分の二酸化珪素濃度又は酸化カルシウム濃度から骨材の種類を推定する骨材種類推定工程と、
骨材の種類に応じて二酸化珪素又は酸化カルシウムの基準濃度範囲を決定し、二酸化珪素又は酸化カルシウムの濃度が該基準濃度範囲内である区画を含む領域を骨材部分と判定する骨材部分判定工程と、
該骨材部分の面積から骨材含量を推定する骨材含量推定工程とをおこなうことにより骨材含量を推定するものである。
【0019】
まず、前記骨材種類推定工程では、電子プローブマイクロアナライザを用いて硬化コンクリート表面を面分析する。
【0020】
前記電子プローブマイクロアナライザ(Electron probe microanalyser 以下、「EPMA」とも称する)は、加速した電子線を測定対象物に照射することにより生じる特性X線のスペクトルに注目して、電子線が照射されている微小領域に於ける構成元素の検出及び同定、各構成元素の比率(濃度)を分析するものである。
【0021】
前記硬化コンクリートは、配合組成を推定する対象物であり、その種類が特に限定されるものではない。該硬化コンクリートとしては、具体的には、例えば、骨材として二酸化珪素を95質量%以上含む珪岩などのシリカ質岩石の粉砕物を用い、セメントとして普通ポルトランドセメントを用いて硬化されたものなどが挙げられる。
【0022】
測定対象である硬化コンクリート試料の測定面積は、大きいほど分析精度がより高くなるが、大きすぎることにより試料の作製が煩雑となる上、EPMAによる測定にも長時間を要することとなる。斯かる観点から、該測定面積は、4cm2(2cm×2cmの正方形)〜64cm2(8cm×8cmの正方形)が好ましい。
【0023】
前記硬化コンクリート試料の表面は、EPMAによる元素分析を行う前に研磨し、平滑な面としたものが好ましい。
また、前記硬化コンクリート試料の表面は、EPMAによる元素分析を行う前に研磨し、カーボン蒸着装置等を用いてカーボンを蒸着し、カーボン蒸着層を形成したものであることがより好ましい。このようなカーボン蒸着層を形成しておくことにより、試料に導電性が付与されるため、コンクリートのような非導電体の試料であっても、より正確な測定が可能となる。
【0024】
前記面分析は、コンクリート表面を升目に区画し、各区画について、濃度区分ごとに各種元素の濃度を表示できるものである。
【0025】
該面分析において分析できる元素としては、比較的原子量の大きい元素、具体的には例えば、Ca、Si、Al、Feなどの元素が挙げられ、該面分析においては、少なくともCa及びSiの元素について分析する。
該面分析においては、斯かる元素の濃度が区画ごとに分析できることから、斯かる元素を有する酸化物、具体的には、二酸化珪素(SiO2)や酸化カルシウム(CaO)等について、区画ごとの換算濃度をEPMAに付随した演算装置等によって算出することができる。そして、EPMAに付随した表示装置等において、二酸化珪素(SiO2)や酸化カルシウム(CaO)等について、区画ごとの濃度を色分けなどにより表示(マッピング)することができる。
【0026】
前記区画の大きさは、通常、1000〜5000μm2であり、好ましくは、1500〜3500μm2である。なお、区画の形状は、特に限定されるものではないが、通常、正方形である。
【0027】
次に、前記骨材種類推定工程では、前記面分析により珪素(Si)やカルシウム(Ca)などの元素をプロットした分析マッピング図(倍率1〜200程度)から視覚的に不連続相及び連続相を識別する。そして、不連続相と認識された不連続部分における二酸化珪素濃度又は酸化カルシウム濃度から骨材の種類を推定する。前記不連続部分とは、いわゆる海島構造における“島”に相当する部分のことを意味する。
なお、Ca及びSiの元素について区画ごとの濃度を色分けなどにより表示した分析マッピング図としては、後述する実施例において説明する図1及び図2が具体的に例示される。
【0028】
また、前記骨材種類推定工程では、前記分析マッピング図から、該不連続相以外の部分を連続相部分と認識できる。該連続相部分とは、いわゆる海島構造における“海”に相当する部分のことを意味する。
【0029】
即ち、硬化コンクリートは、セメント水和物を主成分とする部分に骨材が分散している状態のものであることから、試料の表面においては、前記不連続部分が骨材に相当する。よって、前記骨材種類推定工程では、該不連続部分における二酸化珪素濃度又は酸化カルシウム濃度から骨材の種類を推定する。
【0030】
詳しくは、前記骨材種類推定工程では、骨材に相当する前記不連続部分における二酸化珪素の濃度が、例えば95質量%以上である場合、骨材の種類をチャートや珪岩などのシリカ質岩石と推定することができ、一方、前記不連続部分における酸化カルシウムの濃度が、例えば50質量%以上である場合、骨材の種類を石灰岩と推定することができる。
前記不連続部分における二酸化珪素又は炭酸カルシウムの濃度が、上記数値範囲から外れる場合は、例えば骨材の種類を他の岩石質と推定することができる。加えて、他の岩石質と推定した前記不連続部分においてCa、Si以外のAl、Feなどの元素でさらに面分析等をおこなうことにより、より詳細な骨材の種類を推定することができる。
【0031】
例えば、骨材に用いられ得る岩石としては、下記表1に示すものが挙げられ、これら岩石に含まれている成分の種類及び含有量としては、下記表1に示す値が例示される。
【0032】
【表1】

【0033】
また、前記骨材種類推定工程においては、異なる種類の骨材が混在して前記不連続部分が構成されていることが容易に認識でき、例えば、前記シリカ質岩石及び石灰岩の2種が混在している態様であっても容易に認識できる。そして、骨材の種類が複数であることをふまえたうえで、続く前記骨材種類推定工程をおこなうことができる。
【0034】
前記骨材部分判定工程では、前記骨材種類推定工程で推定した骨材種類に応じて、二酸化珪素又は酸化カルシウムの基準濃度範囲を決定する。
詳しくは、骨材種類を石灰岩と推定した場合、二酸化珪素濃度については5質量%以下であり且つ酸化カルシウム濃度については50質量%以上の範囲を基準濃度範囲と決定する。好ましくは、二酸化珪素濃度については1質量%未満であり且つ酸化カルシウム濃度については50質量%以上55質量%未満の範囲を基準濃度範囲と決定する。
また、骨材種類をシリカ質岩石と推定した場合、二酸化珪素濃度については97質量%以上であり且つ酸化カルシウム濃度については1質量%未満の範囲を基準濃度範囲と決定する。
【0035】
続いて、前記骨材部分判定工程では、二酸化珪素又は酸化カルシウムの濃度が該基準濃度範囲内である区画を含む領域を骨材部分と判定する。そして、該骨材部分の面積(%)を、EPMAに付随した演算ソフトウェア等を利用して求める。
【0036】
上記方法によって所定領域を骨材部分と判定することにより、試料表面において骨材部分の面積を精度良く求めることができる。
また、骨材部分を判定することにより、主にセメント水和物でなるセメント水和物部分を判定するよりも、骨材の種類までも推定できるという点で、硬化コンクリートの配合組成推定における精度が高くなり得るという利点がある。
【0037】
前記骨材部分判定工程では、区画ごとの二酸化珪素及び酸化カルシウムの濃度をプロットした散布図を作成することが好ましい。
該散布図を作成することにより、骨材部分の二酸化珪素及び酸化カルシウムの濃度範囲を視覚的に認識でき、斯かる濃度範囲が前記基準濃度範囲と対応する範囲であるか否かを確認することで、決定した前記基準濃度範囲の妥当性を再認識することができることから、前記基準濃度範囲をより精度良く決定することができるという利点がある。
【0038】
具体的には、前記骨材部分判定工程では、区画ごとの二酸化珪素の濃度を横軸、酸化カルシウムの濃度を縦軸とした座標平面に、区画ごとのプロットをおこなった散布図を作成することにより、プロット集積部分が複数認識できる。プロット集積部分の少なくとも1つは、骨材部分に相当するものであり、他のプロット集積部分の少なくとも1つは、セメント水和物部分に相当するものである。
【0039】
前記散布図において例えば、二酸化珪素の濃度範囲が1質量%付近であり且つ酸化カルシウムの濃度範囲が52質量%付近であるプロット集積部分は、石灰岩の骨材に相当することが前記散布図から視覚的に認識できる。そして、酸化カルシウムの濃度範囲が52質量%付近であることと、上述した酸化カルシウムの基準濃度範囲とが対応していることを確認することにより、前記基準濃度範囲の妥当性を再認識することができる。
また、前記散布図において例えば、二酸化珪素の濃度範囲が99質量%付近であり且つ酸化カルシウムの濃度範囲が1質量%付近であるプロット集積部分は、シリカ質の骨材に相当することが前記散布図から視覚的に認識できる。そして、二酸化珪素の濃度範囲が99質量%付近であることと、上述した二酸化珪素の基準濃度範囲とが対応していることを確認することにより、前記基準濃度範囲の妥当性を再認識することができる。
【0040】
なお、前記散布図において例えば、二酸化珪素の濃度範囲が15質量%付近であり且つ酸化カルシウムの濃度範囲が35質量%付近であるプロット集積部分は、セメント水和物部分に相当することが前記散布図から視覚的に認識できる。
【0041】
前記骨材含量推定工程では、前記骨材部分判定工程によって推定された骨材部分の面積から骨材含量を推定する。
【0042】
詳しくは、推定された骨材部分の面積(%)をそのまま硬化コンクリートに含まれる骨材体積(%)とみなし、前記骨材種類推定工程で推定した骨材種類に応じて、骨材の比重を決定する。具体的には、骨材の種類を石灰岩と推定した場合には、骨材の比重を2.7と決定し、骨材の種類をシリカ質岩石と推定した場合には、骨材の比重を2.7と決定する。
そして、骨材体積(%)と骨材の比重とから硬化コンクリート1m3に含まれる骨材含量を算出することができる。
【0043】
前記硬化コンクリートの配合組成推定方法においては、前記骨材部分判定工程で推定した骨材部分以外の部分をセメント水和物部分と推定し、前記面分析により求めたセメント水和物部分の平均酸化カルシウム濃度と、ポルトランドセメントの平均酸化カルシウム濃度との比から、硬化コンクリートの水セメント比を推定することが好ましい。
即ち、前記硬化コンクリートの配合組成推定方法においては、前記面分析により求めたセメント水和物部分の平均酸化カルシウム濃度をポルトランドセメントの平均酸化カルシウム濃度で除することにより、硬化コンクリートの水セメント比を推定することが好ましい。
【0044】
前記セメント水和物部分は、セメントと水とが水和してなるセメント水和物を主成分とするものであり、一方、セメントの酸化カルシウム濃度は60〜70質量%程度(具体的には、例えば64質量%)でほぼ一定であることから、該セメント水和物部分の平均酸化カルシウム濃度とセメントの平均酸化カルシウム濃度との比を求めることにより、硬化コンクリートの水セメント比を推定することができる。
上記のごとく硬化コンクリートの水セメント比を推定することにより、骨材含量だけでなく水セメント比を推定することができ、硬化コンクリートの配合組成をより詳細に推定できるという利点がある。
【0045】
前記硬化コンクリートの配合組成推定方法においては、前記骨材部分の面積から算出したセメント水和物部分の面積(%)と前記水セメント比とからセメント含量を推定することが好ましい。
即ち、前記硬化コンクリートの配合組成推定方法においては、前記骨材部分の面積の割合を測定した全面積の割合から差し引くことにより、前記骨材部分の面積からセメント水和物部分の面積を算出できる。そして、前記水セメント比からセメント水和物部分の比重を求める。
具体的には、例えば水の比重を1.00、セメントの比重を3.14(普通ポルトランドセメントの場合)とする。また、例えば水セメント比が60%である場合、セメント水和物部分160質量部(セメント100質量部+水60質量部)の体積を、水及びセメントのそれぞれの比重から算出する。そして、セメント水和物部分160質量部を、算出したセメント水和物部分の体積で除することにより、セメント水和物部分の比重を求めることができる。
次に、セメント水和物部分の面積(%)をセメント水和物部分の体積(%)とみなし、斯かるセメント水和物部分の体積(%)と、求めたセメント水和物部分の比重とから、セメント水和物部分の質量(kg/m3)を算出する。例えば、セメント水和物部分の体積(%)が32(%)、セメント水和物部分の比重が1.74であれば、セメント水和物部分の質量(kg/m3)は、1000×0.32×1.74=557kg/m3となる。
最後に、セメント水和物部分の質量と水セメント比とから、セメント含量を推定する。
【0046】
上記のごとく硬化コンクリートのセメント含量を推定することにより、骨材含量だけでなくセメント含量を推定することができ、硬化コンクリートの配合組成をより詳細に推定できるという利点がある。
【0047】
本発明は、上記実施形態の硬化コンクリートの配合組成推定方法に限定されるものではない。また、一般の硬化コンクリートの配合組成推定方法において用いられる種々の態様を、本発明の効果を損ねない範囲において、採用することができる。
【実施例】
【0048】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
<硬化コンクリート試料の調製>
下記に示すような配合のコンクリートを用い、硬化コンクリートを作製し、EPMAによって面分析をおこなうための硬化コンクリート試料を準備した。
即ち、作製した硬化コンクリート(No.1)から供試体(Φ10cm×20cm)を採取し、この供試体を厚さ1cmにスライスした。スライスした試料の表面を研磨材によって表面研磨し、さらに、カーボン蒸着装置を用いて該試料の表面にカーボンを蒸着させた。
骨材種類:石灰岩(1817kg/m3
水 :水道水(175kg/m3
セメント:普通ポルトランドセメント(300kg/m3
水セメント比:0.583(58.3質量%)
【0050】
<骨材種類推定工程>
○ EPMAによる面分析
調製した硬化コンクリート試料の表面(3cm×3cm)を対象として、EPMA(日本電子社製、JXA−8200)による元素分析を行った。EPMAの測定条件は、以下に示すとおりである。
【0051】
○ EPMA測定条件
測定元素:Si(TAP)、Ca(PETH)、Al(TAPH)
括弧内は、使用した分光結晶を示す
測定条件:15.0kV、1.00×10-8
測定エリア:600×600ピクセル(ピクセル間隔50μm)、3cm四方
測定時間:130msec/点(約14時間/1試料)
【0052】
得られた測定結果を用いて、EPMAに付随するモニター上に各元素の濃度範囲ごとにカラーマッピングにより選択的に着色して表示させた。
骨材と推定される部分の組成分析を行ったところ、二酸化珪素が0.8質量%、酸化カルシウムが52質量%であった。この結果から、使用されている骨材を石灰石骨材と推定した。
不連続相部分の二酸化珪素濃度: 0.8質量%
不連続相部分の酸化カルシウム濃度: 52質量%
骨材種類の推定結果: 石灰岩
【0053】
<骨材部分判定工程>
骨材種類を石灰岩と推定したことに伴い、二酸化珪素濃度については1質量%未満であり且つ酸化カルシウム濃度については50質量%以上55質量%未満の範囲を基準濃度範囲と決定した。そして、該濃度範囲内である区画を含む領域を骨材部分と判定した。その結果、骨材部分の面積は、下記の通りとなった。
骨材部分の面積:68(%)
【0054】
<骨材含量推定工程>
骨材部分判定工程によって判定した骨材部分の面積(%)を骨材含有体積(%)とみなし、該骨材含有体積(%)から硬化コンクリート中に含まれる骨材含量を算出した。
骨材含量:1836kg/m3(骨材の密度を2.7とした)
【0055】
<水セメント比の推定>
上記のごとく求めた骨材部分以外の部分をセメント水和物部分と推定し、該セメント水和物部分の平均酸化カルシウム濃度を測定すると40質量%であった。一方で、セメント水和物部分において用いられたセメントの平均酸化カルシウム濃度を64質量%とした。これら事項から、水セメント比(W/C)を算出すると下記の通りとなった。
水セメント比(W/C):60%
【0056】
<セメント含量の推定>
骨材部分の面積(68(%))から求めたセメント水和物部分の面積は32%である。また、水セメント比(W/C)が60%であることから、セメント水和物部分の比重は約1.74となる。
このことから、セメント水和物部分(セメントペースト)の質量は557kg/m3となり、セメント量は347kg/m3となる。
【0057】
(実施例2)
下記に示す硬化コンクリート試料について、実施例1と同様にして配合組成を推定した。
骨材種類:珪岩(1817kg/m3
水 :水道水(175kg/m3
セメント:普通ポルトランドセメント(300kg/m3
水セメント比:0.583(58.3%)
【0058】
<骨材種類推定工程>
骨材と推定される部分の組成分析を行ったところ、二酸化珪素が97質量%、酸化カルシウムが0質量%であった。この結果から、使用されている骨材をシリカ質骨材と推定した。
不連続相部分の二酸化珪素濃度: 97質量%
不連続相部分の酸化カルシウム濃度: 0質量%
骨材種類の推定結果: シリカ質
【0059】
<骨材部分判定工程>
骨材種類をシリカ質と推定したことに伴い、二酸化珪素濃度については97質量%以上であり且つ酸化カルシウム濃度については1質量%未満の範囲を基準濃度範囲と決定した。そして、該濃度範囲内である区画を含む領域を骨材部分と判定した。その結果、骨材部分の面積は、下記の通りとなった。
骨材部分の面積:67(%)
【0060】
<骨材含量推定工程>
骨材部分判定工程によって判定した骨材部分の面積(%)を骨材含有体積(%)とみなし、該骨材含有体積(%)から硬化コンクリート中に含まれる骨材含量を算出した。
骨材含量:1809kg/m3(骨材の密度を2.7とした)
【0061】
<水セメント比の推定>
上記のごとく求めた骨材部分以外の部分をセメント水和物部分と推定し、該セメント水和物部分の平均酸化カルシウム濃度を測定すると41質量%であった。一方で、セメント水和物部分において用いられたセメントの平均酸化カルシウム濃度を64質量%とした。これら事項から、水セメント比(W/C)を算出すると下記の通りとなった。
水セメント比(W/C):59%
【0062】
<セメント含量の推定>
骨材部分の面積(67(%))から求めたセメント水和物部分の面積は33%であること、及び、水セメント比(W/C)が59%であることから、上記と同様の算出方法により、セメント水和物部分の比重は約1.75となる。このことから、セメント水和物部分(セメントペースト)の質量は578kg/m3となり、セメント量は363kg/m3となる。
【0063】
実施例1及び2によって推定した硬化コンクリート配合組成及び実際の配合組成を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
なお、表2においては、セメント含量の推定値が実際よりも高めになっている。これは、硬化コンクリート1m3から骨材体積を除いたもの全てをセメント水和物とみなしているためであり、実際には、セメント水和物には空気が混在している。空気量は通常、体積で5%程度であり、硬化コンクリート中の空気量を5%と仮定して、再計算すると、セメント含有量の推定値は、No.1で294kg/m3となり、No.2で308kg/m3となる。
【0066】
(実施例3)
実施例2において、シリカ質骨材の一部を石灰岩骨材で置き換えた硬化コンクリートを実施例2と同様にして調製した。具体的には、シリカ質骨材の5質量%を石灰岩骨材で置き換えた。
【0067】
(実施例4)
実施例2において、シリカ質骨材の15質量%を石灰岩骨材で置き換えた点以外は、実施例2と同様にして硬化コンクリートを調製した。
【0068】
(実施例5)
実施例2において、シリカ質骨材の30質量%を石灰岩骨材で置き換えた点以外は、実施例2と同様にして硬化コンクリートを調製した。
【0069】
実施例4の硬化コンクリートにおいて、Ca、Al、Siの濃度ごとのマッピング図(明度が高い程高濃度)、及び、二酸化珪素濃度について5質量%以下であり且つ酸化カルシウム濃度について50質量%以上の範囲を基準濃度範囲とした区画領域を白く映したマッピング図(右下)を図1に示す。
【0070】
実施例2〜5の硬化コンクリートにおいて、二酸化珪素濃度について5質量%以下であり且つ酸化カルシウム濃度について50質量%以上の範囲を基準濃度範囲とした区画領域を白く映したマッピング図を図2に示す。
図2から認識できるように、シリカ質骨材を石灰岩骨材に置き換える量が多くなるに従い、白く映し出される面積が増加する。
【0071】
実施例2〜5の硬化コンクリートにおいて、石灰岩含有比率の理論値を横軸に、骨材含量推定工程によって推定した推定値を縦軸にプロットしたグラフを図3に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子プローブマイクロアナライザを用いて硬化コンクリート表面を面分析することにより、該表面の区画ごとに少なくとも二酸化珪素及び酸化カルシウムの濃度を測定する硬化コンクリートの配合組成推定方法であって、
前記面分析により不連続相と認識された不連続部分の二酸化珪素濃度又は酸化カルシウム濃度から骨材の種類を推定する骨材種類推定工程と、
骨材の種類に応じて二酸化珪素又は酸化カルシウムの基準濃度範囲を決定し、二酸化珪素又は酸化カルシウムの濃度が該基準濃度範囲内である区画を含む領域を骨材部分と判定する骨材部分判定工程と、
該骨材部分の面積から骨材含量を推定する骨材含量推定工程とをおこなうことにより骨材含量を推定することを特徴とする硬化コンクリートの配合組成推定方法。
【請求項2】
前記骨材部分判定工程で推定した骨材部分以外の部分をセメント水和物部分と推定し、前記面分析により求めたセメント水和物部分の平均酸化カルシウム濃度と、ポルトランドセメントの平均酸化カルシウム濃度との比から、水セメント比を推定することを特徴とする請求項1記載の硬化コンクリートの配合組成推定方法。
【請求項3】
前記骨材部分の面積から算出したセメント水和物部分の面積と前記水セメント比とからセメント含量を推定することを特徴とする請求項1又は2記載の硬化コンクリートの配合組成推定方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−27686(P2011−27686A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176489(P2009−176489)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】