説明

硬化性組成物およびそれを硬化してなる硬化体

【課題】 破断強度等の機械物性と吸水性のバランスに優れる硬化体を得ることができるポリアルキレンオキサイド共重合体を主剤とする硬化性組成物およびその硬化体を提供する。
【解決手段】 (A):分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物、(B):下記式(1)で表されるポリアルキレンオキサイド共重合体、とを含有することを特徴とする硬化性組成物。
[ (CH2CH2O) l、(CH2CH(CH2OH)O) m 、(CH2CHRO) n ] (1)
(ただし、式中l、m、nは高分子主鎖に含有される各繰返し単位のmol%を表わし、l+m+n=100である。l、m、nは、0<l<100、かつ0<m<100、かつ0≦n<100を満たす。また、0.001≦m/(l+m+n)≦0.5を満たし、かつ共重合体の重量平均分子量が500以上、1000000以下である。Rは炭素数1〜30の官能基またはハロゲン基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物およびポリアルキレンオキサイド共重合体からなる硬化性組成物およびその硬化体に関する。更に詳しくは、該硬化性組成物を硬化してなる強度と吸水性のバランスに優れた硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、高分子量ポリエチレングリコールであるポリエチレンオキサイド等に代表されるポリアルキレンオキサイドは、分散作用、凝集作用、増粘作用等に優れていることから、各種産業用途に広く用いられている。
例えば、紙処理剤や樹脂改質剤、凝集剤などの一般工業用添加剤用途、界面活性剤、増粘剤、皮膚平滑剤などの化粧品や食品工業用途、蛋白質処理剤、医療容器、医薬品、生化学用材料としての医療用途等が挙げられる。
特に、ポリエチレンオキサイドは高い水和能を有し、タンパク質吸着抑制能があり、さらには、一般的に生体組織に対して不活性であることが知られており、多くの医療用具や医療用材料として、特に皮膚等の生体組織や血液等の体液と接触する部材として有用である。
【0003】
一方、ポリエチレングリコールやポリエチレンオキサイドを、γ線等の放射線により架橋したり、その末端のヒドロキシル基を利用して、種々の架橋剤により架橋して得られる架橋構造体も、同様に、生体組織に対して不活性となる傾向にあることが知られており、創傷被覆材用途やドラッグデリバリーシステム用担体用途等での利用が提案(特許文献1および特許文献2参照)されている。。
これら一般的なポリアルキレンオキサイドからなる架橋構造体は、例えば、創傷被覆材等の医療用具や医療用材料として用いられる場合には、使用中に破断しない等の破断強度に代表される物理的強度が十分であることが要求される。
ところで、これら通常用いられるポリアルキレンオキサイドからなる架橋構造体は、一般に吸水性を有しており、吸水した状態であるハイドロゲルとしても有用である。例えば、上記創傷被覆材用途では、ハイドロゲル状態での利用が提案されており、さらには創傷部位の湿潤状態の保持や、創傷部位から出る体液の吸収性が要求され、これら医療用材料としては該吸水性能が高いことが、上記物理的強度と同時に、架橋構造体の性能として強く求められている。
【0004】
しかしながら、ポリエチレンオキサイドに代表されるポリアルキレンオキサイドは、一般的には、ヒドロキシル基を分子鎖の両末端のみに有するため、得られる架橋構造体は、破断強度等の物理的強度が低い傾向にある。その傾向は、ポリエチレンオキサイドの分子量の増加にともない顕著であり、例えば、重量平均分子量が1万を超える高分子量のポリエチレングリコールを用いて架橋剤により架橋することにより得られる架橋構造体は、十分な吸水性は有するものの、破断強度が低い。
また、ポリエチレンオキサイドの分子量が低い場合には、破断強度が増加する傾向にある一方で、吸水性が低下する傾向にある。
例えば、特許文献2では低分子量のポリエチレングリコールの両末端に加水分解可能な反応性官能基を導入することにより、架橋ポリエチレングリコールを製造する方法が提案されている。しかしながら、得られる架橋構造体は、吸水性が低い。
同様に、ポリプロピレングリコールを架橋剤とともに架橋して得られる架橋構造体は、破断強度が改善されるものの、吸水性が著しく低下する傾向にある。
従って、ポリアルキレンオキサイドを分子鎖の基本骨格とした架橋構造体において、強度と吸水性のバランスを満たすことが困難であった。
【0005】
【特許文献1】特公平06−007858号公報
【特許文献2】特表2001−518528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、破断強度等の機械物性と吸水性のバランスに優れる硬化体を得ることが可能である、ポリアルキレンオキサイド共重合体を主剤とする硬化性組成物およびその硬化体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリアルキレンオキサイド共重合体とイソシアネート化合物とを含有する硬化体の破断強度等の機械物性を向上させるため鋭意検討を行った。
その結果、側鎖に特定量のヒドロキシル基を有するポリアルキレンオキサイド共重合体と分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物とからなる硬化性組成物から得られる硬化体が、著しく破断強度が改善されることを見出した。
さらには、該硬化体が優れた吸水性を同時に有することを見出し、機械物性と吸水性のバランスに優れ、かつ生体適合性の高い硬化体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち本発明は、以下のとおりである。
[1](A):分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物、(B):下記式(1)で表されるポリアルキレンオキサイド共重合体、とを含有することを特徴とする硬化性組成物。
[ (CH2CH2O) l、(CH2CH(CH2OH)O) m 、(CH2CHRO) n ] (1)
(ただし、式中l、m、nは高分子主鎖に含有される各繰返し単位のmol%を表わし、l+m+n=100である。l、m、nは、0<l<100、かつ0<m<100、かつ0≦n<100を満たす。また、0.001≦m/(l+m+n)≦0.5を満たし、かつ共重合体の重量平均分子量が500以上、1000000以下である。Rは炭素数1〜30の官能基またはハロゲン基である。)
[2]式(1)で表されるポリアルキレンオキサイド共重合体が、n=0であることを特徴とする上記[1]に記載の硬化性組成物。
[3](A):分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物、(B):式(1)で表される共重合体とを含有する組成物であって、(A)のイソシアネート基の当量aと(B)のヒドロキシル基の当量bが、0.1≦a/b≦10の関係を満たすことを特徴とする上記[1]または[2]に記載の硬化性組成物。
[4]当量比a/bが、0.2≦a/b≦5の関係を満たすことを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0009】
[5](B):式(1)で表される共重合体のl、mおよびnが、0.01≦m/(l+m+n)≦0.1であることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載の硬化性組成物。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかに記載の硬化性組成物を硬化してなる硬化体。
[7]上記[1]〜[5]のいずれかに記載の硬化性組成物を300℃以下で反応させることを特徴とする硬化体の製造方法。
[8]上記[6]に記載の硬化体および膨潤剤から構成されることを特徴とする膨潤剤含有硬化体。
[9]膨潤剤の含有量が0.1重量%以上、99.9重量%以下であることを特徴とする上記[8に記載の膨潤剤含有硬化体。
[10]膨潤剤が水であることを特徴とする上記[8]または[9]に記載の膨潤剤含有架橋構造体。
[11]上記[6]に記載の硬化体、または上記[8]または[9]に記載の膨潤剤含有硬化体の生体組織または体液と接触する部分への使用。
【0010】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明のポリアルキレンオキサイド共重合体は、下記式(1)よりなる。
[ (CH2CH2O) l、(CH2CH(CH2OH)O) m 、(CH2CHRO) n ] (1)
式(1)におけるRは、炭素数1〜30の官能基またはハロゲン基であれば何ら限定されない。ここで、炭素数1〜30の化合物に由来する官能基には、ハロゲン原子および/またはヘテロ原子を含むことが可能である。本発明におけるハロゲン原子には、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。また、本発明のおけるヘテロ原子には、酸素、硫黄、窒素、リンが挙げられる。
本発明における炭素数1〜30の官能基には、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基などが挙げられる。本発明において、該炭化水素基にハロゲン原子および/またはヒドロキシル基等のヘテロ原子を含む官能基を有していても良い。
また、本発明における炭素数1〜30の官能基(R)は、Rが結合する炭素原子に直接結合していても、ヘテロ原子を介して結合していても良い。
【0011】
上記炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロデシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。上記不飽和炭化水素基としては、ビニル基、アリル基などが挙げられる。上記芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基などが挙げられる。
また、ヘテロ原子を介して上記官能基が結合した場合の官能基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、フェノキシ基などのエーテル結合を介した官能基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基などのチオエーテル結合を介した官能基、OCOCH3、OCOC25、OCOC65、などのエステル結合を介した官能基、OPO(OH)2などのリン酸エステル結合を介した官能基などが挙げられる。これらの中でも、入手のし易さ、取扱いの良さから炭化水素基およびエーテル結合を介した官能基がより好ましく、炭化水素基が特に好ましい。
本発明において、式(1)のRの炭素数が30を超える場合は、該共重合体の疎水性が高くなる傾向にあるため、硬化して得られる硬化体の吸水性が低下する傾向にあることから好ましくない。Rの炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10が特に好ましい。
【0012】
本発明における共重合体の末端は、硬化体の性能に影響を与えない構造であれば、特に制限はない。このような構造としては、ヒドロキシル基、アルコキシル基、さらには重合触媒に由来する有機金属化合物がエーテル結合を介して結合していても良い。その中でも、ヒドロキシル基が架橋剤との反応において硬化に関与する場合があり、得られる硬化体の破断強度が向上する傾向にあるため望ましい。
本発明における高分子主鎖に含有される各繰返し単位のmol%であるl、m、nは、l+m+n=100であり、かつ0.001≦m/(l+m+n)≦0.5であれば共重合体と架橋剤との反応の際に均一性が保たれ、かつ得られる硬化体が十分な強度を持つことが可能である。m/(l+m+n)が0.001未満の場合には、共重合体に含まれるヒドロキシル基の割合が小さいため得られる硬化体が十分な強度を保持することができない。また、m/(l+m+n)が0.5を超える場合には、架橋剤との反応に際し硬化が早く進行するため、共重合体と架橋剤の反応の際の均一性が保てない。そして、それに起因して得られる硬化体の強度が低くなる。共重合体と架橋剤の反応の際の均一性と得られる硬化体の強度のバランスを向上させるには0.005≦m/(l+m+n)≦0.3であることが好ましく、更に好ましくは0.01≦m/(l+m+n)≦0.1である。
【0013】
本発明の式(1)におけるnは、0≦n<100であるが、0≦n≦10の範囲が硬化して得られる硬化体の吸水性および破断強度が高くなるため好ましく、さらには、n=0の場合が特に好ましい。
本発明における重量平均分子量とは、既知の重量平均分子量のポリエチレンオキサイドを標準として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定されたものである。
本発明に用いる共重合体の重量平均分子量は500以上、1000000以下である。該分子量が500未満の場合は、得られる硬化体の破断強度が低下する。また1000000を超える場合は、共重合体の粘度が低く、成型性が著しく低下し、さらには、架橋剤を用いて硬化体を得る場合には、架橋剤との混練性が低く、均一に混練することが困難となり、また得られる硬化体の破断強度が低下する。本発明では、該分子量は1000以上、500000以下が好ましく、特に5000以上、100000以下が好ましい。
本発明で用いるポリアルキレンオキサイド共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であっても良い。
【0014】
以下に本発明に用いる共重合体の製造方法について説明する。
本発明の共重合体は、炭素−炭素−酸素からなる三員環であるオキシラン基を有する各種単量体化合物を、所望の共重合体組成になるように直接重合することにより得ても良いし、ハロゲンを有する各種単量体化合物を、所望の共重合体組成になるように重合した後に、公知の方法によって、ハロゲンをヒドロキシル基にすることにより得ても良いし、または、ヒドロキシル基を後工程で生成させる目的で、ヒドロキシル基を保護した単量体を共重合することにより保護基含有共重合体を得、次いで後工程としての脱保護反応により、ヒドロキシル基を生成させることにより本発明の共重合体を得ても良い。
本発明でも用いられる重合法には、特に制限は無いが、通常のエチレンオキサイド等のオキシラン化合物の重合に用いられる、触媒を用いた開環重合法が好適に用いられる。
【0015】
本発明における上記開環重合法は、塊状重合、溶液重合、スラリー重合等の形態で適宜実施可能であるが、反応熱の制御の観点から、溶液重合、スラリー重合が好適であり、さらには得られる共重合体の精製の簡便さの観点から、スラリー重合が特に好適である。
本発明において直接重合により共重合体を得る方法としては、エチレンオキサイドとグリシドールを共重合させる方法などが挙げられる。
本発明におけるハロゲンを有する各種単量体化合物を、所望の共重合体組成になるように重合した後に、公知の方法によって、ハロゲンをヒドロキシル基に置換することにより得る方法としては、エチレンオキサイドとエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンなどのハロゲンを有する化合物とを共重合させた後に、アルカリ処理などによってヒドロキシル基に変換する方法などが挙げられる。
所望の共重合体組成の制御が容易であるとの観点から、ヒドロキシル基を後工程で生成させる目的で、ヒドロキシル基を保護した単量体を共重合することにより保護基含有共重合体を得、次いで後工程としての脱保護反応により、ヒドロキシル基を生成させる方法が最も好適である。
【0016】
そこで、以下にスラリー重合による開環重合によってヒドロキシル基を保護した共重合体を得た後に、該保護基を脱保護することによって本発明の共重合体を得る方法を例に挙げて本発明に用いることができる共重合体の製造条件について説明する。
本発明で使用する重合溶媒としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテルのような炭素数2〜6のエーテル化合物、アセトン、メチルエチルケトンのような炭素数2〜6のケトン化合物、ノーマルペンタン、シクロペンタン、ノーマルヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリンのような炭素数5〜10の飽和炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリンのような炭素数6〜10の芳香族炭化水素化合物、酢酸メチル、酢酸エチルのような炭素数3〜6のエステル化合物、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンのような炭素数2〜10の含窒素化合物、ジメチルスルホキシドのような含硫黄化合物が挙げられる。また、無溶媒中でも実施される。これらの重合溶媒は、工業的な生産性、次反応への影響などを考慮して任意に選択可能であり、必要に応じて1種、あるいは2種以上の混合物であっても良い。特に好ましい溶媒としては炭素数2〜6のエーテル化合物および炭素数5〜10の飽和炭化水素化合物が挙げられる。
【0017】
本発明での重合触媒は特に制限はないが、トリアルキルアルミニウム、水酸化物、アルカリ金属アルコキシドなどの公知の化合物から適宜選択できる。具体的なこれらの化合物には、トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、トリフェニルアルミニウムや三フッ化ホウ素エーテル錯体、あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどの水酸化物、あるいはナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウム-tert-ブトキシド、カリウムプロポキシド、カリウム-tert-ブトキシド、カリウム-tert-2−メチル−2−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドが挙げられる。また、必要に応じて1種、あるいは2種以上の混合物であっても良い。この中でも特に、入手の容易さや反応の制御の観点からカリウム-tert-ブトキシド、トリエチルアルミニウム、トリフェニルアルミニウム、トリブチルアルミニウムが好ましい。
本発明での重合温度は15℃以上、120℃以下で実施することが好ましい。15℃以上あれば重合が開始され、また120℃以下であれば重合触媒の失活が無い。好ましくは20℃以上、100℃以下、さらに好ましくは20℃以上、80℃以下である。
【0018】
重合反応に要する時間は、目的あるいは重合条件によって異なるが、通常は96時間以内であり、特に好適には30分から30時間の範囲で実施される。
重合終了後における、本発明の共重合体の回収は、重合溶液中の固体を減圧濾過することに行うことができる。
以上、保護基を含んだ共重合体をスラリー重合方法による開環重合で得る方法を例として述べた。
続いて、上記重合方法により得られるヒドロキシル基を保護した共重合体から、保護基を脱保護する方法について説明する。
脱保護方法としては、導入した保護基によって、公知の方法を適宜選択可能である。例えば、t−ブチル基やエトキシエチル基などが保護基の場合は酸処理、アセチル基などが保護基の場合は塩基処理、ベンジル基などが保護基の場合には水素添加処理などが挙げられる。脱保護工程の簡便さから、酸処理による脱保護が好適に用いられる。
【0019】
そこで、以下に保護基としてt−ブチル基を用いた場合の本発明の共重合体を得る方法を例に挙げて、本発明に用いることができる共重合体の製造方法について説明する。
本発明において使用される脱保護溶媒としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテルのような炭素数2〜6のエーテル化合物、アセトン、メチルエチルケトンのような炭素数2〜6のケトン化合物、ノーマルペンタン、シクロペンタン、ノーマルヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリンのような炭素数5〜10の飽和炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリンのような炭素数6〜10の芳香族炭化水素化合物、酢酸メチル、酢酸エチルのような炭素数3〜6のエステル化合物、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンのような炭素数2〜10の含窒素化合物、ジメチルスルホキシドのような含硫黄化合物および水が挙げられる。また、無溶媒中でも実施される。これらの溶媒は、工業的な生産性、次反応への影響などを考慮して任意に選択可能であり、必要に応じて1種、あるいは2種以上の混合物であっても良い。特に好ましい溶媒としては、水、炭素数2〜6のエーテル化合物および炭素数3〜6のエステル化合物が挙げられる。
【0020】
本発明の脱保護に用いる酸は、特に制限されないが、無機酸、有機酸、ルイス酸およびイオン交換樹脂などの公知の化合物から適宜選択できる。具体的なこれらの化合物としては、塩酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸などの無機酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸などの有機酸、三臭化ホウ素などのルイス酸などが挙げられる。また、必要に応じて1種、あるいは2種以上の混合物であっても良い。この中でも特に、入手の容易さや反応の制御の観点から塩酸、硫酸、硝酸、イオン交換樹脂が好ましく、塩酸、イオン交換樹脂が特に好ましい。
本発明での脱保護反応温度は15℃以上、120℃以下で実施することが好ましい。15℃以上あれば反応が開始され、また120℃以下であれば副反応等が無い。好ましくは20℃以上、100℃以下、さらに好ましくは20℃以上、95℃以下である。
脱保護反応に要する時間は、反応条件によって異なるが、通常は96時間以内であり、特に好適には30分から30時間の範囲で実施される。
脱保護反応終了後における、本発明に用いる共重合体の回収は、反応溶液中の固体を減圧濾過することに行うことができる。
【0021】
本発明の共重合体の精製方法としては、共重合体を溶解させた後に、蒸留水を外液とする透析により行うことができる。得られた透析液を0.22μmのフィルターを用いて濾過することにより、更に精製することができる。これらの精製方法を繰り返すことにより、残留金属原子を必要十分な濃度に達するまで除去することができる。更に特別に高純度な共重合体が必要な場合には二酸化炭素超臨界法による抽出法も可能である。重合体中の残量金属原子濃度は上記の精製法を用いて0.01wtppm以上、1500wtppm以下にすることができる。好ましくは0.01wtppm以上、300wtppm以下、更に好ましくは0.01wtppm以上、10wtppm以下である。
【0022】
本発明に用いる分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物には特に制限はないが、デュラネート(商標)、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス−(p−イソシアネートフェニル)チオホスファイト、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、1,4−ジイソシアネートブタン、1,12−ジイソシアネートドデカン、1,6−ジイソシアネートヘキサン、1,5−ジイソシアネート−2−メチルペンタン、1,8−ジイソシアネートオクタン、1−クロロメチル−2,4−ジイソシアネートベンゼン、4,4‘−メチレンービス(シクロヘキシルイソシアネート)などが挙げられる。
これらの中で、デュラネート(商標)、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましく、デュラネート(商標)が特に好ましい。
本発明で用いるデュラネート(商標)には、ビウレット型、イソシアヌレート型、アダクト型などの構造が挙げられる。
【0023】
本発明における分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物および本発明の共重合体からなる硬化性組成物の組成割合は、硬化体を製造し得る割合であれば特に制限されない。分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物のイソシアネート基の当量をa、本発明の共重合体のヒドロキシル基の当量をbとすると、0.1≦a/b≦10であることが好ましい。a/bが0.1未満の場合は、強度の高い架橋構造体を製造することが困難となる。また、a/bが10を超える場合には未反応の化合物が残る。得られる架橋構造体の強度と未反応の化合物の残存の観点から、0.2≦a/b≦5がより好ましい。
本発明の共重合体と架橋剤とからなる硬化性組成物は、硬化体を製造する際もしくは得られる硬化体に悪影響を及ぼさない範囲で、その他の化合物を含有させることができる。
その他の化合物とは、ヒドロキシル基やアミノ基などの反応性官能基を有する化合物である。このような化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンオキサイド、ポリエチレングリコールーポリプロピレングリコールなどのヒドロキシル基を有する化合物やエチレンジアミン、エタノールアミン等のアミノ基を有する化合物などが挙げられる。
本発明におけるその他の化合物の含有量としては、本発明の共重合体と架橋剤とからなる硬化性組成物の量を100とした場合、得られる硬化体の強度と吸水性の観点から、通常15重量%以下である。
【0024】
続いて、本発明における硬化体の製造方法について説明する。
本発明の硬化体は、本発明の共重合体と架橋剤とからなる硬化性組成物を架橋することによって得ることができる。
本発明の架橋方法には、該硬化性組成物を水または有機溶媒に溶解及び/又は分散させることによっても得ることができ、また、該硬化性組成物を無溶媒下で反応させることによっても得ることができる。
該硬化性組成物を水または有機溶媒に溶解及び/又は分散させる方法としては、硬化性組成物を水または有機溶媒に溶解及び/又は分散させた後に、共重合体と架橋剤が反応し得る温度以上にて反応させる方法が挙げられる。また、必要に応じて、触媒を添加することができる。
該硬化性組成物を無溶媒下で反応させることによって得る方法としては、本発明の共重合体および架橋剤が溶融する温度以上で反応させることにより硬化体を得る方法が挙げられる。また、必要に応じて、触媒を添加することができる。
【0025】
得られる架橋構造体の強度および収率の観点から、該硬化性組成物を無溶媒下で反応させる方法が好ましい。そこで、以下、該硬化性組成物を無溶媒下で反応させる製造方法を例に挙げて、本発明の硬化体の製造方法を説明する。
本発明における硬化体を製造する場合の反応は、20℃以上、300℃以下の温度で実施することが好ましい。20℃以上であれば、共重合体および架橋剤の反応が開始され、300℃以下であれば、熱分解等の副反応が無い。好ましくは、30℃以上、250℃以下、さらに好ましくは、50℃以上、200℃以下である。
硬化体の製造に要する時間は、反応条件によって異なるが、通常は24時間以内であり、特に好適には1分から3時間の範囲で実施される。
本発明の硬化体の精製方法としては、水または有機溶媒に浸漬させることにより、不純物を取り除くことができる。
【0026】
本発明における硬化体は、膨潤剤を含んだ膨潤剤含有硬化体としても利用可能である。 本発明における膨潤剤とは、水または公知の有機溶媒の中から適宜選択可能である。この中でも、取扱いの良さや入手の容易さなどから水または炭素数1〜10のアルコール化合物が好ましく、水が特に好ましい。
本発明における水には、膨潤剤含有硬化体に悪影響を及ぼさない範囲で、無機塩または有機塩などを含有させることができる。本発明における無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどが挙げられる。有機塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどが挙げられる。
本発明における無機塩または有機塩の割合は、全組成物の重量を100重量%とした場合、通常15重量%以下である。
【0027】
本発明の膨潤剤含有硬化体における膨潤剤は、0.1重量%以上、99.9重量%以下であれば特に制限されない。0.1重量%以上であれば、膨潤剤含有硬化体中に均一に水分子が入り込むために好ましく、99.9重量%以下であれば、膨潤剤含有硬化体が十分な強度を持つことができる。好ましくは1重量%以上、99重量%以下であり、特に好ましくは5重量%以上、95重量%以下である。
本発明における共重合体、架橋構造体、膨潤剤含有硬化体は、医療材料として広く用いられているポリエチレングリコール骨格を有するため、優れた生体適合性を発揮し得る。本発明における生体適合性とは、生体と相互作用しないこと、または生体と干渉作用をしないこと、または生体に対して不活性であることを意味する。従って、本発明の共重合体、架橋構造体、膨潤剤含有架橋構造体は、その優れた生体適合性ゆえに、体液または生体組織などと接触する部分に用いることができる。体液とは、血液、リンパ液、脊髄液、関節液などが挙げられる。また、生体組織とは、臓器および組織を指し、肝臓、膵臓、腎臓、脾臓などの内臓組織や上皮組織、結合組織、血球・骨髄組織、筋肉、骨、軟骨、血管、目、脂肪組織、消化管・消化管粘膜、神経組織などが挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
<試薬>
実施例および比較例において用いた試薬である、ヘキサン(和光純薬工業社製、特級)、トリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液(Aldrich社製)およびカリウムt−ブトキシド1M;THF溶液(Aldrich社製)、エチレンオキサイド、t−ブチルグリシジルエーテル(Aldrich社製)、n−ブチルグリシジルエーテル(Aldrich社製)、蒸留水(和光純薬工業社製)、4N塩酸−1,4−ジオキサン(国産化学社製)、塩酸(和光純薬工業社製)、炭酸ナトリウム(和光純薬工業社製、特級)、ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製、生化学用)、牛血清アルブミン(SIGMA社製)は、特別な精製を実施せずに反応に用いた。
【0029】
<脱保護反応に用いた触媒>
本発明の脱保護反応を行う際に用いたイオン交換樹脂(BioRad Laboratories社製)は、20℃で5N塩酸水溶液中で24時間浸漬し、蒸留水で洗浄した後に用いた。
<精製>
重合により得られた共重合体を、蒸留水(共栄製薬社製)に溶解した後に、Spetra/Por Membrane(スペクトラポア社製、MWCO:12000−14000)(商標)に入れ、蒸留水を外液とする透析を2日間行った。次いで得られた水溶液をDURAPORE MEMBRANE FILTERS(MILLIPORE社製、フィルタータイプ0.22μm GV)(商標)により濾過し、凍結乾燥することにより精製を行った。
【0030】
<重量平均分子量測定>
本発明における重量平均分子量の測定法であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)は、下記の条件により測定を行った。
カラム:G4000PWXL(東ソー(株)製)、
G5000PWXL(東ソー(株)製)
以上2本を直列に配した。
移動相:20%アセトニトリル(50mM塩化リチウムを含む)
流速:0.8ml/分
カラム温度:40℃
ポンプ:L−6200((株)日立製作所製)
検出器:L−3300(RI:示差屈折計、(株)日立製作所製)
L−4200(UV−VIS:紫外可視吸光計、(株)日立製作所製)
また、該分子量を算出するための検量線は、スタンダードポリエチレンオキサイド(TOSOH製、重量平均分子量が2.40×104、5.00×104、1.07×105、1.40×105、2.5×105、5.4×105の6種類)を用いて作成した。
【0031】
<NMR測定>
NMR測定は、JEOL社製、JNM−GSX400を用いた。測定に用いた溶媒は、重ジメチルスルフォキシド(Cambridge Isotope Laboratories社製、純度99.9wt%、内部標準0.05wt%テトラメチルシラン含有)であり、共重合体5.0×10-3gに対して重ジメチルスルフォキシド5.0×10-4リットルの濃度で測定を行った。測定温度は30℃にて行った。
<共重合体の組成割合の測定>
本発明におけるエチレンオキサイド単量体に由来する繰り返し単位の組成割合lおよび(CH2CH(CH2OH)O)のヒドロキシル基をt−ブチル基で保護した繰り返し単位の組成割合pおよび(CH2CHRO) に由来する繰り返し単位の組成割合n(Rがn−ブチル基の場合について記述する)は、前述のNMR測定により求めた。前述の測定条件において、t−ブチル基に由来するピークは、δ1.11に観測された。また、n−ブチル基に由来するピークは、δ1.55に観測された。また、ポリエチレングリコールに由来するピークは、δ3.40〜4.15に観測された。そしてこれらの積分比から、組成割合mol%を求めた。また、t−ブチル基の組成割合pと脱保護反応後に得られるヒドロキシル基の組成割合mは同値であると仮定し、p=mとした。
【0032】
<硬化体の吸水量測定>
本発明における吸水量測定は、あらかじめ恒量になるまで乾燥させた硬化体の重量を測定(以下、乾燥重量とする)した後に、20℃で24時間、大多量の水中に浸漬することにより架橋構造体を膨潤させ、重量を測定(以下、膨潤重量とする)した。
そして、吸水量=(膨潤重量−乾燥重量)/乾燥重量、の式より吸水量を算出した。
<破断強度測定>
本発明における破断強度の測定(以下、強度測定とする)は、クリープメータRHEONER;33005(山電社製)を用いて行った。治具は、No.4、直径3mmのポリアセタール樹脂製プランジャーを用いた。速度は、0.5mm/分、歪率20%の応力を測定した。
【0033】
<タンパク吸着量測定>
本発明におけるタンパク吸着の測定は、厚さ1mmに加工した膨潤剤含有硬化体を直径13mmに切り取った後に、Costar 24穴プレート(商標)(コーニング社製、商品番号3542)に入れ、35mg/mlの牛血清アルブミン(SIGMA社製)溶液を加えた後に37℃で24時間で接触させた。この膨潤剤含有硬化体を大量のリン酸緩衝溶液中、室温で24時間浸漬した後に、1重量%Na2CO3−ドデシル硫酸ナトリウム水溶液を加え、60℃で24時間接触させることにより膨潤剤含有硬化体に吸着しているタンパクを抽出した。この抽出液をMicro BCA Protein Assay Reagent Kit(商標)(PIERCE社製)を用いてタンパク吸着量を測定した。
【0034】
[実施例1]
耐圧反応容器に、t−ブチルグリシジルエーテル(0.042l)、エチレンオキサイド(0.085l)、トリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液(4.5×10-3mol)、カリウムt−ブトキシド1M;THF溶液(0.5×10-3mol)、ヘキサン(0.25l)を加え、25℃で20時間反応を行った。析出した固体を減圧濾過した後に、蒸留水(共栄製薬社製)に溶解させ、Spetra/Por Membrane(スペクトラポア社製、MWCO:12000−14000)(商標)に入れ、蒸留水を外液とする透析を2日間行った。次いで得られた水溶液をDURAPORE MEMBRANE FILTERS(MILLIPORE社製、フィルタータイプ0.22μm GV)(商標)により濾過し、凍結乾燥することによりt−ブチル基で保護した共重合体を得た後に、t−ブチル基で保護した該共重合体(10.0g)と蒸留水(0.2l)および5M塩酸水溶液(0.007l)を入れ、90℃で24時間加熱撹拌した。この溶液を室温まで冷却した後に、減圧濃縮し、再び上記の精製を行うことにより目的の共重合体(1)を得た。
【0035】
[実施例2]
耐圧反応容器に、t−ブチルグリシジルエーテル(0.0136l)、エチレンオキサイド(0.1l)、トリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液(4.6×10-3mol)、カリウムt−ブトキシド1MTHF溶液(0.52×10-3mol)、ヘキサン(0.3l)を加え、25℃で20時間反応を行った。実施例1と同様の条件で回収、精製を行い、t−ブチル基で保護した共重合体を得た後に、t−ブチル基で保護した該共重合体(10.0g)と蒸留水(0.2l)およびイオン交換樹脂(0.024l)を入れ、90℃で24時間加熱撹拌した。この溶液を室温まで冷却した後に、減圧濃縮し、実施例1と同様の条件で回収、精製を行い目的の共重合体(2)を得た。
【0036】
[実施例3]
耐圧反応容器に、t−ブチルグリシジルエーテル(0.013l)、n−ブチルグリシジルエーテル(0.009l)、エチレンオキサイド(0.1l)、トリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液(5.0×10-3mol)、カリウムt−ブトキシド1M;THF溶液(0.7×10-3mol)、ヘキサン(0.3l)を加え、25℃で20時間反応を行った。実施例1と同様の条件で回収、精製を行い、t−ブチル基で保護した共重合体を得た後に、t−ブチル基で保護した該共重合体(10.0g)と4N塩化水素の1,4−ジオキサン溶液(0.2l)を入れ、25℃で24時間撹拌した。この溶液を減圧濃縮し、実施例1と同様の条件で回収、精製を行い目的の共重合体(3)を得た。
【0037】
[実施例4]
耐圧反応容器に、t−ブチルグリシジルエーテル(0.0132l)、エチレンオキサイド(0.1l)、トリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液(4.3×10-2mol)、カリウムt−ブトキシド1M;THF溶液(0.47×10-2mol)、ヘキサン(0.3l)を加え、25℃で20時間反応を行った。実施例1と同様の条件で回収、精製を行い、t−ブチル基で保護した共重合体を得た後に、t−ブチル基で保護した該共重合体(10.0g)と蒸留水(0.2l)およびイオン交換樹脂(0.024ml)を入れ、90℃で24時間加熱撹拌した。この溶液を室温まで冷却した後に、減圧濃縮し、実施例1と同様の条件で回収、精製を行い目的の共重合体(4)を得た。
表1に、本発明の共重合体(共重合体(1)〜(4))の重量平均分子量(Mw)およびl、m、n、m/(l+m+n)の値を記した。
【0038】
[実施例5]
150℃に保ったホットプレート上に、共重合体(1)(1.0g)およびイソシアヌレート型デュラネート(商標)であるTPA−100(0.17g)を置き、よく混練した後に10分間静置することにより、目的の硬化体(5)を得た。
[実施例6]
150℃に保ったホットプレート上に、共重合体(2)(1.0g)およびイソシアヌレート型デュラネート(商標)であるTPA−100(0.16g)を置き、よく混練した後に12分間静置することにより、目的の硬化体(6)を得た。
[実施例7]
150℃に保ったホットプレート上に、共重合体(3)(1.0g)およびイソシアヌレート型デュラネート(商標)であるTPA−100(0.17g)を置き、よく混練した後に10分間静置することにより、目的の硬化体(7)を得た。
【0039】
[実施例8]
150℃に保ったホットプレート上に、共重合体(4)(1.0g)およびイソシアヌレート型デュラネート(商標)であるTPA−100(0.28g)を置き、よく混練した後に9分間静置することにより、目的の硬化体(8)を得た。
[実施例9]
本発明の硬化体(5)〜(8)それぞれ(1.0g)を、50mlのサンプルビンに入れた後に、蒸留水(0.02l)を入れ、20℃で20時間浸漬することにより、目的の膨潤剤含有硬化体(9)〜(12)を得た。
[実施例10]
本発明の膨潤剤含有硬化体((9)〜(12))をNo.4、直径3mmのポリアセタール樹脂製プランジャーを用いて、クリープメータRHEONER、33005にて破断強度の測定を行った。速度は、0.5mm/分、歪率20%の応力を測定した。
【0040】
[実施例11]
本発明の膨潤剤含有硬化体((9)〜(12))を、厚さ1mmに加工した後に直径13mmに切り取り、Costar 24穴プレート(商標)に入れ、35mg/mlのアルブミン溶液(0.001l)を加えた後に、37℃で24時間で接触させた。この組成物をのリン酸緩衝溶液(10ml)中、室温で24時間浸漬した後に、1重量%Na2CO3−ドデシル硫酸ナトリウム水溶液(0.4ml)を加え、60℃で24時間接触させることにより膨潤剤含有硬化体に吸着しているアルブミンを抽出した。この抽出液をMicro BCA Protein Assay Reagent Kit(商標)を用いてタンパク吸着量を測定した。
表2に、本発明の膨潤剤含有硬化体((9)〜(12))の吸水量、破断強度、タンパク吸着量の値を記した。
【0041】
[比較例1]
耐圧反応容器に、t−ブチルグリシジルエーテル(4.2×10-3l)、エチレンオキサイド(0.085l)、トリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液(5.5×10-3mol)、カリウムt−ブトキシド1M;THF溶液(0.8×10-3mol)、ヘキサン(0.4l)を加え、25℃で20時間反応を行った。実施例1と同様の条件で回収、精製を行い、t−ブチル基で保護した共重合体を得た後に、耐圧容器に該共重合体(10g)および蒸留水(0.2l)および5M塩酸水溶液(0.007l)を入れ、90℃で24時間加熱撹拌した。この溶液を室温まで冷却した後に、減圧濃縮し、実施例1と同様の条件で回収、精製を行い共重合体を得た。
【0042】
[比較例2]
耐圧反応容器に、t−ブチルグリシジルエーテル(0.038l)、エチレンオキサイド(0.085l)、トリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液(1.3×10-5mol)、カリウムt−ブトキシド1M;THF溶液(0.7×10-5mol)、ヘキサン(0.4l)を加え、25℃で20時間反応を行った。実施例1と同様の条件で回収、精製を行い、t−ブチル基で保護した共重合体を得た後に、耐圧容器に該共重合体(10g)および蒸留水(2.0l)および5M塩酸水溶液(0.08l)を入れ、90℃で48時間加熱撹拌した。この溶液を室温まで冷却した後に、減圧濃縮し、実施例1と同様の条件で回収、精製を行い共重合体を得た。
【0043】
[比較例3]
耐圧反応容器に、t−ブチルグリシジルエーテル(0.21l)、エチレンオキサイド(0.085l)、トリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液(1.3×10-5mol)、カリウムt−ブトキシド1M;THF溶液(0.7×10-5mol)、ヘキサン(0.4l)を加え、25℃で20時間反応を行った。実施例1と同様の条件で回収、精製を行い、t−ブチル基で保護した共重合体を得た後に、耐圧容器に該共重合体(10g)および蒸留水(2.0l)および5M塩酸水溶液(0.08l)を入れ、90℃で48時間加熱撹拌した。この溶液を室温まで冷却した後に、減圧濃縮し、実施例1と同様の条件で回収、精製を行い共重合体を得た。
【0044】
[比較例4]
耐圧反応容器に、t−ブチルグリシジルエーテル(0.136l)、エチレンオキサイド(0.1l)、トリイソブチルアルミニウム1Mヘキサン溶液(0.85mol)、カリウムt−ブトキシド1MTHF溶液(0.083mol)、ヘキサン(0.3l)を加え、25℃で20時間反応を行った。実施例1と同様の条件で回収、精製を行い、t−ブチル基で保護した共重合体を得た後に、耐圧容器に該共重合体(10g)および蒸留水(2.0l)および5M塩酸水溶液(0.08l)を入れ、90℃で48時間加熱撹拌した。この溶液を室温まで冷却した後に、減圧濃縮し、実施例1と同様の条件で回収、精製を行い共重合体を得た。
【0045】
[比較例5]
150℃に保ったホットプレート上に、比較例1の共重合体(1.0g)およびイソシアヌレート型デュラネート(商標)であるTPA−100(0.08g)を置き、よく混練した後に28分間静置することにより、硬化体を得た。
[比較例6]
150℃に保ったホットプレート上に、比較例2の共重合体(1.0g)およびイソシアヌレート型デュラネート(商標)であるTPA−100(0.10g)を置き、よく混練した後に120分間静置することにより、硬化体を得た。
[比較例7]
150℃に保ったホットプレート上に、比較例3の共重合体(1.0g)およびイソシアヌレート型デュラネート(商標)であるTPA−100(0.30g)を置き、よく混練した後に120分間静置することにより、硬化体を得た。
【0046】
[比較例8]
150℃に保ったホットプレート上に、比較例4の共重合体(1.0g)およびイソシアヌレート型デュラネート(商標)であるTPA−100(0.20g)を置き、よく混練したが、硬化体を得ることはできなかった。
比較例3では、分子量が1000000を超える共重合体は、粘度が著しく低いことから、混練時に架橋剤と均一に混練しないため、混練時に硬化が開始してしまい、安定した硬化体の製造が困難であり、得られた硬化体の破断強度も著しく低いことがわかる。また、実施例1〜4および比較例1の比較から、ヒドロキシル基の割合が少ない共重合体を用いた硬化体は、強度が著しく低いことがわかる。また、比較例4で得られた共重合体は、吸湿が激しく、硬化体製造時に必要な共重合体の予備乾燥が困難であり、硬化体を得ることができなかった。以上のことから、本発明における共重合体により得られる硬化体は、強度と吸水性のバランスに優れることがわかった。また、実施例5〜8および比較例5〜8の比較から、本発明の架橋構造体は、アルブミンの吸着量が低いことがわかった。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の硬化性組成物を硬化することにより、十分な強度と吸水性を有する硬化体を得ることができる。また、本発明における硬化体、膨潤剤含有硬化体は、タンパク質および血小板と相互作用を起こさないという意味で、血漿蛋白接着抑制効果、血小板の粘着および活性化の抑制効果、補体系の活性化の抑制効果を有する。その結果、例えば、人工腎臓用膜、血漿分離膜、人工肺用膜、人工血管、癒着防止膜、創傷被覆材、人工皮膚、白血球除去膜、血漿蛋白回収・分離・除去膜、血小板回収、細胞回収・分離・除去膜等の生体材料、医療用材料、細胞分離用材料および細胞培養用材料の構成材料として使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A):分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物、(B):下記式(1)で表されるポリアルキレンオキサイド共重合体、とを含有することを特徴とする硬化性組成物。
[ (CH2CH2O) l、(CH2CH(CH2OH)O) m 、(CH2CHRO) n ] (1)
(ただし、式中l、m、nは高分子主鎖に含有される各繰返し単位のmol%を表わし、l+m+n=100である。l、m、nは、0<l<100、かつ0<m<100、かつ0≦n<100を満たす。また、0.001≦m/(l+m+n)≦0.5を満たし、かつ共重合体の重量平均分子量が500以上、1000000以下である。Rは炭素数1〜30の官能基またはハロゲン基である。)
【請求項2】
式(1)で表される共重合体が、n=0であることを特徴とする請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
(A):分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物、(B):式(1)で表されるポリアルキレンオキサイド共重合体、とを含有する組成物であって、(A)のイソシアネート基の当量aと(B)のヒドロキシル基の当量bが、0.1≦a/b≦10の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
当量比a/bが、0.2≦a/b≦5の関係を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項5】
(B):式(1)で表されるポリアルキレンオキサイド共重合体のl、mおよびnが、0.01≦m/(l+m+n)≦0.1であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の硬化性組成物を硬化してなる硬化体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の硬化性組成物を300℃以下で反応させることを特徴とする硬化体の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の硬化体および膨潤剤からなることを特徴とする膨潤剤含有硬化体。
【請求項9】
膨潤剤の含有量が0.1重量%以上、99.9重量%以下であることを特徴とする請求項8に記載の膨潤剤含有硬化体。
【請求項10】
膨潤剤が水であることを特徴とする請求項8または9に記載の膨潤剤含有架橋構造体。
【請求項11】
請求項6に記載の硬化体、または請求項8または9に記載の膨潤剤含有硬化体の生体組織または体液と接触する部分への使用。

【公開番号】特開2006−233026(P2006−233026A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49942(P2005−49942)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】