説明

硬質発泡合成樹脂およびその製造方法

【課題】寸法安定性が良好で、充分な断熱性能を有する硬質発泡合成樹脂が得られ、製造安定性も良好である、硬質発泡合成樹脂を提供する。
【解決手段】ポリオール成分(Z)とポリイソシアネート化合物とを、発泡剤、整泡剤および触媒の存在下で反応させて得られる硬質発泡合成樹脂であって、無機酸化物粒子(P)を、含フッ素アルキル基および/または含フッ素芳香族基を有する含フッ素化合物(f)で表面処理してなるフッ素処理無機粒子(F)を含有することを特徴とする硬質発泡合成樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質発泡合成樹脂およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを発泡剤等の存在下で反応させて製造される硬質発泡合成樹脂(例えば、硬質ポリウレタンフォーム、硬質ヌレートフォーム等;以下、「硬質フォーム」ということがある。)は、独立気泡を有する断熱材として広く用いられる。
【0003】
硬質フォームの製造に用いられる発泡剤について、近年、環境への負荷を考慮して、低沸点のハイドロフルオロカーボン化合物を削減して水を増やす技術、引火性の点を考慮して、炭化水素化合物を削減して水を増やす技術、または、ハイドロフルオロカーボン化合物および炭化水素化合物のいずれも使用しないで水だけを使用する技術が検討されている。
しかし、発泡剤として水を用いると硬質フォームの収縮が生じやすいため、寸法安定性を向上させる技術が必要となる。硬質フォームの収縮の問題は、特に低密度の硬質フォームにおいて顕著である。
【0004】
硬質フォームの寸法安定性を改善する手法として、硬質フォームの気泡を連続気泡にする方法がある。しかしながらこの方法では断熱性能が損なわれるという問題がある。
独立気泡を維持しつつ寸法安定性を向上させる方法として、ポリオール成分中にポリマー分散ポリオールを配合する方法が提案されている(例えば特許文献1、2)。ここでのポリマー分散ポリオールは、ポリオール中で重合性不飽和基を有するモノマーの重合を行って得られる、ポリマー微粒子が分散したポリオールである。
また、有機オニウムイオン(芳香族系アンモニウムイオン)によりカチオン交換された無機層状物質を用いることにより、硬質フォームの独立気泡率を維持しつつ寸法安定性を向上させる方法が提案されている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−25313号公報
【特許文献2】特開平11−302340号公報
【特許文献3】特開2006−124689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載されているようなポリマー分散ポリオールを用いる方法にあっては、ポリオール中でモノマーを重合させる方法で均一なポリマー粒子を製造するのが容易でなく、温度管理・攪拌速度・モノマーの投入速度等、種々の条件の最適化をするにあたり試行錯誤を繰り返す必要がありうる。このため、安定した品質のポリマー分散ポリオールを製造するのが難しいという問題があり、ポリマー分散ポリオールを用いなくても、硬質フォームの寸法安定性と断熱性能を両立できる方法が望まれる。
また、特許文献3に記載されているような無機層状物質を用いる方法にあっては、層間に有機オニウムイオンを挿入するものであり化学的に固定化されていないため、耐熱性が不十分になる傾向にある。
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、寸法安定性が良好で、充分な断熱性能を有する硬質発泡合成樹脂が得られ、耐熱性、製造安定性も良好である、硬質発泡合成樹脂およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記[1]〜[10]の発明である。
[1]ポリオール成分(Z)とポリイソシアネート化合物とを、発泡剤、整泡剤および触媒の存在下で反応させて得られる硬質発泡合成樹脂であって、無機酸化物粒子(P)を、含フッ素アルキル基および/または含フッ素芳香族基を有する含フッ素化合物(f)で表面処理してなるフッ素処理無機粒子(F)を含有することを特徴とする硬質発泡合成樹脂。
[2]前記含フッ素化合物(f)が、下式(1)で表される含フッ素シランカップリング剤(f1)を含む、[1]の硬質発泡合成樹脂。
(Rf−L)−SiX3−a …(1)
(式中、Rfは炭素数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状の含フッ素アルキル基、または炭素数6〜14の含フッ素芳香族基を表す。Lは炭素数10以下の2価の連結基を表し、Xは水酸基または加水分解可能な基を表す。Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の1価の有機基(加水分解性基を除く。)、または(Rf−L)−を示す。aは1〜3の整数を表す。aが2または3の場合、2個または3個のXは互いに同一でも異なっていてもよい。aが1または2の場合、2個または3個のRは互いに同一でも異なっていてもよい。Rが(Rf−L)−の場合、Rと(Rf−L)−は互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0008】
[3]前記含フッ素シランカップリング剤(f1)が、下式(2)で表される含フッ素シランカップリング剤(f2)を含む、[2]の硬質発泡合成樹脂。
2n+1−(CH−SiX3−a …(2)
(式中、nは1〜10の整数を表し、mは1〜5の整数を表す。Xは炭素数1〜5のアルコキシ基またはハロゲン原子を表す。Rは水素原子、または置換基を有していてもよい炭素数1〜20の1価の有機基(加水分解性基を除く。)を示す。aは1〜3の整数を表す。aが2または3の場合、2個または3個のXは互いに同一でも異なっていてもよい。aが1または2の場合、2個または3個のRは互いに同一でも異なっていてもよい。)
[4]前記無機酸化物粒子(P)がシリカ粒子である、[1]〜[3]の硬質発泡合成樹脂。
[5]前記フッ素処理無機粒子(F)の配合量が、前記ポリオール成分(Z)の100質量部に対して0.01〜10質量部である、[1]〜[4]に記載の硬質発泡合成樹脂。
[6]前記ポリオール成分(Z)の平均水酸基価が200〜800mgKOH/gである、[1]〜[5]の硬質発泡合成樹脂。
[7]前記発泡剤として、水のみ、またはハイドロフルオロカーボン化合物および炭化水素化合物から選ばれる少なくとも1種と水とを使用する、[1]〜[6]の硬質発泡合成樹脂。
[8]前記発泡剤として水のみを用い、該水の使用量が、ポリオール成分(Z)の100質量部に対して1〜20質量部である、[1]〜[7]の硬質発泡合成樹脂。
【0009】
[9]ポリオール成分(Z)、ポリイソシアネート化合物、発泡剤、整泡剤および触媒を含む発泡原液組成物を発泡させる工程を有し、前記発泡原液組成物に、含フッ素アルキル基および/または含フッ素芳香族基を有する含フッ素化合物(f)で表面処理された無機酸化物粒子(P)からなるフッ素処理無機粒子(F)を含有させることを特徴とする硬質発泡合成樹脂の製造方法。
[10]前記発泡原液組成物が、ポリオール成分(Z)を含有するポリオールシステム液と、ポリイソシアネート化合物を含有する液とを混合する工程を経て調製され、該ポリオールシステム液、またはポリイソシアネート化合物を含有する液の少なくとも一方に前記フッ素処理無機粒子(F)を含有させる、[9]の硬質発泡合成樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硬質発泡合成樹脂は、寸法安定性が良好で、充分な断熱性能を有する。耐熱性、製造安定性も良好である。
本発明の硬質発泡合成樹脂の製造方法によれば、寸法安定性が良好で、充分な断熱性能および耐熱性を有する硬質発泡合成樹脂を安定して製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、ポリオール成分(Z)は、ポリイソシアネート化合物との反応に用いられるポリオール全体を意味し、1種のポリオールまたは2種以上のポリオール混合物からなる。好ましくはポリオール混合物である。
本発明におけるポリオールの水酸基価の値は、JIS K9511に準拠して測定した値である。
本発明において、ポリオール成分(Z)平均水酸基価とは、ポリオール成分(Z)を構成するポリオール化合物全体の水酸基価の、ポリオール1g当たりの平均値を意味する。
本発明における無機酸化物粒子(P)の平均粒子径は、JIS K1150に準拠して測定した値である。
本発明において、含フッ素アルキル基または含フッ素芳香族基の炭素数とは、フッ素原子が結合している炭素を全て含み、炭素数が最小となる1価基の炭素数である。
本発明において、発泡原液組成物とは発泡反応させる組成物を意味し、反応に用いる全成分を含む組成物である。
本発明におけるポリオールシステム液とは、ポリイソシアネート化合物と反応させる相手の液であり、ポリオール成分(Z)のほかに発泡剤、整泡剤、触媒、難燃剤等、必要に応じた配合剤を任意に含む液である。ポリオールシステム液は、ポリイソシアネート化合物を含まない。
本発明における、ポリイソシアネート化合物を含有する液は、ポリイソシアネート化合物のみからなっていてもよく、保存中にポリイソシアネート化合物と反応しない成分であれば、必要に応じた配合剤を任意に含んでいてもよい。
【0012】
<硬質発泡合成樹脂>
本発明の硬質発泡合成樹脂は、ポリオール成分(Z)とポリイソシアネート化合物とを、発泡剤、整泡剤および触媒の存在下で反応させて得られる硬質フォームであって、特定のフッ素処理無機粒子(F)を含有する。
【0013】
[フッ素処理無機粒子(F)]
フッ素処理無機粒子(F)は、無機酸化物粒子(P)を含フッ素化合物(f)で表面処理したものである。硬質フォームにフッ素処理無機粒子(F)を含有させることにより、硬質フォームの寸法安定性が向上すると同時に、良好な断熱性能も得られる。
本発明において、無機酸化物粒子(P)が含フッ素化合物(f)で表面処理されているとは、無機酸化物粒子(P)の表面上の一部または全部に含フッ素化合物(f)が存在していることを意味する。無機酸化物粒子(P)と含フッ素化合物(f)との間に、化学的相互作用および/または化学的結合が生じていることが好ましい。
含フッ素化合物(f)が無機酸化物粒子(P)の表面上に存在する状態で硬質フォームに含有されていると、発泡時に泡がマルチセルになり、得られる硬質フォームの機械的強度が向上する。機械的強度が向上することにより、発泡倍率を増やして軽量化することが可能になる。またマルチセルになることによりセルが安定して独立気泡率が向上し、断熱性能も向上する。さらに、無機酸化物粒子(P)が含フッ素化合物(f)で表面処理されることにより、発泡原液組成物中でフッ素処理無機粒子(F)が安定的に存在できるので、製造安定性が良好になる。
【0014】
本発明のフッ素処理無機粒子(F)はフッ素原子含有量が0.01〜40質量%であるのが好ましく、より好ましくは0.1〜30質量%である。0.01質量%以上であると、得られる硬質フォームの寸法安定性が向上すると同時に、良好な断熱性能が得られ、40質量%以下であると、硬質フォームのセルアレを抑えられ、良好な断熱性能を維持することができる。
【0015】
(含フッ素化合物(f))
本発明における含フッ素化合物(f)は、含フッ素アルキル基および/または含フッ素芳香族基を有する化合物である。1分子中に含フッ素アルキル基と含フッ素芳香族基の両方を有する化合物でもよいが、1分子中に含フッ素アルキル基または含フッ素芳香族基のいずれか一方を有する化合物が好ましい。
含フッ素化合物(f)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
含フッ素化合物(f)における含フッ素アルキル基は、直鎖状、分岐状または環状のアルキル基の、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された1価基である。含フッ素アルキル基の炭素数は1〜20が好ましい。1以上であると硬質フォームの寸法安定性および断熱性能の改善効果が発現され、20以下であるとセルアレを抑制できる。該炭素数は1〜10がより好ましく、3〜8がさらに好ましい。
含フッ素アルキル基は、得られる硬質フォームの寸法安定性および断熱性能の点で、直鎖状または分岐状がより好ましく、直鎖状がさらに好ましい。
含フッ素アルキル基はアルキル基の水素原子の全部がフッ素原子で置換されたパーフルオロアルキル基がより好ましい。特に炭素数3〜8の直鎖状または分岐状のアルキル基の水素原子の全部がフッ素原子で置換されたパーフルオロアルキル基が好ましい。
【0017】
含フッ素化合物(f)における含フッ素芳香族基は、芳香族環を含む1価の炭化水素基の、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された基である。含フッ素芳香族基の炭素数は6〜14が好ましい。含フッ素芳香族基としてはフェニル基の水素原子の全部がフッ素原子で置換された1価基が好ましい。
【0018】
本発明の含フッ素化合物(f)はフッ素原子含有量が10〜80質量%であるのが好ましく、より好ましくは30〜70質量%である。10質量%以上であると、得られる硬質フォームの寸法安定性が向上すると同時に、良好な断熱性能が得られ、80質量%以下であると、硬質フォームのセルアレを抑えられ、良好な断熱性能を維持することができる。
【0019】
無機酸化物粒子(P)を表面処理したときに、無機酸化物粒子(P)との間に化学的相互作用および/または化学的結合を生じ得る含フッ素化合物(f)としては、含フッ素アルキル基および/または含フッ素芳香族基を有する、界面活性剤またはカップリング剤が好ましい。無機酸化物粒子(P)を表面修飾しやすい点でカップリング剤(チタンカップリング剤、シランカップリング剤等)がより好ましく、特に無機酸化物粒子(P)とより反応しやすい点でシランカップリング剤が好ましい。
含フッ素アルキル基および/または含フッ素芳香族基を有するシランカップリング剤としては、上式(1)で表される含フッ素シランカップリング剤(f1)が好ましい。
すなわち、含フッ素化合物(f)が含フッ素シランカップリング剤(f1)を含むことが好ましく、含フッ素化合物(f)のうちの10〜80質量%として含フッ素シランカップリング剤(f1)を用いることが好ましい。より好ましくは20〜70質量%、最も好ましくは30〜60質量%である。
【0020】
上式(1)において、Rfは炭素数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状の含フッ素アルキル基、または炭素数6〜14の含フッ素芳香族基を表す。好ましい態様は、上記含フッ素化合物(f)における含フッ素アルキル基または含フッ素芳香族基とそれぞれ同じである。
上式(1)において、Lは炭素数10以下の2価の連結基を表す。Lはフッ素原子を含まない。Lは内部にエーテル結合、エステル結合、またはアミド結合等の連結基(以下、内部連結基という。)を含んでいてもよい炭化水素基が好ましい。該炭化水素基は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えばハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、カルボキシル基、エポキシ基、アルキル基、アリール基等が挙げられる。
Lは炭素数1〜10のアルキレン基が好ましく、炭素数1〜5のアルキレン基がより好ましい。該アルキレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、前記置換基を有していてもよく、前記内部連結基を有していてもよい。
Lとして特に、−C−、−C−、−OC−が好ましい。
【0021】
上式(1)において、Xは水酸基または加水分解可能な基を表す。加水分解可能な基とは、ケイ素原子に直結し、加水分解反応および/又は縮合反応によってシロキサン結合を生じ得る基をいう。該加水分解性基としては、炭素数1〜5のアルコキシ基またはハロゲン原子が好ましく、メトキシ基、エトキシ基、または塩素原子がさらに好ましい。特に無機酸化物粒子(P)と均一に反応しやすい点でエトキシ基が好ましい。aが2または3の場合、2個または3個のXは互いに同一でも異なっていてもよい。
上式(1)において、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の1価の有機基(加水分解性基を除く。)、または(Rf−L)−が好ましい。該置換基を有していてもよい炭素数1〜20の1価の有機基としては、該置換基を有していてもよい炭素数1〜5の1価の有機基がより好ましく、メチル基、エチル基がさらに好ましい。aが1または2の場合、2個または3個のRは互いに同一でも異なっていてもよい。Rが(Rf−L)−の場合、Rと(Rf−L)−は互いに同一でも異なっていてもよい。
上式(1)において、aは1〜3の整数を表す。1分子中にRf、L、XまたはRがそれぞれ複数存在するとき、それらは互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。aは無機酸化物粒子(P)と含フッ素シランカップリング剤(f1)との反応性の点で3が好ましい。
【0022】
上式(1)で表される含フッ素シランカップリング剤(f1)の中でも、上式(2)で表される含フッ素シランカップリング剤(f2)が好ましい。
上式(2)は、上式(1)において、Rfが炭素数1〜10の、直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基であり、Lが炭素数1〜5の直鎖状のアルキレン基(内部連結基を有しない)であり、XがX(炭素数1〜5のアルコキシ基またはハロゲン原子)であり、RがR(水素原子、または置換基を有していてもよい炭素数1〜20の1価の有機基)であるものに該当する。
【0023】
以下に、上式(1)または(2)で表される含フッ素シランカップリング剤の具体例を示すが、これに限定されるものではない。これらの化合物は例えば特開平11−189599号公報に記載の方法によって合成することができる。市販品からも入手可能である。
【0024】
【化1】

【0025】
【化2】

【0026】
(無機酸化物粒子(P))
無機酸化物粒子(P)は、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモンおよびセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物からなる粒子であることが好ましい。
具体例としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化アンチモン、酸化セリウム等の粒子を挙げることができる。これらのうち、シリカ粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子または酸化アンチモン粒子が好ましく、特に、より軽量の硬質フォームが得られやすい点でシリカ粒子が好ましい。
無機酸化物粒子(P)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
無機酸化物粒子(P)の平均粒子径は特に限定されないが、良好な断熱性能が得られやすい点で5nm以上が好ましく、セルアレを抑制する(ハンドリングの)点で3,000nm以下が好ましい。より好ましくは10〜2,000nmであり、さらに好ましくは20〜1,000nmである。なお、該無機酸化物粒子(P)の平均粒子径は、JIS K1150に準拠して測定した値である。
【0028】
無機酸化物粒子(P)の形状は、特に限定されない。例えば、球状、中空状、多孔質状、棒状、板状、繊維状、または不定形状であってよい。表面上への均一な修飾を行いやすい点では球状が好ましい。
無機酸化物粒子(P)は乾燥粉末を用いることが好ましい。乾燥粉末状の無機酸化物粒子(P)は市販品から入手できる。
【0029】
[フッ素処理無機粒子(F)の製造方法]
フッ素処理無機粒子(F)は、無機酸化物粒子(P)を含フッ素化合物(f)で表面処理することによって得られる。表面処理は公知の方法で行うことができるが特に限定されない。公知の方法としては、乾燥粉末状の無機酸化物粒子(P)と含フッ素化合物(f)を溶媒中で攪拌する方法が挙げられる。
以下、乾燥粉末状の無機酸化物粒子(P)を用いる場合の実施形態について説明する。
【0030】
無機酸化物粒子(P)の表面処理方法は、無機酸化物粒子(P)を溶媒(S)に分散させ、含フッ素化合物(f)を加えて所定時間攪拌して混合することによってフッ素処理無機粒子(F)を得る方法が好ましい。こうして得られる、溶媒(S)中にフッ素処理無機粒子(F)を含有する分散液は、フッ素処理無機粒子(F)だけを分離して、発泡原液組成物に含有させてもよく、分散液の状態で無機酸化物粒子(P)と溶媒(S)を発泡原液組成物に含有させてもよい。操作が簡単である点、および溶媒除去の際の粒子凝集をなくす点からは分散液を配合することが好ましい。
【0031】
含フッ素化合物(f)の使用量は、使用する無機酸化物粒子(P)の種類や平均粒子径、含フッ素化合物(f)のフッ素含有量などにより適宜選択される。無機酸化物粒子(P)の100質量部に対して、0.1〜80質量部の範囲が好ましく、0.1〜50質量部がより好ましい。0.1質量部以上であると得られる硬質フォームが良好な断熱性能を有し、100質量部以下であるとセルアレが抑制できる。
【0032】
溶媒(S)としては、無機酸化物粒子(P)および含フッ素化合物(f)を均一に分散できるものであればよく、特に限定されない。
溶媒(S)中にフッ素処理無機粒子(F)を含有する分散液の状態で発泡原液組成物に配合する場合、溶媒(S)は、発泡原液組成物の調製時に容易に除去できるものが好ましい。具体的には、フッ素処理無機粒子(F)を添加した液を攪拌したときに、溶媒(S)が大気中に放出される程度に、溶媒(S)の揮発性が高いことが好ましい。かかる溶媒(S)の具体例としては、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;フルオロカーボン化合物、ハイドロフルオロカーボン化合物等の含フッ素溶剤;が挙げられる。
フルオロカーボン化合物としては、例えばパーフルオロメタン、パーフルオロエタン、パーフルオロプロパン、パーフルオロブタン等のパーフルオロアルカン化合物が挙げられる。
ハイドロフルオロカーボン化合物としては、例えば1、1、1、2−テトラフルオロエタン、1、1、1−トリフルオロエタン、1、1、2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、C13OCH、COCH、COC、CHF−CH(CH)OCHF等が挙げられる。
溶媒(S)は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
溶媒(S)として、無機酸化物粒子(P)の安定分散の点で炭素数1〜10のハイドロフルオロカーボン化合物がより好ましい。
溶媒(S)の使用量は特に限定されないが、無機酸化物粒子(P)の安定分散の点で、無機酸化物粒子(P)の100質量部に対して、100〜1,000質量部が好ましく、300〜800質量部がより好ましい。
【0033】
[ポリオール成分(Z)]
ポリオール成分(Z)は、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、末端に水酸基を有する炭化水素系ポリマー等の、硬質フォームを製造する際に用いられるポリオールとして公知のポリオール(本明細書において、「硬質フォーム用ポリオール」という。)を使用することができる。
硬質フォーム用ポリオールは、その平均官能基数が2〜8であることが好ましい。ポリオールの官能基とは、ポリイソシアネート化合物と反応する基(水酸基)を意味し、例えばポリエーテルポリオールの官能基数は、該ポリエーテルポリオールを製造する際に使用した開始剤の活性水素数に等しい。官能基数が互いに異なる2種以上のポリオール混合物における平均官能基数は、該混合物全体の官能基数のポリオール1分子当たりの平均値である。
【0034】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば多価アルコール、多価フェノール等のポリヒドロキシ化合物やアミン類等の開始剤に、アルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド等)等の環状エーテルを開環付加重合させて得られるものを使用することができる。
開始剤として具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、水、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、テトラメチロールシクロヘキサン、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、シュークロース、トリエタノールアミン等の多価アルコール;ビスフェノールA、フェノール−ホルムアルデヒド初期縮合物等の多価フェノール;ピペラジン、アニリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、イソプロパノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、アンモニア、アミノメチルピペラジン、アミノエチルピペラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアミノ化合物;またはこれらの環状エーテル付加物が挙げられる。
【0035】
ポリエステルポリオールとしては、例えば多価アルコールと多価カルボン酸との重縮合によって得られるポリエステルポリオールを使用することができる。その他、例えばヒドロキシカルボン酸の重縮合、環状エステル(ラクトン)の重合、ポリカルボン酸無水物への環状エーテルの重付加、または廃ポリエチレンテレフタレートのエステル交換反応によって得られるポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0036】
末端に水酸基を有する炭化水素系ポリマーとしては、例えばポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリブタジエンポリオールを使用することができる。
【0037】
本発明において、ポリオール成分(Z)は、少なくともポリエーテルポリオールを含むことが、水との相溶性、得られる硬質フォームの機械的強度、気泡外観が向上する点で好ましい。ポリオール成分(Z)のうちの20〜100質量%がポリエーテルポリオールであることがより好ましい。該ポリエーテルポリオール以外に、ポリエステルポリオール、末端に水酸基を有する炭化水素系ポリマー等を併用してもよい。
ポリオール成分(Z)の平均水酸基価は200〜800mgKOH/gであり、200〜700mgKOH/gが好ましく、200〜600mgKOH/gがより好ましい。該平均水酸基価が200mgKOH/g以上であると、得られる硬質フォームの強度が出やすいため好ましい。該平均水酸基価が800mgKOH/g以下であると、得られる硬質フォームの脆さが出難いため好ましい。
【0038】
[ポリイソシアネート化合物]
ポリイソシアネート化合物としては、特に制限はなく、硬質フォームを製造する際に用いられるポリイソシアネート化合物として公知のものを適宜使用できる。
例えばイソシアネート基を2以上有する芳香族系、脂環族系または脂肪族系等のポリイソシアネート;該ポリイソシアネートの2種類以上の混合物;それらを変性して得られる変性ポリイソシアネート等が挙げられる。
具体例としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(通称:クルードMDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)等のポリイソシアネートまたはそれらのプレポリマー型変性体、イソシアヌレート変性体、ウレア変性体、カルボジイミド変性体等が挙げられる。これらのうちで、TDI、MDI、クルードMDIまたはそれらの変性体が好ましい。
ポリイソシアネート化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
[発泡剤]
発泡剤としては、特に制限はなく、硬質フォームを製造する際に用いられる発泡剤として公知のものを適宜使用できる。環境への負荷軽減の点で、発泡剤の一部または全部として水を用いることが好ましい。すなわち、発泡剤として水のみを用いるか、水と水以外の発泡剤とを併用することが好ましい。
水以外の発泡剤としては、ハイドロフルオロカーボン化合物、炭化水素化合物、下記の汎用ガスを用いることができる。特に、ハイドロフルオロカーボン化合物および炭化水素化合物から選ばれる少なくとも1種が好ましく、これらを水と併用することにより、発泡効果が向上し、硬質フォームの軽量化を図りやすくなる。
【0040】
ハイドロフルオロカーボン化合物としては、例えば1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルジフルオロメチルエーテル(HFE−236pc)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル(HFE−254pc)、1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロプロピルメチルエーテル(HFE−347mcc)等が挙げられる。
炭化水素化合物としては、例えばブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。
汎用のガスとしては、空気または不活性ガス(窒素、炭酸ガス)が挙げられる。特に炭酸ガスが好ましい。不活性ガスの添加状態は、液状態、超臨界状態、亜臨界状態のいずれでも構わない。
発泡剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
[整泡剤]
整泡剤としては、特に制限はなく、硬質フォームを製造する際に用いられる整泡剤として公知のものを適宜使用できる。特にシリコーン系整泡剤は、セル径を小さくできる整泡効果が高く、セル径が小さいと硬質フォームの断熱性能が向上しやすいため好ましい。整泡剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
[触媒]
触媒としては、ウレタン化反応を促進する触媒(以下、ウレタン化触媒という。)および/またはイソシアネート基の三量化反応を促進させる触媒(以下、三量化反応促進触媒という。)を用いる。これらは公知のものを適宜使用できる。
例えばウレタン化触媒としては、トリエチレンジアミン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン等の3級アミン類;ジブチルスズジラウレート等の有機金属化合物が挙げられる。三量化反応促進触媒としては、酢酸カリウム、2−エチルヘキサン酸カリウム等のカルボン酸金属塩等が挙げられる。
【0043】
[その他の配合剤]
本発明においては、必要に応じて任意の配合剤を使用してもよい。
配合剤としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の充填剤;酸化防止剤、紫外線吸収剤等の老化防止剤;難燃剤、可塑剤、着色剤、抗カビ剤、破泡剤、分散剤、変色防止剤等が挙げられる。これらは硬質フォームを製造する際に用いられる配合剤として公知のものを適宜使用できる。
【0044】
<硬質フォームの製造方法>
本発明の硬質発泡合成樹脂は、ポリオール成分(Z)、ポリイソシアネート化合物、発泡剤、整泡剤および触媒を含む発泡原液組成物を発泡させる工程を有する硬質発泡合成樹脂の製造方法において、前記発泡原液組成物に、フッ素処理無機粒子(F)を含有させることにより製造できる。
【0045】
発泡原液組成物が、ポリオール成分(Z)を含有するポリオールシステム液と、ポリイソシアネート化合物を含有する液とを混合する工程を経て調製され、該ポリオールシステム液と、ポリイソシアネート化合物を含有する液の少なくとも一方に、フッ素処理無機粒子(F)を含有させることが、軽量かつ良好な断熱性能を有する硬質フォームが得られやすい点で好ましい。
発泡剤は、ポリオールシステム液に予め配合しておいてもよく、ポリオールシステム液と、ポリイソシアネート化合物を含有する液とを混合した後に発泡剤を配合して発泡原液組成物としてもよい。発泡剤とポリオール成分(Z)の相溶性、得られる硬質フォームの機械的強度、気泡外観が向上する点で、予め、ポリオールシステム液に発泡剤を配合しておくことが好ましい。
フッ素処理無機粒子(F)はポリオールシステム液に含有させることが良好な断熱性能を有する硬質フォームが得られやすい点で好ましい。この場合、フッ素処理無機粒子(F)を、ポリオールシステム液の原料(ポリオール成分(Z)、発泡剤、整泡剤、触媒、またはその他の配合剤)と予め混合したものを用いて、ポリオールシステム液を調製してもよい。
【0046】
フッ素処理無機粒子(F)の配合量は、無機酸化物粒子(P)への含フッ素化合物(f)の被覆量、無機酸化物粒子(P)の平均粒子径などにより適宜選択される。ポリオール成分(Z)の100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましく、0.5〜3質量部がさらに好ましい。フッ素処理無機粒子(F)の配合量が0.01質量部以上であると寸法安定性が良好となりやすく、10質量部以下であると、セルアレが起こりにくく断熱性能が良好となりやすい。
【0047】
発泡剤として用いる水の使用量は、ポリオール成分(Z)の100質量部に対して、1〜15質量部が好ましく、2〜13質量部がより好ましく、4〜12質量部がさらに好ましい。水の使用量が1質量部以上であれば、得られる硬質フォームの軽量化の点で好ましい。一方、水の使用量が15質量部以下であれば、水とポリオール成分(Z)との混合性がより良好になりやすい。
発泡剤として水のみを用いる場合の使用量は、ポリオール成分(Z)の100質量部に対して、1〜20質量部が好ましく、2〜15質量部がより好ましく、4〜10質量部がさらに好ましい。
発泡剤として水以外のものを併用する際、水以外のものとしてハイドロフルオロカーボン化合物を用いる場合の使用量は、ポリオール成分(Z)の100質量部に対して、1〜50質量部が好ましく、20〜40質量部がより好ましい。
炭化水素化合物を用いる場合の使用量は、ポリオール成分(Z)の100質量部に対して、1〜40質量部が好ましく、10〜20質量部がより好ましい。
空気または不活性ガスを用いる場合の使用量は、ポリオール成分(Z)の100質量部に対して、1〜100質量部が好ましく、1〜20質量部がより好ましい。
【0048】
整泡剤の使用量は、適宜選定する必要があるが、ポリオール成分(Z)の100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましい。
触媒の使用量は、ポリオール成分(Z)の100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましい。
【0049】
ポリイソシアネート化合物の使用量は、イソシアネート指数(INDEX)で50〜400が好ましい。
なお、イソシアネート指数(INDEX)とは、ポリオール成分(Z)およびその他の活性水素を有する化合物の活性水素の合計数に対するイソシアネート基の数の割合を100倍して表される値である。
触媒としてウレタン化触媒を主に用いるポリウレタン処方においては、ポリイソシアネート化合物の使用量は、イソシアネート指数で50〜140が好ましく、60〜130がより好ましい。
また、触媒として三量化反応促進触媒を主に用いるポリイソシアヌレート処方(ウレタン変性ポリイソシアヌレート処方)においては、ポリイソシアネート化合物の使用量は、イソシアネート指数で120〜400が好ましく、120〜300がより好ましい。
【0050】
本発明の硬質フォームの製造方法は、各種の成形法に適用できる。
成形法としては、例えば注入、連続生産ボード、スプレー発泡フォームが挙げられる。
注入とは、金型等の枠内に発泡原液組成物を注入し、発泡硬化させる方法である。連続生産ボードとは、連続供給される2枚の面材間に発泡原液組成物を流し込み、発泡硬化させる方法であり、面材間に硬質フォームが挟まれた積層体からなるボードが得られる。かかるボードは建築分野の断熱材として好適に用いられる。スプレー発泡フォームとは、ポリオールシステム液と、ポリイソシアネート化合物を含有する液を、発泡機で混合して吹き付け施工する方法である。
これらのうちで、本発明の硬質フォームの製造方法は、安定的に軽量で断熱性能の優れる硬質フォームが得られやすい点で、連続生産ボードまたはスプレー発泡フォームの製造に好適である。
【0051】
本発明によれば、後述の実施例に示すように、発泡剤として水を用い、ポリマー分散ポリオールを用いずに、低密度の硬質フォームを製造した場合であっても、寸法安定性に優れ、断熱性能および耐熱性が良好な硬質フォームが得られる。またフッ素処理無機粒子(F)は、簡単な方法で製造でき、均質な粒子が再現性良く得られやすいため、製造安定性にも優れる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されない。
表1はフッ素処理無機粒子(F)の製造例、表2、3はフッ素処理無機粒子(F)を用いた硬質フォームの製造例、表4は比較例を示したものである。
【0053】
<フッ素処理無機粒子(F)の製造例>
[製造例1:フッ素処理無機粒子(F1)の製造]
200mLのガラス製ナスフラスコに、無機酸化物粒子(P)としてシリカ微粒子(1)(電気化学工業社製、製品名:SFP−20M、球状、平均粒子径:330nm)の10gと、C13OCH(旭硝子社製、製品名:CT−SOLV100E。以下、溶媒(S1)という。)の50gを入れて、攪拌翼(回転数:100回転/分)で5分間攪拌し、高粘度なスラリーを得た。その後、含フッ素シランカップリング剤(f2)としてC13CHCHSi(OCHCH(東京化成工業社製、フッ素原子含有量:48質量%。以下、フッ素シラン(1)という。)の0.21mLを加え、更に攪拌翼(回転数:100回転/分)で1時間攪拌して、粘度の低い分散液を得た。得られた分散液の分散媒について、核磁気共鳴による分析を行ったところ、該分散媒にフッ素シラン(1)は含まれないことが確認された(以下の製造例2〜9においても同様であった)。このことから、添加したフッ素シラン(1)の全部がシリカ微粒子(1)の表面上に存在していると認められる。
こうして、フッ素シラン(1)によって表面処理されたシリカ微粒子(1)からなるフッ素処理無機粒子(F1)が、溶媒(S1)に分散された分散液を得た。フッ素処理無機粒子(F1)におけるフッ素原子含有量を表1に示す(以下、同様。)
【0054】
[製造例2〜4:フッ素処理無機粒子(F2)〜(F4)の製造]
製造例1において、フッ素シラン(1)の使用量を表1に示す通りに変更したほかは製造例1と同様にして、フッ素シラン(1)によって表面処理されたシリカ微粒子(1)からなるフッ素処理無機粒子(F2)〜(F4)が、溶媒(S1)に分散された分散液をそれぞれ得た。
【0055】
[製造例5:フッ素処理無機粒子(F5)の製造]
製造例1において、無機酸化物粒子(P)をシリカ微粒子(2)(電気化学工業社製、製品名:UFP−80、球状、平均粒子径:33nm)に変更し、溶媒(S1)の使用量を60gに変更し、フッ素シラン(1)の使用量を4.2mlに変更したほかは製造例1と同様にして、フッ素シラン(1)によって表面処理されたシリカ微粒子(2)からなるフッ素処理無機粒子(F5)が、溶媒(S1)に分散された分散液を得た。
【0056】
[製造例6:フッ素処理無機粒子(F6)の製造]
製造例1において、無機酸化物粒子(P)をシリカ微粒子(3)(電気化学工業社製、製品名:SFP−30M、球状、平均粒子径:570nm)に変更し、溶媒(S1)の使用量を70gに変更し、フッ素シラン(1)の使用量を0.33mlに変更したほかは製造例1と同様にして、フッ素シラン(1)によって表面処理されたシリカ微粒子(3)からなるフッ素処理無機粒子(F6)が、溶媒(S1)に分散された分散液を得た。
【0057】
[製造例7:フッ素処理無機粒子(F7)の製造]
製造例1において、溶媒(S1)の使用量を70gに変更し、含フッ素シランカップリング剤(f2)をC17CHCHSi(OCHCH(関東化学社製、フッ素原子含有量:53質量%。以下フッ素シラン(2)という。)の0.67mLに変更したほかは製造例1と同様にして、フッ素シラン(2)によって表面処理されたシリカ微粒子(1)からなるフッ素処理無機粒子(F7)が、溶媒(S1)に分散された分散液を得た。
【0058】
[製造例8:フッ素処理無機粒子(F8)の製造]
製造例1において、溶媒(S1)の使用量を70gに変更し、含フッ素シランカップリング剤(f2)に換えて、含フッ素シランカップリング剤(f1)として(CFCFOCHCHCHSi(OCHCH(関東化学社製、フッ素原子含有量:35質量%。以下フッ素シラン(3)という。)の0.43mLを使用したほかは製造例1と同様にして、フッ素シラン(3)によって表面処理されたシリカ微粒子(1)からなるフッ素処理無機粒子(F8)が、溶媒(S1)に分散された分散液を得た。
【0059】
[製造例9:フッ素処理無機粒子(F9)の製造]
製造例1において、無機酸化物粒子(P)をアルミナ微粒子(1)(岩谷産業社製、製品名:SA−1、球状、平均粒子径:680nm)の10gに変更し、溶媒(S1)の使用量を70gに変更し、フッ素シラン(1)の使用量を0.14mlに変更したほかは製造例1と同様にして、フッ素シラン(1)によって表面処理されたアルミナ微粒子(1)からなるフッ素処理無機粒子(F9)が、溶媒(S1)に分散された分散液を得た。
【0060】
【表1】

【0061】
<実施例・比較例>
表2〜4に示す配合比(単位は「質量部」)に従って、下記の方法により硬質フォームを製造した。下記の方法で、ゲルタイム(秒)、硬質フォームの全密度としてボックスフリー密度(単位:kg/m)、および圧縮強度(単位:MPa)を測定した。下記の方法で、高温収縮(単位:%)および湿熱収縮(単位:%)を測定し、寸法安定性を評価した。下記の方法で24℃における熱伝導率(単位:mW/m・K)を測定し、断熱性能を評価した。結果を表2〜4に示す。
【0062】
表に記載した原料は以下の通りである。またポリオールA、B、Cの混合物における平均水酸基価を表に示す。
[ポリオール]
・ポリオールA:開始剤としてN−(2−アミノエチル)ピペラジンを用い、開始剤にエチレンオキシド(以下、EOという。)のみを開環付加重合させた、水酸基価が350mgKOH/gのポリエーテルポリオール。
・ポリオールB:開始剤としてトリレンジアミンを用い、開始剤にEOとプロピレンオキシド(以下、POという。)とEOとを、この順序で開環付加重合させた、水酸基価が350mgKOH/gであり、EOとPOとの合計に対するEOの割合が33質量%のポリエーテルポリオール。
・ポリオールC:開始剤としてシュークロースとグリセリンとの混合物(質量比で5:4)を用い、開始剤にPOのみを開環付加重合させた、水酸基価が380mgKOH/gのポリエーテルポリオール。
【0063】
[フッ素処理無機粒子(F)]
上記製造例1〜9で得た、フッ素処理無機粒子(F1)〜(F9)を含む分散液を、フッ素処理無機粒子(F1)〜(F9)のみの配合量が表に示す値となる量で添加した。
[ポリイソシアネート化合物]ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(通称:クルードMDI、日本ポリウレタン工業社製、製品名:MR−200)。
[難燃剤]トリス(2−クロロプロピル)ホスフェート(大八化学社製、製品名:TMCPP)。
[発泡剤]水。
[整泡剤]シリコーン系整泡剤(東レ・ダウコーニング社製、製品名:SZ−1671)。
[触媒]N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン(東ソー社製、製品名:TOYOCAT−MR)。
[未修飾シリカ(比較例)]
比較例において、表面処理されていない未修飾シリカ微粒子として、前記製造例1で用いたシリカ微粒子(1)を使用した。
[シランカップリング剤(比較例)]
比較例において、シランカップリング剤として、前記製造例1で用いたフッ素シラン(1)を使用した。
【0064】
<硬質フォームの製造方法>
1Lポリビーカーに、表2〜4に示す配合比に従い、ポリオールA〜C、フッ素処理無機粒子(F)、発泡剤、整泡剤、難燃剤および触媒をそれぞれ投入し、これらを撹拌機でよく混合し、ポリオールシステム液を調製した。これとは別にポリイソシアネート化合物を用意した。ポリイソシアネート化合物の使用量は、イソシアネート指数(INDEX)で110とした。
次いで、ポリオールシステム液とポリイソシアネート化合物の双方の液温を20℃に保温した後、これらを混合し、回転数3000回転/分で5秒間撹拌した。得られた混合物(発泡原液組成物)を縦200mm×横200mm×高さ200mmの大きさで、上面が開口した木製ボックスに投入し、自由発泡を行い、硬質フォームを製造した。木製ボックスの上面から底面に向かう方向が高さ方向である。
【0065】
<測定方法>
ゲルタイムの測定は、ポリオールシステム液とポリイソシアネート化合物との混合開始時刻を0秒とし、ゲル化の進行に伴い、細いガラスまたは金属製の棒を反応中の発泡原液組成物上部に軽く差した後、素早く引き抜いた時に反応液が糸を引き始めるまでの時間をゲルタイム(単位:秒)として測定した。
全密度(ボックスフリー密度)の測定は、JIS K7222(1998年版)に準拠し、質量と体積から求めた。
圧縮強度は、JIS A9511に準拠して測定した。得られた硬質フォームを1時間養生した後、中央部から5cm×5cm×5cmの大きさの試験片を切り出して測定に用いた。重力方向に対して平行方向(//)および垂直方向(⊥)の圧縮強度を測定した。表中、「//+⊥」は、平行方向(//)の圧縮強度と、垂直方向(⊥)の圧縮強度とを足し合わせた圧縮強度を表す。重力方向とは木製ボックスの高さ方向である。
【0066】
<寸法安定性の評価方法>
高温収縮および湿熱収縮は、ASTM D 2126−75に準じた方法で測定した。得られた硬質フォームを1時間養生した後、中央部から、縦(Z)100mm×横(X)150mm×厚さ(Y)75mmの試験片を切り出して測定に用いた。木製ボックスの高さ方向が厚さ(Y)方向である。
高温収縮は70℃で相対湿度0%の雰囲気中、湿熱収縮は70℃で相対湿度95%の雰囲気中に、試験片を24時間保存し、増加した長さ(厚さ)を、保存前の長さ(厚さ)に対する寸法変化率(単位:%)で表した。すなわち、2条件で各3方向(X、Y、Z)の全6方向について寸法変化率をそれぞれ測定した。寸法変化率において、負の数値は収縮を意味し、絶対値が大きいことは、寸法変化が大きいことを意味する。
寸法変化率の測定結果より、下記評価基準にもとづいて寸法安定性を評価した。
(評価基準)
4:6方向の寸法変化率の中の絶対値の最大値が1%未満であった。
3:6方向の寸法変化率の中の絶対値の最大値が1%以上5%未満であった。
2:6方向の寸法変化率の中の絶対値の最大値が5%以上10%未満であった。
1:6方向の寸法変化率の中の絶対値の最大値が10%以上であった。
【0067】
<断熱性能の評価方法>
熱伝導率(単位:mW/m・K)は、JIS A1412に準拠し、熱伝導率測定装置(製品名:オートラムダHC−074型、英弘精機社製)を用いて測定した。
熱伝導率の測定結果より、下記評価基準にもとづいて断熱性能を評価した。
(評価基準)
○(良好):熱伝導率が27以下であった。
×(不良):熱伝導率が27超であった。
熱伝導率が27mW/m・K以下であると、硬質フォームが良好な断熱性能を有すると判断される。
【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
表2〜4の結果に示されるように、フッ素処理無機粒子(F1)〜(F9)を含有する実施例1〜14の硬質フォームは、発泡剤として水のみを用い、低密度でありながら、断熱性能および寸法安定性の両方に優れる。高温収縮率が小さいことから、耐熱性にも優れる。フッ素処理無機粒子(F)を含有しない比較例1と比べて、実施例1〜14の硬質フォームは寸法安定性が格段に向上し、熱伝導率の値はやや小さくなるものの断熱性能としてはほぼ同等である。
中でも、フッ素処理無機粒子(F)の配合量を変えた実施例4〜7、実施例8〜10の結果より、フッ素処理無機粒子(F)の配合量が少ないほど熱伝導率が低く、断熱性能が高い傾向がみられる。また実施例4〜7では、フッ素処理無機粒子(F)の配合量が多いほど寸法安定性が良好になる傾向が見られる。
一方、フッ素処理無機粒子(F)に換えて、表面処理されていないシリカ微粒子を含有させた比較例2、3は、熱伝導率は良好であるが、寸法安定性に劣る。なお、比較例2と比較例3との熱伝導率の差は誤差範囲内と考えられる。
また、フッ素処理無機粒子(F)を含有させず、含フッ素シランカップリング剤を含有させた比較例4〜7も、熱伝導率は良好であるが、寸法安定性に劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール成分(Z)とポリイソシアネート化合物とを、発泡剤、整泡剤および触媒の存在下で反応させて得られる硬質発泡合成樹脂であって、
無機酸化物粒子(P)を、含フッ素アルキル基および/または含フッ素芳香族基を有する含フッ素化合物(f)で表面処理してなるフッ素処理無機粒子(F)を含有することを特徴とする硬質発泡合成樹脂。
【請求項2】
前記含フッ素化合物(f)が、下式(1)で表される含フッ素シランカップリング剤(f1)を含む、請求項1に記載の硬質発泡合成樹脂。
(Rf−L)−SiX3−a …(1)
(式中、Rfは炭素数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状の含フッ素アルキル基、または炭素数6〜14の含フッ素芳香族基を表す。Lは炭素数10以下の2価の連結基を表し、Xは水酸基または加水分解可能な基を表す。Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の1価の有機基(加水分解性基を除く。)、または(Rf−L)−を示す。aは1〜3の整数を表す。aが2または3の場合、2個または3個のXは互いに同一でも異なっていてもよい。aが1または2の場合、2個または3個のRは互いに同一でも異なっていてもよい。Rが(Rf−L)−の場合、Rと(Rf−L)−は互いに同一でも異なっていてもよい。)
【請求項3】
前記含フッ素シランカップリング剤(f1)が、下式(2)で表される含フッ素シランカップリング剤(f2)を含む、請求項2に記載の硬質発泡合成樹脂。
2n+1−(CH−SiX3−a …(2)
(式中、nは1〜10の整数を表し、mは1〜5の整数を表す。Xは炭素数1〜5のアルコキシ基またはハロゲン原子を表す。Rは水素原子、または置換基を有していてもよい炭素数1〜20の1価の有機基(加水分解性基を除く。)を示す。aは1〜3の整数を表す。aが2または3の場合、2個または3個のXは互いに同一でも異なっていてもよい。aが1または2の場合、2個または3個のRは互いに同一でも異なっていてもよい。)
【請求項4】
前記無機酸化物粒子(P)がシリカ粒子である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の硬質発泡合成樹脂。
【請求項5】
前記フッ素処理無機粒子(F)の配合量が、前記ポリオール成分(Z)の100質量部に対して0.01〜10質量部である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の硬質発泡合成樹脂。
【請求項6】
前記ポリオール成分(Z)の平均水酸基価が200〜800mgKOH/gである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の硬質発泡合成樹脂。
【請求項7】
前記発泡剤として、水のみ、またはハイドロフルオロカーボン化合物および炭化水素化合物から選ばれる少なくとも1種と水とを使用する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の硬質発泡合成樹脂。
【請求項8】
前記発泡剤として水のみを用い、該水の使用量が、ポリオール成分(Z)の100質量部に対して1〜20質量部である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の硬質発泡合成樹脂。
【請求項9】
ポリオール成分(Z)、ポリイソシアネート化合物、発泡剤、整泡剤および触媒を含む発泡原液組成物を発泡させる工程を有し、
前記発泡原液組成物に、含フッ素アルキル基および/または含フッ素芳香族基を有する含フッ素化合物(f)で表面処理された無機酸化物粒子(P)からなるフッ素処理無機粒子(F)を含有させることを特徴とする硬質発泡合成樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記発泡原液組成物が、ポリオール成分(Z)を含有するポリオールシステム液と、ポリイソシアネート化合物を含有する液とを混合する工程を経て調製され、該ポリオールシステム液、またはポリイソシアネート化合物を含有する液の少なくとも一方に前記フッ素処理無機粒子(F)を含有させる、請求項9記載の硬質発泡合成樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2011−157469(P2011−157469A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20247(P2010−20247)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】