硬質脆性材料基板の側部研磨方法
【課題】チッピングやクラックの発生を防止しつつ,経済的且つ衛生的に硬質脆性材料基板の側部を研磨できる研磨方法を提供する。
【解決手段】弾性母材21に砥粒22を分散又は付着させた弾性研磨材20を基板10’の側部に向かって圧縮空気と共に噴射する。噴射は,加工点Pで幅方向線Wと交叉し,接触線Tに対し2〜60°の範囲から選択された所定の傾斜角θを成す噴射方向Dで,加工点Pを中心とした所定の加工領域Fに対して前記弾性研磨材の噴射を行うと共に,前記加工領域Fを前記被加工物10の周方向に一定の速度で移動させ,移動した位置における各加工点P’において前記噴射方向Dを維持するよう,前記噴射ノズル30と前記被加工物とを相対的に移動させる。基板10’を重ねて処理する場合,基板10’の幅方向に対しても一定速度で加工領域Fを移動させる。
【解決手段】弾性母材21に砥粒22を分散又は付着させた弾性研磨材20を基板10’の側部に向かって圧縮空気と共に噴射する。噴射は,加工点Pで幅方向線Wと交叉し,接触線Tに対し2〜60°の範囲から選択された所定の傾斜角θを成す噴射方向Dで,加工点Pを中心とした所定の加工領域Fに対して前記弾性研磨材の噴射を行うと共に,前記加工領域Fを前記被加工物10の周方向に一定の速度で移動させ,移動した位置における各加工点P’において前記噴射方向Dを維持するよう,前記噴射ノズル30と前記被加工物とを相対的に移動させる。基板10’を重ねて処理する場合,基板10’の幅方向に対しても一定速度で加工領域Fを移動させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硬質脆性材料基板の側部研磨方法に関し,より詳細にはガラス,石英,セラミックス,サファイア等の硬質脆性材料基板の周縁を成す側面やエッジ,前記エッジを切削して形成した面取り部分から成る側部を研磨する研磨方法に関する。
【0002】
なお,本発明において「基板」とは,何らかの機能を実現するために機能部品を配置する板状の部品をいい,液晶ディスプレイ用のガラス基板,ハードディスク用のガラス基板のように,一般に「基板」と呼ばれるものの他,携帯電話機等において液晶装置等を背面に配してこれを保護する機能を実現するカバーガラス等も本発明における「基板」に含む。
【背景技術】
【0003】
硬質脆性材料基板の一例としてガラス基板は,液晶テレビ,パーソナルコンピュータ,携帯電話機等の携帯情報端末,デジタルカメラの液晶ディスプレイ等のフラットパネル用基板や,液晶ディスプレイを保護する保護カバーとして使用される他,従来のアルミ製基板と比較して低膨張であると共に耐衝撃性が高いことから,ハードディスク用の基板等としても使用されている等,その産業用途が拡大している。
【0004】
このようなガラス基板は,ガラス基材よりフラットパネル用基板であれば矩形,ハードディスク用基板であればドーナッツ型といったように,所定形状に切り出した後,研磨を行うことにより仕上げられる。
【0005】
ガラス基板に対する研磨としては,厚みを極限まで薄くする等といった厚み調整や,表面粗さの改善を目的として平面部に対して行う研磨加工の他,切り出されたままのガラス基板の側部ではエッジ部分で割れや欠けが生じ易く,また,切り出し等の際に生じたクラックやマイクロクラックが側部に残っていると,曲げ応力が加わった際にこの部分を起点として基板全体が容易に割れてしまうことから,側部のエッジを面取りによって除去すると共に,側面や面取りした部分を鏡面に研磨することで,クラックやマイクロクラックを除去する,側部の研磨加工が行われている。
【0006】
ここで,ガラス基板の側部の研磨加工として現在一般的に行われている研磨方法を大別すると,ガラス研磨用の砥粒を金属や樹脂をバインダとして結合して得た砥石によって研磨する方法と,砥粒を含むスラリーによって研磨する方法とがある。
【0007】
上記のうち砥石による研磨の例としては,ハードディスク用ガラス基板を砥石により研磨する方法として,ガラス基板の側部に対し,一枚ずつ枚葉式で回転する砥石を接触させ,研磨量を監視しながらNC制御によりこの砥石を移動させてガラス基板の内周側及び外周側の面取りと側面の研磨を行うことが提案されている(特許文献1)。
【0008】
また,前述したスラリーによる研磨の一例として,ハードディスク用ガラス基板の中央に形成された開口部内周の研磨に際し,複数枚重ね合わせたガラス基板の中央開口内に,回転するブラシを挿入すると共に開口内周に接触させ,ブラシと基板内周との間に適時,砥粒を含むスラリーを提供することで研磨する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−238310号公報
【特許文献2】特開平11−33886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述した研磨方法のうち,特許文献1に記載の方法では,回転する砥石でガラス基板1枚毎に(枚葉式で)内周縁及び外周縁の面取りと側面の研磨とを行う際に,研磨量を監視しながらNC制御によって砥石を移動させることで,製品間における加工のばらつきを減少して精度の高い加工が行えるようにしている。
【0011】
しかし,このような砥石によって硬質脆性材料であるガラスの加工を行う場合,所謂「ハマ欠け」ないしは「ピリ欠け」と呼ばれる貝殻形状の欠けに代表される欠け(以下,このような欠けの発生を総称して「チッピング」という。)が生じ易く,また,切削時の衝撃によりクラックやマイクロクラックと呼ばれる微小なクラックが発生し易い。
【0012】
特に,このようなチッピングやクラックは,周縁のエッジや,基板が矩形であれば角部といったように,先鋭な形状の部分において生じ易く,ガラス基板が研磨の前工程として側部に対しエンドミルなどを使用した加工が行われている場合,側面には,一例として図13に示すようにエンドミルの通過位置に対応する溝と,この溝間に形成された先鋭な峰から成る「ツールマーク」が形成されており,このようなツールマークを有する基板を研磨対象とした場合,前述したチッピングやクラックの発生リスクがより一層高くなる。
【0013】
このようなチッピングやクラックが発生した場合,研磨工程によってこれらを完全に除去することが難しく,このような基板に曲げ応力が作用すると,チッピングやクラックの発生点を起点としてガラス基板は容易に破断するために,ガラス基板の強度は大きく低下する。
【0014】
また,砥石を使用した加工では,加工量が多くなるに従い砥石が摩耗して形状が変化する。また,砥石が目詰まりを起こし研磨性能が低下する。そのため,加工品質,形状,寸法を一定に管理することが難しく,これを行おうとした場合,加工量を監視する等といった作業が必要となり,研磨加工の際の砥石の移動量の制御が極めて複雑となる。
【0015】
一方,スラリー研磨は,被加工物の研磨面と摺接するブラシや研磨パッドと前記研磨面との間に,微細な砥粒を含むスラリーを適宜供給して研磨を行う研磨方法であり,この方法では,砥石による研磨に比較して切削性能は落ちるものの,その分,硬質脆性材料基板であるガラス基板等を研磨対象とした場合であっても,チッピングやクラックの発生を大幅に低減することができるものとなっている。
【0016】
しかし,この方法による研磨では,作業空間に散らばったスラリーが乾燥すると,スラリー中の微細な砥粒が粉塵として舞い上がり,作業環境を汚染する等といった問題があり,この粉塵が作業者の健康を害する場合もある。
【0017】
また,このようなスラリー研磨では,ブラシや研磨パッドと研磨面との間に,スラリーを連続して供給する必要があるため,比較的大量のスラリーが使用されるが,研磨によってスラリー中の砥粒は破砕してその粒度が変化し,また,研磨時の発熱によって水分が蒸発して砥粒の濃度が高くなると共に,研磨によって生じた切削屑等の異物がスラリーに取り込まれるとスラリー中より除去することができなくなるため,スラリーを循環使用する場合,スラリーの質が一定に維持できず,従って,製品の品質も一定に維持できなくなる。
【0018】
そのため,このようなスラリー研磨では,一般にスラリーは使い捨てされており,前述した砥石による研磨の場合に比較して,砥粒の消費量が多くなる。
【0019】
ここで,一般にガラスの研磨に使用される砥粒としては,ダイヤモンドの微粉末や酸化セリウムの微粉末が使用されるが,ダイヤモンドが高価な物質であることは言うに及ばず,酸化セリウムも主力生産国の中国政府が採掘規制など供給制限を強める一方,酸化セリウムに対する中国国内や世界における需要が増大している結果,価格が高騰して極めて高価な物質となっており,このような高価な物質を砥粒として含むスラリーを使い捨てで使用することが,研磨コストを大幅に高めている。
【0020】
特許文献2に記載されているブラシ研磨では,図14に示すように回転するブラシによって複数積層されたハードディスク用のガラス基板の内周面を研磨する際,ブラシと研磨面との間に前述したスラリーを供給しながら研磨するものであるため,前述したスラリー研磨で説明したと同様,チッピングやクラックの発生を防止できるというメリットがある。
【0021】
また,特許文献2に記載の方法では,前述したように複数枚のガラス基板を積層して研磨することから,複数枚のガラス基板の研磨加工を同時に行うことができるというメリットがある。
【0022】
しかし,特許文献2に記載のブラシ研磨も,前述したスラリー研磨の一種であるから,ダイヤモンドの微粉末や酸化セリウムの微粉末といった高価な砥粒を多量に消費するという問題がある。
【0023】
更に,特許文献2に記載の方法では,研磨に使用する軸付きブラシを図14に示すように上端のみを支持した状態でガラス基板の中央開口内に挿入することから,ブラシの軸として比較的変形し難い金属棒を使用していたとしても,その下端が回転時に振れてブラシの毛先が研磨面に均一に当たらず,そのため,複数のガラス基板を重ねて加工すると,高さ方向のいずれの位置にあるガラス板かによって加工の程度が変化してしまい,製品間の品質にむらが生じてしまうという問題がある。
【0024】
このような問題を解消しようとすれば,ブラシを上下方向に動かして高さ方向に生じる加工むらの発生を解消するか,加工状態が一定となるように,ガラス基板の積層順を入れ換えて複数回にわたり研磨を行う等の作業が必要となり加工時間が長くなるため作業性が低下する。
【0025】
なお,以上の説明では,硬質脆性材料基板の一例として,ガラス基板を例に挙げて説明したが,ガラス以外の他の硬質脆性材料,例えば石英,セラミックス,サファイア等で基板を形成する場合にも,同様に砥石によって研磨する場合にはチッピングやクラックの発生という問題があり,また,砥粒としてダイヤモンドや酸化セリウムといった高価な砥粒が使用されるために,研磨コストが高いという問題を有している。
【0026】
そこで本発明は,上記従来技術における欠点を解消するためになされたものであり,チッピングやクラックの発生を防止しつつ,砥粒の消費量を減少させると共に,砥粒による作業環境の汚染を防止でき,更に,複数枚の硬質脆性材料基板を重ねて同時に加工を行った場合であっても,全ての基板の側部に対し均一な研磨加工を施すことができ,従って作業性の良い硬質脆性材料基板の側部研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0028】
上記目的を達成するために,本発明の硬質脆性材料基板の側部研磨方法は,弾性母材21に研磨用の砥粒22を分散させた弾性研磨材20〔図3(A)参照〕,又は,弾性母材21の表面に研磨用の砥粒22を付着させた弾性研磨材20〔図3(B)参照〕を,硬質脆性材料基板10’から成る被加工物10の側部に向かって噴射ノズル30より圧縮気体と共に噴射して衝突させ,該被加工物10の前記側部を研磨する方法であって,
前記被加工物10の側部上の一点を加工点Pとし,前記加工点Pを通る前記被加工物10の幅方向線Wと,前記幅方向線Wと直交し前記加工点Pで前記被加工物10の外周と接する接触線Tを想定し,
前記加工点Pで前記幅方向線Wと交叉し,前記接触線Tに対し2〜60°の範囲から選択された所定の傾斜角θを成す噴射方向Dで,前記加工点Pを中心とした所定の加工領域Fに対して前記弾性研磨材の噴射を行うと共に,
前記加工領域Fを前記被加工物の周方向に一定の速度で移動させると共に,移動した位置における各加工点P’において前記噴射方向Dを維持するよう,前記噴射ノズル30と前記被加工物とを相対的に移動させることを特徴とする(請求項1)。
【0029】
前記硬質脆性材料基板の研磨方法において,更に,同一形状の複数枚の硬質脆性材料基板10’を平面形状が一致するように複数枚重ね合わせたものを前記被加工物10とすると共に(図1,図5参照),
前記加工領域Fを更に前記被加工物10の幅方向(幅方向線Wの長手方向)に対しても一定の速度で移動させるようにしても良く(請求項2),例えば被加工物10の側面上で螺旋を描くように移動させる。
【0030】
このように複数枚の硬質脆性材料基板10’を重ねたものを被加工物10とする場合,各硬質脆性材料基板10’間に,硬質脆性材料基板10’に対し僅かに小さい相似形の外周形状を有するスペーサ11を配置することが好ましく(請求項3),
更に,前記スペーサ11の厚み(図2中のg)を0.01〜5mmと成すと共に,前記スペーサ11の側部と前記硬質脆性材料基板10’の側部間に,0.1〜10mmの高低差(図2中のh)が形成されるよう,前記スペーサ11の寸法を調整することが好ましい(請求項4)。
【0031】
また,前記スペーサ11は,各硬質脆性材料基板10’の片面にスクリーン印刷によって形成した樹脂材料製のスペーサ11とすることもできる(請求項5)。
【0032】
なお,前記弾性研磨材20は,好ましくは噴射圧力0.01〜0.5MPaの圧縮気体と共に噴射する(請求項6)。
【0033】
更に,前記噴射ノズル30としては,スリット形状の噴射口を備えたスリット型ノズル(図示せず)を使用することができ,前記噴射口におけるスリットの長さ方向を,被加工物の幅方向に配置して前記弾性研磨材の噴射を行うものとしても良い(請求項7)。
【発明の効果】
【0034】
以上説明した本発明の構成により,本発明の硬質脆性材料基板の側部研磨方法によれば,以下の顕著な効果を得ることができた。
【0035】
弾性研磨材20を圧縮気体と共に噴射することにより硬質脆性材料基板10'の側部を研磨する構成としたこと,及び,噴射方向D(傾斜角θ)を一定に維持したまま被加工物の周方向に一定の速度で移動しつつ噴射を行うことにより,チッピングやクラックの発生を防止しつつ,硬質脆性材料基板10’の側部に対し均一な加工を行うことができた。
【0036】
しかも,砥粒22は,弾性研磨材20の母材21に分散され,又は母材21の表面に付着されていることから,スラリーを使用する場合のように乾燥によって砥粒が飛散して作業環境を汚染するおそれが無く,また,弾性研磨材20と共に回収された切削粉等は,例えばサイクロン等による遠心分離で容易に弾性研磨材20と分離して除去することができ,弾性研磨材20はこれを繰り返し使用することができることから,ダイヤモンドや酸化セリウム等,硬質脆性材料基板用の高価な砥粒を使用した場合であっても経済的に研磨を行うことができた。
【0037】
同一形状の複数枚の硬質脆性材料基板10’を平面形状が一致するように複数枚重ね合わせたものを前記被加工物10とすると共に,前記加工領域Fを更に前記被加工物の幅方向に対しても一定の速度で移動させることにより,複数枚の硬質脆性材料基板10’を同時に加工することができるだけでなく,圧縮気体と共に弾性研磨材20を噴射する本発明の方法では加工条件を一定に維持し易く幅方向のいずれの位置に配置した硬質脆性材料基板10’の側面に対しても均一な加工を行うことができた。
【0038】
前述したように複数枚の硬質脆性材料基板10’を重ねて処理する場合,硬質脆性材料基板10’間に,各硬質脆性材料基板10’に対し僅かに小さい相似形の外周形状を有するスペーサ11を配置することにより,各硬質脆性材料基板10’の側面の研磨のみならず,エッジ部分の面取り,乃至は面取りによって形成された面の研磨も同時に行うことができた。
【0039】
特に,前記スペーサの厚み(図2中のg)を0.01〜5mmと成すと共に,前記スペーサの側部と前記硬質脆性材料基板の側部間に,0.1〜10mmの高低差(図2中のh)を設けたことにより,面取りの形成,又は,面取りによって形成された面の研磨を適切に行うことができると共に,不必要な部分に対してまで研磨が及ぶことを好適に防止することができた。
【0040】
このスペーサ11は,前述したようにスクリーン印刷によって比較的簡単に形成することができると共に,各硬質脆性材料基板10’の片面に対しスクリーン印刷によってスペーサ11を形成することで,硬質脆性材料基板10’に対する位置合わせ等の煩雑な作業が不要となると共に,その後の位置ずれが防止でき,スペーサ11の側部と硬質脆性材料基板の側部間における高低差(図2中のh)を,全周に亘り一定に保つことが容易であった。
【0041】
前記弾性研磨材20を,噴射圧力を0.01〜0.5MPaの圧縮気体と共に噴射したことにより,チッピングやクラックの発生を防止しつつ,比較的効率的に研磨を行うことができ,更に,噴射ノズル30をスリット型ノズル(図示せず)とすることで,同時に加工できる範囲を拡大することができると共に,スリット型ノズルではスリットの長さ方向における研磨材の噴射条件が一定となるため,複数枚の硬質脆性材料基板を重ねて処理した場合,幅方向における品質のばらつきが生じ難いものとすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】複数枚の硬質脆性材料基板を重ね合わせて成る被加工物の構成例を示す分解斜視図。
【図2】図1のII−II線矢視方向の断面図。
【図3】弾性研磨材の構成例を示した断面図であり,(A)は母材中に砥粒を分散させたもの,(B)は母材表面に砥粒を付着させたもの。
【図4】被加工物(基板単葉)に対する研磨方法の説明図であり,(A)は矩形状の基板,(B)は円形基板に対する加工例。
【図5】被加工物(複数枚重ねた基板)に対する研磨方法の説明図。
【図6】弾性研磨材の変形と被加工物に対する接触面積の拡大の説明図。
【図7】本発明の方法により♯320の弾性研磨材を使用して研磨したガラス基板側部の光学顕微鏡写真。
【図8】本発明の方法により♯600の弾性研磨材を使用して研磨したガラス基板側部の光学顕微鏡写真。
【図9】本発明の方法により♯1000の弾性研磨材を使用して研磨したガラス基板側部の光学顕微鏡写真。
【図10】本発明の方法により♯3000の弾性研磨材を使用して研磨したガラス基板側部の光学顕微鏡写真。
【図11】本発明の方法により♯6000の弾性研磨材を使用して研磨したガラス基板端部の光学顕微鏡写真。
【図12】本発明の方法により♯10000の弾性研磨材を使用して研磨したガラス基板端部の光学顕微鏡写真。
【図13】ツールマークの説明図。
【図14】従来のブラシによる研磨の説明図(特許文献2の図1に対応)。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に,本発明の実施形態につき添付図面を参照しながら以下説明する。
【0044】
〔被加工物〕
本発明で,側部研磨の対象とする被加工物は,硬質であると共に脆性を有する材料で形成された基板であり,硬質である一方,靱性に欠ける等の脆性を有する結果,研磨加工を行う際に,チッピングやクラックの発生し易い材質で形成された基板を対象とする。
【0045】
このような材質としては,一例としてガラス,石英,セラミックス,サファイア等が挙げられ,これらはいずれも本発明による研磨方法の対象となるが,特に,フラットパネルの基板,ハードディスクの基板等として工業的に大量に生産されているガラス基板に対する利用が期待できる。
【0046】
このようなガラスとしては,特に限定するものではないが,フラットパネルディスプレイの基板に使用されるソーダガラス,ソーダライムガラス,アルカリガラス,ノンアルカリガラス,青板ガラス,高歪点ガラスや,ハードディスクの基板に使用されるアルミノシリケートガラス,結晶化ガラスは勿論,ボロシリケートガラス(耐熱ガラス),カリガラス,クリスタルガラス,石英ガラス,強化ガラス等も本発明の方法による研磨の対象とすることができる。
【0047】
また,被処理対象の形状は,基板(板状)であれば特に限定されず,フラットパネルの一般的な形状である矩形,ハードディスクの一般的形状である円形(ドーナツ型)は勿論,フラットパネル等では,搭載する物品によっては幾何学模様にデザインされたものもあり,このようなものも,本願における研磨の対象とすることができ,特にハート型のように,内向きに凹んだ部分を有する外形形状の基板については従来の方法では研磨が困難であったが,本発明の方法では,このような形状の基板であっても,好適に研磨を行うことが可能である。
【0048】
処理対象とする硬質脆性材料基板,例えばガラス基板は,マザーガラス等から切り出されたものをそのまま本発明の加工対象としても良いが,前処理として予め砥石等を使用して側部の粗研ぎと面取りを行ったものを処理対象としても良く,このような前処理を行ったものを処理対象とする場合には,本発明の方法による処理時間を短縮することができる。
【0049】
硬質脆性材料基板10’は,1枚単位で本発明の被処理対象10とすることもできるが,複数枚を重ねて被処理対象10としても良い。
【0050】
このように,複数枚の硬質脆性材料基板10’を重ねたものを被加工物10とする場合には,好ましくは図1に示すように各硬質脆性材料基板10’間に,この硬質脆性材料基板10’の外形形状に対し僅かに小さい相似形の外形形状を有する板状のスペーサ11を挟持する。
【0051】
このようにスペーサ11を挟持することで,隣接する基板10’の側部間に,図2に示すように,スペーサ11の厚みに対応した間隙gが形成されると共に,スペーサ11の外周と基板の外周間に高低差hが生じ,これにより,基板10’の外周面のみならず,エッジ部分の面取りや研磨を同時に行うことが可能となる。
【0052】
なお,スペーサ11は,基板10’間の間隔を規制できるものであれば,図1に示すように中央部分を持たない枠状の構造に構成するものとしても良い。
【0053】
前述の基板10’間の間隙gと,基板とスペーサの外周間の高低差hは,加工する基板の厚さや面取り量等によって異なるが,好ましくは間隙gが0.01〜5mm,高低差hが0.1〜10mmであり,従って,このような間隙g及び高低差hを形成可能な寸法のスペーサ11を取り付ける。
【0054】
スペーサ11の材質としては,後述する弾性研磨材20との衝突によって容易に除去されてしまうようなものを除き各種のものを使用でき,例えば紙,金属薄乃至は金属板,樹脂フィルム乃至は樹脂板等を使用できる。
【0055】
特に,加工対象とする基板が携帯電話機,ゲーム機,携帯情報端末等の民生品であって,大量生産されるものである場合には,生産性やコストを考慮して,スクリーン印刷により各基板10’の片面に前述の樹脂製スペーサを印刷によって形成するものとしても良い。
【0056】
このように,基板10’自体にスペーサを印刷することにより,基板10’同士を重ねるだけで必要な間隙gや高低差hが形成され,基板10’とスペーサ11の位置合わせ等の煩雑な作業が不要となる。
【0057】
また,このようなスクリーン印刷によりスペーサ11を形成する場合には,UV硬化型のインクを使用してスペーサ11を印刷することで,印刷後,UV照射によって比較的早期に硬化させることができる等,生産性を向上させることができる。
【0058】
〔弾性研磨材〕
研磨に使用する弾性研磨材20は,図3(A)に示すように弾性材料によって形成された母材21に砥粒22を分散させたもの(一例として特開2006−159402号公報に記載されている弾性研磨材)を使用することができ,または図3(B)に示すように弾性材料によって形成された粘着性を有する母材21の表面に砥粒22を付着させ,又は,弾性材料によって形成された母材21の表面に粘着剤を塗布する等した後に砥粒22を付着させたものであっても良く,被加工物10に対して衝突した際に,母材21が変形することにより衝突時の衝撃を吸収することができるようになっていると共に,内部に分散され,又は表面に付着された砥粒22によって,基板10’の側部に対する研磨性を発揮するものであれば,各種のものを使用することが可能である。
【0059】
この様な弾性研磨材20の母材21としては,ゴム,熱可塑性エラストマー等の弾性体が使用でき,このような弾性体を得るための原料ポリマーとしては,固体のほか,液状ゴムやエマルジョン等のラテックスの形態のものが使用できる。
【0060】
また,前記母材21並びに該母材21を含む前記研磨材の反発弾性率を抑える観点から,その特性上,低反発弾性であるものが好ましい。
【0061】
前記ゴムとしては,天然ゴムのほか,各種合成ゴムも使用でき,例えば,イソプレンゴム,スチレンブタジエンゴム,ブタジエンゴム,アクリロニトリルブタジエンゴム,クロロプレンゴム,エチレンプロピレンゴム,クロロスルフォン化ポリエチレン,塩素化ポリエチレン,ウレタンゴム,シリコンゴム,エピクロルヒドリンゴム,ブチルゴム等を挙げることができる。
【0062】
また,前記熱可塑性エラストマーとしては,スチレンブロックコポリマー,塩素化ポリエチレン系エラストマー,ポリエステル系エラストマー,ニトリル系エラストマー,フッ素系エラストマー,シリコン系エラストマー,エステルハロゲン系ポリマーアロイ,オレフィン系エラストマー,塩ビ系エラストマー,ウレタン系エラストマー,ポリアミド系エラストマー,エステルハロゲン系ポリマーアロイ等がある。
【0063】
これらの原料ポリマーであるゴム,熱可塑性エラストマーは,単独で用いるほか,複数種を混合(併用)して用いても良い。
【0064】
また,回収廃棄製品や製造工程において排出される廃棄物をリサイクルして得られたゴムや熱可塑性エラストマーを使用しても良い。
【0065】
前記原料ポリマーは,各種の配合剤と混合された上で母材を成す弾性体として加工される。
【0066】
なお,以下,原料ポリマーとしてゴムを使用する場合について説明すると,ゴムポリマーに混合される前記配合剤としては,ゴム分子間を架橋するための加硫剤,前記加硫剤による架橋反応を促進するための加硫促進剤のほか,ゴムに可塑性を与えて配合剤の混合・分散を助け,圧延や押出等の加工性をよくするための可塑剤,ゴム製造時に要求される粘着性を与えて加工性を良くするための粘着付与剤,増量によって製品コストを低下させるほか,ゴムの物性(引っ張り強さや弾性等の機械的特性等)や加工性を向上させるための充填剤,また,安定剤,分散剤等一般にゴム成形に用いられている各種の配合剤が挙げられる。
【0067】
前記充填剤としては,研磨材に重量を付与する目的から,例えば,砥粒の硬度より低い金属,セラミックス,無機物樹脂等を使用することができ,これらを配合することによってブラスト加工に適した研磨材密度となるように調整することができる。また,静電防止のため,カーボンブラックや金属粒子等の導電性を有する物質を使用することもできる。
【0068】
上記実施形態にあっては,原料ポリマーをゴムポリマーとしたが,上述するように原料ポリマーとして熱可塑性エラストマーを用いてもよく,この場合には熱可塑性エラストマーの成形に一般に用いられる各種の配合剤が使用可能である。
【0069】
母材21に分散し,又は,母材21の表面に付着させる砥粒22の種類も特に限定されるものではないが,硬質脆性材料の研磨に適したものが選択され,一例としてガラスの研磨に一般的に使用されているダイヤモンドや酸化セリウムの粒体の他,炭化珪素,酸化アルミニウム,ジルコニア,ジルコン,酸化鉄,炭化ホウ素,ホウ化チタンおよびこれらの混合物等を使用することができる。
【0070】
使用する弾性研磨材20のサイズは,平均粒径30〜2000μmであり,弾性研磨材20の粒径が大き過ぎると基板間の間隙gに入り難くなる等,面取り部の研磨がされ難くなり,また,粒径が小さすぎると加工量が少なくなり,研磨に長時間を要するために生産性が低下する。より好ましい弾性研磨材20の粒径の範囲は,平均粒径100〜1000μmである。
【0071】
また,弾性研磨材20の母材21中に分散し,又は母材21表面に付着させる砥粒22の粒径は,♯360〜30000(平均粒径35〜0.3μm)であり,砥粒22の粒径が大きすぎると研磨面に比較的大きな傷ができて凹凸が生じて鏡面にならず,また,マイクロクラック等の発生原因となると共に,粒径が小さすぎると加工量が少なくなり,研磨に長時間が必要となる。より好ましい砥粒22の粒径の範囲は,♯3000〜20000(平均粒径4.0〜0.5μm)である。
【0072】
なお,使用する弾性研磨材20及び砥粒22の粒径は,研磨の進行に合わせて段階的に小さくするものとしても良い。この場合,例えば♯320,♯600,♯1000,♯3000,♯6000,♯10000,♯20000のように順次番手が大きくなる(砥粒粒径が小さくなる)弾性研磨材20を複数種類用意しておき,被加工物10の加工表面が粗い場合には,♯320から順次高番手(小粒径)の弾性研磨材を,被加工物の加工表面が比較的滑らかである場合には,♯320,♯600といった比較的低番手のものを使用することなく,例えば♯1000から順次高番手の弾性研磨材を使用する等しても良い。
【0073】
また,低番手の弾性研磨材20には比較的低番手の砥粒22を分散乃至は付着させると共に,弾性研磨材20が高番手になるに従い,分散乃至は付着させる砥粒22の番手も順次高番手のものとする。
【0074】
〔噴射方法〕
前述した弾性研磨材20は,噴射ノズル30より圧縮気体,本実施形態にあっては圧縮空気と共に被加工物10である基板10’の側部に対して噴射する。
【0075】
弾性研磨材20の噴射に使用する圧縮空気の噴射圧力は,使用する弾性研磨材の粒径や,これに分散乃至は付着させた砥粒の粒径,最終的に得ようとする仕上げ面の状態(粗さ)等に応じて適宜変更可能であるが,一例として0.01MPa〜0.5MPaの範囲であり,噴射圧力をあまり低く設定すると加工量が少なくなり加工に長時間を要し生産性が落ちる一方,噴射圧力を高くし過ぎると基板を凹凸にし,面粗さを悪化させて強度低下を招く。
【0076】
より好ましい噴射圧力の範囲は0.02MPa〜0.3MPaであり,ガラスや石英等の硬質脆性材料基板において光沢面を得る場合,より好ましくは0.05MPa〜0.3MPaの範囲である。
【0077】
噴射に使用する噴射ノズル30は,噴射口が円形をした丸型ノズルを使用しても良いが,前述したように複数枚の基板を重ね合わせて同時に研磨する場合には,噴射口が長細い矩形状のスリット形状に形成されたスリット型ノズル(図示せず)を使用することが好ましく,このようなスリット型ノズルを使用する場合,丸型ノズルを使用する場合に比較して,スリットの長さ方向における弾性研磨材の噴射速度のばらつきを抑えることができ,均一な加工を行うことができる。
【0078】
このようなスリット型ノズルを使用する場合,スリットの長さ方向が,被加工物の幅方向となるように配置する。
【0079】
弾性研磨材20の噴射は,図4に示すように前記被加工物10(基板10’)の側部上の一点を加工点Pとし,前記加工点Pを通る前記被加工物の幅方向線Wと,前記幅方向線Wと直交し,前記加工点Pで前記基板10’の側部(側面)と接する接触線Tを想定し,前記加工点Pで前記幅方向線Wと交叉し,前記接触線Tに対し所定の傾斜角θを成す噴射方向Dで,前記加工点Pを中心とした所定の加工領域Fに対して前記弾性研磨材の噴射を行うと共に,前記加工領域Fが前記被加工物の周方向〔図4(A),(B)中の矢印参照〕に一定の速度で移動すると共に,移動した各位置における加工点P’において前記噴射方向Dが前記傾斜角θに維持されるよう,前記噴射ノズル30と前記被加工物10(基板10’)とを相対的に移動させる。
【0080】
噴射方向Dと幅方向線Wとの交叉角は,図示の実施形態にあっては直角(90°)としているが,この交叉角rは,0〜90°の範囲で傾斜させても良い。
【0081】
前記相対移動は,ノズル30を移動させても良く,基板10’を移動させても良く,更には双方共に移動させても良い。
【0082】
傾斜角θは,これを小さくすればする程,弾性研磨材20が被加工物10(基板10’)の側面を滑走し易くなるが,あまり小さくし過ぎると切削性が低下する一方,これを大きくし過ぎると弾性研磨材20が被加工物10(基板10’)の側面上を滑走し難くなり,衝突時の衝撃が十分に吸収されずに被加工物10の側面に凹凸が形成されて必要な平滑性が得られない。このことから,傾斜角θは2〜60°,好ましくは5〜30°の範囲とする。
【0083】
また,被加工物10と噴射ノズル30の相対移動は,前述の加工領域F(加工点P)が3〜1000mm/sec程度で被加工物10の周方向に移動するよう行う。
【0084】
なお,被加工物10が,図1を参照して説明したように,複数枚の基板10’を重ねたものである場合には,図5に示すように加工を,被加工物10の周方向(接触線Tの長手方向)のみならず,幅方向(幅方向線Wの長手方向)に対しても所定の速度で徐々に移動させ,前述した加工領域F(加工点P)の移動軌跡が,被加工物の外周上で螺旋を描くように移動させる。
【0085】
〔作用等〕
以上のようにして被加工物10の側部に対して圧縮空気と共に弾性研磨材20を噴射すると,噴射された弾性研磨材20は被加工物10(基板10’)の側面に対して衝突するが,衝突時の衝撃は,弾性研磨材20の母材21が変形することにより吸収されるため,基板10’に対しては大きな衝撃は加わらない。
【0086】
また,このようにして弾性研磨材20は,衝突時の衝撃を変形によって吸収すると共に,前述したように所定の傾斜角θに傾斜させた噴射方向Dで噴射されていることとも相俟って,基板10’の側面上での跳躍が抑制されることから,基板10’の側面表面に沿って基板10’の周方向に滑動すると共に,この滑動の際に弾性研磨材20の母材21中に分散し,又は母材21表面に付着させた砥粒22が切削力を発揮して,基板10’の側面における表面粗さが改善される。
【0087】
基板10’の側面上を滑動できず,幅方向の両端(エッジ部分)より脱落する弾性研磨材20は,基板10’の側面における幅方向両端にあるエッジを切削して面取りを行い,又は既に面取りが行われている基板10’を加工対象とする場合には面取りによって形成された面を研磨することで,基板の側部全体の粗さが改善されると共に,前工程で行われた加工によって生じたクラックやマイクロクラックが除去される。
【0088】
特に,複数枚の基板10’を重ねて処理する場合,基板10’間にスペーサ11を挟持することで,基板10’の側面の研磨のみならず,クラックの発生し易いエッジ部分を除去して面取り,又は面取りによって生じた面を研磨することで,基板10’の抗折強度を確実に向上させることができる。
【0089】
このようにして,本発明の方法によれば,基板10’にチッピングやクラックを発生させることなく,面荒さが改善されると共に,エッジ部分の面取り,面取り後の研磨が行われることで,曲げ強度等の機械的強度が大幅に改善できるものとなっている。
【0090】
しかも,砥粒22を母材21に分散し,又は母材21の表面に付着させて使用していることから,砥粒22が飛散して作業環境を汚染するといった問題を生じることもなく,また弾性研磨材20は,切削粉等と容易に分別することができ,繰り返し使用することができると共に,このような繰り返しの使用によっても基板10’に対する加工条件を略一定に維持することができることから,ダイヤモンドや酸化セリウムといった高価な砥粒22を使用した場合においても経済的な研磨加工を行うことが可能である。
【実施例】
【0091】
以下に,本発明の研磨方法によりガラス基板の端部を研磨した加工実施例について以下説明する。
【0092】
〔被加工物〕
ソーダライムガラスをスクライブした後,周縁部を砥石により面取りしたガラス基板(30×80×1.8mm)をスペーサを介して100枚重ね合わせたものを被加工物とした。
【0093】
スペーサはスクリーン印刷法によりUV硬化型のインクを各ガラス基板の片面に対して印刷した後,UVを照射して硬化させて形成した。
【0094】
使用したUV硬化型インクは,樹脂:ウレタンアクリレート,モノマー:単官能モノマーおよび多官能モノマー,増感剤:有機顔料,助剤:レベリング剤・消泡剤・シリカ・チキソ剤の構成であり,SUS製の150メッシュのスクリーンを使用して印刷した。
【0095】
〔加工条件〕
弾性研磨材として,弾性母材に砥粒が練り込まれた構造である不二製作所製の「シリウス」を,不二製作所製のブラスト加工装置「FDD−SR」を使用して噴射し,下記の表1に示す弾性研磨材に対し下記の噴射圧力で噴射した。
【0096】
なお,使用したノズルの先端部内径は,直径5mmであり,図4,5に示す投射角θを20°とし,更に,ノズルの先端から被加工物の表面迄の距離を50mmとした。
【0097】
【表1】
【0098】
なお,上記表1において,噴射圧力とは,ノズルに対して供給した圧縮空気の圧力である。
【0099】
なお,この噴射圧力に関し,#10000の弾性研磨材を使用した時のみ,0.1MPaとして,他の例に比較して低い噴射圧力で加工を実施しているが,これは#10000を0.3MPaで加工すると表面粗さの改善が少なくなることによる。
【0100】
すなわち,弾性研磨材では,図6に示すように被加工物の表面に対して着地(衝突)した際に変形することで,衝突エネルギーが局部集中し難い構成となっているが,これを高い噴射圧力で噴射すると衝突エネルギーが局部的に集中して衝突部位が選択的に加工される結果,平滑面が得にくくなるためであり,噴射圧力は、このように表面粗さの調整に使用できる。また研磨材の粒径を小さくすることにより衝突エネルギーを小さくして最終仕上げ面にすることもできる。
【0101】
〔加工結果1〕表面粗さ
上記加工方法で加工したガラス基板側部の表面状態を光学顕微鏡によって観察すると共に,表面粗さを測定した。
【0102】
側部表面の光学顕微鏡写真を図7〜11に,表面粗さの測定結果を下記の表2に示す。
【0103】
なお,上記端部表面の観察は,レーザー方式による顕微鏡(キーエンス社製VK8500)を使用して行い,表面粗さの測定はこの光学顕微鏡を使用した非接触法により測定し,対物レンズ50倍を用い,面積:66700μm2(298μm×224μm)の範囲で測定した。
【0104】
【表2】
【0105】
以上の結果から,本発明の方法により研磨することで,ガラス基板の側部が平坦になっており,特に,使用する弾性研磨材の粒径が小さくなる程,平滑になっており,本発明の方法による加工が,ガラス基板の端部に生じていたクラックやマイクロクラック等のガラスの破断原因となる欠陥を除去する上で有効であることが確認できた。
【0106】
〔加工結果2〕強度試験
前述した本発明の方法で加工したガラス基板に対し,抗折強度試験を行うと共に,既知のスラリー研磨で研磨したガラス基板の強度と比較した。
【0107】
強度試験の対象としたガラス基板は,前述した加工例のうち,♯6000の加工後#10000の弾性研磨材を使用して加工を行ったものを対象とし,ブラスト加工後,重ね合わせていた各ガラス基板を分離すると共にスペーサを除去して得たガラス基板(30×80×1.8mm)20枚に対して測定して平均値を求めた。
【0108】
抗折強度試験は,インストロン社製の万能試験機「5582」を使用して行い,ガラス基板を60mmの固定ピッチで両端を支え,その中央を0.5mm/minで押し込んでいき,破断するまでの荷重(N)を測定した。
【0109】
なお,比較のため,本願の方法で処理対象としたガラス基板と同材質,同寸法のガラス基板の端部を,#800ダイヤモンド砥石を用いて面取り加工をした後,#3000の酸化セリウムの砥粒を含むスラリーと,#10000の酸化セリウムの砥粒を含むスラリーを使用して段階的にブラシ研磨によりラッピングしたガラス基板についても同様の方法によって抗折強度試験を行った。
【0110】
以上の結果,ブラシ研磨によってラッピングを行ったガラス基板の抗折強度の平均値を100とすると,本発明の方法で研磨したガラス基板の抗折強度試験結果の平均値は98であり,その差は誤差の範囲内であって略同一の強度が得られた。
【0111】
また,坑折強度のばらつきは,セリウム砥粒のスラリーを使用したブラシ研磨後の基板が平均値に対し±10%程あったのに対し,本発明の方法で端部の研磨を行ったガラス基板にあっては±5%の範囲に入っており,加工精度のばらつきが少ないことが確認できた。
【0112】
以上の結果から,本発明の方法によれば,ガラスの破壊起点となるクラックやマイクロクラックの除去を,過去に実績ある酸化セリウムスラリーを使用したブラシ研磨と同等に行うことが可能であると共に,製品の加工精度のばらつきを,既知の方法による研磨に比較して少なくできることが確認できた。
【符号の説明】
【0113】
10 被加工物
10’ 硬質脆性材料基板
11 スペーサ
20 弾性研磨材
21 母材(弾性材料)
22 砥粒
30 噴射ノズル
D 噴射方向
W 幅方向線
T 接触線
θ 傾斜角
r 投射方向Dと幅方向線Wの交叉角
P,P’ 加工点
F 加工領域
【技術分野】
【0001】
本発明は硬質脆性材料基板の側部研磨方法に関し,より詳細にはガラス,石英,セラミックス,サファイア等の硬質脆性材料基板の周縁を成す側面やエッジ,前記エッジを切削して形成した面取り部分から成る側部を研磨する研磨方法に関する。
【0002】
なお,本発明において「基板」とは,何らかの機能を実現するために機能部品を配置する板状の部品をいい,液晶ディスプレイ用のガラス基板,ハードディスク用のガラス基板のように,一般に「基板」と呼ばれるものの他,携帯電話機等において液晶装置等を背面に配してこれを保護する機能を実現するカバーガラス等も本発明における「基板」に含む。
【背景技術】
【0003】
硬質脆性材料基板の一例としてガラス基板は,液晶テレビ,パーソナルコンピュータ,携帯電話機等の携帯情報端末,デジタルカメラの液晶ディスプレイ等のフラットパネル用基板や,液晶ディスプレイを保護する保護カバーとして使用される他,従来のアルミ製基板と比較して低膨張であると共に耐衝撃性が高いことから,ハードディスク用の基板等としても使用されている等,その産業用途が拡大している。
【0004】
このようなガラス基板は,ガラス基材よりフラットパネル用基板であれば矩形,ハードディスク用基板であればドーナッツ型といったように,所定形状に切り出した後,研磨を行うことにより仕上げられる。
【0005】
ガラス基板に対する研磨としては,厚みを極限まで薄くする等といった厚み調整や,表面粗さの改善を目的として平面部に対して行う研磨加工の他,切り出されたままのガラス基板の側部ではエッジ部分で割れや欠けが生じ易く,また,切り出し等の際に生じたクラックやマイクロクラックが側部に残っていると,曲げ応力が加わった際にこの部分を起点として基板全体が容易に割れてしまうことから,側部のエッジを面取りによって除去すると共に,側面や面取りした部分を鏡面に研磨することで,クラックやマイクロクラックを除去する,側部の研磨加工が行われている。
【0006】
ここで,ガラス基板の側部の研磨加工として現在一般的に行われている研磨方法を大別すると,ガラス研磨用の砥粒を金属や樹脂をバインダとして結合して得た砥石によって研磨する方法と,砥粒を含むスラリーによって研磨する方法とがある。
【0007】
上記のうち砥石による研磨の例としては,ハードディスク用ガラス基板を砥石により研磨する方法として,ガラス基板の側部に対し,一枚ずつ枚葉式で回転する砥石を接触させ,研磨量を監視しながらNC制御によりこの砥石を移動させてガラス基板の内周側及び外周側の面取りと側面の研磨を行うことが提案されている(特許文献1)。
【0008】
また,前述したスラリーによる研磨の一例として,ハードディスク用ガラス基板の中央に形成された開口部内周の研磨に際し,複数枚重ね合わせたガラス基板の中央開口内に,回転するブラシを挿入すると共に開口内周に接触させ,ブラシと基板内周との間に適時,砥粒を含むスラリーを提供することで研磨する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−238310号公報
【特許文献2】特開平11−33886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述した研磨方法のうち,特許文献1に記載の方法では,回転する砥石でガラス基板1枚毎に(枚葉式で)内周縁及び外周縁の面取りと側面の研磨とを行う際に,研磨量を監視しながらNC制御によって砥石を移動させることで,製品間における加工のばらつきを減少して精度の高い加工が行えるようにしている。
【0011】
しかし,このような砥石によって硬質脆性材料であるガラスの加工を行う場合,所謂「ハマ欠け」ないしは「ピリ欠け」と呼ばれる貝殻形状の欠けに代表される欠け(以下,このような欠けの発生を総称して「チッピング」という。)が生じ易く,また,切削時の衝撃によりクラックやマイクロクラックと呼ばれる微小なクラックが発生し易い。
【0012】
特に,このようなチッピングやクラックは,周縁のエッジや,基板が矩形であれば角部といったように,先鋭な形状の部分において生じ易く,ガラス基板が研磨の前工程として側部に対しエンドミルなどを使用した加工が行われている場合,側面には,一例として図13に示すようにエンドミルの通過位置に対応する溝と,この溝間に形成された先鋭な峰から成る「ツールマーク」が形成されており,このようなツールマークを有する基板を研磨対象とした場合,前述したチッピングやクラックの発生リスクがより一層高くなる。
【0013】
このようなチッピングやクラックが発生した場合,研磨工程によってこれらを完全に除去することが難しく,このような基板に曲げ応力が作用すると,チッピングやクラックの発生点を起点としてガラス基板は容易に破断するために,ガラス基板の強度は大きく低下する。
【0014】
また,砥石を使用した加工では,加工量が多くなるに従い砥石が摩耗して形状が変化する。また,砥石が目詰まりを起こし研磨性能が低下する。そのため,加工品質,形状,寸法を一定に管理することが難しく,これを行おうとした場合,加工量を監視する等といった作業が必要となり,研磨加工の際の砥石の移動量の制御が極めて複雑となる。
【0015】
一方,スラリー研磨は,被加工物の研磨面と摺接するブラシや研磨パッドと前記研磨面との間に,微細な砥粒を含むスラリーを適宜供給して研磨を行う研磨方法であり,この方法では,砥石による研磨に比較して切削性能は落ちるものの,その分,硬質脆性材料基板であるガラス基板等を研磨対象とした場合であっても,チッピングやクラックの発生を大幅に低減することができるものとなっている。
【0016】
しかし,この方法による研磨では,作業空間に散らばったスラリーが乾燥すると,スラリー中の微細な砥粒が粉塵として舞い上がり,作業環境を汚染する等といった問題があり,この粉塵が作業者の健康を害する場合もある。
【0017】
また,このようなスラリー研磨では,ブラシや研磨パッドと研磨面との間に,スラリーを連続して供給する必要があるため,比較的大量のスラリーが使用されるが,研磨によってスラリー中の砥粒は破砕してその粒度が変化し,また,研磨時の発熱によって水分が蒸発して砥粒の濃度が高くなると共に,研磨によって生じた切削屑等の異物がスラリーに取り込まれるとスラリー中より除去することができなくなるため,スラリーを循環使用する場合,スラリーの質が一定に維持できず,従って,製品の品質も一定に維持できなくなる。
【0018】
そのため,このようなスラリー研磨では,一般にスラリーは使い捨てされており,前述した砥石による研磨の場合に比較して,砥粒の消費量が多くなる。
【0019】
ここで,一般にガラスの研磨に使用される砥粒としては,ダイヤモンドの微粉末や酸化セリウムの微粉末が使用されるが,ダイヤモンドが高価な物質であることは言うに及ばず,酸化セリウムも主力生産国の中国政府が採掘規制など供給制限を強める一方,酸化セリウムに対する中国国内や世界における需要が増大している結果,価格が高騰して極めて高価な物質となっており,このような高価な物質を砥粒として含むスラリーを使い捨てで使用することが,研磨コストを大幅に高めている。
【0020】
特許文献2に記載されているブラシ研磨では,図14に示すように回転するブラシによって複数積層されたハードディスク用のガラス基板の内周面を研磨する際,ブラシと研磨面との間に前述したスラリーを供給しながら研磨するものであるため,前述したスラリー研磨で説明したと同様,チッピングやクラックの発生を防止できるというメリットがある。
【0021】
また,特許文献2に記載の方法では,前述したように複数枚のガラス基板を積層して研磨することから,複数枚のガラス基板の研磨加工を同時に行うことができるというメリットがある。
【0022】
しかし,特許文献2に記載のブラシ研磨も,前述したスラリー研磨の一種であるから,ダイヤモンドの微粉末や酸化セリウムの微粉末といった高価な砥粒を多量に消費するという問題がある。
【0023】
更に,特許文献2に記載の方法では,研磨に使用する軸付きブラシを図14に示すように上端のみを支持した状態でガラス基板の中央開口内に挿入することから,ブラシの軸として比較的変形し難い金属棒を使用していたとしても,その下端が回転時に振れてブラシの毛先が研磨面に均一に当たらず,そのため,複数のガラス基板を重ねて加工すると,高さ方向のいずれの位置にあるガラス板かによって加工の程度が変化してしまい,製品間の品質にむらが生じてしまうという問題がある。
【0024】
このような問題を解消しようとすれば,ブラシを上下方向に動かして高さ方向に生じる加工むらの発生を解消するか,加工状態が一定となるように,ガラス基板の積層順を入れ換えて複数回にわたり研磨を行う等の作業が必要となり加工時間が長くなるため作業性が低下する。
【0025】
なお,以上の説明では,硬質脆性材料基板の一例として,ガラス基板を例に挙げて説明したが,ガラス以外の他の硬質脆性材料,例えば石英,セラミックス,サファイア等で基板を形成する場合にも,同様に砥石によって研磨する場合にはチッピングやクラックの発生という問題があり,また,砥粒としてダイヤモンドや酸化セリウムといった高価な砥粒が使用されるために,研磨コストが高いという問題を有している。
【0026】
そこで本発明は,上記従来技術における欠点を解消するためになされたものであり,チッピングやクラックの発生を防止しつつ,砥粒の消費量を減少させると共に,砥粒による作業環境の汚染を防止でき,更に,複数枚の硬質脆性材料基板を重ねて同時に加工を行った場合であっても,全ての基板の側部に対し均一な研磨加工を施すことができ,従って作業性の良い硬質脆性材料基板の側部研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0028】
上記目的を達成するために,本発明の硬質脆性材料基板の側部研磨方法は,弾性母材21に研磨用の砥粒22を分散させた弾性研磨材20〔図3(A)参照〕,又は,弾性母材21の表面に研磨用の砥粒22を付着させた弾性研磨材20〔図3(B)参照〕を,硬質脆性材料基板10’から成る被加工物10の側部に向かって噴射ノズル30より圧縮気体と共に噴射して衝突させ,該被加工物10の前記側部を研磨する方法であって,
前記被加工物10の側部上の一点を加工点Pとし,前記加工点Pを通る前記被加工物10の幅方向線Wと,前記幅方向線Wと直交し前記加工点Pで前記被加工物10の外周と接する接触線Tを想定し,
前記加工点Pで前記幅方向線Wと交叉し,前記接触線Tに対し2〜60°の範囲から選択された所定の傾斜角θを成す噴射方向Dで,前記加工点Pを中心とした所定の加工領域Fに対して前記弾性研磨材の噴射を行うと共に,
前記加工領域Fを前記被加工物の周方向に一定の速度で移動させると共に,移動した位置における各加工点P’において前記噴射方向Dを維持するよう,前記噴射ノズル30と前記被加工物とを相対的に移動させることを特徴とする(請求項1)。
【0029】
前記硬質脆性材料基板の研磨方法において,更に,同一形状の複数枚の硬質脆性材料基板10’を平面形状が一致するように複数枚重ね合わせたものを前記被加工物10とすると共に(図1,図5参照),
前記加工領域Fを更に前記被加工物10の幅方向(幅方向線Wの長手方向)に対しても一定の速度で移動させるようにしても良く(請求項2),例えば被加工物10の側面上で螺旋を描くように移動させる。
【0030】
このように複数枚の硬質脆性材料基板10’を重ねたものを被加工物10とする場合,各硬質脆性材料基板10’間に,硬質脆性材料基板10’に対し僅かに小さい相似形の外周形状を有するスペーサ11を配置することが好ましく(請求項3),
更に,前記スペーサ11の厚み(図2中のg)を0.01〜5mmと成すと共に,前記スペーサ11の側部と前記硬質脆性材料基板10’の側部間に,0.1〜10mmの高低差(図2中のh)が形成されるよう,前記スペーサ11の寸法を調整することが好ましい(請求項4)。
【0031】
また,前記スペーサ11は,各硬質脆性材料基板10’の片面にスクリーン印刷によって形成した樹脂材料製のスペーサ11とすることもできる(請求項5)。
【0032】
なお,前記弾性研磨材20は,好ましくは噴射圧力0.01〜0.5MPaの圧縮気体と共に噴射する(請求項6)。
【0033】
更に,前記噴射ノズル30としては,スリット形状の噴射口を備えたスリット型ノズル(図示せず)を使用することができ,前記噴射口におけるスリットの長さ方向を,被加工物の幅方向に配置して前記弾性研磨材の噴射を行うものとしても良い(請求項7)。
【発明の効果】
【0034】
以上説明した本発明の構成により,本発明の硬質脆性材料基板の側部研磨方法によれば,以下の顕著な効果を得ることができた。
【0035】
弾性研磨材20を圧縮気体と共に噴射することにより硬質脆性材料基板10'の側部を研磨する構成としたこと,及び,噴射方向D(傾斜角θ)を一定に維持したまま被加工物の周方向に一定の速度で移動しつつ噴射を行うことにより,チッピングやクラックの発生を防止しつつ,硬質脆性材料基板10’の側部に対し均一な加工を行うことができた。
【0036】
しかも,砥粒22は,弾性研磨材20の母材21に分散され,又は母材21の表面に付着されていることから,スラリーを使用する場合のように乾燥によって砥粒が飛散して作業環境を汚染するおそれが無く,また,弾性研磨材20と共に回収された切削粉等は,例えばサイクロン等による遠心分離で容易に弾性研磨材20と分離して除去することができ,弾性研磨材20はこれを繰り返し使用することができることから,ダイヤモンドや酸化セリウム等,硬質脆性材料基板用の高価な砥粒を使用した場合であっても経済的に研磨を行うことができた。
【0037】
同一形状の複数枚の硬質脆性材料基板10’を平面形状が一致するように複数枚重ね合わせたものを前記被加工物10とすると共に,前記加工領域Fを更に前記被加工物の幅方向に対しても一定の速度で移動させることにより,複数枚の硬質脆性材料基板10’を同時に加工することができるだけでなく,圧縮気体と共に弾性研磨材20を噴射する本発明の方法では加工条件を一定に維持し易く幅方向のいずれの位置に配置した硬質脆性材料基板10’の側面に対しても均一な加工を行うことができた。
【0038】
前述したように複数枚の硬質脆性材料基板10’を重ねて処理する場合,硬質脆性材料基板10’間に,各硬質脆性材料基板10’に対し僅かに小さい相似形の外周形状を有するスペーサ11を配置することにより,各硬質脆性材料基板10’の側面の研磨のみならず,エッジ部分の面取り,乃至は面取りによって形成された面の研磨も同時に行うことができた。
【0039】
特に,前記スペーサの厚み(図2中のg)を0.01〜5mmと成すと共に,前記スペーサの側部と前記硬質脆性材料基板の側部間に,0.1〜10mmの高低差(図2中のh)を設けたことにより,面取りの形成,又は,面取りによって形成された面の研磨を適切に行うことができると共に,不必要な部分に対してまで研磨が及ぶことを好適に防止することができた。
【0040】
このスペーサ11は,前述したようにスクリーン印刷によって比較的簡単に形成することができると共に,各硬質脆性材料基板10’の片面に対しスクリーン印刷によってスペーサ11を形成することで,硬質脆性材料基板10’に対する位置合わせ等の煩雑な作業が不要となると共に,その後の位置ずれが防止でき,スペーサ11の側部と硬質脆性材料基板の側部間における高低差(図2中のh)を,全周に亘り一定に保つことが容易であった。
【0041】
前記弾性研磨材20を,噴射圧力を0.01〜0.5MPaの圧縮気体と共に噴射したことにより,チッピングやクラックの発生を防止しつつ,比較的効率的に研磨を行うことができ,更に,噴射ノズル30をスリット型ノズル(図示せず)とすることで,同時に加工できる範囲を拡大することができると共に,スリット型ノズルではスリットの長さ方向における研磨材の噴射条件が一定となるため,複数枚の硬質脆性材料基板を重ねて処理した場合,幅方向における品質のばらつきが生じ難いものとすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】複数枚の硬質脆性材料基板を重ね合わせて成る被加工物の構成例を示す分解斜視図。
【図2】図1のII−II線矢視方向の断面図。
【図3】弾性研磨材の構成例を示した断面図であり,(A)は母材中に砥粒を分散させたもの,(B)は母材表面に砥粒を付着させたもの。
【図4】被加工物(基板単葉)に対する研磨方法の説明図であり,(A)は矩形状の基板,(B)は円形基板に対する加工例。
【図5】被加工物(複数枚重ねた基板)に対する研磨方法の説明図。
【図6】弾性研磨材の変形と被加工物に対する接触面積の拡大の説明図。
【図7】本発明の方法により♯320の弾性研磨材を使用して研磨したガラス基板側部の光学顕微鏡写真。
【図8】本発明の方法により♯600の弾性研磨材を使用して研磨したガラス基板側部の光学顕微鏡写真。
【図9】本発明の方法により♯1000の弾性研磨材を使用して研磨したガラス基板側部の光学顕微鏡写真。
【図10】本発明の方法により♯3000の弾性研磨材を使用して研磨したガラス基板側部の光学顕微鏡写真。
【図11】本発明の方法により♯6000の弾性研磨材を使用して研磨したガラス基板端部の光学顕微鏡写真。
【図12】本発明の方法により♯10000の弾性研磨材を使用して研磨したガラス基板端部の光学顕微鏡写真。
【図13】ツールマークの説明図。
【図14】従来のブラシによる研磨の説明図(特許文献2の図1に対応)。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に,本発明の実施形態につき添付図面を参照しながら以下説明する。
【0044】
〔被加工物〕
本発明で,側部研磨の対象とする被加工物は,硬質であると共に脆性を有する材料で形成された基板であり,硬質である一方,靱性に欠ける等の脆性を有する結果,研磨加工を行う際に,チッピングやクラックの発生し易い材質で形成された基板を対象とする。
【0045】
このような材質としては,一例としてガラス,石英,セラミックス,サファイア等が挙げられ,これらはいずれも本発明による研磨方法の対象となるが,特に,フラットパネルの基板,ハードディスクの基板等として工業的に大量に生産されているガラス基板に対する利用が期待できる。
【0046】
このようなガラスとしては,特に限定するものではないが,フラットパネルディスプレイの基板に使用されるソーダガラス,ソーダライムガラス,アルカリガラス,ノンアルカリガラス,青板ガラス,高歪点ガラスや,ハードディスクの基板に使用されるアルミノシリケートガラス,結晶化ガラスは勿論,ボロシリケートガラス(耐熱ガラス),カリガラス,クリスタルガラス,石英ガラス,強化ガラス等も本発明の方法による研磨の対象とすることができる。
【0047】
また,被処理対象の形状は,基板(板状)であれば特に限定されず,フラットパネルの一般的な形状である矩形,ハードディスクの一般的形状である円形(ドーナツ型)は勿論,フラットパネル等では,搭載する物品によっては幾何学模様にデザインされたものもあり,このようなものも,本願における研磨の対象とすることができ,特にハート型のように,内向きに凹んだ部分を有する外形形状の基板については従来の方法では研磨が困難であったが,本発明の方法では,このような形状の基板であっても,好適に研磨を行うことが可能である。
【0048】
処理対象とする硬質脆性材料基板,例えばガラス基板は,マザーガラス等から切り出されたものをそのまま本発明の加工対象としても良いが,前処理として予め砥石等を使用して側部の粗研ぎと面取りを行ったものを処理対象としても良く,このような前処理を行ったものを処理対象とする場合には,本発明の方法による処理時間を短縮することができる。
【0049】
硬質脆性材料基板10’は,1枚単位で本発明の被処理対象10とすることもできるが,複数枚を重ねて被処理対象10としても良い。
【0050】
このように,複数枚の硬質脆性材料基板10’を重ねたものを被加工物10とする場合には,好ましくは図1に示すように各硬質脆性材料基板10’間に,この硬質脆性材料基板10’の外形形状に対し僅かに小さい相似形の外形形状を有する板状のスペーサ11を挟持する。
【0051】
このようにスペーサ11を挟持することで,隣接する基板10’の側部間に,図2に示すように,スペーサ11の厚みに対応した間隙gが形成されると共に,スペーサ11の外周と基板の外周間に高低差hが生じ,これにより,基板10’の外周面のみならず,エッジ部分の面取りや研磨を同時に行うことが可能となる。
【0052】
なお,スペーサ11は,基板10’間の間隔を規制できるものであれば,図1に示すように中央部分を持たない枠状の構造に構成するものとしても良い。
【0053】
前述の基板10’間の間隙gと,基板とスペーサの外周間の高低差hは,加工する基板の厚さや面取り量等によって異なるが,好ましくは間隙gが0.01〜5mm,高低差hが0.1〜10mmであり,従って,このような間隙g及び高低差hを形成可能な寸法のスペーサ11を取り付ける。
【0054】
スペーサ11の材質としては,後述する弾性研磨材20との衝突によって容易に除去されてしまうようなものを除き各種のものを使用でき,例えば紙,金属薄乃至は金属板,樹脂フィルム乃至は樹脂板等を使用できる。
【0055】
特に,加工対象とする基板が携帯電話機,ゲーム機,携帯情報端末等の民生品であって,大量生産されるものである場合には,生産性やコストを考慮して,スクリーン印刷により各基板10’の片面に前述の樹脂製スペーサを印刷によって形成するものとしても良い。
【0056】
このように,基板10’自体にスペーサを印刷することにより,基板10’同士を重ねるだけで必要な間隙gや高低差hが形成され,基板10’とスペーサ11の位置合わせ等の煩雑な作業が不要となる。
【0057】
また,このようなスクリーン印刷によりスペーサ11を形成する場合には,UV硬化型のインクを使用してスペーサ11を印刷することで,印刷後,UV照射によって比較的早期に硬化させることができる等,生産性を向上させることができる。
【0058】
〔弾性研磨材〕
研磨に使用する弾性研磨材20は,図3(A)に示すように弾性材料によって形成された母材21に砥粒22を分散させたもの(一例として特開2006−159402号公報に記載されている弾性研磨材)を使用することができ,または図3(B)に示すように弾性材料によって形成された粘着性を有する母材21の表面に砥粒22を付着させ,又は,弾性材料によって形成された母材21の表面に粘着剤を塗布する等した後に砥粒22を付着させたものであっても良く,被加工物10に対して衝突した際に,母材21が変形することにより衝突時の衝撃を吸収することができるようになっていると共に,内部に分散され,又は表面に付着された砥粒22によって,基板10’の側部に対する研磨性を発揮するものであれば,各種のものを使用することが可能である。
【0059】
この様な弾性研磨材20の母材21としては,ゴム,熱可塑性エラストマー等の弾性体が使用でき,このような弾性体を得るための原料ポリマーとしては,固体のほか,液状ゴムやエマルジョン等のラテックスの形態のものが使用できる。
【0060】
また,前記母材21並びに該母材21を含む前記研磨材の反発弾性率を抑える観点から,その特性上,低反発弾性であるものが好ましい。
【0061】
前記ゴムとしては,天然ゴムのほか,各種合成ゴムも使用でき,例えば,イソプレンゴム,スチレンブタジエンゴム,ブタジエンゴム,アクリロニトリルブタジエンゴム,クロロプレンゴム,エチレンプロピレンゴム,クロロスルフォン化ポリエチレン,塩素化ポリエチレン,ウレタンゴム,シリコンゴム,エピクロルヒドリンゴム,ブチルゴム等を挙げることができる。
【0062】
また,前記熱可塑性エラストマーとしては,スチレンブロックコポリマー,塩素化ポリエチレン系エラストマー,ポリエステル系エラストマー,ニトリル系エラストマー,フッ素系エラストマー,シリコン系エラストマー,エステルハロゲン系ポリマーアロイ,オレフィン系エラストマー,塩ビ系エラストマー,ウレタン系エラストマー,ポリアミド系エラストマー,エステルハロゲン系ポリマーアロイ等がある。
【0063】
これらの原料ポリマーであるゴム,熱可塑性エラストマーは,単独で用いるほか,複数種を混合(併用)して用いても良い。
【0064】
また,回収廃棄製品や製造工程において排出される廃棄物をリサイクルして得られたゴムや熱可塑性エラストマーを使用しても良い。
【0065】
前記原料ポリマーは,各種の配合剤と混合された上で母材を成す弾性体として加工される。
【0066】
なお,以下,原料ポリマーとしてゴムを使用する場合について説明すると,ゴムポリマーに混合される前記配合剤としては,ゴム分子間を架橋するための加硫剤,前記加硫剤による架橋反応を促進するための加硫促進剤のほか,ゴムに可塑性を与えて配合剤の混合・分散を助け,圧延や押出等の加工性をよくするための可塑剤,ゴム製造時に要求される粘着性を与えて加工性を良くするための粘着付与剤,増量によって製品コストを低下させるほか,ゴムの物性(引っ張り強さや弾性等の機械的特性等)や加工性を向上させるための充填剤,また,安定剤,分散剤等一般にゴム成形に用いられている各種の配合剤が挙げられる。
【0067】
前記充填剤としては,研磨材に重量を付与する目的から,例えば,砥粒の硬度より低い金属,セラミックス,無機物樹脂等を使用することができ,これらを配合することによってブラスト加工に適した研磨材密度となるように調整することができる。また,静電防止のため,カーボンブラックや金属粒子等の導電性を有する物質を使用することもできる。
【0068】
上記実施形態にあっては,原料ポリマーをゴムポリマーとしたが,上述するように原料ポリマーとして熱可塑性エラストマーを用いてもよく,この場合には熱可塑性エラストマーの成形に一般に用いられる各種の配合剤が使用可能である。
【0069】
母材21に分散し,又は,母材21の表面に付着させる砥粒22の種類も特に限定されるものではないが,硬質脆性材料の研磨に適したものが選択され,一例としてガラスの研磨に一般的に使用されているダイヤモンドや酸化セリウムの粒体の他,炭化珪素,酸化アルミニウム,ジルコニア,ジルコン,酸化鉄,炭化ホウ素,ホウ化チタンおよびこれらの混合物等を使用することができる。
【0070】
使用する弾性研磨材20のサイズは,平均粒径30〜2000μmであり,弾性研磨材20の粒径が大き過ぎると基板間の間隙gに入り難くなる等,面取り部の研磨がされ難くなり,また,粒径が小さすぎると加工量が少なくなり,研磨に長時間を要するために生産性が低下する。より好ましい弾性研磨材20の粒径の範囲は,平均粒径100〜1000μmである。
【0071】
また,弾性研磨材20の母材21中に分散し,又は母材21表面に付着させる砥粒22の粒径は,♯360〜30000(平均粒径35〜0.3μm)であり,砥粒22の粒径が大きすぎると研磨面に比較的大きな傷ができて凹凸が生じて鏡面にならず,また,マイクロクラック等の発生原因となると共に,粒径が小さすぎると加工量が少なくなり,研磨に長時間が必要となる。より好ましい砥粒22の粒径の範囲は,♯3000〜20000(平均粒径4.0〜0.5μm)である。
【0072】
なお,使用する弾性研磨材20及び砥粒22の粒径は,研磨の進行に合わせて段階的に小さくするものとしても良い。この場合,例えば♯320,♯600,♯1000,♯3000,♯6000,♯10000,♯20000のように順次番手が大きくなる(砥粒粒径が小さくなる)弾性研磨材20を複数種類用意しておき,被加工物10の加工表面が粗い場合には,♯320から順次高番手(小粒径)の弾性研磨材を,被加工物の加工表面が比較的滑らかである場合には,♯320,♯600といった比較的低番手のものを使用することなく,例えば♯1000から順次高番手の弾性研磨材を使用する等しても良い。
【0073】
また,低番手の弾性研磨材20には比較的低番手の砥粒22を分散乃至は付着させると共に,弾性研磨材20が高番手になるに従い,分散乃至は付着させる砥粒22の番手も順次高番手のものとする。
【0074】
〔噴射方法〕
前述した弾性研磨材20は,噴射ノズル30より圧縮気体,本実施形態にあっては圧縮空気と共に被加工物10である基板10’の側部に対して噴射する。
【0075】
弾性研磨材20の噴射に使用する圧縮空気の噴射圧力は,使用する弾性研磨材の粒径や,これに分散乃至は付着させた砥粒の粒径,最終的に得ようとする仕上げ面の状態(粗さ)等に応じて適宜変更可能であるが,一例として0.01MPa〜0.5MPaの範囲であり,噴射圧力をあまり低く設定すると加工量が少なくなり加工に長時間を要し生産性が落ちる一方,噴射圧力を高くし過ぎると基板を凹凸にし,面粗さを悪化させて強度低下を招く。
【0076】
より好ましい噴射圧力の範囲は0.02MPa〜0.3MPaであり,ガラスや石英等の硬質脆性材料基板において光沢面を得る場合,より好ましくは0.05MPa〜0.3MPaの範囲である。
【0077】
噴射に使用する噴射ノズル30は,噴射口が円形をした丸型ノズルを使用しても良いが,前述したように複数枚の基板を重ね合わせて同時に研磨する場合には,噴射口が長細い矩形状のスリット形状に形成されたスリット型ノズル(図示せず)を使用することが好ましく,このようなスリット型ノズルを使用する場合,丸型ノズルを使用する場合に比較して,スリットの長さ方向における弾性研磨材の噴射速度のばらつきを抑えることができ,均一な加工を行うことができる。
【0078】
このようなスリット型ノズルを使用する場合,スリットの長さ方向が,被加工物の幅方向となるように配置する。
【0079】
弾性研磨材20の噴射は,図4に示すように前記被加工物10(基板10’)の側部上の一点を加工点Pとし,前記加工点Pを通る前記被加工物の幅方向線Wと,前記幅方向線Wと直交し,前記加工点Pで前記基板10’の側部(側面)と接する接触線Tを想定し,前記加工点Pで前記幅方向線Wと交叉し,前記接触線Tに対し所定の傾斜角θを成す噴射方向Dで,前記加工点Pを中心とした所定の加工領域Fに対して前記弾性研磨材の噴射を行うと共に,前記加工領域Fが前記被加工物の周方向〔図4(A),(B)中の矢印参照〕に一定の速度で移動すると共に,移動した各位置における加工点P’において前記噴射方向Dが前記傾斜角θに維持されるよう,前記噴射ノズル30と前記被加工物10(基板10’)とを相対的に移動させる。
【0080】
噴射方向Dと幅方向線Wとの交叉角は,図示の実施形態にあっては直角(90°)としているが,この交叉角rは,0〜90°の範囲で傾斜させても良い。
【0081】
前記相対移動は,ノズル30を移動させても良く,基板10’を移動させても良く,更には双方共に移動させても良い。
【0082】
傾斜角θは,これを小さくすればする程,弾性研磨材20が被加工物10(基板10’)の側面を滑走し易くなるが,あまり小さくし過ぎると切削性が低下する一方,これを大きくし過ぎると弾性研磨材20が被加工物10(基板10’)の側面上を滑走し難くなり,衝突時の衝撃が十分に吸収されずに被加工物10の側面に凹凸が形成されて必要な平滑性が得られない。このことから,傾斜角θは2〜60°,好ましくは5〜30°の範囲とする。
【0083】
また,被加工物10と噴射ノズル30の相対移動は,前述の加工領域F(加工点P)が3〜1000mm/sec程度で被加工物10の周方向に移動するよう行う。
【0084】
なお,被加工物10が,図1を参照して説明したように,複数枚の基板10’を重ねたものである場合には,図5に示すように加工を,被加工物10の周方向(接触線Tの長手方向)のみならず,幅方向(幅方向線Wの長手方向)に対しても所定の速度で徐々に移動させ,前述した加工領域F(加工点P)の移動軌跡が,被加工物の外周上で螺旋を描くように移動させる。
【0085】
〔作用等〕
以上のようにして被加工物10の側部に対して圧縮空気と共に弾性研磨材20を噴射すると,噴射された弾性研磨材20は被加工物10(基板10’)の側面に対して衝突するが,衝突時の衝撃は,弾性研磨材20の母材21が変形することにより吸収されるため,基板10’に対しては大きな衝撃は加わらない。
【0086】
また,このようにして弾性研磨材20は,衝突時の衝撃を変形によって吸収すると共に,前述したように所定の傾斜角θに傾斜させた噴射方向Dで噴射されていることとも相俟って,基板10’の側面上での跳躍が抑制されることから,基板10’の側面表面に沿って基板10’の周方向に滑動すると共に,この滑動の際に弾性研磨材20の母材21中に分散し,又は母材21表面に付着させた砥粒22が切削力を発揮して,基板10’の側面における表面粗さが改善される。
【0087】
基板10’の側面上を滑動できず,幅方向の両端(エッジ部分)より脱落する弾性研磨材20は,基板10’の側面における幅方向両端にあるエッジを切削して面取りを行い,又は既に面取りが行われている基板10’を加工対象とする場合には面取りによって形成された面を研磨することで,基板の側部全体の粗さが改善されると共に,前工程で行われた加工によって生じたクラックやマイクロクラックが除去される。
【0088】
特に,複数枚の基板10’を重ねて処理する場合,基板10’間にスペーサ11を挟持することで,基板10’の側面の研磨のみならず,クラックの発生し易いエッジ部分を除去して面取り,又は面取りによって生じた面を研磨することで,基板10’の抗折強度を確実に向上させることができる。
【0089】
このようにして,本発明の方法によれば,基板10’にチッピングやクラックを発生させることなく,面荒さが改善されると共に,エッジ部分の面取り,面取り後の研磨が行われることで,曲げ強度等の機械的強度が大幅に改善できるものとなっている。
【0090】
しかも,砥粒22を母材21に分散し,又は母材21の表面に付着させて使用していることから,砥粒22が飛散して作業環境を汚染するといった問題を生じることもなく,また弾性研磨材20は,切削粉等と容易に分別することができ,繰り返し使用することができると共に,このような繰り返しの使用によっても基板10’に対する加工条件を略一定に維持することができることから,ダイヤモンドや酸化セリウムといった高価な砥粒22を使用した場合においても経済的な研磨加工を行うことが可能である。
【実施例】
【0091】
以下に,本発明の研磨方法によりガラス基板の端部を研磨した加工実施例について以下説明する。
【0092】
〔被加工物〕
ソーダライムガラスをスクライブした後,周縁部を砥石により面取りしたガラス基板(30×80×1.8mm)をスペーサを介して100枚重ね合わせたものを被加工物とした。
【0093】
スペーサはスクリーン印刷法によりUV硬化型のインクを各ガラス基板の片面に対して印刷した後,UVを照射して硬化させて形成した。
【0094】
使用したUV硬化型インクは,樹脂:ウレタンアクリレート,モノマー:単官能モノマーおよび多官能モノマー,増感剤:有機顔料,助剤:レベリング剤・消泡剤・シリカ・チキソ剤の構成であり,SUS製の150メッシュのスクリーンを使用して印刷した。
【0095】
〔加工条件〕
弾性研磨材として,弾性母材に砥粒が練り込まれた構造である不二製作所製の「シリウス」を,不二製作所製のブラスト加工装置「FDD−SR」を使用して噴射し,下記の表1に示す弾性研磨材に対し下記の噴射圧力で噴射した。
【0096】
なお,使用したノズルの先端部内径は,直径5mmであり,図4,5に示す投射角θを20°とし,更に,ノズルの先端から被加工物の表面迄の距離を50mmとした。
【0097】
【表1】
【0098】
なお,上記表1において,噴射圧力とは,ノズルに対して供給した圧縮空気の圧力である。
【0099】
なお,この噴射圧力に関し,#10000の弾性研磨材を使用した時のみ,0.1MPaとして,他の例に比較して低い噴射圧力で加工を実施しているが,これは#10000を0.3MPaで加工すると表面粗さの改善が少なくなることによる。
【0100】
すなわち,弾性研磨材では,図6に示すように被加工物の表面に対して着地(衝突)した際に変形することで,衝突エネルギーが局部集中し難い構成となっているが,これを高い噴射圧力で噴射すると衝突エネルギーが局部的に集中して衝突部位が選択的に加工される結果,平滑面が得にくくなるためであり,噴射圧力は、このように表面粗さの調整に使用できる。また研磨材の粒径を小さくすることにより衝突エネルギーを小さくして最終仕上げ面にすることもできる。
【0101】
〔加工結果1〕表面粗さ
上記加工方法で加工したガラス基板側部の表面状態を光学顕微鏡によって観察すると共に,表面粗さを測定した。
【0102】
側部表面の光学顕微鏡写真を図7〜11に,表面粗さの測定結果を下記の表2に示す。
【0103】
なお,上記端部表面の観察は,レーザー方式による顕微鏡(キーエンス社製VK8500)を使用して行い,表面粗さの測定はこの光学顕微鏡を使用した非接触法により測定し,対物レンズ50倍を用い,面積:66700μm2(298μm×224μm)の範囲で測定した。
【0104】
【表2】
【0105】
以上の結果から,本発明の方法により研磨することで,ガラス基板の側部が平坦になっており,特に,使用する弾性研磨材の粒径が小さくなる程,平滑になっており,本発明の方法による加工が,ガラス基板の端部に生じていたクラックやマイクロクラック等のガラスの破断原因となる欠陥を除去する上で有効であることが確認できた。
【0106】
〔加工結果2〕強度試験
前述した本発明の方法で加工したガラス基板に対し,抗折強度試験を行うと共に,既知のスラリー研磨で研磨したガラス基板の強度と比較した。
【0107】
強度試験の対象としたガラス基板は,前述した加工例のうち,♯6000の加工後#10000の弾性研磨材を使用して加工を行ったものを対象とし,ブラスト加工後,重ね合わせていた各ガラス基板を分離すると共にスペーサを除去して得たガラス基板(30×80×1.8mm)20枚に対して測定して平均値を求めた。
【0108】
抗折強度試験は,インストロン社製の万能試験機「5582」を使用して行い,ガラス基板を60mmの固定ピッチで両端を支え,その中央を0.5mm/minで押し込んでいき,破断するまでの荷重(N)を測定した。
【0109】
なお,比較のため,本願の方法で処理対象としたガラス基板と同材質,同寸法のガラス基板の端部を,#800ダイヤモンド砥石を用いて面取り加工をした後,#3000の酸化セリウムの砥粒を含むスラリーと,#10000の酸化セリウムの砥粒を含むスラリーを使用して段階的にブラシ研磨によりラッピングしたガラス基板についても同様の方法によって抗折強度試験を行った。
【0110】
以上の結果,ブラシ研磨によってラッピングを行ったガラス基板の抗折強度の平均値を100とすると,本発明の方法で研磨したガラス基板の抗折強度試験結果の平均値は98であり,その差は誤差の範囲内であって略同一の強度が得られた。
【0111】
また,坑折強度のばらつきは,セリウム砥粒のスラリーを使用したブラシ研磨後の基板が平均値に対し±10%程あったのに対し,本発明の方法で端部の研磨を行ったガラス基板にあっては±5%の範囲に入っており,加工精度のばらつきが少ないことが確認できた。
【0112】
以上の結果から,本発明の方法によれば,ガラスの破壊起点となるクラックやマイクロクラックの除去を,過去に実績ある酸化セリウムスラリーを使用したブラシ研磨と同等に行うことが可能であると共に,製品の加工精度のばらつきを,既知の方法による研磨に比較して少なくできることが確認できた。
【符号の説明】
【0113】
10 被加工物
10’ 硬質脆性材料基板
11 スペーサ
20 弾性研磨材
21 母材(弾性材料)
22 砥粒
30 噴射ノズル
D 噴射方向
W 幅方向線
T 接触線
θ 傾斜角
r 投射方向Dと幅方向線Wの交叉角
P,P’ 加工点
F 加工領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性母材に研磨用の砥粒を分散させた弾性研磨材,又は,弾性母材の表面に研磨用の砥粒を付着させた弾性研磨材を,硬質脆性材料基板から成る被加工物の側部に向かって噴射ノズルより圧縮気体と共に噴射して衝突させ,該被加工物の前記側部を研磨する方法であって,
前記被加工物の側部上の一点を加工点とし,前記加工点を通る前記被加工物の幅方向線と,前記幅方向線と直交し前記加工点で前記硬質脆性材料基板の側部と接する接触線を想定し,
前記加工点で前記幅方向線と交叉し,前記接触線に対し2〜60°の範囲から選択された所定の傾斜角を成す噴射方向で,前記加工点を中心とした所定の加工領域に対して前記弾性研磨材の噴射を行うと共に,
前記加工領域を前記被加工物の周方向に一定の速度で移動させると共に,移動した位置における各加工点において前記噴射方向を維持するよう,前記噴射ノズルと前記被加工物とを相対的に移動させることを特徴とする硬質脆性材料基板の側部研磨方法。
【請求項2】
同一形状の複数枚の硬質脆性材料基板を平面形状が一致するように複数枚重ね合わせたものを前記被加工物とすると共に,
前記加工領域を更に前記被加工物の幅方向に対しても一定の速度で移動させたことを特徴とする請求項1記載の硬質脆性材料基板の側部研磨方法。
【請求項3】
前記硬質脆性材料基板間に,各硬質脆性材料基板に対し僅かに小さい相似形の外周形状を有するスペーサを配置したことを特徴とする請求項2記載の硬質脆性材料基板の側部研磨方法。
【請求項4】
前記スペーサの厚みを0.01〜5mmと成すと共に,前記スペーサの側部と前記硬質脆性材料基板の側部間に,0.1〜10mmの高低差を設けたことを特徴とする請求項3記載の硬質脆性材料基板の側部研磨方法。
【請求項5】
前記スペーサが,各硬質脆性材料基板の片面にスクリーン印刷によって形成した樹脂材料製のスペーサである請求項3又は4記載の硬質脆性材料基板の側部研磨方法。
【請求項6】
前記弾性研磨材を,噴射圧力を0.01〜0.5MPaの圧縮気体と共に噴射したことを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の硬質脆性材料基板の側部研磨方法。
【請求項7】
前記噴射ノズルを,スリット形状の噴射口を備えたスリット型ノズルと成すと共に,前記噴射口におけるスリットの長さ方向を,被加工物の幅方向に配置して前記弾性研磨材の噴射を行うことを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の硬質脆性材料基板の側部研磨方法。
【請求項1】
弾性母材に研磨用の砥粒を分散させた弾性研磨材,又は,弾性母材の表面に研磨用の砥粒を付着させた弾性研磨材を,硬質脆性材料基板から成る被加工物の側部に向かって噴射ノズルより圧縮気体と共に噴射して衝突させ,該被加工物の前記側部を研磨する方法であって,
前記被加工物の側部上の一点を加工点とし,前記加工点を通る前記被加工物の幅方向線と,前記幅方向線と直交し前記加工点で前記硬質脆性材料基板の側部と接する接触線を想定し,
前記加工点で前記幅方向線と交叉し,前記接触線に対し2〜60°の範囲から選択された所定の傾斜角を成す噴射方向で,前記加工点を中心とした所定の加工領域に対して前記弾性研磨材の噴射を行うと共に,
前記加工領域を前記被加工物の周方向に一定の速度で移動させると共に,移動した位置における各加工点において前記噴射方向を維持するよう,前記噴射ノズルと前記被加工物とを相対的に移動させることを特徴とする硬質脆性材料基板の側部研磨方法。
【請求項2】
同一形状の複数枚の硬質脆性材料基板を平面形状が一致するように複数枚重ね合わせたものを前記被加工物とすると共に,
前記加工領域を更に前記被加工物の幅方向に対しても一定の速度で移動させたことを特徴とする請求項1記載の硬質脆性材料基板の側部研磨方法。
【請求項3】
前記硬質脆性材料基板間に,各硬質脆性材料基板に対し僅かに小さい相似形の外周形状を有するスペーサを配置したことを特徴とする請求項2記載の硬質脆性材料基板の側部研磨方法。
【請求項4】
前記スペーサの厚みを0.01〜5mmと成すと共に,前記スペーサの側部と前記硬質脆性材料基板の側部間に,0.1〜10mmの高低差を設けたことを特徴とする請求項3記載の硬質脆性材料基板の側部研磨方法。
【請求項5】
前記スペーサが,各硬質脆性材料基板の片面にスクリーン印刷によって形成した樹脂材料製のスペーサである請求項3又は4記載の硬質脆性材料基板の側部研磨方法。
【請求項6】
前記弾性研磨材を,噴射圧力を0.01〜0.5MPaの圧縮気体と共に噴射したことを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の硬質脆性材料基板の側部研磨方法。
【請求項7】
前記噴射ノズルを,スリット形状の噴射口を備えたスリット型ノズルと成すと共に,前記噴射口におけるスリットの長さ方向を,被加工物の幅方向に配置して前記弾性研磨材の噴射を行うことを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の硬質脆性材料基板の側部研磨方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図13】
【図14】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図13】
【図14】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−22684(P2013−22684A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160147(P2011−160147)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000154129)株式会社不二製作所 (46)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000154129)株式会社不二製作所 (46)
【Fターム(参考)】
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