説明

磁場発生装置

【課題】
所望する分布、あるいは、強度の磁場を発生させて、渦電流測定や経頭蓋磁気刺激の励磁や磁気エネルギー供給に用いる。
【解決手段】
磁場源となる複数のループコイルを集合したループコイル配列、あるいはこれと永久磁石または磁性体コアを配置し、数値解析に基づいて、それら相互間の磁気的な作用を計算し、この結果から通電するループコイルの選定と、永久磁石、磁性体コアの形状、配置と、ループコイルに流す電流の大きさと向きを決定することによって所望する分布と強度の磁場を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場源である、例えば複数のループコイルを組み合わせた磁場発生ネット、又はこれに永久磁石あるいは磁性体コアを配置し、ループコイル同士或いはループコイルと永久磁石あるいは磁性体コアとの相互間の磁気的な作用を数値解析に基づいて制御することにより、本装置とは別に用意された電磁機器の励磁や、本装置が適用される所定部位への磁気エネルギー供給に用いるもので、磁場の所望の分布(磁場の集中を含む)あるいは所望の強度の磁場を発生する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、広く用いられている磁界分布生成装置は、磁路を形成するための磁性体コアとそれに巻かれた励磁コイルで構成されている。これは、磁性体コアが磁束の経路となり効率よく所望の場所に磁気エネルギーを集めることができるので、磁束の経路が固定された変圧器や回転機に有効な方法である。
【0003】
一方、コイル近傍に形成する磁場を利用する棒型の電磁石、パンケーキ型コイルを用いる渦電流測定、リングコイルを用いる経頭蓋磁気刺激(Transcranial Magnetic Stimulation, TMR)などで、広く分布する磁場が必要ならば大きなコイルが、狭い分布の磁場が必要ならば小さなコイルが用いられる。このようなコイルが生じる磁束の分布は、コイル形状やコイルを流れる電流、相手材の磁気特性に強く依存するものであって、変圧器や回転機のような固定した磁路を持たない。また、これらの磁束はコイルからの距離が増加するとともに発散するのが普通である。
【0004】
現在行われている渦電流測定の主な対象は、金属表面近傍の欠陥検出であり、内部の欠陥を測定の対象とする場合には、集束する磁場を用いることが望ましい。また、有田の文献1、中西、後藤の文献2によると、経頭蓋磁気刺激の対象は頭皮からの深さが2cm以内の大脳皮質に制限される。これらの制約はコイルが生じる磁場が距離とともに急速に減衰する結果、強い磁束を深部まで到達させることが困難であることに起因している。
【非特許文献1】特集/脳の機能検査マニュアル 経頭蓋磁気刺激、MB Med Reha No.40:17−26,2004
【非特許文献2】特集/脳の機能検査マニュアル 経頭蓋磁気刺激関連F波、MB Med Reha No.40:27−35,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
渦電流法で大きな被検体を短時間で測定するには、磁束が広く均一に分布した磁界の利用が効果的である。一方、深部の欠陥を測定する場合には、測定深部に磁束を集束させることが望ましい。また、経頭蓋磁気刺激法において、集束した磁場で脳深部の刺激ができるならば、経頭蓋磁気刺激法の応用範囲を著しく拡大することができる。しかしながら現在使用されている経頭蓋磁気刺激用のループコイルは構造が簡単なO型か8字型に限られている。ループコイル近傍の磁場分布を任意に設計する技術は実用化されていない。
【0006】
エプスタインは公表特許公報2000−504966(特許文献1)において数個の鉄心を束ねた状態でコイルを巻くことを特徴とする経頭蓋骨脳刺激装置を考案しているが、単一のコイルを用いるので磁場分布の制御はできない。また、石川、須田は公開特許公報2002−306614(特許文献2)において複数個のコイルを配列する磁気刺激装置を考案しているが、1個または2個のコイルに同一の電流を供給するものであって、磁場分布の制御はできない。
【特許文献1】公表特許公報2000−504966 経頭蓋骨脳刺激
【特許文献2】公開特許公報2002−306614 リッツ線コイルを用いた磁気刺激装置
【0007】
本発明は、磁場源、例えばループコイル配列の近傍の所定の位置に磁場分布を任意に設計する事や、磁場源から離れた測定部位(あるいは患部)の深部の欠陥を測定あるいは刺激するために測定深部に磁束を集束させることができる磁場発生装置を開発することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、本発明の基本的概念で「磁場を発生する磁場源を複数配置し、前記の各磁場源の配置位置および磁場源強度を調整し、それらを組み合わせることによって所望の分布あるいは強度の磁場を発生することを特徴とする磁場発生装置」である。
【0009】
請求項2は請求項1に記載の磁場発生装置に関し、磁場源を個別に制御することにより「局所的に磁場を集中させるあるいは特定の部分に磁場を均一に分布させることを特徴とする磁場発生装置」である。
【0010】
請求項3は請求項1又は2の磁場源を具体化したもので、「請求項1に記載の磁場源として、隣接した複数のループコイル配列を用い、所望の分布とは異なる磁場の成分を前記ループコイル配列の一部の要素で相殺し、所望の分布あるいは強度の磁場を発生する」ものである。換言すれば、隣接した磁場源に流す電流の向きを変え、隣接した磁場源にそれぞれ発生する磁場を逆方向に発生させて互いにその一部あるいは全部を相殺することで、当該部分の磁場の分布や強度を制御するものである。
【0011】
請求項4は、請求項1〜3のいずれかに記載の他の例の磁場源であって、「磁場源に1乃至複数の永久磁石や磁性体コアを組み合わせることで、所望の分布あるいは強度の磁場を発生することを特徴とする磁場発生装置」であり、前記制御された磁場源に発生した磁場と永久磁石や磁性体コアとを協働させて、より均一な例えば全面的な磁場や1カ所に集中した強度の磁場を形成するものである。
【0012】
請求項5は、「請求項3に記載のループコイル配列に併設して、永久磁石や磁性体コアを有することを特徴とする磁場発生装置」であり、永久磁石や磁性体コアが併用される磁場が「ループコイル配列」であり、永久磁石や磁性体コアのループコイル配列に対する配列方法は、例えば一つのループコイルごとに永久磁石や磁性体コアを交差(例えば直交)するように配列したり、あるいはループコイル配列に対してその磁場の強度を高めたい位置に配列される。
【0013】
請求項6は、請求項1〜5のいずれかに記載の磁場源強度に関し、「請求項3に記載のループコイルの形状と通電する電流、また、永久磁石や磁性体コアの種類と形状等で調整する」ものである。換言すれば、生成させるべき磁場の条件により、磁場源強度が調整されることになるが、この磁場源強度は永久磁石や磁性体コアの種類その他で調整されることになる。
【0014】
請求項7は、請求項1〜6、特に、請求項1および請求項3〜5に記載の磁場源の配置位置および磁場源強度の計算方法に関し、「所望の磁場分布hと磁場源mをそれぞれ数値データ化して、a個の数値データから構成される所望の磁場分布情報H、
【0015】
【数1】

【0016】
とb個の数値データから構成される磁場源情報M、
【0017】
【数2】

【0018】
とし、両情報の関係を表現するa行b列の長方係数行列C、
【0019】
【数3】

【0020】
で構成される連立方程式、
【0021】
【数4】

【0022】
の磁場源情報Mを求めることによって決定することを特徴とする磁場発生装置」である。
【0023】
請求項8は、請求項7に記載の係数行列Cの各要素ci,jに関し、「これらは距離r、透磁率μ、導電率κ等の関数、
【0024】
【数5】

【0025】
として磁場に関する有限要素法、境界要素法、解析解の組み合わせ等で得られるで磁場分布情報で構成され」ており、数1−4に記載の連立方程式を解くことで請求項1および請求項3―5記載の磁場源の配置位置および磁場源強度を決定することができる。
【0026】
請求項9は、磁気センサを用いてフィードバックする場合で、「請求項7に記載の係数行列Cの各要素は、磁場発生装置に併設した磁気センサの出力に応じて更新し、数1−4に記載の連立方程式を逐次解くことで請求項1および請求項3―5記載の磁場源の配置位置および磁場源強度を決定し、所望の分布あるいは強度の磁場を保持することを特徴とする磁場発生装置」である。
【0027】
ループコイルに電流を流すと、発生する磁場は電流の向きに応じてN極かS極になる。磁場源となる複数のループコイルを並べて各々のループコイルに流れる電流の向きを制御すると、隣接するグループコイルが同極の磁場は強め合い、異極の磁場は打ち消し合う。このような磁場の性質を活用するために多数のループコイルを配列して、数値計算に基づいて各ループコイルの電流値と電流の向きを適切に制御することにより、所望する分布と強度の磁場を所望の位置に形成することができる。さらに永久磁石あるいは磁性体コアを磁場源であるループコイルと併用する、あるいはループコイルから離れた所望の位置に場所に設置することによって、ループコイルと永久磁石あるいは磁性体コアが協働して所望する強度と分布の磁場が所望の位置に形成される。
【発明の効果】
【0028】
本発明の磁場源である複数のループコイルLを2次元形状、あるいは、3次元形状に配置し、各々のコイルLに流す電流の向きと強度を数値計算に基づいて決定する。必要に応じて永久磁石(図示せず)、あるいは強磁性体コア(図示せず)を併用する。強度と分布が一定の磁場を発生するには永久磁石を用いる。また、ループコイル中に強磁性体コアを入れると、磁場の強度が増し、磁場分布はコア形状に応じて変化する。さらにループコイルの外側に永久磁石や強磁性体を設置することにより、磁場を集中させる、あるいは発散させることができる。このようにして広く均一、あるいは集束するなど所望の分布と強度の磁場を形成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
[実施例および比較例]
次に、以下、本発明の形態を実施例および比較例に基づいて説明する。なお本実施例は好適な例を示し、かつ本発明の理解を容易にするためのものであり、これらの例によって本発明が制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲における他の態様および例は、当然本発明に含まれるものである。
【0030】
(磁場集束の実施例)
以下、図面を参照しながら説明する。図1の凸面上のメッシュ1は各々が三角形のループコイルの集合体(これをループコイル配列と呼ぶ。)で、各三角形のループコイルがループコイル配列の磁場源を形成する。勿論、磁場源を形成するコイルは、三角形に限られず、レンズ状あるいは4角、5角形それ以上の多角形など特に限定されるものではない。ループコイルは構成する各辺1aがそれぞれ電気的に独立しており、各辺1aごとに所望の電流を所望の方向に流すことができるようになっている(図1a)。あるいは、ループコイルごとに電気的に独立しており、ループコイルごとに所望の電流を所望の方向に流すことができるようになっている(図1b)。また、図2のメッシュ1の各辺1aに沿った矢印群は電流ベクトル分布で、各辺1aに流れる電流の向きと電流量を示す。なお、電流量は矢印の大きさで示した。このような制御はループコイルの辺毎、又はループコイル毎の電流制御装置(図示せず)により個別に制御される。
【0031】
これらコイルから離れた磁場を集中させたい部分2に磁場が集中する条件を、請求項7の示す数1〜数5によって計算した。その結果、図2に示すようにメッシュ1の三角形のコイルに通電する電流ベクトル分布4が得られ、個々のコイル1を流れる電流の大きさと向きを適切に制御することによって、磁場を集中させたい部分2に集束した磁場ベクトル分布3を発生できる。また、本例で磁場を集中させたい部分2に強磁性体コアを配置することで磁場をさらに集中させることが可能であることはいうまでもない。
【0032】
(磁場集束の比較例)
図1と同じ凸面状のメッシュ1を用い、かつ、磁場を集中させたい部分2に請求項7の示す数1〜数5の過程を踏まないでメッシュ1がつくる磁場の計算をした。この場合は図3に示すように磁場を集中させたい部分2に集束する磁場を得ることはできなかった。このとき算出された電流ベクトル分布を図4に示すが、図2と比べて、磁場を集中させたい部分2に集束するため必要と思われるメッシュコイル側面部の電流ベクトル分布5の強度が極めて小さくなった。そのために、図3に示す磁場分布は、メッシュコイルに近い部分で強くなり、磁場を集中させたい部分2に磁場が集束されなかった。
【0033】
前述の場合は、凸面上にループコイル配列を形成したが、これを2次元(平面)に形成すれば、当該ループコイル配列の面に沿って、均一なあるいは場所に応じて強度の異なる磁場を発生させることができる。
【0034】
また、このメッシュ1に加えて必要箇所に永久磁石を組み合わせた場合、メッシュ1の磁場に永久磁石の磁場が加えられ、より強度の磁場を形成することができるし、強磁性体コアを組み合わせた場合、メッシュ1の磁力線が強磁性体コアを通過して磁場の強度を増し、且つ磁場分布はコア形状に応じて変化する。また、磁場発生位置に磁気センサを設置することで、磁気センサの出力にように係数行列Cの各要素を更新して計算し直し、ループコイル配列のループコイルに与える電流を調整することで所望の磁場を瞬時にフィードバック制御することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば複数のループコイルで形成されたループコイル配列、あるいはこのループコイル配列に永久磁石、強磁性体コアを組み合わせることによって、所望の分布と強度の磁場を所望の位置に発生させることができる。本発明のループコイル配列を渦電流測定に使う場合は、広い面積の測定に適する均一で大面積の磁場を形成することができ、あるいは、これを深い部分の測定に適する集束磁場を形成することができる。この場合、現在は深さが2cm以内の大脳皮質部分のみに適用が限定される経頭蓋骨脳刺激法は、本発明によって脳深部の電磁刺激が可能になるので、病気治療や脳機能解明などの広い応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態による集束磁場分布の例
【図2】本発明の実施の形態による集束磁場分布を生成する電流分布
【図3】本発明の実施形態の過程を踏まないで生成した磁場分布で、磁場が集束しない状態を示す。
【図4】図3の磁場分布を生成する電流分布で、磁場集束必要な電流経路が導出されない状態を示す。
【符号の説明】
【0037】
1…メッシュ
1a…メッシュコイルの辺
2…磁場を集中させたい部分
3…磁場ベクトル分布
4…電流ベクトル分布
5…メッシュコイル側面部の電流ベクトル分布
L…ループコイル(磁場源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場を発生する磁場源を複数配置し、前記の各磁場源の配置位置および磁場源強度を調整し、それらを組み合わせることによって所望の分布あるいは強度の磁場を発生させることを特徴とする磁場発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁場発生装置は、局所的に磁場を集中させる、あるいは特定の部分に磁場を均一に分布させることを特徴とする磁場発生装置。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載の磁場源として、隣接した複数のループコイル配列を用い、所望の分布とは異なる磁場の成分を前記ループコイル配列の一部の要素で相殺し、所望の分布あるいは強度の磁場を発生することを特徴とする磁場発生装置。
【請求項4】
請求項1に記載の磁場源として、1乃至複数の永久磁石や磁性体コアを隣接した複数のループコイル配列と組み合わせることで、所望の分布あるいは強度の磁場を発生することを特徴とする磁場発生装置。
【請求項5】
請求項3に記載のループコイル配列に併設して、永久磁石や磁性体コアを有することを特徴とする磁場発生装置。
【請求項6】
請求項1に記載の磁場源強度は、請求項3に記載のループコイルの形状と通電する電流、永久磁石や磁性体コアの種類と形状で調整することを特徴とする磁場発生装置。
【請求項7】
請求項1又は請求項3〜5のいずれかに記載の磁場源の配置位置および磁場源強度は、所望の磁場分布hと磁場源mをそれぞれ数値データ化して、a個の数値データから構成される所望の磁場分布情報H、
【数1】


とb個の数値データから構成される磁場源情報M、
【数2】

とし、両情報の関係を表現するa行b列の長方係数行列C、
【数3】

で構成される連立方程式、
【数4】

の磁場源情報Mを求めることによって決定することを特徴とする磁場発生装置。
【請求項8】
請求項7に記載の係数行列Cの各要素ci,jは、距離r、透磁率μ、導電率κ等の関数、
【数5】

として磁場に関する有限要素法、境界要素法、解析解の組み合わせ等で得られる磁場分布情報で構成され、数1−4に記載の連立方程式を解くことで請求項1又は請求項3―5記載のいずれかに磁場源の配置位置および磁場源強度を決定することを特徴とする磁場発生装置。
【請求項9】
請求項7に記載の係数行列Cの各要素は、磁場発生装置に併設した磁気センサの出力に応じて更新し、数1−4に記載の連立方程式を逐次解くことで請求項1又は請求項3―5のいずれかに記載の磁場源の配置位置および磁場源強度を決定し、所望の分布あるいは強度の磁場を保持することを特徴とする磁場発生装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−255314(P2006−255314A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80173(P2005−80173)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(592200338)日本素材株式会社 (29)
【出願人】(304061309)株式会社マテリアル仙台 (2)
【Fターム(参考)】