説明

磁性体アンテナ及びアンテナ装置

【課題】遠方でのアンテナの結合係数を向上させて、リーダ・ライタ側アンテナ等の相手側アンテナとの通信可能距離を伸ばした磁性体アンテナ及びそれを備えたアンテナ装置を構成する。
【解決手段】平板状のフェライトからなる磁性体コア14a,14bの周囲に、コイル導体が形成されたフレキシブル基板が巻き付けられて第1・第2のコイル13a,13bがそれぞれ構成されている。コイル13aはコイル導体131,132,133・・・の複数のコイル導体が巻回されてなり、コイル13a,13bのループ面の法線は回路基板21方向にそれぞれ傾斜している。そのため、コイル13a,13bの外側端から出入りする磁束の周回経路が大きくなって、より遠方にあるリーダ・ライタ側アンテナ20との結合量が多くなり、通信距離性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部機器と電磁界信号を介して通信するRFID(Radio Frequency Identification)システム等に用いられる磁性体アンテナ及び該磁性体アンテナを備えるアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
RFIDシステムで用いられる携帯電子機器に搭載されるアンテナが特許文献1に開示されている。図1は特許文献1に記載されるアンテナ装置の構造を示す正面図である。
【0003】
図1(A)(B)のいずれの例でも、コイル導体パターンを形成したフレキシブル基板を磁性体コア4a,4bにそれぞれ巻き付けるように取り付けて、第1のコイル部2a及び第2のコイル部2bを形成している。この二つのコイル部2a,2bを回路基板21に所定間隔を有して配置(実装)することによってアンテナ装置を構成している。
【0004】
図1において破線はアンテナのコイル部2a,2bが発生する磁界(磁力線)、又はこのアンテナ装置をリーダ・ライタ側のアンテナ20に近接させた状態でアンテナのコイル部2a,2bが受ける磁界(磁力線)を表している。
【特許文献1】特許第3957000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなアンテナ装置が携帯電話端末や携帯情報端末等の携帯電子機器に実装して使用される場合には、リーダ・ライタとの通信可能距離を伸ばすために、遠方でのリーダ・ライタとアンテナの結合係数を向上させる必要がある。2つのコイル間の遠方での結合係数を向上させるためには、アンテナ単独の磁束をより遠方で周回させる必要がある。
【0006】
しかし、特許文献1に示されているアンテナ装置は、磁性体コア(フェライトコア)の軸方向に対して垂直な面をループ面とするコイルが形成されていて、且つ回路基板に直接実装または非常に近い位置に配置されている。この構造によると、磁束の周回経路が最適位置より小さくなる傾向があり、そのため、通信距離を稼ぐためには不利であり、アンテナ性能が損なわれる問題があることがわかった。
【0007】
また、図1(B)に示したように、第1・第2のコイル部2a,2bの中間位置から第1・第2のコイル部2a,2bの外側を向く、第1・第2のコイル部2a,2bのループ面の法線の方向が回路基板21から遠ざかる方向を向いていると、上述の傾向がさらに顕著になることがわかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、リーダ・ライタ側アンテナ等の相手側アンテナとの遠方での結合係数を向上させて、通信可能距離を伸ばした磁性体アンテナ及びそれを備えたアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するために、本発明は次のように構成する。
(1)磁性体コアの周囲にそれぞれ巻回された第1・第2の少なくとも2つのコイルが回路基板に実装または近接配置されるとともに、第1・第2のコイルの内側端と外側端との間を磁束が透過するときに生じる第1・第2のコイルの誘起電圧が同極性で合成されるように前記第1・第2のコイルが接続された、(または第1・第2のコイルに通電したときに第1・第2のコイルの内側端と外側端との間を磁束が透過するように第1・第2のコイルが接続された)磁性体アンテナにおいて、
前記第1・第2のコイルの内側端から外側端方向を向く、前記第1・第2のコイルのループ面の法線が前記回路基板方向にそれぞれ傾斜するように形成する。
【0010】
この構成により、コイルの外側端から発生する(コイルを透過する)磁束の向きは、実装先の回路基板方向を向くこととなる。そのため、磁束の周回経路が大きくなり、より遠方にあるアンテナとの結合量が多くなり、通信距離性能が向上する。
【0011】
(2)前記第1・第2のコイルは、それぞれコイル導体が複数回巻回されてなり、
前記ループ面の法線が前記回路基板方向に傾斜しているコイルは前記外側端付近に巻回された前記コイル導体によるコイル部のみとしてもよい。
【0012】
一般に複数巻回されたコイルにおいては、コイルのループ面が斜めになることによってインダクタンス値が低下するが、上記構成によれば、外側の端部付近に巻回されたコイル導体のみが傾斜することになるので、インダクタンス値の低下量が抑えられる。そのため必要なインダクタンス値を得るためのコイル巻回数及びコイル導体の線路長が長くならず、アンテナが大型化することもない。
【0013】
(3)前記外側端付近に巻回されたコイル導体は、前記回路基板側とは反対面側の線幅が前記回路基板側の線幅より広く形成されたものとしてもよい。
【0014】
この構成により、コイルのループ面が等価的に斜めになるが、最も外側のコイル導体のみ、その半面の線幅が広くなるだけであるので、インダクタンス値が低下することなく磁束の周回経路を大きくすることができる。
【0015】
(4)本発明のアンテナ装置は、上記構成の磁性体アンテナと、該磁性体アンテナが実装される回路基板と、を備え、前記第1・第2のコイルが巻回される前記磁性体コアの、前記第1・第2のコイルの前記外側端が、平面視で前記回路基板の外縁か、または外縁より外部に位置するようにして構成する。
【0016】
この構成により、コイルの外側の端部から回路基板側を向く磁束が回路基板の電極(グランドパターン)に遮断されることなく、回路基板側へ向かう磁束密度が高くなり、磁束の周回経路が大きくなって、通信距離性能がより向上することになる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、コイルから発生する(コイルを透過する)磁束は、コイルの外側の端部から実装先の回路基板方向を向いて、磁束の周回経路が大きくなる。そのため、より遠方にあるアンテナとの結合量が多くなり、通信距離性能が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
《第1の実施形態》
図2は第1の実施形態に係る磁性体アンテナ及びアンテナ装置の構成を示す図である。
図2(A)は、磁性体アンテナ22と、それを実装する回路基板21及びこれらによって構成されるアンテナ装置101の正面図である。平板状のフェライトからなる磁性体コア14a,14bの周囲には、コイル導体が形成されたフレキシブル基板を巻き付けられてコイル13a,13bがそれぞれ構成されている。
【0019】
この第1・第2の二つのコイル13a,13bは、後に示すように、内側端(回路基板21に実装した状態での略中間位置Cに近い側)と外側端との間を磁束が透過するときに生じる第1・第2のコイル13a,13bの誘起電圧が合成されるように、この二つのコイル13a,13bが接続されている。
【0020】
図2(B)はコイル13aの端部付近の拡大図である。コイル13aはコイル導体131,132,133・・・の複数のコイル導体が巻回されてなり、図中の破線は磁性体コア14aの後方端面でのコイル導体のパターンを、実線は磁性体コア14aの手前の端面(正面)でのコイル導体のパターンをそれぞれ表している。
【0021】
コイル13bについてもコイル13aと同様の構成である。但し、コイル13aとは左右対称形を成している。
このようにしてコイル13a,13bのループ面の法線Nは回路基板21方向にそれぞれ傾斜している。
【0022】
このように、第1・第2のコイル13a,13bのループ面の法線Nが回路基板21方向にそれぞれ傾斜していることによって、図2(A)に示すようにコイル13a,13bの外側端から出入りする磁束の方向は法線方向となり、リーダ・ライタ側アンテナ20から遠ざかる方向となる。
【0023】
また、第1・第2のコイル13a,13bが巻回される磁性体コア14a,14bの、外側端は、平面視で回路基板21の外縁か、または外縁より外部に位置している(はみ出している。)。そのため、コイルの外側の端部から回路基板側を向く磁束が回路基板の電極(グランドパターン)に遮断されず、回路基板側へ向かう磁束密度が高くなり、磁束の周回経路がより大きくなる。
【0024】
以上に述べた作用によって、磁束の周回経路が大きくなって、より遠方にあるリーダ・ライタ側アンテナ20との結合量が多くなり、通信距離性能が向上する。
【0025】
図3は、図2に示したコイル13aのフレキシブル基板上のパターンの例を示す図である。図3(A)はフレキシブル基板の展開した平面図、図3(B)は磁性体コア14aの回りに巻き付けるように折り曲げた状態での上面図、図3(C)はその正面図、図3(D)はその背面図である。図3(B)(C)(D)については磁性体コア14a,14bも含めて表している。
【0026】
図3(B)に示したように、フレキシブル基板15が磁性体コア14を取り巻くように折り曲げられた状態で、次のように各コイル導体同士が接続される。
図3(A)中の符号p1〜p4,q1〜q4は、フレキシブル基板15に形成されているコイル導体131〜133の端部(接続点)であり、図3(B)に示した状態で、コイル導体131〜133の一方の端部p1〜p3がコイル導体132〜134の他方の端部q1〜q3に対してそれぞれ導通し、コイル導体134の一方の端部p4が接続線路135の端部q4に導通する。
【0027】
コイル導体131の一方の端部はフレキシブル基板15の突出部9にまでそれぞれ引き出されている。この突出部9のコイル導体の端部が、実装先である回路基板上の接続部に接続される。このようにして、第1・第2のコイル13a,13bの内側端と外側端との間を磁束が透過するときに生じる第1・第2のコイル13a,13bの誘起電圧が加算される極性で、この第1・第2のコイル13a,13bが接続される。
【0028】
このように各コイル導体131〜134のパターンは磁性体コアの上面と下面とで左右方向にずれた位置に配置されているので、上述したとおり、コイルの内側端から外側端を向くループ面の法線は回路基板方向を向くように傾斜する。
【0029】
《第2の実施形態》
図4は第2の実施形態に係る磁性体アンテナ23及びアンテナ装置102の構成を示す正面図である。
第1・第2のコイル13a,13bはそれぞれ複数のコイル導体131〜134を備えているが、これらのコイル導体のうち最も外側の端部付近に巻回されたコイル導体131のみが、第1の実施形態の場合と同様に、そのループ面の法線Nが回路基板21方向を向くように傾斜している。他のコイル導体132〜134については従来のコイルと同様に、それらのループ面の法線Nが磁性体コア14a,14bの軸方向を向くようにそれぞれパターンが形成されている。その他の構成は第1の実施形態と同様である。
【0030】
このように構成することによって、複数のコイル導体のうち殆どはそれぞれのループ面が磁性体コア14a,14bの軸方向に対して垂直に(ループ面の法線が磁性体コアの軸方向を)向くので、コイルのインダクタンス値を低下させることなく、磁束の周回経路を大きくすることができる。
【0031】
このようにコイル13a,13bの外側の端部付近に位置するコイル導体によるループ面を透過する磁束は回路基板21側を向くとともに回路基板21の電極(グランドパターン)に影響されずに磁束の周回経路が大きく広がることになる。
【0032】
また、外側の端部付近に巻回されたコイル導体のみが傾斜することになるので、インダクタンス値の低下量が抑えられる。そのため必要なインダクタンス値を得るためのコイル巻回数及びコイル導体の線路長が長くならず、アンテナが大型化することもない。
【0033】
《第3の実施形態》
図5は第3の実施形態に係る磁性体アンテナ24及びアンテナ装置103の構成を示す正面図である。
第1・第2のコイル13a,13bはそれぞれ複数のコイル導体131〜134を備えているが、これらのコイル導体のうち最も外側の端部付近に巻回されたコイル導体131は、回路基板21側とは反対面側の線幅が回路基板21側の線幅より広く形成されている。他のコイル導体132〜134については従来のコイルと同様に、回路基板21側とその反対面側についても同じ線幅のパターンが形成されている。
【0034】
図6は、図5に示したコイル13aのフレキシブル基板上のパターンの例を示す図である。図6(A)はフレキシブル基板の展開した平面図、図6(B)は磁性体コア14aの回りを取り巻くように折り曲げた状態での上面図、図6(C)はその正面図、図6(D)はその背面図である。図6(B)(C)(D)については磁性体コア14a,14bも含めて表している。
【0035】
図6(B)に示したように、フレキシブル基板15が磁性体コア14を取り巻くように折り曲げられた状態で、次のように各コイル導体同士が接続される。図6(A)中の符号p1〜p4,q1〜q4は、フレキシブル基板15に形成されているコイル導体131〜133の端部(接続点)であり、図6(B)に示した状態で、コイル導体131〜133の一方の端部p1〜p3がコイル導体132〜134の他方の端部q1〜q3に対してそれぞれ導通し、コイル導体134の一方の端部p4が接続線路135の端部q4に導通する。
【0036】
コイル導体131の一方の端部はフレキシブル基板15の突出部9にまでそれぞれ引き出されている。この突出部9のコイル導体の端部が、実装先である回路基板上の接続部に接続される。
【0037】
このように、最も外側の端部付近のコイル導体131については、回路基板21側とは反対側の線幅が回路基板21側の線幅より広いため、この最も外側のコイル導体131によるループ面は、等価的にはその法線が回路基板21側を向くようになる。その結果、図5に示すように磁束の周回経路が大きくなって、より遠方にあるリーダ・ライタ側アンテナ20との結合量が多くなり、通信距離性能が向上する。
【0038】
《第4の実施形態》
図7は第4の実施形態に係る磁性体アンテナ25及びアンテナ装置104の構成を示す正面図である。
第1・第2のコイル13a,13bはそれぞれ複数のコイル導体131〜134を備えている。これらのコイル導体131〜134の構成は図4に示した第2の実施形態の場合と同様に、最も外側の端部付近に巻回されたコイル導体131が、そのループ面の法線Nが回路基板21方向を向くように傾斜している。
【0039】
図4に示した構成と異なるのは、磁性体コア14a,14bの外側の端面が回路基板21側へ傾斜している点である。このような磁性体コア14a,14bを用いることによって、コイルの外側の端部から回路基板側を向く磁束が、より効果的に回路基板21方向へ向くことになり、磁束の周回経路がより大きくなる。
【0040】
なお、図3・図6に示した例では第1・第2のコイル13a,13bを直列に接続した例を示したが、第1・第2のコイルの内側端と外側端との間を磁束が透過するときに生じる第1・第2のコイルの誘起電圧が加算(合成)される極性であれば、両者を並列に接続してもよい。
【0041】
また、各実施形態では相手側アンテナがリーダ・ライタ側アンテナである例を示したが、本発明はRFIDシステムのリーダ・ライタ側アンテナとの通信に限らず、同様のアンテナを備えた携帯電子機器同士の通信を行うアンテナにも適用できる。
【0042】
さらに、磁性体アンテナは回路基板に直接実装する形態に限らず、回路基板に近接配置するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】特許文献1に記載されるアンテナ装置の構造を示す正面図である。
【図2】第1の実施形態に係る磁性体アンテナ及びアンテナ装置の構成を示す図である。
【図3】図2に示したコイル13aのフレキシブル基板上のパターンの例を示す図である。
【図4】第2の実施形態に係る磁性体アンテナ及びアンテナ装置の構成を示す正面図である。
【図5】第3の実施形態に係る磁性体アンテナ及びアンテナ装置の構成を示す正面図である。
【図6】図5に示したコイル13aのフレキシブル基板上のパターンの例を示す図である。
【図7】第4の実施形態に係る磁性体アンテナ及びアンテナ装置の構成を示す正面図である。
【符号の説明】
【0044】
9…突出部
13a,13b…コイル
14a,14b…磁性体コア
15…フレキシブル基板
20…リーダ・ライタ側アンテナ
21…回路基板
22〜25…磁性体アンテナ
101〜104…アンテナ装置
131〜134…コイル導体
135…接続線路
N…法線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体コアの周囲にそれぞれ巻回された第1・第2の少なくとも2つのコイルが回路基板に実装または近接配置されるとともに、第1・第2のコイルの内側端と外側端との間を磁束が透過するときに生じる第1・第2のコイルの誘起電圧が同極性で合成されるように前記第1・第2のコイルが接続された磁性体アンテナにおいて、
前記第1・第2のコイルの内側端から外側端方向を向く、前記第1・第2のコイルのループ面の法線が前記回路基板方向にそれぞれ傾斜していることを特徴とする磁性体アンテナ。
【請求項2】
前記第1・第2のコイルは、それぞれコイル導体が複数回巻回されてなり、
前記ループ面の法線が前記回路基板方向に傾斜しているコイルは前記外側端付近に巻回された前記コイル導体によるコイル部である請求項1に記載の磁性体アンテナ。
【請求項3】
前記外側端付近に巻回されたコイル導体は、前記回路基板側とは反対面側の線幅が前記回路基板側の線幅より広く形成されている、請求項2に記載の磁性体アンテナ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の磁性体アンテナと、該磁性体アンテナが実装される回路基板と、を備え、
前記第1・第2のコイルが巻回される前記磁性体コアの、前記第1・第2のコイルの前記外側端が、平面視で前記回路基板の外縁か、または外縁より外部に位置していることを特徴とするアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−206974(P2009−206974A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48423(P2008−48423)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】