説明

磁性体粒子で構成されるワイヤーの形成方法

【課題】流体中の磁性粒子を、とある一方向に凝集させることで、磁性体粒子により構成されるワイヤーの形成方法を提供する。
【解決手段】磁性体粒子を流体に分散させた磁性体分散流体を非磁性体基板上に被覆し、この被覆層に対して略平行方向の磁場を作用させることで、磁性体粒子に誘起する磁気双極子の相互作用により、磁性体粒子の一次粒子径よりも大きな幅で磁性体粒子が磁場方向に沿って連なったワイヤー状の凝集体を形成し、且つ、前記ワイヤー状凝集体同士が磁場方向と垂直方向に離れた状態で存在するものを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体中に分布する磁性体粒子群を、磁場を印加した方向に異方凝集させることでワイヤー状に形成せしめる方法に関する。本発明により作製された流体中磁性体ワイヤーは、例えば、フォトニック、構造材料、吸音材料、異方性電極、異方性多孔体などの、機能材料創製の基盤技術として幅広い技術分野で利用することが出来る。
【背景技術】
【0002】

近年、さまざまな産業分野における基盤技術として、基板平面上に分布する粒子群を、分散乃至は配列させる技術が開発されている。
【0003】
従来、非磁性体基板上に磁性体粒子を流体に分散させた磁性体分散流体からなる被覆層を形成し、この被覆層に対して垂直方向の磁場を作用させて粒子を分散させる粒子の分散方法が知られている。(特許文献1)。この方法によれば、被覆層に垂直方向の磁場が作用することにより、該被覆層に存在する磁性体粒子間に斥力が働き、各粒子が均等に分散する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平11−514755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の分散方法は薄膜にのみ適用され、厚膜には適用することが出来ない。また、上記従来の分散方法では、被覆層に対し垂直方向の分散以外に適用することも出来ない。
【0006】
ここにおいて、本発明は、薄膜の厚さによらず、流体中の磁性粒子を磁場印加方向に対して平行方向に凝集させることで異方的凝集した磁性体粒子により構成されるワイヤーの形成方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記従来の粒子の分散方法において、薄膜における粒子分散のみならず、厚みを持つ流体中に磁性粒子のワイヤー形成が可能ではないかと考えた。この考えから、3次元流体中に存在する磁性粒子に外部磁場を印加した場合、磁化された磁性粒子は磁場印加方向に対して水平方向に同じ磁極を持つため、粒子同士に引力が働き凝集し、垂直方向において磁極の異なる粒子同士には、斥力が働くため分散することを見出し、第1の発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、第1の発明は、磁性体粒子を流体に分散させた磁性体分散流体を非磁性体基板上に被覆させる工程と、該被覆層に対して略平行方向の磁場を作用させる磁場付与工程と、を備え、磁性体粒子の一次粒子径よりも大きな幅で磁性体粒子が磁場方向に沿って連なったワイヤー状の凝集体を形成し、且つ、前記ワイヤー状凝集体同士が磁場方向と垂直方向に離れた状態で存在する、磁性体粒子で構成されるワイヤーの形成方法にある(請求項1)。
【0009】
第2の発明は、磁場は交流磁場であることを特徴とする請求項1に記載の磁性体粒子で構成されるワイヤーの形成方法にある(請求項2)。
【0010】
第3の発明は、磁性体粒子を分散させる流体は、硬化可能な樹脂組成物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁性粒子で構成されるワイヤーの形成方法にある(請求項3)。
【0011】
第4の発明は、磁性体粒子は、磁性体単体若しくは少なくとも1つの磁性体成分を含む混合物から構成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の磁性体粒子で構成されるワイヤーの形成方法にある(請求項4)。
【0012】
第5の発明は、前記磁性体粒子は、一次粒子径が約50nmで粒子形状が球状乃至は略球状のニッケル単体であることを特徴とする請求項4に記載の磁性体粒子で構成されるワイヤーの形成方法にある(請求項5)。
【0013】
このように、本発明に係る磁性体粒子で構成されるワイヤーの形成方法によれば、流体中に分布する磁性体粒子は磁場の作用により磁極を誘起し、磁場方向に平行の位置に存在する粒子間では異符号磁極間の引力が働き、乃至は、磁場方向に垂直の位置に存在する粒子間では同符号磁極間の斥力が働き、これら磁性体粒子間の相互作用による総和の結果として、磁場作用前にランダムに存在していた該磁性体粒子は、一次粒子の複数個の凝集体が磁場方向と平行に連なったワイヤー状凝集体を形成し、尚且つ、このワイヤー状凝集体は磁場方向と垂直方向には互いに反発することによって接することなく距離が保たれた状態にせしめられるのである。
【0014】
なお、本発明に係るワイヤーの形成方法は、ワイヤーを製造するための工程として用いられる場合には、ワイヤーの製造方法として把握されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1における磁場印加後の試料(粒子濃度0.05vol.%)の光学顕微鏡による写真である。
【図2】実施例1における磁場印加後の試料(粒子濃度0.1vol.%)の光学顕微鏡による写真である。
【図3】実施例1における磁場印加後の試料(粒子濃度0.2vol.%)の光学顕微鏡による写真である。
【図4】実施例1における磁場印加後の試料(粒子濃度1vol.%)の光学顕微鏡による写真である。
【図5】実施例1における磁場未印加の試料(粒子濃度0.05vol.%)の光学顕微鏡による写真である。
【図6】実施例1における磁場未印加の試料(粒子濃度0.1vol.%)の光学顕微鏡による写真である。
【図7】実施例1における磁場未印加の試料(粒子濃度0.2vol.%)の光学顕微鏡による写真である。
【図8】実施例1における磁場未印加の試料(粒子濃度1.0vol.%)の光学顕微鏡による写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る磁性体粒子から構成されるワイヤーの形成方法においては、先ず、磁性体粒子の乾燥粉体もしくは分散流体を流体と混合し、媒体撹拌型ボールミル等により分散せしめた磁性体分散流体を、ガラス板などの非磁性体基板にドクターブレードなどの塗工機を用いて塗布することで薄膜状に被覆層を形成せしめる。
【0017】
ここで、磁性体粒子分散させる流体としては、磁性体粒子が分散可能であれば何でも用いることができる。そしてそれらの中でも、特に、加熱、冷却乃至は光照射などによって硬化可能な樹脂と溶剤の混合物が好適に用いられることになる。また、磁性体粒子としては、磁場印加によって磁気双極子を発現する限り、強磁性、常磁性、反磁性を問わず、また磁性体単体若しくは非磁性体との混合物であれば何でも用いることができる。そしてそれらの中でも、特に、一次粒子径が約50nmで粒子形状が球状乃至は略球状のニッケル単体が好適に用いられることとなる。
【0018】
そして、上記のように形成された被覆層に対して、略平行方向に磁場を付与し、磁性体粒子に誘起した磁気双極子の相互作用によって、磁性体粒子は引力により磁場方向に配列し、ワイヤー状の凝集体を形成しつつ、このワイヤー状凝集体同士は、斥力により離れた状態にせしめられるのである。ここで略平行とは、薄膜に鉛直な方向をゼロと規定した際に、磁場印加方向がおよそ90°に看做せるという意味である。また、付与する磁場としては、交流磁場であり、その周波数は0 ヘルツ以上で、磁場印加および未印加のサイクル比には特に制限は無い。
【0019】
このようにして形成した、磁性体粒子より構成されるワイヤーは、流体として硬化可能な樹脂組成物を用いた場合には、樹脂組成物を適宜硬化せしめることによって、樹脂中でそのワイヤー状構造を固定せしめられるのである。
【実施例1】
【0020】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、なんらの制約を受けるものではないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記の具体的名記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0021】
磁性体粒子としては、一次粒子径約50nmの略球状のニッケル粒子を用意する。そして、このニッケル粒子を紫外線硬化性樹脂中に体積率を0.05から1%の範囲の所定濃度で混合し、遊星型ボールミルで2時間解砕処理を行った後、超音波を照射し、これを塗布液とした。この塗布液をドクターブレードによって膜厚が数μmになるようにガラス板上に塗布し、膜面に対して平行方向に磁場を印加させた後、紫外線を照射して樹脂を固化させた。また、比較例として、前記同様の手順で塗布した被服層に外部磁場を印加させずにそのまま紫外線を照射して樹脂を固化したサンプルも作製した。
【0022】
磁場印加後の試料の薄膜を膜面に対して垂直方向から観察した光学顕微鏡像を、図1に塗布液中ニッケル粒子の体積率が0.05%の場合、図2に前記体積率が0.1%の場合、図3に前記体積率が0.2%の場合、図4に前記体積率が1%の場合の結果をそれぞれ示す。これらの図より、何れの粒子濃度においてもニッケル粒子が外部磁場の印加によって磁場と平行方向に配列しワイヤーを形成していることが確認できる。また、ニッケル粒子濃度が濃くなるにつれ、ワイヤーも太くなっていることが分る。塗布薄膜に対して磁場を印加しない場合の結果(図5乃至図8)では、何れの場合においても凝集した粒子がランダムに存在していることが分る。従って、図1乃至図4に見られるニッケル粒子から構成されるワイヤー状の凝集体は確かに磁場印加により形成せしめられたのである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体粒子を流体に分散させた磁性体分散流体を非磁性体基板上に被覆させる工程と、該被覆層に対して略平行方向の磁場を作用させる磁場付与工程と、を備え、磁性体粒子の一次粒子径以上の幅で磁性体粒子が磁場方向に沿って連なったワイヤー状の凝集体を形成し、且つ、前記ワイヤー状凝集体同士が磁場方向と垂直方向に離れた状態で存在する、磁性体粒子で構成されるワイヤーの形成方法。
【請求項2】
磁場は交流磁場であることを特徴とする請求項1に記載の磁性体粒子で構成されるワイヤーの形成方法。
【請求項3】
磁性体粒子を分散させる流体は、硬化可能な樹脂組成物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁性粒子で構成されるワイヤーの形成方法。
【請求項4】
磁性体粒子は、磁性体単体若しくは少なくとも1つの磁性体成分を含む混合物から構成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の磁性体粒子で構成されるワイヤーの形成方法。
【請求項5】
前記磁性体粒子は、一次粒子径が約50nmで粒子形状が球状乃至は略球状のニッケル単体であることを特徴とする請求項4に記載の磁性体粒子で構成されるワイヤーの形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−190486(P2011−190486A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56018(P2010−56018)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年10月21日 粉体工学会発行の「2009年度 秋期研究発表会講演論文集」に発表
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】