説明

磁性塗料の製造方法

【課題】 磁性塗料の製造工程における混練工程を改良し、分散性、充填性に優れた磁性塗料の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
磁性粉末と結合剤樹脂と溶媒とを含む磁性塗料の製造方法であって、
前記磁性粉末に対して所定量の前記結合剤樹脂と所定量の前記溶媒とを含む混練組成物を高固形分濃度にて混練する混練工程が、前記結合剤樹脂の所定量の20〜80%の第1樹脂量で混練する第1混練工程と、前記第1混練工程の後に、第2混練工程以降の複数回の混練工程とを含み行なわれ、
前記第2混練工程以降の複数回の混練工程においては、前記結合剤樹脂の所定量から前記第1樹脂量を差し引いた残余の樹脂量を用いて前記第2混練工程以降の複数回の混練工程が行われることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性塗料の製造方法に係わり、さらに詳しくは分散性、充填性に優れた磁性塗料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
支持体上に磁性粉末を含む磁性塗料を塗布し磁性層を形成して得られる磁気記録媒体は、高容量化にともない記録波長の短波長化、トラック幅の短幅化、磁性層の薄層化により磁性層からの再生出力は減少する傾向にあり、再生出力の大きな磁気記録媒体が望まれている。磁性層からの再生出力を大きくするためには、飽和磁化量の大きな磁性粉末を用い、この磁性粉末を磁性塗料中に可能な限り多量に含ませ、良好に分散させて、磁性層中に多量に磁性粉末を含ませることが必要となる。また、短波長信号をエラー無く読み取るためには、出力とノイズとの比を大きくすることが必要となる。このためには、ノイズを小さくすることが必要であり、粒子サイズの小さな磁性粉末が用いられる。
【0003】
粒子サイズの小さな磁性粉末は、比表面積が大きくなるので、表面エネルギーが大きくなって安定に分散させることが困難になる。このため、磁性粉末表面に結合剤樹脂を吸着させて表面エネルギーを低下させるとともに、立体障害によって磁性粉末粒子同士の凝集を防ぐことが行われている。このために、磁性塗料の製造にあたっては、磁性粉末と結合剤樹脂とを混合した後、高固形分濃度で高せん断力を加えて混練機で混練し、さらにペースト化して、ビーズミルで分散して磁性塗料を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−47526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で示されている方法は、粒子サイズが100nm以上の比較的大きな磁性粉を対象としたもので、近年の粒子サイズが50nm未満の微粒子磁性粉末に対しては、十分なせん断力を加えることが困難で、得られる磁性塗料の分散も十分とはいえない状況である。
【0006】
本発明では、磁性塗料の製造工程の中の混練工程を改良し、分散性、充填性に優れた磁性塗料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、磁性塗料の製造工程の中の特に混練工程について、鋭意検討を重ねた結果、混練工程を下記の構成とすることにより、分散性、充填性に優れた磁性塗料の製造方法を見いだし、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、磁性粉末と結合剤樹脂と溶媒とを含む磁性塗料の製造方法であって、
前記磁性粉末に対して所定量の前記結合剤樹脂と所定量の前記溶媒とを含む混練組成物を混練する混練工程を含み、
前記混練工程が、前記結合剤樹脂の所定量の20〜80%の第1樹脂量で混練する第1混練工程と、前記第1混練工程の後に、第2混練工程以降の複数回の混練工程とを含み行なわれ、
前記第2混練工程以降の複数回の混練工程においては、前記結合剤樹脂の所定量から前記第1樹脂量を差し引いた残余の樹脂量を用いて前記第2混練工程以降の複数回の混練工程が行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
磁性塗料を製造する際に、混練工程が結合剤樹脂の所定量の20〜80%の第1樹脂量で混練する第1混練工程と、前記第1混練工程の後に、第2混練工程以降の複数回の混練工程とを含み行なわれ、前記第2混練工程以降の複数回の混練工程においては、前記結合剤樹脂の所定量から前記第1樹脂量を差し引いた残余の樹脂量を用いて前記第2混練工程以降の混練工程が行われるために、一度に過大なせん断力が加わることなく、安定して大きなせん断力を加え続けられるために。微粒子磁性粉末に対しても良好な混練を行うことができるので、分散性、充填性に優れた磁性塗料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】特許文献1の混練方法における混練時のチャートである。
【図2】本発明の実施例1の混練方法における混練時のチャートである。
【図3】本発明の実施例4の混練方法における混練時のチャートである。
【図4】本発明の実施例5の混練方法における混練時のチャートである。
【図5】本発明の比較例1の混練方法における混練時のチャートである。
【図6】本発明の比較例2の混練方法における混練時のチャートである。
【図7】本発明の比較例4の混練方法における混練時のチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前述の特許文献1に開示されている混練方法は、密閉容器内に攪拌部を有する混練機を用いて磁性粉末などの粉末材料を少量の溶剤で湿潤する湿潤工程と、前記湿潤工程の後、適量の結合剤樹脂と溶剤を添加して混合混練する前期混練工程と、さらに適量の溶剤を加えて混練を続行し、前記混練機の負荷電流が最大となるポイントを見極めて混練を行う後期混練工程と、その後、さらに徐々に溶剤を滴下して剪断力を加えつつ希釈を行う希釈工程と、からなる混練方法であって、その要諦は、前期混練工程の後、少量の溶剤を添加しながら混練機の負荷電流値が最大となるポイントを見極め混練を行うことと理解できる(図1参照)。
【0012】
この混練方法においては、湿潤工程から前期混練工程までは、さらさらか、少し湿った感じの粉末材料が混練容器内で撹拌されているという様子であるが、後期混練工程に入って、少量ずつ溶剤を加えていくと、湿った感じの粉末材料が、小さな顆粒状態になり、その大きさは徐々に大きくなって、最後は大きな1〜3塊りのペーストとなる。この過程において撹拌部を駆動するための負荷電流が最大値となる。
【0013】
この混練方法は負荷電流が最大となるポイントを見極めながら混錬を行うので、安定して高いせん断力を加えることができるので、優れた方法であるが、近年の微粒子磁性粉に適用しようとすると負荷電流が大きくなりすぎて、ブレーカが落ちて混練機が停止する危険性があったり、そうならないためには磁性粉末の仕込み量を減らして、生産性を犠牲にするか、溶剤の添加量を多くして負荷電流値が過大にならないように制御する(せん断力が小さくなり、混練が不十分となる)などの措置を取らざるを得ないという問題点があった。
【0014】
本発明は、前記公知技術の後期混練工程における最大負荷電流を下げつつも、ペースト固形分濃度は下げずに、大きなせん断力で混練を行うものである。
【0015】
混練工程の最初の湿潤工程においては、磁性粉末と非磁性粉末と溶媒とが混合されて粉末材料が湿潤される。この時の固形分濃度は80〜95wt%が好ましい。ここでいう固形分濃度(wt%)とは、(全成分の重量−溶媒の重量)/全成分の重量×100(wt%)で定義される値である。この範囲の固形分濃度であれば、粉末材料が過不足なく湿潤されるので好ましい。湿潤工程における材料成分には、分散剤、結合剤樹脂が含まれていてもよい。湿潤工程は15〜60分行うことが好ましい。また、湿潤工程は、混練機中で行わずに、高速撹拌混合機を用いて行ってもよい。
【0016】
第1混練工程(特許文献1での前期混練工程に相当)においては、混練工程において使用する結合剤樹脂量の20〜80wt%(第1樹脂量)を使用することが好ましい。混練する磁性粉末の種類、形状、大きさ、使用する樹脂液の固形分濃度に応じて、この範囲の樹脂量を適宜選択することにより、第2混練工程以降における最大負荷電流値を好ましい範囲にコントロールすることができる。ここでいう樹脂量とは、湿潤工程にて結合剤樹脂が添加されている場合には、その樹脂量を含めた値をいう。第1混練工程における固形分濃度は70〜90wt%が好ましい。第1混練工程は30〜120分行うことが好ましい。結合剤樹脂は、樹脂を溶媒に溶解した樹脂溶液として使用することが好ましい。樹脂液の固形分濃度としては20〜50wt%が好ましい。
【0017】
第2混練工程においては、混練工程において使用する結合剤樹脂量の10〜70wt%(第2樹脂量)の樹脂溶液を添加して、この時点での合計樹脂量が混練工程において使用する結合剤樹脂量の30〜90wt%となるように制御し、混練容器内の粉末材料を顆粒状に大きくしていく。時間の経過とともに、負荷電流は大きくなり、やがて極大を示す。しかし、結合剤樹脂の使用量が混練工程において使用する結合剤樹脂量の30〜90wt%であるので、大きな1〜3塊りのペーストになるまでは至らず、負荷電流が過大になることはない。
【0018】
第3混練工程以降は、混練工程において使用する結合剤樹脂量から第1混練工程および第2混練工程で使用した結合剤樹脂量を除いた残余の樹脂量を以降の混練工程の数に応じて分割し各混練工程において添加して各混練工程を行うことが好ましい。
【0019】
一例としては、第1混練工程にて、混練工程において使用する結合剤樹脂量の50wt%を使用し、第2、第3混練工程においては各20wt%、第4混練工程においては10wt%の結合剤樹脂を用いて混練することができる。
【0020】
この場合、第3混練工程以降、各混練工程において所定の樹脂量の樹脂液を添加すると、そのつど負荷電流は極大を示し、最終の樹脂液を添加するまでは、大きな1〜3塊りのペーストになるまでは至らず、負荷電流は小さくなる。最終の樹脂液を添加すると混練容器内の粉末材料は大きな1〜3塊りのペーストとなり大きなせん断力で混練され、さらには一体の餅状のペーストとなり、好適に混練が行われる。
【0021】
第2混練工程以降最終混練工程までは、各工程20〜90分行うことが好ましい。最終混練工程は15〜60時間行うことが好ましい。
【0022】
最終混練工程を終えると、所定量の溶剤が連続的にか、複数回に分割して添加され、混練機から取り出し易い所定の固形分濃度にまで希釈され、次工程に回される。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の部は、重量部である。また、実施例および比較例中の平均粒子径は、数平均粒子径である。
実施例1:
<磁性塗料成分>
(1)a成分
強磁性粉末(針状メタル磁性粉末) 100重量部
(Al−Y−Fe−Co)〔σs:120Am2/kg(120emu/g)
Hc:194.6kA/m(2445Oe)Br/Bm=0.535 平均粒子径:45nm〕

粒状アルミナ粉末(平均粒子径:0.2μm) 10重量部
メチルアシッドフォスフェート 4重量部
メチルエチルケトン 4重量部
トルエン 4重量部
テトラヒドロフラン 8重量部
(2)b成分
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合樹脂 17重量部
ポリエステルポリウレタン樹脂 6重量部
メチルエチルケトン 11重量部
シクロヘキサノン 12重量部
(3)c成分
メチルエチルケトン 25重量部
シクロヘキサノン 24重量部
(4)d成分
パルミチン酸アミド 2重量部
ステアリン酸アミド 2重量部
シクロヘキサノン 60重量部
(5)e成分
ポリイソシアネート 6重量部
メチルエチルケトン 20重量部
シクロヘキサノン 160重量部
トルエン 20重量部
【0024】
上記の磁性塗料成分のうち、まず、a成分を、高速攪拌混合機にて、予め高速混合しておき(湿潤工程)(固形分濃度87.7重量%)、その混合粉末にb成分の50%(第1樹脂量)を添加し、バッチ式ニーダを用いて、ブレードを低速回転(30rpm)させながら第1混練工程(固形分濃度80.1重量%)を1時間行った。混練時の最大トルクは、15.5N・mであった。その後、b成分の20%(第2樹脂量)、20%(第3樹脂量)、10%(第4樹脂量)を1時間毎に順次添加し、第2〜第4の混練工程を行った。
その後、c成分を5分割して5回に分けて、1時間かけて加えて、ブレードを高速回転(45rpm)させながら固形分濃度を60重量%まで希釈した。その後、希釈物をニーダから取り出し、高速撹拌羽根の付いたタンク内でd成分を加えてさらに希釈し、固形分濃度を40重量%まで希釈し希釈塗料を得た。
希釈塗料をナノミル(浅田鉄工社製)にて滞留時間60分で分散を行った。最後に、e成分を加えて攪拌し配合を行い、磁性塗料を得た。
【0025】
上記磁性塗料を、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる非磁性支持体上に、乾燥後の厚さが3μmになるようにアプリケータで塗布し、磁場配向(N−N対向磁石(磁場強度398kA/m)処理をして、乾燥し評価用磁気シートを作製した。
【0026】
実施例2:
強磁性粉末を窒化鉄磁性粉末(σs:70Am/kg(70emu/g)、Hc:175.1kA/m(2200Oe)、平均粒子径16nm)に変更した以外は、実施例1と同様にして、評価用磁気シートを作製した。
【0027】
実施例3:
強磁性粉末をBa-Fe磁性粉末(σs:50A・m/kg(50emu/g)、Hc:159kA/m(2000Oe)、平均粒子径(板径):20nm)に変更した以外は、実施例1と同様にして、評価用磁気シートを作製した。
【0028】
実施例4、5、比較例1〜4:
表1に示した第1〜第4樹脂量にて、第1〜第4混練工程を行った以外は、実施例2と同様にして、評価用磁気シートを作製した。なお、比較例1、3では、第1混練工程で負荷が高くなりすぎて、ニーダがストップしたので、磁性塗料は作製できず、評価用磁気シートは作製できなかった。比較例2では、第1混練工程で、第1樹脂量に加えて、c成分から抜き取ったメチルエチルケトン3部、シクロヘキサノン3部を添加し、第1混練工程の固形分濃度を下げて混練を行った。
【0029】
〈磁気特性〉
希釈塗料評価用の磁気シートに、外部磁場0.8MA/m(10kOe)をかけ、常法に従って、磁場配向方向の角型(Br/Bm)および最大飽和磁束密度(Bm)を測定した。表1に評価結果を示した。
【0030】
【表1】

【0031】
*):第1樹脂量に加えて、c成分から抜き取ったメチルエチルケトン3部、シクロヘキサノン3部を添加して、混練を行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉末と結合剤樹脂と溶媒とを含む磁性塗料の製造方法であって、
前記磁性粉末に対して所定量の前記結合剤樹脂と所定量の前記溶媒とを含む混練組成物を混練する混練工程を含み、
前記混練工程が、前記結合剤樹脂の所定量の20〜80%の第1樹脂量で混練する第1混練工程と、前記第1混練工程の後に、第2混練工程以降の複数回の混練工程とを含み行なわれ、
前記第2混練工程以降の複数回の混練工程においては、前記結合剤樹脂の所定量から前記第1樹脂量を差し引いた残余の樹脂量を用いて前記第2混練工程以降の複数回の混練工程が行われることを特徴とする磁性塗料の製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法で製造された磁性塗料を用いて製造されたことを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−248285(P2010−248285A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96049(P2009−96049)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】