説明

磁性材料およびそれを用いたコイル部品

【課題】透磁率のさらなる向上を図る新たな磁性材料を提供し、あわせて、そのような磁性材料をもちいたコイル部品を提供すること。
【解決手段】金属粒子11を成形して酸化雰囲気下で熱処理することにより得られる粒子成形体1からなる磁性材料であって、金属粒子11はFe−Cr−Si系合金からなり、成形前の金属粒子のXPSによる709.6eV、710.7eVおよび710.9eVの各ピークの積分値の和FeOxide、ならびに、706.9eVのピークの積分値FeMetalについてFeMetal/(FeMetal+FeOxide)が0.2以上である、磁性材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコイル・インダクタ等において主にコアとして用いることができる磁性材料およびそれを用いたコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタ、チョークコイル、トランス等といったコイル部品(所謂、インダクタンス部品)は、磁性材料と、前記磁性材料の内部または表面に形成されたコイルとを有している。磁性材料の材質としてNi−Cu−Zn系フェライト等のフェライトが一般に用いられている。
【0003】
近年、この種のコイル部品には大電流化(定格電流の高値化を意味する)が求められており、該要求を満足するために、磁性体の材質を従前のフェライトからFe−Cr−Si合金に切り替えることが検討されている(特許文献1を参照)。Fe−Cr−Si合金やFe−Al−Si合金は、材料自体の飽和磁束密度がフェライトに比べて高い。その反面、材料自体の体積抵抗率が従前のフェライトに比べて格段に低い。
【0004】
特許文献1には、積層タイプのコイル部品における磁性体部の作製方法として、Fe−Cr−Si合金粒子群の他にガラス成分を含む磁性体ペーストにより形成された磁性体層と導体パターンを積層して窒素雰囲気中(還元性雰囲気中)で焼成した後に、該焼成物に熱硬化性樹脂を含浸させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−027354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の製造方法により得られる焼成物は透磁率がかならずしも高いとはいえない。また、金属磁性体を利用したインダクタとしてはバインダと混合成形した圧粉磁心が知られている。一般的な圧粉磁心は絶縁抵抗が高いとは言いがたい。
【0007】
これらのことを考慮し、本発明は、透磁率がより高く、好ましくは高透磁率と高絶縁抵抗とを両立する新たな磁性材料、その原料となる金属粉末を提供し、あわせて、そのような磁性材料を用いたコイル部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下のような本発明を完成した。
本発明によれば、磁性材料は金属粒子を成形して酸化雰囲気下で熱処理することにより得られる粒子成形体からなり、金属粒子はFe−Cr−Si系合金からなり、成形前の金属粒子のXPSによる709.6eV、710.7eVおよび710.9eVの各ピークの積分値の和FeOxide、ならびに、706.9eVのピークの積分値FeMetalについてFeMetal/(FeMetal+FeOxide)が0.2以上である。
好適には、粒子成形体におけるCrの含有量は2.0〜15wt%である。
別途好適には、成形前の金属粒子の体積基準の粒子径分布について、d10/d50は0.1〜0.7であり、かつ、d90/d50は1.4〜5.0である。
さらに別の好適態様によれば、JIS Z 2512:2006で規格される成形前の金属粒子のタップ密度は3.8g/cm以上である。
上述の、XPSによる709.6eV、710.7eVおよび710.9eVの各ピークの積分値の和FeOxide、ならびに、706.9eVのピークの積分値FeMetalについてFeMetal/(FeMetal+FeOxide)が0.2以上である、Fe−Cr−Si系合金からなる金属粉末もまた本発明の一実施態様である。
本発明によれば、上述の磁性材料と、前記磁性材料の内部または表面に形成されたコイルと、を備えるコイル部品もまた提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高透磁率の磁性材料が提供される。本発明の好適態様においては、高高透磁率と高絶縁抵抗とを両立した磁性材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の磁性材料の微細構造を模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を適宜参照しながら本発明を詳述する。但し、本発明は図示された態様に限定されるわけでなく、また、図面においては発明の特徴的な部分を強調して表現することがあるので、図面各部において縮尺の正確性は必ずしも担保されていない。
本発明によれば、磁性材料は所定の粒子が成形されてなる粒子成形体からなる。
本発明において、磁性材料はコイル・インダクタ等の磁性部品における磁路の役割を担う物品であり、典型的にはコイルにおけるコアなどの形態をとる。
【0012】
図1は本発明の磁性材料の微細構造を模式的に表す断面図である。本発明において、粒子成形体1は、微視的には、もともとは独立していた多数の金属粒子11どうしが結合してなる集合体として把握され、個々の金属粒子11はその周囲の概ね全体にわたって酸化被膜12が形成されていて、この酸化被膜12により粒子成形体1の絶縁性が確保される。隣接する金属粒子11どうしは、主として、それぞれの金属粒子11の周囲にある酸化被膜12どうしが結合することにより、一定の形状を有する粒子成形体1を構成している。部分的には、隣接する金属粒子11の金属部分どうしが結合していてもよい。従来の磁性材料においては、硬化した有機樹脂のマトリクス中に磁性粒子又は数個程度の磁性粒子の結合体が分散しているものや、硬化したガラス成分のマトリクス中に磁性粒子又は数個程度の磁性粒子の結合体が分散しているものが用いられていた。本発明では、有機樹脂からなるマトリクスもガラス成分からなるマトリクスも、実質的に存在しないことが好ましい。
【0013】
個々の金属粒子11はFe−Cr−Si系合金であり軟磁性を呈する。Fe−Cr−Si系軟磁性合金におけるSiの含有率は、好ましくは0.5〜7.0wt%であり、より好ましくは、2.0〜5.0wt%である。Siの含有量が多ければ高抵抗・高透磁率という点で好ましく、Siの含有量が少なければ成形性が良好であり、これらを勘案して上記好適範囲が提案される。
【0014】
Fe−Cr−Si系合金におけるクロムの含有率は、好ましくは2.0〜15wt%であり、より好ましくは、3.0〜6.0wt%である。クロムの存在により、原料粒子の物性である熱処理前の磁気特性は下がるが、熱処理時の過剰な酸化が抑制される。よって、Crが多い場合は、熱処理による透磁率の上昇効果が増し、熱処理後の比抵抗が下がる。これらを勘案して上記好適範囲が提案される。
なお、Fe−Cr−Si系合金における各金属成分の上記好適含有率については、合金成分の全量を100wt%であるとして記述している。換言すると、上記好適含有量の計算においては酸化被膜の組成は除外している。
【0015】
Fe−Cr−Si系合金において、SiおよびCr以外の残部は不可避不純物を除いて、鉄であることが好ましい。Fe、SiおよびCr以外に含まれていてもよい金属としては、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、銅などが挙げられ、非金属としてはリン、硫黄、カーボンなどが挙げられる。
【0016】
粒子成形体1における各々の金属粒子11を構成する合金の化学組成は、例えば、粒子成形体1の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影し、組成をエネルギー分散型X線分析(EDS)によりZAF法で算出することができる。
【0017】
本発明の磁性材料は、上述の所定の合金からなる金属粒子を成形して熱処理を施すことにより製造することができる。その際に、好適には、原料となる金属粒子そのものが有していた酸化被膜のみならず、原料の金属粒子においては金属の形態であった部分の一部が酸化して金属被膜12を形成するように熱処理が施される。
【0018】
原料として用いる金属粒子(以下、原料粒子ともいう。)は、主としてFe−Cr−Si系合金からなる粒子を用いる。原料粒子の合金組成は、最終的に得られる磁性材料における合金組成に反映される。よって、最終的に得ようとする磁性材料の合金組成に応じて、原料粒子の合金組成を適宜選択することができ、その好適な組成範囲は上述した磁性材料の好適な組成範囲と同じである。個々の原料粒子は酸化被膜で覆われていてもよい。換言すると、個々の原料粒子は所定の軟磁性合金からなるコアとそのコアの周囲の少なくとも一部を覆う酸化被膜とから構成されていてもよい。
【0019】
原料粒子は例えばアトマイズ法で製造される粒子が挙げられる。上述のとおり、好適には、粒子成形体1には酸化被膜12を介した結合22が存在することから、原料粒子には酸化被膜が存在することが好ましい。
原料粒子における合金からなるコアと酸化被膜との比率は以下のように定量化することができる。原料粒子をXPSで分析して、Feのピーク強度に着目し、Feが金属状態として存在するピーク(706.9eV)の積分値FeMetalと、Feが酸化物の状態として存在するピークの積分値FeOxideとを求め、FeMetal/(FeMetal+FeOxide)を算出することにより定量化する。ここで、FeOxideの算出においては、Fe(710.9eV)、FeO(709.6eV)およびFe(710.7eV)の三種の酸化物の結合エネルギーを中心とした正規分布の重ねあわせとして実測データと一致するようにフィッティングを行う。その結果、ピーク分離された積分面積の和としてFeOxideを算出する。熱処理時に合金どうしの金属結合21を生じさせやすくすることによって結果として透磁率を高める観点からは、前記値は好ましくは0.2以上である。前記値の上限値は特に限定されず、製造のしやすさなどの観点から、例えば、0.6などが挙げられ、好ましくは上限値は0.3である。前記値を上昇させる手段として、還元雰囲気での熱処理に供したり、酸による表面酸化層の除去などの化学処理等に供することなどが挙げられる。還元処理としては、例えば、窒素中に又はアルゴン中に25〜35%の水素を含む雰囲気下で750〜850℃、0.5〜1.5時間保持することなどが挙げられる。酸化処理としては、例えば、空気中で400〜600℃、0.5〜1.5時間保持することなどが挙げられる。
【0020】
上述したような原料粒子は合金粒子製造の公知の方法を採用してもよいし、例えば、エプソンアトミックス(株)社製PF20−F、日本アトマイズ加工(株)社製SFR-FeSiCrなどとして市販されているものを用いることもできる。市販品については上述のFeMetal/(FeMetal+FeOxide)の値について考慮されていない可能性が極めて高いので、原料粒子を選別したり、上述した熱処理や化学処理などの前処理を施すことも好ましい。この観点から、Fe−Cr−Si系合金からなる金属粒子をXPSで分析して上記FeMetal/(FeMetal+FeOxide)の値を算出することと、算出された前記値が予め定めた範囲内に無い場合には当該金属粒子を酸処理又は還元雰囲気下での熱処理に供して上記値を予め定めた範囲内に入るようにすることと、上記値が予め定めた範囲内に入った当該金属粒子を成形して酸化雰囲気下で熱処理することにより粒子成形体を得る磁性材料の製造方法もまた本発明に包含される。ここで上記値の予め定めた範囲については例えば上記好適値をとることができる。
【0021】
本発明の一態様によれば、上記FeMetal/(FeMetal+FeOxide)の値が上述した範囲内にあるFe−Cr−Si系合金からなる金属粉末が提供される。ここで、金属粉末とは、金属粒子の集合体が所定の形状に固められたものではなく、金属粒子の集合体であって、個々の金属粒子それぞれが自由に流動し得る状態にあるものを意味する。
【0022】
個々の原料粒子のサイズは最終的に得られる磁性材料における粒子成形体1を構成する粒子のサイズと実質的に等しくなる。原料粒子のサイズとしては、透磁率と粒内渦電流損を考慮すると、d50が好ましくは2〜30μmであり、より好ましくは2〜20μmであり、さらに好ましくは3〜13μmである。また、また、d10は好ましくは1〜5μmであり、より好ましくは2〜5μmである。また、d90は好ましくは4〜30μmであり、より好ましくは4〜27μmである。また、d10/d50は、好ましくは0.1〜0.7であり、より好ましくは0.2〜0.6である。さらに、また、d90/d50は、好ましくは1.4〜5.0であり、より好ましくは1.5〜3.0である。上記範囲内であると、渦損失を抑制しつつ成形密度を増加させるという点で好ましい。d10/d50やd90/d50は粒径分布の広さを示す目安である。d10/d50が1に近いほど小粒径側の粒径分布が狭く、d10/d50が小さいほど小粒径側の粒径分布が広いことを意味する。d90/d50が1に近いほど大粒径側の粒径分布が狭く、d90/d50が大きいほど大粒径側の粒径分布が広いことを意味する。原料粒子のd10、d50、d90はレーザー回折・散乱による測定装置により測定することができる、体積基準の粒子径分布の基準値である。
【0023】
原料粒子のタップ密度は、好ましくは3.8g/cm以上であり、好ましくは3.8〜5.7g/cmであり、より好ましくは4.0〜4.8g/cmである。タップ密度が大きいと成形密度を増加させるという点で好ましい。原料粒子のタップ密度はJIS Z 2512:2006で規格される測定方法により求めることができ、より詳細には以下のようにして測定される。
【0024】
本発明によれば、このような原料粒子を成形した後に加熱処理に供することにより成形体1が得られる。成形や加熱処理については特に限定なく、粒子成形体製造における公知の手段を適宜取り入れることができる。以下、典型的な製造方法として原料粒子を非加熱条件下で成形した後に加熱処理に供する方法を説明する。本発明ではこの製法に限定されない。
【0025】
原料粒子を非加熱条件下で成形する際には、バインダとして有機樹脂を加えることが好ましい。有機樹脂としては熱分解温度が500℃以下であるアクリル樹脂、ブチラール樹脂、ビニル樹脂などからなるものを用いることが、熱処理後にバインダが残りにくくなる点で好ましい。成形の際には、公知の潤滑剤を加えてもよい。潤滑剤としては、有機酸塩などが挙げられ、具体的にはステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムなどが挙げられる。潤滑剤の量は原料粒子100重量部に対して好ましくは0〜1.5重量部であり、より好ましくは0.1〜1.0重量部である。潤滑剤の量がゼロとは、潤滑剤を使用しないことを意味する。原料粒子に対して任意的にバインダ及び/又は潤滑剤を加えて攪拌した後に、所望の形状に成形する。成形の際には例えば5〜15t/cmの圧力をかけることなどが挙げられる。この段階では、酸化被膜どうしの結合22や金属結合21はいずれも生成していない可能性が極めて高い。
【0026】
熱処理の好ましい態様について説明する。
熱処理は酸化雰囲気下で行うことが好ましい。より具体的には、加熱中の酸素濃度は好ましくは1%以上であり、これにより、酸化被膜どうしの結合22および金属結合21が両方とも生成しやすくなる。酸素濃度の上限は特に定められるものではないが、製造コスト等を考慮して空気中の酸素濃度(約21%)を挙げることができる。好ましくは、原料粒子が成形前に既に有していた酸化被膜のみならず、原料粒子の段階では金属の形態であった部分の一部が酸化して酸化被膜12を形成するように加熱条件が設定される。加熱温度については、酸化被膜12を生成して酸化被膜12どうしの結合を生成させやすくする観点からは好ましくは600℃以上であり、酸化を適度に抑制して金属結合21の存在を維持して透磁率を高める観点からは好ましくは900℃以下である。加熱温度はより好ましくは700〜800℃である。酸化被膜どうしの結合22および金属結合21を両方とも生成させやすくする観点からは、加熱時間は好ましくは0.5〜3時間である。
【0027】
得られた粒子成形体1には、その内部に空隙30が存在していてもよい。粒子成形体1の内部に存在する空隙30の少なくとも一部には高分子樹脂(図示せず)が含浸されていてもよい。高分子樹脂の含浸に際しては、例えば、液体状態の高分子樹脂や高分子樹脂の溶液などといった、高分子樹脂の液状物に粒子成形体1を浸漬して製造系の圧力を下げたり、上述の高分子樹脂の液状物を粒子成形体1に塗布して表面近傍の空隙30に染みこませるなどの手段が挙げられる。粒子成形体1の空隙30に高分子樹脂が含浸されてなることにより、強度の増加や吸湿性の抑制という利点があり、具体的には、高湿下において水分が粒子成形体1内に入りにくくなるため、絶縁抵抗が下がりにくくなる。高分子樹脂としては、エポキシ樹脂、フッ素樹脂などの有機樹脂や、シリコーン樹脂などを特に限定なく挙げることができる。
【0028】
このようにして得られる粒子成形体1においては、個々の金属粒子11には酸化被膜12が形成されている。酸化被膜12は粒子成形体1を形成する前の原料粒子の段階で形成されていてもよいし、原料粒子の段階では酸化被膜が存在しないか極めて少なく成形課程において酸化被膜を生成させてもよい。酸化被膜12の存在は、走査型電子顕微鏡(SEM)による3000倍程度の撮影像においてコントラスト(明度)の違いとして認識することができる。酸化被膜12の存在により磁性材料全体としての絶縁性が担保される。
【0029】
酸化被膜12は金属の酸化物であればよく、好適には、酸化被膜12には、鉄元素よりもクロム元素の方が、モル換算において、より多く含まれる。このような構成の酸化被膜12を得るためには、磁性材料を得るための原料粒子に鉄の酸化物がなるべく少なく含まれるか鉄の酸化物を極力含まれないようにして、粒子成形体1を得る過程において加熱処理などにより合金の表面部分を酸化させることなどが挙げられる。このような処理により、クロムが選択的に酸化されて、結果として、酸化被膜12に含まれるクロムのモル比率が相対的に鉄よりも大きくなる。酸化被膜12において鉄元素よりもクロム元素のほうが多く含まれることにより、合金粒子の過剰な酸化を抑制するという利点がある。
【0030】
粒子成形体1における酸化被膜12の化学組成を測定する方法は以下のとおりである。まず、粒子成形体1を破断するなどしてその断面を露出させる。ついで、イオンミリング等により平滑面を出し走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、酸化被膜12部をエネルギー分散型X線分析(EDS)によりZAF法で算出する。
【0031】
酸化被膜12におけるクロムの含有量は鉄1モルに対して、好ましくは1.0〜5.0モルであり、より好ましくは1.0〜2.5モルであり、さらに好ましくは1.0〜1.7モルである。前記含有量が多いと過剰な酸化の抑制という点で好ましく、一方、前記含有量が少ないと金属粒子間の焼結という点で好ましい。前記含有量を多くするためには、例えば、弱酸化雰囲気での熱処理をするなどの方法が挙げられ、逆に、前記含有量を多くするためには、例えば、強酸化雰囲気中での熱処理などの方法が挙げられる。
【0032】
粒子成形体1においては粒子どうしの結合は主として酸化被膜12どうしの結合22である。酸化被膜12どうしの結合22の存在は、例えば、約3000倍に拡大したSEM観察像などにおいて、隣接する金属粒子11が有する酸化被膜12が同一相であることを視認することなどで、明確に判断することができる。酸化被膜21どうしの結合22の存在により、機械的強度と絶縁性の向上が図られる。粒子成形体1全体にわたり、隣接する金属粒子11が有する酸化被膜12どうしが結合していることが好ましいが、一部でも結合していれば、相応の機械的強度と絶縁性の向上が図られ、そのような形態も本発明の一態様であるといえる。好適には、粒子成形体1に含まれる金属粒子11の数と同数またはそれ以上の、酸化被膜12どうしの結合22が存在する。また、後述するように、部分的には、酸化被膜12どうしの結合を介さずに、金属粒子11どうしの結合(金属結合21)も存在していてもよい。さらに、隣接する金属粒子11が、酸化被膜12どうしの結合も、金属粒子11どうしの結合もいずれも存在せず単に物理的に接触又は接近するに過ぎない形態が部分的にあってもよい。
【0033】
酸化被膜12どうしの結合22を生じさせるためには、例えば、粒子成形体1の製造の際に酸素が存在する雰囲気下(例、空気中)で後述する所定の温度にて熱処理を加えることなどが挙げられる。
【0034】
本発明によれば、粒子成形体1において、酸化被膜12どうしの結合22のみならず、金属粒子11どうしの結合(金属結合)21が存在してもよい。上述の酸化被膜12どうしの結合22の場合と同様に、例えば、約3000倍に拡大したSEM観察像などにおいて、隣接する金属粒子11どうしが同一相を保ちつつ結合点を有することを視認することなどにより、金属粒子11どうしの結合21の存在を明確に判断することができる。金属粒子11どうしの結合21の存在により透磁率のさらなる向上が図られる。
【0035】
金属粒子11どうしの結合21を生成させるためには、例えば、原料粒子として酸化被膜が少ない粒子を用いたり、粒子成形体1を製造するための熱処理において温度や酸素分圧を後述するように調節したり、原料粒子から粒子成形体1を得る際の成形密度を調節することなどが挙げられる。熱処理における温度については金属粒子11どうしが結合し、かつ、酸化物が生成しにくい程度を提案することができる。具体的な好適温度範囲については後述する。酸素分圧については、例えば、空気中における酸素分圧でもよく、酸素分圧が低いほど酸化物が生成しにくく、結果的に金属粒子11どうしの結合が生じやすい。
【0036】
このようにして得られる粒子成形体1からなる磁性材料を種々の電子部品の構成要素として用いることができる。例えば、本発明の磁性材料をコアとして用いてその周囲に絶縁被覆導線を巻くことによりコイルを形成してもよい。あるいは、上述の原料粒子を含むグリーンシートを公知の方法で形成し、そこに所定パターンの導体ペーストを印刷等により形成した後に、印刷済みのグリーンシートを積層して加圧することにより成形し、次いで、上述の条件で熱処理を施すことで、粒子成形体からなる本発明の磁性材料の内部にコイルを形成してなるインダクタ(コイル部品)を得ることもできる。その他、本発明の磁性材料を用いて、その内部または表面にコイルを形成することによって種々のコイル部品を得ることができる。コイル部品は表面実装タイプやスルーホール実装タイプなど各種の実装形態のものであってよく、それら実装形態のコイル部品を構成する手段を含めて、磁性材料からコイル部品を得る手段については、電子部品の分野における公知の製造手法を適宜取り入れることができる。
【0037】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
【実施例】
【0038】
(原料粒子)
アトマイズ法で製造されたFe−Cr−Si系の市販の合金粉末を原料粒子として用いた。この合金粉末の集合体表面をXPSで分析し、上述のFeMetal/(FeMetal+FeOxide)を算出した。合金粉末の組成はエネルギー分散型X線分析(EDS)によりZAF法で算出した。合金粉末のd10、d50、d90はそれぞれ体積基準の粒子径分布の指標であり、レーザー回折・散乱による測定装置により測定した。JIS Z 2512:2006の規格に従って合金粉末のタップ密度を測定した。市販の合金粉末をそのまま原料粒子として用いたり、還元処理や酸化処理を施して用いたりした。還元処理は、窒素中に30%の水素を含む雰囲気下で800℃、1時間保持することにより、酸化処理は、空気中で500℃、1時間保持することにより、それぞれ行った。
【0039】
合金粉末についての上記指標は下記表1のとおりである。ここで、「Fe比率」はFeMetal/(FeMetal+FeOxide)の計算値である。なお、番号19の試料はFeMetal/(FeMetal+FeOxide)の計算値が小さいため、比較例に相当する(表中に「*」を付した。)。
【表1】

【0040】
(粒子成形体の製造)
これら原料粒子100重量部を、熱分解温度が300℃であるPVAバインダ1.5重量部とともに撹拌混合し、潤滑剤として0.2重量部のステアリン酸Znを添加した。その後、25℃にて所定の形状に表2記載の圧力で成形し、21%の酸素濃度である酸化雰囲気中、表2記載の温度にて1時間熱処理を行い、粒子成形体を得た。粒子成形体について、熱処理前と後で透磁率を測定した。粒子成形体の比抵抗も測定した。成形条件と測定結果は表2のとおりである。FeMetal/(FeMetal+FeOxide)の比率が0.2以上である試料については、熱処理前より熱処理後の透磁率が高く、熱処理後の粒子成形体の高透磁率および高比抵抗が両立した。
【表2】

【符号の説明】
【0041】
1:粒子成形体、11:金属粒子、12:酸化被膜、21:金属結合、22:酸化被膜どうしの結合、30:空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子を成形して酸化雰囲気下で熱処理することにより得られる粒子成形体からなる磁性材料であって、
金属粒子はFe−Cr−Si系合金からなり、成形前の金属粒子のXPSによる709.6eV、710.7eVおよび710.9eVの各ピークの積分値の和FeOxide、ならびに、706.9eVのピークの積分値FeMetalについてFeMetal/(FeMetal+FeOxide)が0.2以上である、
磁性材料。
【請求項2】
粒子成形体におけるCrの含有量が2.0〜15wt%である請求項1記載の磁性材料。
【請求項3】
成形前の金属粒子の体積基準の粒子径分布について、d10/d50が0.1〜0.7であり、かつ、d90/d50が1.4〜5.0である、請求項1又は2記載の磁性材料。
【請求項4】
JIS Z 2512:2006で規格される成形前の金属粒子のタップ密度が3.8g/cm以上である請求項1〜3のいずれかに記載の磁性材料。
【請求項5】
XPSによる709.6eV、710.7eVおよび710.9eVの各ピークの積分値の和FeOxide、ならびに、706.9eVのピークの積分値FeMetalについてFeMetal/(FeMetal+FeOxide)が0.2以上である、Fe−Cr−Si系合金からなる金属粉末。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の磁性材料と、前記磁性材料の内部または表面に形成されたコイルと、を備えるコイル部品。

【図1】
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【公開番号】特開2013−26356(P2013−26356A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158437(P2011−158437)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】