説明

磁性標識セット

アナライト用の標識セットであって、前記標識が磁性物質又は磁化可能物質に付着し、前記標識が、(a)前記標識を前記アナライトに付着させるための認識部分と、(b)前記磁性物質又は前記磁化可能物質の結合乃至内封部分とを含み、前記磁性物質又は前記磁化可能物質の結合乃至内封部分が、金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含む標識セットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナライト用認識剤を介してアナライトに少量の磁性物質(又は磁化可能物質)を付着させることができる磁性認識標識に関する。本発明の具体的な目的は、標識セットであって、該標識セット中の各標識が該標識セット中の他の標識とは異なる磁性を有する標識セットにある。かかる標識の利点は、磁場により各標識を個別に操作可能であるように各標識の磁性を「調整」することができるため、単一サンプル中における複数のアナライトの操作及びアッセイの少なくともいずれかを行うことが可能になる点である。
【0002】
前記標識は、非常に少量の磁性物質をアナライトに付着させることができ、その結果、前記アナライトが、マイクロ流体系などの閉鎖空間内でさえも磁場の影響を受け得るという点で非常に有利である。磁性物質の存在により、アナライトのより複雑な空間操作が可能になり、これはマイクロ流体系において特に有益である。また本発明は、前記標識に関する製品、方法、及び使用に関する。
【背景技術】
【0003】
磁性ビーズを使用してアッセイ法に関与している分子を制御できることは周知である(例えば特許文献1を参照)。典型的には、かかるビーズは、アナライトを認識し結合することができる(抗体などの)分子に付着する。アナライトを制御又は空間的に操作するため、例えばサンプル中の他の分子からアナライトを分離するためにビーズの磁性が利用される。
【0004】
しかし、磁性ビーズは、全ての系に対して好適である訳ではない。近年、マイクロ流体デバイス又はナノ流体デバイスを用いてより少量のサンプルを扱うことが可能になっている。かかるデバイスは、針で刺すことにより得られる1滴の血液などの非常に少量のサンプル中の特定の物質についてアッセイすることができる。かかるビーズをマイクロメートルスケールで作製することができるにもかかわらず、かかるデバイス中のチャネルの寸法が小さすぎて磁性ビーズをうまく収容できないことが多い。その理由は、ビーズがチャネルよりも大きいか、又はビーズがチャネルを塞ぐ若しくは詰まらせるためである。これは、非特許文献1に更に記載されている。小さなビーズは、表面積の体積に対する比が大きいが(表1)、特に小さなビーズ又は粒子は、付着したタンパク質が別のタンパク質の付着を妨げる立体障害に悩まされる場合がある。これは、粒子への付着時に提示される抗体又は他の認識実体のランダムな空間構成により特に問題となる。タンパク質が磁性ビーズ又は磁性粒子の表面にカップリングしたとき、タンパク質の必要な配向が最適ではない場合があるため、該問題は更に深刻化する(図3を参照)。
【表1】

【0005】
より小さな磁性粒子をタンパク質に結合させようとする試みも行われているが、マイクロ流体及びナノ流体目的ほどの大きな注目は未だ集めていない。例えば、特許文献2は、液体サンプル中のアナライトを検出するためにアレイで用いることができる磁性タンパク質ナノセンサについて記載している。この系では、融合タンパク質が使用され、該融合タンパク質は、典型的には、常磁性ナノ粒子に結合する更なる機能性基(例えばペプチドディスプレイリガンド)を含むよう改変されたT4尾線維遺伝子を含んでいる。
【0006】
同様に、特許文献3は、細胞内磁性イメージングのための磁性ナノ粒子プローブについて開示している。該プローブは、典型的には、ミセル、リポソーム、又はデンドリマーなどの磁性物質を取り囲む自己組織化コーティング物質から形成される。内封されている磁性粒子の表面は、ペプチドなどの送達リガンドに付着することができる。類似の系が特許文献4に開示されており、該文献は、有機膜(リン脂質膜など)内に内封され、且つ膜タンパク質に付着している磁性ビーズに関する。非特許文献2では、細菌磁性粒子上にタンパク質を提示する方法が開示されている。また磁性粒子は、脂質二重膜、及び該粒子に結合している新規mms13タンパク質で覆われている。
【0007】
磁性ナノ粒子のウイルス内封に対して幾つかの研究が行われている。特許文献5は、T7バクテリオファージのウイルスカプシドタンパク質シェル内に磁性コバルトを内封することについて開示している。
【0008】
別の展開としては、幾つかの蛋白質は、直接金属イオンに結合する能力を有していることが発見されている。非特許文献3にはかかるタンパク質が報告されている。この分野の他の研究としては、非特許文献4が挙げられる。これよりも関連性の薄い研究としては、以下の研究が挙げられる。
【0009】
非特許文献5は、様々な細胞標的に対するビオチン化抗体とビオチン化マグネトフェリチンとが、アビジン架橋を用いてカップリングすることを開示している。
【0010】
この分野の更なる開示としては、非特許文献6〜非特許文献17が挙げられる。この最後の文献では、小さなイオン結合タンパク質メタロチオネイン−2(MT)を亜鉛ではなくカドミウム及びマンガンに結合するよう改変することにより、該タンパク質を磁性にしている。
【0011】
更なる背景技術の開示としては、非特許文献18〜非特許文献20が挙げられる。非特許文献21は、二機能性検出剤を構築するための特異的単鎖抗体及びヒトフェリチンを含む組み換え融合タンパク質について記載している。
【0012】
特許文献6は、溶液から夾雑イオンを除去するためのフェリチンの使用について開示している。フェリチンは、他のイオン交換種(例えばポルフィリン又はクラウンエーテル)も含んでいる更に大きな構造の一部を形成する。他のイオン交換種は、夾雑物を除去するよう設計されており、一方フェリチンの磁性は、溶液から該種を除去するために使用される。
【0013】
特許文献7は、他の用途の中でも特にワクチンで使用するためのフェリチン融合タンパク質について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/084089号明細書
【特許文献2】国際公開第2006/104700号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/083902号パンフレット
【特許文献4】米国特許第5,958,706号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2006/0240456号明細書
【特許文献6】加国特許第2,521,639号明細書
【特許文献7】米国特許第7,097,841号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】www.deas.harvard.edu/projects/weitzlab/wyss.preprint.2006.pdf
【非特許文献2】Tomoko Yoshino et al.“Efficient and stable display of functional proteins on bacterial magnetic particles using mms13 as a novel anchor molecule”,Applied and Environmental Microbiology Jan.2006、p.465−471
【非特許文献3】Meldrum F.C. et al.Science,257(5069)522−3,1992“Magnetoferritin:in vitro synthesis of a novel magnetic protein”
【非特許文献4】Martinez,J.S.,et al.2000.“Self−Assembling Amphiphilic Siderophores from Marine Bacteria.”,Science 287 1245−47
【非特許文献5】Zborowski et al.1996.“Immunomagnetic isolation of magnetoferritin−labelled cells in a modified ferrograph.”Cytometry 24:251−259
【非特許文献6】Inglis,et al.2004.“Continuous microfluidic immunomagnetic cell separation.”Applied physics letters.85(21)5093−5
【非特許文献7】Inglis et al.2006.“Microfluidic high gradient magnetic cell separation.”Journal of Applied Physics 99
【非特許文献8】Lambert et al.2005.“Evolution of the transferrin family:Conservation of residues associated with iron and anion binding.”Comparative Biochem and Physiol,(B)142 129−141
【非特許文献9】Gider et al.1995.“Classical and quantum magnetic phenomena in natural and artificial ferritin proteins.”Science.268 77−80
【非特許文献10】Haukanes,B.I.and Kvam,C.1993.“Application of magnetic beads in bioassays.”Biotechnology(NY).11(1)60−3
【非特許文献11】Olsvik,O.et al.1994.“Magnetic separation techniques in diagnostic microbiology.”Clin Microbiol Rev.7(1)43−54
【非特許文献12】Archer,M.J.et al.2006,“Magnetic bead−based solid phase for selective extraction of genomic DNA.”Anal Biochem.doi:10.1016/j.ab.2006.05.005
【非特許文献13】Schneider,T.et al.2006.“Continuous flow magnetic cell fractionation based on antigen expression level.”J Biochem Biophys Methods.68(1)1−21
【非特許文献14】Ramadan,Q.et al.2006,“An integrated microfluidic platform for magnetic microbeads separation and confinement.”Biosens Bioelectron.21(9)1693−702
【非特許文献15】Cotter,M.J.,et al.2001.“A novel method for isolation of neutrophils from murine blood using negative immunomagnetic separation.”Am J Pathol.159(2)473−81
【非特許文献16】http://www.newscientist.com/article.ns?id=dn3664
【非特許文献17】Chang,C.C.,et al.2006,“Mn,Cd−metallothionein−2:a room temperature magnetic protein.”Biochem Biophys Res Commun.340(4)1134−8
【非特許文献18】Odette et al.1984,“Ferritin conjugates as specific magnetic labels.”Biophys.J.45 1219−22
【非特許文献19】Yamamoto et al.2002,“An iron−binding protein,Dpr、from Streptococcus mutans prevents iron−dependent hydroxyl radical formation in vitro.”J Bacteriol.184(11)2931−9
【非特許文献20】Ishikawa et al.2003,“The iron−binding protein Dps confers hydrogen peroxide stress resistance to Campylobacter jejuni.”J Bacteriol.185(3)1010−17
【非特許文献21】Jaaskelainen et al.“Biologically Produced Bifunctional Recombinant Protein Nanoparticles for Immunoassays”Anal.Chem.80 583−587,2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
磁性ビーズ及びナノ粒子に関する広範囲に及ぶ上記開示にもかかわらず、アナライトを処理及び検出するためにマイクロ流体系及びナノ流体系において使用するためのより単純且つ有効な磁性粒子標識が今もなお必要とされている。
【0017】
本発明の目的は、上記問題を解決し、上記に概説した製品及び方法などの既知の製品及び方法を改善することにある。本発明の更なる目的は、例えばマイクロ流体デバイス又はナノ流体デバイスで有益に使用することができる複数のアナライト用標識セットを改善することにある。本発明の更なる目的は、本発明の更なる目的は、かかる標識を使用する方法、キット、及び用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
したがって、本発明は、複数のアナライトを標識するための標識セットであって、前記標識が磁性物質又は磁化可能物質に付着し、前記標識セット中の各標識が、
(a)前記標識が前記アナライトに付着するための認識部分と、
(b)前記磁性物質又は前記磁化可能物質の結合乃至内封部分と、
を含み、
前記磁性物質又は前記磁化可能物質の結合乃至内封部分が、金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含み、前記標識セット中の各標識が、前記標識セット中の他の全ての標識と異なる磁性を有する標識セットを提供する。
【0019】
本発明者らは、驚くべきことに、後でアナライトに付着し得る認識剤に付着している金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチド中に金属原子又は金属イオン(又は該金属原子若しくは該金属イオンを含有している化合物)を組み込むことにより、マイクロ流体デバイス及び/又はナノ流体デバイスにおいて有用であるのに十分な程度小さい磁性物質又は磁化可能物質を多数最適なアナライトに付着させ得ることを見出した。したがって、本発明の標識は、少なくとも2つの部分、即ち前記標識が所望のアナライトに付着するための認識部分と、磁性物質又は磁化可能物質の結合部分とを含む。前記標識は、親和性精製又は磁場精製などの確立されている技術を用いて容易に精製される。
【0020】
また本発明者らは、驚くべきことに、各標識が、前記標識セット中の全ての他の標識と異なるよう「調整された」磁性を有する標識セットを作製できることを見出した。
【0021】
認識部分が一価であるとき、(抗体とは異なり)細胞表面上の受容体の架橋から生じる問題は避けられる。また本発明者らは、単鎖組み換え抗体を生成するために確立されている分子生物学的ストラテジを用いて、標的タンパク質を直接(又は間接的に)磁化可能タンパク質にカップリングさせることにより、既知の方法で生じる「詰まり」の問題を克服した。
【0022】
本発明の標識は、単純な化学的手順を用いて磁化又は消磁することができるという更なる利点を有する。
【0023】
前記標識は、各標識が異なる磁性物質の独自の組み合わせを有する及び/又は各標識が独自の量の単一磁性物質を有することにより、各標識を他の標識と区別することができる。典型的には、標識は、それぞれ同種(例えばFe)であるが、異なる量存在する磁性物質を有する。幾つかの実施形態では、他の標識とは異なる組み合わせの磁性物質(例えばFe及びCo;Fe及びMn;Co及びMnなど)を使用して、各標識が他の標識とは異なる性質を有することを保証できる。該組み合わせは、各標識が単一物質を有するが、各物質は各標識によって異なる(例えばFe;Co;Mnなど)セットを含む。
【0024】
前記標識は、融合タンパク質であることが特に好ましい。本発明の状況では、融合タンパク質は、単一の組み換えタンパク質として発現しているタンパク質である。融合タンパク質は、多くの更なる利点を有する。融合タンパク質の認識腕部(例えばscFv)の配向は、制御することができるため、該融合タンパク質の標的に結合しやすくなる。また融合タンパク質は、単一融合タンパク質に複数の認識部分を組み込める可能性を高める。これら認識部位は、同じ標的に対するものであってもよく、異なる標的に対するものであってもよい。2以上の認識部分が存在する場合、磁性物質上の認識部分の空間構成を規定し、制御することができるため、立体障害及び従来のビーズに対するランダムな結合により引き起こされる問題が減少する。融合タンパク質中の各認識部分を注意深く間隔をあけて配置すると(例えば発現系に核酸スペーサを組み込むことにより)、完成タンパク質の三次構造を制御して、空間的に選択された領域における認識部分をタンパク質表面全域に分散させることができる。融合タンパク質を使用する更なる利点は、各標識中の認識部分の数を指定することができ、該認識部分の数が標識の全分子で同一になるという点である。従来の手段では、付着のランダムな性質により、認識部分の数を指定することが遥かに困難であり、且つ各磁性ビーズに付着する数がかなり変動するため、これは、認識部分を磁性ビーズに付着させる従来の手段とは著しく異なる。
【0025】
本発明の状況において「付着する」とは、特異的結合及び非特異的結合を含む任意の種類の付着、また内封をも意味する。したがって、磁性物質又は磁化可能物質の結合部分は、粒子又は集合体などの形態の物質に結合乃至内封する(又は他の方法で特異的又は非特異的に付着する)ことができるべきである。これら粒子又は集合体は、従来の磁性ビーズより遥かに小さく、典型的には100,000未満、より好ましくは10,000未満、最も好ましくは5,000未満の、部分全体(又は各部分)に結合している原子、イオン若しくは分子、又は部分全体(又は各部分)に内封されている原子、イオン若しくは分子を有する。最も好ましい物質は、最高3,000の原子、イオン若しくは分子、特に約2,000以下の原子、イオン若しくは分子、又は500以下の原子、イオン若しくは分子に結合することができる。
【0026】
本発明で使用される1つの具体例では、フェリチン(24個のサブユニットのタンパク質シェル)の金属要素は、8nm(8×10−9m)の無機コアからなる。各コアは、約2,000個のFe原子を含む。別の例では、Streptococcus mutans由来のDpr(12個のサブユニットのシェル)は、480個のFe原子を含む9nmのシェルからなる。更なる例では、ラクトフェリンは、2個のFe原子と結合し、ヘムに結合している鉄を含む(コア内の鉄分子に結合するフェリチンとは対照的である)。メタロチオネイン−2(MT)は、7個の二価遷移金属に結合する。MT中の亜鉛イオンは、Mn2+及びCd2+に置換されて、室温で磁性を有するタンパク質を作製する。MTは、1以上の更なる金属結合部位を更に組み込むよう改変されてもよく、これによりMn、Cd MTタンパク質の磁性が増加する。
【0027】
これら結合環境によって、単一部分に結合している又は単一部分に内封されている物質の総体積は、典型的には1×10nmを超えない(物質の粒子又は集合体の平均直径が約58nm以下であることを表す)。該物質は、1×10nm以下の総体積を有し得ることがより好ましい(物質の粒子又は集合体の平均直径が約27nm以下であることを表す)。該物質は、1×10nm以下の総体積を有し得ることが更により好ましい(物質の粒子又は集合体の平均直径が約13nm以下であることを表す)。該物質は、100nm以下の総体積を有し得ることが最も好ましい(物質の粒子又は集合体の平均直径が6nm以下であることを表す)。しかし、粒子のサイズは、体積の代わりに平均直径により決定することもできる。したがって、本発明では、結合している粒子の平均直径は、50nm以下、40nm以下、30nm以下、20nm以下が好ましく、10nm以下が最も好ましい。この状況において、平均とは、全粒子の直径の合計を粒子数で除した数を意味する。
【0028】
次に、以下の図面を参照して一例として本発明をより詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の標識を作製するために、適切な遺伝子をベクターにクローニングする方法を示す。完成標識中の磁化可能タンパク質ユニットの数は、必要に応じて多コピーの適切な遺伝子を含むことにより制御できる。この例では、抗体のV領域及びV領域の遺伝子のみが含まれているため、最終的な抗体ではなく、抗体のscFv部分が、最終的な好ましいキメラタンパク質に含まれる。 V領域及びV領域は、逆転写の後、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて適切な遺伝子(メッセンジャーRNA)を増幅させることにより、モノクローナルハイブリドーマクローン、又は(例えばファージディスプレイ)遺伝子ライブラリから適切な発現ベクターにクローニングできる。該遺伝子は、一連の小アミノ酸(例えば4個のグリシン残基、及び1個のセリン残基)により連結されて、互いに対してポリペプチドを正確に整列させ、且つリンカー領域からの干渉無しに結合部位を形成することが可能になる。次いで、scFvの直後に、又は上記アミノ酸リンカーに隔てられた状態で磁化可能タンパク質の遺伝子(1又は複数)がクローニングされる。必要に応じて、精製タグ(ヘキサヒスチジン、グルタチオン−s−トランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ヘマグルチニン、緑色蛍光タンパク質など)を組み込んで、融合タンパク質の単離を補助してもよい。終止コドンは、融合タンパク質遺伝子の最後に組み込まれ、その後にポリアデニル化部位が続く。選択された磁化可能タンパク質が複数のサブユニットから構成される場合(フェリチン又はDprなど)、これらサブユニットをコードする遺伝子はscFvの後又は前にあることが予想される。磁化可能タンパク質の遺伝子中にscFvを組み込み、磁化可能タンパク質の従来位置する部分であって、アミノ末端又はカルボキシル末端ではない部分にscFvアミノ酸配列を配置することが望ましい場合もある。単量体タンパク質(MTなど)が選択された場合、複数コピーのscFv及び/又は金属結合部分の遺伝子を発現ベクター中にタンデムにクローニングすることができる(図1のように)。遺伝子配列により、発現した融合タンパク質中のscFv及び金属結合部分の位置を規定及び制御することができる。多量体タンパク質では、磁化可能タンパク質の遺伝子中にscFv遺伝子を組み込み、磁化可能タンパク質の従来位置する部分であって、アミノ末端又はカルボキシル末端ではない部分にscFvアミノ酸配列を配置することが望ましい場合もある。次いで、哺乳類細胞株若しくは昆虫細胞株などの発現系、又は発現のための酵母ホスト若しくは細菌ホストにベクターが組み込まれる。融合タンパク質は、適切な方法(沈降、免疫沈降、親和性精製、高性能又は高速タンパク質液体クロマトグラフィーなど)により回収される。次いで、精製された融合タンパク質は、タンパク質を磁化するために確立されている方法を用いて改変される(Chang et al.、Meldrum et al.)。
【図2a】図2aは、3種の異なる磁性を有する本発明の標識セットを用いて3種の異なるアナライトを精製する方法の概略を示す。対象アナライトは、適切な認識部位を用いて1種の標識でそれぞれ特異的に標識されている。第1の磁場を印加して、第1の結合アナライトが洗い流されるのを防ぎ、次いで第1の結合アナライトを回収し、分析又は処理することができる。次いで、回収及び分析のために、第2のアナライト及び第3のアナライトに対して異なる磁場を印加する。該方法は、必要に応じて第4のアナライト及び更なるアナライトに適応させることもできる。
【図2b】図2bは、3種の異なる磁性を有する3種の標識に付着している3種の異なるアナライトの概略図を示す。磁性物質の量が多くなるにつれて(又は用いられる金属の種類の磁性が強くなるにつれて)、該標識及び関連するアナライトに影響を及ぼすために必要な磁場は弱くなる。
【図3】図3は、現在市販されている、抗体でコーティングされているビーズは、ビーズに対する抗体の共有結合性複合体化により製造されているため、抗体が不正確に配向され、結合効率が低下する可能性があることを示す。
【図4】図4は、IgGなどの抗体の構造を単純化して概略的に示す。パパインなどの酵素を用いてプロテアーゼ処理した後、抗体は、ヒンジ領域の近くで3つの部分に分解される。抗体のエフェクタ機能部(ヒンジ、C2、及びC3)は、X線回折分析のために結晶化することが比較的容易であるため、この部分は結晶化可能断片(Fc)領域として知られている。抗体の抗原結合部は、抗体断片(Fab)として知られている。酵素分解後、Fab断片は、ヒンジ領域で連結してF(ab)断片を形成する場合もある。他の抗体は、Fc領域内のドメイン数が異なる場合もあり、またヒンジ領域に変異が存在する場合もある。
【図5】図5は、scFv−フェリチン融合タンパク質の構造を示す。
【図6】図6は、scFv−MT2融合タンパク質の構造を示す。
【図7】図7は、scFv−{MT2}N≧1融合タンパク質の構造を示す。
【図8】図8は、scFv断片の構造を示す。
【図9a】図9aは、フェリチン重(H)鎖遺伝子及びフェリチン軽(L)鎖遺伝子のPCR増幅産物を示す。
【図9b】図9bは、フェリチン重鎖遺伝子及びフェリチン軽鎖遺伝子のオーバーラップPCR産物を示す
【図9c】図9cは、コロニーPCRの結果を示し、配列決定のためにクローン1、3、及び4が選択された。
【図10a】図10aは、抗フィブロネクチンscFvと、フェリチン重鎖及びフェリチン軽鎖ポリジーンとのPCR増幅産物(矢印)を示すゲルである。
【図10b】図10bは、抗フィブロネクチンscFvと、フェリチン重鎖及びフェリチン軽鎖ポリジーンとのオーバーラップPCR産物を示すゲルである。
【図11】図11は、scFv:フェリチン融合コンストラクトとライゲーションされたプラスミドを用いて形質転換された多くのクローンのPCRによるスクリーニング結果を示すゲルである。
【図12】図12は、細胞可溶化物のクマシーブルー染色ゲル及びウエスタンブロットを示す。記号:1.フェリチンで2時間誘導、2.フェリチンで3時間誘導、3.フェリチンで4時間誘導、4.ベンチマーク(Invitrogen)プロテインラダー。
【図13】図13は、ヒト肝臓ライブラリ由来のMT2のPCR増幅産物を示すゲルである。
【図14】図14は、scFv:MT2コンストラクトを含むプラスミドで形質転換されたクローンのコロニー分析結果を示す。
【図15】図15は、scFv:MT2(矢印)のクマシーゲル及びウエスタンブロットを示す。
【図16】図16は、再可溶化されたscFv:フェリチン融合タンパク質及びscFv:MT2融合タンパク質のクマシーブルー染色ゲル及びウエスタンブロットの写真を示す。融合タンパク質を丸で囲んだ。両方のゲルのレーン2がフェリチンであり、両方のゲルのレーン3がMT2である。レーン1は、タンパク質分子量ラダーである。
【図17a】図17aは、MT2融合タンパク質の結合のSPR分析から得られたセンサグラムを重ねたものである。
【図17b】図17bは、フェリチン融合タンパク質の結合のSPR分析から得られたセンサグラムを重ねたものである。
【図18】図18は、本発明で用いるために作製されたマグネトフェリチンの磁性を示す。
【図19】図19は、作製中のフェリチン濃度及びマグネトフェリチン濃度を示す。記号:MF;マグネトフェリチン、ft;フロースルー、前;Macs(登録商標)カラムで濃縮されたマグネトフェリチンの透析前、後;Macs(登録商標)カラムで濃縮されたマグネトフェリチンの透析後。
【図20】図20は、scFv:フェリチン及び熱処理したscFv:フェリチンのフィブロネクチンに対する結合を示す。
【図21a】図21aは、磁化された融合タンパク質に対してVarioskan Flash機器を用いて記録した吸光度測定値を示す。濃縮後もモノクローナル抗フェリチン抗体はタンパク質を認識する。
【図21b】図21bは、磁化された融合タンパク質に対してVarioskan Flash機器を用いて記録した吸光度測定値を示す。磁化抗フィブロネクチンフェリチン融合タンパク質は、その標的抗原に対する結合能を保持する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
磁性物質又は磁化可能物質に結合することができ、且つアナライトに対する結合に干渉しない限り、磁性物質又は磁化可能物質の結合部分は、特に限定されない。磁性物質又は磁化可能物質の結合部分は、金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチド(又はかかるタンパク質、ポリペプチド、若しくはペプチドの金属結合ドメイン)を含む。典型的には、この部分は、1以上の遷移金属原子、ランタニド金属原子、遷移金属イオン、及びランタニド金属イオンの少なくともいずれか、又は遷移金属イオン及びランタニド金属イオンを含む任意の化合物に結合することができる、又は結合している。遷移金属イオン及びランタニド金属イオンとしては、Fe、Co、Ni、Mn、Cr、Cu、Zn、Cd、Y、Gd、Dy、又はEuのうちのいずれか1種以上のイオンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明のより好ましい実施形態では、前記1種以上の金属イオンは、Fe2+、Fe3+、Co2+、Co3+、Mn2+、Mn3+、Mn4+、Cd2+、Gd3+、及びNi2+のうちのいずれか1種以上を含む。本発明で用いるための最も好ましいイオンは、Fe2+イオン、Fe3+イオン、Cd2+イオン、及びMn2+イオンである。典型的には、これらイオンは、鉄の場合ラクトフェリン、トランスフェリン、及びフェリチンに結合し、カドミウム及びマンガンの場合メタロチオネイン−2に結合する。Fe2+の結合は、酸性条件を用いることにより促進されることが好ましく、一方Fe3+の結合は、中性条件又はアルカリ性条件を用いることにより促進されることが好ましい。
【0032】
本発明の好ましい実施形態では、金属結合部分は、ラクトフェリン、トランスフェリン、フェリチン(アポフェリチン)、メタロチオネイン(MT1又はMT2)、第二鉄イオン結合タンパク質(例えばHaemophilus influenzae由来のFBP)、フラタキシン、及びシデロホア(細菌膜を貫通して鉄を輸送する機能を有する非常に小さなタンパク質)から選択されるタンパク質又はタンパク質の金属結合ドメインを含む。
【0033】
幾つかの実施形態では、本発明の標識は、磁性物質又は磁化可能物質の結合部分を複数含んでいてもよい。標識の磁性を制御するために、かかる部分の数を制御してもよい。典型的には、かかる実施形態では、標識は、2個〜100個の磁性物質又は磁化可能物質の結合部分、好ましくは2個〜50個の該部分、最も好ましくは2個〜20個の該部分を含んでいてもよい。最終的なキメラタンパク質では、金属結合タンパク質の各コピーは、可動性のために非荷電アミノ酸リンカー配列により次の金属結合タンパク質に付着していてもよい。
【0034】
更なる実施形態では、(電)磁性を調整するために、タンパク質/ペプチド結合部分にグリコシル化又はリン酸化などの修飾を行ってもよい。
【0035】
対象アナライトに結合することができる限り、認識部分は特に限定されない。典型的には、該認識部分が結合すべきアナライトは、生体分子(天然又は合成)、感染病原体又は感染病原体の構成要素(ウイルス、ウイルス粒子、又はウイルス構成要素など)、細胞又は細胞の構成要素、及び内因性小分子又は外因性小分子などの小分子(例えば代謝産物、医薬品、又は薬剤)から選択される。本発明の文脈では、小分子とは、ポリマー又はオリゴマーではない生物活性分子(タンパク質、核酸、ポリペプチド、又は他の生体オリゴマー及び生体ポリマーとは異なる)などの分子化学物質を意味し、例えば代謝産物、医薬品、薬剤、炭水化物、脂質、脂肪などである。典型的には、小分子は、2,000ダルトン以下の質量を有する。より具体的には、前記認識部分が結合すべきアナライトは、ウイルス、ウイルス粒子、ウイルス構成要素、タンパク質(天然タンパク質、又はプリオンなどの非天然タンパク質)、ポリペプチド、糖タンパク質、核酸(DNA又はRNAなど)、オリゴヌクレオチド、代謝産物、炭水化物(複合糖質など)、脂質、脂肪、医薬品、又は薬剤を含むことが好ましい。これらアナライトは、細菌により生成される糖残基(例えばシアル酸)、多くの細菌/ウイルス上の糖コート、及び細菌/ウイルスの糖タンパク質上の幾つかの腫瘍上又は腫瘍内に存在する改変糖を含む。これらアナライトのうちのいずれか1種以上を、本発明の方法で用いることが好ましい。
【0036】
標識は、1超の認識部分を含んでいてもよい。具体的には、アナライトが十分なサイズである場合、例えばアナライトが細胞である場合、2以上の異なる認識部分を利用して、対象アナライト上の2以上の標的に結合させ、結合効率を上昇させることができる。
【0037】
上記アナライトに結合できる認識部分は、対象アナライトに対する結合に適している限り、それ自体いずれの種類の物質又は分子であってもよい。一般的に、認識部分は、抗体、抗体断片、受容体、受容体断片、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド模倣体、核酸、オリゴヌクレオチド、及びアプタマーから選択される。本発明のより好ましい実施形態では、認識部分は、抗体の可変ポリペプチド鎖(Fv)、T細胞受容体、T細胞受容体断片、アビジン、及びストレプトアビジンから選択される。認識部分は、抗体の単鎖可変部(sc−Fv)から選択されることが最も好ましい。
【0038】
抗体は、外来抗原の認識に関与し、脊椎動物で発現する免疫グロブリン分子である。抗体は、Bリンパ球又はB細胞として知られている特殊な種類の細胞により産生される。個々のB細胞が生成するのは1種の抗体のみであり、該抗体は単一エピトープを標的とする。B細胞が抗原に遭遇すると、該抗原を認識し、分裂し、抗体産生細胞(又は形質細胞)に分化する。
【0039】
大部分の抗体の基本構造は、2種の異なる種類の4本のポリペプチド鎖から構成される(図4)。小(軽)鎖の分子質量は、25キロダルトン(kDa)であり、大(重)鎖の分子質量は、50kDa〜70kDaである。軽鎖は、1個の可変(V)領域と1個の定常(C)領域とを有する。重鎖は、1個の可変領域(V)と抗体のクラスによって3個〜4個の定常(C)領域とを有する。重鎖の第1定常領域及び第2定常領域は、様々な長さのヒンジ領域によって隔てられている。2本の重鎖は、ジスルフィド架橋を介してヒンジ領域で連結されている。ヒンジ領域の下の重鎖領域は、Fc領域(結晶化可能断片)としても知られている。ヒンジ領域の上の軽鎖及び重鎖複合体は、Fab(抗体断片)領域として知られており、2個の抗体結合部位を合わせてF(ab)領域として知られている。重鎖の定常領域は、補体カスケードの分子及び細胞表面上の抗体受容体を含む免疫系の他の構成要素に結合することができる。抗体の軽鎖及び重鎖は、多くの場合ジスルフィド架橋により連結している複合体を形成し、該複合体は、可変末端で所定のエピトープに結合することができる(図4)。
【0040】
抗体の可変遺伝子は、突然変異、体細胞組み換え(遺伝子シャフリングとしても知られている)、遺伝子変換、及びヌクレオチド付加事象により形成される。
【0041】
scFv抗体は、以下を含む膨大な数の標的に対して産生され得、
1.ウイルス:Torrance et al.2006.Oriented immobilisation of engineered single−chain antibodies to develop biosensors for virus detection.J Virol Methods.134(1−2)164−70
2.C型肝炎ウイルス:Gal−Tanamy et al.2005.HCV NS3 serine protease−neutralizing single−chain antibodies isolated by a novel genetic screen.J Mol Biol.347(5):991−1003)及びLi and Allain.2005.Chimeric monoclonal antibodies to hypervariable region 1 of hepatitis C virus.J Gen Virol.86(6)1709−16
3.癌:Holliger and Hudson.Engineered antibody fragments and the rise of single domains.Nat Biotechnol.23(9)1126−36、また、プロテオミクスを含む様々な用途で用いることができる(Visintin et al.2004.Intracellular antibodies for proteomics.J Immunol Methods.290(1−2):135−53)。
【0042】
したがって、最も好ましい実施形態では、本発明は、1以上のアナライトを認識するための、1以上の抗体の1以上の抗原結合腕部と、該抗原結合腕部に付着している金属結合タンパク質の1以上のコピーとから典型的には形成される、多部分標識を使用する。典型的には、用いられる抗体断片は、単鎖ペプチド(sc)を作製するために可動性リンカーにより接合されている重鎖及び軽鎖の可変領域(V及びV)を含み、これは通常scFvと呼ばれる。標識中の両方の部分がタンパク質及び/又はポリペプチドから形成されるとき(即ち、標識がキメラタンパク質を含むとき)、該標識は、当該技術分野で周知である組み換え技術を用いて形成することができる。これを図1に図示する。しかし、いずれかの部分が他の種から形成される場合、標識は、ある種を別の種に単純に付着させることにより作製できる。
【0043】
本発明の特に好ましい態様では、結合部分と認識部分とが融合タンパク質を形成する。本発明の状況では、融合タンパク質は、単一の組み換えタンパク質として発現しているタンパク質である。融合タンパク質は、任意の既知の発現系から産生され得る。しかし、本発明の好ましい態様では、標識の融合タンパク質は、哺乳類の発現系で産生される。融合タンパク質の結合部分と認識部分とは、リンカーにより隔てられていることが好ましい。リンカーは、15アミノ酸残基未満が典型的であり、10アミノ酸残基未満が好ましく、5アミノ酸残基未満が最も好ましい。
【0044】
この好ましい態様の実施形態では、標識は、複数のフェリチンサブユニットである結合部分を含み、該サブユニットは、集合して、粒子の外表面上に認識部分が存在する粒子を形成する。かかる粒子は、磁性物質又は磁化可能物質を内封していてもよい。
【0045】
融合タンパク質の使用は、この実施形態において特に有利である。産生中、結合部分をコードする遺伝的に操作されたヌクレオチド配列がインビトロで発現する。産生されたタンパク質/ペプチドは、該タンパク質/ペプチドを粒子に集合させることができる条件に供される。多機能性粒子を作製するために、異なるヌクレオチド配列を一緒に発現させてもよい。例えば、サブユニットの一部のみが認識部分を提示する粒子を作製するために、フェリチンのみをコードする配列を、フェリチン及び認識部分の融合タンパク質をコードする配列と共に発現させてもよい。最適数の認識部分を提示する集合粒子を得るために、異なるヌクレオチド配列の発現比を制御してもよい。かかる系を用いて立体障害の作用を最低限に抑え、アナライトに対する粒子の結合を最適化することができる。
【0046】
本発明の標識は、必要に応じて標識を破壊することができるように、結合部分と認識部分との間、認識部分内、又は結合部分が集合粒子である場合は粒子のサブユニット間に特異的切断部位を所望により組み込んでもよい。これは、具体的には、標識に特異的プロテアーゼ切断部位を組み込むことにより達成され得る。
【0047】
例えば、切断部位は、プロテアーゼの作用により認識部分の上方のセグメントを除去して、異なる特異性を有する第2の認識部分を「露出させる」ことができるように、認識部分内に存在してもよい。
【0048】
(a)上記で定義された標識セットとサンプルとを接触させる工程と、
(b)前記標識に磁場を印加して複数の標識に影響を与える工程と、
(c)任意的に、複数の標識及びアナライトの少なくともいずれかの処理及び分析の少なくともいずれかを行って、前記標識に付着し得る複数のアナライトに関する情報を得る工程と、
を含む、サンプルを処理する方法が、本発明により更に提供される。
【0049】
上記方法の1つの好ましい例では、磁場を用いて、サンプル中の1以上の更なる物質から、標識及び前記標識に付着し得る任意のアナライトの少なくともいずれかの分離、精製、及び単離の少なくともいずれかを行うことができる。この場合、精製の目的は分析することなしに達成し得るため、分析工程は必須ではない。他の好ましい方法では、分析工程が行われ、該分析工程は、典型的には、標識に付着しているアナライトの存在、欠如、同一性、及び量の少なくともいずれかを検出することを含む。
【0050】
また本発明は、核酸、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ポリペプチド、感染病原体(例えばウイルス、ウイルス粒子、又はウイルス構成要素)、又は細胞の精製法における上記で定義された標識セットの使用を提供する。該標識は、マイクロ流体デバイス及び/又は生体センサで実行されるアッセイなどのサンドイッチアッセイで用いられることが好ましい。
【0051】
更なる態様では、本発明は、本発明に係る標識セットを含むマイクロ流体デバイス又はナノ流体デバイスを提供する。本発明の状況では、マイクロ流体デバイス又はナノ流体デバイスは、直径1mm未満のチャネルを備えるデバイスである。
【0052】
次に、金属結合タンパク質、抗体、及び融合タンパク質を含む本発明で使用される各種部分について詳細に記載する。
【0053】
本発明を更に例証するために優れた例として2つの金属結合タンパク質を特定した。それはフェリチン及びメタロチオネインII(MT2)であった。融合タンパク質は、これら金属結合タンパク質のいずれかを用いて形成されることが好ましく、該融合タンパク質は、フェリチン又はメタロチオネインIIのいずれかに遺伝的に融合している単鎖Fv(scFv)として発現し、組み換えタンパク質を産生するマウス抗体の可変ドメインを含む。
【0054】
<金属結合タンパク質>
文献に記載されている金属結合タンパク質の数は、未だに増加し続けている。多くのタンパク質が、リン酸第二鉄オキシ水酸化物又はヘムとして鉄(Fe)を貯蔵しているため、磁化法が複雑になる。フェリチンなどのタンパク質は、かご状構造内に数千の鉄イオンを貯蔵することができる。
【0055】
フェリチン内の内因性鉄は常磁性ではないため、典型的には、タンパク質に損傷を与えることなしに該内因性鉄を除去し、常磁性形態に置換することが必要である。メタロチオネインII(MT2)などの他の金属結合タンパク質は、緩い格子配置中にフェリチンよりも少ない数の金属イオンを保持しているため、フェリチンよりも金属イオンの除去及び置換が容易である場合がある。
【0056】
<フェリチン>
フェリチンは、直径12nm、分子量480kDaの大きなタンパク質である。該タンパク質は、鉄を包む大きな空洞(直径8nm)からなる。該空洞は、非共有結合により保持されている4へリックスバンドルに折り畳まれた24個のフェリチンポリペプチドの自発性集合により形成される。鉄及び酸素は、生理学的条件下で不溶性錆及び可溶性ラジカルを形成する。鉄イオンの溶解度は、10−18Mである。フェリチンは、10−4Mの濃度で細胞内に鉄イオンを貯蔵することができる。
【0057】
フェリチンのアミノ酸配列、延いては二次構造及び三次構造は、動物と植物との間で保存されている。該配列は、細菌で見出されている配列とは異なるが、タンパク質の構造は細菌においても同じである。胚致死を引き起こす遺伝子欠失突然変異マウスを用いた研究から分かるように、フェリチンは、生存に必須の役割を有している。フェリチンは、嫌気性細菌でも発見されている。
【0058】
フェリチンは、8個のFe輸送孔と、12個のミネラル核形成部位と、第二鉄及び酸素からミネラル前駆体を生成する最高24個のオキシダーゼ部位とを有する大きな多機能性タンパク質である。脊椎動物では、2種のサブユニット(重鎖(H)及び軽鎖(L))がフェリチンを形成しており、それぞれのサブユニットが触媒活性(H)オキシダーゼ部位及び触媒不活性(L)オキシダーゼ部位を有している。重鎖と軽鎖との比は、要件によって変化する。最高4,000個の鉄が、フェリチンタンパク質の中心に局在し得る。
【0059】
フェリチン内に貯蔵されている鉄は、通常酸化鉄フェリハイドライト水和物(5Fe・9HO)の形態である。フェリハイドライトコアをフェリ磁性酸化鉄、即ちマグネタイト(Fe)に置換してもよい。これは、チオグリコール酸を用いて鉄を除去し、アポフェリチンを生成することにより達成され得る。次いで、空気又は他の酸化剤を導入することにより、酸化を緩徐に制御しながら、アルゴン又は他の不活性ガス下でFe(II)溶液を徐々に添加する。
【0060】
<メタロチオネインII>
メタロチオネインは、細胞内に存在する低分子量のシステインリッチなタンパク質である。これらタンパク質は、全ての真核生物で見出され、強力な金属結合能及びレドックス能を有している。MT−1及びMT−2は、様々な金属、薬剤、及び炎症メディエータにより肝臓において急速に誘導される。MT−2の機能としては、亜鉛(Zn)のホメオスタシス、重金属(特にカドミウム)及び酸化体による損傷からの保護、並びに代謝制御が挙げられる。
【0061】
MT2は、カルボキシル(α−ドメイン)末端及びアミノ(β−ドメイン)末端において2つの金属結合クラスタを介して7つの二価遷移金属に結合する。20個のシステイン残基が、結合プロセスに関与している。
【0062】
Changらは、7つの亜鉛(Zn2+)イオンを、マンガン(Mn2+)イオン及びカドミウム(Cd2+)イオンに置換する方法について記載している。得られたタンパク質は、室温で磁性ヒステリシスループを呈することが示された。これは、タンパク質が常磁性であることを示唆する。
【0063】
Toyamaらは、ヒトMT2を操作して更なる金属結合部位を構築した。これは、MT2の常磁性機能を潜在的に高めることができ、また本発明で使用することができる。
【0064】
フェリチン及びMT2は、潜在的に磁化可能であるため、現在入手可能な磁性ビーズの代替品となる。分子生物学的技術を用いて、フェリチン又はMT2をコードする遺伝子に抗体の可変領域を連結させて、磁性抗体様タンパク質を産生させることができる(図5を参照)。これは、抗フィブロネクチンscFv遺伝子などの利用可能なscFvを用いて証明することができる。フィブロネクチンは、結合組織内、細胞表面上、血漿中、及び他の体液中で見出されている。多くの肝癌でフィブロネクチン遺伝子の過剰発現が見出されており、フィブロネクチンタンパク質は、創傷治癒に関与していることが示されているため、フィブロネクチンに対する診断を行うことは、潜在的に「治療診断的(theranostic)」価値を有する。したがって、本発明の好ましい実施形態は、抗フィブロネクチンscFv遺伝子、フェリチン重遺伝子、及びフェリチン軽遺伝子を用いて、大きな多価融合タンパク質を産生することである。またscFvをヒトMT2遺伝子と連結させて、より小さな融合タンパク質を産生してもよい。
【0065】
単一タンパク質において遺伝的に融合している認識ドメイン及び常磁性ドメインを用いることにより、化学的複合体化の必要性、及び化学的操作により引き起こされるタンパク質の機能活性が損傷を受ける可能性がなくなる。scFv又は磁化可能ドメインは、比較的容易に自由に置換することができる。
【0066】
scFvは、グリシン残基及びセリン残基の短い鎖により連結している抗フィブロネクチン重鎖及び軽鎖を含んでいてもよい。V−リンカー−V構造は頑強であり、且つ結合を維持することが見出されているため、該構造が好ましい。
【0067】
Leeらは、軽鎖のアミノ末端にフェリチンの重鎖を遺伝的に融合させると、大腸菌における組み換えフェリチンの細胞質可溶性が著しく上昇することを見出した。本発明でこのアプローチを用いてもよい。scFv断片について上述したのと同じ理由により、即ち、セリン残基及びグリシン残基が小さく、可動性であり、他の必須残基に干渉する可能性が低いため、scFv及びフェリチン遺伝子は、セリン残基及び4つのグリシン残基から構成される短いリンカー領域を介して接合される。
【0068】
Ahnらは、フェリチンの重鎖及び軽鎖のC末端に融合している遺伝子が、表面上ではなくフェリチン分子内で発現している可能性が高いことを見出した。この理由のために、scFvフェリチン融合コンストラクトが、フェリチン重鎖のN末端にscFvを有するよう設計することが好ましい。
【0069】
<抗体>
本発明で用いることができる抗体について論じるとき、以下の略記を使用する。
抗体重鎖定常ドメイン
抗体軽鎖定常ドメイン
CDR (抗体の)相補性決定領域
Fab 可変ドメインと、軽定常鎖と、C1とからなる単一抗体認識断片(パパインによる切断後)
F(ab) 抗体認識断片(パパインによる切断後)
Fc 抗体の結晶化可能断片(パパインによる切断後)(通常C2及びC3ドメイン)
Fr (抗体の可変部の)フレームワーク領域
Fv (抗体の)可変断片
Ig 免疫グロブリン
MT メタロチオネイン
MT1 メタロチオネインI
MT2 メタロチオネインII
scFv 単鎖可変断片
抗体可変重ドメイン
抗体可変軽ドメイン
【0070】
本発明は、磁性抗体様キメラタンパク質を使用する。タンパク質の磁性セグメントは、上記のような鉄結合タンパク質の1以上のコピーから構成される。タンパク質の認識腕部は、対象抗原に結合する抗体断片又は受容体から構成され、これらについては以下でより詳細に論じる。抗体の起源は、特に限定されず、抗体は、いずれの種、ファージディスプレイライブラリ、又は他の組み換え系に由来していてもよい。
【0071】
本発明のタンパク質の典型的な抗体部分は、フィブロネクチンに結合するマウスモノクローナルIgG1抗体の抗原結合部位から構成される(以後抗フィブロネクチンscFvドメインと称する)。
【0072】
抗体は、特異的適応免疫反応に関与している免疫グロブリンタンパク質である。各免疫グロブリンは、2つの異なる役割を有する。一方の役割は、抗原に結合することであり、他方の役割は、免疫(エフェクタ)機能を仲介することである。これらエフェクタ機能は、ホストの組織、免疫細胞、及び他の免疫タンパク質に対して免疫グロブリンを結合させることを含む。抗体は、4本のポリペプチド鎖からなる(図4)。2本の同一である長い方の鎖(重鎖として知られている)は、ヒンジとして知られている領域において、ジスルフィド架橋により互いに共有結合している。また各重鎖は、ジスルフィド架橋を介して同一である短い方の鎖(軽鎖として知られている)にも共有結合している。各ポリペプチド鎖は、幾つかのドメインを含み(図4において標識されているV及びC(軽鎖)と、V、C1、C2、C3)、これらはそれぞれ遺伝子内のエキソンにコードされている。各ドメインは、約12.5kDaの分子量を有する。ヒトには5種の主な抗体クラス、即ち、IgG、IgA、IgM、IgD、及びIgEが存在し、またこれら抗体クラスにはサブクラスが存在する場合がある。各抗体クラスは、特徴的なエフェクタ領域を有しているため、異なる方法で免疫系を調節する。抗原結合ドメインは、重鎖可変ドメイン(V)及び軽鎖可変ドメイン(V)として知られている領域における免疫グロブリンのアミノ末端に位置する。エフェクタドメインは、抗体の残りの領域(定常領域)に存在する。
【0073】
脊椎動物の免疫系は、数百万の抗原を認識し、結合することができる。これは、抗体の著しい抗原多様性に部分的に起因する。抗体の可変ドメインは、シャッフルされて変異を生じ得る遺伝子のセットによりコードされている。更に、体細胞突然変異として知られている遺伝子の更なる改変が生じる。抗原に直接接触する抗体の領域(認識配列)は、最も可変性の高い領域である。これら領域は、相補性決定領域(CDR)として知られている。各ポリペプチド鎖には3個の相補性決定領域が存在し、これらは図4bでは薄い線で表されている。CDRとCDRとの間のアミノ酸残基は抗原に直接接触しないが、抗原結合領域の正確な構造の形成において非常に重要である。この理由により、それはフレームワーク領域として知られている。
【0074】
抗体は、B細胞として知られている専門の細胞で産生される。B細胞は、特異的抗原に結合することができる抗体を表面上に有する。換言すれば、単一B細胞が、その表面抗体を介して単一抗原を「認識する」ことができる。この膜に結合している抗体が抗原に遭遇すると、B細胞は成熟し、最終的には細胞の分裂及び増殖を導く。起源細胞から生じる娘細胞(即ち、クローンとして知られている)は、起源膜結合抗体と同特異性を有する抗体の可溶性(膜に結合していない)形態を産生することができる。これら娘細胞から産生される全ての抗体は、該娘細胞が単一クローンに由来しているため、モノクローナル抗体として知られている。
【0075】
定常領域を含まない抗体の抗原結合部を、単離に用いることができる。これは、例えば穿通性固形腫瘍に対する適応性の高い抗体様分子の設計に役立つ場合がある。Vドメイン及びVドメインは、Fv断片として細胞内で発現し得る。或いは、該2個のドメインは、小さなアミノ酸の短い鎖により連結されて、単鎖Fv断片(scFv)として知られている、分子量約25kDaの単一ポリペプチドを形成し得る(図8を参照)。リンカーは、scFvの結合及びスカフォールド領域に干渉しないセリン及びグリシンなどの多数の小アミノ酸から構成される。
【0076】
<融合タンパク質の設計>
本発明では、融合タンパク質は、抗フィブロネクチンマウスモノクローナルIgG1抗体由来の可変領域を用いて設計されて、scFvドメインを産生することができる。フェリチンの重鎖及び軽鎖又はMT2遺伝子を用いて、抗体の磁性ドメインを産生することもできる。抗フィブロネクチン抗体の可変ドメイン遺伝子は市販されており、典型的にはプラスミドベクターにクローニングされて、scFvとして発現する。scFvは、以下の順序で翻訳され得る:
ATG開始コドン:(発現のための)リーダー配列:重鎖:グリシンセリンリンカー:軽鎖。
【0077】
<プラスミド作製>
ヒトフェリチンの重鎖及び軽鎖又はヒトMT2の遺伝子は、ヒトライブラリから得、適切に設計されたプライマーを用いてクローニングされ、末端に終止コドンを有する抗体軽鎖の3’末端において抗フィブロネクチンscFvプラスミドベクターに挿入することができる。フェリチンの重鎖及び軽鎖の3’末端に融合している遺伝子は、表面上ではなくフェリチン分子内で発現する場合がある。したがって、scFvフェリチン融合コンストラクトは、フェリチン重鎖のN末端(5’末端に対応する)にscFvを有する。scFvと、フェリチン又はMT2との融合タンパク質は、典型的には、終止コドンの前のタンパク質のC末端にヒスチジンタグ(6つのヒスチジン残基からなる)を有する。該ヒスチジンタグにより、ウエスタンブロッティングなどの用途においてタンパク質を検出することが可能になり、金属親和性カラム(ニッケルカラムなど)、又は金属結合機能が干渉する場合は他のタグ(例えばGST、β−ガラクトシダーゼ、HA、GFP)を用いて精製を行うことが可能になる。プラスミドを作製した後、遺伝子の配列を確認して、突然変異が生じていないことを保証することができる。
【0078】
図5bは、例示的なフェリチン融合タンパク質を図示する。scFv重鎖及び軽鎖は、それぞれ最初の2本の矢印により表されている。
【0079】
以下に記載する配列番号1の配列を用いた。
【化1】

【0080】
scFv重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列をイタリック体で表し、重鎖に下線を引く。太字のアミノ酸は、可変ドメインのCDR領域を表す。2箇所のグリシン/セリンリンカーを小文字で表す。2番目のグリシン/セリンリンカーは、標準文字で表されるフェリチンの重鎖及び軽鎖配列に隣接している。フェリチンについても重鎖に下線を引く。
【0081】
図6bは、例示的なMT2融合タンパク質を図示する。その配列を以下の配列番号2に表す。
【化2】

【0082】
scFv配列をイタリック体で表し、重鎖に下線を引く。CDRを太字で強調する。2箇所のリンカーを小文字で表す。2番目のリンカーは、標準文字で表されるメタロチオネイン配列に隣接している。
【0083】
図7bは、例示的な複数のMT2融合タンパク質を図示する。その配列を以下の配列番号2’に表す。
【化3】

【0084】
scFv配列をイタリック体で表し、重鎖に下線を引く。CDRを太字で強調する。2箇所のリンカーを小文字で表す。2番目のリンカーは、標準文字で表されるメタロチオネイン配列に隣接している。該メタロチオネイン配列は、1、2、又はそれ以上(n)のコピー数のMT2配列を含んでいてもよい。
【0085】
scFv−フェリチン、scFv−MT2及びscFv{MT2}N≧1融合タンパク質は、大腸菌株中で発現することができる。これは、典型的には、1つ又は他の数の融合タンパク質をコードするプラスミドを含む感受性大腸菌細胞を形質転換することにより達成される。発現プラスミドは、典型的には、細菌の翻訳及び発現のためのエレメントと、発現を高めるためのエンハンサ配列とを含む。
【0086】
またプラスミドは、抗生物質耐性に関する配列を含んでいることが好ましい。抗生物質を含有している寒天栄養培地に細菌細胞を播種したとき、プラスミドを含んでいない細胞は分裂しない。プラスミドを含んでいる細胞は、個別のコロニーに増殖することができる。コロニー中の各細胞は、単一細胞又は「クローン」に由来する(したがって、このプロセスはクローニングとして知られている)。
【0087】
プレートからクローンを取り、抗生物質を含有している液体培地中で増殖させることができる。融合タンパク質の発現は、一般的に、誘導物質(イソプロピルβ−D−1−チオガラクトプレノシド、即ちIPTG)の添加により開始される。回収する前に、限られた時間細胞をインキュベートしてもよい。尿素を用いて細胞を溶解させ、例えばSDS−PAGE及びウエスタンブロッティングなどにより溶解物を分析してもよい。
【0088】
<タンパク質の検出及び精製>
クローンのタンパク質発現プロファイルは、SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動)及びウエスタンブロッティングを用いて評価することができる。これらアッセイでは、タンパク質を化学的に変性させる(β−メルカプトエタノールなどの化学物質を用いて硫黄結合を切断することにより、及び/又は結合内の静電電荷を失わせるSDSを添加することにより)。ゲルの最上部のウェルに細胞溶解物を添加する。次いで、ゲルに電流(DC)を印加すると、タンパク質はそのサイズに応じてゲル中を移動する。次いで、色素でゲルを染色することによりタンパク質を可視化する。(再度電流を用いることにより)分離されたタンパク質をニトロセルロース膜に転写し、特定のタンパク質をプローブとして反応させる。特定の酵素連結抗体をシート上でインキュベートし、基質(比色物質、発光物質、又は蛍光物質)を添加してタンパク質を可視化する。
【0089】
通常、最も発現量の多いクローンをラージスケール(1リットル)で増殖させる。上記のように細胞を誘導し、回収する。
【0090】
回収した細胞を溶解させ、例えば金属親和性クロマトグラフィーを用いてタンパク質を精製する。必要に応じて、フィブロネクチン親和性カラムを含む他の精製法を用いてもよい。
【0091】
<タンパク質の特徴付けアッセイ>
<<サイズ分析>>
SDS−PAGE及びウエスタンブロッティング分析、並びにクロマトグラフィー技術を用いて、タンパク質のサイズを調べることができる。
【0092】
<<表面プラズモン共鳴>>
表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて、融合タンパク質のフィブロネクチンに対する結合を調べることができる。SPRは、分子が金属薄膜に結合したときの光の屈折率の変化を測定することができる技術である。フィブロネクチンをSPRチップの金属表面に固定し、融合タンパク質をチップ表面上に流す。融合タンパク質が結合したとき、SPRを用いて結合動態(会合、解離、及び親和性)を調べることができる。通常、SPRを用いて得られる結果は、センサグラムの形態である。
【0093】
融合タンパク質の結合は、ELISAによって調べることもできる。結合を判定するためのアッセイは、マイクロタイタープレートをフィブロネクチン又は抗フェリチン抗体でコーティングすることを含む。プレート上のコーティングされていない部位は、ウシ血清アルブミン(BSA)を用いてブロッキングする。次いで、融合タンパク質をプレート上でインキュベートする。次いで、プレートを洗浄し、抗フェリチン抗体と共にインキュベートし、再度洗浄する。次いで、酵素に連結している抗体をプレート上でインキュベートし、その後プレートを洗浄し、基質を添加する。
【0094】
<フェリチン及びscFv−フェリチンの磁化>
フェリチン中の鉄は、常磁性ではない。鉄は、通常Fe(III)の形態である。常磁性フェリチンを作製するために、タンパク質に損傷を与えることなしにフェリチン(最終的には、融合タンパク質)中の鉄を除去し、次いで鉄を常磁性形態(Fe(II))に置換した。
【0095】
酸化鉄には幾つかの形態が存在し、これら形態が全て等しい磁性を有する訳ではない。例えばFeO、Fe、及びFeである。マグネタイト又は磁鉄鉱としても知られている酸化鉄(Fe)、即ち四酸化三鉄が、最も磁性の強い形態である。
【0096】
<scFv−フェリチン及びscFv−MT2融合タンパク質の特徴付け>
典型的には、電子顕微鏡、回折(X線及び/又は電子線)、及びメスバウアー分光法の組み合わせを含む多数の技術により、処理されたタンパク質の物理的性質を評価することができる。
【実施例】
【0097】
次に、一例として以下の具体的な実施形態を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【0098】
(実施例1:融合タンパク質の設計及び作製)
本発明を例証するために、市販のマウス抗フィブロネクチン抗体を用いて、融合タンパク質を設計した。短い可動性リンカーによりMT2又はフェリチンのいずれかに遺伝的に連結している抗フィブロネクチンscFvからなる融合タンパク質を作製した。この実施例は、融合タンパク質の構築、該融合タンパク質の特徴付け及び単離について詳述する。
【0099】
抗フィブロネクチンフェリチン又はMT2融合タンパク質の設計は、マウス抗フィブロネクチン抗体のV遺伝子及びV遺伝子のベクターへのクローニングに基づいていた。該V遺伝子及びV遺伝子は、小さな非荷電アミノ酸から構成される短い可動性リンカーにより連結されていた。V遺伝子の3’末端の直後において、別の短い可動性リンカーがフェリチン遺伝子又はMT2遺伝子のいずれかにつながっていた。両方の融合タンパク質は、ニッケルカラムで精製するための6−ヒスチジン領域を有していた。融合タンパク質の翻訳は、フェリチン軽鎖遺伝子又はMT2遺伝子の3’末端に挿入されている終止コドンで終結した。これらエレメントを全て含むプラスミドベクターを用いて、発現用細菌を形質転換した。
【0100】
フェリチン及びMT2遺伝子は、cDNAライブラリから入手した。cDNAライブラリは、細胞又は組織からmRNAを得、逆転写酵素として知られている酵素を用いて該mRNAをcDNAに逆転写し、各個別のcDNAをプラスミドベクターにクローニングすることにより形成される。
【0101】
<抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質の作製>
<<背景>>
フェリチンは、直径12nm、分子量480kDaのタンパク質である。該タンパク質は、鉄を包む大きな空洞(直径8nm)からなる。該空洞は、非共有結合により保持されている4へリックスバンドルに折り畳まれた24個のフェリチンポリペプチドの自発性集合により形成される。フェリチンのアミノ酸配列、延いては二次構造及び三次構造は、動物と植物との間で保存されている。細菌のタンパク質構造は、真核生物と同じであるが、配列は異なる。脊椎動物では、2種のサブユニット(重鎖(H)及び軽鎖(L))がフェリチンを形成しており、それぞれのサブユニットが触媒活性(H)オキシダーゼ部位及び触媒不活性(L)オキシダーゼ部位を有している。重鎖と軽鎖との比は、要件によって変化する。融合タンパク質の構築で用いられるフェリチン重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列は、以下の通りである。
フェリチン重鎖(分子量21,096.5Da):
MTTASTSQVRQNYHQDSEAAINRQINLELYASYVYLSMSYYFDRDDVALKNFAKYFLHQSHEEREHAKLMKLQNQRGGRIFLQDIKKPDCDDWESGLNAMECALHLEKNVNQSLLELHKLATDKNDPHLCDFIETHYLNEQVKAIKELGDHVTNLRKMGAPESGLAEYLFDKHTLGDSDNES(配列番号3)
フェリチン軽鎖(分子量20,019.6Da):
MSSQIRQNYSTDVEAAVNSLVNLYLQASYTYLSLGFYFDRDDVALEGVSHFFRELAEEKREGYERLLKMQNQRGGRALFQDIKKPAEDEWGKTPDAMKAAMALEKKLNQALLDLHALGSARTDPHLCDFLETHFLDEEVKLIKKMGDHLTNLHRLGGPEAGLGEYLFERLTLKHD(配列番号4)
【0102】
抗フィブロネクチンscFvアミノ酸配列と合わせた、融合タンパク質の単一ポリペプチドの予測配列は、以下の通りである(抗体重鎖遺伝子と抗体軽鎖遺伝子との間、及び抗体軽鎖とフェリチン重鎖との間のリンカー配列を小文字で強調する):
LVQPGGSLRLSCAASGFTFSSFSMSWVRQAPGKGLEWVSSISGSSGTTYYADSVKGRFTSRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKPFPYFDYWGQGTLVTVSSGDgssggsggASTGEIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSFLAWYQQKPGQAPRLLIYYASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQTGRIPPTFGQGTKVEIKsgggMTTASTSQVRQNYHQDSEAAINRQINLELYASYVYLSMSYYFDRDDVALKNFAKYFLHQSHEEREHAKLMKLQNQRGGRIFLQDIKKPDCDDWESGLNAMECALHLEKNVNQSLLELHKLATDKNDPHLCDFIETHYLNEQVKAIKELGDHVTNLRKMGAPESGLAEYLFDKHTLGDSDNESMSSQIRQNYSTDVEAAVNSLVNLYLQASYTYLSLGFYFDRDDVALEGVSHFFRELAEEKREGYERLLKMQNQRGGRALFQDIKKPAEDEWGKTPDAMKAAMALEKKLNQALLDLHALGSARTDPHLCDFLETHFLDEEVKLIKKMGDHLTNLHRLGGPEAGLGEYLFERLTLKHD(配列番号1)
ポリペプチド構成要素の分子量は、65.550kDaであった。
【0103】
<<抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質遺伝子の組立>>
PCRを用いてヒト肝臓cDNAライブラリからフェリチン重鎖遺伝子及びフェリチン軽鎖遺伝子を増幅させた(図9aを参照)。PCR産物は、予想されたサイズ(〜540bp)であった。オーバーラップPCRを用いてこれらPCR産物を用いてライゲーションした(図9b−PCR産物は、予想されたサイズである)。
【0104】
オーバーラップPCR産物をゲル精製し、配列解析のために配列決定ベクターにライゲーションした。これは、フェリチン重鎖及び軽鎖がオーバーラップしている遺伝子を含む配列決定ベクターで細菌を形質転換することを含む。次いで、形質転換された細菌を抗生物質含有プレート上に広げ、クローンを分離させた。細胞を一晩インキュベートして、コロニーを形成させた。次いで、個々のクローンをプレートから取り、液体培地中で増殖させた。各クローン由来のプラスミドを単離し、PCRを用いて分析した(図9c)。クローン4が、予想される配列を含んでいることが見出された。したがって、この後の全ての更なる研究では、このクローン由来のDNAを用いた。
【0105】
マウス抗ヒトフィブロネクチン抗体の可変重鎖及び軽鎖遺伝子を、モノクローナルハイブリドーマからPCRで増幅させた。これら遺伝子は、可動性リンカー領域により既に連結され、scFVを形成していた。PCRを用いてこのscFv遺伝子融合体を増幅させた。フェリチンポリジーンオーバーラップ産物と並んで、このscFv遺伝子融合体増幅産物を図10aのDNAゲルに見出すことができる。明らかなバンドをゲルから切り出し、DNAを精製した。次いで、これを更なるオーバーラップPCRで用いて、scFv及びフェリチンポリジーンを複合体化させた(図10b)。矢印で示すバンドは、scFv:フェリチン融合体の予想されるサイズのバンドである。これを切り出し、更に使用するためにDNAを精製した。
【0106】
これを行うために用いられたプライマーは、プラスミドにライゲーションするために、エンドヌクレアーゼ(二本鎖DNAの特定の配列を切断することができる酵素)でDNAを切断できる配列を含んでいた。
【0107】
ゲル精製後、制限酵素(エンドヌクレアーゼ)BamHI及びEcoRIを用いて、scFv:フェリチンPCR産物を切断した。次いで、精製された切断産物を2つの発現ベクター:pRSET及びpET26bにクローニングした。上記の通りクローンを単離し、陽性クローンを同定するためのPCRの結果を図11に見出すことができる。
【0108】
配列解析のために、プラスミドpRSETを含むセットからコロニー3〜5、及び7と、プラスミドpET26bを含むセットからコロニー6を選択した。
【0109】
得られたデータは、pRSETのクローン4及び5と、pET26bのクローン6が、scFv:フェリチンコンストラクトを含んでいることを示した。pRSETのクローン4をタンパク質発現に用いた。
【0110】
<<抗フィブロネクチンscFv:フェリチン融合タンパク質の発現>>
融合タンパク質の発現を確認するために、LBブロス(Luria−Bertaniブロス:1リットル当たり10gのトリプトン、5gの酵母抽出物、10gのNaCl)中で5mLの培養物3つを増殖させた。様々な時間、IPTG(イソプロピルβ−D−1−チオガラクトプレノシド)を用いて細胞のタンパク質発現を誘導した。次いで8Mの尿素で培養物を溶解させ、SDS−PAGEを用いて分析した。クマシーブルーを用いてゲル中のタンパク質内容物を染色した(結果は図12を参照)。抗ポリヒスチジン抗体を用いてウエスタンブロットを実施し、融合タンパク質を特異的に同定した(図12)。
【0111】
接種の2時間後、3時間後、及び4時間後の時点で誘導を行った。
【0112】
ブロット中に見られるバンドは、融合タンパク質が発現しており、且つ抗ヒスチジン抗体を用いて該融合タンパク質を検出できることを示した。ポリペプチドのサイズは、約75kDa〜約85kDaであった。発現量は比較的多く、クマシーブルーで染色したゲル中に見られる非常に暗いバンドに対応する融合タンパク質のバンドと比べて高発現していることは明らかであった。接種の3時間後に誘導することにより、比較的高水準の発現が得られたため、これを次の発現のために用いた。
【0113】
<抗フィブロネクチン:MT2融合タンパク質の作製>
<<背景>>
メタロチオネインは、細胞内に存在する低分子量のシステインリッチなタンパク質である。これらタンパク質は、全ての真核生物で見出され、強力な金属結合能及びレドックス能を有している。MT−1及びMT−2は、様々な金属、薬剤、及び炎症メディエータにより肝臓において急速に誘導される。MT2は、カルボキシル(α−ドメイン)末端及びアミノ(β−ドメイン)末端において2つの金属結合クラスタを介して7つの二価遷移金属に結合する。20個のシステイン残基が、結合プロセスに関与している。
【0114】
MT2の配列は、以下の通りである:
MDPNCSCAAGDSCTCAGSCKCKECKCTSCKKSCCSCCPVGCAKCAQGCICKGASDKCSCCAPGSAGGSGGDSMAEVQLLE(配列番号5)。
【0115】
抗フィブロネクチンscFvアミノ酸配列と合わせた、融合タンパク質の単一ポリペプチドの予測配列は、以下の通りである(抗体重鎖遺伝子と抗体軽鎖遺伝子との間、及び抗体軽鎖とMT2重鎖との間のリンカー配列を小文字で強調する):LVQPGGSLRLSCAASGFTFSSFSMSWVRQAPGKGLEWVSSISGSSGTTYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKPFPYFDYWGQGTLVTVSSGDgssggsggASTGEIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSFLAWYQQKPGQAPRLLIYYASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQTGRIPPTFGQGTKVEIKsgggMDPNCSCAAGDSCTCAGSCKCKECKCTSCKKSCCSCCPVGCAKCAQGCICKGASDKCSCCAPGSAGGSGGDSMAEVQLLE(配列番号2)。
【0116】
<<抗フィブロネクチン:MT2融合タンパク質遺伝子の組立>>
PCRを用いてヒト肝臓cDNAライブラリからメタロチオネインII遺伝子を増幅させた(図13)。PCR産物は、予想されたサイズ(〜200bp)であった。
【0117】
BglII制限酵素を用いてPCR産物を切断し、既に切断されているプラスミド(Xa因子ベクター)にライゲーションした。
【0118】
選択されたクローンのコロニーPCRにより、選択された全てのクローンのバンドが見られた(図14)。配列解析のためにクローン2、4、及び9を選択した。更なる研究ではクローン9を用いた。
【0119】
<<抗フィブロネクチンscFv:MT2融合タンパク質の発現>>
scFv:MT2融合タンパク質の発現を確認するために、フェリチン融合タンパク質のように、様々な時点において(IPTGで)誘導されたLBブロス中で5mLの培養物を3つ増殖させた。8Mの尿素を用いて培養物を溶解させ、クマシーブルーで染色したSDS−PAGEゲルを用いて分析し、抗ヒスチジン抗体を用いてブロットした(図15)。接種の4時間後に誘導された細胞は、僅かに多いタンパク質を産生した(両方のゲルのレーン3)。これら増殖条件を後のタンパク質発現で用いた。
【0120】
<<融合タンパク質の精製>>
封入体を単離し、洗浄し、再可溶化させることによる可溶性タンパク質の単離を行った。
【0121】
プロトコルの完了には約1週間かかった。クマシーブルーで染色されたゲルの写真と、再可溶化されたscFv:フェリチン融合タンパク質及びscFv:MT2融合タンパク質のウエスタンブロットの写真とを、図16中に見出すことができる。融合タンパク質を丸で囲んだ。両方のゲルのレーン2がフェリチンであり、両方のゲルのレーン3がMT2である。レーン1は、タンパク質分子量ラダーである。
【0122】
これから、融合タンパク質がうまく発現し、濃縮されていることが分かる。磁化プロトコル及び更なる実験でこれらタンパク質を用いた。
【0123】
(実施例2:SPR分析)
SensiQ機器(ICX Nomadics)を用いる表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイにおいて、抗フィブロネクチンフェリチン融合タンパク質及び抗フィブロネクチンMT2融合タンパク質の封入体調製物を用いた。
【0124】
これら実験では、フィブロネクチンペプチドをカルボキシルチップ表面にカップリングさせた。次いで、融合タンパク質調製物をチップ上に流し、会合速度(K)及び解離速度(K)を測定した。
【0125】
<分析用融合タンパク質サンプル>
以下の表2及び表3に記載されるランニングバッファ中で0.0013μM〜0.133μMの濃度の融合タンパク質のサンプルを6種作製した。
【表2】

【表3】

【0126】
<メタロチオネイン>
サンプル(サイクル1〜6)=0.0013μM〜0.133μMのメタロチオネイン融合タンパク質20μL
アッセイラン=Mab&Glyアッセイサイクル(上記の通り)
【0127】
SensiQ Qdat分析ソフトウェア、及び動態パラメータ(K、K)を算出するためのデータに適合したモデルを用いて上記サイクルのセンサグラムを重ねた。Kの最良推定値は、データの解離部分にのみモデルを適合させることにより得られた。結果を図17aに示す。0.00503s−1のKに対し、2.289×10−9MのKが得られた(Kは2.197×10−1−1)。
【0128】
<フェリチン>
サンプル(サイクル1〜6)=0.0013μM〜0.133μMのフェリチン融合タンパク質20μL
アッセイラン=Mab&Glyアッセイサイクル(上記の通り)
【0129】
SensiQ Qdat分析ソフトウェア、及び動態パラメータ(K、K)を算出するためのデータに適合したモデルを用いて上記サイクルのセンサグラムを重ねた。Kの最良推定値は、データの解離部分にのみモデルを適合させることにより得られた。結果を図17bに示す。0.00535s−1のKに対し、6.538×10−10MのKが得られた(Kは8.183×10−1−1)。
【0130】
<結果>
上記実験データから、フィブロネクチンのエキストラドメインB(aa16〜42)抗原が、うまくSensiQチップ上にコーティングされたことが分かった。予想通り、75kDaのメタロチオネイン融合タンパク質及び270kDaのフェリチン融合タンパク質の両方が、抗原を特異的に認識し、結合した。融合タンパク質と抗原との相互作用に関する動態データを推定し、両方の融合タンパク質の動態データが類似しており、大部分の抗体/抗原相互作用の範囲である10−8M〜10−10Mと比べて、両方の融合タンパク質について予想される範囲であること、即ち、Kが10−9Mの範囲であることを見出した。
【0131】
したがって、この機器を用いて得られた値は、比較的親和性の高い抗体の結合親和性に匹敵する結合親和性を示唆する。更に、得られたデータは、融合タンパク質が、抗原に対する複数の結合部位を有することを示唆する。このことは、フェリチン融合タンパク質については予想されていた。しかし、MT2融合タンパク質については予想されておらず、MT2融合タンパク質は、二量体又はより高次の多量体タンパク質を形成しているため、結合親和力が増加していることが示唆された。
【0132】
(実施例3:フェリチンの磁化)
フェリチンは、通常水和酸化鉄(III)を含む。常磁性フェリチンを作製するために、より強い磁性を有するマグネタイト(Fe)にこれらイオンを置換した。この実験に用いられる方法には、制御条件下でアポフェリチンの鉄イオンを添加し、これらイオンを酸化させることが含まれていた。
【0133】
<材料>
・逆浸透水(RO水)
・50mMのN−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−3−アミノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(AMPSO)バッファ(pH8.6)(Sigma A6659)
・0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ(pH4.5)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
・トリメチルアミン−N−オキシド(TMA)(Sigma 317594)
・0.1Mの硫酸アンモニウム鉄(II)
・ウマ脾臓アポフェリチン(Sigma A3641)
【0134】
<方法>
トリメチルアミン−N−オキシド(TMA)をオーブン内で30分間80℃に加熱し、MeNを除去した後、室温まで冷却した。114mgのTMAを15mLのRO水に添加し、0.07M溶液を作製した。使用前に鉄及びTMA溶液を15分間窒素パージした。
【0135】
AMPSOバッファ(1リットル)を、1時間Nで脱気した。3.0mLのアポフェリチン(66mg/mL)をAMPSOバッファに添加し、該溶液を更に30分間脱気した。1リットルの容器中のAMPSO/アポフェリチン溶液を、65℃に予め加熱しておいた水浴中に入れた。該溶液中からN供給管を取り出し、該溶液の表面上に浮かせて該溶液を嫌気条件下に維持した。硫酸アンモニウム鉄の最初の添加により、溶液中に存在する可能性のある任意の残留酸素イオンを除去する。
【0136】
0.1Mの硫酸アンモニウム鉄及びTMAバッファのアリコートを以下のように15分間に1回添加した。
添加1回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄600μL
添加2回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄600μL及びTMA400μL
添加3回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄600μL及びTMA400μL
添加4回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄600μL及びTMA400μL
添加5回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄900μL及びTMA600μL
添加6回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄900μL及びTMA600μL
添加7回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄900μL及びTMA600μL
添加8回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄900μL及びTMA600μL
【0137】
Fe及びTMAの後半の添加時には、溶液の色が淡黄色から暗茶色に変化し、暗色沈殿が全体に分散した。この溶液を、この時点から「マグネトフェリチン」と呼ぶ。
【0138】
強いネオジムのリング状磁石を瓶に押しつけた状態で、マグネトフェリチン溶液を一晩室温でインキュベートした。次の日、図18の写真から分かるように、暗色固体物質が磁石に引き寄せられていた。
【0139】
<マグネトフェリチンの濃縮>
500mLのマグネトフェリチン溶液を、磁石上の5つのMacs(登録商標)LSカラムに通した(約100mLのマグネトフェリチンが各カラムを通過した)。カラムを通過した溶液(「フロースルー」と呼ばれる)をDuran瓶に回収した。磁石からカラムを取り外し、3mLのPBSを添加し、供給されているプランジャを用いることにより、3mLのPBSを用いて捕捉された物質を各カラムから溶出し、各カラムから約4.5mLを得た。後で分析するために、約1mLを2℃〜8℃で保存した(「透析前濃縮マグネトフェリチン」と呼ぶ)。溶出された溶液の残り(〜20mL)を4℃で一晩5リットルのPBSで透析し、過剰のFe及びTMAを除去した(「透析後濃縮マグネトフェリチン」と呼ぶ)。溶液の色の変化を記録した。マグネトフェリチンは元来暗茶色であったが、フロースルーは淡黄色になり、Macs(登録商標)カラムで濃縮された物質は、暗茶色〜黒色であった。
【0140】
透析管(Medicell International Ltd.、分画分子量12〜14,000ダルトン、〜15cm)をRO水中で10分間インキュベートし、管を柔らかくした。磁性的に単離して濃縮したマグネトフェリチンを透析管に移し、一晩撹拌しながら2℃〜8℃で5リットルのPBS中にてインキュベートした。2℃〜8℃で透析を続けながら、PBS溶液を3回交換し、次の日は2時間間隔で交換した。
【0141】
<マグネトフェリチンの分析>
磁石を用いて単離された磁性タンパク質の量を比較するために、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を実施した。
【0142】
<<材料>>
・炭酸塩バッファ(0.159gの炭酸ナトリウム及び0.3gの重炭酸ナトリウムの100mL RO水溶液)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
・1質量%のウシ血清アルブミン(BSA(Celliance 82−045−2))−PBS溶液
・ウマ脾臓アポフェリチン(Sigma Aldrich A3641)
・ウサギ抗ウマフェリチン抗体(Sigma Aldrich F6136)
・ヤギ抗ウサギ抗体(Sigma A3687)
・基質液体安定性フェノールフタレインリン酸塩
・停止液(212gの炭酸ナトリウム、110.5gの3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、217gのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、80gの水酸化ナトリウム、5リットルになるまで水)
・Maxisorbマイクロタイタープレート(NUNCカタログ番号:468667)
【0143】
<<方法>>
マグネトフェリチンを定量するために、アポフェリチンの希釈液(50μg/mL、25μg/mL、12.5μg/mL、6.25μg/mL、3.125μg/mL、及び1.5625μg/mL)を作製した。
【0144】
マグネトフェリチン(未精製)、透析前濃縮マグネトフェリチン、透析後マグネトフェリチン、及びフロースルーを、以下のように炭酸塩バッファで希釈した。
マグネトフェリチン、透析前、及び透析後の希釈:
100倍希釈、200倍希釈、400倍希釈、800倍希釈、1,600倍希釈、3,200倍希釈、6,400倍希釈、及び12,800倍希釈
フロースルー:
10倍希釈、20倍希釈、40倍希釈、80倍希釈、160倍希釈、320倍希釈、640倍希釈、及び1,280倍希釈
【0145】
100μLの各溶液を、二連でマイクロタイタープレートのウェルに添加した。炭酸塩バッファ(100μL)を陰性対照として2つのウェルに添加した。プレートを4℃で一晩インキュベートした。次の日、溶液を軽くはじき飛ばし(flicked off)、室温で1時間、200μLの1質量%BSAを用いてブロッキングした。1ウェル当たり300μLのPBSで3回洗浄した後、ウェルを軽く叩いて乾かし、10μg/mLの抗ウマフェリチン抗体100μLを添加した。これを室温で1時間インキュベートした後、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。AP複合体化抗ウサギ抗体を、7.43μg/mLの濃度になるようPBSで3,500倍に希釈し、室温で1時間インキュベートした。抗体複合体を除去し、上記のようにウェルを洗浄した。AP基質(100μL)を各ウェルに添加し、15分間顕色させた後、停止液を添加した。Varioskan Flash機器(Thermo Fisher)を用いて吸光度を記録した。
【0146】
Macs(登録商標)カラムは、フロースルー中に見出されたマグネトフェリチンの量の35倍のマグネトフェリチンを保持しており、これはタンパク質の磁化が成功したことを示す。
【0147】
<アポフェリチンの作製/ウマ脾臓フェリチンの鉱質除去>
<<材料>>
・0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ(pH4.5)
・チオグリコール酸(Sigma T6750)
・ウマ脾臓フェリチン(Sigma 96701)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
【0148】
<<方法>>
透析管をRO水中で10分間柔らかくした。0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ10mLを、切り取った透析管中のウマ脾臓フェリチン(125mg/mL)1mLに添加した。1時間窒素パージしておいた0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ(〜800mL)中に透析袋を移した。チオグリコール酸(2mL)をバッファに添加し、2時間窒素パージを続けた。更なる1mLのチオグリコール酸を酢酸ナトリウムバッファに添加し、その後更に30分間窒素パージを行った。酢酸ナトリウムバッファ(800mL)を交換し、窒素パージを続けた。フェリチン溶液が無色になるまで、鉱質除去手順を繰り返した。窒素パージを停止し、撹拌しながら1時間PBS(2L)でアポフェリチン溶液を透析した。PBSを交換し(3リットル)、一晩2℃〜8℃にてPBSでアポフェリチン溶液を透析した。
【0149】
<<結果>>
フェリチン溶液の色は、手順中に淡茶色から無色に変化し、これは鉄が除去されたことを示す。
【0150】
<抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質に対する熱処理の分析>
<<材料>>
・炭酸塩バッファ(0.159gの炭酸ナトリウム及び0.3gの重炭酸ナトリウムの100mL水溶液)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)
・1質量%のウシ血清アルブミン(BSA(Celliance 82−045−2))−PBS溶液
・フィブロネクチンペプチド
・抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質(scFv:フェリチン)
・抗ヒトフェリチンマウスモノクローナル抗体(Santa Cruz SC51887)
・抗マウスアルカリホスファターゼ抗体(Sigma A3562)
・基質液体安定性フェノールフタレインリン酸塩
・停止液(212gの炭酸ナトリウム、110.5gの3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、217gのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、80gの水酸化ナトリウム、5リットルになるまで水)
・Maxisorbマイクロタイタープレート(NUNCカタログ番号:468667)
【0151】
<<方法>>
100μL(100μg/mL)のscFv:フェリチンを薄壁PCRチューブに移し、60℃で30分間サーモサイクラー内にて加熱した。
【0152】
マイクロタイタープレートのウェルを、炭酸塩バッファで15μg/mLに希釈したフィブロネクチンペプチド(1.5mg/mLで供給)でコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。過剰の溶液を軽くはじき飛ばし、室温で1時間1質量%BSA−PBS溶液を用いてプレートをブロッキングした。これを軽くはじき飛ばし、PBSでプレートを3回洗浄した。scFv:フェリチン融合タンパク質及び熱処理したscFv:フェリチン融合タンパク質を、33μg/mL(各100μL)の濃度でウェルに添加した。フェリチン融合タンパク質を室温で2時間インキュベートした後、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。マウス抗フェリチン抗体を20μg/mLの濃度で添加し、100μLの体積で各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。これを、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。ヤギ抗マウスAP複合体化抗体を希釈し(50μL+950μLのPBS)、100μLの体積を全てのウェルに添加した。これを室温で1時間インキュベートし、上記のように除去した。全てのウェルに基質を添加し、室温で45分間インキュベートし、停止液を用いて反応を停止させた。Varioskan Flash機器(Thermo Fisher Electron)を用いて吸光度を記録した。
【0153】
scFv:フェリチンは、フィブロネクチンに対する結合能を保持しており、60℃で30分間加熱した後も抗ヒトフェリチンモノクローナル抗体により検出可能である(図20)。
【0154】
<抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質の鉱質除去>
<<材料>>
・抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質(scFv:フェリチン)
・0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ
・チオグリコール酸(70%w/w Sigma T6750)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
【0155】
<<方法>>
scFv:フェリチン融合タンパク質を、−20℃から室温に解凍した。100μg/mLの該融合タンパク質を9mL、柔らかくした透析管に分注した。該融合タンパク質を収容している管を、合計1mLの酢酸ナトリウムバッファですすぎ、これを9mLのタンパク質に添加した(0.9mg/mL溶液が得られた)。800mLの酢酸ナトリウムバッファを15分間窒素パージした後、透析袋を入れた。次いで、溶液を更に2時間パージした。窒素パージを続けていたバッファに、2mLのチオグリコール酸を添加した。更に2時間後、1mLのチオグリコール酸を更に添加した。バッファを交換し(3mLのチオグリコール酸を含有している予めパージした酢酸ナトリウムバッファ800mL)、窒素下で1時間透析を続けた。次いで、室温(N無)の2リットルのPBSに透析袋を移し、次いで3リットルのPBS中に移して4℃にて一晩放置した。次いで、鉱質除去された融合タンパク質を用いて、以下のように鉄添加及び制御酸化により常磁性融合タンパク質を作製した。
【0156】
<磁性scFv:フェリチンの作製>
<<材料>>
・逆浸透水(RO水)
・50mMのN−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−3−アミノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(AMPSO)バッファ(pH8.6)(Sigma A6659)
・0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ(pH4.5)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
・トリメチルアミン−N−オキシド(TMA)(Sigma 317594)
・0.1Mの硫酸アンモニウム鉄(II)
【0157】
トリメチルアミン−N−オキシド(TMA)をオーブン内で30分間80℃に加熱して、MeNを除去した後、室温まで冷却した。114mgのTMAを15mLのRO水に添加して、0.07Mの溶液を作製した。使用前に、鉄及びTMA溶液を15分間窒素パージした。
【0158】
窒素下で撹拌しながら室温で2時間、1リットルのAMPSOバッファを用いて、透析袋(上に詳述した)内に収容されている鉱質除去された融合タンパク質を透析した。鉱質除去されたscFv:フェリチン(〜10mL)を三角フラスコに移した。窒素パージして残留酸素を除去しながら、鉱質除去されたタンパク質溶液に18μLの鉄溶液を添加した。25分後、15μLの鉄及び10μLのTMAを添加した。
【0159】
次いで、以下に記載する量の鉄及びTMAバッファを15分間隔で添加した。
添加3回目 鉄30μL+TMA20μL
添加4回目 鉄15μL+TMA10μL
添加5回目 鉄15μL+TMA10μL
添加6回目 鉄15μL+TMA10μL
【0160】
磁化されたタンパク質を、Macs(登録商標)LSカラムに通した。フロースルーをもう1度通過させ、捕捉効率を高めた。磁石からカラムを取り外し、1mLのPBSを添加し、プランジャを用いることにより、磁化されたタンパク質をカラムから溶出した(溶出液 約2mL)。これは、カラム上でタンパク質が2倍希釈されたことを表す。
【0161】
以下に詳述するような分析のために、溶出されたタンパク質及び対照をマイクロタイタープレートにコーティングした。
【0162】
<ELISAによるscFv:マグネトフェリチン融合タンパク質の分析>
磁化された融合タンパク質が、抗フェリチンモノクローナル抗体に対する結合能を保持しているかどうかを確認するために、酵素結合免疫吸着アッセイを行った。
【0163】
<<材料>>
・炭酸塩バッファ(0.159gの炭酸ナトリウム及び0.3gの重炭酸ナトリウムの100mL水溶液、pH9.6)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mLのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
・フィブロネクチンペプチド
・抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質(scFv:フェリチン)
・抗ヒトフェリチンマウスモノクローナル抗体(Santa Cruz SC51887)
・抗マウスアルカリホスファターゼ抗体(Sigma A3562)
・基質液体安定性フェノールフタレインリン酸塩
・停止液(212gの炭酸ナトリウム、110.5gの3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、217gのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、80gの水酸化ナトリウム、5リットルになるまで水)
・Maxisorbマイクロタイタープレート(NUNC Cat:468667)
【0164】
<<方法>>
−融合タンパク質によるウェルのコーティング−
炭酸塩バッファで3倍希釈したscFv:フェリチン(未処理)、scFv:マグネトフェリチン、Macs(登録商標)カラムから溶出されたscFv:マグネトフェリチン、及びフロースルーでウェルをコーティングした。プレートを週末の間4℃でインキュベートした。過剰の溶液を軽くはじき飛ばし、室温で1時間1質量%BSA−PBS溶液を用いてブロッキングした。これを軽くはじき飛ばし、PBS(各洗浄につき300μL/ウェル)を用いてプレートを3回洗浄した。マウス抗フェリチン抗体を20μg/mLの濃度で添加し、100μLの体積を各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。これを、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。ヤギ抗マウスAP複合体化抗体を10μg/mLに希釈し、100μLの体積を全てのウェルに添加した。これを室温で1時間インキュベートし、上記のように除去した。基質を全てのウェルに添加し、室温で1時間インキュベートし、停止液を用いて反応を停止させた。Varioskan Flash機器(Thermo Fisher Electron)を用いて吸光度を記録した(図21aを参照)。
【0165】
−フィブロネクチンによるウェルのコーティング−
炭酸塩バッファで15μg/mLに希釈した100μLのフィブロネクチンペプチド(1.5mg/mLで供給)で、マイクロタイタープレートのウェルをコーティングした。該プレートを2℃〜8℃で一晩インキュベートした。過剰の溶液を軽くはじき飛ばし、300μLのPBSでウェルを3回洗浄した。二連で適切なウェル(100μL)に、scFv:フェリチン融合タンパク質を未希釈で添加した。次いで、プレートを室温で1時間インキュベートした。溶液を軽くはじき飛ばし、300μLのPBSでウェルを3回洗浄した。マウス抗フェリチン抗体を20μg/mLの濃度で添加し、100μLの体積を各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。これを、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。ヤギ抗マウスAP複合体化抗体を10μg/mLに希釈し、100μLの体積を全てのウェルに添加した。これを室温で1時間インキュベートし、上記のように除去した。基質を全てのウェルに添加し、室温で45分間インキュベートし、停止液を用いて反応を停止させた。Varioskan Flash機器(Thermo Fisher Electron)を用いて吸光度を記録した(図21bを参照)。
【0166】
磁化された融合タンパク質をMacs(登録商標)カラムにより濃縮しても、該タンパク質は、依然としてモノクローナル抗フェリチン抗体により認識された。これは、抗フィブロネクチン−フェリチン融合タンパク質が、磁化されても構造的完全性を保持していたことを示す。また上記データは、磁化された抗フィブロネクチンフェリチン融合タンパク質が、その標的抗原に対する結合能を保持していることも示す。したがって、二機能性単鎖融合タンパク質は両方共磁化可能であり、標的に選択的に結合し得ることが示される。
【0167】
(実施例4:血小板の単離及びFACS分析)
抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質(scFv:フェリチン)が、フィブロネクチンを発現している血小板を他の種類の細胞から選択する能力を示すために実験を行った。
【0168】
大部分の細胞を定着させるために3日間4℃でEDTAバキュテナー内に保存していた血液サンプル由来の血漿を、30分間空気に曝露して、血小板を活性化させた。上記のように磁化されたscFv:フェリチン100μLを、10μLの該血漿と混合した。磁性融合タンパク質/血漿混合物を室温で30分間インキュベートした後(10μLを分析用に残した)、磁化され、且つ予め平衡化されているLS MACSカラム(Miltenyi Biotec)に通した。フロースルーを分析用に残した。市販のプランジャを用いてカラムから結合画分を溶出した。該画分をPBSで500μLに希釈し、蛍光活性化細胞選別(FACS)により前方散乱及び側方散乱を用いて分析した。
【0169】
結果を表4に示す。FACS分析では、設定されている数の事象(例えば10,000回)を記録するまでサンプルが分析されることを認識すべきである。したがって、サンプルの体積は、細胞の濃度によって大きく変動し得る。細胞濃度の高いサンプルを、細胞の多くが除去されているサンプルと比較するとき、これは特に重要である。細胞除去又は単離手順の効率を計算するとき、このサンプル体積の差を補正することが必要である。これを表4で行う。
【表4】

【0170】
この最適化されていない手順により、リンパ球に対してほぼ100%の選択性を有しながら、利用可能な血小板の90%が捕捉されたことが分かる。これは、scFv:フェリチンタンパク質のフィブロネクチンに結合する能力が血小板表面上で示されたことを示す。
【0171】
顕微鏡による目視検査の結果(結果は図示しない)がFACS分析の結果と相関していたことは、融合タンパク質が血小板に結合し、大きな粒状集合体の形成を導くことを示す。
【0172】
(実施例5:更なるプロトコル)
<scFv:MT2融合タンパク質の磁化>
scFv−MT2融合タンパク質は、亜鉛イオンをマンガンイオン及びカドミウムイオンに置換することにより磁化できる。これを行う方法は、必要に応じて最適化してもよい。これを達成する方法としては、必要に応じて既に公開されているプロトコルを変更した透析を用いて、透析した後置換を行うことにより亜鉛を枯渇させることが挙げられる。
【0173】
詳細には、これらプロトコルは以下の通りである。
1. 5mgのMT2を5mLのバッファ(4.5Mの尿素、10mMのトリス塩基、0.1Mのジチオスレイトール(DTT)、0.1質量%のマンニトール、及び0.5mMのPefabloc、pH11)を溶解させて、タンパク質の金属イオンを取り除く。
2. 同バッファで1時間透析する。
3. バッファ1(10mMのトリス塩基、2Mの尿素、0.1MのDTT、0.1質量%のマンニトール、0.5μMのPefabloc、及び1mMのCd2+/Mn2+、pH11)で72時間透析することにより、タンパク質を再度折り畳む。
4. 透析バッファをバッファ2に交換し(尿素の濃度が1Mであることを除いて上記の通り)、24時間透析する。
5. 透析バッファを、尿素を含有していない上記バッファに交換する。24時間透析する。
6. 工程5のように、透析バッファをpH8.8のバッファに交換する。24時間透析する。
7. 工程6のように、透析バッファをマンニトールを含有していないバッファに交換し、上記のように透析する。
8. 工程7のように、バッファをCd2+/Mn2+を含有しているバッファに交換し、24時間透析する。
【0174】
結合性は、フェリチン融合タンパク質について実施例2に記載したように評価することができる。
【0175】
<融合タンパク質を用いて、マイクロ流体デバイスにおいてアナライトをアッセイするためのプロトコル>
所望の量の2種以上の異なる融合タンパク質と、2種以上の対象アナライトを含む粗血漿サンプルとを、マイクロ流体デバイス中で混合する。
【0176】
2種以上の異なる磁場を用いることにより、夾雑物を洗い流すとき、マイクロ流体デバイスの磁化可能側に沿って対象アナライトを連続的に捕捉する。磁石のスイッチを切り、捕捉したアナライトを含む精製タンパク質を検出系に移動させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアナライトを標識するための標識セットであって、前記標識が磁性物質又は磁化可能物質に付着し、前記セット中の各標識が、
(a)前記標識が前記アナライトに付着するための認識部分と、
(b)前記磁性物質又は前記磁化可能物質の結合乃至内封部分と、
を含み、
前記磁性物質又は前記磁化可能物質の結合乃至内封部分が、金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含み、前記セット中の各標識が、前記セット中の他の全ての標識と異なる磁性を有することを特徴とする標識セット。
【請求項2】
標識が磁場によりそれぞれ個別に操作可能である請求項1に記載の標識セット。
【請求項3】
セット中の各標識が以下の少なくともいずれかにより他の標識と区別することができる請求項1から2のいずれかに記載の標識セット:
前記他の標識と異なる組み合わせの磁性物質を有する、及び
前記他の標識と異なる量の磁性物質を有する。
【請求項4】
セット中の各標識が一種類の磁性物質を他の標識と異なる量で含む請求項3に記載の標識セット。
【請求項5】
セット中の各標識が他の標識と異なる組み合わせの磁性物質を含む請求項3に記載の標識セット。
【請求項6】
各標識が認識部分と、磁性物質又は磁化可能物質の結合乃至内封部分とを含む融合タンパク質を含む請求項1から5のいずれかに記載の標識セット。
【請求項7】
磁性物質又は磁化可能物質の結合乃至内封部分がラクトフェリン、トランスフェリン、フェリチン、鉄結合タンパク質、フラタキシン、シデロホア、及びメタロチオネインから選択されるタンパク質又はタンパク質の金属結合ドメインを含む請求項1から6のいずれかに記載の標識セット。
【請求項8】
標識が1×10nm以下の体積を有する物質を多数結合乃至内封する請求項1から7のいずれかに記載の標識セット。
【請求項9】
前記磁性物質又は前記磁化可能物質の結合乃至内封部分が1×10nm以下の体積を有する物質を多数結合乃至内封する請求項8に記載の標識セット。
【請求項10】
前記磁性物質又は前記磁化可能物質の結合乃至内封部分が100nm以下の体積を有する物質を多数結合乃至内封する請求項9に記載の標識セット。
【請求項11】
前記磁性物質又は前記磁化可能物質の結合乃至内封部分が遷移金属原子、ランタニド金属原子、遷移金属イオン、ランタニド金属イオン、並びに遷移金属イオン及びランタニド金属イオンを含む化合物の少なくともいずれかに結合することができる請求項1から10のいずれかに記載の標識セット。
【請求項12】
遷移金属イオン及びランタニド金属イオンの少なくともいずれかがFe、Co、Ni、Mn、Cr、Cu、Zn、Cd、Y、Gd、Dy、又はEuのうちのいずれか1種以上を含む請求項11に記載の標識セット。
【請求項13】
1種以上の金属イオンがFe2+、Fe3+、Co2+、Co3+、Mn2+、Mn3+、Mn4+、Ni2+、Zn2+、及びCd2+のうちのいずれか1種以上を含む請求項12に記載の標識セット。
【請求項14】
各標識が前記磁性物質又は前記磁化可能物質の結合乃至内封部分と、認識部分とをそれぞれ複数個ずつ含む請求項1から13のいずれかに記載の標識セット。
【請求項15】
認識部分が天然生体分子、合成生体分子、感染病原体、感染病原体の構成要素、細胞、細胞の構成要素、及び小分子から選択されるアナライトに結合することができる請求項1から14のいずれかに記載の標識セット。
【請求項16】
アナライトがウイルス、ウイルス粒子、ウイルス構成要素、タンパク質、ポリペプチド、糖タンパク質、DNA又はRNAなどの核酸、オリゴヌクレオチド、代謝産物、複合糖質などの炭水化物、脂質、脂肪、又は医薬品若しくは薬剤などの内因性小分子若しくは外因性小分子を含む請求項15に記載の標識セット。
【請求項17】
認識部分が抗体、抗体断片、受容体、受容体断片、タンパク質、ポリペプチド、核酸、及びアプタマーから選択される請求項15及び16のいずれかに記載の標識セット。
【請求項18】
認識部分が抗体の可変ポリペプチド鎖(Fv)、T細胞受容体、T細胞受容体断片、アビジン、ストレプトアビジン、及びヘパリンから選択される請求項17に記載の標識セット。
【請求項19】
認識部分が抗体の単鎖可変部(scFv)から選択される請求項18に記載の標識セット。
【請求項20】
請求項1から19のいずれかに記載の標識セットに、複数のアナライトが結合されたことを特徴とする標識セット。
【請求項21】
アナライトが天然生体分子、合成生体分子、感染病原体、感染病原体の構成要素、細胞、細胞の構成要素、及び小分子から選択されるアナライトである請求項20に記載の標識セット。
【請求項22】
アナライトがウイルス、ウイルス粒子、ウイルス構成要素、タンパク質、ポリペプチド、糖タンパク質、DNA又はRNAなどの核酸、オリゴヌクレオチド、代謝産物、複合糖質などの炭水化物、脂質、脂肪、又は医薬品若しくは薬剤などの内因性小分子若しくは外因性小分子を含む請求項21に記載の標識セット。
【請求項23】
(a)サンプルを請求項1から18のいずれかに記載の標識セットと接触させる工程と、
(b)前記標識に磁場を印加して複数の標識に影響を与える工程と、
(c)任意的に、複数の標識及びアナライトの少なくともいずれかの処理及び分析の少なくともいずれかを行って、前記標識に付着し得る複数のアナライトに関する情報を得る工程と、
を含むことを特徴とするサンプルを処理する方法。
【請求項24】
磁場を用いて、標識及び前記標識に付着し得るアナライトの少なくともいずれかに対して以下の少なくともいずれかを行う方法:
互いに分離、精製、及び単離の少なくともいずれかを行う、並びに
サンプル中の1以上の更なる物質から分離、精製、及び単離の少なくともいずれかを行う。
【請求項25】
標識及びアナライトの少なくともいずれかの分析が標識及びアナライトの少なくともいずれかの存在、欠如、同一性、及び量の少なくともいずれかを検出することを含む請求項23から24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
方法が流体デバイスを用いて実施される請求項23から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
流体デバイスがマイクロ流体デバイス又はナノ流体デバイスである請求項26に記載の方法。

【図17a】
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【図17b】
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【図19】
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【図20】
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【図21a】
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【図21b】
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【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図9c】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【公表番号】特表2011−520101(P2011−520101A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506735(P2011−506735)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055319
【国際公開番号】WO2009/133202
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(507194084)アイティーアイ・スコットランド・リミテッド (30)
【Fターム(参考)】