説明

磁性流体およびそれらの使用

イオン性液体を含み、安定化剤を含まないか、または選択された安定化剤を含む磁性流体に関する。これらの磁性流体は、様々な産業分野において、例えば、インクとして、減衰流体として、密封流体として、画像形成用途において、沈降浮遊技術において、バイオメディカル用途において、化学反応を実施するための反応媒体として、医療において生体の血管を閉塞するための可逆的シールとして、あるいは、化学的または生物学的系内の選択された位置での化学物質の輸送手段および/または送達手段として使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン性液体を含む磁性流体(magnetic fluid)に関する。これらの磁性流体は様々な産業分野で使用され得る。
【背景技術】
【0002】
磁性流体は担体流体中の磁性粒子の懸濁液または分散体である。これらの磁性流体のレオロジー特性は、加減される磁場によって制御することができる。この観点から、磁性流体は、フェロ流体(ferrofluid)および磁気レオロジー流体(magnetorheological fluids;MRFs)に分類できる。フェロ流体は、担体流体中の、単一ドメインフェロ磁性またはフェリ磁性ナノ粒子の安定なコロイド状分散体である。分散体の安定化は、長鎖分子の界面活性剤によってもたらされる立体反発力に基づく。それらの単一磁気ドメインの結果として、フェロ流体は、磁場の影響下に、緩やかないレオロジー的変化を示すだけである。
【0003】
他方、磁気レオロジー流体(MRFs)は、担体流体中の、小さい、例えば、ミクロンまたはサブミクロンサイズの磁性粒子の分散体である。磁気レオロジー流体(MRFs)の主な特徴は磁場によるそれらのレオロジー挙動の操作である。この性質のために、磁気レオロジー流体(MRFs)は、液体から準固体状態まで瞬時に、ほぼ可逆的に変化することができる。
【0004】
磁気レオロジー流体(MRFs)には、多くの用途が提案されている。それらは、例えば、車用のセミアクティブ緩衝器(semi−active shock absorbers)、建築物および橋梁ための地震被害制御用ダンパー、およびロボットの関節制御用バルブとして提案されている(I.Bica、J.Magn.Magn.Mater.2002、241、196(非特許文献1);および、M.R.Jollyら、Proc.SPIE−The International Society for Optical Engineering 1998、262(非特許文献2)を比較されたい)。
【0005】
さらに、磁気レオロジー流体(MRFs)に関連する医療分野における研究には、薬物送達および癌の治療方法が含まれる(U.O.Hafeliら、J.Magn.Magn.Mater.1999、194、76(非特許文献3);J.Liuら、J.Magn.Magn.Mater.2001、225、209(非特許文献4);および、A. Mereteiの欧州特許出願公開第EP 1676534号公報(特許文献1)を比較されたい)。
【0006】
磁気レオロジー流体(MRFs)についての現在の基礎的研究は、主に、分散体の沈殿問題に焦点を合わせている(沈降および再分散現象)。これらの問題を解決するために、いくつかの方策が提案されており、例えば、炭素繊維またはシリカナノ粒子のようなチキソトロピック剤の添加;オレイン酸またはステアリン酸のような界面活性剤の添加;磁性ナノ粒子の添加、連続層としての粘塑性(viscoplastic)媒体、担体液体としての油中水(water−in−oil)エマルジョン、およびコア−シェル構造化ポリマー磁性粒子の使用が提案されている。
【0007】
J.D.Carlsonの米国特許第6,132,633号明細書(特許文献2)は、水および磁気応答性粒子に加えて、沈殿防止添加剤としてベントナイトまたはヘクトライトを含む水性磁気レオロジー材料を開示する。
【0008】
R.Johnらの米国特許第6,875,368号明細書(特許文献3)は、担体流体としてのひまし油、選択された粒子安定化剤によりコーティングされた磁気感応性粒子を含む磁気レオロジー流体組成物を開示する。
【0009】
技術的観点から、磁性流体を考案する時に考慮されるべきいくつかの重要な側面がある。普通の磁性流体が長時間に渡って高応力および高剪断速度を受ける場合、使用中の増粘化が観察され得る。これは、元々は低粘度の磁性流体が、時間の経過につれて、だんだんとその粘度の連続的な増加を示し、最終的に、それは、靴磨きクリームの粘稠度(consistency)を有する扱い難いペーストになることを意味する。このように、10から10sec−1の高剪断状況で動作する磁性流体が提供されれば望ましいであろう。磁性流体の品質を評価する時に考慮されるべき別の重要な側面は、標準的実験室条件下でのレオロジー挙動だけでなく、それらが曝されることになる条件である。磁性流体の耐久性および寿命は、降伏強度または沈殿問題よりも、商業的成功にとってより重大な障壁であることが見出されている。事実、地震用ダンパーのような非常に特殊な場合以外は、沈降に対する完全な安定性は必要ではない。ほとんどの用途で、穏やかに沈殿する磁性流体、すなわち、流体の最上部に透明層が生成し得るが、沈降物は柔らかいままであり、容易に再分散される磁性流体があれば十分である(例えば、磁性流体のダンパーおよび回転ブレーキは効率のよい混合装置であり、磁性流体が沈殿して固い固体にならない限り、この装置の正常な運動は、どのような沈降物も再分散して均質な状態に戻すのに十分である)。さらに、いくつかの用途では、沈降に対して磁性流体を完全に安定にしようとする試みは、実際には、特定の装置におけるそれらの性能を損なうことがある。
【0010】
これまで、市販の磁性流体および研究目的の磁性流体のほとんどは、限られた担体中で調製されてきた。例えば、これらは、鉱油、炭化水素油、シリコーンオイルを含む合成油、水、またはグリコールである。これらの担体は、重力による沈殿を減らし、また磁性粒子の懸濁を促すために、市販の潤滑剤に見出されるものに似た、複雑で高価な様々な独自に開発された添加剤と組み合わせて使用される。一方では、これらの担体は、研究および技術のいくつかの特定の分野に、磁性流体の潜在的用途を限定し得るし、他方、それらの安定性を増すための費用のかかる添加剤および調製方法の使用は、それらの製造コストを増大させる。
【0011】
イオン性液体(ionic liquids;ILs)は、ここ数年に、材料研究における新規化合物として出現し、すでにいくつかの産業プロセスにおいて使用されている。イオン性液体(ILs)の主な特徴の1つは、それらの性質、例えば粘度、溶解性、電気伝導度、融点および生分解性が、含まれる様々な陰イオンおよび/または陽イオンを変えることによって調整できるという事実であり、これは、磁性流体の従来の担体では為され得ない。さらに、イオン性液体(ILs)の安定性および「グリーン」特性に関連する他のいくつかの固有の性質、例えば、無視できる蒸気圧、無視できる燃焼性、および広い温度範囲における液体状態は、イオン性液体(ILs)を、磁性流体の担体として研究されるべき非常に魅力的な材料にしている。今日、広い範囲の物理的および化学的性質を網羅する、300を超えるイオン性液体(ILs)が市販されている。
【0012】
担体としてイオン性液体(ILs)を含み、また安定化添加剤を全く含まないか、または本明細書において後に定義される選択された安定化添加剤を含む磁性流体は、先行技術には開示されていない。
【0013】
特開2006−193686号公報(特許文献4)は、磁性粘性流体を開示する。これらの流体は、安定化添加剤として無機ウィスカーを用いることによって、液体担体中に長期に渡り安定に分散している磁性粒子を含む。このように、特開2006−193686号公報は、塩基性硫酸マグネシウムウィスカーおよび/またはケイ酸カルシウムウィスカーにより分散媒体中で安定化された磁性粒子を含むことを特徴とする磁気粘性流体の発明を開示する。特に、特開2006−193686号公報は、塩基性硫酸マグネシウムウィスカーおよび/またはケイ酸カルシウムウィスカーによる磁性粒子の安定化のために可能な分散媒体として、エチルメチルイミダゾリウム塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム塩および1−メチル−ピラゾリウム塩に代表される特定のイオン性液体の使用を開示する。
【0014】
米国特許出願公開第US2004/0003680A1号公報(特許文献5)は、液体中に金属含有サブミクロン粒子を生成させるための分解方法、特に、複雑な化学気相堆積(CVD)法が開示される。金属含有粒子は、例えば磁気レオロジー流体(MRFs)の調製のために、液体浴中に直接生成できる。好ましい液体は有機溶媒である。適切な液体の別の例として、溶融塩が挙げられている。イオン性液体(ILs)の使用は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】欧州特許出願公開第EP 1676534 A1号公報
【特許文献2】米国特許第6,132,633号明細書
【特許文献3】米国特許第6,875,368号明細書
【特許文献4】特開2006−193686号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第US2004/0003680A1号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】I.Bica、J.Magn.Magn.Mater.、2002、241、196
【非特許文献2】M.R.Jollyら、Proc.SPIE−The International Society for Optical Engineering、 1998、262
【非特許文献3】U.O.Hafeliら、J.Magn.Magn.Mater.、1999、194、76
【非特許文献4】J.Liuら、J.Magn.Magn.Mater.、2001、225、209
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、簡単な装置を用いる経済的プロセスで製造でき、また分散体を安定化するための添加剤を用いなくても、担体液体中での磁性粒子の沈降に対して結果的に安定な分散体となる磁性流体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
驚くべきことに、磁性流体の担体としてイオン性液体(ILs)またはそれらの混合物を用いる時、沈降に対して非常に安定な分散体が得られ、安定化剤の添加が避けられ得ることが見出された。
【0019】
本発明の磁性分散体は、安定化剤なしで沈降に対して良好な安定性を示すが、これらの分散体は、沈降問題の改善として、また沈降に対して完全に安定な分散体の開発を目指して、いくつかの安定化剤を含み得る。
【0020】
得られる磁性流体は、どのような安定化剤も存在しない場合でさえ、小さい沈降速度を示し、沈降速度は、主に、担体として用いられるイオン性液体(ILs)のタイプに依存する。
【0021】
さらに、得られる磁性流体は、非常に低い蒸気圧を示し、無視できる燃焼性、広い温度範囲に渡る液体状態および安定性(化学的および物理的)、電気伝導性を示し、他の物質とのそれらの混和性または非混和性は調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のいくつかの磁気レオロジー流体(MRFs)の沈降測定の結果を示す図である。
【図2】調製された磁気レオロジー流体(MRFs)の安定性についての、分散した磁性粒子の濃度、さらにはそれらの大きさの影響を示す図である。
【図3】本発明の1つの磁気レオロジー流体(MRF)で得た磁気測定の代表的な磁気ヒシテリシスループを示す図である。
【図4】本発明で用いたイオン性液体(IL)、およびイオン性液体(IL)と試料ホルダーを合わせたものの磁気モーメントを示す図である。
【図5】分散した磁性材料の含量が非常に小さい流体では、試料ホルダーと担体によって示される弱い磁気的性質さえ、試料の磁気的性質の測定にかなりの影響を及ぼし得ることを示す図である。
【図6】本発明の磁気レオロジー流体(MRFs)の粘度およびせん断応力を例示する図である。
【図7】調製された磁気レオロジー流体(MRFs)のレオロジー特性が磁場によって変わり得ることを明らかにする図である。
【図8】磁場のない場合、または磁場の存在する場合のレオロジー特性についての、調べられた磁気レオロジー流体(MRFs)中に分散した磁性粒子の含量の影響を示す図である。
【図9】分析された磁気レオロジー流体(MRFs)のレオロジー特性の変化が可逆的過程であることを示す図である。
【図10】本発明の磁気レオロジー流体(MRFs)の光学顕微鏡画像を示す図である。
【図11】本発明の磁気レオロジー流体(MRFs)の調製に用いられたイオン性液体(ILs)の熱重量測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、イオン性液体またはイオン性液体混合物中に磁性粒子を含む磁性流体に関し、この磁性流体は、安定化剤を含まないか、あるいは、炭素繊維、天然もしくは合成の水溶性チキソトロピック剤、樹脂、デンプン、多糖、セルロース誘導体、四ホウ酸ナトリウム十水和物、海藻抽出物、合成樹脂、界面活性剤、粘塑性媒体、油中水エマルジョンまたはこれらの2つ以上の組合せの群から選択される安定化剤を含む。
【0024】
本発明の磁性流体はフェロ流体(ferrofluids)および磁気レオロジー流体(MRFs)を包含するが、後者が好ましい。
【0025】
本明細書において用いられる場合、「イオン性液体」(ionic liquid;IL)という用語は、200℃未満の温度で液体である組成物であり、また電気的に中性の物質の組成物を形成するように本質的に陽イオンおよび陰イオンからなる組成物を意味する。通常、イオン性液体(IL)の少なくとも85重量%、好ましくは少なくとも95重量%は、陽イオンおよび陰イオンからなり、残りは電気的に中性の化学種からなり得る。本発明の流体に通常使用されるイオン性液体(IL)は、−100℃と200℃の間の融解温度を有する物質の組成物である。イオン性液体(ILs)は、少なくとも1つの有機成分を構成要素とする塩またはそれらの混合物である。イオン性液体(ILs)は、水と混和することも混和しないこともあり、またそれらの構造に応じて、水、空気または他の化学種と反応することも反応しないこともある。適切なイオン性液体(IL)の選択は、調製される磁気レオロジー流体(MRF)の所望の物理的および化学的性質に依存する。陽イオンおよび陰イオンの変化により、非常に広い範囲のイオン性液体(ILs)が生成できるので、特定の用途に対してイオン性液体(ILs)の物理的および化学的性質を細かく調整することが可能である。例えば親水性のような特性の制御は、陰イオンを変えることによって達成でき、それらの性質の細かい制御は、陽イオンに適切なアルキル基を選択することによって達成できる。イオン性液体(ILs)の構成成分は、大きなクーロン力によって束縛されており、このため、液体表面上で無視できる蒸気圧を示す。イオン性液体(ILs)はまた特定の条件下に無視できる燃焼性を示す(例えば、M.Deetlefsら、Chim.Oggi 2006、24(2)、16を参照されたい)。
【0026】
本発明の流体に用いられるのに適する多様なイオン性液体(ILs)は記載されている。本発明の流体に適するイオン性液体(ILs)の例は、V.R.Kochらの米国特許第5,827,602号明細書;F.G.Sherifらの米国特許第5,731,101号明細書;H.Olivierらの米国特許第5,892,124号明細書;および、T.Welton、Chem.Rev.1999、99、2071に記載されている。
【0027】
本明細書において用いられる場合、イオン性液体(IL)という用語はまた、流体の担体系の全体としてのコストを下げるために共溶媒として使用され得る高価でない種類のイオン性液体(ILs)も含み得る。このため、イオン性液体(ILs)の混合物は、想定されており、本発明の範囲内にある。例えば、N,N’−ジアルキルイミダゾリウムビストリフィルイミド(N,N’−dialkylimidazolium bistrifylimide)塩は高価であるが、それらは、より安価なイオン性液体(ILs)を得るために、テトラアルキルアンモニウムをベースとする塩と混合できる。この混合物は、混合がイオン性液体(IL)混合物の物理的および化学的性質にどのように影響を及ぼすかを確証するために特徴付けられる。
【0028】
好ましい磁性流体は、少なくとも95重量%のイオンからなり、また−100℃と+200℃の間の温度で液体であるイオン性液体(IL)を含む。
【0029】
イオン性液体(ILs)の陽イオンは通常、大きく、嵩高く、非対称であり、イオン性液体(IL)の融点についての直接的な影響を示す。陽イオンの一般的な例には、有機アンモニウム、有機ホスホニウムおよび有機スルホニウムのイオン、例えば、N−アルキルピリジニウム、N−アルキル−ビニルピリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、N,N’−ジアルキルイミダゾリウム、N−アルキル(アラルキル)−N’−アルキルイミダゾリウム、N−アルキル−N’−ビニルイミダゾリウム、ピロリジニウム、および、Solvent−Innovation GmbHによるAMMOENG(商標)陽イオンシリーズが含まれる。少なくとも1つの第4級窒素またはリンあるいは少なくとも1つの第3級硫黄を含む他の複素環もまた適切である。第4級窒素を含む複素環の例には、ピリダジニウム、ピリミジニウム、オキサゾリウムおよびトリアゾリウムイオンが含まれる。
【0030】
特に好ましい陽イオンは、これらが低コストで、調製が容易で、すぐに入手でき、安定であるという理由から、N−アルキルピリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、およびN,N’−ジアルキルイミダゾリウムである。
【0031】
これらの陽イオンのアルキル鎖の炭素数および分岐を変えることによって、イオン性液体(IL)の融解温度、したがってまた対応する磁気レオロジー流体(MRF)の融解温度および他の物理的性質、例えば粘度などを、望ましい値に容易に調節することができる(例えば、P.Bonhoteら、Inorg.Chem.1996、35、1168;S.V.Dzyubaら、Chemphyschem、2002、3、161;G.Lawら、Langmuir、2001、17、6138〜6141を参照されたい)。
【0032】
好ましくは、陽イオンは、2から20個の炭素原子、より好ましくは4から10個の炭素原子のアルキル鎖を有する。
【0033】
陽イオンはまた、文献に記載のもののような二重荷電化学種であってもよい(例えば、M.J.Muldoonら、J.Polym.Sci.Pol.Chem.2004、42、3865を参照されたい)。陽イオンはまた、他の化学種と反応し得る、すなわち、それらは、イオン性液体(ILs)をベースとして調製される磁気レオロジー流体(MRFs)を変性するように、文献に記載のように、互いに反応してポリマーを生成し得る(例えば、R.Marcillaら、Macromol Chem.Phys.2005、206、299;M.J.Muldoonら、J.Polym.Sci.Polym.Chem.2004、42、3865を参照されたい)。
【0034】
好ましくは、前記イオン性液体(IL)を形成する少なくとも1種の陽イオンは、少なくとも1つの有機基を有するアンモニウム陽イオン、または少なくとも1つの有機基を有するホスホニウム陽イオン、または少なくとも1つの有機基を有するスルホニウム陽イオン、または複素環基を含む第4級窒素原子(例えば、ピリジニウム塩もしくはイミダゾリウム塩)である。
【0035】
これらの液体に存在する陰イオンはいずれの陰イオンから選択されてもよい。
【0036】
イオン性液体(ILs)の陰イオンは、有機陽イオンに対して配位しておらず、陽イオンとして活性な化学種に対して非干渉である無機錯陰イオンであり得る。多くの適切な陰イオンは、4未満のpKを有するプロトン酸に由来する共役塩基であり、例えば、テトラフルオロホウ酸イオン、すなわち、フルオロホウ酸(これは、pK<5を有する)の共役塩基である。
【0037】
他の適切な陰イオンは、ルイス酸の付加物、トリハライドおよびハライド、例えば、テトラクロロアルミン酸イオン、または単一ハライド、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンである。適切な陰イオンには、また、例えば、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ジシアンジアミド、メタンスルホン酸イオン、トシラート、テトラクロロホウ酸イオン、テトラアリールホウ酸イオン、ポリフッ化テトラアリールホウ酸イオン、テトラハロ−アルミン酸イオン、アルキルトリハロアルミン酸イオン、トリフラート(CFSO)、ノナフラート(CF(CFSO)、ビストリフィルイミド(bistrifylimides;ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)、(ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド)、(ビス(トリフルオロエチルスルホニル)メチド)、クロロ酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、アルキル硫酸イオン、N−(N−メトキシエトキシ)アルキル硫酸イオン、ジアルキルリン酸イオン、[MeCO、硝酸イオン、亜硝酸イオン、トリクロロ亜鉛酸イオン、ジクロロ銅酸イオン、フルオロスルホン酸イオン、トリアリールホスフィン、スルホン酸イオン、ならびに、多面体ボラン、カルボラン、およびメタロカルボランが含まれる。
【0038】
陰イオンは、物理的および化学的性質、例えば、空気および水の存在下における化学的安定性ならびに他の物質との溶解性を含めて、イオン性液体(IL)の全体としての特性に寄与する(例えば、A.Bagnoら、Org.Biomol.Chem.2005、3、1624;P.Bonhoteら、Inorg.Chem.1996、35、1168;R.Marcillaら、Macromol.Chem.Phys.2005、206、299を参照されたい)。例えば、通常、クロリド陰イオン(塩化物陰イオン)を含むイオン性液体(ILs)は親水性であり、ヘキサフルオロリン酸陰イオンを含むイオン性液体(ILs)は疎水性である。ビストリフィルイミド陰イオン(bistrifylimide anion)の利点は、これらにより、水に似た粘度および密度を有するイオン性液体(ILs)が得られ、イオン性液体(ILs)を扱い易くすることである。
【0039】
好ましい磁性流体は、イオン性液体(IL)として、イミダゾリニウム塩および/またはホスホニウム塩を、非常に好ましくは1−アルキル−3−アルキルイミダゾリニウム塩および/またはテトラアルキルホスホニウム塩および/またはテトラアルキルアンモニウム塩を含む。
【0040】
本発明の流体におけるイオン性液体(IL)またはイオン性液体(ILs)混合物の量は、流体の全組成物に対して、40と99重量%の間、好ましくは60と95重量%の間の範囲にある。
【0041】
本明細書において用いられる場合、「磁性粒子」という用語は、フェロ磁性(ferromagnetic)、フェリ磁性(ferrimagnetic)、反フェロ磁性、傾いたスピン(canted−spin)のフェロ磁性、常磁性および超常磁性を示す粒子状の物質組成物を意味する。
【0042】
フェロ磁性材料は磁気ドメイン(magnetic domains)を含み、それらの各々において個々の原子の磁気モーメントは同じ方向に向いている。ドメインが無秩序に配向している時、フェロ磁性材料の全磁気モーメントはゼロである。モーメントが、優先的な配向を有する時、全モーメントはゼロでなく、その物質は「磁化されている(磁気を帯びている;magnetized)」。磁気ドメインは、有限の大きさの磁壁(domains walls)または結晶境界によって隔てられている。このような磁壁は界面自由エネルギーコストに相当し、これは、内部磁気エネルギーを低下させるため、有益である(バルク)ドメイン形成と競合する。大きな材料体積では、このバルクの項が支配的であり、マルチ−ドメイン構造が形成される。しかしながら、臨界粒子体積未満では、磁壁の生成はもはや起こらない。この場合、粒子はいわゆるモノ−ドメイン粒子である。モーメントの方向が熱的に振動している時、これらのモノ−ドメイン粒子は常磁性イオンの磁気的類似物である。しかしながら、それらの磁気モーメントは「普通の」常磁性材料よりずっと大きい。このために、この現象は超常磁性と呼ばれる。外部磁場の下で、フェロ磁性材料の全磁気モーメントは増加し得る。これは2つの効果によって生じる。第1には、磁場と同じ方向の磁気モーメントを有するドメインの、近隣のものを犠牲にしての成長である。第2の効果は、他のドメインにおける磁気双極子が磁場の方向に回転することである。ゼロの初期磁気モーメントを有するフェロ磁性材料の、その飽和磁気モーメント(M)までの磁化挙動が下記の図3に与えられている。ドメインの遅い再配列のせいで、磁場の減少の際にヒステリシスが認められる(図3を比較されたい)。磁場ゼロで、残留磁化(M)が残る(図3を比較されたい)。保磁場(coercive field;H)は、全磁気モーメントが再びゼロになるところの磁場である(図3を比較されたい)。フェロ磁性秩序は熱運動によって撹乱される傾向がある。キュリー温度(T)は、それを超えるとこの撹乱が完了するためにドメインがそれらの磁化を失う温度である。フェロ磁性は、鉄、ニッケル、コバルトおよびこれらの多くの合金によって示される。いくつかの希土類元素、例えば、ガドリニウムおよび特定の金属間化合物(金−バナジウムのような)もまたフェロ磁性物質である。
【0043】
反フェロ磁性材料では、1組の原子のスピンが別の組の原子のスピンに対して逆平行に整列している。これらの磁性モーメントが等しい時に、正味の磁気モーメントはゼロである。反フェロ磁性秩序は、ネール温度で消失する。反フェロ磁性は、MnO、FeO、NiO、FeClおよび他の多くの化合物の性質である(例えば、R.E.Rosenweig、「Ferrohydrodynamics」(Cambridge University Press、Cambridge、1985)を参照されたい)。
【0044】
傾いたスピンのフェロ磁性は、フェロ磁性の弱いまたは寄生的な形態である。反フェロ磁性秩序からの小さなずれ(モーメントの傾き)のせいで、小さな磁気モーメントが生じる。このタンプの磁性を示すよく知られた材料はヘマタイト(α−Fe)である。
【0045】
フェリ磁性は、異なる磁気モーメントを有するイオンによって占められる、2つ以上の異なるタイプの格子点(例えば、スピネルにおける場合の8面体および4面体)の存在によって引き起こされる。これらの磁気モーメントは逆平行に整列しており、磁気モーメントの違いのために、正味の磁気モーメントが生じる。このように、フェリ磁性体は、外部に対してはフェロ磁性体とほとんど同じであり、フェロ磁性の挙動を示すと言うことができる。しかし、近隣のモーメントが逆平行であるので、微視的には、その秩序は、反フェロ磁性によりよく似ている。フェリ磁性材料の例は、一般式MO・Feを有するフェライトであり、ここで、MはFe、Ni、Mn、CuまたはMgを表す(例えば、R.E.Rosenweig、「Ferrohydrodynamics」(Cambridge University Press、Cambridge、1985)を参照されたい)。通常、強磁性体(フェロ磁性体)という用語は、実際にはフェリ磁性である材料もまた含む。よく知られている例は磁鉄鉱(Fe)である。
【0046】
不対電子を含む原子、例えば液体酸素または希土類塩溶液およびフェロ磁性体は、キュリー温度より上で、常磁性挙動を示す。磁場ゼロでは、双極子は無秩序に配向している。しかしながら、磁場の下では、双極子のトルクが、双極子を磁場とそろえて整列させる傾向がある。この整列は通常、熱運動による撹乱のために完全ではない。磁化は、印加磁場に一次で依存し、磁場を取り去るとゼロに低下する。
【0047】
本文書の全体を通して用いられる、本発明の磁気レオロジー流体(MRFs)の安定性に関連する用語は、安定性に別の定義が与えられていなければ、それぞれのイオン性液体(ILs)に分散された磁性粒子の重力沈降に対する磁気レオロジー流体(MRFs)の安定性を指す。
【0048】
本発明の流体に用いられる磁性粒子は、結果的に特に安定化された流体となる粒径を有することができる。例えば、安定な磁気レオロジー流体(MRFs)の調製に、極端に双峰性の鉄−磁性粒子の使用が用いられている(M.T.Lopez−Lopezら、J.Mater.Res.2005、20、874)。安定な磁気レオロジー流体(MRFs)のための磁性ナノ粒子の使用の他の例は、文献に記載されている(例えば、B.D.Chinら、Rheol.Acta、2001、40、211を参照されたい)。
【0049】
本発明の流体に用いられる磁性粒子は、ポリマーと結合して、特に安定化された流体をもたらすことができる。例えば、様々なポリマー(例えば、ポリ(メチルメタクリレート)またはポリスチレン)によるコア−シェル構造の磁性粒子が、分散重合法によって製造され得る。これらのコア−シェル構造の磁性粒子は、鉱油に分散される時に、従来の磁気レオロジー流体(MRFs)の分散安定性を向上させるために、すでに用いられている(J.S.Choiら、J.Magn.Magn.Mater.2006、304、e374)。
【0050】
磁性粒子は様々な形状、例えば、球、円板、小板、繊維のような定形、または不定形な形状を有し得る。様々な磁性粒子の混合物が使用されてもよい。
【0051】
好ましい磁性粒子は、100μm未満、非常に好ましくは10nmと50μmの間、最も好ましくは100nmと20μmの間の範囲の平均直径を有する。粒子の平均直径は、文献に報告されている標準的な画像解析法によって得ることができる(例えば、C.Guerrero−Sanchezら、Chem.Eur.J.2006 DOI:10.1002/chem.200600657を参照されたい)。
【0052】
好ましい磁性粒子はフェロ磁性体またはフェリ磁性体であり、フェロ磁性および/またはフェリ磁性材料のいずれかから成り得る。
【0053】
磁性粒子の好ましい例には、鉄、カルボニル鉄、鉄合金、酸化鉄、窒化鉄、炭化鉄、低炭素鋼、ニッケル、コバルト、希土類、例えば、ガドリニウム、あるいはこれらの混合物またはこれらの合金が含まれる。
【0054】
非常に好ましい磁性粒子は、鉄、酸化鉄、コバルト、ニッケル、ガドリニウムおよびこれらのフェロ磁性またはフェリ磁性合金から成る。
【0055】
本発明の磁性流体中の磁性粒子の量は広い範囲に渡って変わり得る。通常、これらの磁性粒子は、磁性流体の全量に対して、1と60重量%の間の量で流体中に存在する。磁性流体中の磁性粒子の好ましい量は5と40重量%の間である。
【0056】
本発明の磁性流体は、当技術分野において知られている混合装置において成分を単に混合することによって調製できる。
【0057】
当技術分野において知られている装置には、機械的撹拌、回転ドラムまたは超音波技術が含まれ得る。好ましくは、非磁性材料、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンまたは他のポリマーからなる装置が、混合過程の間、磁性粒子と混合装置との相互作用を避けるために使用され得る。
【0058】
より好ましい方法は、100rpmを超える撹拌速度と、少なくとも1秒または特定の撹拌速度で均質な分散体を得るのに必要とされる時間の撹拌時間とによる、機械的撹拌によって提供される。
【0059】
混合過程の温度は広い範囲に渡って変わり得る。混合温度は、過冷却状態(使用されるイオン性液体(IL)またはイオン性液体(ILs)の混合物の凝固点より数度下)から、使用されるイオン性液体(IL)またはイオン性液体(ILs)の混合物の分解温度まで変わり得る。磁性粒子が混合される場合、その温度は、用いられる磁性粒子のキュリー温度またはネール温度未満でなければならない。ほとんどのイオン性液体は無視できる蒸気圧を示すという事実のため、混合過程は、広い圧力範囲の下で(大気圧を含めて、高真空状態から高圧まで)実施され得る。
【0060】
安定化剤(=添加剤)の使用が好ましいわけではないが、本発明の磁性流体はそのような添加剤を含んでいてもよい。これらの例としては、チキソトロピック剤、界面活性剤、粘塑性媒体(viscoplastic media)、油中水(water−in−oil)エマルジョンまたはこれらの2つ以上の組合せから選択される。
【0061】
本発明の流体における添加剤の量は、イオン性液体(IL)またはイオン性液体(ILs)の混合物の量に対して、0.1と40重量%の間、好ましくは1と15重量%の間の範囲にある。
【0062】
チキソトロピック剤の例は、炭素繊維である。これらは、従来の磁気レオロジー流体(MRF)に、沈殿に対するその安定性を改善するために添加されている(S.T.Limら、J.Magn.Magn.Mater.2004、282、170)。この添加剤は、塗料業界において、重い顔料の増粘剤、垂れ防止剤、チキソトロピック剤および沈殿防止剤として広く用いられている。
【0063】
チキソトロピック剤のさらなる例は、天然または合成の水溶性チキソトロピック剤、例えば、ゴム(例えば、アラビアゴム、ガティゴム、カラヤゴム、トラガカントガム、グアーガム、イナゴマメガム、マルメロ種子のゴム、オオバコ種子のゴム、および亜麻油ゴム)、樹脂、デンプン、多糖、セルロース誘導体、テトラホウ酸ナトリウム十水和物またはこれらのいずれかの混合物、海藻抽出物(例えば、寒天、アルギン、カラギーナン、フコイダン(fucoidan)、ファーセレラン(furcellaran)、ラミナリン、ヒプネアン(hypnean)、ポルフィラン(porphyran)、フノラン(funoran)、ズルサン(dulsan)、イリドフィカン(iridophycan)またはヒドロコロイド(hydrocolloids))、ならびに合成樹脂(例えば、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ピロリドン系ポリマー、およびアクリル樹脂)であり、これらは、磁気レオロジー流体(MRFs)の安定化に使われている(J.D.Carlsonの米国特許第6,475,404号明細書)。
【0064】
界面活性剤の例は、長鎖アルカン酸またはアルケン酸、例えば、ステアリン酸および他のポリマー界面活性剤である。例えば、脂肪酸によりグラフト化した磁赤鉄鉱(マグヘマイト)は、磁性分散体の調製に用いられている(G.A.van Ewijkら、J.Magn.Magn.Mater.1999、201、31)。磁性粒子を分散させるためにポリエーテルを用いることもまた文献に記載されている(K.Hataらの米国特許第6,780,343号明細書)。
【0065】
磁性粒子と直接反応するヒドロキシルまたはアルコキシ基末端シロキサンの使用もまた、磁性分散体を安定化するために研究されている(P.P.Phuleの米国特許第6,712,990号明細書)。
【0066】
様々な液体担体中に、様々なポリマー発泡体(ポリウレタン)を含む、磁気に応答する発泡体が文献に記載されている(E.W.Purizhanskyの米国特許第6,673,258号明細書)。
【0067】
磁気レオロジー流体(MRFs)のための界面活性剤の他の例は、文献に記載されている(例えば、A.Dangら、Ind.Eng.Chem.Res.2000、39、2269;P.P.Phuleら、J.Mater.Res.1999、14、3037;O.O.Parkらの米国特許第6,692,650号明細書;J.H.Parkら、J.Colloid Interface Sci.2001、240、349を参照されたい)。
【0068】
粘塑性媒体の例は、本発明の磁気レオロジー流体(MRFs)の連続相として−イオン性液体(ILs)またはイオン性液体(ILs)の混合物に加えて−使用できるグリースである。例えば、市販のグリース(例えば、Quaker State NLGI no.2)、ならびに主成分として鉱油およびステアリン酸を含むグリースの使用が、磁気レオロジー流体(MRFs)の調製のための粘塑性連続媒体として記載されている(P.J.Rankinら、Rheol.Acta、1999、38、471)。
【0069】
磁気レオロジー流体(MRFs)の担体液体としての油中水エマルジョンは、すでに文献に提案されている(J.H.Parkら、J.Colloid Interface Sci.2001、240、349;O.O.Parkらの米国特許第6,692,650号明細書)。これらの油中水エマルジョンは、本発明の磁気レオロジー流体(MRFs)の連続相として−イオン性液体(ILs)またはイオン性液体(ILs)の混合物に加えて−使用され得る。
【0070】
本発明の磁性流体は、様々な産業分野において使用できる。
【0071】
非限定的な例は、好ましくはインクジェット印刷用の、インクとしてのこれらの流体の使用;好ましくはラウドスピーカー(loud speakers)、グラフィックプロッター(grafic plotters)または計器ゲージ(instrument gauges)用の、減衰流体(damping fluid)としての使用;好ましくはガスレーザー、モーター、ブロアー(blowers)またはハードドライバー(hard drivers)用の、密封流体(sealing fluid)としての使用;好ましくはドメイン観察用の、または造影剤としての、画像形成用途における使用;好ましくは廃棄物からの資源の回収における、沈降浮遊(sink flotation)技術における使用;好ましくは薬剤ターゲッティング、細胞標識または磁性粒子に取り付けられた薬剤用の、バイオメディカル用途における使用;例えば、磁場により反応媒体の粘度を制御することによって関与する反応物質の拡散を制御するための、化学反応を実施する反応媒体としての使用;医療における生体の血管を閉塞するための可逆的シール(reversible seals)の形成における使用;あるいは、例えば、多相の、界面の、または生体の反応系内の、あるいは均質または不均質な反応系内の磁場制御による、化学的または生物学的系内の選択された位置での化学物質の輸送および/または送達のための、さらなる該化学物質(例えば、反応物質または触媒)を含む本発明の流体の使用;である。
【0072】
これらの使用もまた本発明の目的である。
【0073】
化学的な系における化学物質の輸送および/または送達の例は、シクロヘキサンの上相および水の下相を含む2相系からなる。次いで、指定量の水素化カルシウム(CaH、これは、水と反応して水素(H)を放出する)を含む本発明の流体の少量を反応系内に導入する。親水性のイオン性液体(IL)をベースとする磁気レオロジー流体(MRF)の場合、磁性分散体は上相をそのまま通過して(使用したイオン性液体(IL)がシクロヘキサンと混ざらないという事実のため)、下部相(水)に達し、そこで、磁気レオロジー流体(MRF)中のイオン性液体(IL)が水性相に溶け始めるので、この時点で、元の磁性分散体は壊れる。その結果、CaHは急速に放出され、水と反応してHを生成する。CaHの放出は、反応系のすぐ傍に磁場を近づけ動かすことによって加速できる。
【0074】
シクロヘキサンの上相および水の下相を含む化学反応系における、化学物質の輸送および/または送達の別の例では、疎水性のイオン性液体(IL)をベースとする磁気レオロジー流体(MRF)が使用された。前の例におけるものと同様に、この場合、磁性分散体はやはり上相をそのまま通過して(使用したイオン性液体(IL)がシクロヘキサンと混ざらなかったという事実のため)、下部相(水)に達し、この場合、この磁気レオロジー流体(MRF)は水に溶けなかったが、CaHはそれでもゆっくりと放出され、周囲の水と反応してHを生成した。この系では、反応系内におけるCaH放出位置は、選択された位置に磁場を近づけ動かすことによって制御できた。
【0075】
本発明の磁気レオロジー流体(MRFs)の反応媒体としての使用例は、本発明の該磁気レオロジー流体(MRFs)を反応媒体として用いる重合反応を実施することからなる。これは、反応媒体としてのイオン性液体(ILs)中で実施される重合反応について文献(C.Guerrero−Sanchezら、Chem.Commun.、2006、3797)に記載のものに類似の手法を用いて実施できる。本発明の磁気レオロジー流体(MRFs)の用途の目的では、化学反応は、反応媒体としてイオン性液体(ILs)をベースとする様々な磁気レオロジー流体(MRFs)を用いて実施することができ、その後、得られた生成物は反応媒体から分離でき、付随する磁気レオロジー流体(MRFs)は、さらなる反応サイクルを実施するために、適切な分離法を用いて回収できる。別の例において、本発明の磁気レオロジー流体(MRFs)は、ポリマーマトリックスと混合された付随するイオン性液体(IL)またはイオン性液体(ILs)の混合物中に分散された磁性粒子からなる、磁気レオロジー流体(MRFs)−ポリマー複合体を合成するための重合反応を実施するための反応媒体として使用することができる。得られるポリマー複合体は、磁性を示し、電気伝導体である。ポリマー複合体は、ポリマーマトリックス中のイオン性液体(ILs)の存在のおかげで、火に対して耐性を示し、ポリマー複合体は、イオン性液体(ILs)が無視できる燃焼性を有するという事実のため、難燃性を有する。該磁気レオロジー流体(MRFs)−ポリマー複合体の別の調製方法では、本発明に記載の磁気レオロジー流体(MRFs)は、別のステップにおいて合成されたポリマーまたはオリゴマーと、押出、反応押出、射出成形および溶液のような当技術分野において知られている方法を用いて、直接混合できる。
【0076】
さらに、本発明は、磁性流体の調製のための、イオン性液体(IL)またはイオン性液体(ILs)の混合物の使用に関する。
【実施例】
【0077】
以下の実施例では次の材料を用いた:
磁性粒子I:鉄(II、III)酸化物(磁鉄鉱)粉末(<5μm、98%、密度4.8〜5.1g/cm(25℃)、Aldrich)
磁性粒子II:磁鉄鉱ナノ粉末(球状、20〜30nm、>98%、密度0.84g/cm、Aldrich)
イオン性液体1(IL1):1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジエチルリン酸塩
イオン性液体2(IL2):1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩
イオン性液体3(IL3):1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド
イオン性液体4(IL4):1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩
イオン性液体5(IL5):1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩
イオン性液体6(IL6):AMMOENG(商標)100
イオン性液体7(IL7):1−エチル−3−メチルイミダゾリウムエチル硫酸塩
イオン性液体8(IL8):トリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロリド
【0078】
全てのイオン性液体(ILs)は合成グレードであり、それらを使用する前に、少なくとも1日、40℃で減圧(真空)下に乾燥した。表1には使用したイオン性液体(ILs)のいくつかの性質を要約する。
【0079】
【表1】

【0080】
磁気レオロジー流体(MRF)の調製方法
担体としてイオン性液体(ILs)を用いる磁気レオロジー流体(MRFs)の調製は、対応するイオン性液体(IL)と磁性粒子を混合することによって行った。調製された様々な磁気レオロジー流体(MRFs)の組成を表2に要約する。混合工程は、懸濁した磁性粒子との相互作用を避けるために、ポリエチレンの円柱容器中で、ポリエチレン撹拌パドルを用いて行った。混合工程は、室温(21℃)で15分間、2400rpmの撹拌速度を用いる機械的撹拌によって実施した。
【0081】
【表2】

【0082】
特性評価法
沈降測定は、文献に記載のものと同様の方法で、重力場の下で実施した。同じ体積量の調製した磁気レオロジー流体(MRFs)を、4mmの直径で53mmの長さのポリエチレン円柱管に注ぎ、蓋をした。振動を最低限にするために、この管を重厚な大理石のテーブルの上に置いた。実験用具一式は制御された温度(21℃)の室内に置いた。測定を始める前に、管が完全に垂直に立っているかどうかを確認した。分散体−イオン性液体(IL)の境界面(例えば、上澄み透明層の生成)は、直接目で観察した。
【0083】
磁化測定は、室温(21℃)で、交互磁場勾配磁力計(alternating gradient magnetometer(MacroMag 2900))を用いて行った。対応する磁気レオロジー流体(MRFs)を、装置の試料ホルダーに置き、測定の直前に秤量した。測定試料の体積は、試料の重さと対応する磁気レオロジー流体(MRFs)の密度から得た。様々な磁気レオロジー流体(MRFs)の密度は、21℃でピクノメーターにより測定した(得られた実験値を表2に示す)。
【0084】
調製した磁気レオロジー流体(MRFs)の磁気レオロジー測定は、25℃で、(様々な剪断速度で)一定のせん断下に、市販の磁気レオロジー装置MRD180−C(磁気レオロジーセルPP20/MR)と連結したPhysica MCR500レオメータ(Anton Paar)を用いて実施した。コイル電流および磁場の強さは、別の制御ユニットおよびレオメータソフトウェア(US 200、Physica Anton Paar)を用いて制御した。均質な磁場は、せん断流の方向に直交する方向に合わせた。20mmの直径を有する平行板測定装置(これは、測定装置のシャフト上での、動径方向成分の磁力の発生を防止するために、非磁性金属からなっていた)を用いた。
【0085】
いくつかの磁気レオロジー流体(MRFs)の画像を、axioplan imaging 2(Zeiss)を用い、光学顕微鏡により記録した。試料は、画像形成を行うために顕微鏡スライドガラスの間に置いた。
【0086】
調べたイオン性液体(ILs)の熱重量測定(TGA)分析は、Netzsch TGA 209 F1装置で、パージガスとして窒素を用いて実施した。用いた加熱速度は、10℃/分であり、この分析は、30から900℃の温度範囲に渡って実施した。
【0087】
全ての前記特性評価法を実施する前に、調製した磁気レオロジー流体(MRFs)を、激しく振ることによって、さらに均質化した。振った後、磁気レオロジー流体(MRFs)は、沈降測定が明らかにした通り、かなりの時間、不均質性を全く示さなかった(例えば、上澄み透明層の生成が全くなかった)。
【0088】
結果と考察
調製された磁性流体のいくつかの測定された性質が上記の表2に示されている。
【0089】
図1は、表2のいくつかの磁気レオロジー流体(MRFs)の沈降測定の結果を示し、全般に、分析されたほとんどの場合に小さい沈降速度を示している。
【0090】
図1に示されるように、担体IL2=1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩は、分散した磁性粒子の沈降に対して顕著な安定性を示した(70日間(1680h)で0.95の沈降率)。したがって、このイオン性液体(IL)は、長期間に渡る分散体の安定性が、考慮されるべき重量な要素である場合の用途(例えば、地震用ダンパー)にとって非常に好ましい。
【0091】
調製された磁気レオロジー流体(MRFs)の安定性への、分散した磁性粒子の濃度、さらにはそれらの大きさの影響が図2に示されている。粒径の場合に関して、記載された磁気レオロジー流体(MRFs)の調製中に磁性ナノ粒子を用いると、より速い沈降速度を有する分散体(MRF2)になることが認められた。
【0092】
しかしながら、驚くべきことに、マイクロメートルの領域の粒子が使用された時に、同じ重量%で、分散体の安定性はかなり改善された(MRF1)。
【0093】
図1および図2は、ミクロンサイズの磁性粒子の分散体に担体としてイオン性液体(ILs)を用いると、安定化添加剤を全く用いなくても安定性が向上した磁気レオロジー流体(MRFs)が調製されることを示す。分散体の安定性への粒子濃度の影響に関しては、図2は、粒子含量が沈降速度と逆相関の関係を示すことを明らかにしている。すなわち、MRF9(対応するイオン性液体(IL)中、25重量%の分散したミクロンサイズの磁性粒子)は、MRF11(対応するイオン性液体(IL)中、2重量%の分散したミクロンサイズの磁性粒子)よりかなり遅い沈降速度を示した;中間の場合、MRF10(対応するイオン性液体(IL)中、8.5重量%の分散したミクロンサイズの磁性粒子)もまた図2に示されている。MRF2およびMRF7に関しては、これらの試料は、それらの安定性が低かったために、十分に調べなかった。MRF2は、図2に示されるように、沈降に対して安定性が劣ることを示した。MRF7は、記載した調製方法の間に、かなりの「使用中の増粘(In−Use−Thickening)」を示し、靴磨きクリームの粘稠度(consistency)を有する扱い難いペーストになった。しかしながら、この後者の試料は、静置して数日の後に、その元の粘稠度を回復し、そのため、後に検討されるように、いくつかのレオロジー測定を実施することができた。
【0094】
表2は、調製された磁気レオロジー流体(MRFs)の測定された密度、さらには磁化測定から得られた、それらの磁気特性(飽和磁化(M)および残留磁化(M))のいくつかを要約している。測定された全ての磁気レオロジー流体(MRFs)の保磁場(coercive field;H)は、−8.9kA/mの値を示したMRF12(磁鉄鉱の含量が少ない試料)以外は、ほぼ−13kA/mであった。
【0095】
表2に報告された磁気レオロジー流体(MRFs)の磁気特性は、試料の磁気モーメント(磁気測定で得られる)を、対応する試料の体積(これは、分析された磁気レオロジー流体(MRFs)の重さおよびそれらの各々の密度から見積もられた)で割って計算した。
【0096】
図3は、調べられた磁気レオロジー流体(MRFs)で得られた磁気測定の代表的な磁気ヒステリシスループ(MRF3)を示す。担体として用いられたイオン性液体(ILs)が、調製された磁気レオロジー流体(MRFs)の磁気的性質に何らかの影響を及ぼすかどうかを調べるために、調べられたイオン性液体(ILs)(純粋)さらには試料ホルダー(ガラス)の磁化測定を行った。
【0097】
図4は、IL4の場合について、これらの測定結果を示し、両方共(試料ホルダーおよびIL4)、反磁性的な特徴(高い磁場でさえ、小さな磁気モーメントの値を示すこと)を明瞭に示す。
【0098】
図4に示される結果によれば、調製された磁気レオロジー流体(MRFs)の磁気的性質へのイオン性液体(ILs)の寄与は無視できると結論できる。
【0099】
上記の通り、磁性粒子を比較的高含量で含む磁気レオロジー流体(MRFs)では、試料ホルダーさらには使用されたイオン性液体(ILs)によって示される反磁性的性質は、この磁気レオロジー流体(MRF)の磁気的性質に無視できる影響を及ぼすことが示された。しかしながら、分散した磁性材料の含量が非常に小さい流体では、試料ホルダーおよび担体(どちらも反磁性材料)によって示される弱い磁気的性質さえ、試料の性質の測定にかなりの影響を及ぼし得る。この影響は、試料MRF12で調べられ、MRF12の磁性粒子含量は0.2重量%であり、得られた結果は図5に示されている。
【0100】
IL8(純粋)を含む試料ホルダー、および試料MRF12についての磁化測定が、それぞれ図5Aおよび図5Bに示されている。この低含量の分散磁性材料では、試料ホルダーおよび担体の両方が磁化測定に影響を及ぼし、その結果、磁化特性は、図5Bに示された磁気ヒステリシスループから直ちに決定できないことが明らかである。この影響のために、元の磁気ヒステリシスループ(図5B)についての補正が実施されなければならない。これは、担体を含む試料ホルダーの磁気モーメント(図5A)を、図5Bの磁気ヒステリシスループから引くことによって達成することができ;この補正の結果は、(磁気モーメントを分析された試料の体積で割ることを含めて)図5Cに示されている。最後に、図5Cから、試料MRF12の磁気的性質が求められ、結果が表2に報告されている。
【0101】
すでに記載の通り、磁気レオロジー流体(MRFs)の主な特徴は、磁場による、それらのレオロジー特性の可逆的変化である。この性質に関して、磁気レオロジー測定が、調製された磁気レオロジー流体(MRFs)のいくつかについて実施された。これらの測定では、8.5重量%以上のミクロンサイズの磁性粒子含量を有する磁気レオロジー流体(MRFs)だけが、分析され、得られた結果は以下で論じられている。この議論は、主に、一定温度(25℃)で得られた結果に基づいている。全般的に、分析された全ての試料は、磁場の下に置かれた時に、それらの粘度および剪断応力の可逆的増加を示した(いくつかの場合には2桁の大きさにまで達した)。
【0102】
基本的に、調製されたイオン性液体(ILs)をベースとする磁気レオロジー流体(MRFs)のレオロジーへの2つの寄与:担体としての純粋なイオン性液体(ILs)のレオロジー特性に関連する寄与、および流体に分散した磁性粒子に関連する寄与がある。一方で、イオン性液体(ILs)のほとんどは、普通の溶媒より粘性があること、少量の不純物がそれらの粘度に重要な影響を及ぼし得ること、および、一般的に、ほとんどのイオン性液体(ILs)がニュートン挙動を示すことが知られている。他方、文献には、懸濁液の粘度は、懸濁粒子の存在のために、担体液体の粘度とは異なることが報告されている。従って、磁場のない下で調製した磁気レオロジー流体(MRFs)の粘度は、この場合、確立された懸濁液の粘度理論により、担体であるイオン性液体(IL)の粘度および懸濁磁性物質の体積分率(φ)によって定められる。
【0103】
25℃で、磁場がない下でのレオロジー測定は、分析されたイオン性液体をベースとする磁気レオロジー流体(MRFs)が「準ニュートン」挙動を示すことを明らかにした。別の言い方をすれば、分散体は、図6Aに示されるように、低剪断速度で、わずかな擬似塑性挙動(剪断希薄化(shear thinning))を示す。しかしながら、図6Bに示されるように、分散体は、16s−1を超える剪断速度では、ニュートン様(剪断応力vs.剪断速度のプロットにおける線形依存)になる。図6Cは、前記実験条件で分析された磁気レオロジー流体(MRFs)について、粘度vs.剪断速度の対数プロットを示す。測定されたレオロジー特性についての、分散磁性粒子の濃度の影響もまた、試料MRF9およびMRF10(どちらもIL8中、それぞれ25および8.5重量%の粒子を含む)について、図6において知ることができる。予想されたように、図6は、特に低剪断速度で、より低濃度の分散体(MRF10)の粘度の値は、より小さいことを示す。
【0104】
図7は、調製された磁気レオロジー流体(MRFs)のレオロジー特性は磁場によって変えられ得ることを示している。従って、印加磁場の強さが、試料の飽和磁化が達成される磁場の強さまで増加するにつれて(図3)、調べられた磁気レオロジー流体(MRFs)の剪断応力および粘度の値は増加する。例えば、図7Aおよび図7Bにおいて、剪断応力および粘度の最大値は、282kA/mの磁場で達成され、より高い強さ(321kA/m)を用いても、試料の飽和磁化がすでに達成されたために、もはやレオロジー特性にそれほどの影響を及ぼさないことが分かる。図7から、調べられた磁気レオロジー流体(MRFs)は、磁場の存在下に塑性またはビンガム型の挙動を示し、また、文献に報告されているように、観察された降伏応力(=それ未満では剪断流が全く起こらない最小の剪断応力)は印加磁場の強さに依存することが指摘される。一般に、磁気レオロジー流体(MRFs)のこの性質により、技術的応用および工学的デバイス(例えば、ダンパー)の設計が可能になる。図7は、磁性分散体の調製の間に使用されたイオン性液体(IL)に応じて、対応する磁気レオロジー流体(MRF)はまた、記載の典型的なビンガム挙動(図7Cおよび図7E)のほかに、剪断応力vs.剪断のプロットにおいて非常に非線形な挙動を示し得ること(図7A、低剪断速度および中間の磁場の強さでのMRF3)もまた示している。磁場の存在下に実施された測定についての図7に示された粘度データ(図7B、図7Dおよび図7F)は、よい一致で、べき乗則モデル(これは、非ニュートン流体を記述するための、最も簡単でよく用いられる法則である)に従う。
【0105】
磁場の不在および存在の下でのレオロジー特性についての、調べられた磁気レオロジー流体(MRFs)中に分散した磁性粒子の含量の影響は、図8に示されている。予想されたように、同じ担体(IL8)で磁性材料の含量がより少ないほど、一定の磁場の強さでは、粘度およびせん断応力の値はより小さい。
【0106】
最後に、図9により、分析された磁気レオロジー流体(MRFs)のレオロジー特性の変化は可逆的過程であり、また、磁場の存在のために流体に誘発されるレオロジー的な如何なる変化も、この磁場が存在しないと消滅するはずであることが確認される。
【0107】
図9は、試料(この場合、MRF3)に任意の磁場を加える前に実施された初期測定、および、様々な磁場の強さでのその試料の分析後、使用されたレオメータで消磁過程(demagnetization process)を行った後の同一試料のもう一つの測定を示す。図9における2つの測定は、互いのごく僅かな相違を示すだけであり、過程の可逆性が確認される。この僅かな相違は、図3に示されるような、試料により示される残留磁化に起因すると考えることができ、これは、測定の間の時間が十分に長ければ完全に無くなるはずである。分析された残りの磁気レオロジー流体(MRFs)は、図9に示されたものに似た挙動を示した。
【0108】
図10は、調製された2つの磁気レオロジー流体(MRFs)(調べられた分散磁性粒子最大濃度の1つの場合、および最低濃度の場合)について、光学顕微鏡画像を示す。図10Aは、試料MRF3(IL2中、25重量%の分散磁性粒子)の画像を示し、これは、磁場のない場合に、粒子がよく分散しており、均質で安定な混合物を生成していることを示す。図10B、図10C、および図10Dは、試料MRF12(IL8中、0.2重量%の分散磁性粒子)の画像を示す;これらの場合に、試料中の粒子の低い濃度により、分散体のよりよい分析が可能になる。一方で、図10Bにおいて、磁場のない場合に、粒子間相互作用は無視でき、使用された粒子は直径がほぼ1μmであることが確認できる。他方、磁場が試料に加えられると、粒子間相互作用は重要になり、磁性粒子の複雑な構造および大きな鎖またはロッド(棒)が形成され(図10Cおよび図10D)、これらが、磁気レオロジー流体(MRFs)のレオロジー的挙動を決めるであろう。前記構造は、印加磁場の方向に平行に整列している。
【0109】
IL4の場合について図11に示されるように、調べられたほとんどのイオン性液体(ILs)は、250℃まで、またいくつかの場合には400℃付近まで、良好な熱安定性を示している。このため、本発明の磁気レオロジー流体(MRFs)の調製に用いられたイオン性液体(ILs)の熱重量測定は、本発明の磁性流体により、磁気レオロジー技術の応用が高温プロセスに広がることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性液体またはイオン性液体混合物中に磁性粒子を含む磁性流体であって、
安定化剤を含まないか、あるいは、炭素繊維、天然もしくは合成の水溶性チキソトロピック剤、樹脂、デンプン、多糖、セルロース誘導体、四ホウ酸ナトリウム十水和物、海藻抽出物、合成樹脂、界面活性剤、粘塑性媒体、油中水エマルジョン、およびこれらの2種以上の組合せの群から選択される安定化剤を含む、前記磁性流体。
【請求項2】
流体が安定化剤を含まない、請求項1に記載の流体。
【請求項3】
イオン性液体またはイオン性液体混合物が、少なくとも95重量%のイオンからなり、−100℃と+200℃の間の温度で液体である、請求項1に記載の流体。
【請求項4】
イオン性液体またはイオン性液体混合物が、少なくとも1つの有機基を有するアンモニウム陽イオン、または少なくとも1つの有機基を有するホスホニウム陽イオン、または少なくとも1つの有機基を有するスルホニウム陽イオン、または複素環基を含む第4級窒素原子、あるいはこれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される陽イオン、好ましくはピリジニウム塩またはイミダゾリウム塩を含む、請求項3に記載の流体。
【請求項5】
イオン性液体またはイオン性液体混合物が、N−アルキルピリジニウム、N−アルキル−ビニルピリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、N,N’−ジアルキルイミダゾリウム、N−アルキル−N’−ビニルイミダゾリウム、およびこれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される陽イオンを含む、請求項4に記載の流体。
【請求項6】
イオン性液体またはイオン性液体混合物が、ルイス酸の付加物、トリハライド、およびハライドからなる群から選択される陰イオンを含む、請求項3に記載の流体。
【請求項7】
イオン性液体またはイオン性液体混合物が、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ジシアンジアミド、メタンスルホン酸イオン、トシラート、テトラクロロホウ酸イオン、テトラアリールホウ酸イオン、ポリフッ化テトラアリールホウ酸イオン、テトラハロアルミン酸イオン、アルキルトリハロアルミン酸イオン、トリフラート、ノナフラート、ビストリフィルイミド、クロロ酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、アルキル硫酸イオン、N−(N−メトキシエトキシ)アルキル硫酸イオン、ジアルキルリン酸イオン、[MeCO、硝酸イオン、亜硝酸イオン、トリクロロ亜鉛酸イオン、ジクロロ銅酸イオン、フルオロスルホン酸イオン、トリアリールホスフィン、スルホン酸イオン、多面体ボラン、カルボラン、メタロカルボラン、およびこれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される陰イオンを含む、請求項3に記載の流体。
【請求項8】
磁性粒子が、フェロ磁性を示す粒子、フェリ磁性を示す粒子、反フェロ磁性を示す粒子、傾いたスピンのフェロ磁性を示す粒子、常磁性または超常磁性を示す粒子、およびこれらの2つ以上の粒子の混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の流体。
【請求項9】
磁性粒子が、鉄、カルボニル鉄、鉄合金、酸化鉄、窒化鉄、炭化鉄、低炭素鋼、ニッケル、コバルト、希土類、およびこれらの混合物またはこれらの合金からなる材料の群から選択される、請求項8に記載の流体。
【請求項10】
磁性粒子が、鉄、酸化鉄、コバルト、ニッケル、ガドリニウム、およびこれらのフェロ磁性またはフェリ磁性合金からなる材料の群から選択される、請求項9に記載の流体。
【請求項11】
磁性粒子が、10nmと50μmの間、好ましくは100nmと20μmの間の範囲の直径を有する、請求項1に記載の磁性流体。
【請求項12】
磁性粒子が、磁性流体の全量に対して、1と60重量%の間、好ましくは5と40重量%の間の量で流体中に存在する、請求項1から11の一項に記載の磁性流体。
【請求項13】
イオン性液体またはイオン性液体混合物の全量に対して40重量%までの量で安定化剤を含む、請求項1から12の一項に記載の磁性流体。
【請求項14】
ポリマー、またはポリマーの混合物を含む、請求項1から13の一項に記載の磁性流体。
【請求項15】
インクとしての、好ましくはインクジェット印刷用の、請求項1から14の一項に記載の磁性流体の使用。
【請求項16】
減衰流体としての、好ましくはラウドスピーカー、グラフィックプロッターまたは計器ゲージ用の、請求項1から14の一項に記載の磁性流体の使用。
【請求項17】
密封流体としての、好ましくはガスレーザー、モーター、ブロアーまたはハードドライバー用の、請求項1から14の一項に記載の磁性流体の使用。
【請求項18】
画像形成用途における、好ましくはドメイン観察用の、または造影剤としての、請求項1から14の一項に記載の磁性流体の使用。
【請求項19】
沈降浮遊技術における、好ましくは廃棄物からの資源の回収における、請求項1から14の一項に記載の磁性流体の使用。
【請求項20】
バイオメディカル用途における、好ましくは薬剤ターゲッティング、細胞標識、または磁性粒子に取り付けられた薬剤用の、請求項1から14の一項に記載の磁性流体の使用。
【請求項21】
化学反応を実施するための反応媒体としての、好ましくは、磁場により反応媒体の粘度を制御することによって関与する反応物質の拡散を制御するための、請求項1から14の一項に記載の磁性流体の使用。
【請求項22】
医療における生体の血管を閉塞するための可逆的シールとしての、請求項1から14の一項に記載の磁性流体の使用。
【請求項23】
化学的または生物学的系内の選択された位置での化学物質の輸送手段および/または送達手段としての、さらなる該化学物質を含む、請求項1から14の一項に記載の磁性流体の使用。
【請求項24】
化学反応を実施するための反応媒体としての、請求項1から14の一項に記載の磁性流体の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−508667(P2010−508667A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535035(P2009−535035)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【国際出願番号】PCT/EP2007/009588
【国際公開番号】WO2008/055645
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(506270743)スティッチング ダッチ ポリマー インスティテュート (5)
【氏名又は名称原語表記】STICHTING DUTCH POLYMER INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】Kennispoort,John F.Kennedylaan 2,NL−5612 AB Eindhoven,Netherlands
【Fターム(参考)】