説明

磁性粒子の凝集及び分散方法並びにこれを用いた分離、検出方法及び検出用キット

【課題】吸着剤と検体とを含む水溶液を加熱または冷却せず、一定温度で簡便に温度応答性高分子表面修飾磁性粒子を凝集させることができる方法、及びこの方法を適用した検体中の検出対象物質の分離方法、検出方法を提供すること。
【解決手段】検体中の検出対象物質を分離する方法であって、温度応答性高分子で磁性粒子が表面修飾された平均粒径50〜1000nmの温度応答性高分子表面修飾磁性粒子と、該温度応答性高分子表面修飾磁性粒子に結合した、該検出対象物質に対する親和性を有する物質とからなる吸着剤と検体とを混合した水溶液中で、該吸着剤に該検出対象物質を吸着させ、該水溶液中の塩濃度を変化させることより該吸着剤を凝集させる工程、及び、該吸着剤を磁力により水溶液中から回収する工程、を含むことを特徴とする方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粒子の凝集及び分散方法並びに該方法を用いた分離または検出方法及び検出用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
混合液(検体)中から検出対象物質(目的物質ともいう。)を回収する方法として、検出対象物質を特異的に吸着するリガンドが固定された微粒子を検体に添加し、検出対象物質を吸着した後、微粒子を回収し、検出対象物質を微粒子から分離、回収する方法が知られている。特に磁性粒子は磁石によって容易に回収されるという特徴から、検出対象物質を効率よく回収する手段として用いられている。磁性粒子の粒子径は、500nmより大きいと磁集しやすくなるが、磁性粒子表面のリガンドと検出対象物質との吸着の反応速度が充分でなく、逆に粒子径を200nm以下に小さくすると、吸着の反応速度は大きくなるものの磁集しにくくなり、検出対象物質を回収することができなくなる。
【0003】
非特許文献1及び非特許文献2には、下限臨界溶液温度(以下「LCST」と記述することがある。)を有するポリイソプロピルアクリルアミドで、粒子径が100〜200nm程度の磁性粒子を表面修飾した刺激応答性磁性粒子(刺激応答性高分子表面修飾磁性粒子)が開示されている。
【0004】
該刺激応答性高分子表面修飾磁性粒子は、その粒子径が100〜200nm程度と微小であることから水によく分散するが、分散状態では磁集できない。しかしながら、該刺激応答性高分子表面修飾磁性粒子として、温度応答性高分子表面修飾磁性粒子の水溶液を加熱して、その温度をLCST以上とした場合には、該温度応答性高分子表面修飾磁性粒子が析出、凝集する。この凝集物は磁力で容易に回収できることから、該温度応答性高分子表面修飾磁性粒子に抗体や抗原を固定化した温度応答性高分子表面修飾磁性粒子(吸着剤)を用い、検体中の種々の生体分子や微生物の分離を行う試みがなされている。
【非特許文献1】アプライドマイクロバイオロジーアンドバイオテクノロジー(Appl.Microbiol.Biotechnol.)1994年、41巻、99〜105頁
【非特許文献2】ジャーナルオブファーメンテーションアンドバイオテクノロジー(Journal of fermentation and Bioengineering)1997年、84巻、337〜341頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような方法で回収を行う場合、温度応答性高分子表面修飾磁性粒子を用いた吸着剤を含む検体を加熱によりLCST以上に昇温して凝集または磁集させるための加熱及び冷却装置が必要である。また、短時間で多種類の分析項目を測定する免疫診断装置等に吸着剤を適用する場合、加熱及び冷却作業が必要なため操作が煩雑である。また、分析及び測定時間をより短縮するため、吸着剤を一度凝集させた後の再分散をより速く行う方法も求められている。
【0006】
そこで、本発明は、吸着剤と検体とを含む水溶液を加熱または冷却せず、一定温度で簡便に温度応答性高分子表面修飾磁性粒子を凝集させることができる方法、及びこの方法を適用した検体中の検出対象物質の分離方法、検出方法を提供することを課題のひとつとしてなされた。また、吸着剤を短時間で再分散させる方法を提供することを課題のひとつと
してなされた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した。その結果、温度応答性高分子で表面修飾された磁性粒子を含む水溶液の塩濃度を変化させることにより、凝集及び分散させることができることを見出し、これをもとに本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1]検体中の検出対象物質を分離する方法であって、
温度応答性高分子で磁性粒子が表面修飾された平均粒径50〜1000nmの温度応答性高分子表面修飾磁性粒子と、該温度応答性高分子表面修飾磁性粒子に結合した、該検出対象物質に対する親和性を有する物質とからなる吸着剤と検体とを混合した水溶液中で、該吸着剤に該検出対象物質を吸着させ、該水溶液中の塩濃度を変化させることより該吸着剤を凝集させる工程、及び、
該吸着剤を磁力により水溶液中から回収する工程、
を含むことを特徴とする方法。
[2]前記温度応答性高分子が、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリン、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メタクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピペリジン、及び、N−メタクリロイルモルホリンからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを重合して得られるポリマーであることを特徴とする[1]記載の方法。
[3]前記温度応答性高分子が、N−アクリロイルグリシンアミド、N−アクリロイルニペコタミド、及び、N−アクリロイルアスパラギンアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを重合して得られるポリマーであることを特徴とする[1]記載の方法。
[4]前記温度応答性高分子表面修飾磁性粒子の平均粒径が50〜200nmであることを特徴とする「1」〜[3]のいずれか記載の方法。
[5]前記塩が、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、及び、炭酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする[1]〜[4]のいずれか記載の方法。
[6]前記塩が、モノカルボン酸のナトリウム塩、モノカルボン酸のカリウム塩、ジカルボン酸のナトリウム塩、ジカルボン酸のカリウム塩、トリカルボン酸のナトリウム塩、トリカルボン酸のカリウム塩、テトラカルボン酸のナトリウム塩、及び、テトラカルボン酸のカリウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする[1]〜[4]のいずれか記載の方法。
[7]前記塩が、酢酸ナトリウム、アスパラギン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、エチレンジアミン4酢酸二ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、イミノ二酢酸ナトリウム、マレイン酸ナトリウム、マロン酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、及び、酒石酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする[6]記載の方法。
[8]温度応答性高分子で磁性粒子が表面修飾された温度応答性高分子表面修飾磁性粒子と、該温度応答性高分子表面修飾磁性粒子に結合した、検出対象物質に対する親和性を有する物質とからなる吸着剤と、塩の水溶液を含む、検体中の検出対象物質を分離または検出するためのキット。
[9]温度応答性高分子で磁性粒子が表面修飾された温度応答性高分子表面修飾磁性粒子を、水溶液中の塩濃度を変化させることにより、凝集または分散させることを特徴とする磁性粒子の凝集または分散方法。
[10]前記温度応答性高分子表面修飾磁性粒子が、検出対象物質に対する親和性を有する物質を表面に有していることを特徴とする[9]記載の方法。
[11]前記[1]〜[7]のいずれかに記載の方法によって検体中の検出対象物質を吸着剤に吸着させて分離する工程、及び、吸着剤に吸着した該検出対象物質を検出する工程、
を含むことを特徴とする検体中の検出対象物質を検出する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の凝集及び分散方法並びにこの方法を適用した検体中の検出対象物質の分離方法または検出方法を用いることで、吸着剤と検体とを含む水溶液を加熱及び冷却せず、一定温度で簡便に温度応答性高分子表面修飾磁性粒子及びこれを用いた吸着剤を凝集でき、この凝集した吸着剤を磁集することで、検出対象物質を分離または検出することが可能になる。特に、短時間で多種類の分析項目を測定する免疫診断装置等に吸着剤を適用する場合、有利である。また、検体中の検出対象物質の迅速な分離または検出が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、温度応答性高分子表面修飾磁性粒子及び吸着剤を、水溶液中で塩濃度を変化させることにより凝集及び分散させる、温度応答性高分子表面修飾磁性粒子及び吸着剤の凝集及び分散方法である。
【0011】
(温度応答性高分子表面修飾磁性粒子)
本発明に用いられる温度応答性高分子表面修飾磁性粒子は、温度応答性高分子で磁性粒子が表面修飾された粒子である。表面修飾とは、温度応答性高分子が、磁性粒子の表面に直接または間接に化学的に固定されている状態や、磁性粒子の表面に直接または間接に絡まった状態をいう。ここで、間接とは、磁性粒子と温度応答性高分子とが、他の物質(例えば、デキストラン等の多価アルコール)を介して表面修飾されていることをいう。
【0012】
本発明に用いられる磁性粒子は、酸化鉄、またはフェライトからなる粒子でもよく、例えば多価アルコールとマグネタイトから製造した粒子のように、酸化鉄、フェライト、またはマグネタイトとその他の無機物、有機物とからなる粒子でもよい。温度応答性高分子は、酸化鉄、フェライト、またはマグネタイト等に固定(表面修飾)してもよく、また、例えば、磁性粒子の成分である多価アルコールまたは多価アルコール誘導体等に固定してもよい。
【0013】
温度応答性高分子表面修飾磁性粒子の平均粒径は、通常50〜1000nmであり、80〜200nmであることが好ましい。
【0014】
(磁性粒子)
上記温度応答性高分子表面修飾磁性粒子に用いられる磁性粒子は、例えば、特表2002−517085号公報等に開示された方法によって製造することができる。すなわち、鉄(II)化合物、または鉄(II)化合物及び金属(II)化合物を含有する水溶液を、磁性酸化物の形成のために必要な酸化状態下に置き、水溶液のpHを7以上に維持して、酸化鉄、またはフェライト磁性体ナノ粒子を形成する方法である。また、金属(II)化合物含有の水溶液と鉄(III)化合物含有の水溶液をアルカリ性条件下で混合することによっても製造することができる。
【0015】
あるいは、磁性粒子は、多価アルコールとマグネタイトから製造することもできる。この多価アルコールは、構成単位に水酸基を少なくとも2個有し、鉄イオンと結合可能なアルコール構造体であれば、特に制限なく使用することができる。例えば、デキストラン、
ポリビニルアルコール、マンニトール、ソルビトール、シクロデキストリンなどが挙げられる。例えば、特開2005−082538号公報に、デキストランを用いた磁性粒子の製造方法が開示されており、この方法によって製造することもできる。また、グリシジルメタクリレート重合体のように、エポキシ基を有し、開環後多価アルコール構造体を形成する化合物も使用できる。
【0016】
本発明に用いられる磁性粒子は、温度応答性高分子で表面修飾を行った後で良好な分散性を有するように、その平均粒径が、1000nm未満であることが好ましい。特に、温度応答性高分子表面修飾磁性粒子表面の検出対象物質と親和性を有する物質と、検出対象物質との吸着の反応速度を高めるためには、平均粒径が200nm未満であることが好ましい。温度応答性高分子表面修飾磁性粒子の磁集速度を速めるためには、磁性粒子は30nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましい。
【0017】
(温度応答性高分子)
本発明に用いられる温度応答性高分子は、温度変化に応答して構造変化を起こし、凝集と分散が調整できる高分子である。温度応答性高分子としては、上限臨界溶液温度(以下「UCST」と記述することがある。)を有する高分子と、下限臨界溶液温度(以下「LCST」と記述することがある。)を有する高分子が存在するが、操作性などの点からLCSTを有する高分子がより好ましく利用できる。
【0018】
LCSTを有する高分子としては、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリン、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メタクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピペリジン、N−メタクリロイルモルホリン等のN置換(メタ)アクリルアミド誘導体から選ばれる少なくとも1種のモノマーを重合して得られるポリマー;ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール部分酢化物、ポリビニルメチルエーテル、(ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン)ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンラウリルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン誘導体;ポリオキシエチレンソルビタンラウレート等のポリオキシエチレンソルビタンエステル誘導体;(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)アクリレート、(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)メタクリレート等の(ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル)(メタ)アクリレート類;及び(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)アクリレート、(ポリオキシエチレンオレイルエーテル)メタクリレート等の(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)(メタ)アクリレート類等のポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸エステル誘導体等(以下「LCST型ポリマー」と記述する。)を挙げることができる。
【0019】
温度応答性高分子として、上記LCST型ポリマーを用いることができる。また、上記LCST型ポリマーを構成するモノマーに、さらにアクリルアミド、アセチルアクリルアミド、ビオチノールアクリレート、N−ビオチニル−N′−メタクリロイルトリメチレンアミド(ビオチン以外の物質を結合させてモノマーとすることも可能である)、アクリロイルザルコシンアミド、メタクリルザルコシンアミド、アクリロイルメチルウラシル、またはアクリロイルグルタミンアミド等のモノマーを加えて共重合して得られるポリマーも利用できる。通常、該ポリマー中、LCST型ポリマーを構成するモノマー含有量は、該ポリマーを構成する全モノマー含有量の90mol%以上である。
【0020】
なかでも、温度応答性高分子として、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N
−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリン、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メタクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピペリジン、N−メタクリロイルモルホリンからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを重合して得られるポリマーがより好ましく利用できる。
【0021】
本発明では、N−イソプロピルアクリルアミドを重合して得られるポリマーがさらに好ましく利用できる。
【0022】
UCSTを有する高分子としては、アクリロイルグリシンアミド、アクリロイルニペコタミド、及びアクリロイルアスパラギンアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを重合して得られるホモポリマーまたはコポリマー等(以下「UCST型ポリマー」と記述する。)を挙げることができる。
【0023】
温度応答性高分子として、上記UCST型ポリマーを用いることができる。また、上記UCST型ポリマー中に、さらにアクリルアミド、アセチルアクリルアミド、ビオチノールアクリレート、N−ビオチニル−N′−メタクリロイルトリメチレンアミド(ビオチン以外の物質を結合させてモノマーとすることも可能である)、アクリロイルザルコシンアミド、メタクリルザルコシンアミド、アクリロイルメチルウラシル、及びアクリロイルグルタミンアミド等を重合して得られたポリマーを利用できる。通常、該ポリマー中、UCST型ポリマーを構成するモノマー含有量は、該ポリマーを構成する全モノマー含有量の90mol%以上である。
【0024】
LCST型ポリマー、UCST型ポリマーともに、重合または共重合するモノマーの種類、割合を変えることでLCSTまたはUCSTを制御できるため、使用する温度に合わせたポリマー設計が可能である。
【0025】
本発明に好適に用いることのできる温度応答性高分子の重合度は、通常50〜10000である。
【0026】
温度応答性高分子の製造方法としては、上記モノマーを有機溶媒または水に溶解し、不活性ガスで系中を置換した後、重合温度まで昇温し、有機溶媒中であればアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤、過酸化ベンゾイル等の過酸化物、水系であれば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等の重合開始剤を添加し、攪拌下加熱を続けることにより得ることができる。その後、貧溶媒中で再沈殿を行い、析出したポリマーをろ取したり、ポリマーを凝集させる温度変化刺激を与えて凝集させ、遠心によりポリマーを分離する等の手法で、製造したポリマーを精製することもできる。
【0027】
磁性粒子と温度応答性高分子との結合は、反応性の官能基を介して結合する方法や、磁性粒子中の多価アルコール上の活性水素または多価アルコールに重合性不飽和結合を導入し、磁性粒子にグラフト重合する方法等の当技術分野で周知の方法で得られる(例えば、ADV.Polym.Sci.,Vol.4、p111、1965やJ.Polymer Sci.,Part-A,3,p1031,1965に記載されている。)。このようにして温度応答性高分子で表面修飾された磁性粒子を得ることができる。温度応答性高分子としてLCST型ポリマーを用い、これにより表面修飾された温度応答性高分子表面修飾磁性粒子を「LCST型磁性粒子」ということがある。また、温度応答性高分子としてUCST型ポリマーを用い、これにより表面修飾された温度応答性高分子表面修飾磁性粒子を「UCST型磁性粒子」ということがある。
【0028】
磁性粒子表面に修飾される温度応答性高分子層の厚みは、1〜100nmであることが
好ましく、5〜50nmであることがより好ましい。
【0029】
(吸着剤)
本発明に用いられる吸着剤は、温度応答性高分子表面修飾磁性粒子に、検出対象物質に対する親和性を有する物質(リガンド)が結合した粒子である。
【0030】
本発明では、検出対象物質に対する親和性を有する物質を温度応答性高分子表面修飾磁性粒子に固定することで、その物質と相互的に特異的吸着作用を有する検出対象物質を特異的に吸着できる。検出対象物質がタンパク質の場合には、検出対象物質に対する親和性を有する物質として、ビオチン、アビジン、グルタチオン、レクチン及び抗体等を温度応答性高分子表面修飾磁性粒子に固定することで、これらに対する特異的吸着作用を有するタンパク質を特異的に吸着できる。ビオチンの場合は、アビジンとの特異的な結合を介してビオチン化された検出対象タンパク質、またビオチン化された抗体を用いてそれらの抗原である種々のタンパク質を更に吸着することが可能である。本発明では、市販されているアビジン、ビオチン化タンパク質が利用でき、ビオチン化は、当技術分野で周知の方法に従えばよい。グルタチオンの場合は、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(以下、「GST」という。)を含有するタンパク質を特異的に吸着できる。このようなGST含有タンパク質の調製は当技術分野で周知の方法に従えばよい。
【0031】
温度応答性高分子とリガンドとの結合の例として、温度応答性高分子と抗体の結合方法を示す。国際公開第01/009141号パンフレットに記載されているように、ビオチンをメタクリルやアクリル等の重合性の官能基と結合させて付加重合性モノマーとし、他のモノマーと共重合することにより温度応答性高分子にビオチンを結合させることができる。一方、リガンドとしての抗体にアビジンを結合させ、ビオチン結合温度応答性高分子と混合することにより、アビジンとビオチンの結合を利用して、温度応答性高分子に抗体を吸着させることができる。なお、ビオチンの代わりにグルタチオンを用いた場合は、アビジンではなく、グルタチオンSトランスフェラーゼを用いればよい。また、ポリマーの製造時にカルボキシル、アミノまたはエポキシ等の官能基を持つモノマーを他のモノマーと共重合させ、当技術分野で周知の方法に従い、この官能基を介して、抗体親和性物質(例えば、メロンゲル、プロテインA、プロテインGなど)をポリマー上に結合させる方法も利用できる。このようにして得られた抗体親和性物質にリガンドとしての抗体を結合させることにより、温度応答性高分子に抗体を結合させることができる。
【0032】
このようにして、リガンドと結合した温度応答性高分子を得ることができる。リガンドと結合した温度応答性高分子は、温度応答性高分子が凝集する条件にし、遠心分離等により分離精製することができる。また、温度応答性高分子が磁性粒子表面に固定化されている場合には、磁石で磁性粒子を回収することにより、精製することができる。
【0033】
(磁集方法)
温度応答性高分子表面修飾磁性粒子及び吸着剤の回収に用いる磁石等の磁力は、用いる磁性粒子の有する磁力の大きさ等によって異なる。磁力は、目的の磁性粒子を磁集可能な程度の磁力を適宜使用できる。磁石の素材には、例えばマグナ社製ネオジ磁石が利用できる。このように本発明では、磁石等の磁力によって、温度応答性高分子表面修飾磁性粒子及び吸着剤等を回収するが、磁性粒子の表面に温度応答性高分子が固定されていることで、分散状態では回収困難なナノサイズの磁性粒子を意図的に凝集させて、回収率を高めることが可能になる。なお、本発明は、このような温度応答性高分子表面修飾磁性粒子及び吸着剤等を、水溶液中の塩濃度を変化させることにより凝集または分散させることが可能である。したがって、本発明では、吸着剤と検体とを含有する水溶液を加熱または冷却せず、一定温度で簡便に吸着剤を凝集及び磁集させ、検体中の検出対象物質を分離または検出することが可能である。
【0034】
(本発明の凝集及び分散方法)
本発明は、温度応答性高分子表面修飾磁性粒子及び吸着剤等を、水溶液中の塩濃度を変化させることにより凝集及び分散させることが可能である。
【0035】
水溶液(塩添加後)中の温度応答性高分子表面修飾磁性粒子及び吸着剤の好ましい濃度は、検出対象物質、温度応答性高分子表面修飾磁性粒子の種類等によって異なるが、操作性などの点から、通常0.1〜10mg/mLである。
【0036】
本発明で用いられる塩としては、本発明の効果を発揮するものであれば特に限定されないが、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム等の硫酸塩;塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、等のハロゲン化物;硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム等の硝酸塩;チオシアン化カリウム等のチオシアン酸塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩;ホウ酸塩;リン酸塩等が挙げられる。これらの塩を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、本発明で用いられる塩としては、酢酸ナトリウム等のモノカルボン酸のナトリウム塩、アスパラギン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、イミノ二酢酸ナトリウム、マレイン酸ナトリウム、マロン酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、または、酒石酸ナトリウム等のジカルボン酸のナトリウム塩、クエン酸二ナトリウム等のトリカルボン酸のナトリウム塩、エチレンジアミン4酢酸二ナトリウム等のテトラカルボン酸のナトリウム塩等の有機酸塩等が挙げられ、これらのカリウム塩等の有機酸塩等も利用できる。これらの塩を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
なかでも、少量の添加で温度応答性高分子表面修飾磁性粒子または吸着剤を凝集させることができる点で、アスパラギン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、エチレンジアミン4酢酸二ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、イミノ二酢酸ナトリウム、マレイン酸ナトリウム、マロン酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酒石酸ナトリウム等の有機酸塩;硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム等の硫酸塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩が好ましい。
また、凝集後の吸着剤を再分散しやすいという点で、酢酸ナトリウム等のモノカルボン酸のナトリウム塩、アスパラギン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、イミノ二酢酸ナトリウム、マレイン酸ナトリウム、マロン酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、または、酒石酸ナトリウム等のジカルボン酸のナトリウム塩、クエン酸二ナトリウム等のトリカルボン酸のナトリウム塩、エチレンジアミン4酢酸二ナトリウム等のテトラカルボン酸のナトリウム塩等の有機酸塩が好ましく、これらのカリウム塩も好ましい。
【0038】
温度応答性高分子表面修飾磁性粒子または吸着剤を凝集させるためには、例えば、所望の塩濃度となるように温度応答性高分子表面修飾磁性粒子または吸着剤の分散液中に塩の水溶液を添加すればよい。
【0039】
温度応答性高分子表面修飾磁性粒子及び吸着剤を凝集させるための塩の必要添加量は、塩の種類、水溶液の温度、温度応答性高分子の種類、温度応答性高分子表面修飾磁性粒子または吸着剤濃度等にもよるが、水溶液中終濃度で概ね50mM〜5M、好ましくは100〜1000mMの範囲である。
【0040】
例えば、4mg/mlの温度応答性高分子表面修飾磁性粒子または吸着剤を含む水溶液
は、1/3容量の1M硫酸ナトリウムや炭酸カリウム等の塩の水溶液を添加することで、温度応答性高分子表面修飾磁性粒子または吸着剤の濃度3mg/ml、塩濃度250mMの条件下で、容易に凝集状態にすることができる。これらの塩の水溶液は酸やアルカリ等により中和して用いてもよく、緩衝液等に溶解して用いてもよい。
【0041】
一方、凝集させた温度応答性高分子表面修飾磁性粒子及び吸着剤を再び分散させるには、分散前の塩濃度になるように所望の濃度の塩の水溶液を添加するか、精製水などで塩濃度を希釈すればよい。
【0042】
(本発明の分離方法、検出方法)
本発明では、分離とは、検出対象物質を分けて取り出すことをいう。
本発明の検体中の検出対象物質を分離する方法は、(1)吸着剤に検出対象物質を吸着させた後、検体中の塩濃度を変化させることにより吸着剤を凝集させる工程、及び(2)該吸着剤を磁力により回収する工程、を含むことを特徴とする方法である。
本発明の検体中の検出対象物質を検出する方法は、(1)、(2)の工程の後に、さらに(3)該吸着剤に吸着した該検出対象物質を検出する工程、を含むことを特徴とする方法である。
【0043】
以下に、検出対象物質として抗原を、蛍光色素を用いたサンドイッチ法により検出及び測定する例を示す。
(a)検出及び測定しようとする抗原に対する抗体aを結合させた温度応答性高分子表面修飾磁性粒子(吸着剤)を含む試薬Aと、検出対象物質である抗原を含む検体を混合し、反応容器中で反応させる。
(b)反応液に吸着剤を凝集させることができる濃度になるように、高濃度の塩の水溶液(試薬B)を添加、混合し、吸着剤を凝集させる。
(c)該吸着剤を磁石により反応容器壁に磁集し、検体中の不要成分を含む液体部分を除去し、磁石を外して吸着剤が分散する濃度になるようにバッファー(試薬C)を加え、吸着剤を再分散する。同様な操作を繰り返し、吸着剤を洗浄する。
(d)検出及び測定しようとする抗原に対して、前記抗体aとは違う部位を認識する抗体bを結合させた蛍光色素の水溶液(試薬D)を混合し、反応容器中で反応させる。
(e)反応液に吸着剤を凝集させることができる濃度になるように、高濃度の塩の水溶液(前記試薬B)を添加、混合し、吸着剤を凝集させる。
(f)前記吸着剤を磁石により反応容器壁に磁集し、試薬D中の過剰成分を含む液体部分を除去し、磁石を外して吸着剤が分散する濃度になるようにバッファー(試薬C)を加え、吸着剤を再分散する。同様な操作を繰り返し、吸着剤を洗浄する。
(g)蛍光色素の蛍光強度を測定する。
【0044】
この例では試薬Dとして、抗原に対し、前記抗体aとは違う部位を認識する抗体bを結合させた蛍光色素を使用し、蛍光を測定する方法を例として示したが、放射ラベルした抗体bを用いて放射能を測定する方法、西洋ワサビペルオキシダーゼやアルカリフォスファターゼ等の酵素で標識した抗体b及び酵素の基質である発光または発色試薬を用いて発光または発色強度を測定する方法等各種方法が適用できる。
【0045】
本発明の分離方法または検出方法は、環境検査、食品検査、臨床診断等に利用される各種物質の分離、検出及び定量に好適に使用できる。
具体的には、例えば、水や食品中の病原菌、体液、尿、喀痰、糞便中等に含まれるヒトイムノグロブリンG、ヒトイムノグロブリンM、ヒトイムノグロブリンA、ヒトイムノグロブリンE、ヒトアルブミン、ヒトフィブリノーゲン(フィブリンおよびそれらの分解産物)、α−フェトプロテイン(AFP)、C反応性タンパク質(CRP)、ミオグロビン、ガン胎児性抗原、肝炎ウイルス抗原、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、ヒト胎盤
性ラクトーゲン(HPL)、インスリン、HIVウイルス抗原、アレルゲン、細菌毒素、細菌抗原、酵素、ホルモン、薬剤等を挙げることができる。
【0046】
(本発明の分離用キット及び検出用キット)
本発明の検体中の分離対象物質を分離するためのキットは、例えば、下記の試薬A、試薬B、及び試薬Cから構成される。
試薬A:吸着剤(温度応答性高分子表面修飾磁性粒子にリガンドが結合した粒子)の分散液
試薬B:塩の水溶液
試薬C:希釈用バッファー(上記試薬A及びBの希釈、並びに検体の希釈に使用可能な緩衝液である。一例として、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液等が挙げられる。)
また、本発明の検体中の検出対象物質を検出するためのキットは、例えば上記検体中の分離対象物質を分離するためのキット(試薬A、試薬B、及び試薬C)に加えて、下記試薬D、試薬E、及び試薬Fから構成される。
試薬D:検出対象物質に対して、試薬A中のリガンドとは別の部位を認識するリガンドと、検出ユニット(蛍光色素、放射性同位体元素、酵素等)の結合物の溶液。
試薬E:酵素の基質(検出ユニットとして酵素を用いる場合)
試薬F:検出対象物質の標準品(一例として、精製した抗原が挙げられる。)。
また、検出ユニットの種類により、蛍光、放射能、発光、発色強度等を測定する装置等が必要となる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
[製造例1]磁性粒子(60nm)の調製方法:
100ml容量のフラスコに、塩化第二鉄・六水和物(1.0mol)及び塩化第一鉄・四水和物(0.5mol)混合水溶液を3ml、多価アルコールであるデキストラン(和光純薬社製、分子量32000〜40000)の10重量%水溶液60mlを入れ、メカニカルスターラーで攪拌し、この混合水溶液を50℃に昇温した後、これに25重量%アンモニア水溶液5.0mlを滴下し、1時間程度攪拌した。この操作で、平均粒径が約60nmのデキストラン含有磁性粒子が得られた(製造例において、特開2005−82538を参照した。)。
【0049】
[製造例2]ビオチンモノマー〔N−ビオチニル−N′−メタクリロイルトリメチレンアミド〕の調製方法:
N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩18g、ビオチン24g及びトリエチルアミン30gを300mlのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、0℃に冷却した。ジフェニルホスフォニルアジド28gを50mlのDMFに溶解させた溶液を1時間かけて、この混合物中に滴下した。滴下終了後、0℃で3時間攪拌し、更に室温で12時間攪拌した。この後、減圧下で、溶媒を留去し、展開溶媒としてクロロホルム−メタノール混合溶媒を用いて、カラムクロマトグラフィーで精製したところ、白色粉末22gが得られた。これは、目的物であるN−ビオチニル−N′−メタクリロイルトリメチレンアミドであった(収率59%)。
【0050】
[製造例3]リガンドとしてビオチンを固定したLCST型磁性粒子の調製方法:
50mlの三口フラスコに、N−イソプロピルアクリルアミド300mg、上記方法で調製したビオチンモノマー3mg、上記方法で調製したデキストラン含有磁性粒子(60nm)の2重量%水溶液2mlを入れ、蒸留水で20mlに調節した。この水溶液を窒素置換した後、更に0.2M 硝酸二アンモニウムセリウム(IV)硝酸溶液200μlを添
加し、2時間攪拌し、反応を進行させることで、LCST型磁性粒子が得られた。このLCST型磁性粒子の平均粒径は、大塚電子株式会社製レーザーゼータ電位計ELS−8000を用いて測定したところ、約100nmであることがわかった。またこの粒子はLCSTを37℃に有し、LCST未満の水溶液中では完全に分散し、磁石での回収は困難であったが、水溶液をLCST以上とすると直ちに凝集し、磁石で容易に回収することが可能であった。
【0051】
[試験例1]磁性粒子への塩添加及び磁気回収実験例:
上記方法で調製したデキストラン含有磁性粒子(濃度0.4重量%、水分散液)とLCST型磁性粒子(濃度0.4重量%、水分散液)を100μlずつ用意し、30℃恒温で1MのNa2SO4水溶液25μlをNa2SO4の最終濃度が200mMになるように加えた。デキストラン含有磁性粒子はNa2SO4水溶液を添加後も完全に分散状態で磁気回収不可能であった。これに対して、LCST型磁性粒子はNa2SO4を添加後凝集し、1分以内に磁気回収が可能になった。磁気回収したLCST型磁性粒子にH2Oを加えると再び分散した。
【0052】
以上のように温度応答性高分子で表面を修飾されたLCST型磁性粒子はNa2SO4の最終濃度が200mMでは磁気分離が可能であるのに対し、温度応答性高分子で表面を修飾されていない、デキストラン含有磁性粒子は、Na2SO4の最終濃度が200mMでは磁気分離が不可能であった。
【0053】
[実施例1]
塩濃度によるLCST型磁性粒子の凝集及び分散効果を検討した例を示す。
なお、温度応答性高分子で表面を修飾されていない磁性粒子として、上記製造例1で調製した磁性粒子を用い、吸着剤として、上記製造例3で調製した、ビオチンを固定したLCST型磁性粒子を用いた。
【0054】
1.5mlのマイクロチューブ中において、濃度が0.4重量%の前記LCST型磁性粒子の水分散液100μlに、表1及び表3に記載の各塩の水溶液を所望の最終濃度となるように加え、ピペッティングにより攪拌し、30℃で30秒静置し、目視により凝集を確認した(表1)。
凝集が確認されたサンプルは、マイクロチューブごと、磁石付きのスタンド(マグナビート株式会社製Magna-Stand6)にセットし、30℃で1分、磁気分離し、上澄を除去した。精製水(MILLIPORE社製 Direct-Q(商品名)により精製した水)100μlを加え、再分散を確認した。
【0055】
[比較例1]
LCST型磁性粒子の代わりに、製造例1で調製した温度応答性高分子で表面を修飾されていない磁性粒子を用いた以外は、実施例1と同様にして、目視により凝集を確認したところ、凝集が確認できなかった(表2及び表4)。
【0056】
結果を表1〜表4に示す。前記LCST型磁性粒子は、各種塩の水溶液を用いて塩濃度を調整することにより、吸着剤を凝集・分離することが可能であることがわかった。これに対して、温度応答性高分子で表面を修飾されていない磁性粒子は、各種塩の水溶液により塩濃度を調整しても、吸着剤を凝集・分離できないことがわかった。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
[実施例2]
温度応答性高分子表面修飾磁性粒子に結合した抗体及びアルカリフォスファターゼの結合した抗体を用い、サンドイッチ法によりTSH(甲状腺刺激ホルモン)を定量した例を示す。
ビオチン化抗TSHα抗体(Leinco technologies社製マウス抗TSHα抗体をビオチン化(ビオチン化は旭テクノグラス社に依頼)したもの。濃度0.75mg/ml)2μl、アルカリフォスファターゼ結合抗TSHβ抗体(Leinco technologies社製マウス抗TSHβ抗体にアルカリフォ
スファターゼを付加(アルカリフォスファターゼ付加は旭テクノグラス社に依頼)したもの。濃度1.09mg/ml)0.5μl、TBS バッファー(20mM Tris-HCl(pH7.5)、150mM NaCl)12.5μl、温度応答性高分子表面修飾磁性粒子(マグナビート株式会社製Therma-Max(登録商標) LA Avidin(濃度4mg/ml))20μlの量で混合し、必要量を用意し、35μlずつマイクロチューブに分注した(2系列)。ここに、アーキテクト(登録商標)・TSHキャリブレーター(アボットジャパン株式会社製)をTSH濃度0μIU/ml、4.0μIU/ml、及び40.0μIU/mlの濃度で65μl加えてピペッティングにて攪拌し、1分間室温で反応させた。反応終了後、反応液に1M硫酸ナトリウム液を30μl加えて(塩濃度合計268mM)、ピペッティングにて攪拌し、30℃で30秒反応後、磁石付きのスタンド(マグナビート株式会社製Magna-Stand6(商品名))にセットし、30℃で1分、磁気分離し、上澄を除去した。TBS-T バッファー(20mM Tris-HCl(pH7.5)、150mM NaCl、0.05(w/v)%Tween20)100μlにて再分散を行い、1M硫酸ナトリウム液を30μl加えて(塩濃度合計380mM)、ピペッティングにて攪拌し、30℃で30秒反応させた後、30℃で1分、磁気分離し、洗浄を行なった。洗浄は同様の手順で2回繰り返した。最後にTBS バッファー100μlにてペレットを再分散し、100μlの発光基質(Lumigen社製LUMIGEN(登録商標) APS-5)を添加し、5秒間攪拌した後、10秒反応させ、マルチラベルプレートリーダー(ベルトールドジャパン株式会社製マルチラベルプレートリーダー Mithras LB940)にて0.1秒間発光強度を測定した。
【0062】
発光強度の測定結果を表5及び図1に示した。表5及び図1によると、TSHの濃度に比例して発光強度が変化していることがわかる。すなわち、本手法を用いることで、温度30℃の一定の条件で良好にTSHを検出及び濃度を定量できることがわかった。
【0063】
【表5】

【0064】
[実施例3]
温度応答性高分子表面修飾磁性粒子に結合した抗体及びアルカリフォスファターゼの結合した抗体を用い、サンドイッチ法によりTSH(甲状腺刺激ホルモン)を定量した例を示す。
ビオチン化抗TSHα抗体(Leinco technologies社製マウス抗TSHα抗体をビオチン化(ビオチン化は旭テクノグラス社に依頼)したもの。濃度0.75mg/ml)0.2μl、アルカリフォスファターゼ結合抗TSHβ抗体(Leinco technologies社製マウス抗TSHβ抗体にアルカリフォスファターゼを付加(アルカリフォスファターゼ付加は旭テクノグラス社に依頼)したもの。濃度1.09mg/ml)0.2μl、TBS バッファー(20mM Tris-HCl(pH7.5)、150mM NaCl)12.5μl、温度応答性高分子表面修飾磁性粒子(マグナビート株式会社製Therma-Max(登録商標) LA Avidin濃度4mg/ml)20μlの量で混合し、必要量を用意し、35μlずつマイクロチューブに分注した(2系列)。ここに、TSH溶液(富士レビオ株式会社製ルミパルス(登録商標)・TSH-N標準TSH溶液(WHO STANDARD 2nd基準))をTSH濃度0μIU/ml、5.0μIU/ml、60.0μIU/ml及び200.0μIU/mlの濃度で65μl加えてピペッティングにて攪拌し、5分間室温で反応させた。反応終了後、反応液に1M酒石酸ナトリウム液を30μl加えて(塩濃度合計268mM)、ピペッティングにて攪拌し、30℃で30秒反応後、磁石付きのスタンド(マグナビート株式会社製Magna-Stand6(商品名))にセットし、30℃で1分、磁気分離し、上澄を除去した。TBS-T バッファー(20mM Tris-HCl(pH7.5)、150mM NaCl、0.05(w/v)%Tween20)100μlにて再分散を行い、1M酒石酸ナトリウム液を30μl加えて(塩濃度合計380mM)、ピペッティングにて攪拌し、30℃で30秒反応後、30℃で1分、磁気分離し、洗浄を行
なった。洗浄は同様の手順で2回繰り返した。最後にTBS バッファー100μlにてペレットを再分散し、100μlの発光基質(Lumigen社製LUMIGEN(登録商標) APS-5)を添加し、5秒間攪拌した後、10秒反応させ、マルチラベルプレートリーダー(ベルトールドジャパン株式会社製マルチラベルプレートリーダー Mithras LB940)にて0.1秒間、発光強度を測定した。
【0065】
発光強度の測定結果を表6及び図2に示した。表6及び図2によると、TSHの濃度に比例して発光強度が変化していることがわかる。すなわち、本手法を用いることで、温度30℃の一定の条件で良好にTSHを検出及び濃度を定量できることがわかった。
【0066】
【表6】

【0067】
[実施例4]
実施例2および実施例3と同様の方法で、体液、尿、喀痰、糞便中などに含まれるヒトイムノグロブリンG、ヒトイムノグロブリンM、ヒトイムノグロブリンA、ヒトイムノグロブリンE、ヒトアルブミン、ヒトフィブリノーゲン(フィブリン及びそれらの分解産物)、α−フェトプロテイン(AFP)、C反応性タンパク質(CRP)、ミオグロビン、ガン胎児性抗原、肝炎ウイルス抗原、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、ヒト胎盤性ラクトーゲン(HPL)、インスリン、HIVウイルス抗原、アレルゲン、細菌毒素、細菌抗原、酵素、ホルモン、薬剤等を測定することができる。
【0068】
[実施例5]
カルボン酸塩を用いると、短時間で再分散が可能であることを検討した例を示す。
マイクロチューブ中において、上記製造例3で調製したLCST型磁性粒子の水分散液(0.4重量%)100μlを42℃で30秒静置し、凝集させた。つづいてマイクロチューブごと、磁石付きのスタンド(マグナビート株式会社製Magna-Stand6(商品名))にセットし、42℃で上澄が透明になるまで磁気分離を行った。このとき磁気分離に要した時間は60秒であった。次に上澄を除去し、精製水(MILLIPORE社製 Direct-Q(商品名)により精製した水)100μlを加え、ピペッティングにより攪拌し、再分散させた。このとき再分散に要した時間は60秒であった。
同様に、上記製造例3で調製した、ビオチンを固定したLCST型磁性粒子の水分散液(0.4重量%)100μl中に、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、及びクエン酸ナトリウムを、表7に記載の各最終濃度となるように加え、ピペッティングにより攪拌し、30℃で30秒静置し、凝集させた。つづいてMagna-Stand6にセットし、30℃で上澄が透明になるまで磁気分離を行った。このとき磁気分離に要した時間を表7に記した。次に上澄を除去し、精製水100μlを加え、ピペッティングにより攪拌し再分散に要した時間を測定した。
結果を表7に示した。塩を添加せず42℃に昇温させて凝集及び磁気分離した場合、再分散には60秒を要した。硫酸ナトリウム、及び亜硫酸ナトリウムを用いて、30℃で同様の操作を行った場合、再分散には60秒を要した。一方、カルボン酸塩であるクエン酸ナトリウムを用いて、30℃で同様の操作を行った場合、再分散に要した時間は30秒であった。この結果より、カルボン酸塩を用いると、再分散が短時間で可能であることが示された。
【0069】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の方法(塩として硫酸ナトリウムを使用)により、TSHの検出及び濃度を測定した結果を示す図である(N=2;平均値)。
【図2】本発明の方法(塩として酒石酸ナトリウムを使用)により、TSHの検出及び濃度を測定した結果を示す図である(N=2;平均値)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の検出対象物質を分離する方法であって、
温度応答性高分子で磁性粒子が表面修飾された平均粒径50〜1000nmの温度応答性高分子表面修飾磁性粒子と、該温度応答性高分子表面修飾磁性粒子に結合した、該検出対象物質に対する親和性を有する物質とからなる吸着剤と検体とを混合した水溶液中で、該吸着剤に該検出対象物質を吸着させ、該水溶液中の塩濃度を変化させることより該吸着剤を凝集させる工程、及び、
該吸着剤を磁力により水溶液中から回収する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記温度応答性高分子が、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリン、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メタクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピペリジン、及び、N−メタクリロイルモルホリンからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを重合して得られるポリマーであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記温度応答性高分子が、N−アクリロイルグリシンアミド、N−アクリロイルニペコタミド、及び、N−アクリロイルアスパラギンアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを重合して得られるポリマーであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記温度応答性高分子表面修飾磁性粒子の平均粒径が50〜200nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記塩が、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、及び、炭酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記塩が、モノカルボン酸のナトリウム塩、モノカルボン酸のカリウム塩、ジカルボン酸のナトリウム塩、ジカルボン酸のカリウム塩、トリカルボン酸のナトリウム塩、トリカルボン酸のカリウム塩、テトラカルボン酸のナトリウム塩、及び、テトラカルボン酸のカリウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記塩が、酢酸ナトリウム、アスパラギン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、エチレンジアミン4酢酸二ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、イミノ二酢酸ナトリウム、マレイン酸ナトリウム、マロン酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、及び、酒石酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
温度応答性高分子で磁性粒子が表面修飾された温度応答性高分子表面修飾磁性粒子と、該温度応答性高分子表面修飾磁性粒子に結合した、検出対象物質に対する親和性を有する物質とからなる吸着剤と、塩の水溶液を含む、検体中の検出対象物質を分離または検出するためのキット。
【請求項9】
温度応答性高分子で磁性粒子が表面修飾された温度応答性高分子表面修飾磁性粒子を、
水溶液中の塩濃度を変化させることにより、凝集または分散させることを特徴とする磁性粒子の凝集または分散方法。
【請求項10】
前記温度応答性高分子表面修飾磁性粒子が、検出対象物質に対する親和性を有する物質を表面に有していることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項記載の方法によって、検体中の検出対象物質を吸着剤に吸着させて分離する工程、及び、吸着剤に吸着した該検出対象物質を検出する工程、
を含むことを特徴とする検体中の検出対象物質を検出する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−28711(P2009−28711A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28641(P2008−28641)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】